>> 「フリーランス協会」設立、フリーランスやパラレルワーカーを支援、企業と一体で「働き方改革」実現■今回は「協会」だった
Impress Watch 1/26(木) 15:24配信
「プロフェショナル&パラレルキャリアフリーランス協会(仮)」が1月26日に設立された。フリーランスとして活動するプロフェッショナルワーカーに加え、企業に在籍しながら副業や兼業しているパラレルワーカーの有志が主体となり、フリーランス支援に携わる企業・団体23社が支援する
協会の代表理事で株式会社Waris代表取締役共同創業者の田中美和氏は、各業種のマッチングサービス、モバイルやインターネットの普及、価値観の多様化などを背景に、日本におけるフリーランスは2016年に1000万人を突破したことを紹介。さらに、「会社員でもほかの企業の仕事ができるパラレルワーカーも増えており、副業・兼業(を認める就業規定)は大企業も広がっている」とし、これらを背景に「クリエイターだけでなく、ビジネス系の営業やマーケティング、事業企画など、さまざまな種類のフリーランスが生まれつつある」とした。
フリーランスには、自由に働けるメリットがある反面、社会保障が手薄で、労災保険や雇用保険、国民年金なども全額自己負担であるほか、ローンが組みにくいなどの社会的な不安もある。さらに、先輩や上司、同僚とのつながりなども獲得しにくくなる。また、専門領域を持つがゆえに、ほかのジャンルなどへのキャリアアップが難しかったり、仕事を獲得するための営業活動や、確定申告をはじめとした経理業務も必要となるため、そうした面で難しさを感じる声もあるという。
協会では、フリーランスが主体となるが、これを支援する企業と一体となって現状を把握し、さまざまな支援を行うことで「こうした課題を解決し、(フリーランスが)安心・安全な状況で能力を発揮できる土壌を作りたい」とした。また、「興味あるけど一歩踏み出せない人にも選択肢を提示したい」と述べた。
協会は任意団体としてスタートするが、4月には社団法人化を目指す。協会のウェブサイトでは、無料のメールマガジン会員を募集しているが、4月からは各種特典を得られる正会員の募集を開始する。会費は1万円前後が想定されているという。「協会普及へ向け、(メルマガ会員を含め)初年度に1万人程度の会員獲得を目指したい」とのことだ。4月には著名なフリーランスにアンバサダーとして就任してもらうプランもあるという。
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近頃この手の団体が出来るとき、「ユニオン」という形態を取っているケースが目立つような気がしますが、今回は「協会」でした。フリーランス支援に携わる企業・団体23社が関与しているとのことで、需要側(企業)と供給側(フリーランス)の双方が共に運営してゆくという点において、たいへん興味深い試みであると思います。
他方、既に懸念の声も上がっています。正しい指摘だと思います。また、企業がフリーランスたちを囲い込むための「放牧場」のようになってしまうという懸念もあり得るでしょう。
■システムとしての市場経済で自主化を達成するためには
以前から繰り返し述べているように、市場経済はシステムです。売り手と買い手は、時に利益が相反するケースもありますが、そうした場合であっても「呉越同舟」の関係。大きく捉えて「全体として渾然一体」な関係にある「システムの構成要素同士」であることには変わりはありません。
システムとして市場経済を見たとき、自らの自主化を目指すのであれば、需給双方は協調すべきであると同時に、利益が相反するケースにおいてはシステム的としての大局観を意識しつつ、主体的立場に立って条件交渉を行うべきであります。お互いに相手の事情を汲みながら主体的立場にも立ち、相互牽制的に交渉を展開し、時に袂を分かつ――そもそも「市場における契約交渉」自体が原則的にそうしたものです。
■「協調」と「主体的立場に立った条件交渉」
そうした原則の下、当ブログでは「自主権の問題としての労働問題」というテーマを掲げて論考してきました。一連のシリーズ記事において私は、従来型の要求運動型の労働組合活動については、活動家たちの階級二分法的発想・行動について批判を展開してまいりました。「主体的立場」を鮮明にする点においてはよいのですが、「需給双方の協調」に欠けた言動・プランが目立つのです。それどころか、システム的な大局観に立っていないために、逆に労働者としての利益をも損ねかねない「素人考え」が見え隠れしています。とても全面的な支持をすることはできません。
他方、今回の「フリーランス協会」については、「需給双方の協調」については十分であるものの、逆に、利益相反のケースにおける「フリーランスとしての立場からの主体的条件交渉」という点が見えにくい。その点では、やはりこれについても「ちょっとなあ」と思わざるを得ません。
最近は活動しているのか否かも分からないような状態ですが、「はたらぼ」というNPO法人があります(よりにもよって、あのパソナが酷似したネーミングを事業に使い始めましたが別物です)。かつて毎日新聞に代表者のインタビューが掲載され、大変興味深い活動目標に深く共感した覚えがあります。残念ながらスクラップしたはずの記事がどっかに行ってしまったので、公式ページのトップに現在も掲載されている「はたらぼの理念」を以下に引用いたします。
http://www.hatalab.org/
>> はたらぼの理念 - ごあいさつ事業内容についても引用しましょう。
昇給や雇用の安定が期待できず経営者を信用しない労働者、社員に絶対的服従を求め対話を軽視する経営者、そして予算も人員も限られ管理監督に手が回らない行政。
労働をめぐるこうした相互不信は、終身雇用、年功賃金によって支えられていた日本型雇用の崩壊とともに、高まっています。
昨今では最低限の法律すら守らず、労働者を使い捨てにする「ブラック企業」が社会問題化しています。
互いを非難し合う。しかしこれで、社会は良い方向へ向かうのでしょうか?
私たちは“悪者叩き”の考え方から距離を置くことにしました。
誰が悪いと非難するのではなく「どう解決するか」、誰に責任をとらせるかではなく「どの役割を誰が担うか」にスポットを当てたい。そう考えることにしました。
「働く」ということに関わるすべてのポジションから、建設的な対話を通じてアイデアを出し合う「対案探し」。
はたらぼは、人々を建設的に結びつけることを通して、労働者、企業、行政などの間の信頼回復を目指していきます。 <<
http://www.hatalab.org/ourtask.php
>> はたらぼの事業について条件交渉の際には供給側に立つことを言明しながらも、人々を建設的に結びつけ、対話を通じてアイデアを出し合うというシステム的な対応をも行う。優良企業と求職者とのマッチングも行う――前述の「協調」と「主体的立場」との両立を目指していると言えます(消息不明状態なのが本当に悔やまれる!)。
宣言事業
はたらぼが提案する「雇用基本宣言」にご同意いただける企業を募集・集積し、就職・転職活動を行う求職者への十分な情報提供を実施。良質な働き方が評価される社会の実現を目指します。
>>詳しくはこちらをご覧ください。
社会的対話事業
行政、企業、労働者が課題・悩みをそれぞれに抱える分断状態を打開し、建設的な対話の場を設計。 答えを見出すための対話の場を、様々なシーンで創出してまいります。
講演・ファシリテーション事業
高校、大学での労働に関する出張講演のほか、会議やワークショップを通じた合意形成や相互理解を促進する「ファシリテーション」の技術を用い、誰もが納得できる会議の実現をコーディネートいたします。 <<
従来型の労組活動家たちは認めようとはしないでしょうが、「ユニオン結成」というニュースがチラホラ見られる昨今、実際の労働条件の改善は、労組運動の結果というよりも、労働市場における市場メカニズムの作用によると言うべきケースが続出しています。むしろ、「さっぽろ青年ユニオン」のケースのように、ユニオンが中途半端に役に立たない事態さえも見受けられています。昨今の「ユニオン・ブーム」は、報じられているほど役に立っているわけではなく、その意味では、既存戦術に則った労組活動は「頭打ち」にあると言ってもよいかもしれません。
労組活動は、活動家たちの階級二分法的な認識が基になっており、そしてこれは、以前から繰り返し指摘してきているように、哲学レベルでの認識論的な論点をも含む深刻な事態です。その点において私は、システム的大局観に立って「協調」と「主体的立場」とを両立させる道においては、労組に期待できる場面はそれほど多くはないと思っています。
フリーランス協会も前述の通り、「両立の道」においては、そのままでは不適当です。しかし、フリーランス協会のなかに、「主体的立場」を踏まえた部門をつくれば、これはある程度のものになるのではないでしょうか?
■公的なバックアップを受けつつ、主体的・自主的にに活動を展開すべき
前掲「はたらぼ」が、残念ながら消息不明状態になってしまっているのは、おそらく、市井の有志だけでは大規模・継続的に組織活動を展開することが困難であるという事情があるのではないかと推察しています。福祉の世界で、かつて「共助」という形で展開されていた篤志家の福祉事業が、その規模水準と継続性を維持・拡大するために徐々に「公助」に転換していった経緯と同様に、労働の世界においても、規模水準と継続性を維持・拡大するためは、公的なバックアップ体制が必要なのでしょう(無論、他力本願になってはいけません)。
今回のフリーランス協会は、時代の流れの中に自らを位置づけようとしています。前回の記事でも述べましたが、政府・自民党が推進する「働き方改革」に対して無邪気すぎることは避けなければなりませんが、時代の流れを上手く掴むことは大切なことでもあります。主体的・自主的な立場を見失わずに!
動き始めたばかりのフリーランス協会の今後の動向に期待しつつ注目をつづけたいと思います。