2018年06月23日

朝米会談の「負け」を受けて因習的思考回路にメスを入れるアメリカ、しがみつく日本

朝米首脳会談から10日経ちました。

共和国側の会談成果については早々から指摘されていたものの、アメリカ側の成果が判然としない今会談。10日も経てば「実は、北はトランプの罠に引っ掛かった」系の指摘が出てくる頃合いですが、一向にそういった類の指摘が出てきません。それどころか、事前の過熱報道とは打って変わった静けさです。ちょうど、サッカーの国際試合で事前に盛り上げまくったにも関わらず、話にもならないくらいに惨敗した後のような状況。日本メディアや世論は、物事が思い通りにいかなかったとき、その負けっぷりが徹底的であればあるほど、負け惜しみ的な恨み言を最後に出来事自体を触れようとしなくなる傾向がありますが、今回もそうなのかも知れません。

■因習的な思考回路にもメスを入れて「負け」から教訓を汲み取ろうとするアメリカ
今回の朝米首脳会談は、現時点では、共和国側がより多くの成果物を獲得したと言い得るものです。日米両国・西側諸国は、いままでの方法論を全方位的に見直さなければならない局面です。アメリカでは早速、因習的なアメリカ的思考回路にもメスを入れる指摘が出てきています。「圧力のかけ方を変える」といった小手先的な細工ではなく、外交戦略立案に先立つ本質的部分の再構築という点において、重要な試みであると言えます。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180619-00010006-newsweek-int&p=1
米朝会談「アメリカは高潔・聡明、敵はクレイジー」外交のツケ
6/19(火) 19:08配信
ニューズウィーク日本版

<トランプ、金正恩、日本、中国、北朝鮮国民――世紀の米朝会談で誰が得をしたのか、何が変わるのか。そもそもアメリカの外交政策には以前から「世界観」に問題があった>


(中略)

今回の首脳会談がもたらした最大の前進は、金正恩・朝鮮労働党委員長が自らのイメージを変えたことだ。謎めいていて、どこかコミカルで、残忍で非理性的な「隠者王国」の指導者から、国際社会と真剣に向き合おうと振る舞う指導者へと衣替えした。

ニューヨーク・タイムズ紙は首脳会談の数日前に、「金正恩のイメチェン──核兵器のマッドマンから有能なリーダーへ」という見出しを掲げた。しかし記事の主役は金というより、外交上の敵を非理性的でクレイジーな愚か者と見なすアメリカの自滅的な傾向についてだった。

アメリカでは経験豊富な政府高官や聡明な専門家でさえ、外交摩擦を利害の対立や政治的価値観の衝突として理解するのではなく、個人の欠点や被害妄想、現実に対するゆがんだ見方を反映していると捉えたがる。

しかし実際の金一族は、狂気的でも非理性的でもない。困難な状況下で70年にわたって権力を維持してきた政治家集団だ。

歴史を振り返れば、アメリカは数々の敵をクレイジーと見なしてきた。ロシア革命を推進したボリシェビキのイデオロギーは、「人間が考え得る最もおぞましくて醜いこと」。60年代の中国は、「世界観も人生観も非現実的な指導者が率いる」「暴力的で、短気で、頑固で、敵意に満ちた国」だった。

イラク侵攻は、サダム・フセインは侵略を繰り返す理性のない独裁者だという理由で正当化された。同じようにイランの指導者を「大量虐殺マニア」と見なし、「殉教に取りつかれた非西洋文化」を持つイランの脅威を未然に阻止するためには予防戦争も辞さない、という理論になる。

国際テロリストについても多くのアメリカ人が、精神的に錯乱して非理性的な狂気に駆られた個人と考えている。しかし、大多数のテロリストには政治的な動機があり、それなりの理性を持って主体的に行動している。たとえ自爆テロだとしても、それが自分たちの政治目的を実現する可能性が最も高い戦略だと信じている。

中には、架空の信念で突っ走る一匹狼の攻撃者もいるかもしれない。しかし、テロ集団やその指導者をひとまとめにクレイジーだと片付けることは、彼らの根強さと戦略的行為と適応力を軽視することになる。

マッドマンは政治家だった
もっとも、ある意味でこのような思考になるのも無理はない。アメリカ人は自分たちの国は高潔で、特別で、聡明で、寛大であり、アメリカの外交政策は世界のほぼ全ての人にとって望ましいと信じている。そんなアメリカの政策に同意せず、アメリカの真意を疑う者は、精神的にどこか異常があるに違いない、と。


(中略)

次に、敵対する相手の振る舞いを非理性的な要素のせいにすると、彼らの真意が見えにくくなる。

北朝鮮やイラン、リビアなどが大量破壊兵器に固執することを、アメリカでは常軌を逸する行為や悪意の証拠だと考える人もいる。北朝鮮のように貧しい国が核兵器の開発に莫大な資源をつぎ込むことは狂気でしかなく、金一族の異様さと偏執性と危険性を物語っている、というわけだ。

しかし北朝鮮にも、イランやリビアにも、他国からの攻撃を警戒する正当な理由があり、信頼できる抑止力を求める根拠も彼らなりに持っている。超大国のアメリカが自国の安全のために数千発の核弾頭を保有する必要があると思うのなら、はるかに弱い国々が核保有を有益な保険と考える理由は言うまでもない。


(中略)

スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授)
アメリカでは経験豊富な政府高官や聡明な専門家でさえ、外交摩擦を利害の対立や政治的価値観の衝突として理解するのではなく、個人の欠点や被害妄想、現実に対するゆがんだ見方を反映していると捉えたがる」というのは、まさに典型的な観念論的思考という他ないものです。私は上述の指摘に加えて、西部劇的な勧善懲悪の発想も絡んでいると考えています。たとえば、イラク戦争は、「サダム・フセインは侵略を繰り返す理性のない独裁者」に対する懲罰として捉える向きがあるからです(その点、記事中の「政治的価値観の衝突として理解する」というくだりについて、私は当該記事の筆者たるウォルト教授についても、たいへん僭越ながら観念論の影が忍び寄っていると考えています)。

アメリカ外交は、根本的な事物認識のレベル・世界観レベルで間違っているのだから戦略や戦術、同盟関係をどれだけ変更したとしても失敗は免れ得ないことでしょう。このことにメスを入れる上掲引用記事の指摘は重要な論点を提供しています

■「悪人とは口をきいてはならない」とする日本
因習的発想が行動に悪影響を与えているのは、アメリカのみならず日本にも当てはまることです。アメリカで反省の風潮が出始めているのに対して、日本では依然として因習的な勧善懲悪的発想に立脚した言説、「悪との対決」の構図に立つ言説が恨み言のように出てきています
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180614-00010012-abema-int
「トランプ大統領は絶対やってはいけないことをした」パックンも米朝首脳会談に怒り
6/14(木) 15:57配信
AbemaTIMES


(中略)

■パックン「絶対やってはいけないことをした」
 13日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した宮澤エマは「トランプ大統領のTwitterを見て、アメリカ大統領の言葉というのはこんなに軽いものだったのかと思っていたが、今回の会談で存在自体も軽くなったと感じざるを得ない」とコメント。

 パックンは「僕が一番怒っているのは、人権問題には触れもせず、残酷な指導者と対等に付き合うような会談を行ってしまったこと。会談は譲歩を引き出すための手段でもあったのに、同じ数の国旗を並べ、同じものを食べ、一緒に庭を歩いた。絶対やってはいけないことだし、歴代大統領だったらしなかった」と憤る。


(中略)

岡崎研究所研究員の村野将氏は「歴史的な対面を果たしたこと自体を評価する向きがあるが、そもそも私はスタートラインに立つべきでなかったと思う。しかも会見を見る限りでは、非核化の入口にすら立っていないのではないかという印象を受けた。北朝鮮が譲歩した部分もなく、向こうの良いようになったという感想だ」と話す。

 「国際政治は“喧嘩両成敗“でお互い仲良くするということではなく、どちらに正義や正当性があるかを決する場でもある。トランプ大統領だけでなく、韓国を含めた陣営は北朝鮮に対して強く当たるべきところを自ら譲歩していった。これは昨年まで日本が考えていた戦略とは違う。緊張が緩和したからプラスなんだという評価をする方もいるが、中身が詰まってないまま融和ムードだけが先行することは間違いなくよくないことだと思う。こちらが正義だというのであれば、北朝鮮の方から妥協してくるまで圧力はかけ続けたままであるべきだ。今後。トランプ大統領が軍事的な圧力をかけることはかなり難しくなってきていると思うし、北朝鮮が非核化の履行をしない、状況が改善させないようであれば、日本としては再び軍事的圧力に転じるようなことも積極的に言っていくべきだと思う」。


(以下略)
日本在住歴が長く、また米ハーバード大学(比較宗教学専攻)卒業のパックン(パトリック・ハーラン氏)の「僕が一番怒っているのは、人権問題には触れもせず、残酷な指導者と対等に付き合うような会談を行ってしまったこと」という主張。日米両国の文化に通暁している彼の言説が日本のメディアで取り上げられている事実を見るに、彼の言説は「一人のアメリカ出身者の単なる個人的な意見」を超える「国内世論の傾向を示すサンプル的な重み」を感じるところです。

それをいうなら、1972年のニクソン訪中(文化大革命の真っ最中!)や、1979年の米中国交正常化(これは文革終結後だが)はどうなるのでしょうか? いまだって中国共産党政権は重大な人権侵害を続けていると指摘されています。歴代の米ソ首脳会談は? 第二次大戦後に限っても、フルシチョフとアイゼンハワー(雪解け期)、ブレジネフとフォード(デタント期)、そしてゴルバチョフとブッシュ父(冷戦終結)・・・「歴代大統領だったらしなかった」などと言い放つパックンは忘れているのかもしれません(まさかフェイクをかましている?)が、アメリカ大統領は、アメリカ的基準では堂々の「人権侵害国家」に該当するソ連・中国の首脳と対話してきました。それが歴史的事実・ファクトです。

残酷な指導者」だからといって対話に応じないというのは、「悪との対決」の構図に立っており勧善懲悪的である点においてテレビウケするコメントではあるものの、こんな心構えを外交政策の中心に据えようものなら、進むものも進まなくなることでしょう。歴史的事実・ファクトとして、米ソ関係・米中関係は厳しい対決構図の中にあっても対話によって前進してきたのです。「悪の帝国」との対決姿勢によってではなく、マルタ島での会談によって米ソ冷戦は終わったのです。たとえ相手側が自国の価値観とは根本的に異なり、是認することができないような信念体系を信奉していたとしても、敢えてそういった人物と接触することによって、少しずつ自国が目指している世界を作ろうとする心構えが大切です。トランプ大統領に限らず、アメリカの歴代政権はそうしてきました。

「対北政策」は、「悪との対決」の構図に立ち勧善懲悪的にやってきたのに、一向に成果が上がらず、むしろ「最大限の圧力」が逆に朝中両国を結束させる方向に作用しているのが客観的事実・ファクトです。"Deal"したからといって物事が進むという保証はありませんが、成果が上がらないどころか逆効果さえ生んでいる方法論にしがみつくようでは、間違いなく話は進みません。たとえば拉致問題では、「日)人さらいの悪徳国家;北朝鮮よ、拉致被害者を返さない限り日本は対話には応じないぞ!」→「朝)じゃあ別にいいよ」で早15年。このこと一つとっても、「悪人とは口をきいてはならない」戦略の行く末は既に現実世界で観測できるはずです。

事実を突きつけられても依然として「悪との対決」の構図に立ち勧善懲悪にしがみつく言説が飛び出てくる点、この発想の根深さを改めて感じざるを得ません。

■国益の調整としてではなく勧善懲悪で動こうとする日本
続く岡崎研究所研究員の村野将氏の発言。「国際政治は“喧嘩両成敗“でお互い仲良くするということではなく、どちらに正義や正当性があるかを決する場でもある」。こりゃ凄いw

村野氏が言う「正義や正当性」を「国益」という単語で言いかえれば、依然として国際政治は国益同士が剥き出しでぶつかり合う場である点において、村野氏の主張は原則論的には正しいものです。しかし、いまや一国が他国に対して、自国の国益を一方的に押し付けられるような情勢にはありません。力関係の問題として見たとき、世界は確実に多極化しています。

トランプ大統領だけでなく、韓国を含めた陣営は北朝鮮に対して強く当たるべきところを自ら譲歩していった。これは昨年まで日本が考えていた戦略とは違う」だとか「こちらが正義だというのであれば、北朝鮮の方から妥協してくるまで圧力はかけ続けたままであるべきだ」などと恨みがましく言う村野氏ですが、もうそんな手法が通用しなくなっているのが、今日の国際情勢であるわけです。国益同士が剥き出しでぶつかり合う場であるからこそ、今や一方的に国益を押し付けようとするだけでは何も得られず、相手側にも一定の譲歩をしなければならなくなっているわけです。かつての現実はすでに非現実となり、村野氏が言う「昨年まで日本が考えていた戦略」は時代遅れとなっており、それに尚もしがみつくようでは観念論に転落することでしょう。

村野氏が、本来的には「国益」という単語を使うべきタイミングで「正義や正当性」という単語を敢えて使っている点を私は強く危惧します。村野氏は、パックンと同様、勧善懲悪的な枠組みで思考しています。妙なところで「善悪」を持ち込んでおり、それゆえに時代と情勢の変化を捉え損ね、ほぼ観念論化した古い主張に固執する結果になっているわけです。

アメリカでは、この度の「負け」を受けて因習的発想を克服すべきだという指摘が出始めています。日本において、こういった発想を反省する風潮はいったいいつ出てくるのでしょうか?
ラベル:国際「秩序」
posted by 管理者 at 18:01| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする

2018年06月16日

すげーアメポチっぷりw

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180616-00050046-yom-pol
北非核化で首相「日本が費用負担するのは当然」
6/16(土) 11:42配信
読売新聞


(中略)

 首相は「核の脅威がなくなることによって平和の恩恵を被る日本などが、費用を負担するのは当然」と語った。「拉致問題が解決されなければ経済援助は行わない」とも述べ、経済援助と非核化費用の負担は区別して考える意向も示した。その上で拉致問題の解決に向け、「最終的に私自身が北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と日朝首脳会談を行わないといけない」との決意を改めて表明した。

(以下略)
すげーアメポチっぷりw勧善懲悪が染み渡った日本の「標準的世論」に従えば、「北朝鮮側が勝手にやってきた核開発・核恫喝脅威を、その脅威の被害者側たる尻ぬぐいするなんてオカシイ! まして相手は悪党;キム王朝だぞ! 悪い奴の悪事をなぜ我々が!」といったところでしょうが、安倍首相の頭の中にはアメリカへの従属しなかいようです。
ラベル:政治
posted by 管理者 at 21:19| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする

2018年06月13日

朝米首脳会談を報じる朝鮮中央通信配信記事から読み取る「要点」

朝米首脳会談を報じる朝鮮中央通信配信記事。注目点はここだ! 以下、拙訳。
http://www.kcna.co.jp/calendar/2018/06/06-13/2018-0613-001.html
김정은위원장 싱가포르에서 조미수뇌상봉과 회담,공동성명 채택
キム・ジョンウン委員長、シンガポールで朝米首脳対面と会談、共同声明の採択

경애하는 최고령도자동지와 트럼프대통령사이의 단독회담이 진행되였다.
敬愛なる最高指導者同志とトランプ大統領との間の単独会談が行われた。

경애하는 최고령도자동지께서는 오늘 여기까지 와닿는 과정이 결코 헐치는 않았다고 하시면서 과거의 력사가 우리의 발목을 붙잡고 그릇된 편견과 관행들이 우리의 눈과 귀를 가리우기도 했지만 그 모든것을 과감하게 짓밟고 이렇게 이 자리에까지 왔으며 새로운 출발점에 서게 되였다는 뜻깊은 말씀을 하시였다.
敬愛なる最高指導者同志は、今日ここまで来る過程は決して容易でなかったと述べられ、過去の歴史がわれわれの足首をつかみ、誤った偏見と慣行がわれわれの目と耳を覆ったりしたが、それらすべてを果敢に踏みつけてこのようにこの席にまで来、新しい出発点に立つことになったという意味深い言葉を述べられた。

(中略)

회담에서는 새로운 조미관계수립과 조선반도에서의 항구적이며 공고한 평화체제구축에 관한 문제들에 대한 포괄적이며 심도있는 론의가 진행되였다.
会談では、新たな朝米関係樹立と朝鮮半島での恒久的で強固な平和体制構築に関する問題に対して包括的で詳細な論議が行われた。

경애하는 최고령도자동지께서는 트럼프대통령을 비롯한 미국측대표단과 이렇게 자리를 같이한것을 기쁘게 생각한다고 하시면서 적대적과거를 불문하고 대화와 협상을 통해 현실적인 방법으로 문제를 해결하려는 대통령의 의지와 열망을 높이 평가하시였다.
敬愛なる最高指導者同志は、トランプ大統領をはじめとするアメリカ側代表団とこのように席を共にしたことを喜ばしく思うと述べて、敵対的な過去を問わず、対話と交渉を通じて現実的な方法で問題を解決しようとする大統領の意志と熱望を高く評価なさった。

미합중국 트럼프대통령은 이번 수뇌회담이 조미관계개선에로 이어지리라는 확신을 표명하면서 경애하는 최고령도자동지께서 올해초부터 취하신 주동적이며 평화애호적인 조치에 의하여 불과 몇개월전까지만 하여도 군사적충돌의 위험이 극도에 달하였던 조선반도와 지역에 평화와 안정의 분위기가 도래하게 되였다고 평가하였다.
アメリカ合衆国トランプ大統領は、今回の首脳会談が朝米関係改善へと続いてられるであろうという確信を表明して、敬愛なる最高指導者同志が今年の初めから主導されてきた平和愛好的な措置によって、わずか数ヶ月前まで軍事的衝突の危険性が極度に達していた朝鮮半島と地域に平和と安定の雰囲気が到来するようになったと評価した。

경애하는 최고령도자동지께서는 두 나라사이에 존재하고있는 뿌리깊은 불신과 적대감으로부터 많은 문제가 산생되였다고 하시면서 조선반도의 평화와 안정을 이룩하고 비핵화를 실현하기 위하여서는 량국이 서로에 대한 리해심을 가지고 적대시하지 않는다는것을 약속하며 이를 담보하는 법적, 제도적조치를 취해나가야 한다고 말씀하시였다.
敬愛なる最高指導者同志は、両国の間に存在している根深い不信と敵意から多くの問題が生じたとして、朝鮮半島の平和と安定を期して非核化を実現するためには、両国がお互いを理解して敵視しないことを約束し、これを担保する法的、制度的措置を取っていくべきだとおっしゃった。

경애하는 최고령도자동지께서는 조미쌍방이 빠른 시일안에 이번 회담에서 토의된 문제들과 공동성명을 리행해나가기 위한 실천적조치들을 적극 취해나갈데 대하여 말씀하시였다.
敬愛なる最高指導者同志は、朝米双方が早期に今回の会談で討議された問題と共同声明を履行していくための実践的な措置を積極的に取っていくことについて語られた。

경애하는 최고령도자동지께서는 트럼프대통령이 제기한 미군유골발굴 및 송환문제를 즉석에서 수락하시고 이를 조속히 해결하기 위한 대책을 세울데 대하여 지시하시였다.
敬愛なる最高指導者同志は、トランプ大統領が提起したアメリカ軍の遺骨発掘と返還問題を即座に受け入れ、これを早急に解決するための対策を立てることについて指示なさった。

경애하는 최고령도자동지께서는 조선반도에서 항구적이며 공고한 평화체제를 수립하는것이 지역과 세계평화와 안전보장에 중대한 의의를 가진다고 하시면서 당면해서 상대방을 자극하고 적대시하는 군사행동들을 중지하는 용단부터 내려야 한다고 말씀하시였다.
敬愛なる最高指導者同志は、朝鮮半島で恒久的で強固な平和体制を樹立することが地域と世界の平和と安全保障に重大な意義を持つとして、当面、相手を刺激し敵視する軍事行動を中止する勇断を下すべきだとおっしゃった。

미합중국 대통령은 이에 리해를 표시하면서 조미사이에 선의의 대화가 진행되는 동안 조선측이 도발로 간주하는 미국−남조선합동군사연습을 중지하며 조선민주주의인민공화국에 대한 안전담보를 제공하고 대화와 협상을 통한 관계개선이 진척되는데 따라 대조선제재를 해제할수 있다는 의향을 표명하였다.
アメリカ合衆国大統領は、これに理解を示して、朝米間の善意の対話が行われている間、朝鮮側が挑発であると考えているアメリカ - 南朝鮮合同軍事演習を中止し、朝鮮民主主義人民共和国の安全の担保を提供し、対話と交渉を通じた関係改善の進捗にともなって対朝鮮制裁を解除できるという意向を表明した。

경애하는 최고령도자동지께서는 미국측이 조미관계개선을 위한 진정한 신뢰구축조치를 취해나간다면 우리도 그에 상응하게 계속 다음단계의 추가적인 선의의 조치들을 취해나갈수 있다는 립장을 밝히시였다.
敬愛なる最高指導者同志は、アメリカ側が朝米関係の改善のための真の信頼構築措置を取っていけば、私たちもそれに相応して次なるステップの追加的な善意の措置を取っていくことができるという立場を明らかにされた。

조미수뇌분들께서는 조선반도의 평화와 안정, 조선반도의 비핵화를 이룩해나가는 과정에서 단계별, 동시행동원칙을 준수하는것이 중요하다는데 대하여 인식을 같이하시였다.
朝米首脳は、朝鮮半島の平和と安定、朝鮮半島の非核化を達成してゆく過程で、段階別の同時行動原則を遵守することが重要であるという認識を共にした。

(以下略)
なによりも、誤った偏見と慣行がわれわれの目と耳を覆ったりした」と大胆にもおっしゃったことが国内向けに広報されたことは特筆的事象です。反米歌"죽음을 미제침략자들에게"は当面、封印の作になることでしょう・・・

とはいえ、米「韓」合同軍事演習が「無条件の中止」ではなく「朝米間の善意の対話が行われている間」という限定付きである点を共和国側は十分に理解して、それを自国民にも伝えています。依然として油断していない点は、さすが共和国です。

また、「アメリカ側が朝米関係の改善のための真の信頼構築措置」を取る限りにおいて、自分たちも追加的な措置を取ると宣言しています。ボールはアメリカ側にあるということです。確かに共和国側は核実験場やミサイル発射台の破棄を矢継ぎ早に展開していますからね。

そして、朝米首脳は、朝鮮半島の平和と安定、朝鮮半島の非核化を達成してゆく過程で、段階別の同時行動原則を遵守することが重要であるという認識を共にしたというくだり。トランプ大統領は今日になって若干の「後出しの軌道修正」(ぶれている)を試みていますが・・・

これらが今回の朝米首脳会談に関する共和国側の理解の要点でしょう。
posted by 管理者 at 22:50| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする

2018年06月12日

수령님、장군님が果たせなかった偉業を、遺訓を果たされた원수님 수령님、장군님が生涯をかけて注力されてきた偉大な遺産の賜物

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180612-00000065-reut-cn
情報BOX:米朝首脳会談、共同声明の全文
6/12(火) 17:32配信
ロイター


(中略)

トランプ大統領と金委員長は、新たな米朝関係の確立と朝鮮半島における恒久的かつ揺るぎない平和体制の構築に関する問題について、包括的かつ真摯な意見交換を徹底的に行った。トランプ大統領は北朝鮮に安全保障を約束し、金委員長は朝鮮半島の完全な非核化への揺るぎない、固い決意を再確認した。

新たな米朝関係が朝鮮半島と世界の平和と繁栄に貢献することを確信し、互いの信頼構築により朝鮮半島の非核化を促進できると認識し、トランプ大統領と金委員長は以下の通り宣言する。

1.米国と北朝鮮は、平和と繁栄を求める両国国民の願いに従って、新たな米朝関係の確立に取り組む。

2.米国と北朝鮮は、朝鮮半島の持続的で安定した平和体制の構築に共に取り組む。

3.2018年4月27日の板門店宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む。

4.米国と北朝鮮は、戦争捕虜/行方不明兵の遺体回収に取り組む。その中には、すでに特定されている遺体の即時帰還も含まれる。


(以下略)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180612-00000068-reut-kr
「高額」で「挑発的な」米韓軍事演習を中止へ=トランプ大統領
6/12(火) 18:25配信
ロイター

[シンガポール 12日 ロイター] - トランプ米大統領は12日、北朝鮮の非核化を巡る交渉を促進するため、「非常に挑発的」で多額の費用がかかる米韓軍事演習を中止する意向を示した。


(中略)

大統領は「軍事演習は非常に高額だ。その大半(の費用)をわれわれが負担している」と指摘した上で、「交渉中という状況の下で、軍事演習を行うのは不適切だと思う」と語った
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180612-00000100-yonh-kr
朝米 完全非核化など4項目で合意=共同文書にCVID明記なし
6/12(火) 17:07配信
聯合ニュース

【シンガポール聯合ニュース】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党委員長)とトランプ米大統領は12日にシンガポールで行った朝米(米朝)首脳会談で、完全な非核化、平和体制保証、朝米関係正常化の推進、朝鮮戦争戦死者の遺骨送還の4項目に合意し、こうした内容を盛り込んだ文書に署名した。

(中略)

第3項は「2018年4月27日の(南北首脳会談の)板門店宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けた作業を行うことを約束する」とした。米国がこれまで要求してきた「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」(CVID)という表現は明記されなかった。

(以下略)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180612-00050125-yom-int
対北制裁「当面続ける」…トランプ大統領が会見
6/12(火) 17:52配信
読売新聞


(中略)

この中でトランプ氏は、正恩氏が帰国後すぐに非核化の「プロセスに着手するだろう」と述べる一方で、「当面制裁は続ける」との方針も示した。北朝鮮の非核化に向けた動きを見極めていく姿勢を強調したものだ。

 また、北朝鮮が求める「安全保証」に関連して、「(在韓)米軍の数を減らすことは考えていない」と述べ、韓国に駐留する米軍のプレゼンスを当面は維持する考えを示した。
歴史的な朝米首脳会談の結果が速報的に飛び込んできています。

ザッと記事を読む限り、キム・ジョンウン委員長は初回会談としては十分に合格点を勝ち取ったと言えると思います(トランプ大統領の事情は知らん。どうでもいい)。共同文書へのCVIDの明記を回避して「朝鮮半島の完全な非核化」という表現を勝ち取りました。アメリカ側から安全保障の言質を取り付けました。米「韓」軍事演習中止という台詞を引き出しました。

「朝鮮半島の完全な非核化」と「北朝鮮の完全な非核化」は決定的に異なります。「北朝鮮の非核化」は、文字通り共和国が一方的に核を放棄することですが、「朝鮮半島の完全な非核化」は、南側を含めた半島全体の非核化であり、これはすなわち、アメリカによる対共和国核恫喝の終結を意味するものです。トランプ大統領はもしかすると気が付いていないかもしれません(さすがにそんなことはないか)が、共和国側はこのことを十分に承知しています。これは、共和国にとっては、どうしても欲しかったものです。

制裁が「当面続く」という点については、今回では状況の抜本的打開には至らなかったものの、初回会談でそこまで勝ち取ることが出来るとは最初から想定していなかったはず。その点、共和国側にしてみれば、今回の目標は達成できたというところでしょう。

個人的感想。共和国最高指導者同志とアメリカ大統領の握手写真、記念撮影を見てジーンと来ました。수령님、장군님が果たせなかった偉業を、遺訓を果たされた원수님・・・! もちろん、今日の원수님の遺訓達成は、수령님、장군님が生涯をかけて注力されてきた偉大な遺産の賜物です!
posted by 管理者 at 20:29| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする

2018年06月11日

際どいなぁ・・・

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180610-00050048-yom-soci
のぞみ殺傷、容疑者の父「今は家族ではない」
6/10(日) 12:01配信
読売新聞

 神奈川県を走行中の東海道新幹線で9日夜、乗客3人がナタで切られ殺傷された事件で、殺人未遂容疑で逮捕された小島一朗容疑者(22)は日頃から親類に「俺なんて価値のない人間だ。自殺したい」と話していたという。

 親類らによると、小島容疑者は愛知県一宮市出身。中学生の時に不登校になり自立支援施設に入所し、地元の定時制高校を卒業した。埼玉県内の機械修理会社に就職したが、人付き合いがうまくいかず約1年で退職。父親とは中学時代から折り合いが悪く、愛知県岡崎市の祖母に引き取られ、昨年9月、祖母と養子縁組した。


(以下略)
コメ欄に、あの、みわよしこ氏がコメントを寄せています。
みわよしこ
フリーランスライター(科学・技術・社会保障・福祉・高等教育)

理不尽にも生命を奪われた方・負傷した方、日常を断ち切られた多数の方がいます。
このような事件は、起こらないことを心から望みます。
その上で、敢えてコメントします。

自閉症・精神科入院・社会的養護などの容疑者の経歴が、既に報道されています。その経歴の方々が社会的に不利な立場に置かれやすい事実、犯罪率が一般と異なる事実はあります。本件でも無関係ではないでしょう。しかし、経歴や属性と犯罪の間に「AだからB」という直接の因果関係はありません。


(以下略)
おっしゃっていることは、まったくの正論なんですが、際どいなぁ・・・

そういうのも、旧ブログ時代から刑事事件・刑事裁判(特に心神耗弱事案)について継続的に世論分析してきた身から申せば、「精神疾患・成育環境・社会情勢のせいにするな!」「悲惨な境遇であっても、社会的に逸脱することなくしっかりと生きている人はいる! にも関わらず犯罪に走ったのは、お前の人格が問題だからだ! 病気のせい、環境のせい、他人のせい、社会のせいにするな!」という、社会構造・客観環境原因論に対する「一種の自己責任論」が、世論のマジョリティだからです。みわ氏が言う「経歴や属性と犯罪の間に「AだからB」という直接の因果関係はありません」というのは、まさにこの手の「自己責任論者」の論拠の核心なのです。

もともとコミュニケーションというものは、「受けて次第」なものですが、この手の微妙な話題においてはとりわけ、「自分が何を伝えたいか」以上に「受け手がどう認識するか」が重要です。

みわ氏は、そこまで考慮に入れたうえでコメントしているのでしょうか? たぶんそこまでは考えていないんだろうなあ・・・付け入られて、まったく違う言説の論拠に仕立て上げられかねない危険な物言いです。
posted by 管理者 at 20:42| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする

2018年06月10日

朝米関係の行方を占うならば、朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国そのものを正面から取り扱うべき

朝米首脳会談が「やっぱり開催」になって以来、ようやく日本の言論空間でも「トランプ米大統領が会談を必要とする理由」についても目が向くようになりました。「強力な制裁に音を上げた北朝鮮が対話を求めて白旗を振ってきた」というストーリーが幅を利かせており、それゆえ、アメリカ側の事情への注目が低調だった日本の言論空間でしたが、この1週間は、これが「二か国間の交渉」であるということ、朝米双方がそれぞれ対話を必要とする事情があるということが遅れ馳せながら広がったのです。

■アメリカ側の事情への注目が広まり始めた
この急な風向きの変化は、トランプ大統領の朝令暮改的な急転回ゆえのものでしょう。会談中止を述べたかと思えば、舌の根も乾かぬうちに「やっぱり開催」と宣言したトランプ大統領の振る舞いを見れば、だれしも「中止上等というわけではないんだ。実は何だかんだでアメリカも会談を必要としているの?」と思うところでしょう。

いくつか記事を取り上げておきましょう。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180604-00010000-socra-int
【舛添要一の僭越ですが】 追い詰められているのはトランプかも
6/4(月) 11:50配信
ニュースソクラ


(中略)

 しかしながら、外交交渉という点から考察すると、独裁制に対する民主制の弱点が目立ってしまう。とくに、世界が今注目している米朝首脳会談がそうである。

(中略)

 アメリカ大統領の任期は4年であるが、任期の途中に中間選挙が行われる。様々な政策を提示したり、パフォーマンスを繰り返したりするトランプの最大の目的は、大統領選挙での再選、そのための助走として中間選挙での勝利である。

 これに対して独裁者の金正恩は、選挙などないので、好きなように戦略を構築できる。彼の最大の目的は独裁の維持であり、そのためにアメリカの、できれば全世界からの体制保証を獲得することである。そして、核兵器とミサイルが、その目的達成のための最高の道具であることを熟知している。それは、祖父の金日成、父の金正日の時代から変わらない。

 強大な軍事力を背景に経済制裁を課してくるアメリカは脅威ではあるが、このような独裁者から見ると、民主制には大きな弱点がある。2年半すれば選挙でトランプが政権の座から降りる可能性がある。そうなれば、トランプ自らが行ったように、次期大統領もトランプの政策を捨て去るかもしれない。

 金正恩は、あと2年余り我慢すれば、非核化など反古にできる可能性が開かれてくる。要は、いかに時間稼ぎをするかである。6月12日に予定されている米朝首脳会談の準備のために、板門店、シンガポール、ニューヨークで実務者協議が行われているが、非核化をめぐって合意できなければ、会談は開かれないか、延期となる。実際、非核化をめぐって両者の溝は深く、容易には話はまとまらないであろう。

 さらに、首脳会談が開かれても、その場で詳細を事務レベルに任せるという形で合意すれば、これまた金正恩にとって時間稼ぎにつながる。功を焦っているのはトランプであって、金正恩ではない。制裁も、中国などが緩和し始めており、米朝首脳会談開催のアナウンス効果はすでに出てきている。

 しかも、技術的に見て、あと2年余りで北朝鮮の核兵器やICBMを完全に破棄することができるのか、またそれをIAEAが査察することができるのか、簡単な作業ではあるまい。アメリカの要求水準が高ければ高いほど、時間稼ぎが可能となる。

 たとえば、核兵器のみならず、生物兵器、化学兵器も廃棄の対象となれば、廃棄する順番は核兵器を最後にする。さらに全ミサイルの廃棄を要求されれば、短・中距離ミサイルから先にしてICBMを最後にするといった交渉すら可能である。

 金正恩にすれば、様々な理由をつけて、段階を踏みながら非核化をし、段階毎に経済的な見返りを要求するというシナリオが最適である。そして、アメリカ大統領が交代すれば、トランプとの約束を守らないという方針転換もありうるのである。

 ところが、民主主義国アメリカでは、中間選挙や大統領選挙の日程を変更できるわけではない。時間に迫られているのはトランプのほうであり、しかも軍事的オプションは日本や韓国などの同盟国の被害を考えれば現実的ではない。

 米朝交渉で追い詰められているのはトランプなのか金正恩なのか、実は定かではないのである。

(敬称略)

舛添 要一 (国際政治学者)
最終更新:6/4(月) 11:50

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180606-00010000-wedge-n_ame
トランプが米朝首脳会談を急いだ本当の理由
6/6(水) 12:13配信
Wedge

 トランプ大統領が当初から、早期開催にいかにこだわっていたかを示すエピソードがいくつもある。

 まず最初は、金正恩朝鮮労働党委員長から出された首脳会談開催提案に対するトランプ大統領の「受諾」即断の経緯だ。


(中略)

 第2は、5月24日「会談中止」にいったん踏み切った際と、その後の政権内の混乱がある。

 複数の米有力紙報道によると、大統領が突然「中止」を表明した背景には、直前に北朝鮮側から南北閣僚級会談の中止、ペンス副大統領やボルトン大統領補佐官に対する激しい批判など首脳会談に冷水を浴びせるような一連の動きがあったことから、金委員長の方から「首脳会談中止」を言い出しかねないと判断し、その前に体面を保つために自ら先に「中止」を急遽表明、北朝鮮をけん制するねらいがあったという。

 実際、大統領が「中止」を表明した際、ポンペオ国務長官、マティス国防長官らには何の相談もなかったばかりか、最初に米朝首脳会談の橋渡しをした文在寅韓国大統領に対しても事前連絡を怠るというあわてぶりだった。

 さらにその後、双方でいったん中止になった会談を復活させるための駆け引きがあり、板門店で首脳会談への具体的な準備会議が開かれた際にも、トランプ・ホワイトハウスは、米側には詰めの話を進めるための実務経験のあるベテランがいなかったため、オバマ前政権時代に北朝鮮担当の政府特別代表を務めていたソン・キム駐フィリピン大使を急遽派遣するというドタバタぶりだった。


(中略)

 では、トランプ大統領が開催を急ぐ理由は何か。

 まず、米政府および連邦議会の「政治日程」がある。

 とくに下院における来年度予算審議は遅々として進んでいないばかりか、「農業法案」、「連邦航空局(FAA)再編法案」、「全米水害保険法案」、「個人所得税減税法案」などの個別案件、さらには大統領が特に重視するインフラ大型投資計画などの重要法案が目白押しとなっている。ところが、7月末から8月いっぱいにかけては議会は夏季休暇に入り、休暇明けの9月にはいると議員たちが再びいっせいに自分の選挙区に戻ったりするため、実質審議めぐる与野党の攻防は、6月半ばから7月下旬がヤマ場となる。

 しかも、11月中間選挙の結果いかんによっては、これらの重要案件の成立のめどがまったく立たなくなり、ひいてはトランプ氏にとって2020年再選の見通しも一層厳しくなる。つまりいったん「6月12日」を中止または延期した場合、自らのノーベル平和賞受賞も念頭に置いた首脳会談も事実上、不可能となるという、いわば“背水の陣”だった。

 第2に、大詰めを迎えつつあるロシア疑惑捜査だ。

 ロバート・モラー特別検察官による事件究明は、これまでにトランプ氏の側近だったポール・マナフォート元トランプ選対本部長、マイケル・コーエン顧問弁護士ら有力者が強制家宅捜索を受け膨大な証拠物品を押収されているほか、マイケル・フリン元大統領補佐官(国家安全保障担当)、ジョージ・パパドポロス元選対本部顧問らが偽証容疑について自ら罪を認め捜査に協力姿勢を見せるなど、真相究明の外堀はかなり埋められつつある。


(中略)

 第3は、上記2点とも微妙にからみあう11月中間選挙が控えていることだ。

 選挙の見通しについては、過去のこの欄でもすでに触れてきたとおり(「トランプ弾劾と中間選挙の密接な関係」)、435人の議員全員が改選される下院では、これまでの選挙戦を通じ、野党民主党が有利な戦いを進めてきており、結果的に同党が多数を制する公算が大きくなっている。今回3分の1の議員が改選される上院では、民主党の改選議席数が圧倒的に多いことなどから同党は苦戦を強いられており、これまで同様、共和党が多数を維持するとみられている。


(中略)

 従ってこれらの事情から、トランプ大統領としては、世界の耳目を集める歴史的な米朝首脳会談をなんとしても早期に実現させ、そこから実のある成果を導き出すことで米マスコミの関心をそらし、少しでも夏休み入り前に中間選挙に向けて共和党支持層固めを急ぐ必要に迫られていたといえる。

(中略)

斎藤 彰 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)
最終更新:6/6(水) 12:13
朝米関係を巡ってはあまりにも関係するベクトルが多く、どれがどう作用して全体のベクトルが合成されているのか判然としない点、上掲引用記事の見解が絶対的に正しいとは断定できないものです。しかし、「アメリカ側も事情があって対話を必要としており、共和国が一方的に対話の席に押し込められたわけではない」という記事が出てくるようになってきたこと自体が重要です

■共和国が一方的に追い詰められているという構図でないと困る? 人々について
これに対して、依然として「北朝鮮は追い詰められている」系の記事も書き立てられています。この手の人々は、共和国が一方的に追い詰められているという構図でないと困るんでしょうか?
https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20180604-00086019/
トランプ氏は北に譲歩したのか?
遠藤誉 | 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士
6/4(月) 7:30

金正恩委員長の親書を受け取ったトランプ大統領は、北朝鮮が要求してきた段階的非核化を事実上認めた。これはアメリカの譲歩を意味するのだろうか。答えは「否」だ。むしろ北を追い詰めている。その理由を考察する。


(中略)

 それどころか、「これはトランプ流の嫌がらせでしょう。金正恩への圧迫戦術です。複数回の会談は金正恩が耐えられないし、段階的と言ったところで、その間に何も得られないのですから、金正恩はさらに追い込まれるだけだと思います」と指摘するのは、関西大学の李英和(リ・ヨンファ)教授だ。

 なぜ追い込まれるのか。理由は二つあるとのこと。

 一つ目:北朝鮮の経済の疲弊が進み、制裁解除と支援獲得が急がれるから。

 二つ目:軍部の不満。首脳会談を重ねても、もらえるのは朝鮮戦争の終戦協定に関するペーパーなどで、肝心の金銭は入って来ない。めぼしい大義と対価をなかなか得られないと、軍部が反発する。

 筆者との個人的な学術交流の中で、李教授はさまざまな鋭い見解と北朝鮮内の速報を知らせてくれる。軍のトップ層に関しては事実、核廃棄に向けた強硬派を排除して穏健派に入れ替えるという人事がここのところ行なわれており、軍部の不満を金正恩が恐れている状況が表面化しているという。

 そうだとすれば、金政権の体制を保証すると約束しているトランプ大統領としては、金体制の崩壊を招くであろうCVIDを避けて、そのために「段階的非核化」を受け入れたのではないだろうか。


(以下略)
遠藤誉氏――もともとは中国政治の専門家であるものの、最近は朝鮮半島情勢にも精力的にコメントを寄せている御方です。しかし、中国研究者にありがちな「中国の視点だけで物事を語ってしまう」典型例のような御方です。また、もともと専門ではないということもあってか、共和国側の事情に関する知識不足を、よりによってあのリ・ヨンファ(李英和)氏を相棒にすることで補強している点、わりとハチャメチャな記事を量産されている御方です。

遠藤氏ならびにリ氏は、「むしろ北を追い詰めている」と判断する根拠の一つとして「北朝鮮の経済の疲弊が進み、制裁解除と支援獲得が急がれるから」と指摘します。後見人としての存在感を日増しに大きくしている中国からの支援は? まさに遠藤氏自身が、4月12日と4月23日の2回にわたって、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」の正しさを自国民に誇示したい中国共産党政権にとって共和国の存在は重要であると指摘したはず。いったい、どうしちゃったんでしょうか?
https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20180412-00083869/
北朝鮮、中朝共同戦線で戦う――「紅い団結」が必要なのは誰か?
遠藤誉 | 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士
4/12(木) 7:09


(中略)

◆「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」との整合性
 昨年10月に開催された第19回党大会で「習近平思想」が党規約の冒頭に書き込まれることが決議された。具体的には「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」という名の「習近平思想」だ。この長いフレーズの最初の「習近平」と最後の「思想」が、表面的には重要だが、もっと深読みすれば、実は「社会主義思想」の部分がさらに重要だという要素が潜んでいる。

 すなわち、一党支配体制を維持させるために、「社会主義思想」の正当性を中国人民に強調して示していくという目的が秘められているのである。


(中略)

 この「紅さ」を強めるには、元共産主義国家の牙城であった旧ソ連が崩壊して新たに誕生したロシアと親密になり、北朝鮮という、未だに社会主義思想を堅持している国家を味方に付けておかなければならない。ロシアのプーチンは「紅い国家」の独裁的遺伝子をそこはかとなくまとっており、長期政権を狙っている。その意味で中国もロシアも北朝鮮も、「紅い」あるいは「紅みがかった」独裁的な長期政権の国家だ。

 「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」を党規約に盛り込んだ習近平には今、この「紅い団結」が何としても必要なのである。だから、これまで中国を「1000年の宿敵」などと罵倒する無礼の極みを続けてきた「若造」(金正恩)に百歩譲歩した。


(以下略)
https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20180423-00084340/
中国、北朝鮮を「中国式改革開放」へ誘導――「核凍結」の裏で
遠藤誉 | 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士
4/23(月) 12:32

 北朝鮮が核凍結などを宣言したことに関し、中国は自国が説得し続けてきた対話路線と改革開放路線の結実と礼賛している。改革開放へと誘導してきた中国の歩みから、今後の中朝関係と北朝鮮のゆくえを考察する。

(中略)

◆それに対して中国は
 中国では、中国共産党の機関紙「人民日報」をはじめ中央テレビ局CCTVなど多くの党および政府のメディアが一斉に金正恩の決断を礼賛し、さまざまな特集を組んでいる。

 中国は早くから一貫して対話路線と改革開放路線を北朝鮮に要求してきただけに、ようやく中国の主張が実り始めたと、自画自賛しながら金正恩の決断を讃えている。

(中略)

◆「中国式の改革開放」に焦点
 ここで重要なのは、中国は金正恩が総会で「強力な社会主義経済を建設して、人民の生活レベルを画期的に向上させる闘いに全力を注ぐ。経済発展のために有利となる国際環境を創り出し、朝鮮半島と世界の平和のために、(北)朝鮮は周辺の国家および国際社会と積極的に緊密な連携と対話を展開していく」と言ったことに焦点を当てていることだ。

(中略)

 金正恩政権は2013年から経済建設と核戦力建設の並進路線を唱えてきたが、今や核戦力の建設は終えたと勝利宣言している。ようやく経済建設に全力を注ぐ状況になったにちがいない。今後の北朝鮮はまさに「中国式の改革開放」満開といったところだろう。

◆一党支配体制維持のために「紅い団結」を強化
 「中国式の改革開放」とは何かというと、一党支配体制を維持したままの改革開放で、これを「特色ある社会主義思想」と称する。

 習近平は昨年10月に開催された第19回党大会で、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」を党規約に記入した。4月12日付のコラム<北朝鮮、中朝共同戦線で戦う――「紅い団結」が必要なのは誰か?>に書いたように、中朝両国は今後、この「紅い団結」を強化していくというのが、基本路線である。習近平にとっては、この党規約に書き込んだ「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」が如何に正しく強大であるかを中国人民に知らしめたい。

 折しも関西大学の李英和(リ・ヨンファ)教授から知らせがあった。

 4月23日の北朝鮮の労働新聞は「経済建設総力戦」の一色だったという。

 中朝双方からの情報が一致するので、北朝鮮はきっと「紅い団結」に基づいた「中国式の改革開放路線」を全開にしていくことだろう。 今般の金正恩の動きの背後には習近平がいたことが、このことからも窺い知ることが出来る。

 なお、中国政府関係者は今もなお、北朝鮮の核放棄に関して、必ずしも完全に信頼しているわけではないと、筆者に吐露した。
もし、中国共産党政権が「紅い団結」を必要としているのであれば、既に習主席は段階的非核化に賛同している点、「対米長期外交戦」になった場合の共和国に対する援助体制は整っていると見るべきでしょう。そうであるならば、「むしろ北を追い詰めている」とは言い難いのではないでしょうか。中国政治の専門家である遠藤氏とは思えない重大な見落とし・信じられない結論と言わざるを得ません。

■朝鮮半島情勢研究者にありがちな誤謬@――中国視点への中途半端な偏り
先に私は遠藤氏について「中国研究者にありがちな「中国の視点だけで物事を語ってしまう」典型例のような御方」と述べましたが、まさに上掲の2つの引用記事はそれが如実にあらわれています。このことは遠藤氏個人に限らず、朝鮮半島情勢分析で割と広くみられる現象なので、この機会に遠藤氏をサンプルとして言及しておきたいと思います。

中国共産党政権が共和国政府に対して「改革開放」を再三にわたって要求してきたことは事実です。そしてまた、中国共産党政権が「紅い団結」(あまり聞き覚えのない単語ですが・・・)を必要としているのも事実でしょう。しかし、だからといって共和国政府が「紅い団結」云々に付き合わなければならない理由など、どこにもありません。中国共産党政権が自国事情を基に「紅い団結」を必要とし、共和国政府もまた自国事情によってそれに乗っかったというのが真相であり、単に国家間の利害が一致したに過ぎないのです。

当ブログでも以前から指摘してきたように、共和国政府は以前から、慎重に市場経済との折り合いのつけ方を模索してきました。「キム・ジョンウン体制2年目」のチュチェ102(2013)年10月に発売された『週刊東洋経済』(10月12日号)の特集「金正恩の経済学」では、共和国が改革路線への舵切りを必要とする事情について、朝鮮社会科学院研究者へのインタビューという形で掲載されています。共和国政府は、自国の必要があって改革路線に踏み出したのであり、中国共産党政権の要求を呑んで改革路線に舵を切ったわけではないのです

遠藤氏の言説は、あまりにも中国中心主義的視点に偏っています。まるで中国共産党の取り組みを中心に世界が回っているとでも言いかねない認識です。

遠藤氏は「一党支配体制を維持したままの改革開放」を「中国式の改革開放」と定義します。こんな定義では、下手するとシンガポールも「中国式の改革開放」に該当しかねないところです。コリア・レポート編集長のピョン・ジンイル(辺真一)氏は「シンガポールは北朝鮮の「モデル国」」という記事の中で「北朝鮮は先代の金正日総書記の時代からシンガポールに多大な関心を寄せていた。シンガポールが建国の父・リー・クアンユー首相当時、一党独裁体制下で目覚ましい経済成長を遂げていたからだ。」と指摘しています。キム・ジョンイル総書記の遺訓教示をキム・ジョンウン委員長が守っているとすれば、共和国政府は、「紅い団結」なるものに従って改革路線を歩んでいるのではなく、シンガポールをモデルとして独自の改革路線を歩んでいるというべきでしょう。キム・ジョンイル総書記の遺訓教示という究極的な原典ソースが厳然と残っている点において、遠藤氏の見立てよりもピョン氏の見立ての方が真実に近いのではないでしょうか

遠藤氏は、朝鮮半島情勢・共和国情勢を論じているにも関わらず、肝心の「朝鮮」そのものを分析できていないと言わざるを得ません。いや、肝心の「朝鮮」そのものを分析できていないばかりか、中国でさえ分析しきれていないのが遠藤氏の今回の言説。前述のとおり、中国共産党政権が「紅い団結」を必要としているのであれば、「対米長期外交戦」になった場合の共和国に対する援助体制は整っていると見るべきであり、「むしろ北を追い詰めている」とは言い難いと思われます。遠藤氏は、中国視点に中途半端に偏っていると言わざるを得ません。ここまで支離滅裂なことを平気で口走る点、遠藤氏においては、共和国が一方的に追い詰められているという構図でないと精神の安定が保てないのだろうかとさえ勘ぐってしまうものです。あまりにも中途半端です。

■朝鮮半島情勢研究者にありがちな誤謬A――原典を十分に確認しない
遠藤氏は、もともと中国政治の専門家であり朝鮮半島情勢の専門家ではないことは御本人も自覚しておられるからか、「ブレーン」の意見を取り入れています。が、よりによって頼っているのがリ・ヨンファ氏。おいおい。

リ氏ソースにもとづいて遠藤氏は、軽率にも「4月23日の北朝鮮の労働新聞は「経済建設総力戦」の一色だったという。 中朝双方からの情報が一致するので、北朝鮮はきっと「紅い団結」に基づいた「中国式の改革開放路線」を全開にしていくことだろう。」と断じてしまっていますが、5月13日づけ「朝鮮労働党全員会議で提起された経済建設路線を読む」でも述べたとおり、朝鮮中央通信配信記事を読む限り、中央委員会全員会議では依然として、昔ながらの「自力更生・自給自足」という単語がキーワードとして登場している点において、とてもではないが現時点では「「中国式の改革開放路線」を全開」とは断じ得ないところです。

このことは、韓「国」紙『ハンギョレ』も、4月23日づけ記事で、まさに”겨레”(同胞)であるからこそ原典を十分に確認した上で「「金委員長が中国の改革開放を率いたトウ小平の道を歩こうとしている」という評価もあるが、まだ断定する状況ではない。金委員長は「新しい革命的路線の基本原則は自力更生」と強調することにより、少なくとも形式論理上では全面的改革開放と距離を置いた。」と論評している通りです。

おそらく、リ氏は遠藤氏に記事内容の詳細までは教えてやらなかったのでしょう。そして遠藤氏は、原典ソースに当たること能わず、思い込みで「北朝鮮はきっと「紅い団結」に基づいた「中国式の改革開放路線」を全開にしていくことだろう。」などと結論付けてしまったというのが、ことの顛末なのでしょう。原典ソースをしっかりと読み込まないと如何なるのかという失敗例を、遠藤氏の「分析」は実証しているわけです。

ちなみに、遠藤氏はリ氏について「李教授は2016年の時点で金正恩が「いずれ核を放棄し、対話路線に転換してくる」と予測しており、朝鮮半島問題に関しては群を抜いた第一級の研究者だ」などとヨイショし、その威光を借りる形で自らの記事について「その彼が5月29日付のコラム「トランプみごと!――金正恩がんじがらめ、習近平タジタジ」を「まさに、その通りだ!金正恩はやがてアメリカにシフトしていく」と評価してくれたので、この線は不変のまま続いていくものと判断している」と鼻を高くしていますが、朝鮮中央通信配信記事を毎日とは言わないまでも時折ザッと目を通しておくだけでも、この程度のことは当然に予想できることですよ。

チュチェ105(2016)年といえば「新年の辞」では「水爆実験」と並んで「内閣を中心とする経済(建設のための)作戦」=改革路線が打ち出されていましたし、第7回党大会を控えた70日戦闘における「集団主義的競争」や、党大会で提唱された「並進路線」が明々白々に示している通り、この年の共和国の最大のテーマは「経済建設」でした。2500万人あまりの人口である共和国にあって急速な経済建設を志そうとすれば、貿易は重要な手段です。「経済建設」が主要な政策課題であると当人たちが言明しているのだから、ゆくゆくは貿易のための対話路線に移るであろうというのは、朝鮮中央通信配信の記事を読むことが出来る人物であれば、誰もが到達する結論です。

■朝鮮半島情勢研究者にありがちな誤謬B――肝心の「朝鮮」を中心に据えずに中国やアメリカ、ロシアの動向ばかりに注目する
もっとも、そもそも遠藤氏には共和国側の視点を考慮に入れるという気がないのかもしれません。前掲引用の4月12日づけ記事の以下のくだりは、そのことを強く示唆するものです。
 「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」を党規約に盛り込んだ習近平には今、この「紅い団結」が何としても必要なのである。だから、これまで中国を「1000年の宿敵」などと罵倒する無礼の極みを続けてきた「若造」(金正恩)に百歩譲歩した。

◆習近平の手の上ではしゃぐ金正恩
 北朝鮮と中国の首脳が会談を行なわなくなったのは、中国が北朝鮮にとっての最大の敵国であるアメリカと新型大国関係などを築こうとしていたからだ。しかし北朝鮮も、そのアメリカと首脳会談を行なう方向に動こうとしているのだから、中国としては北朝鮮を手なずけやすくなってきた。

 「社会主義思想」の政党間の絆を堅固にさせていくことによって、習近平思想を強化し、中国共産党による一党支配体制を、より盤石にしたい。

 それが、習近平が最も高いレベルに位置付けている目標であり、戦略なのである。

 その目的を果たすために、金正恩に「中朝共同戦線」を張らせた。

 習近平にとって金正恩は、一党支配体制を維持するためのコマの一つなのだ。金正恩ははしゃいでいるが、習近平の手の上で踊っているに過ぎないのではないだろうか。
たしかに、中国共産党の視点、習近平主席の視点から見れば、こういう分析は成り立つのかもしれません。しかし、共和国側の立場に立っても同様のことが言えるでしょう。

習主席が「無礼の極みを続けてきた「若造」」というのであれば、キム・ジョンウン委員長にしてみれば、習主席をはじめとする歴代の中国主席たちは、「独立国家たる我が国に対して、何の権利があるのかは知らんが偉そうに指導してくる奴」といったところでしょうし、キム・ジョンナムやチャン・ソンテクの事実上の後見役であった点に至っては、「潜在的には政権を脅かす存在」であったわけです。共和国にとって中国共産党政権の所業は、「無礼」どころの話ではなかったにも関わらず、いまキム・ジョンウン委員長は、習主席をヨイショしまくっているわけです。

習近平にとって金正恩は、一党支配体制を維持するためのコマの一つなのだ」などと遠藤氏は書きますが、「それは、お互いさま」利用しあっているというのが実態なのです。

朝中関係は昔からドライな独立国家同士の関係です。수령님が延安派を粛清したころからそうでした。冷戦期の朝中ソの三角関係もそう。「社会主義兄弟国」の関係は、表向きとは異なり、かなりドライな関係なのです。

そもそも、「相手国は自国利益のコマである」というのが外交というもの。その原理原則に従えば、「習近平にとって金正恩は、(中国共産党の)一党支配体制を維持するためのコマの一つなのだ」が成り立つというのであれば、反対も成立するはず。「金正恩にとって習近平は、朝鮮労働党の一党支配体制を維持するためのコマの一つ」であるともいえるはず。にもかかわらず、「習近平の手の上で踊っているに過ぎない」などと、まるでキム・ジョンウン委員長が一方的に踊らされている・泳がされているかの如く描写する遠藤氏の言説は、単に「中国視点に偏向している」というレベルではなく、二国間関係・国際関係を分析するにあたっての基本的なお約束事が根本的に欠落しているのではないかと疑わざるを得ないものです。

こうした「大国中心」の分析は、日米関係の枠内における日本の政策分析や、ソ連―東欧諸国関係の枠内での東欧諸国情勢の政策分析でも往々にして見られてきたものですが、とりわけ朝中関係では酷いものです。日本や東欧諸国の政策の行方を分析するにあたっては、米国の意向やソ連の意向を踏まえるのは必須的手続きであるとはいえ、それだけで日本や東欧諸国の政策を判断する人は、まずいません。米国の意向やソ連の意向があるとはいっても、各国にも言い分と事情があるのだから、そこにスポットライトを当てるのが当然のことです。

しかし、朝中関係ではなぜか中国政府の意向を決定的要素として共和国情勢を語る極めて不可思議な方法論が幅を利かせています。チュチェ106(2017)年5月8日づけ「朝中両国が「血の同盟」だったなどというのは、いまだかつて一度もない」で取り上げた中国人学者(沈志華・華東師範大学終身教授)に至っては、現代の朝中関係を「天朝」という概念で説明しようと試みる始末。千年来の冊封体制の基本構造がいまも続いているとでも言わんばかりの分析手法。異常と言うほかありませんが、これが中国研究者の脳髄に染み込んだ中華帝国主義的な発想なのでしょう

朝鮮半島情勢において中国の影響力は大であるとはいえ、それだけで説明できるものではありません。共和国の国家指導思想であるチュチェ思想の「チュチェ」は漢字で書くと「主体」ですが、これは、まさしく「反中国・反ソビエト・自主自立」という意味での「主体」です。共和国はチュチェを確立するために努力しており、ここ最近の朝米関係・朝中関係を見るに、一定の成果を挙げています

■総括――朝米関係の行方を占うならば、朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国そのものを正面から取り扱うべき
遠藤氏の言説は、昨今の共和国情勢をめぐる日本言論界隈を如実に示すサンプルであると言えます。その特徴は次の3点に集約できるでしょう。すなわち、@「共和国が一方的に追い詰められているという構図でないと困る」と言わんばかりの無理筋を書き立ていること。A朝鮮半島情勢を分析しているにもかかわらず、朝鮮語の原典ソースを確認しようとしないこと。B肝心の「朝鮮」を中心に据えずに中国やアメリカ、ロシアの動向ばかりに注目することです。

こうした方法論がいよいよ破綻の様相を顕著に呈しているのが、ここ最近の朝米関係・朝中関係であると言えます。共和国が弱小国でありながら「チュチェ」を提唱して自力更生・自主外交に注力してきた結果、中国を上手く利用して後見人に据えることに成功し、それを背景としていよいよ朝米首脳会談が目前に迫っているのです

いまだに中国の事情だけをもって朝鮮半島情勢を語ろうとする人々の誤謬と、どうしても「北朝鮮は追い詰められている」という構図にしがみつこうとする人々の哀れさが際立つ今日この頃。これを教訓に、朝鮮半島情勢や朝米関係を語るというのであれば、朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国そのものを正面から取り扱うようお勧めします
posted by 管理者 at 21:55| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする

2018年06月03日

朝米首脳会談中止騒動で共和国が得たもの

ここ1週間にわたって展開されてきた朝米首脳会談中止騒動は、「やっぱり開催」で一旦、落ち着くようです。この1週間の展開から共和国側が得たものについて簡単に触れておきたいと思います。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180602/k10011462231000.html
トランプ大統領 米朝首脳会談6月12日シンガポールで開催へ
6月2日 3時50分米朝首脳会談

アメリカのトランプ大統領は北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長との史上初となる米朝首脳会談を当初の予定どおり、今月12日にシンガポールで開催すると発表し、非核化の実現に向けて強い意欲を示しました。


(中略)

ただ、「会談で何かに署名するようなことはないだろう」とも述べて、12日の首脳会談で合意文書の署名には至らない可能性を示唆し、首脳会談は1回にとどまらず、複数回にわたることもあり得るという考えを示しました。

また、トランプ大統領は、キム副委員長とは制裁や朝鮮戦争の終結をめぐって意見を交わしたと明らかにし、首脳会談でも戦争終結が議題になる可能性があると指摘しました。

そして、「われわれは仲よくなりつつあるので、もう最大限の圧力ということばは使いたくない。対話が破綻するまで新たな制裁はかけない。北朝鮮が非核化に応じないかぎり、制裁は解除しないが、解除できる日が来ることを楽しみにしている」と述べました。

さらにトランプ大統領は、キム委員長が権力の座にとどまったままでも北朝鮮の変革は可能だとしたうえで、「日本や韓国、中国が助けてくれるだろう。アメリカは多くのカネは使わない」と述べ、将来的には北朝鮮の発展のために、日本や韓国などが支援することになるという考えを示しました。


(以下略)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180602-00000067-mai-int
<トランプ氏>段階的非核化を容認 米朝12日に会談
6/2(土) 23:43配信
毎日新聞

 【ワシントン高本耕太】トランプ米大統領は1日、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との首脳会談を当初予定通り6月12日に開催すると表明した。トランプ氏は北朝鮮の非核化について「時間をかけても構わない。速くやることも、ゆっくりやることもできる」と北朝鮮側に伝えたとも述べた。首脳会談の実現を優先するために、非核化の「即時達成」を追求してきた方針を転換したともいえる。

 トランプ氏は1日、金委員長の最側近、金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長とホワイトハウスで面会し、金委員長からの親書を受け取った。会談後、記者団に対し、北朝鮮側の「非核化の意思」を繰り返し強調しつつ、「彼らは用心深く、急いでやろうとはしていない」と、「段階的な非核化」を主張してきた北朝鮮側の立場に理解を示した。また、「1回の会談ですべてが成し遂げられるとは思わない」とも発言し、複数回の首脳会談を含む折衝の積み重ねが必要になるとも語った。


(中略)

 また、トランプ氏は「彼らは(非核化の)道筋で、他の物事を求めている」と述べ、非核化の段階ごとに見返りを得たい北朝鮮の戦略に理解を示す姿勢も見せた。「関係改善が進むなかで今後、『最大限の圧力』という言葉は使いたくない」と述べ、対北朝鮮制裁を解除する日を「楽しみにしている」とまで語った。

(中略)

 一方、トランプ氏は金英哲氏との会談で「人権問題については話し合わなかった」と述べた。首脳会談では議題に取り上げる可能性も示したが、日本政府は米朝首脳会談で、北朝鮮による日本人拉致問題を取り上げるよう米側に求めており、7日に予定される日米首脳会談で、安倍晋三首相がトランプ氏に改めて要請するとみられる。

最終更新:6/2(土) 23:52
毎日新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20180602-00000019-ann-int
“歴史的会談ありき”で譲歩か 圧力巡る発言も軟化
6/2(土) 11:46配信
テレ朝 news


(中略)

 トランプ大統領は、自らが掲げてきた最大限の圧力政策という看板を下ろすような発言をしています。

 トランプ大統領:「圧力は継続するが、『最大の圧力』という言葉を金輪際、使いたくない。米朝関係は改善し始めているからだ」

 「今後も圧力は続ける」としていますが、これまで各国に求めてきた制裁のキャッチフレーズがなくなれば、世界的な制裁の網が緩む恐れもあります。早速、専門家からは「迅速な非核化を求める会談から、金正恩委員長と仲良くなるための会談になった」と批判的な声が相次いでいます。ただ、国務省で北朝鮮担当を務めたジョセフ・ユン氏は「歩み寄りも必要だ」と話していて、トランプ大統領が譲歩をした可能性も考えられます。
(以下略)
相手がトランプ大統領であるとはいえ、キム委員長が権力の座にとどまったままでも北朝鮮の変革は可能だ」や「時間をかけても構わない」、「圧力は継続するが、『最大の圧力』という言葉を金輪際、使いたくない」という言質を取ったことは重要です。

5月17日づけ「筋を通し公開的に言質を取った共和国」で私は、米韓合同軍事演習「マックス・サンダー」を巡る北南閣僚級会談中止と朝米首脳会談「再考」の宣言を通して、共和国が重要な言質を引き出すことに成功したと述べました。自ら会談中止を示唆することによって相手方を揺さぶり、譲歩を引き出したのです。

そして今回のアメリカ側からの会談中止という揺さぶり。アメリカ側も負けじと交渉の主導権を掌握しようとしたのでしょうが、共和国は、アメリカ側から仕掛けられた揺さぶりをも斬ってかえし、国益を確保しました。結果的に見て、共和国側がどうしてもアメリカ側の口から言わせたかったセリフを言わせることに成功したのでした。まだまだ駆け引きが続くはずであり、この程度の言質で勝利を宣言する段階にはありません。しかし、重要な成果を挙げたと言うことはできるでしょう。

体制保証については共和国にとっての最重要課題です。このことについてトランプ大統領から発言を引き出せたのは特に重要な成果です。それに関連したトランプ大統領発言を日経新聞の全訳から引用しておきます。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31303490S8A600C1NNE000/?df=2
 ――金委員長の体制保証をどう実現するのか。

 「保証できるようにしっかりと確認する。戦争が終結したらそれは完全な終わりだ。二度と始まらない」

さて、共和国が、アメリカ側から仕掛けられた揺さぶりをも斬ってかえし国益を確保したことについては、産経新聞でさえも認めざるを得ないようです。悔しくて仕方ないんでしょーねーw
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180603-00000003-san-kr
米朝会談再設定 “折れた”正恩氏 主張は曲げず
6/3(日) 7:55配信
産経新聞

 【ソウル=桜井紀雄】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、トランプ米大統領による米朝首脳会談の中止表明に対し、即座に側近を米国に送り込み、12日の会談開催にこぎ着けた。体制の命運がかかった会談実現のため、米国に“折れた”形だ。だが、日本人拉致問題など人権問題の議題化を拒む姿勢を維持しており、会談本番では、自らの主張を曲げない可能性が高い。


(中略)

 その結果、トランプ氏から北朝鮮の体制を「確実に保証する」との言質を取り付けた。ただ、米朝会談の成否を決める動きにもかかわらず、北朝鮮メディアは金英哲氏の米国派遣を伝えていない。中止表明に焦り、慌てて駆け付けた事実は、一種の“屈服”と映りかねないことを懸念したためとみられる。(以下略)
体制の命運がかかった会談実現のため、米国に“折れた”」が「トランプ氏から北朝鮮の体制を「確実に保証する」との言質を取り付けた」って文脈的におかしくないですか? トランプ大統領書簡を受けてキム・ジョンウン委員長が側近を急派して会談させたことは、その時点では「折れた」と言えたとしても、その結果として、重要な言質までをも取って帰ってきた(快挙!)のであれば、その会談は単に「折れた」だけのものとは言えないでしょう。

どうしても「北朝鮮が詫びを入れて会談を懇願した」という構図に近づけたくて、無理矢理な描写になっていると言わざるを得ません。産経が悔し紛れに無理筋を書き立てる点、この1週間の騒動を通じて共和国側が獲得した言質・成果は重要なものだったのでしょう。

(※6月4日に論旨を補強する方向で引用を増やし、それに伴い加筆しました)
posted by 管理者 at 13:53| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする