加盟店との利益配分見直し=「対応不十分だった」−ミニストップ■「加盟店と本部の利益配分」という切り口に立ったことは評価できる
4/23(火) 11:17配信
時事通信
イオン傘下のコンビニエンスストア大手ミニストップは23日、加盟店との収益分配の見直しを検討すると発表した。詳細については今後詰める。
同社は「加盟店との関係や雇用問題など、社会環境の変化への対応は十分ではなく真摯(しんし)に反省している」と指摘。その上で「加盟店と本部の利益配分の在り方を含めたフランチャイズビジネスそのものの変革を進める」と強調した。
(以下略)
以前から当ブログでもコンビニ等小売業における年中無休・24時間営業について取り上げてきました。私は、「全体から見れば少数かも知れないが、そのタイミングでそれを必要とする消費者・せざるを得ない消費者が社会には存在する」という点において、年中無休・24時間営業の継続を原則として支持しつつ、他方、従業員に対して多大な負担をかけていることも事実である以上は、消費者運動と労働運動が連携して「組織としては年中無休:24時間・365日営業であるが、労働者個人としては十分な休暇・休養を取ることが出来る」ようにすべく企業・資本側に要求を展開してゆくことが必要だと述べてきました。
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その観点から申せば、ミニストップの具体的な行動計画は現時点では公表されていないので詳しく論評することは出来ませんが、「加盟店と本部の利益配分」という切り口に立ったことは評価できると思います。「組織として年中無休:24時間・365日営業」を実行するためには、本部ぐるみの組織的体制の構築は不可欠であり、その核心は「利益配分の在り方」になるからです。加盟店に対してより多くの利益を配分するよう改めれば、人材確保等のための余裕も増えるはずだからです。
■企業も競争に晒されていることを忘れてはならない――マルクス『資本論』における「競争の強制法則」
上掲時事通信記事には、オーサーコメントとして店舗経営コンサルタントである佐藤昌司氏のコメントが掲載されています。
加盟店オーナーの状況改善において、利益配分の見直しを検討するというのは評価できます。これが一番実効性のある対策だと感じます。24時間営業を取りやめることや大量出店・ドミナント出店をやめることは必ずしも競合他社が同じようにやめるとは限らないという問題などがあり実効性が乏しいといえますが、利益配分の見直しは基本的には競合他社の影響を受けずに1社単独で行える施策のため実効性が高いといえます。経営指導料(チャージ)の減額や店舗人件費の一部を本部も負担することなどが考えられます。(以下略)おおよそ私の意見と同じですが、一点気になるところがあります。「利益配分の見直しは基本的には競合他社の影響を受けずに1社単独で行える施策」という部分です。
「24時間営業を取りやめることや大量出店・ドミナント出店をやめることは必ずしも競合他社が同じようにやめるとは限らないという問題などがあり実効性が乏しい」という認識はたしかにそのとおりです。企業も競争に晒されています。しかし、それをいうなら利潤=企業成績に直結する利益配分問題も同様でしょう。
マルクスは『資本論』において、搾取について、「個々の資本家の意志の善悪に依存するものではな」く、「自由競争は資本主義的生産の内在的諸法則を個々の資本家にたいして外的強制法則として貫徹させる」と述べています(マルクス・エンゲルス(向坂訳)『資本論(二)』、岩波文庫、p159)。いわゆる「競争の強制法則」です。なお、利益配分問題は階級闘争における中心的関心事です。『資本論』は、資本主義社会における利益配分問題の背景を理論的に探る著作といってもよいものです。
企業経営者は、株主・投資家たちの厳しい目と要求に直面しています。また、株主・投資家たちの引き揚げ決断スピードは、ほぼ習慣的に来店する一般消費者とは比にならないほど迅速です。企業経営者は、株主・投資家対策として利潤獲得のためにこそ競合他社の動向から目が離せない状況に置かれています。また、現実の市場は、(経済理論的な意味での)「完全競争市場」ではなく、競合他社の動向に自己の行動を制約されているstrategic situationです。「利益配分の見直しは基本的には競合他社の影響を受けずに1社単独で行える施策」とは、とても言えないのが実態でしょう。
■「悪人黒幕論」に繋がりかねない危険な発想
競争の強制法則に直面させられている企業の行動について、その構造的部分への分析を軽視し、安直にも「1社単独で行える施策がある」としてしまう佐藤氏のような発想は危険な発想です。これは「それにもかかわらず実行しないのは企業経営者の悪意があるからだ」という主張に繋がります。不都合・不愉快な現実の原因を特定の個人や組織に帰着させる発想、「悪人黒幕論」の発想です。またこれは、「悪人を排除すればよい」とか「善人が全権を持てば万事解決する」といった粛清論・救世主による合理主義的救済論にもつながるものです。
マルクスが言うように搾取が自由競争によって強いられているものであり、個々の資本家の意志の善悪に依存するものではなく、個々の資本家のみの手に負えるものでないとすれば、「悪人」を黒幕論とすることはできないし、それを排除して善人が全権をもったところで解決するわけがないのです(俗流化されていないマルクス経済学の発想って、こういう時にはすごく役に立つんですよね〜)。
■総括と展望
利益配分問題は階級闘争における中心的関心事です。利益配分問題は「経済問題の中の経済問題」です。その点、利益配分問題に斬り込むというのは、壮大ではあるものの正しい道です。しかしそれは、「基本的には競合他社の影響を受けずに1社単独で行える施策」とは言い難い厳しい道です。加盟店と本部の力関係が逆転して加盟店が加盟先を選り好みできるような市場環境になり、それゆえ市場全体が加盟店への利益配分を増やすトレンドでない限り、1社が単独で利益配分比率を変更すれば「あちらを立てればこちらが立たず」。今度は株主・投資家たちから不満の声が上がり行き詰ることでしょう。利益配分の見直しは、「特殊な条件が揃って初めて競合他社の影響を受けずに1社単独で行える施策」というべきです。
業界全体が利益配分問題について、足並みを揃えて同時対応することが求められるといえます。もちろん、利害調整は難航することでしょう。「24時間営業を辞めればいい!」なんてのは安直も甚だしく論外ですが、そもそも利益配分問題は「経済問題の中の経済問題」なのだから、そう簡単に解消するようなものではないのです。まずは、消費者運動と労働運動を広範囲で連携させ、個別の企業に対してではなく業界全体に対して「組織としては年中無休:24時間・365日営業であるが、労働者個人としては十分な休暇・休養を取ることが出来る」ようにすべく企業・資本側に要求を展開してゆくことが必要でしょう。
なお、マルクスは『ゴータ綱領批判』において、「いわゆる分配のことで大さわぎをしてそれに主たる力点を置くことは、おそよ誤り(中略)消費手段のそのときどきの分配は生産諸条件のそのものの分配の結果に過ぎない」(新日本出版、p31)としたうえで、「資本主義的生産様式は、物的生産諸条件が資本所有や土地所有という形で非労働者たちに配分されているが、(中略)生産の諸要素がこのように分配されているならば、消費手段のこんにちのような分配がおのずから生じる。物的生産諸条件が労働者自身の協同組合的所有であるならば、同じように、こんにちのものとは異なった消費手段の分配が生じる」(同頁)としました。
この指摘を踏まえるに、利益配分問題は究極的には生産様式の問題、所有形態の問題にならざるを得ないでしょう。この点こそ、私が以前より「自主権の問題としての労働問題」を「自主管理」の問題と直結させてきた理由であります。