2017年06月23日

中小企業のイノベーティブな挑戦の支援を中核に据える日本共産党の路線は正しい

【ご連絡;チュチェ106(2017)年6月23日に22時30分に一部追記し、追記箇所を明示しました】
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik17/2017-06-21/2017062102_03_1.html
>> 2017年6月21日(水)
中小企業を政策の軸に
中同協と党国会議員団懇談

 日本共産党国会議員団は20日、国会内で中小企業家同友会全国協議会(中同協)と懇談し、「2018年度国の政策に対する中小企業家の重点要望・提言」について説明を聞き、懇談しました。

 中同協からは、石渡裕政策委員長、佐々木正勝、野水俊夫両政策副委員長、松井清充専務幹事らが出席。日本共産党からは、真島省三経済産業部会長をはじめ、梅村さえこ、清水忠史、畑野君枝、畠山和也、宮本岳志、宮本徹の各衆院議員、岩渕友、辰巳孝太郎両参院議員が出席しました。

 重点要望・提言では▽「中小企業憲章」を国会決議とし、その内容を実現する▽消費税10%への引き上げ凍結▽法人税負担率のゆがみを是正し、応能負担を原則とする▽トライアル発注商品認定マークなど仕事づくり支援―などを求めています。


(以下略) <<
当ブログで『しんぶん赤旗』を取り上げるのは、大抵は批判的文脈――そもそも当ブログは、日本共産党関係に限らず、批判を通して自身の主張の輪郭を明確にする、ある意味で「嫌な奴」の方法論をとっています――においてですが、今回は率直に、そして積極的にプラスの文脈で取り上げたいと思います。

かの偉大な経済学者;シュンペーターが正しく指摘・定式化したとおり、中小企業は、その「小回りの良さ」を生かして、イノベーションの中核となりうる存在です。また、豊かな中小企業陣営の「厚み」は、国の経済の基盤であり、また、市場経済の多様性の担保であり、切磋琢磨を通じた成長の主体であります。以前から繰り返しているように、市場経済体制の本質的優位性は、利潤動機に基づく「効率化」よりもむしろ、多様なプレイヤーが存在し、自由に経済活動を展開することによる「多様性」、そして「切磋琢磨」というべきです。その点において、中小企業陣営の豊かさは、まさしく経済的多様性のバロメーターであり、経済的活力の基盤です。

他方、中小企業は、その経営規模・経営基盤から言って、絶大なる可能性を秘めつつも、現実的にはなかなかチャレンジングな行動に出にくいものがあります。シュンペーター理論では、その矛盾を金融部門が媒介することによって克服されるとされていますが、現代の金融機関は、理論の期待に反して、「守りの姿勢」に徹しているきらいがあります。中小企業の多様なチャレンジを支援する中小企業支援政策は、健全かつ多様性のある、成長の「のびしろ」が豊かな経済を実現するうえで是非とも必要なものです。

しかしながら、いわゆる「中小企業支援」は、得てして「同業者ムラの形成・維持」に堕落しがちです。自民党はまさに、歴史的にもそして今現在もなお、そうした同業者ムラの「守護者」の最大勢力ですが、日本共産党についても、当ブログで取り上げてきたとおり、自民党とはまた違う切り口ながらも結果的に「同業者ムラ」至りかねない危うい主張をたびたび展開していました。最近では、タクシー業界やバス業界における参入規制の緩和に反対する議論において大変顕著でした。日本共産党内の特にユートピア志向な人士の中には、「これ以上の成長・発展を目指す必要などない。ボチボチ現状維持を目指せば、贅沢はできなくても十分に豊かな生活を送ることができるんだ」と主張している人も絶無ではありません。

「過度な競争による社会経済の歪みを是正する」というのは社会主義・共産主義の一大目標である以上は、「競争」に対して慎重な姿勢をとることは当然だし、チュチェの社会主義者として私は、そうしたコンセプトに対しては共感するところ大です。しかし、まさに「過ぎたるは及ばざるが如し」。多様性や切磋琢磨までも圧殺してはならないのです。

毛沢東主席が正しく指摘しているように、我々が暮らす物質世界は、古いものと新しいものとの入れ替わりは永遠に尽きることはありません。このことは、経済活動についていえば、イノベーションに「終着点」はないということになります。つねに人々は新しいものを求めているし、科学技術の成果は常に新しい産業の材料を提供しているし、さらに、世界のどこかで常に新しいビジネスアイディアが生まれているのです。強迫観念にとらわれるような働き方をする必要はありませんが、とはいっても、「同業者ムラ」の内部でヌクヌクと微温湯につかっているようでは、時代に取り残されてしまうことでしょう。気がついたころには、人々の要求に応えられないような時代錯誤的商品しか供給できなくなることでしょう。常に変化しつづける我々の物質世界においては、意識的な前進の努力を怠らない心構えでいてようやく「現状維持」ができるものであり、最初から「現状維持」をよしとしているようでは、実質的には後退しているのです。

【チュチェ106(2017)年6月23日22時30分追記・開始】
また、通俗的なマルクス主義は常に、多様性や切磋琢磨を圧殺する方向に堕落してしまう危険な立ち位置にいます。マルクス経済学者の松尾匡氏が『マルクス経済学 (図解雑学シリーズ)』 ナツメ社(2010年10月)において正しく指摘しているように、近代資本主義の矛盾に直面し、その不条理に憤る人士は、往々にして前近代的な「身内共同体」への回帰を志向しがちなものです。そこで偶然、ある程度の説得力と扇動力をもつ「マルクス主義」的な主張に接すると、人々は、マルクス主義の看板を掲げて身内共同体の復興に注力しがちなものです。

しかし、そもそも、本来的なカール・マルクス氏の主張とその思想の意義は、松尾氏が「マルクスこそ自由主義」と指摘しているように、前近代的な身内共同体原理を超克したところにこそあります。その点こそが、マルクス氏の主張・思想が、そこらへんの雑な反資本主義思想との決定的差異であり決定的優越性です。にもかかわらず、近代資本主義への憎しみあまり冷静さを失った手合いは、科学的な思考が不得意なる通俗的な自称「マルクス主義者」連中は、マルクスの名を掲げながらもマルクスの主張・思想の正反対を進んでしまいがちなのです。松尾氏は、そうした「身内共同体」への回帰は、文明の進歩への逆行であり、20世紀の「社会主義」が全体主義化した主因であったと指摘していますが、まったく正しい指摘です。
【チュチェ106(2017)年6月23日22時30分追記・終了】

その点、今回の中同協と日本共産党国会議員団との懇談では、「トライアル発注商品認定マークなど仕事づくり支援」という部分に顕著に表れているように、個別の中小企業が自由闊達に展開するイノベーティブなチャレンジを肯定的に位置づけています。多様性と切磋琢磨が生きる程度の自由競争が展望できる主張です。「過度な競争による社会経済の歪みを是正する」という、いままさに時代が求めている論点について、その分野においては「老舗」である日本共産党が「同業者ムラ」に堕落する余地の少ない方向性を提唱しているとことの意義は大きいといっても褒め過ぎではないと思います。「これ以上の成長・発展を目指す必要などない。ボチボチ現状維持を目指せば、贅沢はできなくても十分に豊かな生活を送ることができるんだ」などと馬鹿げたことを得意げに述べているユートピア信者は、党中央の科学的に正しい見解を学習せよ!

もっとも、意地悪な見方をすれば、こうした見解の核心には、当ブログでもたびたび批判してきた「瞰制高地論(管制高地論)」が位置しているに過ぎないという見方もできるかもしれません。瞰制高地論については当ブログでは以下のとおり批判しています。
チュチェ105(2016)年2月7日づけ「「なぜ共産党は嫌われているのか?ー設立から振り返る」に、ここ15年の新事情を付け加える
チュチェ105(2016)年7月14日づけ「日本共産党の本当の問題点は「大企業敵視」ではなく「経済は理性的に指導できる」という思い上がり

また、私がたびたび大変肯定的にご紹介している北欧諸国の経済政策論と比べると、産業内における淘汰促進・新陳代謝促進の観点が依然として弱いので、不満は残ります。たとえば、たびたび取り上げているように、スウェーデンの産業労働政策の基本は「人は守るが、雇用は守らない」、つまり「労働者の個人生活は福祉政策によって守りぬくが、勤め先を無理に延命させることはしない」(参考記事)であります。かつてはスウェーデンも産業保護に熱心で教科書的な社会民主主義だった時代もありましたが、90年代の経済危機を経て、経済活動においては自由競争・競争淘汰を認め、活発で強い経済を実現しつつも、そこから生み出される国富については、福祉国家の原則に従い分配するという新しい方法論を編み出しました。時代の要求に合致した現実的かつ科学的な方法論であり、基本的に私はこの立場に立っています。その観点から日本共産党の政策提言を見ると、どうしても不満が生まれざるを得ません(私が日本共産党の主張に批判的である一大要因は、突き詰めれば「北欧諸国の修正資本主義・福祉国家体制の成功例と比較するに中途半端、革命的立場に立ったとしても中途半端、つまり、どっちつかずの中途半端」というところに行きつきます)。

しかし、今回はそこまで言うのはやめておきたいと思います。この記事を読む範囲では、今回の懇談会で意見交換された内容は、とても良いものだったと言えると思います。基本的に日本共産党の主張は中途半端であると認識しており、それゆえどうしても批判的にならざるを得ない私ですが、今回のように、正しいことは正しいと積極的に認めたいと思います。
posted by 管理者 at 00:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする