http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2014080290070910.html>> ブラックバイト許さない 学生ら労組で対抗
2014年8月2日 07時09分
学生アルバイトなのに、学業に支障をきたすほどの重労働を強いられたり、正社員のような責任を課されたりする「ブラックバイト」が広がっている。正社員を減らしている影響で、基幹業務の担い手がほかにいない企業が増えているためだ。問題の解決を目指し、東京都内の学生ら約二十人は一日、労働組合のブラックバイトユニオンを結成した。 (小林由比)
都内の男子大学生(21)は六月から、牛丼チェーンの店で深夜バイトを始めた。深夜帯は二人体制で営業することになっているのに、五回目で一人勤務をさせられた。メニューの写真を見ながら調理。肉の量や盛り付け方がどうしても分からず、スマートフォンで調べると、同じような質問をしている人がいて、その回答も見つけた。
昨秋に三カ月勤務した衣料品店では、制服として商品約五千円分を購入させられた。勤務日が決まると、休みたいと申し出ても「代わりを探さないとだめ」と言われた。
勤務可能日として申告した日すべてが勤務日となり、出席日数が足りずに単位も落とした。学生側も、経済状況の悪化で親の仕送り額が減る傾向にあり、劣悪な職場でも簡単に辞められない事情がある。「仕送りだけでは足りない。授業と両立しながらやっていきたいが、なかなかそういうバイトがない」と漏らす。
一昨年に来日し、都内の大学に通う中国人の男子留学生(24)が六月まで働いたドラッグストアは、レジの列が途切れることがなかったという。夜はアルバイト三人で商品の補充や呼び込みもする。「明らかに人手不足なのに、これくらい早く慣れてできるようにならないと、と怒鳴られたりもした」。午後十一時の閉店時間には全員にタイムカードを押すよう指示があり、その後はサービス残業をさせられた。
ブラックバイトユニオンは、こうした状況をNPOに相談していた学生らが中心となり結成。若者の労働問題に取り組んできた大学院生で共同代表の佐藤学さん(27)は「経済的に苦しく、バイトを簡単に辞められないことに付け込んで過酷な働き方をさせている企業も多い。実態調査や労働法を学ぶ場もつくっていきたい」と話す。
ユニオンは三日午後一〜四時、弁護士らによる無料の相談ホットラインを設置する。フリーダイヤル(0120)987215。これとは別に弁護士やNPO法人などでつくるブラック企業対策プロジェクトは、ホームページで対応方法を伝える冊子を無料で公開している。同プロジェクトは十日、学生が授業に出てこられない事情を知り、ブラックバイトと名付けた中京大(愛知県)の大内裕和教授らによるセミナーも開く。問い合わせは電03(6673)2261。
<ブラックバイト> 中京大の大内裕和教授の定義では、学生であることを尊重しないアルバイト。低賃金であるのに正規雇用並みの義務を課されたり、学生生活に支障をきたすほどの重労働を強いられたりする。残業代の不払いや休憩時間を与えないなどの違法行為がみられることも多い。
(東京新聞) <<
ブラック企業の次はブラックバイトだそうです。おそらく、ブラック企業ほどは広まらないでしょう。
まずお断りしておきたいのは、ブラック企業・ブラックバイト問題と違法行為は全く別の問題ということを前提といたします。
さて、なぜブラックバイトはブラック企業ほどは広まらないと思われるのか。「
経済的に苦しく、バイトを簡単に辞められないことに付け込んで過酷な働き方をさせている企業も多い」などと言うものの、
「生活への切迫度」でいえば、学生が労働者ほどのレベルにいたることは、数としては少ないと思われるからです。
学費と生活費を稼ぐためにどうしても働かなければならないケースでも、
「いずれかのバイト先で働く必要」はあっても、「そのバイト先で働く必要」があるとまでは言えないでしょう。
学生がアルバイトを換えるハードルは低めです。労働者の場合は、「いずれかの勤め先で働く必要」と「その勤め先で働く必要」がイコールになりがちです。労働者の転職市場は成熟しているとは言い難いものです。また、労働者の場合、「履歴書の問題」「キャリアステップ・ストーリーの問題」が重要な要素として効いてきます。労働者の履歴書に「空白期間」があれば、それは必ず突っ込まれます。ストーリー性のない行き当たりばったりな職歴もマイナスです。それに対して学生の場合、彼らの本分は「学問」ですから、履歴書上に「空白期間」があってもそれほど問題はないでしょうし、学生時代から就職を意識したアルバイト経験を積むというのは日本では一般的ではありません。その意味で、労働者の転職は安易にはできず、それに対して
学生アルバイターの転職は、比較的容易であると言えます。
生活が苦しいのであれば、
さっさと辞めて次のアルバイト先を探し、そこに全力投球したほうが「生活費を稼ぐ」という意味では得策です。ユニオンに言われるがままに団体交渉を闘いブラック企業の「改心」に期待しようものなら、貴重な生活時間の少なくない部分は闘争に傾けることになります。
闘争に注力する分、生活費を稼ぐ時間は削られます。そして、
時間の経過とともに、そのバイト代は自分自身の生活費の不可欠な一部に組み込まれてゆき、他方で、疲労の蓄積によって「次のアルバイト探し」が困難になってゆくことでしょう。
あろうハズのない「ブラック企業の改心」に期待したアルバイターは、こうしてさらに辞めるに辞められなくなってしまうことでしょう。
つまり、
学生は企業に対して依存度が低く、わざわざ労組で階級闘争に身を投じる人・投じざるを得ない人よりも、スパッと辞めてしまう人・辞めることができる人の方が多いので、運動としての広まりはブラック企業問題ほどは広まらないと考えられるのです。あらゆる場面においてもそうですが、「広まらない」というのは労働運動において特に大きな意味を持っています。
そもそもブラックバイトの定義からして解せません。「
中京大の大内裕和教授の定義では、学生であることを尊重しないアルバイト」とのこと。「学生は尊重されるべきだ」という前提の下での用語定義です。それ自体の是非はさておき、企業に全的に依存している立場で「尊重せよ!」と言うこと(それも少数派――資本家に全的に依存する少数派が!)に、どれだけの意味があるのでしょうか?
朝鮮労働党機関紙『労働新聞』と政治理論誌「勤労者」は、チュチェ98(1998)年9月17日に共同論説として「自立的民族経済建設路線を最後まで堅持しよう」を掲載しました。そこには以下のような指摘があります。
http://www1.korea-np.co.jp/sinboj/sinboj1998/sinboj98-9/sinboj980925/sinboj98092570.htm>> 自立の道は、国と民族の自主権を強固に守っていく道である。
金正日総書記は次のように指摘した。
「経済的に自立してこそ、国の独立を強固にして自主的に生きることができるし、思想におけるチュチェ、政治における自主、国防における自衛を確固として保障し、人民に豊かな物質文化生活をもたらすことができます」
経済的自立は、政治的独立の物質的基礎である。自立経済というしっかりとした柱で支えられていない政治的自主権は、空論に過ぎない。 <<
まったく正しい指摘だと思います。
他人に全的に依存した立場での自主性の請求は空論に過ぎません。足元を見られて軽くあしらわれるのがオチでしょう。
既存の労働組合は、その運動目的・当事者の意識に反して、むしろ企業側に積極的に依存を深めてゆく存在です。組合運動は、労使関係を相互牽制的なものにすることによってパワーバランスとパイの分配バランスを確保するという目標を掲げています。しかし、実際には利権獲得競争に参加することによって体制内化――労使癒着を深化させてゆきます。その原因は、
あくまで個別資本に対して労働者連合が要求するという形をとっていたことにあります。
運動が成果を挙げ利権を獲得すればするほど依存度は上昇してゆくのです。結局、ナアナアがまかり通る。そのとき商売人であり財産所有者でもある資本家が事実上の主導権を握るのは必然的であるといっても良いでしょう。
どうも今回の運動を見ていると、
結局やろうとしていることは個別資本への要求運動、いいかえれば、個別資本にしがみつく行為の典型的な例にしか見えません。企業別労組中心の日本において、企業の垣根を越えた労組が結成されつつある点を「進歩」とみる向きもあるようですが、
やっていることが結局、個別資本への要求運動では、結局は利権分配構造に組み込まれて体制内化されてしまうのがオチでしょう。
真の意味での自主化のためには、他者に対する依存度を下げることが必要です。はたして要求実現型の労働運動は依存度を下げることに資するのでしょうか。やればやるほど体制に組み込まれないでしょうか。
そもそも、アルバイト界のように労働者の企業に対する依存度が概して低いフィールドで要求実現型の運動がどれほど広まるのでしょうか。なかなか難しいものがあると思います。
むしろ大切なのは、問題のある個別資本=個別労働現場に対して要求していくことではなく、そういう場から離れてゆくことではないでしょうか。要求実現は、すなわち体制に組み込まれてゆくことです。幸いにして我が国は市場経済国家であり、個別労働現場から離れることも可能です。職業選択の自由を逆手にとり、
労働市場を積極的かつ組織的に利用することによって、個別資本への依存度を下げ、体制内化を回避しつつ必要なものを獲得してゆくべきではないでしょうか。
そういう意味では、ブラックバイトと戦う学生よりも、ブラックバイトに早めに見切りをつける学生の方が、実質的には「革命的」と言えるかもしれません。
ところで、「
仕送りだけでは足りない。授業と両立しながらやっていきたいが、なかなかそういうバイトがない」という学生の声に対して「じゃあ労組結成だ!」と応える労働界はいったいどういう頭をしているのでしょうか。学生が小遣い稼ぎ・社会勉強以上のバイトをせざるを得ない状況の方がそもそも問題なのではないか。まあ、かつての奨学金問題が予想外に「バイトでもして稼げ!」という一般国民のバッシングの嵐に完敗したことから、作戦変更したのでしょうか? そうだとしてら、彼らの信念って・・・