2回目の朝米首脳会談は、さしたる成果なく全日程を消化しました。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190228-00000089-yonh-kr北朝鮮が制裁解除求めたが応じられず 会談終えトランプ氏会見
2/28(木) 17:10配信
聯合ニュース
(中略)
トランプ大統領は「(北朝鮮は)相当多くの部分で非核化の意思があったが、完全に制裁を解除させる準備はできていなかった」として、「制裁の解除を望んだが、私たちが望んだものをくれなかった」と述べた。
また、「現在、制裁が維持されている」として、「金委員長、北朝鮮と引き続きよい友人関係を維持する」とした。
最終更新:2/28(木) 18:37
米韓合同軍事演習や経済制裁についても、相変わらず次のような返答に留まっています。
https://www.yomiuri.co.jp/world/20190301-OYT1T50110/米朝首脳会談 トランプ大統領の記者会見要旨
(中略)
――韓国との軍事演習の再開は。
トランプ氏 軍事演習はしばらく前にやめた。やる度に1億ドルの費用がかかるからだ。我々はグアムから巨大な爆撃機を飛ばしている。ある将官は「グアムから飛行させている。すぐ近くですよ」と言った。すぐ近くというのは7時間かかるところで、彼らは爆弾を落とし、戻っていく。
軍事演習に何億ドルも費やしており、私はそれを見るのが嫌だ。不公平だと思った。率直に言えば、韓国は費用の面で我々を助けるべきだというのが私の意見だ。我々は韓国を守っている。
(中略)
――北朝鮮への制裁強化は。
トランプ氏 それはコメントしたくない。言えるのは、我々はすでに大変強力な制裁を科しているということだ。制裁強化は話題にしたくない。北朝鮮には生活しなければいけない多くの人々がいる。私にとっても重要なことだ。私の考え方は、金委員長を知ったことで全く変わった。北朝鮮の人々にも彼らなりの考え方がある。
(以下略)
朝米双方、
前進もなければ後退もなしといったところでしょうか。
■共和国もまた「安易な譲歩を行わず、同時に建設的な議論を続けた」
早速、日本の安倍首相がアメリカを「全面支持」するコメントを発表しています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190228-00000611-san-pol安倍首相「安易な譲歩せず決断、全面支持」 トランプ氏と電話会談
2/28(木) 20:17配信
産経新聞
安倍晋三首相は28日夜、トランプ米大統領と電話会談し、ベトナムで同日開かれた米朝首脳会談について意見交換した。安倍首相は会談後、記者団に「安易な譲歩を行わず、同時に建設的な議論を続け、北朝鮮の具体的な行動を促していくトランプ氏の決断を全面的に支持する」と記者団に語った。
(以下略)
日本は「アメリカ側」の国なので、その立場からこういう発言が出てくるのは理解できるところですが、
「安易な譲歩を行わず、同時に建設的な議論を続け」たという点においては、共和国もまた同じであるといえます。いやむしろ、「国境の壁」で大忙しで、さらに「ロシア疑惑」が大炎上の様相を呈しているトランプ米政権にとっては、朝鮮半島情勢は政治課題としての優先度は高いとは言い得ない一方で、
共和国は最近では以下のような発表を自ら行っている点、アメリカと比して朝米交渉の重要性・優先度は高いというべきでしょう。しかしそれでも、共和国は「安易な譲歩を行わず、同時に建設的な議論を続けた」わけです。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190222-00000080-reut-kr北朝鮮が国際社会に食料危機を警告、配給はほぼ半減=メモ
2/22(金) 18:22配信
ロイター
[国連 21日 ロイター] - 北朝鮮は、今年食料が140万トン不足し、配給をほぼ半減せざるを得ない状況と警告した。ロイターが21日に閲覧したメモで明らかになったもので、高温、干ばつ、洪水、国連による制裁を理由に挙げている。
メモは2ページにわたっており、日付は記載されていない。北朝鮮国連代表部が公表した。
メモは「北朝鮮政府は各国際機関に対し、食料の現状に緊急に対処するよう求める」としている。北朝鮮国連代表部は、このメモは昨年11月26日から12月7日に行った世界食糧計画(WFP)との合同調査の続報としている。WFPはコメントを控えた。
メモによると、昨年の食料生産量は495万1000トンで、17年を50万3000トン下回ったとしている。国連はこの数字が1月末に提供された公式政府統計であることを確認。(以下略)
食糧生産には不利な地理条件である朝鮮半島北部においては、いままさに
キム・ジョンウン委員長肝いりの国土管理事業・山林復旧戦闘の真っ最中。「
高温、干ばつ、洪水」が猛威を振るっているということは容易に推察できるところですが、それにとどまらず、
自ら「国連による制裁」を理由として挙げているのは注目点です。
共和国は、彼ら自身が誇りをもって公言してきたように、アメリカを中心とする帝国主義勢力の悪辣な封鎖策動・「制裁」策動によって苦難に直面しながらも、万難を排して国の自主性を守るために国家核武力の整備に邁進してきました。共和国においては、国の自主性を守るという大義名分のもと、「今日のための今日に生きるのではなく、明日のための今日に生きよう!」や「行く手は険しくとも笑って行こう!」といった各種のスローガンが展開されてき、人々は貧しさに耐える生活を送ってきました。国家核武力の整備は、共和国のような小国にとっては過大・過酷な負担でした。客観的に見てもそうだし、彼ら自身がそう言っている(そして、それを乗り越えたという誇りを持っている)のだから間違いのないことでしょう(しばしば立てられる「北朝鮮に対する”国際社会”の制裁は効いたのだろうか?」という問いに対して私は「制裁は効いた。しかし、音を上げることなく歯を食いしばって耐え、乗り越えた」とお答えしたい)。
しかし、そうした先軍政治以来の貧しさに耐える生活は、国家核武力の完成によって終わりを告げたというのが共和国の公式見解です。
今や最高指導者自身が国家核武力の完成によって経済建設に全力を集中させると公言しています。そうである以上は、経済状況改善が必要とされるところです。すくなくとも、
改善されないまでも悪化は避けたいところでしょう。
共和国は昔から、あるときは友好的笑顔をみせて「相手国の厚意」という形で、またあるときは強硬姿勢を示して「見返り」を求めることで、またまたあるときは苦境を告白し「支援」を要請することで、その時に己が必要とするモノや条件を勝ち取ってきました(いま南米・ベネズエラが痩せ我慢的に支援拒否を展開しているのとは対照的です)。
いまこのタイミングで「
国連による制裁」を告白してきた事実は、このタイミングで朝米首脳会談が開かれる背景・文脈を示していると言えるでしょう。
朝米首脳会談は、共和国にとっては「いま必要なモノ」。対米関係改善によって経済建設の突破口を開くための手段として位置づけていたことは容易に想像できるところです。しかしそれでも、共和国は「安易な譲歩を行わず、同時に建設的な議論を続けた」わけです。
■「共和国の核放棄と在韓米軍撤退・経済封鎖解除の同時実施」という核心を論じない限り、交渉は決して前進しないだろう
アメリカが求めているのが「北朝鮮の非核化」であり、そのために軍事的・経済的封鎖を実施しているのに対して、共和国が求めているのは「朝鮮半島の非核化=在韓米軍の撤退」であり、また、軍事的・経済的封鎖解除を求めています。昨年5月31日づけ「
「飼い犬」が「ご主人様」に対して「釘をさす」「念を押す」??」で指摘したように、
共和国の核武装化と在韓米軍の存在・北侵演習はセットの関係です。また、
共和国の自衛的核武力整備と、それに対する軍事的・経済的封鎖もセットの関係にあります北侵演習は凍結状態ですがいつ再開されるとも限らず、また在韓米軍は健在です。
いまこの時点では、共和国が一方的に武装解除することは出来ない相談です。ここで安易に譲歩するようでは、いままでの苦労が水の泡。だからこそ、共和国もまた「安易な譲歩を行わず、同時に建設的な議論を続けた」わけです。当該記事で私は、「
「在韓米軍の撤退」は「安易な妥協」などではなく、まさに"Deal”において正面から取り扱うべき重要なテーマであると言えるでしょう。」と述べました。
朝米首脳会談・朝米交渉の核心は「共和国の核放棄と在韓米軍の撤退の同時実施」です。また、在韓米軍撤退という軍事的封鎖の解除と同時期的な経済的封鎖解除です。今回そうした方向に話が進まずに「共和国の核放棄」だけが一方的に議題化されたのであれば、交渉の核心を論じていないのだから新たな合意に至らなかったのも当然でしょう。
「共和国の核放棄と在韓米軍撤退・経済封鎖解除の同時実施」という核心を論じない限り、交渉は決して前進しないでしょう。
■交渉が新たな合意に至らなかった背景には、「内需充足経済・自立的民族経済」?
交渉が新たな合意に至らなかった背景には、
ある意味において共和国が「封鎖慣れ」し、期せずして「内需充足経済・自立的民族経済」が確立しつつあることも寄与しているのかも知れません。韓「国」紙『中央日報』は次のように報じています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190227-00000046-cnippou-kr交易崩壊した北朝鮮…「崖っぷちの経済」金正恩氏、「サプライズプレゼント」取り出すだろうか
2/27(水) 18:23配信
中央日報日本語版
昨年、北朝鮮の対外交易が崩壊水準に達したことが分かった。経済制裁による交易の萎縮が経済危機につながる可能性が大きくなり、米朝対話を通した脱出口作りに出たという分析もある。
(中略)
一方、北朝鮮への制裁が対外交易には打撃を与えたが、北朝鮮の住民の暮らしには特別な影響がなかったという分析もある。北朝鮮への制裁で無煙炭の輸出が振るわなくなると、これを自国内の火力発電に供給するなど、平壌など主な都市に電力供給がむしろ円滑になったのも確認された。また、昨年は2017年と違い、干ばつの影響を受けなかったために水力発電を通した電力生産も増えたということだ。
経済制裁以来物価が5年間に3倍に高騰したイランと異なり、北朝鮮は市場物価も安定した姿を見せた。北朝鮮の市場物価を代表する米の価格は2017年1キロ当たり6000ウォンを上回り、2018年に入ってからは5000ウォン台に下落した。
キム研究委員は「石炭生産地域では輸出の道が封じられると、ビニールハウスの野菜栽培が活発になったという便りがある」として「石炭で火をたいてビニールハウスの農作業に活用したもので、これは経済制裁による被害を市場が緩衝している可能性を見せる事例」と説明した。
最終更新:2/27(水) 18:23
キム・ジョンウン委員長が国策として推進している
市場経済の導入が、経済封鎖に対する緩衝材として役割を発揮しているという指摘であり、期せずして「内需充足経済・自立的民族経済」が循環していることを示しています。
キム・ジョンイル総書記は『チュチェ思想について』で次のように指摘されましたが、それを実践しているとも言えます。
経済は社会生活の物質的基礎です。経済的に自立してこそ、国の独立を強固にして自主的に生活し、思想における主体、政治における自主、国防における自衛をゆるぎなく保障し、人民に豊かな物質・文化生活を享受させることができます。
経済における自立の原則を貫くためには、自立的民族経済を建設しなければなりません。
自立的民族経済を建設するというのは、他国に従属せず独り立ちできる経済、自国人民に奉仕し、自国の資源と人民の力によって発展する経済を建設することを意味します。(中略)また国際関係において政治的、経済的に完全な自主権と平等権を行使し、世界の反帝・自主勢力と社会主義勢力の強化に寄与することができます。とくにかつて帝国主義の支配と略奪によって経済的、技術的に立ち後れていた国ぐににおける自立的民族経済の建設は、死活の問題として提起されます。これらの国では自立的民族経済を建設しなければ、帝国主義者の新植民地主義政策を退けてその支配と搾取から完全に脱することはできず、民族的不平等を一掃して社会主義に向けて力強く前進することもできません。
こうした背景もあって、今すぐに制裁解除を懇願しなければならないというほどではないのでしょう。
昨年5月17日づけ「
筋を通し公開的に言質を取った共和国」でも触れたように、第1次首脳会談前から共和国は「
米国はわれわれが核を放棄すれば、経済的補償や恩恵を与えると騒いでいるが、われわれは米国に期待して経済建設を進めたことは一度としてなく、今後もそのような取引を決してしないだろう」(5月16日づけ朝鮮中央通信)と言明してきました。
トランプ米大統領は今回、非核化の見返りとしての経済援助を前面に押し出して共和国を釣り上げようとしていたようですが、共和国はその手には乗らなかったわけです。この見方は、意外なことに産経新聞も下記のとおり取り上げているところです。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190228-00000624-san-n_ame悔しさにじむ「ディールの名手」 トランプ氏、北読み切れず
2/28(木) 21:17配信
産経新聞
トランプ米大統領は28日、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との再会談終了後の記者会見で、協議の様子を「とても友好的だった」と述べ、今回は物別れに終わったものの、交渉は継続していく姿勢を強調した。不動産開発で一大帝国を築いた自信から「ディール」(取引)の名手を自負しながら、北朝鮮側の対応を読み切れなかった悔しさが感じられた。
トランプ氏は再会談に先立ち、北朝鮮が非核化すればベトナムのように繁栄するだろうとし、「その潜在力はすごい」と指摘。金氏を「私の友人」と呼ぶなどして持ち上げ、友好ムードの演出に余念がなかった。
27日の夕食会では、シンガポールでの初回会談を「大きな成功だった」と自賛し、「今回も同等かそれ以上の成功を期待している」とも言及していた。
それだけに、記者会見でのトランプ氏は、落胆と疲れを隠さなかった。約40分間にわたり、米国や外国の記者を指名しながら質疑応答を受け付けたが、弁解口調に終始。北朝鮮の非核化に向け歴代米政権が自分ほどの成果を挙げてこなかったも述べ、自己弁護した。
(以下略)
この手の「釣り」にかけては実業家時代から得意としてきたであろうトランプ大統領と渡り合った
キム・ジョンウン委員長の冷静な状況判断力は、なかなかのものです。
■交渉が新たな合意に至らなかったことによる朝米両国の指導者への影響について
交渉が新たな合意に至らなかったことによる朝米両国の指導者への影響について考えておきたいと思います。
トランプ米大統領については、前回会談の評判が「北朝鮮の思うツボの結果になった」といった具合にすこぶる悪く、今回もホイホイと譲歩するのではないかと危惧されていたので、「何も進まなかった」ことはむしろ加点要素になるかも知れません。昨晩からの各種報道をザっと読んだ限りでは、だいたいそんな論調であります。第1次首脳会談のときの期待外れの鬱憤を晴らしているのか、「調子に乗って楽観視しすぎた金正恩の負け」を連呼している観があります。
しかし、面白いことに、そういう論調の先陣を切りそうな産経新聞がトランプ大統領に厳しい評価を下しています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190228-00000589-san-n_ame北非核化への道、一層険しく 秘密施設の開示に踏み出せず
2/28(木) 18:45配信
産経新聞
(中略)
しかし、昨年6月のシンガポールでの初会談に続き、トランプ政権が目指しているはずの「全面的かつ検証可能な非核化」からは依然、程遠い結末に終わったことで、報道陣からは厳しい質問が相次いだ。
今回の会談で改めて鮮明となった最大の問題点は、金正恩氏が自国の核兵器や弾道ミサイルの戦力、核施設の存在を開示し、国際査察を受け入れて廃棄する意思を依然、固めていないということだ。
(中略)
トランプ氏とポンペオ国務長官はこの日の記者会見で、米側は首脳会談でこれらの基地や施設に言及。トランプ氏は「北朝鮮はわれわれが知っていることに驚いていた」と語った。北朝鮮側の態度は「北朝鮮は核を体制維持に不可欠とみており、非核化の可能性は低い」とする米情報機関の分析を裏付けるもので、非核化交渉の前途は極めて厳しいといわざるを得ない。
また、昨年相次ぎ中止された米韓による大規模合同軍事演習について、トランプ氏が「しばらく前に諦めた」として今後の実施に否定的な考えを示したことが、朝鮮半島有事の即応態勢に関する日米韓の不安を拡大させるのは確実だ。
一方で、トランプ氏が今回、金正恩氏から「核・弾道ミサイル実験を引き続き行わない」との言質を引き出したとしていることは、数少ない成果といえる。
弾道ミサイルを信頼性のある兵器として配備するには発射実験を数十回、繰り返す必要があるが、米本土に到達可能とされる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の「火星14」(射程8千キロ以上)は2回、「火星15」(1万2千キロ以上)は1回の発射実験しか行われておらず、実用化には程遠い。
その意味でミサイル発射の凍結が「米国をより安全にする」というトランプ氏の主張は全くの嘘ではない。しかし、非核化に結びつく実質的な合意がいつまでもできないようであれば、交渉の瓦解(がかい)は必至だ。トランプ政権は剣が峰に立たされつつある。(ワシントン支局長 黒瀬悦成)
最終更新:2/28(木) 22:14
思えば私も、第1次首脳会談の時には
キム・ジョンウン委員長の快挙を喜びながらも、そんなことで舞い上がっていてはならないと「勝って兜の緒を締める」姿勢を取りました。「北朝鮮の完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」(CVID)を目指す日本の国益的立場に立てば、1回の会談での勝った負けたなどどうでもよく、第1次首脳会談のときの期待外れの鬱憤を晴らしている場合ではありません。
些か浮かれている日本言論の風潮と比して産経新聞の見解はかなり厳しいものですが、
冷静に考えてみると、これこそが今回の第2次首脳会談におけるトランプ米大統領の獲得物に他ならないと言えるでしょう。もっとも、それ以前に国境の壁問題・ロシア疑惑問題でそれどころではないのかもしれませんが・・・
キム・ジョンウン委員長については、下記産経新聞記事をネタに考えてみたいと思います。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190228-00000601-san-krトップダウン戦略が裏目…正恩氏、最大の危機に
2/28(木) 19:51配信
産経新聞
【ハノイ=桜井紀雄】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は「制裁解除」ありきでトランプ米大統領とのハノイでの2回目の会談に臨んだ。しかも十分な実務者協議なしにトランプ氏の決断に全てを委ねる賭けに出たことが裏目に出た。今回の会談失敗は、金氏にとって最高指導者就任以来の重大危機ともいえそうだ。
(中略)
北朝鮮は金氏の今回の長期外遊を政権高官の寄稿文などで「大長征」と持ち上げて国内向けにも大宣伝し、成果に対する住民らの期待をあおった。28日には、両首脳の初日の会談で「全世界の関心と期待に即して包括的で画期的な結果を導き出すため、意見が交わされた」とメディアで大々的に報じていた。
米側に制裁の撤回を突き付けた新年の辞は最高指導者の公約といえ、金氏にとって制裁問題での譲歩は難しい。金氏は退路を断つ交渉戦術で自らを窮地に追い込んだ形となった。
最終更新:2/28(木) 20:14
「
退路を断つ交渉戦術で自らを窮地に追い込んだ」と描く産経新聞ですが、
こうした展開については第1次首脳会談前から既に「準備」がなされていると見るべきであり、その点においては産経新聞の目算は外れると思われます。昨年5月26日づけ「
「寛大さ」と「アメリカの無茶の被害者としてのワタシ」を描き出すキム・ゲグァン談話の戦略性」で引用したNewsweek Japanの記事は既に次のように指摘しています。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/05/post-10227_2.php金桂冠は正しい、トランプは金正恩の術中にはまった
2018年5月23日(水)17時23分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)
(中略)
トランプは金正恩が絶対に受け入れない要求をすることで、この術中にはまった。首脳会談が中止か物別れに終われば、金正恩は、自分は誠実な呼び掛けをし、国際的な基準に沿った手法(段階的で同期的措置)を提案したのに、トランプがむちゃを要求したと主張するだろう。そして韓国とは別途、平和を探ろうとするだろう。それは韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領にとって、むげに断りにくい提案になるかもしれない。
(以下略)
共和国は、第1次首脳会談以降、アメリカが豹変して軍事的圧力路線に回帰する危険性がある以上は警戒心を解くわけには行かない一方で、平和局面・融和局面をブチ壊すようなこともできないという難しい立場に立たされてき、アクションを取ってきました。しかし、今回のトランプ米大統領の要求は、こうした共和国の努力に対して低評価を下したものと言えます。
共和国にしてみれば、まさに「自分は誠実な呼び掛けをし、国際的な基準に沿った手法(段階的で同期的措置)を提案したのに、トランプがむちゃを要求した」といったところでしょう。まったく同じことを以前にも書きましたが、譲歩という意味で共和国が一歩先んじているにもかかわらずアメリカがイチャモンつけ的に応対しないという展開は、共和国にあっては、
「金正恩の北朝鮮における権威は失墜」するというよりもむしろ、「我々の誠実の譲歩に対して不誠実な対応で応えるアメリカ帝国主義の無礼さ」に対する敵対意識が強まり、逆にその結束が固まると見るべきでしょう。
共和国は特に
「我々」意識が強い御国柄です。
キム・ジョンウン委員長個人がどうこうというよりも、
「我々に対する侮辱」と受け止めることでしょう。共和国は建国以来のほとんどの時期を対米対決の中で過ごし、アメリカに対する敵対思考は既に染みわたっています。
人間は、内部での対立よりも外敵との闘争の方に注意をひかれるものです。「我々vsアメリカ帝国主義」という構図を補強することでしょう。共和国は既に第1次会談ドタキャン騒動の時点で、交渉が上手くいかなくても自己を正当化できるストーリーを周到に用意していたわけです。■総括
今回の第2次朝米首脳会談は、朝米両国ともに前進もなければ後退もなく、お互いに安易な譲歩を行わず、同時に建設的な議論の関係性を続けた、
いわば「繋ぎ」の会談でした。
共和国はアメリカが思っているほど釣り上げ易いサカナではなく、アメリカは共和国にとって相変わらず手強い交渉相手ということが改めて判明したにとどまりました。