>> 32%が3年以内に離職=12年春の大卒者―厚労省コメント欄。
時事通信 10月30日(金)17時1分配信
厚生労働省は30日、2012年3月に大学を卒業した就労者の離職状況調査を公表した。新卒から3年以内に就職先を辞めた人の割合(離職率)は32.3%だった。前年調査から0.1ポイント低下したが、3年連続で30%を超えた。
3年以内の離職率は、リーマン・ショック後の09年に30%を下回ったが、その後、上昇した。景気回復で求人が増加する中、希望の仕事を求め、転職するケースが増えているためとみられる。
離職時期は、1年目が13.1%と最も高く、2年目が10.3%、3年目が8.9%。企業規模別では、5人未満の企業で59.6%が3年以内に離職するのに対し、1000人以上の企業は22.8%にとどまる。企業規模が大きいほど離職率は低い傾向だ。 <<
>> 嶋崎量 | 2015/10/30 19:58■統計上で若年離職者が増えているのは「ブラック企業」のせいなのか?――景気回復の波に乗った「夢の追求」ではないのか?
弁護士(ブラック企業対策プロジェクト事務局長)
若者の早期離職が30%を超える原因を、「若者の側」に押し付けている限りは、状況は改善しない。若者のおかれた労働実態をきちんと直視しなければならない。
若者の早期離職は、本人はもちろん、社会的にも損失。社会的な取り組みが必要です。 <<
「「若者の側」に押し付けている限りは、状況は改善しない。若者のおかれた労働実態をきちんと直視しなければならない。」だそうですw何から何まで「ブラック企業」に結び付けている限りは、ひろく自主権の問題としての労働問題は解決はおろか、その本質も把握できないと思いますがww
嶋崎氏は、@事象を労働実態すなわちブラック企業問題に結びつける「視点」からコメントを寄せています。その背後には、A大卒新卒者の約3分の1が3年以内に離職すること自体を問題視する「価値判断」が見え隠れします。この「価値判断」と「視点」の要否を検討する必要があります。まず「視点」について検討しましょう。
時事通信によると、「景気回復で求人が増加する中、希望の仕事を求め、転職するケースが増えているためとみられる」と分析しています。つまり本件は、必ずしもブラック企業問題と繋がるわけではないでしょう。特に2012年春の新卒者はまだ不景気だった頃に就職活動をしていた世代です。まずは内定を獲得できた企業で少し働き、景気回復に従って「本当にやりたかった仕事」を目指しているのではないでしょうか? 「人はパンのみにて生くるにあらず」。必ずしも「ブラック企業」が原因ではないでしょう。
■ブラック企業は、法的に対応できる「確信犯的な犯罪的企業」だけとは限らない――マルクスを学習せよ! 人民の中に分け入り、社会通念を学習せよ!
また、仮にブラック企業問題が影響していたとしても、「企業規模が大きいほど離職率は低い傾向」という点は無視できません。以前にも述べましたが、昨今の「ブラック企業批判」あるいは「労働問題」には「競争の強制法則」という視点が本当に乏しい。「若者のおかれた労働実態」も大切ですが、「競争の強制法則(マルクス主義用語です)」という視点も大切です。ブラック企業と階級闘争の真似事をしている人たちは、そういう視点がどうも不足しているようです。
ブラック企業には、「確信犯的な犯罪的企業」や「モーレツ社員世代/起業当初の不眠不休に慣れきってしまった、自覚の無いブラック経営者」のケースもありますが、それとともに「経営センスが無くて仕方なく万年炎上状態」「競争の強制法則に強いられて仕方なく」のケースがあります。そうしたケースについては、単に取り締まればいいというものではありません。単純な階級闘争的な思考回路の人たちには理解できないかもしれませんが、マルクスを学習しなおしたほうがよいでしょう。
■そもそも、若年労働者が離職することは悪いことなのか?
次に「価値判断」について。10月8日づけ「「日本の労働組合活動の復権は始まっている」のか?――労組活動は労働者階級の立場を逆に弱め得る」をはじめとして以前から繰り返し主張しているとおり、私は「嫌だから辞める」路線は、労働者個人の自主化に資する大変有効な方法であるとともに、企業の労働需要独占者としての強い立場を切り崩すための労働市場の活性化の上でも、大変のぞましいものであると見ています。
「若者の早期離職は、本人はもちろん、社会的にも損失」というのも一理はあるとは思います。労働者においては時間の無駄ですし、社会においては援護費用が必要になります。企業においても教育コストがパーになるわけです。
しかし他方で、企業の労働需要独占者としての強い立場を切り崩すためには、労働市場は常に流動性のある活発なものでなければなりません。労働市場が需要独占的であれば、企業の立場は否応無しに強くなってしまいます。また、産業構造は不断にますます加速度的に変化しており、転職労働市場の充実の要求は日に日に大きくなっています。
更に言えば、学生の身分ではどうしても実際の仕事内容は「想像の産物」とならざるを得ず、「やってみないとわからない」という部分は否定できません。かつて、若年労働者の離職率が低かった時代においては、労働者たちは仕事内容を事前によく把握し、就職後は「まさに天職!」と思えるような充実した職業生活をエンジョイし、十分に自己実現したと満足感に満ちた心境で日々をすごしていたのでしょうか? そんなことはないでしょう。就職数ヶ月で早くも「あ、違う」と思ったとしても、転職が一般的でなかった時代だからこそ、ある種の「諦め」の下、職場に適応していった人も決して少なくないでしょう。いや、いまだってそういう若年労働者は多いと思います。
■若年離職者が増えている事実は「ブラック企業が市場原理を通して淘汰される方向に社会が向かいつつある」ことを示す
私は、「労働者においては時間の無駄」「社会においては援護費用が嵩む」という事情と、「企業の労働需要独占者としての強い立場を切り崩す必要」「産業構造は不断にますます加速度的に変化しており、転職労働市場の充実の要求は日に日に大きくなっている」「結局やってみないとわからない」という事情を比較考量するに、必ずしも嶋崎氏の立場には帰結しないと考えます。むしろ、その逆の事象として、大卒新卒者の約3分の1が3年以内に離職している事実は、大きな流れとして「ブラック企業が市場原理を通して淘汰される方向に社会が向かいつつある」ことを示す吉兆と見ることもできます。
もちろん、この労働市場の流動性が単なる「産業予備軍の増加」にすぎないのであれば、それは労働者階級にとっては福音でもなんでもありません。その点、事象を諸手を挙げて歓迎し、事態の推移を座して見守るのは不適切です。より多くの労働者が労働市場に参入し、労働市場の流動性が高まることが、企業の労働需要独占者としての立場が掘り崩される方向に進むよう、監視・管理してゆくべきです。その意味では、「ユニオンが転職支援する大きな意味――「鉄の団結」は必要ない」をはじめとして繰り返し述べているように、一定の緩い連携は不可欠だと思います。
日本では新卒労働市場と転職労働市場が連動しつつも原則として分離しています。これ自体は私は問題とは思いません。新卒求職者と中途求職者が同じ土俵で競争するのは、すこし違う気がするからです。今回述べているのは、主に中途求職者に関する転職労働市場についてですが、転職労働市場での「企業の評判」は、新卒労働市場でも通用する情報です。転職労働市場の活性化は、新卒労働市場の活性化にもつながり、結果として新卒求職者がより正確な情報で活動できることになるでしょう。そうすれば、「若年労働者にとっての時間の無駄」「社会的援護費用が嵩む」「企業においては教育投資の損失」が抑えられるようになるでしょう。