2019年06月30日

朝米関係急展開

「外交過程で即断や一喜一憂してはならない。背景や伏線を解読しなければならない。」というのが私の基本的認識ではあるのですが、それでも今日の動きは特筆すべきものだと言えます。

■「同時並行の原則」が確認された!
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190630-00000057-kyodonews-int
米朝合意の同時、並行履行を確認
6/30(日) 13:41配信
共同通信

 【ソウル共同】韓国の文在寅大統領はトランプ米大統領との会談で、米朝がシンガポールでの合意に従い、朝鮮半島の完全非核化と平和構築、米朝関係正常化を「同時、並行的に」進めることが重要だとの意見で一致したと述べた。
「同時並行の原則」は、ハノイ会談直後の朝米間の応酬でも見られたとおり、両国間の大きな溝であります(3月3日づけ「経済封鎖解除要求が「一部」だったのか「全部」だったのかは会談評価の重要ポイント」参照)。共和国側は、同時並行の原則を提唱して経済封鎖(経済制裁)の段階的解除を要求してきましたが、アメリカ側は、一括ビッグ・ディールを主張してきました。

米朝がシンガポールでの合意に従い、朝鮮半島の完全非核化と平和構築、米朝関係正常化を「同時、並行的に」進めることが重要だとの意見で一致した」というのは、共和国側の要求を呑む形だと言えます。おとといの記事でも書きましたが、これはかなり大きなニュースだと言えるでしょう(興味深い親書の内容ってこれだったのかな?)。

もちろんトランプ大統領が目指しているのが「最終的かつ完全に検証された非核化」なのは変わっていないようです。寧辺核施設も「一つの段階」に過ぎないとしています。しかし、その点を差し引いても「朝鮮半島の完全非核化と平和構築、米朝関係正常化を「同時、並行的に」進める」と言わしめたのは画期的なことです。朝米交渉の契機になることでしょう。

■トランプ大統領の「訪朝」と直々のホワイトハウス招待の意味
そしてトランプ大統領の「訪朝」と直々のホワイトハウス招待。「元帥様すごい!」という感想を禁じ得ません!
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190630-00000042-yonh-kr
[速報]トランプ氏 北朝鮮側に越境=米大統領では史上初
6/30(日) 15:47配信
聯合ニュース

[速報]トランプ氏 北朝鮮側に越境=米大統領では史上初
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190630-00000077-kyodonews-int
トランプ氏、金正恩氏をホワイトハウスに招待
6/30(日) 16:05配信
共同通信

 【ソウル共同】CNNテレビによると、トランプ米大統領は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長をホワイトハウスに招待した。
今回の面会は「顔つなぎ」くらいにしかならないものですが、アメリカの現職大統領を自国側に招いたこと。それも共和国側が要請したのではなく、アメリカ側から「近くまできたので是非ともお会いしたいのですが、お時間ありますか?」と申し出させたこと。さらに、トランプ大統領に「今度ホワイトハウスに来てくださいよ」と言わせたこと。キム・ジョンウン委員長の威信にとって大きなプラス材料になります。

もちろん、同時にこのことは、トランプ大統領は商売人流の手法でハードルを上げてきたとも言えるでしょう。DMZ訪問・朝米首脳再会の事実を同時並行の原則の確認と併せて考えると、トランプ大統領としては相当譲歩した形になるので、キム・ジョンウン委員長としても何らかのアクションを取らざるを得なくなってくることでしょう。

アメリカは数週間以内に実務交渉チームを編成するとのこと。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190630-00000061-yonh-kr
[速報]トランプ氏「数週間以内に対北実務交渉チーム構成」
6/30(日) 17:09配信
聯合ニュース

[速報]トランプ氏「数週間以内に対北実務交渉チーム構成」
事前すり合わせをしているのかが疑わしいトップ・ダウン式交渉ではなく、実務チーム型での交渉が再開する模様です。

■日中韓の影について
米中関係とも関連付けて見ておくとよいかもしれません。いま米中両国は激しく対立していますが、自国主導を大前提としつつも落としどころを探り合っているところです。特に中国は、まだアメリカと全面対決して勝てるほどの国力ではないことを自分たちでもよく分かっているので、いずれ絶対的覇権を握りたいとは思っていても、いましばらくは雌伏の時であり、「米中協調」が必要不可欠だと十分に承知しているはずです。「米中協調」の象徴として米中関係改善の契機として共和国が使われた可能性が考えられます。

先日の習近平・中国共産党総書記(中国国家主席)の訪朝は、26日づけ記事でも強調したとおり、社会主義国間の結束と友誼関係を強烈に印象付けるものでした。中国の対米外交において共和国が手札として存在していることを示すものでした。今回の板門店面会は、中国の積極的仲介(この間まで韓「国」が果たしてきた役割)によるものという可能性が考えられるというわけです。

会談は53分間にわたったとのこと。本当に急にきて会えて、50分以上も話せるとは考えにくいところです。会って話をするための事前準備があり、あとはチャンス・タイミングをはかっていた最中にアメリカ側から面会の申し出があったとみるべきですが、こうした準備を中国に隠す理由・必要性が共和国にはありません。アメリカ側との接触を希望していること、そして接触できた場合にどんな話をするつもりなのかについて事前に中国側に話を通しているはずで、中国側も積極的に支持していることでしょう
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190630-00000062-yonh-kr
米朝首脳 板門店で事実上の3回目会談=53分間
6/30(日) 17:13配信
聯合ニュース

【ソウル聯合ニュース】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党委員長)とトランプ米大統領は30日、板門店の韓国側施設「自由の家」で、事実上の3回目の米朝首脳会談を行った。


(中略)

 施設内ではトランプ氏と金正恩氏がそれぞれ発言した後、報道陣が外に出た。会談は53分間、行われた。
別の見方が早々とでてきているとのこと。曰く、中国が共和国を対米交渉の手札としたのを受けてアメリカが手札潰しのために共和国と直接コンタクトを取って来、それに共和国が(ある意味において中国を裏切り、乗り換えて)応えたという見方のようです。

私個人としては、その可能性は低いと考えます。共和国の多角外交は、列強間の覇権争いをうまく利用することです。この見立ては、いくら朝中関係や外交一般が国益重視のドライなものだといっても、あまりにも露骨な乗り換えっぷりであり、「コウモリ外交」の度が過ぎるので、考えにくいわけです。

ちなみに、韓「国」は一所懸命に仲介者たらんとしていますが、板門店までの道案内役に留まりました。そして日本は影さえも登場する機会がありませんでした。
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2019年06月28日

結構な大ニュースかも・・・

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190628-00000585-san-kr
米特別代表、北との合意を「同時・並行的に進展」
6/28(金) 17:39配信
産経新聞

 【ソウル=桜井紀雄】27日から韓国を訪れている米国務省のビーガン北朝鮮担当特別代表が28日、韓国外務省の李度勲(イ・ドフン)朝鮮半島平和交渉本部長と会談し、米朝両首脳が昨年6月の会談で交わした共同声明の内容を「同時的・並行的に進展させるために北朝鮮側と建設的な論議をする準備ができている」と述べた。韓国外務省が明らかにした。

 北朝鮮に対し、完全な非核化に向けた措置を一方的に要求するだけでなく、非核化措置に応じて北朝鮮の体制保証や両国関係の改善案といった「相応の措置」を取る用意があることを示唆し、北朝鮮に実務協議に応じるよう促した形だ。

 だが、北朝鮮は外務省の報道官や北米局長が26、27日と相次ぎ談話を出して制裁の効果を強調したポンペオ米国務長官を非難したり、米側に交渉担当者の交代や「まともな代案」を要求したりしており、即座に協議に応じる気配はない。


(以下略)
これ、米政府の公式な立場だとしたら結構な大ニュースかも・・・にわかに動き出しました!
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2019年06月26日

中国共産党総書記が朝鮮労働党委員長を訪ねたことについて;「社会主義」が強調された習近平氏訪朝

習近平氏の訪朝について。報道は溢れかえり、さまざまな分析が展開されていますが、私はあくまでも共和国の報道を出発点としつつ他国報道を加味して分析してみたいと思います。「共和国分析においてこそクレムリノロジー的分析が有効だ」というのが私の持論だからです。

■「中国共産党総書記が朝鮮労働党委員長を訪ねた」といったほうが正確――「社会主義」の強調
朝鮮中央テレビの記録映画が例によって公開されていたので確認しました(https://www.youtube.com/watch?v=bMtumr3O6ho)。「中国の国家主席が共和国を訪問した」というより「中国共産党総書記が朝鮮労働党委員長を訪ねた」といったほうが正確だというのが感想です(というわけで本稿では以下、党の肩書で呼称します)。「社会主義」がとにかく頻出する点によります。

とくに象徴的だったのは、歓迎のマスゲームのタイトルが「不敗の社会主義」だったこと、そしてまた、朝中友誼塔(祖国解放戦争:朝鮮戦争で戦死した中国人民志願軍の軍人たちを顕彰する塔)をキム・ジョンウン委員長と習近平総書記が訪問した時のBGMが「インターナショナル」だったこと(53:54〜)。習総書記は朝中友誼塔で鑑賞録に「缅怀先烈,世代友好」と残しましたが、タイミング的に意味深長です。巷では朝中両国の「友誼」の強調に注目が集まっていますが、この「友誼」は単なる隣国同士の伝統的関係ではなく「社会主義」というイデオロギーに裏打ちされているわけです。

中国側報道からも、「社会主義」がキーワードであったことが見て取れます。朝中両党ともに「社会主義」をキーワードにしています。
http://japanese.cri.cn/20190621/57fdb8b2-5384-eb0e-7045-17ae1d0257a8.html
習近平総書記と彭麗媛夫人、中朝友誼塔を訪問
2019-06-21 18:39 CRI


(中略)そして、塔の記念室で烈士の名簿や壁画を見た後、帳面に「缅怀先烈,世代友好(烈士を偲び 子々孫々友好)」と書き残しました。

 習総書記は「今日の訪問は、命を捧げた烈士を偲び、両国の革命家が肩を並べて戦った歴史を振り返った。また、両国の伝統的な友情を若者に伝えた。さらに、平和維持という両国の強い決意をアピールした。われわれは、両国の友情を子々孫々に伝え、社会主義事業を強固にし発展させ、両国人民のためになり、地域の平和と安定、繁栄を進めたい」と強調しました。

 これに対して、金正恩委員長は「友誼塔は両国の伝統的友情のシンボルだ。朝鮮の党、政府、人民は、侵略を防ぐ中で犠牲となった中国人民志願軍を永遠に忘れない。そして、新しい時代で両国の友情を受け継ぎ発展させていく。さらに、両国で連携を強化し両国関係に大きな成果をもたらしていく」と強調しました。(朱 森)
会談でも「社会主義」がキーワードになった模様。
http://japanese.cri.cn/20190621/93963fe8-cf7d-6d82-3b68-f5d46016bce1.html
習総書記、金正恩朝鮮労働党委員長と会談
2019-06-21 18:55 CRI

 習近平中国共産党中央委員会総書記・国家主席は21日、朝鮮の錦繍山迎賓館で、金正恩朝鮮労働党委員長・国務委員会委員長と会談しました。


(中略)

 さらに習総書記は、「国際情勢がいかに変化しても、中国は朝鮮の社会主義事業や新たな戦略、半島問題の政治的解決や半島の長期的な安定への取り組みを強く支持する」と示しました。

 これに対して金委員長は、朝鮮の党が人民を率いて社会主義の道を堅持することを中国が支持し協力することに感謝を示し、「先輩指導者の気高い意志に沿って、総書記同志とともに、新たな歴史の起点で、友好関係を受け継ぎ発展させたい」と述べ、今回の訪問成功を祝いました。


(以下略)
実際の会談ではいろいろなテーマについて意見交換されたはずですが、中国側報道がこの点を主題として会談事実を編集して報道したことは、注目すべきことでしょう。

■対外政策と対内宣伝において課題を抱えている習総書記・中国側の思惑
いま中国は貿易摩擦でアメリカと鋭く対立しつつ、「特色ある社会主義」なるスローガンで国内統治を固めています。対外政策と対内宣伝において習総書記は課題を抱えています。中国側報道でも「社会主義」がキーワードとして取り扱われている事実は、習総書記が抱えている課題と関連させると、その思惑が見えてくると思われます。

第一に、習総書記が抱える対外政策課題と今回の訪朝との関連から習総書記・中国側の思惑を推察すると、さしずめ、たとえば『ハンギョレ』が指摘しているような思惑がある考えられるでしょう。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190619-00033698-hankyoreh-kr
[ニュース分析]トランプ大統領との談判控えた習主席、今後は金委員長を“後ろ盾”に
6/19(水) 17:43配信
ハンギョレ新聞


(中略)

 習主席の訪朝は、何よりも米国の攻勢に対抗するテコを確保するためというのが大方の見解だ。中国は、米国の大規模な報復関税と華為(ファーウェイ)製品の不買キャンペーンにより、大きな圧迫を感じてきた。トランプ大統領は28〜29日に大阪で開かれるG20首脳会議で貿易交渉の突破口を見出せない場合は、残りの年間3000億ドル分の中国商品に高率の関税を課すと脅している。米国はまた、最近浮き彫りになった犯罪者引渡し条例に対する香港人の抵抗問題も今回の議題にすると明らかにした。金委員長の第1〜4回訪中が、米国との交渉を控えて中国という後ろ盾を誇示するためのものなら、今回は習主席が訪朝を通じて「中国は北朝鮮に対し、かなりの影響力を持っている」というメッセージを送ろうとしているわけだ。

 さらに、朝米が交渉を再開する場合に備えた布石という見解もある。これまで朝米間の仲裁に消極的だった中国が、「中国パッシング」(中国排除)を防ぎ、朝鮮半島問題において積極的な役割を果たすという信号弾として、訪朝を決めたということだ。
(以下略)
この朝中両国が、単なる伝統ではなく「社会主義」をキーワードに、そして中国の指導者の訪朝時の定番コースとはいえ朝中友誼塔(それも最近キレイにしたばかり!)を訪問してコメントを残すことは、両国の対米結束の意志を推察できるところです。

第二に、習総書記が抱える対内宣伝課題と今回の訪朝との関連から習総書記・中国側の思惑については、中国政治専門家の遠藤誉・筑波大学名誉教授が以前から提唱してきた「紅い団結」の誇示が考えられるでしょう。遠藤氏曰く、中国共産党による一党支配体制を維持させるために「社会主義思想」の正当性を自国民に示す必要がある習総書記にとっては、社会主義政党間の絆を堅固にさせていくことが必要であり朝中関係強化には重要な意味があるとのこと。

今回、中国側が「社会主義」をキーワードに共和国との友好・友誼関係を強調している意図は、遠藤氏の見立てを援用することで理解することできるでしょう。アメリカとの対立が深まる中での「社会主義」の連呼は、更に意味深長なものとなるでしょう。

■対外政策課題と対内政策課題を意識したキム・ジョンウン委員長・共和国側の思惑
キム・ジョンウン委員長・共和国側の思惑は、わざわざ言うまでもなく明白ですが、触れておきましょう。対米交渉の後ろ盾にしたいという対外政策課題最高指導者としてのリーダーシップを発揮し、また経済建設の支援を中国から取り付けたいという対内政策課題を意識していることでしょう。

そうした思惑は、前掲:朝鮮中央テレビ記録映画のラストシーンに強く表れているといえるでしょう。アナウンスによると、習総書記を空港で見送るシーンにおいてキム・ジョンウン委員長は「我々も闘争も社会主義のためのもので、朝中親善も社会主義を守るためのものだと言われながら、新時代の中国特色の社会主義建設と中華民族の偉大な復興の夢を実現させるための習近平同志の責任的な事業で大きな成果があることを宿願」されたとのこと。

キム・ジョンウン委員長が、習体制をもっともよく特徴づける「中国特色の社会主義」にわざわざ言及し支持を表明したことは、中国を自国側陣営に引き込もうとする意図がよく表れているといえるでしょう。習総書記が社会主義政党間の友好関係を強化・顕示して社会主義思想・中国共産党政権の正当性・正統性を自国民に示したがっている姿を機敏に察知し、相手が一番喜ぶであろうキーワードを取り上げて賞賛することで機嫌を取り、中国側を味方につけようとしているわけです。

同時にキム・ジョンウン委員長・共和国側は、習総書記・中国側との間に「対等な関係性」を示そうとしています。興味深いことです。このことは、習総書記歓迎の式典形式を振り返れば見えてきます。習総書記はクムスサン(錦繍山)太陽宮殿広場で歓迎を受けました。
http://japanese.cri.cn/20190621/b5f81639-6a9a-19ec-c269-5378bea56368.html
習総書記の朝鮮訪問は「初めて」ばかりの最高待遇に
2019-06-21 14:47 CRI

(中略)

 今回、習総書記と彭麗媛夫人は、外国の指導者としては初めてクムスサン(錦繍山)太陽宮殿広場で歓迎を受け、夜には朝鮮の三大楽団が初めて一堂に会して行った文化芸術公演が披露されました。これは、朝鮮における「最も尊重すべき中国からの貴賓」という最高の待遇であるということです。(雲、謙)
クムスサン太陽宮殿は、キム・イルソン主席・キム・ジョンイル総書記のご遺体が安置されている廟です。21日づけ時事通信記事によると、「(クムスサン太陽宮殿への)訪問は「首領様(金日成氏)を参拝したことになる」と指摘し、北朝鮮住民にとって意義深いと説明。14年ぶりの中国最高指導者の訪朝が「正恩氏の指導力強化の契機となる」と分析した。」(世界北朝鮮研究センター所長で所謂「脱北者」のアン・チャンイル氏の分析)とのこと。

共和国の「聖地」でありチュチェの「総本山」を習総書記が訪問することは、共和国にとって最も大切な空間で客人を歓迎するという点において「最高の歓迎の意思表示」という意味合いを持ちますが、同時に、客人を自己の聖地・総本山に巡礼・参拝させるという点においては「下手に出るつもりはありまんよ」という意味合いも帯びます。「我々の対米対決の傍らには中国の同志たちがいる!」ということを、「親分子分の関係」としてではなく「戦友同士の関係」として捉えているキム・ジョンウン委員長・共和国側の理解・認識が見て取れます

むろん、こうした社会主義国特有の「意味付け・箔付け」は、中国共産党一行も十分に分かっているはず(自分たちだってよくやってきたわけだし)。このことは、中国共産党による朝鮮労働党に対する相当の配慮の様を内外に示すものとみてよさそうです。

■あくまでもドライな関係
他方、朝中関係はあくまでもドライな関係なので、朝中友誼強調は思惑の一致の産物であり、地獄の底まで添い遂げるということはないでしょう。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190621-00000001-jij-kr
北朝鮮関係・識者談話
6/21(金) 0:19配信
時事通信

◇対米カード増やした
 津上俊哉・現代中国研究家の話 中国の習近平国家主席は今回の北朝鮮訪問で金正恩朝鮮労働党委員長と会談したことで、貿易摩擦を抱える米国へのカードを増やしたと言える。中朝会談は米国へのけん制と言われることが多いが、北朝鮮と一緒になって米国に対抗することが目的ではない。

 中国は北朝鮮問題で米国に「貸し」があると思っている。米中の共同歩調が北朝鮮の態度を変えさせたと自負しているからだ。米中両国の間には、貿易戦争ばかりではなく、お互いの協力なしでは解決できない問題があることをトランプ米大統領が再認識することを望んでいる。


(中略)

 中国は、北朝鮮が制裁や圧力で非核化するとは考えておらず、今すぐ丸裸になれという米国のやり方は非現実的とみている。それでも、北朝鮮に運搬可能な核兵器の配備を許さないというゴールは米国と共有していると思う。

昨年6月10日づけ「朝米関係の行方を占うならば、朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国そのものを正面から取り扱うべき」において私は、上掲の遠藤氏による朝中関係分析、について、「習近平にとって金正恩は、一党支配体制を維持するためのコマの一つなのだ。金正恩ははしゃいでいるが、習近平の手の上で踊っているに過ぎないのではないだろうか。」というくだりを念頭に置きつつ以下のとおり批判的に述べました。
中国共産党政権が共和国政府に対して「改革開放」を再三にわたって要求してきたことは事実です。そしてまた、中国共産党政権が「紅い団結」(あまり聞き覚えのない単語ですが・・・)を必要としているのも事実でしょう。しかし、だからといって共和国政府が「紅い団結」云々に付き合わなければならない理由など、どこにもありません。中国共産党政権が自国事情を基に「紅い団結」を必要とし、共和国政府もまた自国事情によってそれに乗っかったというのが真相であり、単に国家間の利害が一致したに過ぎないのです。
今回の習総書記訪朝ニュースは、まさに双方の思惑と利害の一致による産物であり、「お互いを利用し合いながら歩調を合わせている」朝中双方の関係性がよく現れているといえるでしょう。

■対米非核化交渉があまり触れられていないことについて
朝鮮中央テレビの記録映画の全体的論調について総括しておきましょう。対米非核化交渉についてはほぼ触れられておらず、朝中友誼・社会主義建設の同志関係を強調する論調が全体を貫いているといえます。J-CASTニュースは、21日の記事「首脳会談、北朝鮮メディアが沈黙した話題 中国側との「差」と「半日遅れ」の意味は」で「「友好」の協調に留まった北朝鮮メディア」と報じています。

このことは、共和国政府の目下の最重要政策課題は唯一経済建設であり、共和国公民たちの関心も経済等民生分野の動向であることを共和国政府も十分理解しているがゆえと考えられます。経済建設の鍵は長期的には対米関係改善ですが、まずは中国との連携強化です。対米関係は国事の「課題」としては主要でありつつも、「関心」としては副次的扱いになっていることが推察されます。だからこそ、朝中友誼や社会主義建設の同志関係についてメディア報道上では強調しているのでしょう。
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2019年06月16日

膠着状態を打開せんとするキム・ジョンウン委員長の先手、そして日本

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190613-00033658-hankyoreh-kr
「6・12」1周年に送られた金委員長の手紙…朝米の膠着の突破口なるか
6/13(木) 7:48配信
ハンギョレ新聞

トランプ大統領「先ほど美しい手紙が届いた」 「何か起きると思う」 朝米の膠着状態にもかかわらず首脳間の疎通は維持 ムン特別補佐官「新しい可能性が開かれたのでは」
 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長がドナルド・トランプ米大統領に6・12シンガポール首脳会談1周年を機に親書を送った事実を、トランプ大統領が11日(現地時間)に公開した。2月末にハノイで開かれた第2回首脳会談が成果なく終わった後も、首脳間の信頼と対話の意志が続いていることを示したものだ。今月末に韓米首脳会談を控えた時点でもあり、朝米の膠着状態に突破口が開かれるかどうかに注目が集まっている。

 トランプ大統領はホワイトハウスで、記者団が「今月末の訪韓時に金正恩委員長と会う可能性」を問うと、「金委員長から先ほど美しい手紙が届いた」とし、「関係は非常に良いと思う。手紙に感謝する」と答えた。彼は「我々は非常に良い関係を保っている」と強調したうえで、「昨日届いた手紙でそれを確認することができる」と述べた。 彼は伝達経路と内容は明らかにせず、「非常に個人的で、とても温かく、とても素敵な手紙」だと述べた。

 トランプ大統領はまた「北朝鮮がとてつもない潜在力を持っていることを、誰よりも感じている人が金正恩委員長だ。彼はそれを完璧に知っている」と語った。「私がここに来たときは深刻な状況だったが、その時とは異なり、今は核実験もなく、重大なミサイル実験もない」と再び強調した。さらに「私は何か起きると思う。大変肯定的なことであろう」と述べた。

 ハノイでの「ノー・ディール」以降、朝米間で、それも首脳間の書簡接触が公開されたのは、今回が初めてだ。朝米はハノイの会談後、互いに「計算法の転換」と「完全な非核化」を要求し、5月初めの北朝鮮の短距離ミサイル発射と米国の北朝鮮の貨物船差し押さえの発表で対立するなど、神経戦を繰り広げてきた。しかし、6・12の首脳会談1周年に合わせた親書は、両首脳が互いに変わらぬ信頼を持っており、トップダウン方式の対話のモメンタムがよみがえる可能性を示している。


(中略)

 しかし、朝米が「非核化と相応の措置」に関する見解の隔たりを埋めるまでは、時間がかかるものと見られる。トランプ大統領は、3回目の朝米首脳会談の可能性に関する記者団の質問に、「実現する可能性もある。しかし、私はもう少し先のことにしたい」と話した。北朝鮮がより大胆な非核化の決断で「ビッグ・ディール」に応じるべきという立場を固守したものと受け止められる。ホワイトハウスのジョン・ボルトン国家安保補佐官も、ウォールストリート・ジャーナル主催の行事で、3回目の朝米首脳会談について「全面的に可能で、まさに金正恩委員長がカギを握っていると考えている」とし、ボールを北朝鮮に渡した。彼は「彼らの準備が整った時、私たちも準備も終わるだろう」と述べた。

 北朝鮮も「寧辺(ヨンビョン)核施設の廃棄と核心的な制裁の解除を交換しよう」という従来の立場を変えた兆候は見られない。統一研究院のホン・ミン北朝鮮研究室長は「北朝鮮は米国に物乞いするような態度は見せないと言ってきた」とし、「金委員長は親書で『早期の首脳会談を望む』などの政治的メッセージは排除し、極めて個人的な親交を強調したものと推測される」と話した。

ワシントン/ファン・ジュンボム特派員、キム・ジウン記者

最終更新:6/13(木) 7:48
ハンギョレ新聞
■これぞ「ジャパン・パッシング」
ハノイ会談以来の膠着状態を打破すべくキム・ジョンウン共和国国務委員長が先手を打たれました。具体的な動きはまだ見えてこないので論評はできませんが、対米関係改善の強い意欲を感じるところです。そしてまた、共和国の眼中には「本丸としてのアメリカ」しかないことが改めて判明しました。必要や目標に対して回り道せずにダイレクトにアタックしてゆく共和国の御国柄がよく現れています。

このことはすなわち、仲介役をかって出た安倍首相の面目がつぶれたことを意味します。

ここ最近、安倍首相は急に「無条件で会う用意がある」などと不気味な転向を見せました。ハノイ会談がノー・ディールに終わり、キム・ジョンウン委員長の訪露についても報じられる範囲内では目覚ましい成果があったとは言い難いことを受けて、自分もプレイヤーの一員だと思い込んでいる日本政府が「今なら存在感を出せるかも!」と踏んで勇み出てきたのです。短距離ミサイルを打たれても「無条件に会う」と言い、チュチェ91(2002)年の朝日首脳会談以来、共和国が抱き続けている対日不信感(日本政府は世論を盾にする)を払拭すべく世論調査を持ち出して雰囲気を盛り上げようと画策してきました。

しかし、共和国は日本を仲介とせず直接アメリカとコンタクトを取りました。これぞ「ジャパン・パッシング」。これは第一に、日本の対米影響力の無さを見抜かれているということ、第二に、参議院選挙前の安倍首相にとっては会談の開催自体が得点になるがキム・ジョンウン委員長にとってはそれだけでは得点にはならず、共和国が是非とも手に入れたいものは日本ではなくアメリカが持っているということ、そして第三に、日本を介して伝言ゲームをするくらいなら直接アメリカと話した方がよいということ、によると思われます。

キム・ジョンウン
委員長が今回お送りなさった手紙が今後の朝米関係改善においてどのような役割を果たすのかについては、現時点では不明であると言わざるを得ませんが、朝日関係の現状を明らかにする役割は果たしたといえるでしょう。共和国は日本を相手にしていないということです。

■「対話は北朝鮮の時間稼ぎにしかならない」じゃなかったの?
今回のキム・ジョンウン委員長の手紙についてトランプ米大統領は「とても素敵な手紙」と述べ、また、「今は核実験もなく、重大なミサイル実験もない」としています。先日の新型短距離ミサイル発射は制裁強化に値するものではなく、また、いまの対話雰囲気に水を差すものでもないという認識を示した格好です。この1年間、ときに政権内部の意思統一を怪しむくらいまでにトランプ政権幹部たちはアレコレと好き勝手なことを口にしてきましたが、トランプ大統領自身そして政権としての基本方針は、ほぼ一貫してこの調子でした。日本メディアの報道を見ていると、トランプ大統領はリップサービス担当で政権の本音と方針はボルトン補佐官が口にしているといった構図が描かれがちですが、すこし引いて見てみると、決してそのようなことにはなっていません。

ところで振り返れば、朝米会談が初めに現実的日程として浮上してきたとき、日本国内では「対話は北朝鮮に核・ミサイル開発の時間的余裕を与えるだけ。トランプさん、会談予定を撤回してください!」といった言説がかなり広範に広まっていました。一刻も早く軍事行動に移らなければ、核・ミサイルが量産・実戦配備されてしまい正真正銘の核武力保有国になってしまうというわけです。対話より「斬首」、膠着状態も核・ミサイル開発の時間的余裕に繋がるので、とにかく一分一秒も早く「斬首」という主張が声高に展開されていたものです。

ところが最近の世論動向をみると、「斬首」という主張がすっかり鳴りを潜め、むしろ膠着状態を歓迎するような言説が主流になっているように見えます。1年前あれだけ評判が悪かったトランプ大統領の「急がない」姿勢も、彼自身は少しも変わっていないのに日本世論における評価は大きく変わってきています

いま現在の膠着状況は、秘密裏の継続核開発・継続ミサイル開発にとっては時間的猶予になるものです。実際、共和国が新型潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の実験準備を進めているという報道が出てきました。日本世論の1年前の指摘は、「まったくの悪意的言いがかり」というわけではなかった格好です(あくまでも「停戦中の対話局面」に過ぎず、戦争が正式・完全に終結したわけではないのだから、どのように転んでも対応できるように共和国が軍事面でも備えておくことは当然でしょう)。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190614-00080026-chosun-kr
(朝鮮日報日本語版) 北朝鮮、新浦でSLBMの発射実験を準備か
6/14(金) 10:20配信
朝鮮日報日本語版

 北朝鮮が、新浦造船所で新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)実験を準備している状況が捕捉された。

 米国の北朝鮮専門メディア「38ノース」は12日(現地時間)、「新浦造船所で、また別の新浦級弾道ミサイル潜水艦(SSB)の可能性のある潜水艦の建造が続いている様子が分かる」として、このような内容を明らかにした。

 「38ノース」は、最近撮影された商業衛星写真を根拠として、船舶の係留場に今年4月11日から5月5日までクレーンと推定される物体12基が一定間隔で設置されているなど、変化があったことを示した。その上で「これらのクレーンは、潜水艦のハッチや(SLBMの)水中発射のためのフローティングドック(はしけ)に、軽量の部品や装備を降ろせるようにする役割を担っていると考えられる」と記した。


(中略)

 韓国国防安保フォーラムのシン・ジョンウ事務局長は「北朝鮮は新型の水中戦略弾道弾『北極星3号』の図面などを意図的にさらしてきた。SLBM実験用フローティングドックの動向は、新型SLBM実験の準備の可能性とともに、米国を圧迫しようとする意図があるとみられる」と語った。

最終更新:6/14(金) 11:15
朝鮮日報日本語版
この報道が出ても日本世論の膠着歓迎風潮に特段の変化はみられていません。モタモタしていると新型SLBMが試験発射されてしまうにも関わらず! あれだけ自分たちが声高に主張してきたことをケロリと忘れてしまい、新型SLBMの脅威がますます深刻化しているにも関わらず無反応になり、発射実験をみすみす見逃しそうになっているのです。

これはおそらく、シンガポール会談が予想以上にキム・ジョンウン委員長有利の結果に終わって以降、日本世論の関心は、「北の脅威」の具体的深刻化よりも「大嫌いな北朝鮮が困っている姿を見たい!」の一心に凝り固まってしまったことによると思われます。いま現在の膠着状況は、一方において経済封鎖解除を求める共和国を困らせていますが、他方において前述のとおり秘密裏の継続核開発・継続ミサイル開発にとっては時間的猶予になるので共和国にとって有利になるという二面性を持っています。プーチン露大統領をして「草を食べてでも核開発を続けるだろう」と言わしめた共和国について日本の国家戦略(国益)の立場に徹すれば、後者の「時間的猶予」に注目すべきところですが、比較的どうでもいい前者に注目がいってしまっています(そこらへんの国であれば経済封鎖されれば即干上がってしまうでしょうが、共和国はあんな小国であるにもかかわらず驚異的な強靭さをもっており、そう簡単に干上がりそうにはありません)。

「大嫌いな北朝鮮が困っている姿を見たい!」といえば、報道によると、東京オリンピック組織委員会が「技術的問題」なる口実で各国オリンピック委員会に対して発行する連絡用エクストラネットへのアクセス用IDを、共和国オリンピック委員会に対してだけ発行しなかった件も、通底していると言わざるを得ないでしょう(報道各社で取り上げられるや否や急に「技術的問題」が解決してID発行されるだなんて、そんなタイミングのよい話が普通あるでしょうか?)。「朝鮮に対する差別を企図した政治的介入の一例」という記事中の指摘は、そう言われても仕方ないでしょう。

戦略的動向といった合理性よりも、敵に一泡吹かせたい・一矢報いたいという感情が優先してしまう――先の大戦ではこれで失敗しました。同じようなことを繰り返しつつあります。
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2019年06月07日

カネカは初動に失敗してしまった;評判経済たる現代資本主義市場経済での自殺行為

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190606-00000003-jct-bus_all&p=1
カネカ「対応に問題は無い」 育休対応問題で声明文公開
6/6(木) 12:32配信
J-CASTニュース

 化学メーカー「カネカ」は2019年6月6日、自社の公式サイトに、「当社元社員ご家族によるSNSへの書き込みについて」と題した声明文を公開した。

 ネット上では6月1日から、カネカの元社員の家族だとみられるツイッターユーザーの投稿が話題に。夫が育休取得直後に関西転勤の内示を受けたことなどが明かされ、会社の対応をめぐって議論が巻き起こっていた。


(中略)

 6日にカネカ側は、新たに文章を発表。発端となったSNSへの書き込みについて、「6月2日に弁護士を含めた調査委員会を立ち上げて調査して参りました。6月3日には社員に向けて、社長からのメッセージを発信致しました。更に、6月5日に、社内監査役及び社外監査役が調査委員会からの報告を受け、事実関係の再調査を行い、当社の対応に問題は無いことを確認致しました」と主張。続けて、「元社員のご家族は、転勤の内示が育児休業休職(以下、育休とします)取得に対する見せしめである、とされていますが、転勤の内示は、育休に対する見せしめではありません」と訴え、「元社員から5月7日に、退職日を5月31日とする退職願が提出され、そのとおり退職されております。当社が退職を強制したり、退職日を指定したという事実は一切ございません」と重ねて主張していた。

「当社の対応は適切であったと考えます」
 本人への内示について、カネカ側は、「育休前に、元社員の勤務状況に照らし異動させることが必要であると判断しておりましたが、本人へ内示する前に育休に入られたために育休明け直後に内示することとなってしまいました」と状況を説明し、「本件での内示から発令までの期間は4月23日から5月16日までの3週間であり、通常よりも長いものでした。 また、着任日を延ばして欲しいとの希望がありましたが、元社員の勤務状況に照らし希望を受け入れるとけじめなく着任が遅れると判断して希望は受け入れませんでした」としていた。

 声明文の最後の方でカネカ側は、「着任後に出張を認めるなど柔軟に対応しようと元社員の上司は考えていましたが、連休明けの5月7日に、退職日を5月31日とする退職願が提出されたため、この後は、転勤についてはやり取りがなされませんでした。このため元社員は転勤に関しての種々の配慮について誤解したままとなってしまったものと思います」とつづり、「元社員の転勤及び退職に関して、当社の対応は適切であったと考えます」と改めて会社側の対応を正当化。「当社は、今後とも、従前と変わらず、会社の要請と社員の事情を考慮して社員のワークライフバランスを実現して参ります」と結んだ。

(J-CASTニュース編集部 田中美知生)

最終更新:6/6(木) 13:03
「法的に問題ない」――そりゃそうでしょう。日本の労働法規は、使用者側にとっても労働者側にとっても抜け穴だらけのザル法なのですから。また、労働法規は強行法規性を持っているので刑法的に運用の厳格さが求められますが、後述のとおり、現代資本主義市場経済は印象や評判が大きな位置を占めているので、仮に刑法的に運用の厳格さが求められる法の観点から問題なかったとしても、商売的・経営的には打撃となり得ます

カネカが真に注視しなければならないのは、「労働法規に違反しているか否か」ではないのです「労働市場における評判」にこそ注視すべきです。その点、今回は「初動に失敗してしまった」というべきでしょう。

日本は、労働力までもが商品として市場取引されている資本主義国です。現代の資本主義市場経済は、あらゆる事物が商品として自由に取引されているがゆえに、「評判」が「価格」と同等かそれ以上に死活的に重要な位置を占めています。現代資本主義市場経済は「評判経済」です。それゆえ、仮に自己の商材に「悪評」が立とうものなら、その「実態」とはまったく無関係に極めて厳しい商的立場に立たされます。どんなに科学的安全性が証明されていても、いまだに「福島県産」というだけで嫌な顔をする人がいるように。「ノルマ廃止」と言明した郵便局の方針があまり浸透しておらず、いまだ「郵便局=自爆営業」の印象が根強いように。

総合職の全国転勤・広域転勤が当たり前だった日本の企業文化の中からこそ、いま変革の兆しがあらわれつつあります。社会情勢の変化に対するアンテナを高くしている企業を中心に、「小うるさい左翼労働組合対策」としてではなく自発的に全国転勤・広域転勤を改めようする動きが、ここ数年、見られるようになりました。労働供給の逼迫化による人手不足の風潮により待遇競争のトレンドが生まれる中、現代資本主義市場経済が評判経済であるという事実を正しく捉えている企業を中心に、全国転勤・広域転勤を改革して「待遇改善」を印象付け、労働市場における競合他社と「差」をつけようとする動きが大きくなりつつあります

こうした企業は、評判経済の本質を見抜いています。評判経済における評判は、「印象」と言い換えても間違いないものです。つまり、評判経済というものは、しっかりと考え抜かれた上での判断によるものではなく、「何となくの印象」にもとづくものです。「何となくの印象」が企業経営にクリティカルな影響を与える時代なのです。本来的に証拠や事実に基づく科学的思惟でない点、あとから挽回を狙って客観的事実を積み上げたところで書き換え得ないのが「何となくの印象」の特徴であり厄介なところです

そんな最中での本件。「本人へ内示する前に育休に入られたために育休明け直後に内示することとなってしまいました」「連休明けの5月7日に、退職日を5月31日とする退職願が提出されたため、この後は、転勤についてはやり取りがなされませんでした。」――バカバカしい。休日・夜間に何の遠慮もなく電話等の連絡をしてくることは、日本の社会人のほとんどが経験的に知っていることです。また、カネカは退職「願」と退職「届」の違いを混同しています
https://mynavi-ms.jp/magazine/detail/000456.html
退職願と退職届の違いは?書き方と退職の作法について

(中略)

退職願と退職届は、役割が大きく異なります。退職願とは、会社もしくは経営者に対して退職意思を表明する書類です。退職願を出した時点ではお願いをしているにすぎず、労働契約が解約されることはありません。会社の承諾を得る前であれば、撤回することもできます。

一方で退職届は、退職願よりも厳格な書類です。会社の可否を問わず、受理された時点で退職が決まります。労働者は一方的な意思表示によって労働契約を解約できるとする民法の定めに則った形式です。提出から一定期間が経過すれば退職できることとなり、撤回はできません。


(以下略)
退職「願」は鬱陶しい慰留工作展開の余地があるので、本気で断固として退職するつもりの労働者は退職「届」を叩きつけるべきだと指摘されているところです。さすがに弁護士にも相談しているカネカ人事部が、退職「願」と退職「届」とを本気で混同しているはずがありませんあまりにも白々しい言い分に、多くの社会人は失笑を禁じ得ず、また、著しいマイナス感情を覚えたことでしょう

おそらく今頃、抗議の電話やメールがカネカ広報部にそれなりの規模で届いていることでしょう。しかし、日本の社会人のほとんどは今現在においてカネカの社員ではなく、また、カネカに勤めなくても死にはしない人たちです。カネカがブラック企業路線をまっしぐらに走ったところで多くの人々にとっては何も関係ないし、就活生や転職希望者であれば求人に応募しなければいいだけです(カネカが人手不足で倒産したところで中長期的な意味で困る人はそれほどいないでしょう。失業した優秀な技術者は競合他社に引き抜かれるだろうから、中長期的には問題ありません。人事部を筆頭とする事務・管理部門は潰しが効かずに困るだろーなー)。

「何となくの印象」が決定的な意味を持っている現代資本主義市場経済におけるカネカの「対応に問題はない」声明。法的に問題はないかもしれませんが、こんな会社で働きたいと思う人がどれだけいるというのでしょうか? 今現在の社員は人事の強制力で恫喝・委縮できても、こんな悪評が立った企業の求人に好き好んで応募する優秀な人材がどれほどいるのでしょうか? あれだけ強気だった外食大手の「ゼンショー」が遅れ馳せながら手のひらを反すようにホワイト化に注力しつつも、かなり苦労した前例を思いださざるを得ません。カネカの声明は、このご時世では自殺行為といってもよいでしょう。「初動に失敗してしまった」というべきでしょう。

評判経済は「合法性」ではなく「好き嫌い」なのです。もちろん、好き嫌いごときを相手にしないのも自由であり合法的です。しかしその結果として、市場において嫌われ、競合他社との競争に負けて淘汰される危険性は十分にあります。このことは忘れてはなりません。繰り返しますが、評判経済は合法性という理屈ではなく好き嫌いという感情なのです。

ちなみに私は、今回の報道を受けてカネカには著しいマイナスイメージの印象を覚えましたが、カネカには興味がありません。いままで「カネカ」で検索したことはないし、今後も積極的にググることはないでしょう。カネカが今回の騒動を受けて来週以降慌ててホワイト企業を演じて対策を講じたところで、たぶん私はその事実を知ることはないでしょう。私の印象の中では、今後数十年間にわたって「カネカ=ブラック企業」でありつづけることでしょう。仮に身近にカネカへの就職を考えている人がいれば、懸念を表明してお勧めすることはないでしょう。なお、私が個人身分で半径10メートル以内の人たちを相手に、カネカについて酒の席で「懸念」を表明したところで、あくまでも懸念でありネガキャンではないのだから法律沙汰にはならないことでしょう。

私一人の独断的な「懸念」であれば社会レベルでは大した影響はないでしょうが、今回の炎上騒動のように、わりと多くの人々に同様のイメージが植え付けられた場合、マイナスの風評は思ったよりも広範に拡散していると見るべきです。人一人の影響力は大したなくとも、社会集団レベルでは、まさに「ベクトルの合成」のごとく大きな影響力を発揮するものです。

人間、親しい人の忠告・勧告にこそ影響されるものです。これからも更に拡散されてゆくとみるべきです。マイナスの風評が思ったよりも広範に拡散してしまっているであろうカネカ。初動に失敗してしまったカネカ。これからの展開が「楽しみ」です。

これからの時代、労務でもめたときは弁護士に相談するのではなく、広告代理店に相談した方が良いかもしれません。電通は同じ穴の狢なのでダメだろうけど(聞くところによると電通も最近は「働き方改革」に取り組んでいるそうですが、株式会社電通に一切興味がなく、また、「株式会社電通が真に改心するわけがない」と独断と偏見で決めつけている私の中では永久にブラック企業であり続けることでしょう)。
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2019年06月06日

「キム・ヨンチョル粛清・キム・ヨジョン謹慎説」を振り返る;『労働新聞』に照らして読めばこそ最初から明らかだった『朝鮮日報』誤報

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190603-00000004-yonh-kr
金正恩氏が軍関連公演を鑑賞 粛清説の金英哲氏も同席
6/3(月) 9:19配信
聯合ニュース

【ソウル聯合ニュース】北朝鮮の朝鮮中央通信は3日、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党委員長)と夫人の李雪主(リ・ソルジュ)氏が前日に、軍人家族の芸術コンクール入賞者による公演を鑑賞したと報じた。粛清説が出ていた金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長も同席したことが分かった。

 一部の韓国メディアは、2月末の米朝首脳会談が物別れに終わったことから、対米交渉を担っていた金英哲氏に強制労働と思想教育の「革命化措置」が取られたと伝えていた。だが、朝鮮中央通信が公開した公演観覧の写真などでは、金委員長から5人目の席に金英哲氏がいることが確認できる。


(以下略)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190604-00000017-jij-kr
与正氏も健在確認=正恩氏とマスゲーム観覧−北朝鮮
6/4(火) 7:18配信
時事通信

 【ソウル時事】4日の朝鮮中央通信によると、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は3日、平壌のメーデースタジアムで始まったマスゲーム・芸術公演「人民の国」を李雪主夫人と共に観覧した。

 正恩氏の妹の金与正党第1副部長も同席、同通信(電子版)に掲載された写真には、拍手する与正氏が写っている。

 韓国紙・朝鮮日報は先に、2月末にハノイで行われた2回目の米朝首脳会談決裂を受け、与正氏が謹慎中と伝えていたが、健在であることが確認された。


(以下略)
■ガセネタだった「キム・ヨンチョル粛清・キム・ヨジョン謹慎説」
キム・ヨンチョル朝鮮労働党副委員長「粛清」説とキム・ヨジョン朝鮮労働党政治局員候補「謹慎」説。この言説の胡散臭さについては、コリア・レポート編集長のピョン・ジンイル(辺真一)氏がすでに指摘しているところですが、これにて「答え合わせ」に至ったようです

キム・ヨンチョル副委員長とキム・ヨジョン政治局員候補の序列が若干低下しているという指摘も出てきています([1],[2])が、この程度の序列低下であれば、朝米首脳会談によるものであると断定はし切れないところです。少なくとも、若干の降格程度であれば「キム・ヨンチョル粛清・キム・ヨジョン謹慎説」はガセネタだったと断言してよさそうです。

以前にも述べましたが、共和国は遊びで対米交渉しているわけではないのだから、国運をかけて臨んだ2月の首脳会談が物別れに終わった以上は、その責任者がまったくの沙汰もないことはあり得ないことでしょう。担当責任者のの序列低下くらいは想定内、むしろ当然と考えてしかるべきでしょう。

とはいっても、党の最高幹部の肩書を維持しつつの「粛清」・「謹慎」は、共和国の政治史においてはかなり異例のこと。絶無とまでは言いませんが、「かなり可能性が低い」と言わざるを得ないストーリーでした。そして、仮に2月末の出来事に関して問責があったとしても、わずか3ヵ月で健在ぶりが報道されているという事実を踏まえれば、「大した問責ではなかった」といってよいでしょう。

■国務委員長同志の目下の関心は「地方幹部の働きぶり」――『労働新聞』記事を都合よく切り貼りした『朝鮮日報』記者の作文
振り返れば、韓「国」の保守紙である『朝鮮日報』による正体不明の「情報筋」が唯一の情報源だった本件。はじめから胡散臭い話でしたが、「キム・ヨンチョル粛清・キム・ヨジョン謹慎説」とは何だったのでしょうか。騒動の発端であった『朝鮮日報』は以下のように報じてきました。
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2019/05/31/2019053180075.html
記事入力 : 2019/05/31 11:30
米朝首脳会談決裂で金赫哲氏は死刑、金英哲氏は労役刑

北朝鮮が、ハノイ米朝首脳会談の実務交渉を担当していた金赫哲(キム・ヒョクチョル)国務委員会対米特別代表や外務省の実務者らに交渉決裂の責任を問い、処刑していたことが30日までに分かった。対米交渉を総括していた金英哲(キム・ヨンチョル)労働党統一戦線部長も「革命化措置」(強制労働および思想教育)を受けたと伝えられている。ハノイ交渉決裂にショックを受けた金正恩(キム・ジョンウン)労働党委員長が、内部の動揺と不満を鎮めるため、大々的な粛清を行っているとの見方がある。


(中略)

 労働党の機関紙『労働新聞』は30日、「表では首領をあがめるふりをして、裏では背を向けて別の夢を見る同床異夢は、首領に対する道徳・義理を破ってしまう反動的、反革命的行為。こうした者たちは革命の冷厳な審判を免れなくなった」「首領に対する忠実さを言葉でそらんずるのみで、その上、大勢次第で変わり身する背信者・変節者も現れるようになった。忠実さは決して闘争の年限や経歴に起因するものではない」と記した。

 『労働新聞』に「反党・反革命」「冷厳な審判」など粛清を暗示する表現が登場したのは、2013年12月に張成沢(チャン・ソンテク)労働党行政部長が処刑されたとき以来だ。国策研究機関の関係者は「ハノイ会談の関係者らに対する大規模な粛清が進んでいるという意味。血の粛清と恐怖の雰囲気がしばらく続くだろう」と語った。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190601-00080008-chosun-kr
(朝鮮日報日本語版) 労働新聞が2日連続で「血の粛清」示唆、北朝鮮社会に広まる恐怖
6/1(土) 8:37配信
朝鮮日報日本語版

 朝鮮労働党の機関誌・労働新聞は前日に続き31日にも「反革命分子は恥ずべき終末を迎えるだろう」として2日連続で「血の粛清」を示唆する報道を行った。ベトナムで行われた2回目の米朝首脳会談決裂により、北朝鮮で政府幹部らに対する粛正が行われていることを示唆する内容とみられている。


(中略)北朝鮮ではこれまで李英鎬(リ・ヨンホ)元朝鮮人民軍総参謀長、張成沢(チャン・ソンテク)元朝鮮労働党行政部長など政府高官を粛正する際には「反革命分子」という罪名を使っていた。

 これについて北朝鮮の内部事情に詳しい消息筋は「欧米の思想に染まった場合、『反革命』という罪名で処刑される場合もあることを暗示している」と説明した。労働新聞は30日にも「表では首領をあがめるふりをして、裏では背を向けて別の夢を見る同床異夢は、首領に対する道徳・義理を破ってしまう反動的、反革命的行為」と主張している。

 韓国大統領府の関係者は31日、朝鮮日報が「金赫哲(キム・ヒョクチョル)国務委員会対米特別代表の処刑」と「金英哲(キム・ヨンチョル)朝鮮労働党統一戦線部長の強制労働」を報じたことについて「確認できることはない」として言及を避けた。
ストーリーとしてはもっともらしく仕上がってはいるものの、ここ最近の朝鮮中央通信の全体的論調と照らし合わせれば、対米交渉に係る今更な「処罰」説よりも、キム・ジョンウン委員長のチャガン(慈江)道への現地指導における、地方幹部の働きぶりへの叱責にこそ注目すべきでしょう。このことは、まさに『朝鮮日報』が論拠として挙げてきた『労働新聞』は5月30日づけ記事を原典に照らして読めばこそ分かることです。
http://www.uriminzokkiri.com/index.php?ptype=igisa2&no=1173190
주체108(2019)년 5월 30일 로동신문
チュチェ108(2019)年5月30日 労働新聞

량심은 인간의 도덕적풍모를 규정하는 척도
良心は人間の道徳的品性を規定する尺度

오늘 우리 당은 온 사회에 혁명적이며 건전한 도덕기풍이 차넘치게 하여 그것이 국풍으로 되도록 할데 대하여 강조하고있다.
今日、わが党は、全社会に革命的で健全な道徳気風があふれるようにして、それが国風になるよう強調している。

우리 사회의 훌륭한 정신도덕적풍모를 남김없이 발양해나가는데서 모든 사람들이 량심적으로 살며 투쟁하도록 하는것은 매우 중요한 문제로 나선다.
わが社会の偉大な精神的・道徳的品格を余すところなく発揚してゆく上では、すべての人が良心的に生きて闘争するようにすることが非常に重要な問題として浮上する。

위대한 령도자 김정일동지께서는 다음과 같이 교시하시였다.
偉大な領導者、キム・ジョンイル同志におかれては、次のように教示なさった。

《량심과 의리는 인간의 고유한 미덕이며 사람들을 자각적이고 아름다운 행동에로 추동하는 정신적힘의 원천입니다.》
「良心と義理は人間の固有の美徳であり、人々を自覚的で美しい行動に推す精神的な力の源です。」

(中略)

사람의 행동을 규제하는 도덕적지탱점은 량심이다. 그 어떤 조건과 환경에서도 도덕을 지키는것이 습성화, 체질화되자면 량심에 기초하여야 한다. 도덕은 량심으로부터 우러나와야 누가 보건말건, 알아주건말건 자각적으로 지키게 된다. 도덕을 량심적으로 지키는 사람이라야 사회와 집단의 존경을 받으며 값높고 보람찬 삶을 누릴수 있다. 량심으로 하여 빛나는것이 참된 인간, 도덕적인간의 인생행로이다.
人の行動を規制する道徳的支えは良心である。いかなる条件・環境においても道徳を守ることを習性化・体質化し、良心に基づいてしなければならない。道徳は良心から染み出る必要があり、誰が見ていようがいまいが、知っていようがいまいが自覚的に守られるようになる。道徳を良心的に守る人であれば、社会と集団の尊敬を受けて価値の高い誇らしい生活を享受できる。良心的に輝くことが真の人間、道徳的人間の生き方だ。

량심은 수령에 대한 도덕의리심을 남김없이 발양시켜나갈수 있게 하는 근본원천이다.
良心は、首領に対して道徳義理心を余すところなく発揮させていくようにする根本・源泉である。

인간의 도덕적풍모에서 기본은 수령에 대한 숭고한 도덕의리심이다. 혁명가에게 있어서 수령은 운명도 미래도 다 맡아 보살피고 참된 삶과 행복을 꽃피워주는 자애로운 스승이고 어버이이다. 그런것만큼 혁명가는 바로서나 거꾸로 서나, 엎어놓으나 뒤집어놓으나, 좋은 날에나 시련의 날에나 변함없는 충신의 한모습으로 사는것을 의무로, 절대불변의 의리로 간직하여야 한다.
人間の道徳的風貌における基本は首領に対する崇高な道徳義理心である。革命家にとって首領は運命も未来もすべて担って守り、真の生活と幸福を花咲かせてくださる優しい師匠であり、親である。それゆえ革命家は、まっすぐ立っても逆立ちをしても、うつ伏せになっても仰向けになっても、良い日であっても試練の日であっても、変わることなく忠臣の姿で生きることを義務とし、絶対不変の義理として胸に刻まなければならない。

수령에 대한 충실성은 의무이기 전에 량심이고 실천이여야 한다. 혁명의 길에서는 수령에 대한 숭고한 도덕의리를 지니고 값높은 삶의 절정에 오르는 사람들이 있는가 하면 반면에 수령에 대한 충실성을 말로만 외우고 심지어 대세에 따라 변하는 배신자, 변절자도 나타나게 된다. 충실성은 결코 투쟁년한이나 경력에 기인되는것이 아니다.
首領に対する忠実性は義務である前に良心であり、実践がなければならない。革命の道では、首領に対する崇高な道徳義理を持って価値の高い生活の頂点を極める人もいれば、他方においては、首領に対する忠実性を言葉にはしても、大勢に応じて変化する背信者・変節者もあらわれる。忠実性は決して闘争経歴・キャリアによるものではない。

앞에서는 수령을 받드는척 하고 뒤에 돌아앉아서는 딴꿈을 꾸는 동상이몽은 수령에 대한 도덕의리를 저버린 반당적, 반혁명적행위이며 이런자들은 혁명의 준엄한 심판을 면치 못하게 된다. 수령의 구상과 의도를 실현하기 위하여 자기의 피와 땀, 목숨까지도 서슴없이 바치는 량심의 인간, 의리의 인간들이 진정한 도덕의 강자, 참다운 혁명가인것이다.
表向きは首領を仰ぐふりをしつつ裏では別の夢をみる同床異夢は、首領に対する道徳義理を破った反党的、反革命的行為であり、このような者たちは、革命の峻厳な審判を免れなくなる。首領の構想と意図を実現するために、己の血と汗、命までもためらわずに捧げる良心の人間・義理の人間が真の道徳強者、真の革命家である。

(中略)

량심은 사회와 집단앞에 지닌 본분을 다해나갈수 있게 한다. 스스로 높은 목표를 내세우고 투쟁하는 자각성도, 성과에 만족함이 없이 계속혁신, 계속전진하는 투신력도, 그 어떤 평가나 보수도 바라지 않고 자기의 모든것을 바치는 헌신성도 순결한 량심에 뿌리를 두고있다.
良心は、社会と集団を前に己が持っている本分を全うできるようにする。自ら高い目標を掲げて闘争する自覚も、成果に満足せず継続革新して身を投げうつ力も、いかなる評価や報酬も望まず自分のすべてを捧げる献身性も、純潔なる良心に根を置いている。

사람은 사회와 집단앞에 지닌 도덕적의무를 리행해나가는 과정에 여러가지 복잡한 정황에 부닥칠 때도 있고 시련과 난관을 겪을수도 있다. 문제는 이러한 곤난을 어떻게 헤쳐나가는가 하는데 있다. 사회와 집단앞에 지닌 의무를 다하였는가를 늘 량심의 거울에 비추어보면서 경험과 교훈을 찾고 분발하여 난관을 극복해나가는 사람이 참된 인간, 조국과 인민앞에 부끄럼없이 사는 사람이라고 할수 있다.
人は、社会と集団を前に己が持っている道徳的義務を履行していく過程で様々な複雑な状況にぶつかる時もあり、試練と難関を経ることもある。問題は、これらの困難をどのように乗り越えるいくことにある。社会と集団を前に己が持つ義務を果たしたのかを常に良心の鏡に照らしてみて、経験と教訓を探って奮闘し難関を克服していく人こそが真の人間・祖国と人民の前に恥ずかしなく生きる人だということができる。

개인의 안일과 향락을 위해서가 아니라 혁명을 위하여 물불을 가리지 않고 투쟁하는 삶이 가장 값높고 도덕적인 삶이며 이것은 량심과 불가분리적으로 련결되여있다. 량심적인 인간은 언제나 가사보다 국사를 먼저 생각하며 개인의 리익보다 사회와 집단, 혁명의 리익을 우선시한다. 리해관계를 따지며 속구구가 많은 사람, 사회와 집단은 안중에 없이 개인의 안일과 향락만을 추구하는 사람들은 초보적인 량심과 의리도 없는 사람들이다. 누가 시키지 않아도, 알아주지 않아도 혁명의 리익, 사회와 집단을 위한 일이라면 비록 자그마한 일이라도 스스로 맡아 헌신하는 사람이야말로 진짜 량심의 인간인것이다.
個人の安逸と享楽のためにではなく、革命のために水火も辞さず闘うことが最も価値高く道徳的な生活であり、これは良心と不可分的に連結されている。良心的な人間は、常に家事より国事を先に考え、個人の利益よりも社会と集団・革命の利益を優先する。利害関係をとって胸算用が多い人、社会と集団は眼中になく個人の安逸と享楽だけを追求する人々は、初歩的な良心と義理もない人々だ。誰かがさせなくても、誰も分かってくれなくても、革命の利益・社会と集団のための仕事であれば、たとえ小さなことでも自ら引き受け献身する人こそ本当の良心的人間なのだ。

우리 혁명의 전세대들은 조국과 혁명앞에 지닌 도덕적의무를 어떻게 지켜나가야 하는가를 실천으로 보여주었다. 빈터와 재더미우에 자주, 자립, 자위의 사회주의국가가 일떠서고 혁명의 년대들이 자랑찬 승리와 세기적변혁으로 수놓아질수 있은것은 항일혁명선렬들과 전화의 용사들을 비롯한 혁명선배들이 당의 부강조국건설구상을 순결한 량심과 애국적헌신으로 받들어왔기때문이다. (中略)
我が革命の先人たちは、祖国と革命を前に己が持っている道徳的義務をどのように守っていくべきかを実践的に示した。灰燼の上に自主・自立・自衛の社会主義国家が建設され、革命年代が誇らしい勝利と世紀的変革に彩られたのは、抗日革命先烈と戦火の勇士をはじめとする革命の先人たちが党の富強祖国建設構想を純潔なる良心と愛国的献身で奉じてきたからだ。(中略)

모든 일군들과 당원들과 근로자들은 티없이 맑고 깨끗한 량심을 지니고 사회주의강국건설에 순결한 피와 땀을 아낌없이 바치는 고결한 인격의 소유자, 도덕의 강자로 튼튼히 준비해나가야 할것이다.
すべての幹部と党員、勤労者は、小さな傷もなく清らかな良心を持って、社会主義強国建設に純潔なる血と汗を惜しみなく捧げる高潔な人格の所有者、道徳の強者にしっかりと備えていかなければならない。
6月1日づけ朝鮮中央通信も次のように叱責を報じています。
http://www.uriminzokkiri.com/index.php?lang=jpn&ftype=songun&no=20816
金正恩党委員長が学びの千里の道学生少年宮殿を現地指導

【平壌6月1日発朝鮮中央通信】朝鮮労働党委員長で朝鮮国務委員会委員長、朝鮮武力最高司令官であるわが党と国家、武力の最高指導者金正恩同志が、学びの千里(朝鮮の十里は日本の一里に相当)の道学生少年宮殿を現地で指導した。

敬愛する最高指導者が数回にわたって与えた教えと指示を体して、慈江道では50余年前に建設した古い宮殿の建物を崩して30余りのサークル室を備えた5階建ての基本建物と芸術公演も行える多機能化された体育館、付属建物を新たにうち建てたし、2016年9月に竣工(しゅんこう)式を行って正常に運営している。

敬愛する最高指導者は、宮殿の活動家から少年宮殿のサークル室の収容能力と運営状況の報告を受けた。


(中略)

敬愛する最高指導者は、体育館と複数のサークル室の技術設計を部屋の使命と用途に合うように立派にできなかったことについて指摘した。

最高指導者は、久しい前に建設した建物を全部崩し、どうせ多くの資材を使って新たに建設しながら、なぜ宮殿を課外教育施設としての使命と用途に合うようにしょうしゃに建ててやれないのかともどかしく追及し、設計部門でいつも「先便利性」の原則を具現すると多く言っているが形式主義、要領主義、急場しのぎが濃厚であると指摘した。


(以下略)
チュチェの幹部論に照らせば、形式主義、要領主義、急場しのぎは最も唾棄すべきものであり、ことによっては反革命レベルにも至り得るもの。全社会の綱紀をただして朝鮮式の社会政治生命体の生命力を更に輝かせようとしているとき、自力更生に依拠しなければならないときにおいては、厳しく対応してしかるべきものです。

前述のとおり、党の最高幹部の肩書を維持しつつの「粛清」・「謹慎」は、共和国の政治史においてはかなり異例のこと。その点、『労働新聞』の論調は、「ハノイ会談に関する問責」などと裏読み的に受け取るよりも、字面どおり素直に「地方幹部の仕事ぶり」に関連させて読み解くべきでしょう。

上掲:ピョン・ジンイル氏の6月1日づけ記事でピョン氏は「現状では「未確認情報」あるいは単なる「説」に過ぎない。 」とした上で、「今回の場合は、ベトナムで金委員長を失望、落胆させただけでなく、威信低下に繋がりかねない「失態」を演じただけに担当者らが責任を負わなければならないこと、また、過去のケースからして「北朝鮮ならばこうした粛清が行われてもおかしくはない」との先入観もあって「事実」として受け止められているようでもある。」と指摘されました。

今回の誤報は、突き詰めればこのことに尽きるでしょう。つまり、『朝鮮日報』記者が『労働新聞』記事を都合よく切り貼りした「作文」だったということです。

■『朝鮮日報』記者の作文に関する反響総括
最後に、本件誤報に関する反響を軽く総括しておきましょう。

まず、ちょっと意外だったのは、デイリーNKジャパンのコ・ヨンギ(高英起)編集長の言動。この手の真偽不明ながらもスキャンダラスなゴシップ記事といえば、彼の右に出るものはいません(というか、彼は最近ではその手の記事の量産しかしておらず、資料的価値のある分析はほとんど出していません)。

そんな彼のことだから、飛びつくかと思えば、そんなことはなかったのは意外でした。怪しげな幹部関連情報に飛びついては真相が判明するや否や大恥をかいてきた彼も学習し、裏を取りようがない話に注力することだけが自らの生きる道だと悟ったのかもしれません。

他方、河野外相が言及。いやー庶民感覚のある「親しみやすい」閣僚です(呆)
https://www.sankei.com/politics/news/190601/plt1906010026-n1.html
北朝鮮粛清説に「おっかねえな」 河野太郎外相、露外相とも話題に
2019.6.1 19:58|政治|政策

 河野太郎外相は1日、高知県四万十市での自民党会合で、2月の米朝首脳会談の事前交渉に当たった北朝鮮高官らが粛清されたとの韓国紙報道について「おっかねえな、という印象を抱いた」と述べた。ロシアのラブロフ外相と5月31日に会談した際も話題となったとして「われわれは処刑されなくて良かったね(と言い合った)」と、やりとりを明かした。


(以下略)
『朝鮮日報』記者の作文に軽々しく乗っかる現役外務大臣・・・ヨソの国の新聞社が誤報を垂れ流すのは、百歩譲って目をつぶれても、我が国の閣僚がそれに乗っかるのはさすがに・・・
ラベル:共和国
posted by 管理者 at 21:48| Comment(2) | 時事 | 更新情報をチェックする

2019年06月04日

6月4日を忘れるな

本日6月4日は、「天安門事件30年」の日であります。これはこれで重要な日であることには違いないのですが、私の興味関心に即して申せば、「足利事件元受刑者氏の刑執行停止・釈放10年」について注目したいところです。「もう10年たった」と言うべきか、「まだ10年しかたっていない」というべきか・・・

検索すればすぐ分かるし、10年前のことなので記憶に残っている方も多いかと思いますが、いまや一国民として日常生活を送っていらっしゃる冤罪被害者たる元受刑者氏については、本稿では「S氏」としたいと思います。敢えて本名で呼ぶ必要もないからです。

さて、S氏が逮捕され、そして裁判で有罪になった決め手は、当時最先端の捜査技術であったDNA鑑定でした。もっとも、1990年代初頭のDNA技術は、Wikipediaにもありますが、「別人であっても1.2/1,000の確率でDNA型も血液型も一致する可能性があった」程度の精度。1990年国勢調査で約17万人の人口を擁していた栃木県足利市の市民に限っても、容疑者となり得る人物はそれなりにいた計算になります。にもかかわらず、捜査当局はこれを過信して証拠の主幹としたのでした。「DNA鑑定結果以外、自白を除いてまともな証拠などなかった」といってもよいくらいのものでした。

それから釈放までの20年間で科学技術は飛躍的に進歩し、DNA鑑定の精度は、ほぼ個人を特定し得るまでに向上しました。自白を除けば唯一の有罪根拠だったDNA鑑定が崩れ、その事実に対して検察側が「新手」を繰り出せなかった以上は、S氏が無罪になるのは刑事手続きとしては当然のことです。ある意味において、S氏が無罪を勝ち取ったのは、DNA鑑定の精度向上によるものです。

他方、この釈放劇についてマスメディアは「DNA鑑定の進歩がS氏の逆転無罪を導いた。DNA鑑定の進歩はすごい! こんなに精度があがっている!」といった論調で報じていました。このことは、今振り返っても不安を感じさせるものです。

DNA鑑定の精度が上がっているのは事実であり、いまの精度においては同じDNA型を持っている人がいる確率は「数兆分の一」であり、「ほぼ個人を特定できる」とはいえ、依然として絶対に個人を識別できるわけではありません。また、他人を陥れるための謀略が仕組まれる可能性だってあることでしょう。

足利事件の失敗は、「精度の低い当時のDNA鑑定を妄信したから」ではなく、「インパクトの強い一証拠に引きずられて、それ以外の証拠を無視・軽視したから」というべきです。「DNA鑑定の精度が飛躍的に上がったので、もう足利事件の轍を踏むことはない」というわけではなく、「DNA鑑定の精度が飛躍的に上がったからこそ、ますますインパクトが強い一証拠に引きずられて、他の証拠を無視・軽視して判断を誤ってはならない」というべきなのです。

現代日本の宿痾たる「進歩幻想」がS氏の冤罪を生んだと言ってよいものですが、そのことをまたしても「進歩」で総括したのが「冤罪事件としての足利事件」でした。

あれから10年。Googleニュースで足利事件やS氏の名前を検索しましたが、それらしい記事はありませんでした。すっかり風化してしまっているようです。この風潮を私は危惧するところです。
posted by 管理者 at 21:30| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする