2018年05月31日

「飼い犬」が「ご主人様」に対して「釘をさす」「念を押す」??

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180531-00000067-san-pol
首相、対北妥協にクギ 来月の日米会談、拉致協力念押し
5/31(木) 7:55配信
産経新聞

 安倍晋三首相とトランプ米大統領が6月7日に米ワシントンのホワイトハウスで会談することが決まった。同月12日の米朝首脳会談再設定に向けた協議が進む中、日米が対北朝鮮で緊密に連携していることを打ち出す。首相は米朝会談直前にトランプ氏に在韓米軍の撤退など安易な取引に応じないようクギを刺す一方、拉致問題解決への協力を念押しする考えだ。


(中略)

 米朝首脳会談の再設定に向けた調整は予断を許さない状況にある。米国が目指す「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」をめぐる北朝鮮との隔たりが背景にあるとみられるが、成果を急ぐトランプ氏は北朝鮮の「核軍縮」でお茶を濁しかねない。

 また、トランプ氏が、北朝鮮が求める在韓米軍の撤退に安易に応じれば、東アジアの軍事バランスは大きく崩れる可能性がある。このため、首相は確実なCVID実現に強い期待感を示すとともに、「リビア方式」を進化させた「トランプ方式」を推し進めるべきだと伝える考えだという。

 拉致問題でも、トランプ氏は解決の重要性を理解していると明言しているが、不安も残る。5月28日の日米首脳による電話会談後の米政府発表に拉致問題への言及はなかった。米国内では「トランプ氏にとって拉致問題の優先順位は低い」との指摘が出ており、首相はトランプ氏に米朝首脳会談で拉致問題解決を迫るよう重ねて要請する考えだ。(田北真樹子)

最終更新:5/31(木) 11:09
日本がアメリカに対して、その行動に釘を刺せるような立場ではないし、拉致問題についても、共和国側からまったく相手にされていない外交力皆無の日本としては、アメリカには「念押し」するのではなく「頼み込む」というのが正確なところ。「飼い犬」たる日本が「ご主人様」たるアメリカ様に対して「釘をさす」だの「念を押す」だの、産経新聞田北記者は、いったい何を思いあがっているんでしょうかw

当ブログでも繰り返しているとおり、共和国の核武装化と在韓米軍の存在・北侵演習はセットの関係です。世界最強の絶対的な軍事力を誇る核保有国たるアメリカ、自国の目と鼻の先に展開している好戦的なアメリカ軍と直接対峙している共和国が、ソ連が消滅し、中国が必ずしも頼りになるわけではない状況下で再三にわたり北侵演習が展開されている現実を鑑みれば、自分自身を守ろうとするならば、核武装を選択の視野に入れるのは当然のことでしょう。

パワーバランスという観点から言えば、米「韓」は通常兵器だけでも圧倒的な軍事力をもち、その担保として強い経済力を誇っています。それに対して共和国は、通常兵器は残念ながら「骨董品レベル」であるし、経済力についても米「韓」には敵わないところです。共和国は、核武装してやっと米「韓」軍の通常兵器のラインナップに対抗できるのが現実です。そうであれば、共和国に対してCVIDを要求するのであれば、在韓米軍は撤退して韓「国」軍の自主防衛に切り替えた上で韓「国」軍も軍縮すべきでしょう。もちろん、西側にも言い分はあるでしょうから在韓米軍の撤退は難しいにしても、少なくとも在韓米軍の抜本的な縮小は避けられないことだと言えます。

産経お得意の「日本の国益」だけを一途に考えるのであれば、産経新聞田北記者のようなことを口走ってしまうかもしませんが、外交はまさに"Deal”です。自己利益の追求を原則としつつも、交渉がまとまらなければ元も子もなく、そのためには相手側にも得をさせる必要があります。「在韓米軍の撤退」は「安易な妥協」などではなく、まさに"Deal”において正面から取り扱うべき重要なテーマであると言えるでしょう。
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2018年05月30日

核開発問題と合同軍事演習問題をセットとして位置づける共和国の一貫した立場

http://www.kcna.co.jp/calendar/2018/05/05-29/2018-0529-009.html
로동신문 미국은 회담 바란다면 위협공갈 하지 말아야 한다
労働新聞 米国は会談を望むなら、威嚇し恐喝すべきではない

(中略)

29일부 《로동신문》은 개인필명의 론평에서 이러한 도발적언동들은 대화상대방에 대한 참을수 없는 우롱이라고 규탄하였다.
29日づけ『労働新聞』は、個人署名の論評において、このような挑発的言動は、対話相手に対する耐え難い愚弄だと糾弾した。

론평은 미국이 남조선에서 해마다 벌려놓는 연습들은 례외없이 공화국에 대한 선제공격과 전면전쟁도발을 가상한것으로서 조선반도의 평화와 안정을 파괴하는 근원이라고 까밝히고 다음과 같이 지적하였다.

論評は、米国が南朝鮮において毎年繰り広げている演習は、例外なく共和国に対する先制攻撃と全面戦争を想定したものとして、朝鮮半島の平和と安定を破壊する根源であると喝破し、次のように指摘した。

조미가 현안문제들을 해결하려는 의지를 안고 대화를 향해 마주 가고있는 때에 미국이 남조선과 함께 조선반도에서 긴장을 격화시키고 핵전쟁을 몰아오는 주되는 화근인 합동군사연습을 굳이 벌려야 할 필요가 있겠는가.
朝米が懸案を解決しようとする意志をもって対話に向けて向かい合っているときに、米国が南朝鮮と共に朝鮮半島において緊張を激化させて核戦争をもたらす禍根たる合同軍事演習をあえて広げなければならない必要があるだろうか。

현시기 합동군사연습문제는 미국이 평화를 바라는가 아니면 전쟁을 추구하는가를 보여주는 시금석으로 된다.
合同軍事演習問題は、米国が平和を望むのか、戦争を追求するのかを示す試金石となる。

세상사람들은 미국이 합동군사연습을 고집하는것은 조선반도정세가 완화되기를 바라지 않고 조선과 화해하는데 흥미를 가지고있지 않기때문이라고 평하고있다.
世界の人々は、米国が合同軍事演習に固執するのは、朝鮮半島情勢が緩和されることを望まない、朝鮮と和解するのに興味を持っていないためだと評している。

미국이 회담을 진심으로 바란다면 상대를 힘으로 위협공갈하는 놀음을 하지 말아야 한다.
米国が会談を心から願うのなら、相手を力で威嚇し恐喝すべきではない。

(以下略)
大方の見込みどおり、「北朝鮮核開発問題」の本質は、「現体制維持のための手段」です。朝鮮労働党体制にとっての最大の脅威は、目の前に立ちはだかるアメリカの強大な軍事力であり、その端的な象徴が「米『韓』合同軍事演習」です。

核開発と米「韓」合同軍事演習はセットの関係です。共和国が「リビア方式」に対して激しい拒絶を示しているのは、共和国側が一方的に武器を置くことを要求しているからです。アメリカが約束通りに敵対行為や利敵行為を完全に止めればいいのですが、そんな保証はどこにもありません。むしろ、まさにリビアにおいてこそであったことが証明されています。詐欺師同じ手口を持ち出しつつ「この間は騙したけど、今度は本当の儲け話だから!」といって信じる馬鹿がどこにいるというのでしょうか。

核開発と米「韓」合同軍事演習は同時に解消する必要がある――その観点において執筆されたのが今回の『労働新聞』論評であると言えます。「朝米が懸案を解決しようとする意志をもって対話に向けて向かい合っているときに、米国が南朝鮮と共に朝鮮半島において緊張を激化させて核戦争をもたらす禍根たる合同軍事演習をあえて広げなければならない必要があるだろうか」というのは実に端的な指摘であり、また、共和国政府の一貫した立場です。

先週末のトランプ大統領書簡を巡って、共和国側が驚き、慌てているという論評が日本の言論空間では幅を利かせています。ここ最近になってからは朝米双方から「延期ないしは中止」の見立てが出てきていた点、まったくを以って予想していなかったわけではない(長く「瀬戸際外交」を得意としてきた共和国が、交渉が破綻する可能性をまったく見積もっていないはずはありません)でしょうが、キム・ゲグァン朝鮮外務省第一次官の談話でも明記されていますが、共和国側は驚いていることは間違いありません。そして、なんといっても相手が「狂犬戦略の使い手」なのか「本当に狂っているのか」が測りかねるトランプ大統領だけに、慌てもしたかもしれません(分からないけど)。しかし、だからといって共和国側が譲れない原則を曲げているかと言えば、決してそんなことはありません。そのことを端的に示しているのが、今回の『労働新聞』論評であると言えます。

ところで、この要求は現時点では受け入れられていませんが、それはそれで共和国にとっては「内部引き締め」の手段になるものです。「アメリカは口では対話を求め、実際それに向けたジェスチャーをしているが、合同軍事演習を中止しない点については油断してはならない」といった具合です。合同軍事演習が本当に中止されれば万々歳、されなくても、それはそれでストーリーの仕込みがあるというわけです
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2018年05月26日

「寛大さ」と「アメリカの無茶の被害者としてのワタシ」を描き出すキム・ゲグァン談話の戦略性

相手方を罵倒することにかけては「世界二大巨頭」と言い得る共和国とアメリカですが、今回の朝米首脳会談中止を巡っては、双方とも不気味なまでに抑制的なコメントを発表しています。

トランプ米大統領の書簡キム・ゲグァン朝鮮外務省第一次官の談話は、双方とも「お前が悪いから今回の会談は中止だが、会談自体は両国の利益になるから、いつでも用意ができている」という点では一致しています。そして、いつもだったら相手方を罵倒しつくすところ、今回は敢えてそうしないことによって、「俺は寛大だから、お前から詫びを入れてくるなら会ってやってもいいぞ」としています。このことはすなわち、「会談中止」が、会談の主導権争いのカードとして切られていることを示しています。依然として、会談は開かれる方向性にあると見たうえで、その動向を見守るべき段階と言えます。

■「寛大さ」と「アメリカの無茶の被害者としてのワタシ」を描き出すキム・ゲグァン談話の戦略性
特に、「寛大さ」を強調しつつ、同時に行間に「哀しみ」を漂わせることによって、談話を戦略的なものに位置付けることに成功しているのが朝鮮外務省第一次官のキム・ゲグァン氏です。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2018052500637
北朝鮮第1外務次官の談話全文

(中略)

 歴史的な朝米首脳会談について言えば、われわれはトランプ氏が歴代のどの大統領も下せなかった勇断を下し、首脳会談という重大な出来事をもたらすために努力したことを内心では高く評価してきた。

 しかし、突然、一方的に会談中止を発表したことは、われわれとしては、思いがけないことで、極めて遺憾に思わざるを得ない。

 首脳会談に対する意志が不足していたのか、あるいは、自信がなかったのか、その理由については推測するのは難しいが、われわれは歴史的な朝米首脳の対面と会談それ自体が対話を通じた問題解決の第一歩であり、地域と世界の平和と安全、両国間の関係改善に意味のある出発点になるとの期待を持ち、誠意ある努力を尽くしてきた。

 また「トランプ方式」というものが双方の懸念を解消し、われわれの要求する条件にも符合し、問題解決に実質的に作用する賢明な方策になることをひそかに期待もした。

 わが国務委員長(金正恩朝鮮労働党委員長)も、トランプ氏と会えば、良いスタートが切れると述べ、そのための準備に全力を注いできた。

 にもかかわらず、一方的に発表した会談中止は、われわれの努力と、われわれが新たに選択して進むこの道が果たして正しいのかを改めて考えさせている。

 しかし、朝鮮半島と人類の平和と安定のため、全力を尽くそうとするわれわれの目標と意志には変わりはなく、われわれは常に寛大で、開かれた心で米国側に時間と機会を与える用意がある。

 一度では満足な結果を得られないが、一つずつでも段階別に解決していくなら現在より関係が良くなるはずで、より悪くなるはずはないことぐらいは米国も深く熟考すべきだろう。


(以下略)
キム・ゲグァン氏は、単に会談が設定されたことに留まらず、非核化を巡る「トランプ方式」への「密かな期待」を告白するなど、何だかんだ言ってここまでの展開に期待を寄せていたようにコメントしています。その上で、「我々としても決して悪くない展開だったのにも関わらず、この期に及んで『リビア方式』を蒸し返したり、北侵演習を強行したアメリカ側が悪い」という構図を描きつつ、「われわれは常に寛大で、開かれた心で米国側に時間と機会を与える用意がある」として「寛大さ」を描き出しています「分からず屋のトランプ坊やを諭している」と読めさえします

また、敢えて抑制的な調子を採用し、どこか「哀しみ」さえも行間に漂わせることによって、「アメリカが無茶を言ってきて困るんですよ・・・」という「被害者としての振る舞い」を取っているとも言えます。「アメリカの無茶の被害者としてのワタシ」を描き出しているわけです。ここで仮にいつもの調子で威勢の良いことを言ってしまうと、「被害者としてのワタシ」という雰囲気が台無し。敢えて抑制的であることが大切です。ほんと、どこまで行っても抜け目がありません。

「アメリカに無茶を言われて困っている被害者」という構図は、会談中止前から既に一定の効果を生んでいます。たとえばNews Week誌は、次のように指摘しています。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/05/post-10227_2.php
金桂冠は正しい、トランプは金正恩の術中にはまった
2018年5月23日(水)17時23分


(中略)

首脳会談が中止か物別れに終われば、金正恩は、自分は誠実な呼び掛けをし、国際的な基準に沿った手法(段階的で同期的措置)を提案したのに、トランプがむちゃを要求したと主張するだろう。

(以下略)

イギリスのBBC放送も次のように解説しています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180524-44234471-bbc-int
北朝鮮、ペンス米副大統領を「愚か者」と非難
5/24(木) 17:12配信
BBC News


(中略)

そのため、北朝鮮とリビアを同じ文脈で語ることすら深刻な侮辱になり、米政府は自分たちにしかるべき敬意を示していないと、北朝鮮政府は感じているのかもしれない。

北朝鮮はまず一度、米国に警告した。それでもペンス氏は、またしても北朝鮮とリビアを比べてみせた。慎重な外交には慎重な情報発信と慎重な言葉遣いが必要だ。トランプ政権はこの点において規律を欠いていると、北朝鮮が感じているのは明らかだ。


(以下略)
どこか「哀しみ」さえも漂わせる今回の抑制的なキム・ゲグァン氏の談話は、ここ最近、共和国側が描き出すことに注力してきた「アメリカが無茶を言ってきて困る」という構図――News Week誌やBBC放送が既に採用している見方――を更に強調させるものです。

キム・ゲグァン氏の談話は、仮に6月12日会談が急展開的に復活したにもかかわらず、やっぱり不調に終わったとしても原則的に活用可能です。アメリカ側の譲歩に対して一定程度の配慮を見せる談話の論調が、「我々も可能な限り妥結に向けて努力してきたが、やはりアメリカは頑なだった」というストーリーの論拠になるわけです。

■会談の主導権争いは続く
その点、次の見立ては失当と言わざるを得ないところです。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180526-00010013-agora-int
トランプ大統領の「米朝首脳会談キャンセル書簡」を読み解く --- 渡瀬 裕哉
5/26(土) 8:12配信
アゴラ


(中略)

米国人の人質解放に伴う北朝鮮のジェスチャーによって明らかに油断していたトランプ政権でしたが、今回の書簡では「北朝鮮にしてやられた状況」を正しく認識し、逆に北朝鮮に対して主導権を取り戻す一撃を加えることになりました。

トランプ大統領が金正恩に送った書簡の中で解放された人質について触れた
“「In the meantime, I want to thank you for the release of the hostages who are now home with their families. That was a beautiful gesture and was very much appreciated.」”
こそが同書簡の肝です。

これは一見してトランプ大統領が金正恩に友好的な態度を示したように見えますが、金正恩にとっては最も政治的に致命的な打撃になりかねない一文でもあります。

この書簡が北朝鮮に送られたタイミングは核実験場の爆破と同日であり、そして金正恩は米国をその気にさせるために前述の通り米国の人質を既に解放してしまっています。現段階で自らの行い(直近の声明文等)が理由で米国から何も引き出せないで終わることになった場合、それらを主導した金正恩の北朝鮮における権威は失墜します。つまり、トランプ大統領が同書簡を送ったことで、金正恩にとって米国を嵌めるために使用した手札が今度は自分の政治的な立場を脅かすものに変質してしまったのです。

(中略)

トランプ大統領としては対北朝鮮交渉を選挙の手柄にするためには、北朝鮮に主導権がある状況ではなく、自分に主導権があるように見せる必要があるので、書簡一本で見事に立場を逆転して見せたということになります。筆者はトランプ大統領の絶妙な切り返しによる「芸術的なディール(取引)」に非常に感銘させられました。

(以下略)
譲歩という意味で共和国側が一歩先んじているにもかかわらずアメリカ側がイチャモンつけ的に応対しないという展開は、共和国にあっては、「金正恩の北朝鮮における権威は失墜」するというよりもむしろ、「我々の誠実の譲歩に対して不誠実な対応で応えるアメリカ帝国主義の無礼さ」に対する敵対意識が強まり、逆にその結束が固まると見るべきでしょう。共和国は特に「我々」意識が強い御国柄です。キム・ジョンウン委員長個人がどうこうというよりも、「我々に対する侮辱」と受け止めることでしょう。共和国は建国以来のほとんどの時期を対米対決の中で過ごし、アメリカに対する敵対思考は既に染みわたっています。人間は、内部での対立よりも外敵との闘争の方に注意をひかれるものです。「我々vsアメリカ帝国主義」という構図を補強することでしょう。

また、前述のとおり、「アメリカが無茶を言ってきて困る」という構図・ストーリーがある程度において西側の言論空間でも承認されているように、今回の一方的な会談中止を告げる書簡は、必ずしも「アメリカに主導権が戻った」とは言えないでしょう。おそらくまたNews Week誌やBBC放送のようなメディアが「トランプもトランプでどうなのよ」「一括で解決できるような問題じゃねーだろ」「単に現体制を維持したいだけの北朝鮮に対して無理難題ばかり言って、本当に交渉を妥結する気はあるの?」という世論を醸成すると予測されるからです。

日本の言論空間では共和国が「絶対的悪役」として位置付けられていますが、諸外国ではそこまでではありません。むしろ、諸外国の言論空間では「トランプ憎し」が相当のもの。トランプ大統領を悪く書くために、相対的に共和国側の主張を取り上げたり、「トランプの稚拙な外交要求に振り回される被害者としてのノース・コリア」と言った風に描き出すこともあり得るでしょう。このことは、共和国にとって有利な条件であると言えます。

渡瀬氏はトランプ大統領側が主導権を奪還したという見立てを展開しますが、「自分たちの寛大さ」と「被害者としてのワタシ」を強調するキム・ゲグァン談話が出てきた点において、私は依然として主導権争いが展開され続けることを予想します。

■交渉術の進歩と見るべき
朝米間の緊張が緩和されるのがよっぽど面白くなかったのか、ここ数か月間、すっかりゴシップ記事量産に逃げていたコ・ヨンギ氏が久々に「復帰」し、またしても面白いことを書いてくれています。
https://news.yahoo.co.jp/byline/kohyoungki/20180525-00085646/
会談中止で言ってることが支離滅裂…金正恩氏のメンタルは大丈夫か
高英起 | デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
5/25(金) 11:14

北朝鮮外務省の金桂官(キム・ゲグァン)第1次官は25日、トランプ米大統領が米朝首脳会談の中止を通告したことを受けて談話を発表。「意外であり非常に残念」「いつ、いかなる方式でも(米国と)対座して問題を解決していく用意がある」と表明した。

談話は「委任による発表」とされており、金正恩党委員長の意思を代弁したものと見られる。

驚かされるのは、その中身だ。

朝首脳会談が中止でショック!?
談話は、会談を控え米国が北朝鮮に対する要求水準を高めてきたことに反発しつつも、首脳会談を決断したトランプ氏を「心のうちで高く評価してきた」と持ち上げている。さらには「われわれの国務委員長も、トランプ大統領と会えば良いスタートを切ることができると述べて、そのための準備に努力の限りを尽くしてきた」などとして、精一杯のラブコールを並べているのだ。

そもそも、トランプ氏が24日に会談中止を通告した際、その理由として挙げたのは、北朝鮮側が崔善姫(チェ・ソニ)外務次官の談話として示した「怒りとあからさまな敵意」だった。

そして、崔次官はその談話の中で、「われわれは米国に対話を哀願しないし、米国がわれわれと対座しないというなら、あえて引き止めないであろう」と断言。ほかにも非常に強い言葉を並べ立てて、米国を非難している。


(中略)

これでは、言っていることがまるで支離滅裂である。いったい、この落差は何なのか。北朝鮮は従来、たとえ外国との交渉事がうまく行かなくとも、その責任を相手に転嫁して、強がりを言ってきた。そんな過去の姿勢と比べると、金次官の談話は「哀願」にほかならない。

これはもう、金正恩氏の「焦り」がモロに出たと考えるしかあるまい。


(以下略)
いったいどこが「支離滅裂」だと言うのでしょうか。チェ・ソニ外務次官は、この期に及んで「リビア方式」を持ち出す一部の米国高官を罵倒していただけです。そして、キム・ゲグァン氏が談話中で述べているように、共和国は「リビア方式とは異なるトランプ方式」には期待を寄せていました。だからこそ、会談1か月前になっても基本的な非核化プロセスさえも共有できていないという大変な作業遅延状態にもかかわらず、共和国側は会談の実現に向けて尽力してきたわけです。ここには何の矛盾もありません

また、かつて「老いぼれ」などと罵倒しつくしていたトランプ大統領についても、ここ最近では敢えて罵ることをしてきませんでした。その延長線上に位置するのが今回の談話における「トランプ大統領と会えば良いスタートを切ることができると述べて、そのための準備に努力の限りを尽くしてきた」です。この点も終始一貫しています。

コ氏は「金次官の談話は「哀願」にほかならない」と断じています。たしかに、今までの会談決裂時の定型句とは大きく異なるものですが、これは「金正恩氏の「焦り」」というより、「交渉術の進歩」と言った方が正確でしょう。前述のとおり、コ氏が「哀願」と認識するくだりは、敢えて抑制的な調子を採用することで「被害者としてのワタシ」という構図を描くための演技であり、そして、コ氏が「精一杯のラブコール」と認識する言いぐさは、「寛大さ」を演出しているわけです。「分からず屋のトランプ坊やを諭している」という構図さえも描いているわけです。

コ・ヨンギ氏の記事は以前から一応チェックしていますが、本当に行も行間も読めない人です。彼の分析はあまりにも底が浅すぎます。にもかかわらず、コ氏の記事がそれなりのヒット数を稼いでいるということは、コ氏レベルの認識に留まる人が一定数、存在していることを示しています。おそらく、今回の朝米首脳会談中止に関しても同様でしょう。その点において、コ氏の発言は専門的に考察するにあたっては正面から取り扱う価値のないものであるものの、世論分析にあたっては手っ取り早い手段です。

コ・ヨンギ氏らが思っている以上に、キム・ジョンウン委員長は計算高い戦略家なられています。まだまだ難しい交渉が展開されることでしょう。
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2018年05月25日

朝米首脳会談中止について

朝米首脳会談がアメリカ側の都合により中止になりました。首脳会談というものは、それまでの実務者級協議で詰めた内容を結論として確認し合う「儀式」的な要素が強いものなのだから、会談1か月前になっても、やれ「リビア方式の非核化で」だの「いやトランプ方式になる」だのと、初歩的なレベルでのすり合わせさえも完了していない現時点では、まさにトランプ米大統領がいうように「現時点での会談は不適切」なのかもしれません。ここ最近になってからは朝米双方から「延期ないしは中止」の見立てが出てきていたことを併せて考えると、それほど「驚くべきことはない」のかもしれません

■このタイミングで合同軍事訓練なんてやらなければ良かっただけ――「対話のための圧力」が、対話を台無しにした
アメリカ側は、共和国側について「約束違反」だの「ここ数日応答がなかった」だのと言い立てています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180525-00050079-yom-int
「約束違反」会談中止の要因、北は1週間無反応
5/25(金) 11:57配信
読売新聞

 【ワシントン=大木聖馬、黒見周平】トランプ米大統領は24日朝(日本時間同日夜)、ペンス副大統領やポンペオ国務長官、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)らと協議し、米朝首脳会談中止を決断した。

 ホワイトハウス高官が24日、記者団への説明で明らかにした。

 同高官は、中止を決めた要因として、北朝鮮の「一連の約束違反」を指摘。〈1〉いったん容認した米韓合同軍事訓練に反対した〈2〉南北閣僚級会談を一方的に中止した〈3〉米朝間の事前協議に応じなかった〈4〉核実験場の廃棄で約束した外部専門家の受け入れを認めなかった――などの点を挙げた。

 米側はこの1週間、北朝鮮に何度も連絡を試みたが、北朝鮮は反応しなかったという。
読売記事で挙げられている「4論拠」のうち、「いったん容認した米韓合同軍事訓練に反対した」ことと「南北閣僚級会談を一方的に中止した」は同一理由であり、これは和平局面にあっても北侵演習を展開した米「韓」側に非があるというべきでしょう。外交交渉の背後には軍事力の担保があるといっても、朝米間の圧倒的な軍事力の差は、何も今ここで誇示しなくても明々白々のことです。このタイミングでの北侵演習は「牽制」のつもりだったのかもしれませんが、軽率に過ぎました。とりわけ中国が共和国の後見人としての存在感を強めつつある中での北侵演習は、牽制球ではなく朝中の結束を固める方向に作用したようです。「対話のための圧力」が対話を台無しにしたわけです。

「米朝間の事前協議に応じなかった」ということについては、この期に及んで「リビア方式」を口走る高官が重要な役回りで参加する会談には、「体制維持」が至上命題である共和国側としては参加する意味がありません。詐欺師が同じ手口を持ち出しつつ「この間は騙したけど、今度は本当の儲け話だから!」といって信じる馬鹿がどこにいるというのでしょうか。

「核実験場の廃棄で約束した外部専門家の受け入れを認めなかった」についても、そもそも「核実験場の廃棄」という決断自体が和平志向を明確に示すものです。もともと、米「韓」両国の北侵への抑止力として共和国は核開発をしてきたわけです。元来、「米韓合同軍事訓練」と「北朝鮮核開発問題」はセットの関係です。にもかかわらず、共和国は北侵演習が続く中で核抑止力向上の手段を自ら廃棄したのです。構図としては共和国側が相当譲歩しているわけです。外部専門家を云々言うのであれば、このタイミングで合同軍事訓練なんてやらなければ良かったのです

キム・ゲグァン朝鮮外務省第一次官が言うように会談の中止は非常に遺憾なことです。キム・ゲグァン氏が「歴史的な朝米首脳の対面と会談それ自体が対話を通じた問題解決の第一歩」が述べているとおり、交渉というものは一回や二回程度で妥結するものではありませんが、「とりあえず顔をつないでおく」ことが重要だからです。しかし他方で、絶対に譲ることのできない「体制維持」に照らせば、繰り返しになりますが、まだまだ基本的な非核化プロセスでさえ両国間で共有できておらず、それどころか「リビア方式」を持ち出したり、敢えて合同軍事訓練を直前に強行してくるような不誠実なアメリカ側の一連の言行を鑑みれば、現状では共和国側の立場で一貫している私でさえも「現時点での会談は不適切」と考えます

共和国側の「約束違反」や「ここ数日応答がなかった」ことの原因は、アメリカ側にあるわけです。

■軍事局面になるか、なったとしてどういう結末に至るか
アメリカは朝米会談を一方的に破棄しましたが、まだまだ軍事行動に出るつもりはなさそうです。すくなくとも「斬首作戦」を決行できる段階にはなさそうです。

可能性は低いものの、「限定的な軍事攻撃」はあり得るかも知れません。防空施設や軍事施設に対するピンポイント爆撃はあり得る話です。そしてそれはおそらく、デモンストレーション的な要素の強いものとなることでしょう。しかし、最近のシリアに対する散発的な軍事行動の例を見るに、仮にアメリカが多少の軍事攻撃を共和国側に加えたとしても、「体制維持」という共和国にとっての至上命題への大勢には影響はないと思われます。毒ガスを撒いたという廉で巡航ミサイルを撃ち込まれ空爆を受けたシリアのアサド政権ですが、政権は尚も健在で、それどころか首都;ダマスカスを完全に奪還して勢いを増しています。

ロシアがシリアの後見人になっているように、いま再び中国は共和国にとっての後見人になっています。「限定的な軍事攻撃」以上のことは現時点では敢行しづらいはず。そして、その程度であれば既に共和国も織り込み済みかもしれません。

■一連の対話局面では誰がどんな利益を得たのか
一連の対話局面では誰がどんな利益を得たと言えるでしょうか。

共和国は、もっとも得をしたと言い得ます。共和国は急転直下的な北南和解と朝米和解の局面を演出することによって中国との関係性を再構築する機会を得ました。いままで冷たかった中国が共和国援助に乗り出しています。第1次朝中首脳会談以降、共和国では「急にガソリンの市場価格が下がり始めた」との情報さえ入ってきています。ロシアからの供給かもしれないし、大口の瀬取りが成功したのかもしれませんが、まあ普通に考えれば朝中関係の改善と見るべきでしょう。

米中が足並みを合わせるのは、ここ数年継続的に見られてきた展開でした。朝中関係はここ数年、最悪レベルに冷え込んでいました。それがここ数か月の展開で一気に回復したのです。中国を味方に引き戻したことは、共和国にとって大きな成果です。

共和国は、米「韓」関係にも楔を打ち込むことに成功し、また、新たな「ストーリー」さえも構築できました。以下の記事は興味深い分析を提供しています。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/05/post-10227_2.php
金桂冠は正しい、トランプは金正恩の術中にはまった
2018年5月23日(水)17時23分


(中略)

そもそも金がなぜ米朝首脳会談を呼び掛けたのかについては、専門家の意見は分かれる。しかし金王朝は昔から、自らの存続を脅かす近隣諸国を互いに争わせることを最大の戦略にしてきた。特にアメリカと東アジアの同盟国の関係を弱めること、すなわち米韓、そしてチャンスがあれば日米に溝をつくることを目指してきた。

トランプは金正恩が絶対に受け入れない要求をすることで、この術中にはまった。首脳会談が中止か物別れに終われば、金正恩は、自分は誠実な呼び掛けをし、国際的な基準に沿った手法(段階的で同期的措置)を提案したのに、トランプがむちゃを要求したと主張するだろう。そして韓国とは別途、平和を探ろうとするだろう。それは韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領にとって、むげに断りにくい提案になるかもしれない。


(中略)

今回の騒動で、米朝関係の主導権を握るのは金正恩であることが、これまでになくはっきりした。それは金桂冠の談話にも一貫して読み取れるメッセージだ。北朝鮮は核保有国であり、いかに壮大なざれ言を並べてもそれを変えることは誰にもできないのだ、と。
朝米首脳会談に黄色信号が灯り始めた頃から韓「国」の「政府」は、朝米の仲介役を申し出ていました。日本が「国際社会の結束」などと称してアメポチの誓いを立てたのとは対照的です。依然として韓「国」の「政府」はアメリカ側であるとはいえ、一定の「距離」を取っています。米「韓」関係には間違いなく楔が打ち込まれています。アメリカと東アジアの同盟国の関係を弱めること、すなわち米韓、そしてチャンスがあれば日米に溝をつくることを目指してきた」という目標は果たされています

また、「首脳会談が中止か物別れに終われば、金正恩は、自分は誠実な呼び掛けをし、国際的な基準に沿った手法(段階的で同期的措置)を提案したのに、トランプがむちゃを要求したと主張するだろう」という指摘は、共和国側が自己を正当化し得る新たな「ストーリー」を確保したことを指摘しています。

アメリカについて言えば、「少なくとも損はしていない」と言えます。そもそも極東の小国との関係が改善したところで得られる利益はさほど大きくなく、アメリカ・ファーストの観点に鑑みれば、現状が維持されたところで、それほどの損失にもなりません。アメリカにとって共和国は「生かさず殺さず」くらいが一番よいというのが正直なところでしょう。

その点、以下の記事はなかなか面白いところを突いていると思われます。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180525-00010002-newsweek-int&p=2
米朝会談キャンセルで、得をしたのは中国を味方に付けた北朝鮮
5/25(金) 16:47配信
ニューズウィーク日本版


(中略)

ただ現在の状況が2017年と違うのは、米朝首脳会談にからんで、北朝鮮が中国との関係を改善できたという事実だ。金正恩にしてみれば、それだけで十分にこの米朝会談「騒動」を巻き起こした甲斐があったのかもしれない。そう考えると、今回のすべての騒動は、トランプの失態だったという見方もできるかもしれない。

またこんなシナリオも考えられる。今後の行方を曖昧なままにしてダラダラと時が過ぎる、というものだ。トランプは「この重要な会談について気が変わったら、遠慮なく電話または手紙をくれればいい」と、書簡に記しているが、今後会談が行われるのかどうか、両国関係はどうなるのか、はっきりしない状況が続き、外交的な交渉は停滞し、時間だけが過ぎていく可能性が高い。

筆者はこのシナリオが最もあり得ると考えている。実はそれこそが、多くの利害関係者にとって最も落ち着ける状況なのかもしれない。心の準備ができていないまま米朝会談の騒動に巻き込まれ、置き去りにされていた日本政府も、内心ホッとしているはずだ。


(以下略)
一番困惑しているのは、韓「国」でしょう。そして、そもそも蚊帳の外だった日本は良くも悪くも影響なしといったところでしょう。

■対話局面に戻るか、その条件はどこにあるか
ポンペオ米国務長官が興味深い発言をしています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180525-00000003-reut-kr
北朝鮮、首脳会談巡る問い合わせにここ数日応答せず=米国務長官
5/25(金) 0:48配信
ロイター

[ワシントン 24日 ロイター] - ポンペオ米国務長官は24日、米朝首脳会談の準備に関する米国側からの問い合わせに対し、北朝鮮がここ数日は応答していなかったことを明らかにした。


(中略)

また、北朝鮮のこのところの言動について遺憾を表明。ただ米朝首脳会談の中止は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が「弱いリーダー」であることを示唆するものではないとの認識を示した。
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が「弱いリーダー」であることを示唆するものではない」というのは、会談をご破算にしつつも、キム国務委員長に一定の配慮を示しているとさえ読めるものであり、将来的な会談の芽を明示的に残しているとも言えます

トランプ大統領自身の書簡も、トランプ氏らしからぬ内容であり話題になっています。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180525-00000013-sasahi-int&p=1
米朝首脳会談中止 トランプ節を封印し、金正恩へ投げた“癖玉”とは?〈AERA〉
5/25(金) 11:01配信
AERA dot.


(中略)

 6月12日にシンガポールで開催予定だった米朝首脳会談の中止が明らかになったのは、ワシントンのある米国東部時間で5月24日午前9時46分(日本時間同午後10時46分)。ホワイトハウスが全文公開した、トランプ大統領から金委員長に宛てた1枚の書簡だった。

「最近のあなたの声明で示された激しい怒りやむき出しの敵意」を理由に、首脳会談の開催は「現時点で適切ではない」と断じる内容。首脳会談に向けてここ数日繰り広げられていた、双方の姿勢を批判し合う米朝間の言葉の応酬を受けたものだ。

 ただ、相手の感情を逆なでするようないつものトランプ節は封印され、極めて丁寧な言葉遣いで、慎重に言葉を選んだ跡がうかがえる。米CNNのキャスターが「嫌なことを言われたからという子供のけんかのようなことを理由にしているのに、書簡では全くトランプ大統領らしくない言葉遣いになっている。隠されたメッセージがあるのではないか」といぶかったほどだ。

 書簡でトランプ大統領は、北朝鮮が拘束していた米国人3人を金委員長が5月9日に解放したことにわざわざ触れ、「素晴らしい意思表示でとても感謝している」とも書いた。書簡の締めくくりはこうだ。

「この最も重要な首脳会談に向けて、もし、あなたが考え方を改めるなら、遠慮なく電話や手紙をください。世界、とりわけ北朝鮮は、恒久平和や偉大な繁栄、裕福さを得る素晴らしい機会を失った。失われた機会は歴史上、非常に悲しい時である」

 5月8日にイランとの核合意を一方的に離脱した際の国民向け演説で、イランを徹底的にののしったトランプ大統領とは別人のようだった。

(以下略)
ここ最近の情勢を振り返った時、朝中両国の急接近と、それと軌を一にするキム・ジョンウン委員長の強硬化についてアメリカ側は「習近平の入れ知恵」などと無遠慮などと言い立ててきましたが、@このことと、A今回の会談中止、そしてB「米朝首脳会談の中止は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が「弱いリーダー」であることを示唆するものではないとの認識」の3つを連続的文脈に位置付けて考察すれば、今回のアメリカ側による一方的な会談中止は、共和国がどうこうというよりも、その背後に控える中国の影を意識したものとも言い得るでしょう。つい1か月ほど前まで朝米会談に前向きで、「前のめり」とさえ言い得るくらいだったトランプ政権の急転回が、朝中両国の急接近と時期的に連動しているのです。このことはすなわち、今回のご破算は、「朝米関係の問題」というよりも「朝中チームとアメリカとの関係の問題」に話が発展している証左かもしれません

「対話のための圧力」が思いのほか朝中間の結束を強化する結果となり、思い描いていたゴールに至れないと判断したアメリカ側は、急に「習近平の入れ知恵」などと恨み言を言い始め、「一連の約束違反」を理由にとりあえず6月12日の会談については中止したが、朝中関係が悪化し、自国にとって有利な展開になった場合に備えてキム国務委員長に一定の配慮をしておいたのかも知れないというわけです。

事実としてアメリカ側は、60年以上も戦争状態にある国同士が画期的な会談を行おうとしているときに「この1週間、北朝鮮に何度も連絡を試みたが、北朝鮮は反応しなかった」といった程度のことで会談自体をご破算にしてしまったわけです。さすがに、このことを単に「トランプは本当に堪え性がない奴だ」として片づけるわけには行かず、国際関係と関連付けて考察すべきでしょう。

その意味で今後、朝米間が再び対話局面に戻るか否かは、朝米関係を見るだけでは判断できないと言えます
。朝米関係、米中関係、朝中関係を総合的に判断する必要があるでしょう。おそらく再び米中が接近するとすれば、共和国は北南関係や朝露関係に活路を見出すことでしょうから、予測は困難です。

さすがに米中露が朝鮮半島情勢で足並みを一致させる確率は低いと考えられます。今後も共和国は、各国の国際関係の間隙を縫う形で、したたかに生き延びることと思われます

その点、日本言論界隈の認識レベルの低さは目を覆うばかりです。
https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20180525-00000016-nnn-int
米朝会談“中止”…最強カードを切ったワケ
5/25(金) 6:21配信
日テレNEWS24

アメリカのトランプ大統領は北朝鮮の金正恩委員長に書簡を送り、来月12日に予定されていた米朝首脳会談を中止すると伝えたと発表した。首脳会談が中止に至った背景に何があるのだろうか。ホワイトハウスから井上幸昌記者が伝える。

トランプ大統領は「中止」という最強のカードを切って、金委員長に安易な妥協はしないぞ、と最後通告を突きつけたと言える。


(中略)

今後、トランプ政権は、北朝鮮への最大限の圧力を続けるにとどまらず、追加の制裁、さらには武力行使もちらつかせながら、北朝鮮に「降伏」を迫るとみている。

両国とも首脳会談を行いたい意思は変わっていないとみられるが、北朝鮮が対決姿勢を強めた場合は情勢が一気に緊迫する恐れもある。
ここ3週間あまりで急に強硬姿勢を示すようになった共和国の「転向劇」の背景に存在する朝中関係の劇的改善や前掲のポンペオ米国務長官発言を踏まえれば、金委員長に安易な妥協はしないぞ、と最後通告を突きつけた」とは言い難いし、まして北朝鮮に「降伏」を迫」れる立場にアメリカは位置していないと言わざるを得ません。

「日米間の制裁に北朝鮮が屈した」というストーリーに立脚する日本言論界隈では、こういう結論に至ってしまうのかもしれませんが、事実に反することです。

■結局のところ
結局のところ、「『対話のための圧力』が対話を台無しにした」のが一次的な意味での今回の朝米首脳会談の中止の真相です。

しかしその背後には、会談1か月前になっても初歩的なレベルでのすり合わせさえも完了しないくらいに両国の主張は平行線を辿っていたという事実があり、さらにその深層には、一連の対話局面で再構築された国家間の利害関係――とりわけ朝中関係の再構築――が横たわっているわけです。

そして少なくとも現時点では、関係各国にとって最も利益になる展開は、「このままダラダラと時が過ぎる」ことであるわけです。

ふたたび情勢が朝米会談に傾くとすれば、それは朝中関係の動向がカギを握っていると言えるでしょう。

仮にアメリカが軍事オプションを選択するとしても、それは「限定的な軍事攻撃」以上のものにはなり得ないが、シリアの例を見れば、その程度であれば体制維持の大勢には影響しないと考えられるところです。

■とまあ、ここまで書いてきて
とまあ、ここまで書いてきて、まだ速報レベルですが、トランプ大統領が「6月12日の開催も、まだあり得る」などと口走り始めました。どっちだよ。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2018052501389
6月12日会談「あり得る」=北朝鮮と再調整模索−米大統領

 【ワシントン時事】トランプ米大統領は25日、中止を24日に通告した米朝首脳会談に関し、当初予定されていた6月12日の開催も「まだあり得る」と述べ、北朝鮮側と接触を続けていることを明らかにした。ホワイトハウスで記者団に語った。大統領は「彼らは(会談を)とても望んでいるし、われわれも行いたい」とも表明。米政府は、会談の再調整を模索しているもようだ。

 トランプ氏はこれに先立ちツイッターで、北朝鮮側が出した対話継続を求める談話について、「温かく、建設的な談話を受け取るのは非常に良いニュースだ」と評価した。ただ、今後の対応については「時がたてば分かる!」とするにとどめた。

 北朝鮮の金桂冠第1外務次官は25日、米側からの会談中止の通告を受け、「われわれはいつでも、どんな方式であれ、向かい合って問題を解決していく用意がある」と語り、首脳会談は「切実に必要だ」と訴えていた。

 これに対し、トランプ氏はツイートの中で「どこに向かうかすぐに分かるだろう。長く続く繁栄と平和に向かうことを希望する」と応じた。

 トランプ氏は24日、首脳会談中止を発表した際、記者団に「予定されていた会談を実施することや後日開催することも可能だ」と述べ、会談の再設定に含みを持たせていた。
トランプ大統領は揺さぶっているつもりなのかもしれませんが、前掲のキム・ゲグァン朝鮮外務省第一次官の「遺憾談話」、そして前掲News Week誌の「首脳会談が中止か物別れに終われば、金正恩は、自分は誠実な呼び掛けをし、国際的な基準に沿った手法(段階的で同期的措置)を提案したのに、トランプがむちゃを要求したと主張するだろう」分析を踏まえれば、トランプ大統領が「北朝鮮側が出した対話継続を求める談話を評価した」というよりも、衝動的に交渉テーブルの椅子を蹴ってみたことを後悔しているという方が正確かもしれません

仮に6月12日に首脳会談が開かれたとしても、「顔合わせ・顔つなげ」くらいにしかならないでしょうが、依然として情勢を見守る段階であると言うほかありません。
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2018年05月20日

ここまで話を膨らませられるのは、ある意味すごい

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180520-00007455-bunshun-soci
東京駅の自販機ストライキは、なぜ「共感」を得たのか
5/20(日) 7:00配信

 去る5月3日、JR東京駅で自動販売機の補充業務を担当しているサントリーグループの自動販売機オペレーション大手・ジャパンビバレッジ東京の従業員がストライキを実施した。


(中略)

 ストライキに先行して行われた順法闘争、ストライキの背景、当日の簡単な報告については、すでに以前の記事で紹介しているが、結論から言えば、非常に大きな「共感」が寄せられている。ストライキと言えば、利用者から「迷惑」だと感じられることがほとんど。なぜ今回のストライキはこれほどの反響を得たのだろうか。

 ストライキに対する、東京駅の利用者、インターネット、組合員、そして会社の反応をそれぞれ紹介しながら、ストライキへの支持が広がった背景を考えてみたい。


(中略)

 なかには、あらかじめストライキの情報を聞きつけていたらしく、一眼レフのカメラを構えて自販機を撮影する男性や、台車に括り付けられたユニオンの注意書きを撮影して、「応援します!」「飲み物はNewDaysで準備済み」とツイートする人もいた。

ジャパンビバレッジ側は「スト破り」要員を招集
 ジャパンビバレッジ側は当日、普段の倍以上の人数になるように、人員を各営業所から「スト破り」要員として招集していたため、長時間「売切」が放置されていたわけではない。とはいえ、利用者の多い箇所では、昼過ぎには再び「売切」ランプが続々と点りはじめ、しばらくしてから補充が追いつくという、ストライキの影響とスト破りの「いたちごっこ」が続いている状態だった。

 さらに、インターネット上の反響は大きかった。冒頭に紹介した記事もYahoo! Japanのトップページに上がり、「ジャパンビバレッジ東京」はヤフーリアルタイム検索で話題のキーワードのランキング2位にまで上り詰めた。

 ツイッター上では、年齢層や政治的な立場を超えてストライキへの共感・応援の声が見られた。安倍政権反対派も支持派も両方が応援していたし、特に注目したいのが、政治的な発言をほとんどしていない若者も好意的に言及し、ほぼ全てが支持していたことだ。日本でストライキがこれほど大衆的な支援を得られたことは、戦後の歴史を見ても画期的と言えるのではないだろうか。


(中略)

労働組合に期待するしかない時代に
 最後に、なぜ今回のストライキがこれほどまでに支持されたのかを考察してみたい。「東京駅」というインパクト、「自販機」の身近さなど、特徴的なポイントが揃っていることもある。しかし、それだけではない。私はここで、終身雇用や年功賃金を前提とした戦後日本社会の変容を指摘したい。

 従来の日本社会では、企業に正社員として就職し、我慢して働きさえすれば、いずれ昇進や昇給が待ち受けていると考えられてきた。教育、住居、年金の問題も、年齢とともに上がる年功賃金が保障してくれていた。こうした特定の企業の正社員を、労働組合が守っていたのである。

 しかし、いまやこのような労務管理から外れた労働者が、一つの新しい階層を形成し始めている。正社員・非正規社員を問わず、昇進・昇格もほとんどなく、年功賃金も保障されない働き方だ。長時間労働を我慢しても報われることはない。転職しても、この働き方から抜け出すことはできない。

 ジャパンビバレッジでも、年齢に応じて上がる年齢給があるが、それも35歳で打ち止めだ。それ以上になると、ごく一部の労働者以外は昇給・昇格することはない。

 そうした中で働く若者たちにとって、もはや特定の会社に期待するのではなく、どこの会社で働いていようとも、労働組合で闘うことによって、法律を守らせ、賃金を上げ、残業時間を短くして、普通に生きられることを求める労働者の姿が、共感を得る理由だったのではないだろうか。


(以下略)
■非常に大きな危機感を持たざるを得ない総括
5月3日の東京駅自販機補充ストについて、労組運動家の今野晴貴氏が論じています。当該事案については、当ブログでも4月25日づけ「消費者には影響を及ぼさないタイプのストライキの原則的推奨と消費者直撃が例外的に正当化されるケースについて」と5月4日づけ「歴史的経緯と経済理論的効果を踏まえた労働市場活用型の労働運動戦術」で、基本的には好意的(共感をもっている)立場を表明したものの、幾つかの「視点の欠落」を指摘しました。

すなわち、ほぼ同時期に敢行された岡山県の両備グループの「集改札スト」と比べるとき、消費者直撃の方法論である点においてスマートさに欠けているのです。一企業の労使はお客様(消費者)との関係においては「呉越同舟」の関係にあるという事実を直視し、「誰を敵に回してはならないか」ということを十分に承知した上で戦術を練るのであれば、「利用者には影響を及ぼさない一方で経営側には打撃となり、その要求を迫る」というプランを取るべきなのです。また、消費者直撃の方法論を取ったにも関わらず、そのことに対する言及がほとんど見られない点において、今野氏の意識が労使対決にしか向かっていない、視野が限定されていることが推察されます。5月4日づけ記事の末尾で私は、「「視野の限定」は、現代消費社会において労働運動を展開してゆく上で泣き所になりかねないリスクであると言えます」と危惧しました。

この危惧は、今回の「結論から言えば、非常に大きな「共感」が寄せられている」という本文中のくだりで、ますます増幅されたというのが率直な感想です。

インターネット・SNS上の反応を論拠として挙げている今野氏ですが、これらの媒体で東京駅のストに言及していた人たちは、現場にいなかった人たち、当事者ではなかった人たちがほとんどであると見てよいと思われます。つまり、東京駅の自販機が品切れ状態になっていたとしても、とくに自分自身の不利益にはならない人たちの「高みの見物」であるわけです。

消費者直撃型のストライキの危険性は、まさに消費者の不利益になる事態を労組側が生み出すことに対する反発です。今回のストに対して、東京駅以外の場所から「共感」のツイートを寄せていた人たちも、いざ自分自身がストライキの影響を直撃するような状況におかれたとき、同様に「共感」しつづけるでしょうか? 国労が精力的に順法闘争を展開していた時代――労働運動に対する社会的理解も大きく、革新政党が元気だった1960〜70年代――でさえも、消費者(国鉄線乗客)たちは最終的には怒りを爆発させました。その時代よりも階級的連帯が弱まっている、平たく言えば「自分勝手な奴らが増えている」時代においては、消費者たちの「閾値」も相応に低くなっていると推察できます

東京駅の自販機を巡るストが自分自身の不利益にはならない人たちの「高みの見物」を取り上げて「非常に大きな「共感」が寄せられている」などとする今野氏の総括に私は、非常に大きな危機感をもつものです

■実は自販機の存在自体が乗客にとって死活的に重要ではなかった?
では、当日のストライキ決行時間帯に東京駅で飲み物を求めていた人たち、現場にいた当事者たちはどういう反応を見せたのでしょうか? 記事中に答えが記されています。すなわち、自販機で飲み物を購入できなかった消費者たちは「飲み物はNewDaysで準備」したのでした。それどころか、「ジャパンビバレッジ側は当日、普段の倍以上の人数になるように、人員を各営業所から「スト破り」要員として招集していたため、長時間「売切」が放置されていたわけではな」かったとのこと。要するに、現場にいた当事者たちもジャパンビバレッジ側のスト破り行為と、NewDaysの「スト破りへのアシスト」によって、特に不利益を被らかなったのです。

いざストを打ってみた、消費者が困り果てて「我々の迷惑にもなるから、早く会社側は労働者たちに譲歩してやれよ!」という声が上がってくるかと思いきや、そもそも自分たちの仕事は「あれば便利、なくても如何にかなる」くらいでしかなかった・・・これでは「呉越もろとも沈没」の展開です。ストの成果を誇っている場合ではありません

このことについて、私も、下記の通りヤフコメ(インターネット・SNS)の反応を論拠としたいと思います。
SNSという共感を簡単に分かりやすく表すことができる手段が出てきたからっていうのがあるんだろうけど。
自販機が売り切れでも別に困らないから、っていうのが大きいんでは?
そういう意味では、従業員が酷使されて補充し続けるのはそこまで必要ではないってことだよね。
消費者に影響がないからストライキしても共感されやすい。
東京駅なら飲み物は他の売店 コンビニ 等で買えますしね。
ストライキに共感したというより、自販機なくても、どうにかなるわ。って人も多かったのでは?
これが東京駅発の鉄道がストライキなら大変な事になってたと思いますよ。それがどんな理由であれ共感する人はいないと思いますし、結局は自分に影響があるかないかでしょ

■キャンペーン性だけが高いスト
今回のストは、「キャンペーンとしては耳目を集めたものの、罷業行為そのものによって何か成果を得たわけではなかった」と総括せざるを得ないものです。今野氏は「日本でストライキがこれほど大衆的な支援を得られたことは、戦後の歴史を見ても画期的と言えるのではないだろうか」などと成果を高らかに宣言していますが、これほどキャンペーン性だけが高いストは前代未聞であるという点でこそ「画期的」だと言わざるを得ません。

もちろん、以前から述べているとおり、現代消費社会は「評判経済」である点において、キャンペーン性の高い労組運動は現代的な運動モデルである言ってよいと私は考えています。ワタミやすき家が代表例であるように、労組運動そのものが何かを変えるのではなく、それがキャンペーンとなって人々の耳目を集めた結果、自社の評判を重視する企業側が重い腰をあげるという展開です。引用はしませんでしたが、本件を巡ってはジャパンビバレッジ側には「取引先からのプレッシャー」が掛けられている模様です。これだけチャネルが多様化した時代において、労働者が結束して商品供給を遅滞させることは現実的には困難になりつつある昨今では、キャンペーン性の高い労組運動を展開し、企業の社会的評判を傷つけるという方法論が浮上します。これなら、組合の組織率が低くても宣伝が上手ければ運動の効果が出るかもしれません。

■また筆が滑った?
労働組合に期待するしかない時代に」の項にいたると、もはやどういう根拠があってそういう結論が出てきたのか分からないアジテーションが始まります。

終身雇用や年功賃金を前提とした戦後日本社会の変容」の結果、「いまやこのような労務管理から外れた労働者が、一つの新しい階層を形成し始めて」いるので、「労働組合に期待するしかない時代」が到来したとした上で、「もはや特定の会社に期待するのではなく、どこの会社で働いていようとも、労働組合で闘うことによって、法律を守らせ、賃金を上げ、残業時間を短くして、普通に生きられることを求める労働者の姿が、共感を得る理由だったのではないだろうか」と述べる今野氏。ここまで話を膨らませられるのは、ある意味すごい。

何やら「時代の変化」を描いているつもりになっているようですが、日本の労働者階級の多数派は今も昔も、労組が存在しない中小企業の労働者。多数派たる無労組の中小労働者にとっては「時代」は変わっていません。労組が存在する企業のことしか頭にないのでしょうか? 労組が存在する大企業でさえも、労組の組織率は長期低落傾向の末に依然として低空飛行状態。また、今回の一件についても、結局のところジャパンビバレッジ側の火消し的なスト破りで「大ごと」にはならなかった点において、あまり大きな運動には育っていないことが推察されます。

いったいどういう理由があって「労働組合に期待するしかない時代に」なったと言うのでしょうか?

今野氏の記事を私は以前から継続的に読み込んでいますが、10人前後のミニ労組を歴史的画期と位置付けたりする癖が彼にはあります。本件についても、慎重に記事を読み込むと、ストに参加した労働者の人数が上手くボカされています(人数が多ければよくて、少ないとダメというわけではないものの・・・)。今回も興奮のあまり、筆が滑っているんでしょうかね・・・?
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2018年05月17日

筋を通し公開的に言質を取った共和国

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180516-00000005-jij-kr
北朝鮮、南北閣僚級会談を中止=「米朝」へ揺さぶり―合同訓練に反発、急きょ通告
5/16(水) 4:50配信
時事通信

 【ソウル時事】北朝鮮国営の朝鮮中央通信は16日、米韓空軍が開始した航空戦闘訓練「マックス・サンダー」を「軍事的挑発」だと強く非難、16日に予定していた韓国との閣僚級会談を中止せざるを得なくなったと伝えた。

 また米国に対して「朝米首脳対面(会談)の運命について熟考しなければならない」と警告。金桂冠第1外務次官も談話を発表し、米が一方的な核放棄だけを強要しようとするなら、「朝米首脳会談に応じるかどうか再考せざるを得ない」と表明し、6月12日の米朝首脳会談の取りやめを示唆し、揺さぶりを掛けた。


(以下略)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180516-00000052-jij-kr
米朝首脳会談「再考」も=核放棄だけ強要に警告―北朝鮮高官
5/16(水) 12:05配信
時事通信

 【ソウル時事】16日の朝鮮中央通信によると、北朝鮮の金桂冠第1外務次官は談話を発表し、「トランプ米政権が一方的な核放棄だけを強要しようとするなら、われわれはそのような対話にもはや興味を持たないだろう」と警告、「朝米首脳会談に応じるかどうか再考せざるを得ない」と表明した。
 
 一方で金氏は、「朝米関係改善のため誠意をもって朝米首脳会談に臨む場合、相応な対応を受けることになる」とも語った。6月12日に開催される米朝首脳会談を前に、トランプ政権から譲歩を引き出すための交渉戦術の一環とみられる。

 北朝鮮で長年対米外交を統括している金氏は、「われわれは、朝鮮半島の非核化の用意を表明し、そのためには米国の敵視政策と核脅威による恐喝を終わらせることが先決条件になると数度にわたって明言した」と強調。しかし、「米国はわが国の寛容な措置を弱気の表れと誤解し、彼らの制裁と圧迫攻勢の結果だと主張している」と批判した。

 ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)らが核放棄を先行させる「リビア方式」や「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」の実現を主張していることについて、金氏は「対話を通じて問題を解決するのでなく、大国に国を委ねて崩壊したリビアやイラクの運命をわが国に強要しようとしている」と反発した。

 また、「米国はわれわれが核を放棄すれば、経済的補償や恩恵を与えると騒いでいるが、われわれは米国に期待して経済建設を進めたことは一度としてなく、今後もそのような取引を決してしないだろう」と語った。
共和国にとっては体制維持が至上命題である以上は、いったん「丸腰」になることを要求する「リビア方式」は受け入れることはできないものです。また、先の朝鮮労働党中央委員会全員会議でも改めて提唱されたとおり、自力更生・自給自足を掲げている共和国においては、「米国に期待して経済建設を進めたことは一度としてな」いわけです(関連して、最近、朝鮮中央通信をチェックしていると、反帝国主義・非同盟主義の意義が再度強調されつつある点も情勢を示していると言えるでしょう)。

その点において、キム・ゲグァン同志の談話は、共和国が以前から述べていることを繰り返しているものであると位置づけることが出来、そしてこのことはすなわち、朝米首脳会談を巡っては依然として調整中であることを示していると言えるでしょう。

関係諸国の反応をザッと見ておきましょう。まず、アメリカ。興味深い反応を示しています。一部論者が主張するような「軍事行動を正当化するためのアリバイ作り」などではなく、対話を求めていると見て取れます。そしてその結果、重要な言質を取ることに成功しています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180517-00000001-cnippou-kr
ホワイトハウス「非核化、リビア式ではなくトランプ式でいく」
5/17(木) 6:51配信
中央日報日本語版

非核化の道に順調に入るかのようだった北朝鮮が16日、米国にリビア式の一方的核廃棄の強要は受け入れられないと反発し、韓国には韓米合同軍事演習を問題にした。ホワイトハウスはこれについて「リビア式モデルは使っていない」というメッセージを北朝鮮に出した。


(中略)

これに対してサラ・ハッカビー・サンダース報道官は16日(現地時間)、「リビアモデルは我々が採用中のモデルではない」としながら「(私たちが進めているのは)トランプモデルだ」と述べた。ボルトン補佐官が既に言及した非核化方式を異なるものになる可能性があることを示唆した発言だとみられる。ボルトン補佐官はこれに先立ち、FOX(フォックス)ニュースに出演して「米朝首脳会談の成功は依然として希望的」としながら「大変な交渉になるだろうと考えて準備してきた」と述べた。また「もし会談が開催されないなら、我々は最大の圧迫戦略を継続していく」と付け加えた。青瓦台(チョンワデ、大統領府)は17日午前7時、国家安全保障会議(NSC)常任委会議を開く。
まず、「リビア方式」について「リビアモデルは我々が採用中のモデルではない」という発言を引き出しました。また、「もし会談が開催されないなら、我々は最大の圧迫戦略を継続していく」というくだりは、見方を変えれば、「6月の会談がまとまらなくても、ただちに軍事行動には移らない」と言い得ることが出来ます。日本の言論空間では、もう1年以上も「斬首作戦決行前夜」の騒ぎですが、まだそういった状況ではないと言えるでしょう。公開の場で言質を取った形です。

韓「国」も、たまには「役に立つ」動きを見せました。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180517-00000053-reut-kr
韓国、米朝首脳会談巡り「仲介役」果たす用意=当局者
5/17(木) 13:29配信
ロイター

[ソウル 17日 ロイター] - 韓国大統領府の当局者は17日、6月に予定される米朝首脳会談を前に両国の間で「ある種の立場の相違」が生じているようだとし、韓国として仲介役を果たす考えであることを明らかにした。

(以下略)

さらに、下記のような記事が出てくる点、今回の談話は外交的に成功の部類に入るのかもしれません
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180517-36933838-bloom_st-bus_all
ボルトン氏が米朝首脳会談開催を危うくする恐れ−発言に北朝鮮反発
5/17(木) 15:02配信
Bloomberg

北朝鮮の非核化では「リビア方式」を採用すべきだとするボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)の発言が北朝鮮の反発を招き、それも一因となって同国は来月の米朝首脳会談を中止する可能性を示唆した。

非核化を段階的ではなく一気に進める方式を受け入れたリビアのカダフィ大佐の独裁政権はその後崩壊し、大佐は米国が支援する反カダフィ勢力によって殺害された。

北朝鮮はこうした歴史を熟知しており、金桂冠第1外務次官は16日、北朝鮮はボルトン氏に「嫌悪」を感じているとし、「世界は北朝鮮が、悲惨な運命をたどったリビアでもイラクでもないことを十分過ぎるほど分かっている」と述べた。国営朝鮮中央通信(KCNA)が同次官の談話を伝えた。

ホワイトハウスは16日、ボルトン氏の発言とは距離を置いたものの、専門家は米朝首脳会談が数週間後に迫る中で、ボルトン氏がなぜこのような無神経な比較をしたのか疑問を抱いている。

核廃絶に取り組むプラウシェアーズ財団のジョー・シリンシオーネ代表はボルトン氏のコメントについて、「これは全く的外れだ。対北朝鮮外交は非常に順調だが、ボルトン氏が歯車を狂わせた」と指摘した。


(以下略)

史上初の朝米首脳会談予定日まであと1か月弱。まだまだ、朝米両国の根本的国益に照らしながら、事前の「取引」の行方を慎重に見守るべき段階です。
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2018年05月13日

朝鮮労働党全員会議で提起された経済建設路線を読む

さる4月20日に開催された朝鮮労働党中央委員会第7期第3回全員会議については、目前に迫った朝米首脳会談との関係からか日本国内では「核実験場廃棄宣言」にばかり注目が集まりましたが、やはり最大の注目点は《사회주의경제건설에 총력을 집중하여 우리 혁명의 전진을 더욱 가속화하자!》(社会主義経済建設に総力を集中して、我が革命の前進を加速しよう!)にあると言うべきでしょう。

もちろんこの決定は、昨年11月末の核武力完成宣言以来の必然的展開です。国防力強化と経済建設を同時進行させるという党の並進路線のうち、前者の目標が達成されたのであれば、後者に集中するというのは論理的に当然のことです(この一連の動きの中で「何故」という問いを立てるとすれば、「何故、昨年11月末のタイミングで核武力完成宣言をしたのか」だけでしょう)。社会主義企業責任管理制や集団主義的競争の定式化、あくまでも国内生産力の増強といった形で社会主義経済の再建を模索されてきたキム・ジョンウン委員長ですが、《사회주의경제건설에 총력을 집중하여 우리 혁명의 전진을 더욱 가속화하자!》というスローガンの下、さらにそのスピードを加速なさることを期待いたします。

そこで今回は、朝鮮中央通信の記事をもとにキム・ジョンウン委員長が構想なさる経済建設の現時点での基本方針について読み込もうと思います。

まずは、朝鮮労働党中央委員会第7期第3次全員会議開催を報じる4月21日づけ朝鮮中央通信配信について。日本語訳は当方によります。
http://www.kcna.co.jp/calendar/2018/04/04-21/2018-0421-001.html
조선로동당 중앙위 제7기 제3차전원회의-김정은위원장 지도
朝鮮労働党中央委員会第7期第3次全員会議――キムジョンウン委員長が指導

(평양 4월 21일발 조선중앙통신)조선로동당 중앙위원회 제7기 제3차전원회의가 주체107(2018)년 4월 20일 혁명의 수도 평양에서 진행되였다.
(ピョンヤン 4月21日発 朝鮮中央通信)朝鮮労働党第7期第3次全員会議がチュチェ107(2018)年4月20日に革命の首都ピョンヤンで開かれた。

(中略)

조선로동당 위원장동지께서는 《사회주의경제건설에 총력을 집중하여 우리 혁명의 전진을 더욱 가속화하자!》라는 전투적구호를 높이 들고 혁명적인 총공세, 경제건설대진군을 힘차게 벌려나가야 한다고 말씀하시였다.
朝鮮労働党委員長同志は、「社会主義経済建設に総力を集中して、我が革命の前進を加速しよう!」という戦闘的スローガンを高く掲げ、革命的な総攻勢、経済建設大進軍を力強く展開していかなければならないとおっしゃった。

새로운 전략적로선을 실현하기 위한 투쟁의 당면목표는 국가경제발전 5개년전략수행기간에 모든 공장, 기업소들에서 생산정상화의 동음이 세차게 울리게 하고 전야마다 풍요한 가을을 마련하여 온 나라에 인민들의 웃음소리가 높이 울려퍼지게 하는것이라고 밝히시였다.
新しい戦略的路線を実現するための闘争の当面の目標は、国家経済発展5カ年戦略の実行期間に、すべての工場、企業所で生産正常化の機械音が激しく響くようにして、田野に豊かな秋を調え、全国に人民の笑い声が高らかに響くようにすることだと明らかにされた。

전망적으로는 인민경제의 주체화, 현대화, 정보화, 과학화를 높은 수준에서 실현하며 전체 인민들에게 남부럽지 않은 유족하고 문명한 생활을 마련해주는것이라고 하시였다.
展望としては、人民経済の主体化、現代化、情報化、科学化を高いレベルで実現し、全人民に何不自由なく満ち足りた文明的な生活を調えることであるとおっしゃった。

조선로동당 위원장동지께서는 당과 국가의 전반사업에서 경제사업을 우선시하고 경제발전에 나라의 인적, 물적, 기술적잠재력을 총동원할데 대한 문제를 비롯하여 새로운 전략적로선을 철저히 관철하기 위한 과업과 방도를 밝혀주시였다.
朝鮮労働党委員長同志は、党と国家の全般事業で経済事業を優先し、経済発展に国の人的、物的、技術的潜在力を総動員するという問題をはじめ、新しい戦略的路線を徹底して貫徹するための課題と方途を明らかにしてくださった。

자력갱생정신과 과학기술은 강력한 사회주의경제건설의 힘있는 추동력이라고 하시면서 모든 부문, 모든 단위에서 자력갱생, 자급자족의 구호를 높이 들고 과학기술에 철저히 의거하여 자강력을 끊임없이 증대시키며 생산적앙양과 비약을 일으켜나가야 한다고 말씀하시였다.
自力更生の精神と科学技術は、強力な社会主義経済建設の力ある推進力であるとして、すべての部門、すべての単位で、自力更生・自給自足のスローガンを高く掲げ、科学技術に徹底的に依拠して自彊力を絶えず増大させ、生産的高揚と飛躍を起こして行かなければならないとおっしゃった。

조선로동당 위원장동지께서는 경제건설에 총력을 집중할데 대한 새로운 전략적로선을 철저히 관철하자면 당조직들의 역할을 결정적으로 높여야 한다고 지적하시였다.
朝鮮労働党委員長同志は、経済建設に総力を集中することについて、新たな戦略的路線を徹底的に貫徹するためには、党組織の役割を決定的に高めなければならないと指摘された。

당조직들에서 모든 일군들과 당원들과 근로자들에게 당의 새로운 전략적로선의 진수와 정당성을 깊이 인식시키고 그 관철에로 힘있게 불러일으키기 위한 조직정치사업을 진공적으로 벌려 경제사업에서 실질적인 성과들이 이룩되도록 하여야 한다고 말씀하시였다.
党組織のすべての活動家と党員、勤労者に党の新たな戦略的路線の神髄と正当性を深く認識させ、その貫徹へと力強く呼び起こすための組織政治事業を積極的に広げ、経済事業で実質的な成果が達成されるようにしなければならないとおっしゃった。

조선로동당 위원장동지께서는 내각을 비롯한 경제지도기관들에서 경제사업의 주인으로서의 위치를 바로 차지하고 급속한 경제발전을 이룩하기 위한 작전과 지휘를 치밀하게 짜고들며 모든 부문, 모든 단위들에서 당의 경제정책을 관철하기 위한 내각의 통일적인 지휘에 무조건 복종하여야 한다고 말씀하시였다.
朝鮮労働党委員長同志は、内閣をはじめとする経済指導機関において、経済事業を主人としての位置に正しく占めさせ、急速な経済発展を達成するための作戦と指揮を緻密に組みつつ、すべての部門、すべての単位が党の経済政策を貫徹するための内閣の統一的な指揮に無条件服従しなければならないとおっしゃった。

조선로동당 위원장동지께서는 우리 당의 병진로선이 위대한 승리로 결속된것처럼 경제건설에 총력을 집중할데 대한 새로운 전략적로선도 반드시 승리할것이라고 하시면서 모두다 우리 혁명의 승리적전진을 다그치기 위하여 용기백배하여 힘차게 싸워나가자고 호소하시였다.
朝鮮労働党委員長同志は、我が党の並進路線が偉大な勝利のうちに終わったように、経済建設に総力を集中することについて、新しい戦略的路線も必ず勝利するだろうとして、我が革命の勝利的前進を早めるために皆で力強く戦って行こうと訴えられた。

(以下略)

続いて、4月30日挙行の連席会議に関する報道。こちらの日本語訳も当方によるものです。
http://www.dprktoday.com/index.php?type=8&no=32456
조선로동당 중앙위원회 제7기 제3차전원회의에서 제시된 새로운 전략적로선을 철저히 관철하기 위한 당, 국가, 경제, 무력기관 일군련석회의 진행
朝鮮労働党第7期第3次全員会議で提示された新しい戦略的路線を徹底的に貫徹させるための党、国家、経済、武力機関活動家連席会議が開かれる

경애하는 최고령도자 김정은동지께서 당중앙위원회 제7기 제3차전원회의에서 제시하신 당의 새로운 전략적로선을 철저히 관철하기 위한 당, 국가, 경제, 무력기관 일군련석회의가 4월 30일 평양에서 진행되였다.
敬愛なる最高領導者キムジョンウン同志が党中央委員会第7期第3次全員会議において提示なさった党の新しい戦略的路線を徹底的に貫徹するための党、国家、経済、武力機関活動家連席会議が4月30日にピョンヤンで開かれた。

(中略)

박봉주동지는 인민경제 선행부문, 기초공업부문을 정상궤도우에 올려세우기 위한 사업에 선차적인 힘을 넣어 국가경제발전 5개년전략수행의 세번째 해인 올해의 전투목표를 무조건 수행하는것과 함께 전망적으로는 인민경제의 주체화, 현대화, 정보화, 과학화를 높은 수준에서 실현하기 위한 부문별, 중요단위별과업들에 대하여 언급하였다.
パク・ボンジュ同志は、人民経済の先行部門、基礎工業部門を正常な軌道に引き上げるための事業に優先的に力を入れ、国家経済発展5カ年戦略遂行の3年目である今年の戦闘目標を無条件実行するとともに、将来の展望としては人民経済の主体化、現代化、情報化、科学化を高いレベルで実現するための部門別、重要単位別の課題について言及した。

모든 부문, 모든 단위에서 자력갱생, 자급자족의 구호높이 경제의 자립성과 주체성을 강화하고 과학기술과 경제의 일체화를 실현하며 나라의 경제구조를 완비하고 주체사상을 구현한 우리 식 경제관리방법을 전면적으로 확립할데 대하여 그는 말하였다.
すべての部門、すべての単位で自力更生・自給自足のスローガンを高く掲げ、経済の自立性と主体性を強化し、科学技術と経済の一体化を実現し、国の経済構造を完備してチュチェ思想を具現した朝鮮式の経済管理方法を全面的に確立することについて彼は述べた。

박봉주동지는 경제지도기관 일군들이 우리 혁명의 전진속도를 더욱 가속화하기 위한 오늘의 보람찬 투쟁에서 맡겨진 영예로운 사명과 임무를 다해나갈데 대하여 강조하였다.
パク・ボンジュ同志は、経済指導機関の活動家が我が革命の前進速度をさらに加速するため、今日の誇らしい闘争で任された栄誉ある使命と任務を果たしていくことについて強調した。

첫째 안건에 대한 보고가 끝난 다음 내각부총리들인 김덕훈동지, 임철웅동지, 고인호동지, 리주오동지, 동정호동지, 로두철동지가 담당부문의 사업에서 이룩된 성과와 나타난 결함들을 분석총화하고 사회주의경제건설에 총력을 집중하기 위한 방도들을 제기하는 토론들을 하였다.
第一議案の報告が終わった後、内閣副総理であるキム・ドクフン同志、イム・チョルウン同志、コ・インホ同志、リ・ジュオ同志、トン・ジョンホ同志、ロ・ドゥチョル同志が担当部門の事業で成し遂げられた成果と顕れた欠陥を分析総括し、社会主義経済建設に総力を集中するための戦略を提起する議論をした。

토론자들은 경제지도일군들이 자기 단위의 사업을 전적으로 책임지는 립장에서 혁신적인 안목을 가지고 경제작전과 지휘를 완강하게 전개해나갈 때 당의 구상과 의도를 관철할수 있다는 교훈을 찾게 되였다고 말하였다.
討論者たちは、経済指導活動家が自分の単位の事業に全面的に責任を負う立場で革新的な見識を持って経済作戦と指揮を強力に展開していったとき、党の構想と意図を貫徹することができるという教訓を見いだせたと語った。

내각이 경제사령부로서의 책임과 역할을 다하며 국가경제발전 5개년전략을 집행하기 위한 년차별계획을 현실성있게 세우고 과학기술에 의거하여 자강력을 끊임없이 증대시켜 생산적앙양과 비약을 일으켜나갈데 대하여 그들은 언급하였다.
内閣が経済司令部としての責任と役割を果たし、国家経済発展5カ年戦略を執行するための年次別計画を現実的に立て、科学技術に基づいて自彊力を絶えず増大させて生産的高揚と飛躍を起こしていくことについて、彼らは言及した。

토론자들은 《사회주의경제건설에 총력을 집중하여 우리 혁명의 전진을 더욱 가속화하자!》라는 전투적구호를 높이 들고 당중앙위원회 제7기 제3차전원회의에서 제시된 새로운 경제전략목표들을 반드시 점령할 결의를 피력하였다.
討論者たちは、「社会主義経済建設に総力を集中して、我が革命の前進を加速しよう!」という戦闘的スローガンを高く掲げ、党中央委員会第7期第3回全員会議で提示された新たな経済戦略目標を必ず達成する決意を表明した。
両記事を総和すると、「経済建設総力集中」路線の要点は、(1)短期的には、国家経済発展5カ年戦略の実行期間中にすべての工場と企業所で生産を正常化すること、(2)長期的には、人民経済の主体化、現代化、情報化、科学化を高いレベルで実現することであると言えます。そのためのプランとして、(A)党と国家の全般事業で経済事業を優先し、経済発展に国の人的、物的、技術的潜在力を総動員すること、(B)経済建設に関して内閣が統一的な指揮をとり(かつては党や軍の横槍的介入が甚だしかった)、それを党組織を通じて徹底的に実施することが掲げられています。

この戦略の思想的バックボーンとして「自力更生の精神」と「科学技術」が据えられている点もチェックしておく必要があるでしょう。具体的には、「自力更生の精神と科学技術は、強力な社会主義経済建設の力ある推進力であるとして、すべての部門、すべての単位で、自力更生・自給自足のスローガンを高く掲げ、科学技術に徹底的に依拠して自彊力を絶えず増大させ、生産的高揚と飛躍を起こして行かなければならない」というくだりと、「すべての部門、すべての単位で自力更生・自給自足のスローガンを高く掲げ、経済の自立性と主体性を強化し、科学技術と経済の一体化を実現し、国の経済構造を完備してチュチェ思想を具現した朝鮮式の経済管理方法を全面的に確立する」というくだりです。振り返ってみれば、キム・ジョンウン委員長が3月に訪中した際、中国の科学技術関連施設を視察なさったことは、この新戦略の伏線だったと言うべきでしょう。

自力更生・自給自足がスローガンに盛り込まれ、あくまでも「チュチェ思想を具現した朝鮮式の経済管理方法」を模索している点に留意すべきです。韓「国」のハンギョレ紙は、23日づけ記事で、「「金委員長が中国の改革開放を率いたトウ小平の道を歩こうとしている」という評価もあるが、まだ断定する状況ではない。金委員長は「新しい革命的路線の基本原則は自力更生」と強調することにより、少なくとも形式論理上では全面的改革開放と距離を置いた。」と論評していますが、現時点では正しい認識であると言えるでしょう。「キム・ジョンウンが北朝鮮のケ小平になる」という言説は、現時点では単なる希望的観測に過ぎないわけです。原典的ソースをしっかり読み込むべきです。

このことは決して経済改革の停滞を意味するものではないと思われます。1月5日づけ「今年も「社会主義企業責任管理制」の旗の下に前進する社会主義朝鮮」やチュチェ105(2016)年1月8日づけ「「新年辞」と「水爆実験」と「経済作戦」――朝鮮民主主義人民共和国の内的論理から」(該当部分を下記に再掲)を筆頭に何度も繰り返していることですが、「目新しさ」や「余計な誇張」がなく、そして何よりも「逆行するプラン」ではないということは、従前の路線をこれからも変わることなく粛々と継続する方針であることを示していると言えるからです。
社会主義国は一般的に「急進的な設計主義的方法論による制度建設」の路線を歩むものですが、共和国は、意外なことに、「実験的・試行錯誤的方法論による制度進化」がよく見られるのです。国家の根幹を成すチュチェ思想も形成史を振り返ればそうでした。

そうした歴史的経験則を踏まえて、こんにちを見返すと、経済管理制度変更の「実験」はどこで行われているでしょうか? 「社会主義企業責任管理制」が困難のなかでも撤回されることはなく、徐々にではありますが進化している事実――日本ではほとんど注目されていませんが――は、注目すべき要素です。
ケ小平路線を踏襲するような形態を取るかは現時点では不明であるものの、《사회주의경제건설에 총력을 집중하여 우리 혁명의 전진을 더욱 가속화하자!》は依然として従前の改革路線の延長線上に位置していると言える点において、社会主義企業責任管理制や集団主義的競争の定式化、国内生産力の増強といった形で推進されてきた一連の経済再建の方向性は今後も変わりないと言えるでしょう。
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2018年05月04日

歴史的経緯と経済理論的効果を踏まえた労働市場活用型の労働運動戦術

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180503-00007295-bunshun-soci
>> 本日、JR東京駅の自販機補充スタッフがついにストライキ決行
5/3(木) 13:00配信
文春オンライン

 本日5月3日、JR東京駅で自動販売機の補充業務を担当しているサントリーグループの自動販売機オペレーション大手・ジャパンビバレッジ東京の従業員が、午前9時すぎをもって同社にストライキを通告し、業務を停止した。ストライキは一日中続くものとみられる。

(中略)
 労働組合のストライキの「天敵」といえば、人員を新しく職場に投入されてしまう「スト破り」である。今回のジャパンビバレッジのように、ほかからスト中の事業所に労働者を異動させたり、新しく労働者を採用したりすることで、ストの効力は大きく削がれてしまう。

 このような事態に歯止めをかけるため、職業安定法では、ストライキが発生している際に、「スト破り」を利さないようにハローワークの求人を止めることができると定めているのである。


(中略)

 ハローワークによるストライキの保護という仕組みは、一見すると奇妙に思えるかもしれない。しかし、「求人」に歯止めをかけることは、実は労働組合にとって本質的な活動なのである。

労働市場を規制するのが労働組合の役割
 そもそも、労働組合の歴史は、労働市場をいかにコントロールするかという歴史にほかならない。


(中略)

 このシステムは単なる福利厚生ではなく、まさに労働市場に働きかけるための制度であった。地域に労働者の数が過剰になってしまうと、労働者同士の競争が激化し、労働条件が下がってしまう。そこで、労働者を他の地域に分散させることにより人数をコントロールし、労働条件を改善させるための手段だったのである。

 さらに、労働組合の条件を雇用主が飲まないと、職人を積極的に遍歴に出すことで、労働者の供給じたいを止めていた。これはストライキそのものである。

採用に歯止めがかかると、業務が立ち行かなくなる
 このように、職場を横断して労働市場をコントロールし、労働条件の改善を雇用主に迫ることが、労働組合の本質的な役割である。日本の労働組合は企業別がほとんどであるため、企業の外部である労働市場に目を向けた行動はほとんど行われてこなかった。

 しかし、ブラック企業では、この労働市場戦略がより効果をもたらす。ブラック企業においては、長時間労働やパワハラで労働者を使いつぶすまで働かせて利益を上げ、彼らが辞めると、代わりの労働者を大量に採用するというサイクルが常態化している。ということは、採用に歯止めをかけられてしまうと、たちどころに業務が立ち行かなくなってしまうことになる。このため、ブラック企業と闘うためには、労働組合を通じたハローワークによる採用規制が、極めて大きな効果を持つのである。

(以下略) <<
■歴史的経緯と経済理論的効果を踏まえた労働市場活用型の労働運動戦術を論じる今野氏
当ブログでは、以前からストライキ等による要求活動よりも、労働市場を活用する一種の兵糧攻めの方が、待遇改善のインセンティブが大きいはずだと述べてきました。単発のストライキ等による要求活動の効果は結局のところ、「お代官様・地主様・資本家様への陳情」の域に留まるものであり、この程度では企業・資本家に対して行動を改めるインセンティブにはならないのです。それに対して労働市場を活用する一種の「兵糧攻め」は、世界的大企業であり、対労働者は勿論、一般消費者をも軽視している「超殿様商売企業」であるマクドナルドでさえ、その行動を改めざるを得ない強力な方法論なのです。

このことは、チュチェ103(2014)年8月3日づけ「ユニオンが転職支援する大きな意味――「鉄の団結」は必要ない」やチュチェ104(2015)年10月15日づけ「周囲の助けを借りつつ「嫌だから辞める」「無理だから辞める」べき」等で展開してきた前提・基本的認識に基づき、チュチェ105(2016)年6月19日づけ「マクドナルドの「殿様商売」「ブラック労務」に改善を強いたのは労働組合ではなく市場メカニズムのチカラ」(←奇しくも今野晴貴氏の言説を批判した記事です)や1月30日づけ「大東建託労組員の夢物語的願望に付き合う日本共産党の著しい後退」で述べてきたところです。

今回の今野氏の記事は、「「求人」に歯止めをかけることは、実は労働組合にとって本質的な活動」や「職場を横断して労働市場をコントロールし、労働条件の改善を雇用主に迫ることが、労働組合の本質的な役割」「採用に歯止めをかけられてしまうと、たちどころに業務が立ち行かなくなってしまうことになる。このため、ブラック企業と闘うためには、労働組合を通じたハローワークによる採用規制が、極めて大きな効果を持つのである」といった表現を使って、彼にしては珍しく歴史的経緯と経済理論的効果を踏まえつつ労働市場活用型の労働運動戦術を論じています。特に「採用に歯止めをかけられてしまうと」のくだりは、上掲1月30日づけ大東建託労組員の〜記事を筆頭に、まさに私が以前から論じてきた主張と内容的に重なるものです。当ブログで以前より繰り返し述べてきた労働市場における市場メカニズムの作用を積極的に活用する形での労働自主化の方法論と今野氏の主張が明示的に交差する日が思ったよりも早く来ました。

今野氏を筆頭とする日本の労働界人士の言説は、どうにも「お代官様・地主様・資本家様への陳情」か「マルクス主義的階級闘争物語」の域を脱しないシロモノが目立っている嫌いがありましたが、今回の今野氏の言説は、労働運動において労働市場を活用せんとする点において歴史的にも経済理論的にも正しい労働運動の在り方に立ち返るものです。その基本的認識に対して、私は賛意を示すものであります

■市場活用の視点を徹底できておらず、まだまだ視野が労働運動・労働市場に限られている今野氏
しかしながら、あちこちで依然として不足が目立っていると言わざるを得ないこともまた事実です。

労働市場活用型の労働運動戦術と言う点で加えて申し述べれば、まさに本件;ジャパンビバレッジ案件の関して取り上げた4月25日づけ「消費者には影響を及ぼさないタイプのストライキの原則的推奨と消費者直撃が例外的に正当化されるケースについて」において私は、労働争議における労働者側の戦術は原則として、「利用客を敵に回さない一方で、企業当局側には打撃を与える」という方法論であるべきだとしました。一企業の労使はお客様(消費者)との関係においては「呉越同舟」の関係にあるという事実を直視し、「誰を敵に回してはならないか」ということを十分に承知した上で戦術を練らなければならないわけです。

今野氏の言説は依然として、消費者直撃の方法論を取っているにも関わらず、そのことについて言及していない点において、労使対決にしか意識が向かっていないことが推察されますまさに消費者不在の労働運動であり、このご時世では推奨しかねる方法論であると言わざるを得ません。労働運動において労働市場を活用せんとする点においては市場活用の視点を持っていますが、市場活用の視点を徹底できていないわけです。経済システム全体を俯瞰すべきであるところ、まだまだ視野が労働運動・労働市場に限られているわけです。

■手段が目的と化している今野氏
また、当該記事の直接的論題ではないので、ここで申し述べるのは些か不適切かもしれませんが、「新規採用・補充採用への歯止め」という意味においては労働市場を活用せんとしている今野氏ではあるものの、「現時点で既にブラック企業の被害を受けている労働者が、当該企業と『取引停止』する」という意味での労働市場の活用は見えてきません。チュチェ105(2016)年12月16日づけ「自主的かつスマートなブラック企業訴訟の実績――辞めた上で法的責任を問う方法論」でも述べましたが、心身の無理をせず「辞める」というのは、取り急ぎ安全地帯に脱出するという意味で最善的です。周囲の助けを借りつつ逃げた方がよいケースも存在します。その点において私は、労働組合・ユニオンの「脱出支援としての転職支援」の重要性を繰り返し主張しているところです。

今野氏にとっての到達すべき目標は「ブラック企業に要求を呑ませる」であり、その手段として「労働市場の活用」が掲げられているようです。これに対して私が掲げている到達点は「生身の労働者の自主化」であり、「新規採用・補充採用への歯止め」は勿論のこと「ブラック企業に要求を呑ませる」ということはあくまで手段の一つでしかありません。生身の労働者の自主化が達成されるのであれば、採用への歯止めという一種の「兵糧攻め」であろうと、ブラック企業への要求実現運動であろうとも、戦術自体は何でも構わないわけです。つまり、私の目から見れば、今野氏の言説は依然として「手段が目的と化している」わけです

■市場メカニズムを活用すると言いながら中途半端な今野氏――「嫌だから辞める」が見えて来ない
そもそも労働市場活用論は、「ブラックだから応募しない・させない」という形態を取ると同時に、「嫌だから辞める」という形態をも必然的に取ることになります。上掲のマクドナルド案件や、あるいはすき家・和民の例からも明白である通り、ブラック企業が行動を改める契機は「嫌だから辞める」と「ブラックだから応募しない」のダブルパンチでした。

その点において私は、労働市場における市場メカニズムの作用を積極的に活用することを「嫌だから辞める・ブラックだから応募しない路線」と表現してきたところです。今野氏の言説からは、「嫌だから辞める」が見えて来ず、「嫌だから要求して改善させる」のみです。要するに、市場メカニズムを活用すると言いながら中途半端なのです。

また、ストライキは「要求が実現されるまで働かない」というものですが、本当に要求が実現するまで罷業し続けることは、労働者が生産手段を私有しておらず、また貯蓄が限定的であるのが一般的である以上は現実として困難です。仮に企業側が折れて労働者側の要求を呑んだとしても、このことは、実は企業と労働者との間で「利益分配共同体」が結成される点において、両者の結束が固まってしまうという効果があります。チュチェ104(2015)年10月8日づけ「「日本の労働組合活動の復権は始まっている」のか?――労組活動は労働者階級の立場を逆に弱め得る」でも述べたように、本来、労働者が企業側に対して自主的な立場を獲得するためには、企業側への依存度を下げなければならないものです。おんぶに抱っこ状態では、要求を貫徹しづらいのです。

なぜ電力会社が一般電力消費者に対して殿様商売ができる(できていた)のかといえば、他に売り手がいないからです。なぜ、自動車メーカーが下請け工場の部品をふざけた値段にまで値切ることができるのかといえば、他に買い手がいないからです。なぜブラック企業が労働者を奴隷的に使役できるのかと言えば、当該労働者には他に働き口がないからです。他に売り手/買い手相手が居ないとき、買い手/売り手は、売り手/買い手に対して依存的立場・弱い立場に置かれます。独占市場の基本原理です。

生身の人間としての労働者が企業側に対して真に交渉力を持つためには、「辞めるよ?」という脅しが必要です。「辞めるよ?」と言えない立場で、団体交渉等によって企業側から「譲歩」を勝ち取りその利権を自らの生活に組み込むことは、特定の勤め先に対する依存度を上げることに繋がります。労働者階級が自主的であるためには、労働需要者としての企業を競争的な立場にしなければならないのに、「辞めるよ?」と言えない立場で団体交渉等に臨むというのは、労働者自らが企業の「労働需要独占者」としての地位をさらに強化させていると言っても過言ではありません

また、労働者が「できればその企業で勤め続けたい」という願いを前提として団体交渉に臨んでいる限り、最終的な効果の点においては、依然として労働者側は企業側の掌の上に居続けます。企業は需要独占者の立場に居続けます。

労働者が真の意味で自主的になるためには、労働者一人ひとりの「嫌だから辞める」を前提にし、企業側に足許を見られないために特定の勤め先に対する依存度を下げ、企業の労働需要独占者としての立場を切り崩すことを基本に据える必要があります。

市場メカニズムを活用すると言いながら結局は「要求」がメインである点は依然としている今野氏の言説です。

■まとめ
上に述べたように、私としては今野氏の今回の言説は、その基本的認識においては同意見です。日本労働界において影響力をもつ今野氏が労働運動において労働市場を活用せんとする姿勢を鮮明に示したことは私はたいへん良かったと思います。しかし、「視野の限定」と「手段が目的と化している」「中途半端」という点において懸念を申し述べざるを得ないところです。とりわけ、「視野の限定」は、現代消費社会において労働運動を展開してゆく上で泣き所になりかねないリスクであると言えます
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