2019年03月26日

さすがにイデオロギー過剰

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190318-00010001-esquire-life
「007」最新のボンドカーは、アストンマーティン最新の電気自動車「ラピードE」に
3/18(月) 21:12配信
エスクァイア

世界一有名なスパイは、環境にもフレンドリーな方でした。

女性好きで、しばしばお酒も飲みます。なにより、殺しのライセンスの持ち主でもありますから…。また、最新鋭の潜水艦を海の藻屑にしたり、ロシア国境では核を巡るいざこざに巻き込まれたこともあります。しかし、ダニエル・クレイグは典型的なジェームズ・ボンドではありませんし、キャリー・ジョージ・フクナガも普通の監督ではありません。そんな2人が組むことになったことで、シリーズ次回作ではこの英国のスーパースパイの新たな一面が見られそうです。それは「環境保護主義者」としての一面です。 

「ザ・サン」紙の報道によれば、ボンドは最新作『ボンド25(仮題)』の中で、アストンマーティンが25万ポンド(約3700万円)で発売するEV「ラピードE」を運転することになると言います。このクルマがチョイスされた理由としては、環境保護活動に熱心なフクナガ監督により、「環境保護にも意識の高いボンド」という設定を切望したためだと言います。

「製作陣はボンドに対し、『ポリティカルコレクトネスに配慮しすぎでは?』というレッテルを張られることを心配していますが、それと同時に誰もが、彼がゼロエミッション車に乗るのにふさわしいタイミングでもあることを感じています」と、事情を知る関係者の1人は「ザ・サン」紙に語っています。


(中略)

 もう2019年です、いまさらメディアが「環境への配慮」を声高に言っても、それに疎い方にとっては同じかもしれません…。ですが、どうでしょう。世界一クールなスパイが、EVを運転するのです。この予想外のマッチングに、より多くの方が「環境への配慮」に対して再び考えてくれる可能性も高いのではないでしょうか。

 そうして、より多くの方がボンドを真似してくれるようになれば、それは製作側の勝利であり、さらにその先には、すべての人の勝利が待っているのです…。


(以下略)
製作陣はボンドに対し、『ポリティカルコレクトネスに配慮しすぎでは?』というレッテルを張られることを心配していますが」――自覚はしているようですw

記事では「予想外のマッチングに、より多くの方が「環境への配慮」に対して再び考えてくれる可能性も高いのではないでしょうか。」などとしていますが、イデオロギーの捻じ込み・イデオロギー過剰は往々にして好まれないもの。いくら重要なテーマだといっても、四六時中、その話ばかりではウンザリしてくるものです。私のように「のめり込んでいる」人でさえ、気分転換や息抜きのために見よう・読もうとした作品中に社会主義・共産主義について言及があったら、ちょっとウンザリします・・・また、東側諸国でかつて大規模に行われていた、いつ・どこで聞いても同じような内容ばかりの退屈な政治学習会が、政治に対する無関心化の大きな要因になっていたことは教訓的です。

ポリコレは既に十分に鬱陶しい運動になっていますが、007のような映画にまで「環境への配慮」の描写が盛り込まれるのはイデオロギー過剰(作品は作り手が作りたいように作ればいいとは思いますけど・・・)。これが「狙い」どおりに行くとは到底思えないところです。旧東側諸国の退屈な政治学習会の轍を踏むことでしょう。

まあ、ポリコレ勢力の顔色を窺ってここまで過剰に配慮したがゆえの話であれば、いよいよ憂慮すべき「空気」が漂い始めたと言い得る凶兆ですが、熱心なポリコレ推進派が自分の作品中に好き好んでイデオロギー過剰な表現を描いているのであれば、まだマシなのかな。
ラベル:社会
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2019年03月23日

最高人民会議第14期代議員選挙結果を読む

最高人民会議第14期代議員選挙が去る3月10日に執行され、全687議席が確定しました。「共和国においてこそクレムリノロジ―的分析が有効だ」という持論の私としては、共和国の権力構造を人材の布陣から把握できる絶好の機会として注目の選挙。何よりも最大の注目点は、キム・ジョンウン委員長におかれては代議員に立候補なさらず、よって当選者名簿に載っていらっしゃらないことです。

キム・ジョンウン委員長が最高人民会議代議員選挙に立候補されなかった!
このことについては、さまざまな推測が流布しています。『統一ニュース』は、12日づけ記事でチョン・チャンヒョン平和経済研究所所長のコメントを次のように報じています。
http://www.tongilnews.com/news/articleView.html?idxno=128110
북 김정은, 최고인민회의 대의원 처음 빠져
北のキム・ジョンウン、最高人民会議代議員から初めて抜ける

(中略)

정창현 평화경제연구소 소장은 “김정은 위원장이 수령을 신비주의화하지 말라고 했다. 그 말이 말로 그친 게 아니라 행동으로 보여주고, 그러한 방침이 확고하다는 걸 보여주는 것”이라고 추측했다.
チョン・チャンヒョン平和経済研究所所長は「キム・ジョンウン委員長は、首領を神秘化しないようにした。その言葉が掛け声に終わったのではなく、行動で示し、そのような方針がしっかりしていることを示している」と推測した。

“최고인민회의에서 국무위원장을 선출하는데, 본인이 대의원으로 있으면서 국무위원장으로 선출되는 것이 불합리하다고 생각할 수도 있”고 “최고인민회의 대의원은 인민대중을 기본적으로 대표하는 자리이기 때문에, 자신의 이름을 빼면서 수령 신비주의화에 선을 분명하게 그어주는 조치”라는 것.
「最高人民会議では国務委員長を選出するが、代議員でありながら国務委員長に選出されるのは不合理だと考えることもでき」、「最高人民会議代議員は人民大衆を代表する立場であるため、自分の名前を外して首領神秘化と明確に線引きした措置」とのこと。

김 위원장은 서한에서 “수령은 인민과 동떨어져 있는 존재가 아니라 인민과 생사고락을 같이하며 인민의 행복을 위하여 헌신하는 인민의 영도자”라며 “위대성을 부각시킨다고 하면서 수령의 혁명활동과 풍모를 신비화하면 진실을 가리우게 된다”면서 “위대성 교양의 내용을 우리 당의 인민대중제일주의로 관통시켜야 한다”고 강조한 바 있다.
キム委員長は書簡において、「首領は人民とかけ離れた存在ではなく、人民と苦楽を共にし、人民の幸せのために献身する人民の領導者」であり、「その偉大性を浮き彫りにさせると言って首領の革命活動と風貌を神秘化しようものならば、真実を隠すことになる」とし、「偉大性教育の内容を我が党の人民大衆第一主義で貫通させなければならない」と強調したことがある。

2014년 13기 대의원 추대 당시, “조선의 군대와 인민을 이끌어 온 기간은 짧은 한순간에 지나지 않지만, 이 나날에 쌓아 올린 업적은 보통의 정치가들은 백 년, 2백 년이 걸려도 이룩할 수 없는 참으로 거대한 업적”이라고 추켜세운 바 있는데, 이는 김 위원장이 밝힌 수령의 신비주의화에 해당하는 내용.
2014年の第13期代議員推戴時、(キム委員長は側近たちから)「朝鮮の軍隊と人民を率いてきた期間は短い期間に過ぎないが、この日々に築いた業績は、普通の政治家たちならば百年、二百年がかかっても成し遂げられない非常に巨大な業績(をあげた)」と持ち上げられたことがあったが、(これこそが)キム委員長が言う「首領神秘化」にあたるものだ。

김 위원장이 강조한 인민대중제일주의에 따라, ‘인민과 생사고락을 같이하며 인민의 행복을 위하여 헌신하는 인민의 영도자’로서 ‘수령에게 인간적으로, 동지적으로 매혹될 때, 절대적인 충실성이 우러러 나온다’라는 입장에 따라, 타인에 의한 무조건적 추대를 거부했을 수 있다.
キム委員長が強調した人民大衆第一主義に従い、「人民と苦楽を共にし、人民の幸せのために献身する人民の領導者」として、「首領に人間的・同志的に魅せられるとき、絶対的な忠実性が出てくる」という立場に立つ者として、他者による無条件的な推戴を拒否した可能性もあるのだ。

김 위원장이 최고인민회의 대의원 명단에 빠졌다고 해서, 국무위원장직에 오르지 못하는 것은 아니다. 최고인민회의는 북한의 최고주권기관으로 국무위원장을 선거 또는 소환할 수 있지만, 국무위원장의 자격을 대의원에 한정하지 않기 때문이다.
キム委員長が最高人民会議の代議員名簿に載らなかったからといって国務委員長職になれないということはない。最高人民会議は、北朝鮮の最高主権機関として国務委員長を選挙または召喚できるが、国務委員長の資格を代議員に限定していないからだ。

국무위원회는 최고정책지도기관으로 국무위원장은 ‘공화국의 최고영도자’이며 ‘공화국 전반적 무력의 최고사령관으로 되며, 국가의 무력을 지휘통솔하’는 임무를 갖고 있다.

国務委員会は最高指導機関として、国務委員長は「共和国の最高領導者」であり、「共和国の全般的な武力の最高司令官になり、国家の武力を指揮統率する」という任務を持っている。

(以下略)
「首領を神秘化しない」や「親しみやすい指導者」といったイメージ戦略は、キム委員長が就任以来一貫して注力されてきたことですが、「最高人民会議の代議員に選出されると人民大衆とかけ離れた立場になってしまう」という分析は、「?」をつけざるを得ないものです。ただ、建前とは別に最高人民会議の代議員と人民大衆との間に事実として「溝」があるとすれば、そのことをキム委員長が自らのイメージ戦略に逆に活用する可能性も絶無ではない点、一概には否定できない分析かと思います。

韓「国」紙『ハンギョレ』は、下記13日づけ記事で、「4月初めの第1回会議で、金委員長を特定の選挙区ではなく、“全人民の代議員”に推戴し、象徴的な地位を与える可能性もある」という韓「国」「政府」の元高官のコメントを掲載。「最高人民会議の際、一般の代議員である最高指導者が、最高人民会議常任委員長・議長よりも上座の中央に座ってきた慣例をなくすことで、最高人民会議の形式的“独立性”を高める狙いと見られる。」とも分析しています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190313-00033005-hankyoreh-kr
金委員長が史上初めて最高人民会議代議員に出馬しなかった理由とは
3/13(水) 17:17配信
ハンギョレ新聞

687人の名簿に名前見当たらず 「全人民の代議員」に推戴される可能性も
 金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が、10日に行われた最高人民会議第14期代議員選挙に出馬しなかったことが確認された。1948年の朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の創建以来、最高指導者が最高人民会議代議員選挙に出馬しなかった前例が一度もなかったことから、金委員長がこのような選択をした背景に関心が集まっている。


(中略)

 政府当局者は「金委員長が最高人民会議代議員に選出されなかったことの政策的含意は、4月9〜10日ごろ開かれる最高人民会議第14期第1回会議で確認できるものと見られる」と述べた。これに関し、北朝鮮の事情に詳しい元政府高官は「4月初めの第1回会議で、金委員長を特定の選挙区ではなく、“全人民の代議員”に推戴し、象徴的な地位を与える可能性もある」と見通した。最高人民会議の際、一般の代議員である最高指導者が、最高人民会議常任委員長・議長よりも上座の中央に座ってきた慣例をなくすことで、最高人民会議の形式的“独立性”を高める狙いと見られる。
『統一ニュース』で指摘されている「人民大衆第一主義」の文脈で「金委員長を特定の選挙区ではなく、“全人民の代議員”に推戴し、象徴的な地位を与える可能性」を位置づけると、興味深い可能性の指摘であると言えるでしょう。

18日づけ韓「国」紙『中央日報』(日本語版)は、韓「国」に亡命したテ・ヨンホ(太永浩)元駐英公使の分析として次のように報じています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190318-00000038-cnippou-kr
「金正恩が改憲の動き…金日成主席制を再導入も」
3/18(月) 15:02配信
中央日報日本語版

韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)元駐英北朝鮮公使が、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が第14期最高人民会議代議員に出馬しなかったことについて「憲法改正を準備中」と分析した。

太氏は17日、ブログに「金正恩委員長が第14期最高人民会議代議員名簿に含まれなかったが、こうした現象は北朝鮮の歴史で初めて」とし「来月初めに開催される第14期最高人民会議第1次会議をきっかけに、金正恩の職位に関連する憲法の修正を準備しているものと推定される」と明らかにした。

現在、金委員長の職位は「国務委員長」で、北朝鮮の最高統治者だ。しかし憲法上、対外的に北朝鮮を代表するのは金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長となっている。太氏はこのため今すぐ終戦宣言がある場合、署名式に出席するのは金委員長でなく金永南常任委員長だと説明した。

太氏は「金正恩を憲法的に北朝鮮の国家首班であることを明記するのは、今後、多国間の合意で締結される終戦宣言や平和協定に署名する金正恩の憲法的な職位を明らかにするためにも必要な工程」と強調した。

続いて「西側で留学した金正恩は西側国家の大統領が国会議員職を兼職しないことをよく知っているため、北朝鮮の憲法でも国家首班が代議員職を兼職する制度をなくそうとする可能性がある」という見方を示した。

太氏は「北朝鮮は憲法を改正し、今のような金永南の最高人民会議常任委員会委員長職は廃止するだろう」とし「この場合、結局は70年代の金日成(キム・イルソン)の主席制を再び導入することになる」と説明した。


(以下略)
首領様は、主席職と最高人民会議代議員職を兼ねておられたので、「主席制を再び導入することになる」というのは正確さに欠ける表現でしょう。また、「西側国家の大統領が国会議員職を兼職しないから自分も兼職しない」というのは、可能性として考えられないことはないものの、論拠としては薄いような気もします。あれだけ「ウリ式」を強調し、それゆえに世界的にも稀有な制度をもつ国で、ここだけ西側の制度をコピー・導入するものでしょうか? 現時点では「あるかもしれないし、ないかもしれない」としかいえない分析です。

全体的に「どちらともいえないなぁ」と思うものの、エリートとはいえ決して権力中枢にいたわけではなく、また、亡命から時間が経過しているがゆえに最新の権力事情について明るいとは考えにくいテ・ヨンホ氏の分析ながらも、興味深いとは思います。

宮本悟氏は、20日公開の『日経ビジネス』記事で、おそらくテ・ヨンホ氏の分析を意識しつつ以下のように推理しています。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190320-59625666-business-kr&p=1
金正恩は大統領になるのか?!
3/20(水) 18:00配信
日経ビジネス

 北朝鮮で2019年3月10日に、中央議会である最高人民会議の第14期代議員選挙が実施された。建国以来、14回目の選挙である。しかし、極めて異例な結果が発表された。当選した687名の代議員の名簿が発表されたところ、そこに、北朝鮮の最高指導者である金正恩(キム・ジョンウン)の名前がなかったのだ。北朝鮮の支配政党である朝鮮労働党のリーダーが、最高人民会議の代議員に当選しなかったのは、史上初めてのことである。


(中略)

 このままでは金正恩は、最高人民会議代議員だけでなく、政府(国家)の執政長官である国務委員会委員長の職務も失うことになる。北朝鮮の執政長官は現在まですべて、最高人民会議の代議員から選ばれてきた。金正恩が選挙を通じないで執政長官になれば、諸外国で揶揄されてきたように君主制(王朝)になってしまう。それは朝鮮民主主義人民共和国ではなくなることを意味する。

 ただし、国名を維持しながら、金正恩が政府の執政長官になる方法が一つ考えられる。それは現在の議院内閣制から大統領制に移行することだ。もちろん、そのためには憲法改正が必要になる。新たに当選した最高人民会議の代議員による第1次会議が4月に開催されるはずなので、おそらくそこで憲法を改正するのであろう。そして、新たに大統領選挙が実施され、直接選挙によって「推戴」された執政長官である金正恩が誕生することになると考えられる。


(中略)

●首脳会談に臨んで対外代表権が必要になった
 執政制度によって権力関係に変化がないのならば、なぜ北朝鮮は議院内閣制から大統領制に移行する必要があるのか。それは、1972年から1998年(実際は1994年まで)まで採用していた「主席制」にヒントがある。主席制だと、執政長官は、米国や韓国の大統領と同じように、対外代表権を持つ。主席制は、選挙制度を基準にすれば議院内閣制であるが、対外代表権を基準にすれば大統領制といえる。


(中略)

 1972年に主席制を採用したのは、執政長官である金日成が外交活動をしやすくするためであることが分かっている。建国以来、北朝鮮の外交相手の中心であった社会主義国家では、国家の代表よりも、党の代表が重要であったので、執政長官が対外代表権を持つ必要はなかった。しかし、1970年代に入り、北朝鮮が第三世界外交に力を入れるようになると、社会主義国家以外の国家との外交に金日成が直接かかわることが多くなった。そこで、金日成が対外代表権を持つ必要が出てきた。でなければ、対外代表権を持つ最高人民会議常任委員会委員長が金日成よりも上位に扱われることになるからだ。

 金正恩は2018年から各国との首脳会談を始めた。しかし、首脳会談で会談した中国国家主席、韓国大統領、米国大統領、キューバ国家評議会議長、ベトナム主席はすべて国家元首であって対外代表権があった。そこで、北朝鮮も金正恩に対外代表権が必要と考えたのかもしれない。


(以下略)
テ・ヨンホ氏の分析の二番煎じと言う他ない内容ですが、これもまた「最高人民会議代議員選挙に立候補しなかった理由の説明にはならないのでは?」と言わざるを得ないところです。前述のとおり、首領様は主席職と最高人民会議代議員職を兼務されていたのですから。

ちなみに、共和国は憲法で党の指導性が定められているので、「国名を維持しながら、金正恩が政府の執政長官になる方法」にこだわる必要は絶対的ではありません。たとえば、ベトナムは長く実質的最高指導者である党書記長、国家元首である国家主席、実務担当の首相を分担するトロイカ体制を敷いてきました。もちろん、唯一指導体系を重視する共和国にあっては集団指導体制を目指す意味でのトロイカ体制に移行する可能性は低そうですが、党組織の指導的役割の復権・強化・向上は以前からの政策課題なので、党の指導性・優位的立場を強調しつつ党委員長職に専念なさる可能性は絶無とは言えないでしょう。

■立候補しなかった真意とは?
『統一ニュース』に掲載されたチョン・チャンヒョン平和経済研究所所長の分析、『ハンギョレ』紙掲載の分析、そして、テ・ヨンホ氏と宮本悟氏の分析の分析を総合してみましょう。積極的な平和攻勢を強める共和国にあっては、キム・ジョンウン委員長を対外代表権を持つ地位につける必要がある点において何らかの組織改正が予定されていると思われるものの、最高人民会議代議員と兼職しなかった理由は別にあると考えられ、その真意は、対内的なイメージ戦略にあるとは考えられないでしょうか?

かつてキム・ジョンイル総書記は、党中央委員会全員会議で選出されるのではなく、全国の党細胞が個別に開いた代表会での推戴決議に基づいて総書記に就任されました。それと同様に、キム・ジョンウン委員長におかれては、「首領に人間的・同志的に魅せられるとき、絶対的な忠実性が出てくる」という格言に従い「人民と苦楽を共にし、人民の幸せのために献身する人民の領導者」という人民大衆第一主義のイメージを演出するために、特定の選挙区で出馬・当選するのではなく「全人民の代議員」として推戴をうけ、代議員に就任するという可能性が考えられるでしょう。

もちろん私の上述推測は、他人様の推測を都合よく継ぎ接ぎしただけのシロモノなので、輪をかけて信憑性が低いと自分でも思ってはいます。すべては4月上旬に開催されるであろう会議以降に判明することでしょう(朝鮮総連機関紙『朝鮮新報』が意味深にも沈黙している姿に私も学び、これ以上の余計な推測は控えようと思います)。

■その他幹部たちの当選状況から見える、こんにちの共和国の権力構造
キム・ジョンウン委員長の件以外について、クレムリノロジ―的に分析したいと思います。ここからは、聯合ニュース記事(12日づけ)『コリア・レポート』編集長のピョン・ジンイル(辺真一)氏の記事(13日づけ)から注目した点を箇条書きにします。

・朝米首脳会談に関わったキム・ヨンチョル党統一戦線部長、リ・スヨン党国際部長、キム・ゲグァン第一外務次官が再選、リ・ヨンホ外相とチェ・ソンヒ外務次官は初当選。第2回会談が合意に至らなかったために左遷されることはなかった模様。
・国家安全部、護衛司令部、そして保衛司令官(保衛局長)うち代議員として残ったのはチョ・ギョンチョル保衛司令官のみとなった。体制維持の要である公安・保安部門の三大ポストのうち二つのクビを飛ばせるほどキム・ジョンウン体制は安定している。
・ファン・ビョンソ党組織指導部第一副部長が消えた。降格したものの完全に失脚したわけではなく、昨年8月の段階では現地指導に同行したと報じられているが、また情勢が変わったのか?
・キム・ギョンオク同第一副部長も消えた。キム・ジョンイル総書記の信任が厚く権力継承期にも活躍したが、現政権下においては粛清説も流れたこともあった人物。もしかすると、現改革にとって「古い人」なのかもしれないが不明。
・長老世代が引退する中、イデオロギー担当だったキム・ギナム(金基南/金己男)氏が再選された(48号選挙区選出と思われる)。
・処刑説が流れた幹部が再選されることはなかった。

このうち特に、朝米首脳会談に関わった面々の当選と公安・保安部門の面々の当落は、こんにちの共和国の権力構造を把握する上で貴重な資料になることでしょう。

第2次朝米首脳会談において合意に至らなかったことは、担当者・責任者たちの当選状況を見るに、「予想外の大失敗」ではなく、現時点では大きく路線を変更するつもりはなさそうです。もし、予想外の大失敗であれば表向きの宣伝文句とは別に、担当者・責任者は密かに左遷されていることでしょう。また、大きな路線変更があるとすれば、旧路線を推進してきた面々を代議員候補者として推薦し、彼らが信任投票たる最高人民会議代議員選挙で当選することはないでしょう。

国家安全部、護衛司令部、そして保衛司令官(保衛局長)うち代議員として残ったのはチョ・ギョンチョル保衛司令官のみとなったことについては、以前にも指摘したことですが、公安・保安部門に対して迂闊に手をだせば、スターリンがベリヤに暗殺されたように、逆襲を受けることさえある点において、キム・ジョンウン体制の安定性を示すものであると言えるでしょう。

公安・保安部門は、反対派を抑制して最高指導者の唯一指導を担保する強力な権力組織機構ですが、絶対的な最高指導者といっても「寝込みはただの一個人」です。体制維持の要である公安・保安部門の三大ポストのうち二つのクビを飛ばした・飛ばせたということは、それだけキム・ジョンウン体制は安定しているということを示していると言えます。

■まとめ
公安・保安部門の手入れができるほどに権力構造的に安定したキム・ジョンウン体制は、先の第2次朝米首脳会談において合意には至らなかったものの本気で路線を大きく変更するつもりはなく、組織体制を改正するなどの方法でむしろ平和攻勢の情勢を更に積極的に活用しようとしている意図を感じるところです。

また、キム・ジョンウン委員長については、「首領に人間的・同志的に魅せられるとき、絶対的な忠実性が出てくる」という格言を実践し、「人民と苦楽を共にし、人民の幸せのために献身する人民の領導者」という人民大衆第一主義のイメージの演出に注力している姿を推察できます
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2019年03月12日

「少数派は多数派に合わせろ」と言うに等しい暴論が労働界隈・社会政策界隈の人権闘士から出てきた驚きの展開;ブルジョア的「お客様」論に接近する異常事態

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190304-00000060-asahi-bus_all
マックスバリュ西日本、24時間営業中止へ 人手不足で
3/4(月) 22:56配信
朝日新聞デジタル

 中国・四国地方を中心に食品スーパーを展開するイオン系の「マックスバリュ西日本」(広島市)は4日、一部の店舗で続けてきた「24時間営業」をやめると発表した。人手不足で十分なサービスが提供できないためだという。


(以下略)
人手不足による経営判断。企業・資本側が人権論に感化されて改心したわけではなく労組の要求を呑んだわけでもなく「できないから仕方なく24時間営業を中止した」という点に注目すべきニュースです。

■コンビニ等小売業における年中無休・24時間営業に関する私の立場
コンビニ等小売業における年中無休・24時間営業については、当ブログでも下記のとおり取り上げてきました。私は、「全体から見れば少数かも知れないが、そのタイミングでそれを必要とする消費者・せざるを得ない消費者が社会には存在する」という点において、年中無休・24時間営業の継続を原則として支持しつつ、他方、従業員に対して多大な負担をかけていることも事実である以上は、消費者運動と労働運動が連携して「組織としては年中無休:24時間・365日営業であるが、労働者個人としては十分な休暇・休養を取ることが出来る」ようにすべく企業・資本側に要求を展開してゆくことが必要だと述べてきました。

その観点から、「無いなら無いで私は困らないから構わない」論法で年中無休・24時間営業の中止に賛同する言説について私は、「全体から見れば少数かも知れないが、そのタイミングでそれを必要とする人・せざるを得ない人が社会には存在する」ということを無視した粗雑な議論であり、ライフスタイルやワークスタイルの多様性を否定する言説、多数派の都合によって少数派の必要を無視する暴論にほかならないと述べてきました。

関連記事一覧
チュチェ106(2017)年3月27日づけ「自主権の問題としての労働環境vs自主権の問題としての多様な消費行動――一方的な「あるべき」論では判断できない
本年2月5日づけ「単なる負担の付け替えに過ぎないブルジョア的「働き方改革」の正体を見抜け!
本年2月23日づけ「旧型労組活動家の言説を乗り越え、24時間・365日営業を「組織として」続けていくための新しい運動へ

■ドイツ閉店法の真実――安易な労働界隈・社会政策界隈のヨーロッパ信仰について
さて、本件記事ではコメント欄に、NPO法人ほっとプラス代表理事で聖学院大学人間福祉学部客員准教授の藤田孝典氏の投稿が寄せられています。個人に粘着しているつもりは全くないのですが、今回もまた「短いコメント文中に、よくここまで典型的なツッコミどころを詰めてきたなあ」といったところです。例によって検討してみたいと思います。まずは引用から。
藤田孝典
NPOほっとプラス代表理事 聖学院大学人間福祉学部客員准教授

24時間営業をなくすことに賛同します。同業他社も続いてほしいと思います。
深夜労働、長時間労働は人の心身に甚大な影響を与えます。
うつや不眠症、精神疾患や生活習慣病に繋がりやすいと指摘されています。
労働者の犠牲のもとに成長する時代は終わったと思います。
ヨーロッパでは24時間営業する店舗など、ほぼありません。
24時間営業しないシステムであれば、消費者も営業時間内に買い物などを済ませばよいだけです。早く日本から24時間営業などという異常な働き方を無くしましょう。
最初に取り上げたいのは「ヨーロッパでは24時間営業する店舗など、ほぼありません。」というくだり。ドイツの閉店法を念頭にあげたものと思われます。以前にも書きましたが、日本人は「ヨーロッパ信仰」があるのか何かと「ヨーロッパでは、、、」というセリフが好きで、労働界隈・社会政策界隈はとりわけその傾向が強くみられるところですが、当のヨーロッパの内実をよく踏まえていないことが往々にして見られます。

ドイツの閉店法について言えば、日本貿易振興機構(ジェトロ)海外調査部欧州課の高塚一氏のレポートによると、これはキリスト教の宗教的影響が大きい社会的習慣に根差すものだそうです。しかしながら、規制緩和の結果、近年ではベルリン市やブランデンブルク州を筆頭に多くの州で月曜日から土曜日までは24時間営業が認められています(連邦国家であるドイツにおいては州によって法定の営業許可時間がかなり異なります)。規制緩和も進んでいます。さらに、以前からガソリンスタンド等は閉店法の対象外として24時間営業が認められているので、ドイツ人にとってはガソリンスタンド等が日本人にとってのコンビニの役割を果たしていることも多いところです。

ドイツでは既にほぼ24時間営業が可能なのです。長きにわたる厳格な閉店法時代以来の、法によって半ば強制されたライフ・スタイル(法が生身の人間のライフ・スタイルを強制すべきなのでしょうか?)ゆえ、爆発的に24時間営業の利用が浸透しているわけではないようですが、前述のとおりガソリンスタンド等は閉店法の規制対象外であり、ドイツ人にとってはガソリンスタンド等が日本人にとってのコンビニの役割を果たしているところです。それ以外でも開いている所はやはり混みます。徐々に24時間営業は拡大しているようです。

さらに、『ドイツニュースダイジェスト』誌の記事によると閉店時に買い物の必要が生じたドイツ人は、規制の緩い隣国のオランダやポーランドに遠征することもある模様。そして、アンケートとしての信頼性は何とも言えませんが、ドイツにおいても閉店法の規定に対する批判の声も小さくないようです。

藤田氏は「ヨーロッパでは24時間営業する店舗など、ほぼありません。」と言い切り、その上で「早く日本から24時間営業などという異常な働き方を無くしましょう。」としていますが、ヨーロッパの内実をよく踏まえず安易に「飛びついている」ようです。「労働界隈・社会政策界隈のヨーロッパ信仰」の典型的事例という他ありません。

また、以前にも書きましたが、ヨーロッパでの成功事例は、ヨーロッパの文化的風土があってこそ成り立つものです。人々の考え方・価値観がヨーロピアン・スタンダードの範囲内におおむね収まっているからこそ、システムとして成り立つのです。閉店法にはキリスト教の宗教的伝統と文化的背景の裏打ちがあります。制度の表面だけ急に移植して日本で定着するのでしょうか? はなはだ疑問であります。外国の制度はまず我々の社会文化的条件に照らして適合するのか是々非々で検証する――藤田氏の主張は、主体的な立場に欠ける安易な主張です。

■「少数派は多数派に合わせろ」と言うに等しい暴論が労働界隈・社会政策界隈の人権闘士から出てきた驚きの展開
次に取り上げたいのは、「24時間営業しないシステムであれば、消費者も営業時間内に買い物などを済ませばよいだけです。」のくだり。驚きました。藤田氏は社会福祉士として社会から疎外された弱者・少数派の立場に立ち、また、労働分野にも関わることで資本の論理から人権を守る闘いに注力してこられたお方です。そんなお方が、「少数派は多数派に合わせろ」(まさに資本の論理と通底!)と言っているに等しい主張を何の留保もなく言い放つとは・・・

まさか、社会から疎外された弱者・少数派の立場に立ってきたお方が、実は多数派至上主義者であったとは流石に考えにくいところです。となると、たまたま昨今の「多数派」が「ぼくが かんがえた りそうの しゃかい」と合致する傾向があるので、これに飛びついて錦の御旗としている可能性が考えられます。その点、「『ぼくが かんがえた りそうの しゃかい』が先にあって、それに合致する範囲で社会から疎外された弱者・少数派の立場を代弁・擁護してきたのだろうか」という勘ぐりさえしてしまう衝撃的な一文です。藤田氏の口からこんな発言が飛び出してくるとは思いもしませんでした。

つい数時間前(11日21時台)、藤田氏は新しい記事を公開されました。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司氏が11日11時に公開した「「セブンは24時間営業やめろ」と無責任に主張する人に欠けた視点」に反論する体裁の記事です。ここでも藤田氏は、コンビニの深夜営業にかかる約10年前の毎日新聞世論調査における「「賛成」47%、「反対」53%」という結果を以って「時代は24時間営業に大半がNOを突き付けている客観的な事実がある」とした上で「時代遅れの小売業として支持を失うのか、時代に先駆けて転換を図って支持を得ていくのか、セブンイレブンの対応が問われている。」としています。

上掲引用コメントはあくまでもコメントであり長文はなじまないので、いろいろ端折った可能性も捨てきれませんでしたが、長文投稿が容易な独立記事でこの調子であるということはすなわち、藤田氏は、少数派の必要を無視する立場に転落したと言わざるを得ません。

「自主」を標榜するチュチェ思想派たる私はあくまでも生身の人間の利益を第一にしたいと思っています多数派の都合によって少数派の必要を無視するようなことはしたくありません。その立場から、「年中無休・24時間営業は存在『するべきではない』」という立場ではなく、少数派の必要を踏まえつつ、「多様な消費行動」という消費者の権利と「働き方改革」に代表される労働者の権利との間で「権利の調整」に取り組みたいと考えています。前述のとおり、消費者運動と労働運動が連携して「組織としては年中無休:24時間・365日営業であるが、労働者個人としては十分な休暇・休養を取ることが出来る」ようにすべく企業・資本側に要求を展開してゆくことが必要だと考えています。

■深夜営業すると昼間の売上高が増える不思議
ちなみに、上掲新記事で藤田氏は「セブンイレブンは24時間営業を止めてもブランド力は低下しない。むしろ向上する」などと主張し、慣れないブランド強度分析に取り組んでいますが、これが実証になっていない(さすがに失笑)。たしかに「ブランド力が「消費者の認知・好感度,イメージなど社外評価」を踏まえてスコアで示される」のは「理論上」そのとおりなんですが、「いまここのタイミングで効果を発揮するのか?」という最重要ポイントについて藤田氏は分析していません。単なる観念上の想定にすぎず、確実な根拠に基づく合理的な判断とは言い難いと思われます。

藤田氏の見立てとは逆に、加谷珪一氏が現代ビジネスで3月6日に公開した「コンビニが「24時間営業」にこだわる意外な理由」では、次のような指摘がなされています。
深夜営業すると昼間の売上高が増える理由ははっきりしていないが、いつでも開いているという心理的な安心感が作用し、顧客の来店頻度が上がることが原因と考えられている。一般的に深夜営業をやめてしまうと、全体で3割程度売上高が落ちると言われており、その多くは昼間の売上高減少分となる。

 小売業界で売上高が3割落ちるというのは大変な数字であり、深刻な業績不振に陥ることは確実である。全店で一斉に深夜営業をやめた場合、ここまで大きな売上高減少につながるのかは何とも言えないが、業績が落ち込むことに対する本部の恐怖感が大きいのは間違いないだろう。

■ブルジョア的「お客様」論に接近する異常事態
ブランドだの消費者だのというのならば、真に消費者の立場に立つのであれば、やはり「全体から見れば少数かも知れないが、そのタイミングでそれを必要とする消費者・せざるを得ない消費者が社会には存在する」という観点にたつ必要があるというべきです。しかし、頑なに「少数派の必要」について触れようとせず、持論に都合のいいときだけ「消費者」を引き合いに出すのが藤田氏です。

これはまさにブルジョア的「お客様」論・資本の論理そのもの。「お客様は神様」などといいつつ、その腹の内はあくまでも「自社製品を効率よく売りさばき・営業成績をあげる上で好都合な『お客様』」のことだけを考えいるのと同じです。

一人ひとり個性をもつ人民大衆の需要を充足させることを一義的目的とする主体的社会主義の消費経済社会を目指す立場として私は、「全体から見れば少数かも知れないが、そのタイミングでそれを必要とする消費者・せざるを得ない消費者が社会には存在する」という観点は出発点であり死守すべき要塞と考えます。
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2019年03月09日

眼の前の現象にばかり引きずられ、その根底にある構造的問題に考慮が至らない、いかにも「リベラル」が思いつきそうな底の浅いキャンペーン

https://www.asahi.com/articles/ASM2F0BV6M2DUTIL05X.html
女性ゼロの地方議会、まだ2割も 「活動しづらい」
山下剛 岡林佐和、三島あずさ 2019年2月16日05時00分

 全国の1788地方議会のうち、女性議員がいない「女性ゼロ」議会が339議会にのぼることが、朝日新聞社のアンケートでわかった。8年前の調査で412議会、4年前は379議会で徐々に減っているが、依然として2割近くの議会で女性議員がいない。女性議員が1人しかいない議会も460議会あり、女性議員が1人以下の議会が全体の計45%を占めている。

 女性ゼロ議会の半数近くの153議会は、今春の統一地方選で改選される予定。議会選挙で男女の候補者数をできる限り「均等」にするよう政党に求める候補者男女均等法が昨年施行されており、こうした環境変化の後押しを受けて女性ゼロがどの程度解消されるかが注目される。


(以下略)
候補者男女均等法は参議院では全会一致で可決・成立した法ですが、「男女の候補者の数ができる限り均等となることを目指す」程度で、政党に対して女性候補を増やす努力を求めているに過ぎないスローガン的なものです。「仕事していますよ」という、自民党政権のアリバイ作り感が漂っているものですが、こんなものについて「こうした環境変化の後押しを受けて女性ゼロがどの程度解消されるかが注目される。」とは・・・リベラル紙:朝日新聞。おめでた過ぎる発想です。

地方議会、それも小規模な自治体であればあるほど傾向的に言えることと思いますが、その当選議員は、地域社会の実力者・名士、ないしはそうした人物に可愛がられ強力なバックアップを受けている人物であることが多いもところです。ことによっては単なる操り人形でしかないものです。

地方議会議員の男女比が男性過多に偏っている事実は、社会全体の男女比がほぼ1:1であり、男性に対して女性が際立って能力的に劣っているという事実がない以上は、統計科学的に考えれば作為的なモノを感じざるを得ないところです。地方議会において女性議員の数が顕著に少ないということは、地方の地域社会は圧倒的に男性優位社会であるということを示しているというべきでしょう。地域社会の実力者・名士には男性が多く、また、そうした実力者・名士のおぼえめでたく、お引き立て賜っている人物もまた男性が多いということです。

社会全体の男女比がほぼ1:1であるにも関わらず地方議会議員の男女比が男性過多に偏っている現実に対して問題意識を感じるのは当然とは思いますが、その根底にある「地域社会は圧倒的に男性優位社会である」という構造的問題に斬り込まない論調は、厳しい言い方をすれば、いかにも「リベラル」が思いつきそうな底の浅いキャンペーンという他ありません。眼の前の現象にばかり引きずられ、その根底にある構造的問題に考慮が至らないのです。
ラベル:政治 お左翼
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2019年03月05日

保革逆転

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190303-00000021-mai-pol
自民党職員の改憲ソングに漂う“軽さ” 国家の規範も「もう替えよう」?
3/3(日) 12:00配信
毎日新聞

 ♪憲法なんてただの道具さ♪ 憲法を改正しようと高らかに歌う「改憲ソング」が、2月に発売された。企画したのは自民党本部の職員で、自身が歌っている。「個人の作品で、自民党とは無関係だ」と強調する。耳になじみやすいメロディーだが、曲全体に漂う「軽さ」は何だろう。歌を聴いて、安倍晋三首相が目指す改憲路線を考えてみた。【江畑佳明/統合デジタル取材センター】

 ◇現憲法は「子どもの服」か
 タイトルは「憲法よりも大事なもの」(CDシングル、1080円)。2月6日に発売された。アマゾンなどで購入でき、動画投稿サイト「ユーチューブ」でも視聴できる。

 メロディーはややアップテンポのフォーク調で、なじみやすい。問題は歌詞だ。

 ♪いつまでも同じ服は着られない 大人になったらもう着替えよう♪

と、まずは改憲の必要性を訴え、サビの部分で、こう呼びかける。

 ♪憲法なんてただの道具さ 変わること恐れないで 憲法よりも大事なものは 僕たちが毎日を幸せに安全に暮らすことさ♪


(中略)

 ◇南野さん「安倍改憲路線に合致」
 改憲ソングを、専門家たちはどう見るのか。

 九州大法学部の南野森(みなみの・しげる)教授(憲法)は「『憲法は道具』という表現は、確かにその通りです。憲法は国民を幸せにするためのものだから」と一定の理解を示しつつも、「いつまでも同じ服は着られない 大人になったらもう着替えよう」の部分を「憲法のたとえとしては不適切だ」と批判する。

 「本当に改憲したいなら、どの条文をどのように変えたいかの具体的な訴えがあってしかるべきだ。『もう着替えよう』からは『時代が変わったし、細かいことは考えなくていいから……』というニュアンスを感じる。憲法について真剣に考えているのか疑問です」と首をかしげる。その上で、南野さんは改憲ソングを「安倍首相がこれまで唱えてきた改憲論の延長線上にある」と指摘する。


(中略)

 ◇平川さん「憲法の精神の無視」
 「憲法のコモディティー(商品)化だ」と懸念するのは文筆家の平川克美さんだ。「グローバリズムという病」(東洋経済新報社)などの著書がある。

 平川さんは、服のたとえの部分を問題視している。「例えば『パソコンが古くなったから新しく買い替えよう』というのと同じ発想だ。憲法には先人たちが積み上げてきた歴史的な英知が反映されている。『時代が変わったから』というような短期的な理由で、国家の規範が変更されないために憲法が存在している。そういう基本的な憲法の精神を無視している」と批判する。

 そして「この『買い替えよう』という考え方は、経済発展を遂げた日本で受け入れられやすい。簡単に改憲していいという風潮が広がる可能性がある」と憂慮する。

(以下略)
現憲法を「子どもの服」にたとえ、「♪いつまでも同じ服は着られない 大人になったらもう着替えよう♪」とする発想――まさしく唯物史観(史的唯物論・マルクス主義史観)的な発想であり、それに対する九大法学部の南野森教授の批判、そして何よりも文筆家・平川克美氏の「憲法には先人たちが積み上げてきた歴史的な英知が反映されている」の批判は、保守主義的発想というべきものです。

統一教会系の国際勝共連合は昔っから反共に熱を上げ、その一環として彼らの共産主義理解を開陳していますが、最近では『ほぼ5分でわかる勝共理論』なる動画シリーズを量産しているようです(本当に5分で分かるのではなく、1回5分程度の動画シリーズの模様)。そこで理解されている(勝共流の)唯物史観の発想は、まさに今回ネタになっている自民党職員の改憲ソングの発想と通底しています。すなわち、以下。
https://www.kogensha.jp/news_app/detail.php?id=2333
やがて、生産力がさらに向上すると、奴隷制度が逆に発展の妨げになってきました。労働者が奴隷のままでは効率が悪過ぎます。技術も発展しません。奴隷制度が時代に合わなくなってきたというわけです。それで、体が成長して服が小さくなったら新しい大きな服へと変えるように、社会は次の時代に発展しました。「生産力の向上」という物質的な変化によって、人間の意志とは関係なく社会が発展したというわけです。
社会の発展を「体が成長して服が小さくなったら新しい大きな服へと変えるように」と喩える勝共流の唯物史観の理解・発想と「♪いつまでも同じ服は着られない 大人になったらもう着替えよう♪」という自民党改憲ソングの発想。実によく似ています。

唯物史観の発想は、「社会は人間の意志とかかわりなく自然史的に発展してゆくのだから、科学の力を駆使して社会発展を把握し、人間がそれに合わせて諸制度を科学的・人工的に変革して行かなければならない」という結論に容易に至る発想ですが、それに反対する筆頭格が伝統主義・保守主義です。その核心的主張は、「生身の人間の『理性』や『科学』の力などタカが知れており、単なる『思い付き』の域を脱しないであろう。幾世代にも渡る試行錯誤の上で形成されてきた伝統的方法論は、先人たちが積み上げてきた歴史的な英知の結晶だから、これに依拠するべきだ」といったところになります。

その点、記事中で紹介されている「憲法には先人たちが積み上げてきた歴史的な英知が反映されている。『時代が変わったから』というような短期的な理由で、国家の規範が変更されないために憲法が存在している。」という文筆家・平川克美氏の批判は、保守主義的発想と通底していると言えます

保守政党と言われる自民党の職員が、勝共流とはいえ唯物史観的な発想に基づく改憲ソングを作る。それに対する3人の識者のコメントを掲載する上掲毎日新聞の批判記事では、うち2人が保守主義的発想を基点としている(革新主義的な批判コメントが掲載されていない点に注意!)。保革逆転というべき様相です。

ところで、毎日新聞批判記事の批判ロジックでいくと、「体が成長して服が小さくなったら新しい大きな服へと変えるように、社会の下部構造は次の時代に発展するので、それにあわせて諸制度を科学的・人工的に変革すべし」という唯物史観にもとづく社会変革論も、「『時代が変わったから』というような短期的な理由」に基づいている点において、「先人たちが積み上げてきた歴史的な英知」を軽視するもの、つまり、「唯物史観にもとづく社会変革論は『軽い』」という話になりそうです。保守主義がまさにそういう発想ですが、毎日新聞でこんな理屈を見ることになるとは思わなかった。。。
ラベル:政治
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2019年03月03日

経済封鎖解除要求が「一部」だったのか「全部」だったのかは会談評価の重要ポイント

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190303-00000033-jij-n_ame
正恩氏、核完全放棄提案に難色=16年以降の制裁解除要求−米紙
3/3(日) 14:19配信
時事通信

 【ニューヨーク時事】ハノイで行われた米朝首脳会談の初日に、トランプ大統領が核開発の完全放棄を提案、金正恩朝鮮労働党委員長はこれに難色を示した上で、2016年3月以降に国連安保理が発動した一連の制裁解除を求めていた。


(中略)

 これに対し、正恩氏は核完全放棄に直ちに踏み切れるほど、米朝の信頼関係は十分ではないと反論。16年以降、5回にわたり実施された国連制裁の解除を求めるとともに、見返りに寧辺の核施設廃棄を行う意向を示した。 

最終更新:3/3(日) 21:28
時事通信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190303-00000006-cnippou-kr
AP通信「今回は北朝鮮の主張が合っている…トランプ大統領が誇張解釈」
3/3(日) 12:03配信
中央日報日本語版

米国と北朝鮮が2回目の米朝首脳会談決裂をめぐり真実ゲームを行っていることに対し「今回は北朝鮮の主張が合っているようだ」という外信報道が出てきた。


(中略)

これに対しAP通信は「だれが真実を話しているのか」という問いとともに、米国政府関係者の話として「今回の場合は北朝鮮の話が合っているようだ」とした。

AP通信は「米国政府関係者も北朝鮮が要求したのは2016年3月以降に国連安保理が科した制裁解除を要求したと認めた(acknowledged)。これは10年またはそれ以上過去のすべての制裁を含むのではない」と明らかにした。

その上で、トランプ大統領が北朝鮮の要求を誇張して解釈したと指摘した。


(中略)

この当局者(注:アメリカ政府高位当局者)は「実務協議過程で米国が北朝鮮側に『民需経済と人民生活に支障を与える項目』に対する具体的な定義を要求したところ、基本的に武器を除いたすべての制裁を合わせたものということだった」と説明した。

その上で「私は彼ら(北朝鮮)が言葉遊びをしていると考える。彼らが要求したのは基本的にすべての制裁の解除だ」と付け加えた。
しかしAP通信は同当局者の解釈に対し、「北朝鮮は軍需関連制裁の解除を要求しなかった。北朝鮮は核兵器を自己防衛の手段だと主張するが、最小限核ミサイルと直接関連する制裁を受け入れるという立場」と分析した。

続けて「北朝鮮は軍需以外の制裁は邪悪だと考え交渉の対象として出したもので、北朝鮮が要求した制裁解除内容は確かに強力なものではあるが、トランプ大統領の主張のようにすべての制裁を解除しろと要求したのではない」と指摘した。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190301-00000093-mai-int
北朝鮮「一部制裁解除、米へ要求」 トランプ氏に反論、認識の違い浮き彫りに
3/1(金) 22:13配信
毎日新聞

 【ハノイ渋江千春、高本耕太】北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相は1日未明、ハノイで記者会見し、2回目の米朝首脳会談で示した米側への要求は「全面的な制裁解除ではなく一部解除だ」と主張した。「制裁の完全解除を求められた」というトランプ米大統領に反論した形だ。これを受けて米側は、北朝鮮側が大量破壊兵器開発に関連するもの以外の「すべての国連安保理の制裁解除」を要求したなど、より具体的な説明でトランプ氏の主張を補完。双方の認識の違いが改めて浮き彫りになった。

 韓国の聯合ニュースなどによると、李外相は「(首脳会談での交渉で)国連制裁の一部、民需経済や人民生活に支障をきたす項目の制裁を解除すれば、寧辺(ニョンビョン)のプルトニウムとウランを含む全ての核物質生産施設を米国の専門家らの立ち会いの下で完全に廃棄すると提案した」と述べた。具体的には国連安保理の制裁11件のうち2016〜17年に採択された5件を挙げた。


(中略)

 一方、米国務省高官はポンペオ長官の訪問先マニラで1日、北朝鮮側が会談で「寧辺核施設の一部閉鎖」と引き換えに「大量破壊兵器計画に関わる技術や機材を対象にしたものを除いた、16年3月以降に実施されたすべての(国連)制裁の解除」を要求したと述べた。また寧辺の「一部」が何を指すのか明確な説明はなかったとし、「(要求を受け入れた場合に)北朝鮮の兵器開発を巨額の資金で支援することになってしまう」と拒否の理由を語った。

 これに先立ちトランプ氏は2月28日、首脳会談後にハノイでFOXニュースのインタビューに応じ、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は「ある一定分野の非核化」を提示したが、「私はすべての非核化を要求した」と述べ、北朝鮮側が寧辺核施設に限定した措置を提示したのに対し、米国は完全非核化を求めたと明らかにした。

 トランプ氏は「意味のある進展がない限り制裁を解除したくなかった」と強調。完全非核化について「彼らは準備ができていなかったが、それはよく理解できる。(核)開発のために多くの時間をかけてきたのだから」とも語った。また「会談結果は満足できる内容ではなかった。彼(金委員長)も満足していないのではないか」とした上で、合意見送りの決定は「双方の判断だった」と主張した。


(以下略)
■経済封鎖解除要求が「一部」だったのか「全部」だったのかは会談評価の重要ポイント
共和国の経済封鎖(制裁)解除要求が「一部」だったのか「全部」だったのか――共和国のリ・ヨンホ外相らの「深夜の緊急会見」というインパクトからか日本メディアも速報的には報じたものの、その真意を捉え損ねたのか、その後はあまり深堀する気配が見られません。ようやく幾つかの記事が、米紙報道を引用する形で続報しているくらいです。

しかし、経済封鎖解除要求が「一部」だったのか「全部」だったのかは、今回の首脳会談が新たな合意には至らなかった結末を評価するにあたって重要なポイントになります。共和国側の経済封鎖解除要求が一部に留まるものであった場合、昨年6月の第1次首脳会談ドタキャン騒動の時点で出て来、当ブログでも何回か引用してきた下記指摘が描くストーリーに話が移るからです。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/05/post-10227_2.php
金桂冠は正しい、トランプは金正恩の術中にはまった
2018年5月23日(水)17時23分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)


(中略)

トランプは金正恩が絶対に受け入れない要求をすることで、この術中にはまった。首脳会談が中止か物別れに終われば、金正恩は、自分は誠実な呼び掛けをし、国際的な基準に沿った手法(段階的で同期的措置)を提案したのに、トランプがむちゃを要求したと主張するだろう。そして韓国とは別途、平和を探ろうとするだろう。それは韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領にとって、むげに断りにくい提案になるかもしれない。

(以下略)
段階的で同期的措置こそが国際的な基準に沿った手法――その点から考えれば、共和国の「段階的に核放棄するから、経済封鎖を民需経済に影響が及ぶ部分から段階的に解除してほしい」というのは、二国間の外交交渉としてはごく普通の要求と言えるでしょう。とくに朝米両国のように60年以上も敵対関係が続いてきた国同士が、たかだかこの1年やこそらの関係改善程度で核の完全放棄に出られるはずがありません。上掲時事通信記事中にある「正恩氏は核完全放棄に直ちに踏み切れるほど、米朝の信頼関係は十分ではないと反論」という一文は理解可能なご指摘です。事実として、アメリカはかなり信用ならない国です。共和国の要求は、それほど過大なものであるとは言えないでしょう。

そのように考えると、今回の首脳会談が新たな合意には至らなかった結末は、アメリカ側が「過大な要求を吹っかけてきた」と評価することができます。トランプ大統領がしきりに「経済援助」を口にし、共和国を釣り上げようとする様が露骨だった点を踏まえれば、札束で頬を引っ叩こうとしたとさえ言い得るものでした。

それに対して共和国は、3月1日づけ記事でも述べたように、安易な譲歩を行わず、同時に建設的な議論を続ける姿勢を鮮明にしました。共和国はそう易々とは釣られなかったわけです。

■依然として"Deal"
日本言論空間は、第1次首脳会談の時もそうでしたが、「北朝鮮がアメリカに頼み込んでいる」というストーリーで朝米交渉を理解していますが、上掲毎日新聞記事でトランプ大統領が合意見送りの決定について「双方の判断だった」としているように、彼は依然として朝米交渉を"Deal"として捉えていることを推察できます

いま日本言論空間で跋扈している「核放棄を求めるアメリカは、制裁解除を求める北の要求を突っぱねた」というストーリーは、見方を変えると、「経済封鎖(制裁)解除を求める共和国は、核放棄を求めるアメリカの要求を呑まなかった」であるとも言えます。なぜならば、これは「お代官様への請願」ではなく「対等な2国間交渉」だからです。事実、アメリカは共和国の非核化推進に今回は失敗し、かつ、経済面での封鎖強化に踏み出したわけではなく軍事面では米「韓」合同軍事演習の規模が縮小されたままになっています。

交渉の片方の当事者であるトランプ大統領自身が"Deal"として理解し言明し、その筋で行動しているのだから、日本言論空間も朝米交渉を"Deal"として捉えることをお勧めします
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2019年03月01日

安易な譲歩を行わず、同時に建設的な議論を続けた朝米両国;第2次朝米首脳会談を終えて

2回目の朝米首脳会談は、さしたる成果なく全日程を消化しました。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190228-00000089-yonh-kr
北朝鮮が制裁解除求めたが応じられず 会談終えトランプ氏会見
2/28(木) 17:10配信
聯合ニュース


(中略)

 トランプ大統領は「(北朝鮮は)相当多くの部分で非核化の意思があったが、完全に制裁を解除させる準備はできていなかった」として、「制裁の解除を望んだが、私たちが望んだものをくれなかった」と述べた。

 また、「現在、制裁が維持されている」として、「金委員長、北朝鮮と引き続きよい友人関係を維持する」とした。

最終更新:2/28(木) 18:37
米韓合同軍事演習や経済制裁についても、相変わらず次のような返答に留まっています。
https://www.yomiuri.co.jp/world/20190301-OYT1T50110/
米朝首脳会談 トランプ大統領の記者会見要旨

(中略)

 ――韓国との軍事演習の再開は。

 トランプ氏 軍事演習はしばらく前にやめた。やる度に1億ドルの費用がかかるからだ。我々はグアムから巨大な爆撃機を飛ばしている。ある将官は「グアムから飛行させている。すぐ近くですよ」と言った。すぐ近くというのは7時間かかるところで、彼らは爆弾を落とし、戻っていく。

 軍事演習に何億ドルも費やしており、私はそれを見るのが嫌だ。不公平だと思った。率直に言えば、韓国は費用の面で我々を助けるべきだというのが私の意見だ。我々は韓国を守っている。


(中略)

 ――北朝鮮への制裁強化は。

 トランプ氏 それはコメントしたくない。言えるのは、我々はすでに大変強力な制裁を科しているということだ。制裁強化は話題にしたくない。北朝鮮には生活しなければいけない多くの人々がいる。私にとっても重要なことだ。私の考え方は、金委員長を知ったことで全く変わった。北朝鮮の人々にも彼らなりの考え方がある。


(以下略)
朝米双方、前進もなければ後退もなしといったところでしょうか。

■共和国もまた「安易な譲歩を行わず、同時に建設的な議論を続けた」
早速、日本の安倍首相がアメリカを「全面支持」するコメントを発表しています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190228-00000611-san-pol
安倍首相「安易な譲歩せず決断、全面支持」 トランプ氏と電話会談
2/28(木) 20:17配信
産経新聞

 安倍晋三首相は28日夜、トランプ米大統領と電話会談し、ベトナムで同日開かれた米朝首脳会談について意見交換した。安倍首相は会談後、記者団に「安易な譲歩を行わず、同時に建設的な議論を続け、北朝鮮の具体的な行動を促していくトランプ氏の決断を全面的に支持する」と記者団に語った。


(以下略)
日本は「アメリカ側」の国なので、その立場からこういう発言が出てくるのは理解できるところですが、安易な譲歩を行わず、同時に建設的な議論を続け」たという点においては、共和国もまた同じであるといえます。いやむしろ、「国境の壁」で大忙しで、さらに「ロシア疑惑」が大炎上の様相を呈しているトランプ米政権にとっては、朝鮮半島情勢は政治課題としての優先度は高いとは言い得ない一方で、共和国は最近では以下のような発表を自ら行っている点、アメリカと比して朝米交渉の重要性・優先度は高いというべきでしょう。しかしそれでも、共和国は「安易な譲歩を行わず、同時に建設的な議論を続けた」わけです。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190222-00000080-reut-kr
北朝鮮が国際社会に食料危機を警告、配給はほぼ半減=メモ
2/22(金) 18:22配信
ロイター

[国連 21日 ロイター] - 北朝鮮は、今年食料が140万トン不足し、配給をほぼ半減せざるを得ない状況と警告した。ロイターが21日に閲覧したメモで明らかになったもので、高温、干ばつ、洪水、国連による制裁を理由に挙げている。

メモは2ページにわたっており、日付は記載されていない。北朝鮮国連代表部が公表した。

メモは「北朝鮮政府は各国際機関に対し、食料の現状に緊急に対処するよう求める」としている。北朝鮮国連代表部は、このメモは昨年11月26日から12月7日に行った世界食糧計画(WFP)との合同調査の続報としている。WFPはコメントを控えた。

メモによると、昨年の食料生産量は495万1000トンで、17年を50万3000トン下回ったとしている。国連はこの数字が1月末に提供された公式政府統計であることを確認。
(以下略)
食糧生産には不利な地理条件である朝鮮半島北部においては、いままさにキム・ジョンウン委員長肝いりの国土管理事業・山林復旧戦闘の真っ最中。「高温、干ばつ、洪水」が猛威を振るっているということは容易に推察できるところですが、それにとどまらず、自ら「国連による制裁」を理由として挙げているのは注目点です。

共和国は、彼ら自身が誇りをもって公言してきたように、アメリカを中心とする帝国主義勢力の悪辣な封鎖策動・「制裁」策動によって苦難に直面しながらも、万難を排して国の自主性を守るために国家核武力の整備に邁進してきました。共和国においては、国の自主性を守るという大義名分のもと、「今日のための今日に生きるのではなく、明日のための今日に生きよう!」や「行く手は険しくとも笑って行こう!」といった各種のスローガンが展開されてき、人々は貧しさに耐える生活を送ってきました。国家核武力の整備は、共和国のような小国にとっては過大・過酷な負担でした。客観的に見てもそうだし、彼ら自身がそう言っている(そして、それを乗り越えたという誇りを持っている)のだから間違いのないことでしょう(しばしば立てられる「北朝鮮に対する”国際社会”の制裁は効いたのだろうか?」という問いに対して私は「制裁は効いた。しかし、音を上げることなく歯を食いしばって耐え、乗り越えた」とお答えしたい)。

しかし、そうした先軍政治以来の貧しさに耐える生活は、国家核武力の完成によって終わりを告げたというのが共和国の公式見解です。今や最高指導者自身が国家核武力の完成によって経済建設に全力を集中させると公言しています。そうである以上は、経済状況改善が必要とされるところです。すくなくとも、改善されないまでも悪化は避けたいところでしょう。

共和国は昔から、あるときは友好的笑顔をみせて「相手国の厚意」という形で、またあるときは強硬姿勢を示して「見返り」を求めることで、またまたあるときは苦境を告白し「支援」を要請することで、その時に己が必要とするモノや条件を勝ち取ってきました(いま南米・ベネズエラが痩せ我慢的に支援拒否を展開しているのとは対照的です)。

いまこのタイミングで「国連による制裁」を告白してきた事実は、このタイミングで朝米首脳会談が開かれる背景・文脈を示していると言えるでしょう。朝米首脳会談は、共和国にとっては「いま必要なモノ」。対米関係改善によって経済建設の突破口を開くための手段として位置づけていたことは容易に想像できるところです。しかしそれでも、共和国は「安易な譲歩を行わず、同時に建設的な議論を続けた」わけです。

■「共和国の核放棄と在韓米軍撤退・経済封鎖解除の同時実施」という核心を論じない限り、交渉は決して前進しないだろう
アメリカが求めているのが「北朝鮮の非核化」であり、そのために軍事的・経済的封鎖を実施しているのに対して、共和国が求めているのは「朝鮮半島の非核化=在韓米軍の撤退」であり、また、軍事的・経済的封鎖解除を求めています。昨年5月31日づけ「「飼い犬」が「ご主人様」に対して「釘をさす」「念を押す」??」で指摘したように、共和国の核武装化と在韓米軍の存在・北侵演習はセットの関係です。また、共和国の自衛的核武力整備と、それに対する軍事的・経済的封鎖もセットの関係にあります北侵演習は凍結状態ですがいつ再開されるとも限らず、また在韓米軍は健在です。いまこの時点では、共和国が一方的に武装解除することは出来ない相談です。ここで安易に譲歩するようでは、いままでの苦労が水の泡。だからこそ、共和国もまた「安易な譲歩を行わず、同時に建設的な議論を続けた」わけです。

当該記事で私は、「「在韓米軍の撤退」は「安易な妥協」などではなく、まさに"Deal”において正面から取り扱うべき重要なテーマであると言えるでしょう。」と述べました。朝米首脳会談・朝米交渉の核心は「共和国の核放棄と在韓米軍の撤退の同時実施」です。また、在韓米軍撤退という軍事的封鎖の解除と同時期的な経済的封鎖解除です。今回そうした方向に話が進まずに「共和国の核放棄」だけが一方的に議題化されたのであれば、交渉の核心を論じていないのだから新たな合意に至らなかったのも当然でしょう。「共和国の核放棄と在韓米軍撤退・経済封鎖解除の同時実施」という核心を論じない限り、交渉は決して前進しないでしょう。

■交渉が新たな合意に至らなかった背景には、「内需充足経済・自立的民族経済」?
交渉が新たな合意に至らなかった背景には、ある意味において共和国が「封鎖慣れ」し、期せずして「内需充足経済・自立的民族経済」が確立しつつあることも寄与しているのかも知れません。韓「国」紙『中央日報』は次のように報じています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190227-00000046-cnippou-kr
交易崩壊した北朝鮮…「崖っぷちの経済」金正恩氏、「サプライズプレゼント」取り出すだろうか
2/27(水) 18:23配信
中央日報日本語版

昨年、北朝鮮の対外交易が崩壊水準に達したことが分かった。経済制裁による交易の萎縮が経済危機につながる可能性が大きくなり、米朝対話を通した脱出口作りに出たという分析もある。


(中略)

一方、北朝鮮への制裁が対外交易には打撃を与えたが、北朝鮮の住民の暮らしには特別な影響がなかったという分析もある。北朝鮮への制裁で無煙炭の輸出が振るわなくなると、これを自国内の火力発電に供給するなど、平壌など主な都市に電力供給がむしろ円滑になったのも確認された。また、昨年は2017年と違い、干ばつの影響を受けなかったために水力発電を通した電力生産も増えたということだ。

経済制裁以来物価が5年間に3倍に高騰したイランと異なり、北朝鮮は市場物価も安定した姿を見せた。北朝鮮の市場物価を代表する米の価格は2017年1キロ当たり6000ウォンを上回り、2018年に入ってからは5000ウォン台に下落した。

キム研究委員は「石炭生産地域では輸出の道が封じられると、ビニールハウスの野菜栽培が活発になったという便りがある」として「石炭で火をたいてビニールハウスの農作業に活用したもので、これは経済制裁による被害を市場が緩衝している可能性を見せる事例」と説明した。

最終更新:2/27(水) 18:23
キム・ジョンウン委員長が国策として推進している市場経済の導入が、経済封鎖に対する緩衝材として役割を発揮しているという指摘であり、期せずして「内需充足経済・自立的民族経済」が循環していることを示していますキム・ジョンイル総書記は『チュチェ思想について』で次のように指摘されましたが、それを実践しているとも言えます。
経済は社会生活の物質的基礎です。経済的に自立してこそ、国の独立を強固にして自主的に生活し、思想における主体、政治における自主、国防における自衛をゆるぎなく保障し、人民に豊かな物質・文化生活を享受させることができます。

経済における自立の原則を貫くためには、自立的民族経済を建設しなければなりません。

自立的民族経済を建設するというのは、他国に従属せず独り立ちできる経済、自国人民に奉仕し、自国の資源と人民の力によって発展する経済を建設することを意味します。
(中略)また国際関係において政治的、経済的に完全な自主権と平等権を行使し、世界の反帝・自主勢力と社会主義勢力の強化に寄与することができます。とくにかつて帝国主義の支配と略奪によって経済的、技術的に立ち後れていた国ぐににおける自立的民族経済の建設は、死活の問題として提起されます。これらの国では自立的民族経済を建設しなければ、帝国主義者の新植民地主義政策を退けてその支配と搾取から完全に脱することはできず、民族的不平等を一掃して社会主義に向けて力強く前進することもできません。
こうした背景もあって、今すぐに制裁解除を懇願しなければならないというほどではないのでしょう

昨年5月17日づけ「筋を通し公開的に言質を取った共和国」でも触れたように、第1次首脳会談前から共和国は「米国はわれわれが核を放棄すれば、経済的補償や恩恵を与えると騒いでいるが、われわれは米国に期待して経済建設を進めたことは一度としてなく、今後もそのような取引を決してしないだろう」(5月16日づけ朝鮮中央通信)と言明してきました。トランプ米大統領は今回、非核化の見返りとしての経済援助を前面に押し出して共和国を釣り上げようとしていたようですが、共和国はその手には乗らなかったわけです。

この見方は、意外なことに産経新聞も下記のとおり取り上げているところです。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190228-00000624-san-n_ame
悔しさにじむ「ディールの名手」 トランプ氏、北読み切れず
2/28(木) 21:17配信
産経新聞

 トランプ米大統領は28日、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との再会談終了後の記者会見で、協議の様子を「とても友好的だった」と述べ、今回は物別れに終わったものの、交渉は継続していく姿勢を強調した。不動産開発で一大帝国を築いた自信から「ディール」(取引)の名手を自負しながら、北朝鮮側の対応を読み切れなかった悔しさが感じられた。

 トランプ氏は再会談に先立ち、北朝鮮が非核化すればベトナムのように繁栄するだろうとし、「その潜在力はすごい」と指摘。金氏を「私の友人」と呼ぶなどして持ち上げ、友好ムードの演出に余念がなかった。

 27日の夕食会では、シンガポールでの初回会談を「大きな成功だった」と自賛し、「今回も同等かそれ以上の成功を期待している」とも言及していた。

 それだけに、記者会見でのトランプ氏は、落胆と疲れを隠さなかった。約40分間にわたり、米国や外国の記者を指名しながら質疑応答を受け付けたが、弁解口調に終始。北朝鮮の非核化に向け歴代米政権が自分ほどの成果を挙げてこなかったも述べ、自己弁護した。


(以下略)
この手の「釣り」にかけては実業家時代から得意としてきたであろうトランプ大統領と渡り合ったキム・ジョンウン委員長の冷静な状況判断力は、なかなかのものです。

■交渉が新たな合意に至らなかったことによる朝米両国の指導者への影響について
交渉が新たな合意に至らなかったことによる朝米両国の指導者への影響について考えておきたいと思います。

トランプ米大統領については、前回会談の評判が「北朝鮮の思うツボの結果になった」といった具合にすこぶる悪く、今回もホイホイと譲歩するのではないかと危惧されていたので、「何も進まなかった」ことはむしろ加点要素になるかも知れません。昨晩からの各種報道をザっと読んだ限りでは、だいたいそんな論調であります。第1次首脳会談のときの期待外れの鬱憤を晴らしているのか、「調子に乗って楽観視しすぎた金正恩の負け」を連呼している観があります。

しかし、面白いことに、そういう論調の先陣を切りそうな産経新聞がトランプ大統領に厳しい評価を下しています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190228-00000589-san-n_ame
北非核化への道、一層険しく 秘密施設の開示に踏み出せず
2/28(木) 18:45配信
産経新聞


(中略)

 しかし、昨年6月のシンガポールでの初会談に続き、トランプ政権が目指しているはずの「全面的かつ検証可能な非核化」からは依然、程遠い結末に終わったことで、報道陣からは厳しい質問が相次いだ。

 今回の会談で改めて鮮明となった最大の問題点は、金正恩氏が自国の核兵器や弾道ミサイルの戦力、核施設の存在を開示し、国際査察を受け入れて廃棄する意思を依然、固めていないということだ。


(中略)

 トランプ氏とポンペオ国務長官はこの日の記者会見で、米側は首脳会談でこれらの基地や施設に言及。トランプ氏は「北朝鮮はわれわれが知っていることに驚いていた」と語った。北朝鮮側の態度は「北朝鮮は核を体制維持に不可欠とみており、非核化の可能性は低い」とする米情報機関の分析を裏付けるもので、非核化交渉の前途は極めて厳しいといわざるを得ない。

 また、昨年相次ぎ中止された米韓による大規模合同軍事演習について、トランプ氏が「しばらく前に諦めた」として今後の実施に否定的な考えを示したことが、朝鮮半島有事の即応態勢に関する日米韓の不安を拡大させるのは確実だ。

 一方で、トランプ氏が今回、金正恩氏から「核・弾道ミサイル実験を引き続き行わない」との言質を引き出したとしていることは、数少ない成果といえる。

 弾道ミサイルを信頼性のある兵器として配備するには発射実験を数十回、繰り返す必要があるが、米本土に到達可能とされる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の「火星14」(射程8千キロ以上)は2回、「火星15」(1万2千キロ以上)は1回の発射実験しか行われておらず、実用化には程遠い。

 その意味でミサイル発射の凍結が「米国をより安全にする」というトランプ氏の主張は全くの嘘ではない。しかし、非核化に結びつく実質的な合意がいつまでもできないようであれば、交渉の瓦解(がかい)は必至だ。トランプ政権は剣が峰に立たされつつある。(ワシントン支局長 黒瀬悦成)

最終更新:2/28(木) 22:14
思えば私も、第1次首脳会談の時にはキム・ジョンウン委員長の快挙を喜びながらも、そんなことで舞い上がっていてはならないと「勝って兜の緒を締める」姿勢を取りました。「北朝鮮の完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」(CVID)を目指す日本の国益的立場に立てば、1回の会談での勝った負けたなどどうでもよく、第1次首脳会談のときの期待外れの鬱憤を晴らしている場合ではありません。

些か浮かれている日本言論の風潮と比して産経新聞の見解はかなり厳しいものですが、冷静に考えてみると、これこそが今回の第2次首脳会談におけるトランプ米大統領の獲得物に他ならないと言えるでしょう。もっとも、それ以前に国境の壁問題・ロシア疑惑問題でそれどころではないのかもしれませんが・・・

キム・ジョンウン委員長については、下記産経新聞記事をネタに考えてみたいと思います。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190228-00000601-san-kr
トップダウン戦略が裏目…正恩氏、最大の危機に
2/28(木) 19:51配信
産経新聞

 【ハノイ=桜井紀雄】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は「制裁解除」ありきでトランプ米大統領とのハノイでの2回目の会談に臨んだ。しかも十分な実務者協議なしにトランプ氏の決断に全てを委ねる賭けに出たことが裏目に出た。今回の会談失敗は、金氏にとって最高指導者就任以来の重大危機ともいえそうだ。


(中略)

 北朝鮮は金氏の今回の長期外遊を政権高官の寄稿文などで「大長征」と持ち上げて国内向けにも大宣伝し、成果に対する住民らの期待をあおった。28日には、両首脳の初日の会談で「全世界の関心と期待に即して包括的で画期的な結果を導き出すため、意見が交わされた」とメディアで大々的に報じていた。

 米側に制裁の撤回を突き付けた新年の辞は最高指導者の公約といえ、金氏にとって制裁問題での譲歩は難しい。金氏は退路を断つ交渉戦術で自らを窮地に追い込んだ形となった。

最終更新:2/28(木) 20:14
退路を断つ交渉戦術で自らを窮地に追い込んだ」と描く産経新聞ですが、こうした展開については第1次首脳会談前から既に「準備」がなされていると見るべきであり、その点においては産経新聞の目算は外れると思われます。昨年5月26日づけ「「寛大さ」と「アメリカの無茶の被害者としてのワタシ」を描き出すキム・ゲグァン談話の戦略性」で引用したNewsweek Japanの記事は既に次のように指摘しています。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/05/post-10227_2.php
金桂冠は正しい、トランプは金正恩の術中にはまった
2018年5月23日(水)17時23分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)


(中略)

トランプは金正恩が絶対に受け入れない要求をすることで、この術中にはまった。首脳会談が中止か物別れに終われば、金正恩は、自分は誠実な呼び掛けをし、国際的な基準に沿った手法(段階的で同期的措置)を提案したのに、トランプがむちゃを要求したと主張するだろう。そして韓国とは別途、平和を探ろうとするだろう。それは韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領にとって、むげに断りにくい提案になるかもしれない。

(以下略)
共和国は、第1次首脳会談以降、アメリカが豹変して軍事的圧力路線に回帰する危険性がある以上は警戒心を解くわけには行かない一方で、平和局面・融和局面をブチ壊すようなこともできないという難しい立場に立たされてき、アクションを取ってきました。しかし、今回のトランプ米大統領の要求は、こうした共和国の努力に対して低評価を下したものと言えます。共和国にしてみれば、まさに「自分は誠実な呼び掛けをし、国際的な基準に沿った手法(段階的で同期的措置)を提案したのに、トランプがむちゃを要求した」といったところでしょう。

まったく同じことを以前にも書きましたが、譲歩という意味で共和国が一歩先んじているにもかかわらずアメリカがイチャモンつけ的に応対しないという展開は、共和国にあっては、「金正恩の北朝鮮における権威は失墜」するというよりもむしろ、「我々の誠実の譲歩に対して不誠実な対応で応えるアメリカ帝国主義の無礼さ」に対する敵対意識が強まり、逆にその結束が固まると見るべきでしょう。

共和国は特に「我々」意識が強い御国柄です。キム・ジョンウン委員長個人がどうこうというよりも、「我々に対する侮辱」と受け止めることでしょう。共和国は建国以来のほとんどの時期を対米対決の中で過ごし、アメリカに対する敵対思考は既に染みわたっています。人間は、内部での対立よりも外敵との闘争の方に注意をひかれるものです。「我々vsアメリカ帝国主義」という構図を補強することでしょう。

共和国は既に第1次会談ドタキャン騒動の時点で、交渉が上手くいかなくても自己を正当化できるストーリーを周到に用意していたわけです。

■総括
今回の第2次朝米首脳会談は、朝米両国ともに前進もなければ後退もなく、お互いに安易な譲歩を行わず、同時に建設的な議論の関係性を続けた、いわば「繋ぎ」の会談でした。共和国はアメリカが思っているほど釣り上げ易いサカナではなく、アメリカは共和国にとって相変わらず手強い交渉相手ということが改めて判明したにとどまりました。
posted by 管理者 at 20:09| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする