http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150914-00003686-bengocom-soci>> バイトに「辞めるなら、ミスが多いので懲戒免職」と脅し、組合が語る「温野菜」の実態
弁護士ドットコム
9月14日(月)20時9分配信
4カ月間連続勤務や合計10万円以上の「自腹購入」を強いられたうえに、大学の単位もすべて落とした――。飲食チェーン「しゃぶしゃぶ温野菜」でアルバイトとして働いていた大学2年の男性と労働組合「ブラックバイトユニオン」が9月10日、フランチャイズ本部と店舗運営会社に対して、未払い賃金の支払いや、職場環境の改善などを求めて、団体交渉を申し入れた。
(以下略)<<
引用部分以降には、労組側の主張に基づいて詳細な実情が綴られています。これが事実だとすれば、
もはや「ブラックバイト」の域を超えており、ただの「ヤクザ企業」です(もともとブラック企業ってヤクザ系って意味だったはずなんですけどねえ・・・)。
相手がヤクザ者であれば、選択肢は一つだけです。キッパリ縁を切る。あの手の連中、
他人を踏み台にすることしか考えていない骨の髄までの利己主義者に理を説いても、心を入れ替えるはずがありません。にもかかわらず、今をときめく「ブラックバイトユニオン」は、こともあろうか「
職場環境の改善などを求めて、団体交渉を申し入れた」そうです。
馬鹿げています(なお、未払い賃金の支払い要求は正しく、徹底的にやるべきだと思います)。
仮に今回、ブラックバイトユニオンが闘争を乗り越え、店側から一定の「
職場環境の改善」を勝ち取ったとしましょう。
しかし、店側が思想改造され、悔い改めるはずがありません。人間はそんなに簡単に改心しません。はっきり言って、今回のような事案は「下手なブラック企業」の手口です。今後はきっと、
より巧妙に、より狡猾になるでしょう。ブラック企業の典型的統治術として有名な
ウサギ社長の4コマ漫画では、3コマ目で、
ある程度の譲歩を見せてガス抜きしつつ、結局は強度の搾取を続けるという技法が紹介されていますが、これこそが「上手いブラック企業」です。
さしづめ、通常時はギリギリ大丈夫な程度にまではスタッフを増員はするでしょうが、ゴールデンウィークやシルバーウィークのような大型連休、不定期の謝恩キャンペーンなどでは目が回るように忙しい人員配置になるのが関の山でしょう。しかし「上手いブラック企業」に進化した店側は、「書き入れ時に忙しいのは当然」という常識的といえば常識的な言説で言いくるめようとするでしょう。スタッフの側としても、断続的にやってくる程度の出来事ならば「喉もと過ぎれば・・・」と捉えるでしょう。
本来、「アルバイト」という雇用形態は、正規労働者ほどは勤め先に対して依存していません。辞めても次の勤め先が正規雇用よりは見つけ易いために生活への影響が限定的であり、それゆえに比較的辞め易いと言えます。学費と生活費を稼ぐためにどうしても働かなければならないケースでも、
「いずれかのバイト先で働く必要」はあっても、「そのバイト先で働く必要」があるとまでは言えないでしょう。学生がアルバイトを換えるハードルは低めです。
従って、さっさと辞めて次のアルバイト先を探し、そこに全力投球したほうが「生活費を稼ぐ」という意味では得策です。しかし、
ユニオンに言われるがままに団体交渉を闘いブラック企業の「改心」に期待しようものなら、貴重な生活時間の少なくない部分は闘争に傾けることになります。その分、生活費を稼ぐ時間は削られます。また、さすがにこのケースではアルバイター君は「しゃぶしゃぶ温野菜」を退職しているでしょうが、勤めながら法廷闘争している場合、あるいは、この裁判の動向に期待を寄せつつ働きづけている現職アルバイターにおいては、
時間の経過とともに、そのバイト代は自分自身の生活費の不可欠な一部に組み込まれてゆき、他方で、疲労の蓄積によって「次のアルバイト探し」が困難になってゆくことでしょう。愚かにもブラック企業の「改心」などに期待したアルバイターは、
こうしてさらに辞めるに辞められなくなってしまうことでしょう。
以前から指摘しているように、
労働者が真の意味で自主的になるためには、足許を見られないために特定の勤め先に対する依存度を下げることが必要です。にも関わらず、むしろ団体交渉を通して店側と強く結ばれてしまうのです。
ついでに言えば、大学生は就職活動の際にバイトでの経験を述べるのが流行っている(それくらいしか話すことがない?)ようですが、
ブラックバイトでの苦労話なんて就活では言わないほうがマシです。まともな企業であれば、
「言われるがままに働くおかしな奴」としか見ないでしょう。組織である以上は、一定程度の従順さは求めるでしょうが、それは「素直に年上のアドバイスを聞く」という意味での従順さであり、奴隷的従順さではありません。
「奴隷的従順さ」は「自発的判断能力の欠如」と表裏一体です。
ブラックバイトユニオンは、本件について「
典型的なケースがすべて詰まっていた」と評価していますが、であればこそ、ますます
ブラックバイト・ブラック企業に対しては、「
職場環境の改善」すなわち「今後も働き続けることを前提とした改善要求」をするのではなく、
「縁を切る方向での後始末的要求」をすべきでしょう。
ここまでブラックバイトユニオンの今回の団体交渉要求を批判してきましたが、それ以外については率直に「頑張っているな」と思っています。今回こうしてブラックバイトユニオンが事態を広報することによって、チュチェ103(2014)年10月6日づけ「
最後の決定的な部分は下から積み上げてゆくこと」でも触れたように、
「しゃぶしゃぶ温野菜」への応募を考えていたバイト求職者たちに大きなメッセージを与え、まさに「すき家」や「和民」のように応募者激減という形に至ることでしょう。そうなれば、「しゃぶしゃぶ温野菜」側も
労働環境に本腰を入れざるを得なくなるでしょう。
まさにこれこそが「市場経済の法則」です。
ブラックバイトユニオンは、ヤクザまがいの連中を相手に団体交渉要求をするといった馬鹿げた階級闘争ゴッコをやっている一方で、意図しているのかどうかはわかりませんが、
市場機構が正しく作用する潤滑油としての役割をも果たしているわけです。後者としての役割を大いに果たしてもらいたいものです。
そう考えると、労働組合の役割は、
@伝統的団体交渉。今後も働き続けることを前提とした改善要求。ただしヤクザには無効。
A未払い賃金支払いを求める際の顧問弁護士的役割。今後も働き続ける場合にも、絶縁する場合にも出番。
B情報発信することによる階級的情報共有。応募者増減に影響。市場機構の潤滑油として重要。
があるのかなと思います。