2017年04月21日

「一代限りの生前退位特例法」から見える漸進主義としての保守主義

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS21H6S_R20C17A4000000/
>>天皇退位、有識者会議が最終報告 呼称「上皇」に
2017/4/21 18:49

 天皇陛下の退位に関する政府の有識者会議(座長・今井敬経団連名誉会長)は21日、退位後の天皇の呼称を「上皇」とするなど退位の制度設計を柱とする最終報告をまとめた。天皇陛下の退位を一代限りで認める特例法案の制定を国会が提言したのが前提にある。現憲法に規定のない天皇退位が実現する。

 安倍晋三首相は会議で「国家の基本の問題であると共に、長い歴史とこれからの未来にとって重い課題だ。退位を実現するための法案を速やかに国会に提出したい」と述べた。


(以下略)<<
■天皇退位問題を巡る諸立場
天皇退位問題について当ブログではまったく論じてきませんでしたが、「保守主義とは何であるか」という切り口から注視していました。

天皇退位問題を巡っては、「恒久法制定」を主張する言説が「世論一般」といってもよいくらいの勢力をもっていました。それに対して、巷では「保守」と呼ばれる人々が「退位を巡る歴史的経緯」や「皇室制度の安定性」を理由に、恒久法化に反対したり、あるいは、そもそも退位を認めること自体に反対するといった言説を展開していました。非保守派の意見が概ね一致していた一方で、保守派界隈の意見が必ずしも一致していなかったのが特徴的な事態でした。

■3種類の保守
「保守派」と呼ばれる人たちには、私は3種類あると考えています。ひとつ目が、「伝統的な思考・行動様式そのものに価値を感じる人たち」であり、「守旧派」といってもよいかもしれません。森友学園の籠池氏などはまさにこんなタイプでしょう。この手の守旧派からは、ふるい価値観に心酔し現代的価値観を唾棄するあまり、「伝統を回復するための革命」という語義的には矛盾したプランを展開するような連中も現れることもあります(なお、こうした守旧派の問題は、突き詰めれば「好き嫌い」の問題なので、本稿では基本的に取り上げないことにします)。

2つ目が「伝統的な思考・行動様式は、幾世代にもわたって『検証』を受けてきたものであるから、浅知恵・思いつきで変更すれば予想外の事態をもたらしかねないと考える人たち」です。近代の科学主義・理性至上主義にたいする懐疑主義的立場の人たちです。

3つ目が、懐疑主義者とは似て非なる漸進主義者です。私はこの立場なので、後に詳述します。

■保守派が抱いている懸念
「世論一般」の感性に言わせれば、保守派の言説は、「たしかに昔は退位をめぐって政治が混乱し、皇室制度が揺らいだこともあっただろうが、象徴天皇の時代でそんなことは考えられないから、恒久的な制度化を行っても大丈夫だろう」といったところなのでしょう。しかし、そうした「大丈夫だろう」という「予測」こそが、保守派に言わせれば「甘い」ということになるのです。「いったいどれほど正確・精密な「予測」を以って恒久的制度化を口にしているのか」「『大丈夫』といって大見得を切っておいて、なにかあったら如何するつもりなんだ」というのが、保守派の懸念の根底にあるのです。

人類の歴史を振り返ると、「大丈夫」といって大見得を切っておいて、全然大丈夫ではなかった実例は幾らでもあります。「近代革命」以降の「科学技術」に立脚した大規模な自然改造、社会革命が、偉大な成果を挙げつつも、他方で予想外の破滅的損害を生み、この地球上には既に居住はおろか近づくことさえ危険なエリアが幾つもできてしまっています。大自然の複雑で繊細なシステムの前では、人間の「科学」や「理性」など、どんなに頑張っても浅知恵・思いつきの域を超えないのではないかという懸念が、様々な証拠・実例から突きつけられている昨今においては、理性に対する懐疑主義的な意味での保守主義の説得力は年々増していると思います。

■決め手に欠ける懐疑主義的保守主義
他方で、「理性に対する懐疑主義は、要は『心配のしすぎ』に過ぎない」という再反論にも説得力があります。そもそも、理性に対する懐疑主義者といえども、論理的推論や科学技術をまったく信用していないわけではありません。要するに「程度の問題」ですが、具体的な「線引き」を考えようとすると、理性に対する懐疑主義者の立場は、なかなか説得力のある主張を展開できないものです。結局、懐疑主義は「想定外に備えろ」なのだから、スマートな主張になりにくいのは宿命的。「慎重を超えて臆病」という謗りを免れえなくなるものです。今回の天皇退位問題についても、「退位を巡る歴史的混乱の繰り返しを防ぐ」という懐疑主義的保守主義の立場は、具体的な危険性をズバリと言い当てるものではないので、決め手に欠けるといわざるをえませんでした。

■懐疑主義的保守主義を乗り越える漸進主義的保守主義の核心
漸進主義的保守主義は、懐疑主義的保守主義が持つ問題点を乗り越えます。「少しずつ前進し、問題があったら直ちにロールバックする」という方法論は、論理的推論や科学技術に対する過度な慎重姿勢を排して新しい挑戦に取り組みつつも、万が一に予想外の事態が発生したとしても、直ちにロールバックが可能な範囲内での実施に敢えて留めることによって取り返しのつかない事態にも至らないようにもすることができる「よいとこ取り」なのであります。

直ちにロールバックが可能な範囲内での実施を積み重ねてゆく方法論は、理性主義にもとづく方法論――いわゆる「急進主義」もその一種です――に比べて所要時間は少しばかり長くはなりますが、「急がば回れ」というように、安全性・確実性はより高まるものと思われます。「こまめなPDCAサイクルの実施を主軸とする方法論」などと平たく言い換えてもよいかも知れません。

■漸進主義的に仕上がった特例法
私自身は皇室制度自体にはあまり強い思い入れや関心はないのですが、物事の思考法・制度変革の方法論として、漸進主義の立場に立っている関係上、「天皇陛下の退位を一代限りで認める特例法案の制定」という結論は、よかったのではないかと思っています。「天皇陛下の退位を認める」という意味では画期的な結論ですが、他方で、「一代限りで認める特例法」という手続きの面では、一定の慎重さをも持っています。そして、次世代以降の天皇が退位を希望したときには今回の決定を前例として参考として踏まえつつ改めて検討しなおすという方向性は、一世代の思慮・思考だけで恒久的な制度を固めてしまうのではなく、数世代に渡って実験・実践を続けてそれを積み重ねてゆくという方向性です。これこそまさに漸進主義としての保守主義の思想が表れた制度設計であると言えるでしょう。

拙速なる恒久的制度化、臆病の域にさえ達している懐疑主義的保守主義の反対論、論ずる価値も無い守旧派・・・これらアクのつよい言説を退け、妥当な線にまとめあげることができたと思います。
タグ:保守 社会
posted by s19171107 at 21:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする