本年最初の大ニュースと言えば、当ブログ的には朝鮮労働党第8回党大会以外にありません。今年も『新年の辞』はなく、代わりに
親筆書簡が公開されましたが、「年賀状」というべき内容です。これはこれで要チェックの重要書簡ではありますが、ここでは詳しく論じないことにします。
■総書記の職位が復活した!
第8回党大会は1月5日から1月12日までの8日間にわたって開催されました。これは1970年の第5回大会以来の長期日程です。日程が長ければ長いほど決める内容が多いということに他なりません。第5回大会は、いわゆる甲山派壊滅後の最初の党大会で、唯一思想体系が党規約に定められ
キム・イルソン体制が完全に確立した記念的大会でした。今回も組織問題として重大な決定がありました。
キム・ジョンウン同志が党総書記(総秘書)に就任されたのです(以降、一般的呼称と合わせるため、直訳的な「総秘書」は「総書記」、同「秘書局」は「書記局」と表記します)。
書記局が設置され、総書記と書記の職が最初に置かれたのは、1966年の第4期第14次中央委員会全員会議でした。ここでそれまでの委員長・副委員長制度が廃止されるのに取って代わる形で設置されたのです。鐸木(2014)によると、委員長・副委員長制度では委員長の他にも副委員長の権威が容認され得、また、政治局(政治委員会)だけでは各政治局員が専門性をもち、独立性を有する可能性があるので、唯一的指導者としての「首領」を制度化するために総書記が置かれたとされています。
もちろん、前回がそうだったからと言って今回もそうだという保証はどこにもありませんが、朝鮮中央通信の大会報道は次のように報じています。
http://www.kcna.co.jp/calendar/2021/01/01-10/2021-0110-003.html조선로동당규약개정에 대한 결정서 채택
朝鮮労働党規約改正の決定書採択
(평양 1월 10일발 조선중앙통신)조선로동당 제8차대회는 셋째 의정 《조선로동당규약개정에 대하여》를 토의하였다.
(ピョンヤン 1月10日発 朝鮮中央通信)朝鮮労働党第8回大会は第三議題「朝鮮労働党規約改正について」を討議した。
(中略)
당기관뿐아니라 정권기관,근로단체,사회단체를 비롯한 정치조직들의 책임자직제가 모두 위원장으로 되여있는것과 관련하여 최고형태의 정치조직으로서의 당의 권위를 철저히 보장할수 있게 각급 당위원회 위원장,부위원장직제를 책임비서,비서,부비서로 하고 정무국을 비서국으로,정무처를 비서처로 고치였다.
党機関だけでなく、政権機関、勤労団体、社会団体をはじめとする政治組織の責任者職制がすべて委員長とされていることと関連して、最高形態の政治組織としての党の権威を徹底的に保障できるように、各級党委員会の委員長、副委員長の職制を担当秘書、秘書、副秘書とし、政務局を秘書局、政務処を秘書処に修正した。
당중앙위원회 전원회의의 사업에 대하여 규제한 26조에는 당중앙위원회에 부서(비상설기구 포함)를 내오며 필요한 경우 당규약을 수정하고 집행한 다음 당대회에 제기하여 승인을 받는다는 내용이 보충되였다.
党中央委員会全員会議の事業について規定した26条には、党中央委員会に部署(非常設機構を含む)を作り、必要な場合に党規約を修正して執行した後に党大会に提出し、承認を受けるという内容が補充された。
당중앙위원회 정치국의 임무와 권한을 규제한 27조에 당중앙위원회 전원회의를 소집한다는 내용을 보충하였다.
党中央委員会政治局の任務と権限を規定した27条に、党中央委員会総会を招集するという内容を補充した。
그리고 당중앙위원회 정치국 상무위원회는 정치,경제,군사적으로 시급히 제기되는 중대한 문제들을 토의결정하고 당과 국가의 중요간부들을 임면하는 문제를 토의한다는 내용과 당수반의 위임에 따라 정치국 상무위원회 위원들은 정치국회의를 사회할수 있다는 내용을 한개의 조로 규제하였다.
そして、党中央委員会政治局常務委員会は、政治、経済、軍事的に至急提起される重要な問題を討議決定し、党と国家の重要幹部を任命・罷免する問題を討議するという内容と、党首班の委任に基づいて政治局常務委員会の委員は、政治局会議を司会できるという内容を一つの条文として規定した。
이것은 당수반의 혁명령도를 더욱 원만히 보좌하며 당사업과 당활동을 보다 민활하게 진행해나가기 위한 현실적요구를 구현한것이다.
これは党首班の革命指導をさらに円滑に補佐し、党の事業と党活動をより敏活に進めていくための現実的な要求を具現したものである。
(以下略)
「
最高形態の政治組織としての党の権威を徹底的に保障できるように、各級党委員会の委員長、副委員長の職制を担当秘書、秘書、副秘書とし、政務局を秘書局、政務処を秘書処に修正した」と解説しているので、
やはり今回も前回同様の狙いがあるといってよさそうです。
■総書記職の復活と規律強化、そしてその意味は、「一心団結の結束をして危機を乗り越える」ということ
次に注目すべきテーマは、
非常設中央検閲委員会による確認事業の実施です。総書記の職の復活と関連して「規律強化」は本大会の
メインテーマの一つであるといえそうです。その意味するところを探ってみたいと思います。
朝鮮中央通信の大会報道記事では、
キム・ジョンウン同志の開会の辞が報道されていますが、そのなかに次のようなくだりがあります。
http://www.uriminzokkiri.com/index.php?ptype=cforev&stype=2&ctype=3&page=1&lang=jpn&mtype=view&no=32349金正恩同志が朝鮮労働党第8回大会で行った開会の辞
【平壌1月6日発朝鮮中央通信】敬愛する金正恩同志が、朝鮮労働党第8回大会で開会の辞を述べた。
(中略)
代表者の皆さん!
党中央委員会は、今回の大会を活動する大会、闘争する大会、前進する大会にする準備を着実に進めるためにこの4カ月間次のような活動に主力を注ぎました。
まず、第7回党大会の決定の実行状況を全面的かつ立体的に、細部にわたって分析、総括し、今後の前進と発展のための経験と教訓を汲み取る活動を行いました。
そのために党中央委員会は、非常設中央検閲委員会を設置し、下部に派遣して実態を把握し、現場で働く労働者、農民、知識人党員の意見を真摯に聞くようにしました。
実態調査は、グループを各道に派遣して実態を把握させた上で、各省・中央機関に方向別、部門別に派遣して電撃的に、全面的に、具体的に行うようにしました。
実態調査グループは、第7回党大会の決定の貫徹で誤りを犯したのは何か、十分できることもせずに怠ったのは何か、実利的に行ったのは何で形式的に行ったのは何か、間違ったことがあればその原因は何か、党の指導において欠点は何かといったことをはじめその真相を解剖学的に調べました。
党大会の準備期間、党中央委員会の各部署と全国の党組織は、この5年間の活動状況を総括した資料とともに、今後の闘争目標と計画に関する革新的かつ具体的な意見を党中央委員会政治局と大会準備委員会に提出しました。
この過程でわれわれは、大衆こそ立派な師だという貴重な真理を今一度確認し、党大会の準備を進めながら党組織と党員の意見を広く聞くようにしたのが全く正しかったということを確信しました。
このような活動は、われわれの党大会が名実共に全ての党員の総意を反映させた革命的大会、戦闘的大会となり、今後採択される党大会の決定が全党の組織的意思となるようにするうえで重要な意義を持ちました。
(以下略)
一般企業でもありがちなことだと思いますが、組織の「正規ルート」では、なかなか現場の声が最高幹部層に届かないものです。ピラミッド型のヒエラルキー構造を持っている民主主義中央集権制の組織では尚更のことです。歴史上、それがもっとも顕著かつ劇的にあらわれたのが中国の「大躍進」における虚偽・誇大報告の嵐でした。また、ソ連においてもノルマに対する恒常的なトゥフタが国を徐々に蝕み、ついに腐朽の末に崩壊しました。
これに対して
キム・ジョンウン同志は、
いわゆる「三重苦」という深刻な事態を乗り越えるために、現場で仕事をする労働者・農民・知識人党員を信じ、彼らに依拠するために党中央直属の確認検閲小グループを組織派遣し、そこでの実態調査資料を携えて省・中央機関の事業検閲に臨まれました。普段であれば、省・中央機関を通して現場に照会するところ、そうはしなかったわけです。
党中央委員会第8期第1回総会(全員会議)報道は、「新しい規律監督体系を設けることに関する議題」について紙幅を割いて報じています。
http://www.uriminzokkiri.com/index.php?ptype=cforev&stype=2&ctype=3&page=1&lang=jpn&mtype=view&no=32430朝鮮労働党総書記の金正恩同志の指導の下で朝鮮労働党中央委員会第8期第1回総会
【平壌1月11日発朝鮮中央通信】朝鮮労働党中央委員会第8期第1回総会が1月10日、党中央委員会の本部会議室で行われた。
(中略)
総会ではまた、党内に新しい規律監督体系を設けることに関する議題を重要に研究、討議した。
敬愛する金正恩同志は、規律を強化するのは革命の参謀部である党が自己の指導力と戦闘力を発揮するための先決条件になると述べ、党内に党規約と党政策を厳格に履行する強い規律を立て、権柄と官僚主義、不正腐敗の傾向を根絶するには規律監督体系を新しく確立しなければならないと言明した。
敬愛する金正恩同志は、今回の第8回党大会で党中央検査委員会の権能を高めるようにしたのは全党に厳格な規律と革命的紀綱を確立してわが党を革命を行う党、闘う党、前進する党にいっそう強化するのに重要な目的があると強調した。
党中央検査委員会が党内に中央集権的規律をいっそう強く立て、中央の唯一的指導の実現を阻害する党規律違反行為と権柄、官僚主義、不正腐敗、権勢、専横をはじめとする一切の行為を監督、調査して党規律問題を審議し、苦情の申し立て・請願を処理し、党の財政管理活動を検査するように任務を新しく規制したことについて明らかにした。
総会は、党中央検査委員会の権能を高め、党内の規律を強化するための監督・調査活動を専門に受け持つようにしたことに合わせて、その実現を保証する機構的対策として執行部署を設けることを決定した。
党中央委員会から道・市・郡党委員会に至るまで、党規律問題を専任する部署が設けられて活動を始めれば、党組織規律に違背したり挑戦し、規約と職能に違反する傾向と革命的党風を濁らせるあらゆる傾向が多く抑止されるようになると総会は分析した。
敬愛する金正恩同志は、党規律監督活動を受け持つ部署が堅持すべき活動原則と方法、基本課題を明示し、国家規律と法執行において改善をもたらすための党の指導も強化して党と国家の規律を確立する活動を統一的に、同時に推し進めることについて言明した。
敬愛する金正恩同志は、規律違反問題と苦情の申し立て・請願問題の処理にあたって、常に党と革命の利益の見地から、党と大衆の一心団結を防衛し、しっかり固める見地から活動を企画し、展開していくことについて重要に強調した。
第8回党大会を契機に、党内に規律を確立する活動を実際に監督、統制することのできる新しい機構体系、活動体系が樹立されて、第8期党中央委員会が全党的な規律強化のための活動を強力に展開することのできる有意義な始点、転換点がもたらされた。
(以下略)
さらに党大会最後の結語報道でも次のようなくだりがあります。
http://www.uriminzokkiri.com/index.php?ptype=cforev&stype=2&ctype=3&lang=jpn&mtype=view&no=32484金正恩総書記が第8回党大会で述べた結語
【平壌1月13日発朝鮮中央通信】朝鮮労働党の金正恩総書記が、朝鮮労働党第8回大会で結語を述べた。
結語は、次の通り。
(中略)
全党的、全国家的、全人民的に強力な教育と規律を先行させて、社会生活の各分野で現れているあらゆる反社会主義的・非社会主義的傾向、権力乱用と官僚主義、不正・腐敗、税金外の負担などあらゆる犯罪行為を断固阻止し、統制しなければなりません。
(以下略)
不正等の摘発して
党の規律を強化するため、党中央が党細胞と連携を構築する姿勢を読み取ることができます。
これらは一体何を目指しているのでしょうか? 同じく開会の辞では、規律強化の文脈的前段として、次のように「人民大衆第一主義政治」について力説されていました。
http://www.uriminzokkiri.com/index.php?ptype=cforev&stype=2&ctype=3&page=1&lang=jpn&mtype=view&no=32349金正恩同志が朝鮮労働党第8回大会で行った開会の辞
(中略)
報告ではまず、総括期間に人民大衆第一主義政治を具現する過程に収められた成果について総括された。
第7回党大会の決定を貫徹するためのこれまでの5年間の闘争で収められた最も輝かしい成果は、朝鮮革命の第一の原動力である政治的・思想的力が非常に拡大、強化されたことである。
党中央委員会は総括期間、人民大衆第一主義政治を党の存亡と社会主義の成敗を左右する根本問題、基本政治方式として前面に押し立て、強力に一貫して実施することで、党と人民の一心団結をいっそう磐石のごとく打ち固める上で、社会主義偉業の主体を強化し、その役割を強める上ではっきりした成果を収めた。
「全てを人民のために、全てを人民大衆に依拠して!」、これは総括期間、党中央委員会が一寸の狂いも、いささかの譲歩もなく堅持した指導思想の中核であった。
(中略)
党中央委員会は、全党の党組織が生活上の曲折を経たり、困難な人々を真情をもって助け、真実に導くようにして、わが社会を一つの大家庭に団結させる上で貴重な成果を収めた。
信頼と献身、報いと信義で充満した朝鮮労働党の人民大衆第一主義政治によって朝鮮革命の政治・思想陣地が強固になり、いかなる障害と挑戦も切り抜けられる不可抗力的力が蓄積されたし、人民大衆中心の朝鮮式社会主義の優越性と生命力ははっきりと浮き彫りになった。
報告は、情勢がいくら厳しくて難関が折り重なっても、そして内在する欠点があるとしても人民大衆第一主義政治をしっかり具現すれば不利な全ての主・客観的要因を十分に克服し、社会主義建設において提起される膨大な課題を容易に解決することができるということが総括期間に再実証された貴重な哲理であると強調した。
(以下略)
昨年12月31日づけ「
チュチェ109(2020)年を振り返る(4):社会政治的生命体論にスポットライトを当てた一年間」で私は、経済封鎖(経済制裁)・コロナ禍・台風被害の「三重苦」に対して共和国は、国内の結束、特に人心を結束しつつ復旧復興作業に注力したと総括しました。首領・党・人民大衆の三位一体を成し、同志愛と革命的義理、集団主義原理に基づく政治を行うという基本に立ち返り、特に首領と人民大衆との繋がりを強化して危機を乗り越えようとする姿勢が鮮明に見られたのです。今回の年始党大会の開会の辞でも、その姿勢は継続して鮮明です。
こうした文脈的解析から見て、
今回の党大会開会の辞で明らかにされた確認検閲小グループによる事業確認、そして中央委員会第1回総会で取り上げられた中央検査委員会の強化は、首領と人民大衆との繋がりを強化して危機を乗り越えようとする方法の一幕であるといえるでしょう。
特に「
税金外の負担」というのは、ありとあらゆる種類の搾取を想定させるものであり、「権力乱用と官僚主義、不正・腐敗」に並列させて敢えて言及しているあたり、かなり深刻な状況にあり、それだけに
強烈な危機感をお持ちであられることを行間から読み取ることができます。
「一心団結の結束をして危機を乗り越える」という姿勢に他ならないのです。
■日本なんかよりずっと強い危機感を持っている
日本メディアで「重宝」されている自称「北朝鮮専門家」や「ジャーナリスト」は、あいかわらず「北朝鮮が追い詰められている証拠」だといいます。彼らはいつだってそういっているので参考にならないのですが、今回については、経済封鎖(経済制裁)・コロナ禍・台風被害の「三重苦」を受ければ強い危機感を持つのは当然でしょう。日本政府がまだ春節インバウンドに未練タラタラだった昨年1月下旬、早くも共和国政府は朝中国境を封鎖しました。「追い詰められている」とまで言えるかはさておき、日本なんかよりずっと強い危機感を持っているといえます。
そんな共和国が危機を乗り越えるために繰り出したのが、首領・党・人民大衆の三位一体を成し、同志愛と革命的義理、集団主義原理に基づく政治を行うという基本に立ち返るということでした。現場で仕事をする労働者・農民・知識人党員を信じ、彼らに依拠するために党中央直属の確認検閲小グループを組織派遣し、そこでの実態調査資料を携えて省・中央機関の事業検閲を行いました。至
極まっとうな方法ではないでしょうか? 利権と政略、権力闘争の道具にされてグダグダなコロナ対策に成り下がっている日本よりも、よほどマジメにやっています。
開会の辞及び大会結語では自ら次のように言及された
キム・ジョンウン同志。たしかに異例であり、それだけ真摯であるともいえます。
http://www.uriminzokkiri.com/index.php?ptype=cforev&stype=2&ctype=3&page=1&lang=jpn&mtype=view&no=32349国家経済発展5カ年戦略の遂行期間は昨年までに終わりましたが、ほとんど全ての部門が掲げた目標をはなはだしく達成できませんでした。
http://www.uriminzokkiri.com/index.php?ptype=cforev&stype=2&ctype=3&lang=jpn&mtype=view&no=32484わが党がこれまでの党大会とは異なり、今回の大会で自己の活動を肯定的な面ではなく、批判的な立場に立って冷静に分析、総括したのは、総括期間に収めた成果に劣らぬ大きな意義を持ちます。
思えば10年ちょっと前までは、たとえば人工衛星の発射に失敗しても「発射成功」と言い張っていました。何があっても絶対に間違いや失敗を認めなかった共和国が、このように変化してきたのです。「当たり前のことにずいぶん長くかかった」といってしまえばそれまでですが、間違ったことをしているわけではないのだから、遅くても喜ばしく思います。
災害時に人間のホンネが見えてくるように、非常事態の対応においてこそ組織の本質的な体質が見えるものだと私は考えます。
キム・ジョンウン同志が非常事態を乗り越えるために現場で仕事をする労働者・農民・知識人党員を信じ、彼らに依拠する方法を選ばれたことは、私はよく記憶・記録しておくべきだと考えます。■社会主義企業責任管理制と内閣中心の経済政策執行は継続の見込み
経済政策に関する言及についても是非ともチェックしておきたいと思います。大会結論報道でまとまって読み取ることができます。
http://www.uriminzokkiri.com/index.php?ptype=cforev&stype=2&ctype=3&lang=jpn&mtype=view&no=32484われわれが直面している今の難局を打開し、人民生活を一日も早く安定、向上させ、自力富強、自力繁栄の確固たる保証をもたらすためには、一番難題となっている経済問題から早急に解決しなければなりません。
まず、経済部門の主要攻略対象を正しく定め、そこに力を集中しなければなりません。
(中略)
何の見積もりもなしに国の経済力を分散させるのでなく、鉄鋼材と化学製品の生産能力を大幅に伸ばすのに最大限合理的に活用できるように、経済の作戦と指揮を強めることが重要です。
(中略)
新たな国家経済発展5カ年計画遂行の成敗は、経済管理をいかに改善するかにかかっています。
党中央の経済部署と内閣、国家計画委員会、工場、企業をはじめ全ての部門が協力し、経済管理を改善するための決定的な対策を講じるべきです。
テストケースとして研究、導入している方法と、経営管理、企業管理をきちんと行っている諸単位の経験を結び付けることをはじめ、われわれの実情に合いながらも最良化、最適化の効果を現す経済管理方法を研究、完成する活動を積極的に推し進めなければなりません。
新たな5カ年計画期間、国家の統一的な指揮と管理の下に経済を動かす体系と秩序を復元し、強化することに党的、国家的な力を入れるべきです。
党大会以降にも特殊性を云々し、国家の統一的指導を妨害する行為に対しては、どの単位を問わず強い制裁を加えなければなりません。
内閣と国家計画委員会は、人民経済の自立性を強め、生産を増大させる立場に立って部門と工場、企業が生産的連係と協同を円滑に実現できるように経済の組織と指揮を強めるべきです。
(中略)
わが党が活動する党、闘争する党、戦闘力のある党になるように、全党に整然たる党活動体系を立て、斬新な党活動方法を確立すべきです。
党組織が決起して、新たな闘争路線と戦略・戦術的方針を貫徹するための組織・政治活動を本格的に、力強く繰り広げ、当該単位の活動で舵取りの役割を果たさなければなりません。
経済実務にとらわれて行政代行をするような傾向を打破し、革命と建設で提起される全ての問題をあくまで党的方法、幹部と党員と勤労者の精神力を発揮させる政治的方法によって解決することをたがえることのできない鉄則としなければなりません。
特に、組織指導部、宣伝扇動部をはじめ党中央委員会の各部署が党大会の決定貫徹のための党の指導、政策的指導を綿密に、攻勢的に強化すべきです。
(以下略)
「
テストケースとして研究、導入している方法と、経営管理、企業管理をきちんと行っている諸単位の経験を結び付けることをはじめ、われわれの実情に合いながらも最良化、最適化の効果を現す経済管理方法を研究、完成する活動を積極的に推し進めなければなりません」というくだりで
ハッキリと言明されているとおり、社会主義企業責任管理制度の継続には変更はなさそうです。
また、
内閣中心の経済政策推進については、上掲結語中の「(党組織が)
経済実務にとらわれて行政代行をするような傾向を打破」というくだり、及び第7期中央委員会活動報告で言明されています。
https://www.chosonsinbo.com/jp/2021/01/yr9-1/新たな5カ年計画の中心的課題は、金属工業と化学工業をキーポイントとしてとらえ投資を集中して、人民経済の各部門で生産を正常化し、農業部門の物質的・技術的土台を強固にし、軽工業部門に原料、資材を円滑に保障して一般消費財の生産を増やすことに設定された。
報告は、国家経済の現況と潜在力に基づいて、持続的な経済上昇と人民の生活の明確な改善、向上へ進むことを目標として作成された新たな5カ年計画を上程した。
新たな5カ年計画は、主要に内閣が国の経済司令部として経済活動に対する内閣責任制、内閣中心制を円滑に果たし、国家経済の主要命脈と全一性を強化するための活動を強く推し進め、経済管理を画期的に改善し、科学技術の力で生産正常化と改造・近代化、原料・資材の国産化を積極的に推進し、対外経済活動を自立経済の土台と潜在力を補完、補強する方向へ志向させることを前提としている。
(以下略)
これもまた
変更はなさそうです。
■計画経済的手法に基づく突破力と大衆路線に基づく柔軟性のミックス
いわゆる「三重苦」のなかでは事態の劇的な改善はなかなか期待しえないものですが、かといって計画経済や先軍政治に戻るわけにもいかず、やけっぱちのショック療法的な市場導入など上手く行くはずもありません。
生産手段の老朽化が著しく、「再工業化」が必要な水準にとどまっている現在の共和国にあっては、一定程度の「計画経済的」な手法も必要とされているといえます。
以前から述べてきたように、自由主義哲学者であり反共の雄であるF.A.ハイエク的な知識論の見地から述べると、経済資源を一点集中・一点突破できる計画経済体制は「なにをなすべきか」が明白に分かっている場合に限って、自由経済と同等以上のパフォーマンスを発揮する可能性があります。事実、西欧諸国が私有財産制度の枠内で数世代かけて自生的に達成した工業化をソ連は十数年で達成しました。他方、基本的な工業化が達成され、消費財の生産が経済活動の主たる要請になったとたんに、突破力はあるが柔軟性に欠ける計画経済体制は順応できずに崩壊しました。
この歴史的教訓を踏まえるに、現在の共和国にあっては、とりあえずは従来の計画経済的路線を歩み続けるほかないといえるでしょう。
しかし、「とりあえず」はいつまでか、いつが政策切り替えのタイミングで、どのように切り替えるべきなのか、スムーズな切り替えのために事前の下準備は不要かという問いも当然あるでしょう。「再工業化」は成功したが経済構造が完全に硬直化してしまい、いざ消費経済に移行しようとしてもできない(まさにソ連の轍)ことは避けなければなりません。
以前から述べているように、
ソ連・東欧諸国になくて共和国や中国にあったのは、「自力更生」と「大衆路線」の概念です。とくにここでは
「大衆路線」が大切になります。党組織が人民大衆と直接的に連携連帯をもつことを党と体制の体質とするということです。
再びF.A.ハイエク的な知識論の見地から言うと、なぜ計画経済体制は硬直化するのかといえば、それは人民大衆の「生活上の知識」や「現場の知識」を中央計画当局者が十分に察知できない点にあります。
要するに中央官僚は現場を知らない・知ることができないので、机上の空論をこねまわすことになるということです。
これに対して
大衆路線は、まさに党が人民の輪の中に分け入って、人民と苦楽を共にする中でその素朴な声、生活者の声に耳を傾けるということに他なりません。
今回の大会報告で
キム・ジョンウン同志は次のように総括しています。
https://www.chosonsinbo.com/jp/2021/01/yr9-1/党党中央委員会は、国家経済発展5カ年戦略が科学的な見積もりと根拠に基づいて明確に作成されず、科学技術が実際に国の経済活動を牽引する役割を果たせなかったし、不合理な経済活動体系と秩序を整備、補強するための活動がまともに推進されなかった実態を分析した。
報告では、今まで蔓延してきた誤った思想観点と無責任な活動態度、無能力をそのままにしては、そして今のような旧態依然とした活動方式をもっては、いつになっても国の経済をもり立てられないという総体的な教訓が言及された。
党と国家の活動全般を、新しい革新、大胆な創造、絶え間ない前進を志向し、奨励する方向へ確固と転換し、われわれの前進を拘束する古い活動体系と不合理かつ非効率的な活動方式、障害物を断固と取り除くための措置を講じるべきだと強調し、報告はこうすることによってのみ、今後達成すべき国家経済の展望目標をはじめとする社会主義建設のためのわれわれの闘いが人民に実際の福利をもたらす偉大な革命活動にすることができると言明した。
「
科学的な見積もりと根拠に基づいて明確に作成され」なかったというのは、担当官僚の形式主義・要領主義的な怠慢もあったのでしょうが、そもそもかなり工夫が必要なのです。つまり、まさにソ連の轍を踏みつつあったということです。
この点、先に言及した
「党中央が党細胞と連携を構築する姿勢」は、単なる規律強化、一時的な「三重苦」の乗り越え策ではなく、経済政策として恒久化すべきものであるといえます。そうした基本姿勢の上で継続的に展開される、
ボトムアップ型の経済政策としての社会主義企業責任管理制は、計画経済的側面と大衆路線的な側面を具有している点において、
当面の「再工業化」のための国家的指導の強化と将来的な消費経済への下準備という2つの課題に臨むうえで総路線的に正当であるといえるでしょう。
今大会は、唯一の道を継続して歩む方向性がハッキリと示されました。
■対米・対南政策について
私自身はそれほど関心はないのですが、対外関係とくに対米関係について。よく取り沙汰されているくだりは次でしょうか。
https://www.chosonsinbo.com/jp/2021/01/yr9-1/このことから報告は、対外活動部門で堅持すべき原則的問題を明らかにした。
わが党の尊厳の固守と国威の発揚、国益の守護を共和国外交の第一の使命とし、対外活動で自主の原則を確固と堅持しなければならない。
われわれの自主権を侵奪しようとする敵対勢力の策動を粉砕し、わが国家の正常的な発展権を守るための外交戦を攻勢的に展開しなければならない。
対外政治活動を朝鮮革命発展の主な障害、最大の主敵であるアメリカを制圧し、屈服させることに焦点を合わせ、志向させていかなければならない。
報告は、アメリカで誰が権力の座についてもアメリカという実体と対朝鮮政策の本心は絶対に変わらないと指摘し、対外活動部門で対米戦略を策略的に樹立し、反帝自主勢力との連帯を引き続き拡大していくことについて強調した。
(中略)
報告は、新しい朝米関係樹立のキーポイントは、アメリカが対朝鮮敵視政策を撤回するところにあるとし、今後も強対強、善対善の原則に基づいてアメリカに対するであろうというわが党の立場を厳粛に言明した。
また、わが共和国は責任ある核保有国として侵略的な敵対勢力がわれわれを狙って核を使おうとしない限り、核兵器を濫用しないであろうということを今一度確言した。
(以下略)
「
アメリカで誰が権力の座についてもアメリカという実体と対朝鮮政策の本心は絶対に変わらない」というのは、
昔から変わらない基本的な対米観の繰り返しというべきくだりです。
しかしながら、かつて(1980年代)
キム・ジョンイル同志はこう断ずる理由を、アメリカの社会経済制度に起因する政治の帝国主義的性格として説明していました。これは理屈との問題しては完全に正しいものですが、国際政治の問題として考えるとき、アメリカの社会経済制度はそう易々とは変わるはずがないので、ここまで言い切ってしまうといざアメリカに接近しようとしても理屈が立ちにくくなる点において、口にするにはかなり「勇気」がいる見解です。当時の環境における
キム・ジョンイル同志の決断を後方視的に否定するつもりはありませんが、いまそこまで言ってしまうのはまずいでしょう。
今回、キム・ジョンウン同志はそこまでは言いませんでした。「
地球上に帝国主義が存在し、わが国家に対する敵対勢力の侵略戦争の危険が続く限り、わが革命武力の歴史的使命は絶対に変わらず、われわれの国家防衛力は新たな発展の軌道に沿って絶えず強化されなければならない」とはいったものの、
あくまでも一般論です。もちろん文法的・文脈的には、「アメリカ=帝国主義」と言っているようなものなのですが、
共和国独特の語法から見て、これは「アメリカ名指し」とまでは言えないのです。共和国は、さすがの私でも「ちょっと品がないからお止めになった方が・・・」と言わざるを得ない罵倒を国営通信で連呼してしまう国。それにしては「控えて」いますよね。
それどころか「
新しい朝米関係樹立のキーポイントは、アメリカが対朝鮮敵視政策を撤回するところにあるとし、今後も強対強、善対善の原則に基づいてアメリカに対するであろうというわが党の立場を厳粛に言明」とのこと。バイデン新政権の出方をうかがっているというべきでしょう。
対南関係についても、けっこうな紙幅を割いて言及しています。
https://www.chosonsinbo.com/jp/2021/01/yr9-1/現在、南朝鮮当局は防疫協力、人道的協力、個別観光のような非本質的な問題を持ち出し、北南関係の改善に関心があるかのような印象を与えている。
ハイテク軍事装備の搬入とアメリカとの合同軍事演習を中止すべきだというわれわれの再三の警告に依然として背を向け、朝鮮半島の平和と軍事的安定を保障するという北南合意の履行に逆行している。
甚だしくは、われわれの正々堂々たる自主権に属する各種の通常兵器の開発については「挑発」と言い掛かりをつけ、武力の近代化に一層狂奔している。
もし、南朝鮮当局がそれを論難したいならば、先端軍事資産の獲得や開発の努力を加速化すべきだの、すでに保有している弾道ミサイルや巡航ミサイルよりも正確で、強力で、遠くまで飛んでいくミサイルを開発するようになるだろうだの、世界最大水準の弾頭重量をそなえた弾道ミサイルを開発しただのと言った執権者の発言から説明すべきであり、引き続く先端攻撃装備を搬入する目的と本心を納得できるように解明すべきである。
報告は、南朝鮮当局が二重的で、公平性のない思考観点に立ち、「挑発」だの、何だのと言って引き続きわれわれに難癖をつけようとするならば、われわれもやむをえず、以前とは違ったやり方で南朝鮮に対するしかないだろうと厳重に警告した。
南朝鮮当局が不正常で反統一的な所業を厳正に管理し、根源的に取り除いてこそ、強固な信頼や和解に基づく北南関係改善の新しい道が開かれるであろう。
北南関係が回復し、活性化するのかどうかは、全的に南朝鮮当局の態度如何にかかっており、代価は支払った分だけ、努力した分だけ受けるようになっている。
報告は、現時点において南朝鮮当局に以前のように一方的に善意を示す必要はなく、われわれの正しい要求にどう肯定的に応えるか、北南合意を履行するためにどう動くかによって対しなければならないと強調した。
報告は、南朝鮮当局の態度次第で北南関係は、近いうちに再び3年前の春のように全同胞の念願通り平和と繁栄の新しい出発点へ戻ることも十分可能だと分析した。
(以下略)
今年は合同軍事演習をやってほしくないという強いメッセージは伝わりますが、それ以外の点においては、
ムン「大統領」に期待しているような、していないような・・・アメリカ新政権に対しては行間から「様子見」感がにじみ出てきているように思いますが、南に対しては微妙なところですね。
■党大会の位置づけについてのメモと総括
党大会の「位置づけ」について、興味深い報道をメモしておきたいと思います。
http://www.uriminzokkiri.com/index.php?ptype=cforev&stype=2&ctype=3&lang=jpn&mtype=view&no=32524第8回党大会祝賀大公演「党をうたう」
【平壌1月14日発朝鮮中央通信】朝鮮労働党第8回大会を祝う大公演「党をうたう」が1月13日、平壌体育館で盛大に行われた。
朝鮮労働党総書記で朝鮮民主主義人民共和国国務委員長、朝鮮民主主義人民共和国武力最高司令官であるわが党と国家、武力の最高指導者金正恩同志が公演を鑑賞した。
(中略)
序曲 器楽と歌謡「党をうたう」から始まった公演の第1部「党はわれらの導き手」の舞台には、歴史的な各党大会を革命の新たな跳躍期、富強な祖国建設の一大分水嶺として輝かし、チュチェ偉業を勝利と栄光の道へ力強く導いてきた偉大な党を仰いでわが人民と人民軍将兵が心から歌った名曲が上がった。
朝鮮労働党第3回大会が開かれた60余年前の峻厳(しゅんげん)な年に、時代を震撼させた不滅の頌歌「金日成元帥にささげる歌」が管弦楽と歌で響き渡ると、場内には自主の新時代を切り開き、革命的党と国家、武力建設の世紀的模範を生み出した主席への烈火のような敬慕の念が熱く満ち溢れた。
マスゲーム「幸福の明日」「社会主義を守ろう」で締めくくった第1部の公演は、朝鮮労働党を強力かつ威力ある革命の指導的力量に強化し、発展させて、自主、自立、自衛によって尊厳をとどろかす朝鮮式社会主義建設の新しい歴史を創造した金日成主席と金正日総書記の不滅の業績を感銘深く見せた。
(以下略)
特になんてこともない記念コンサートの報道なので、これを政治ウォッチ的な意味でマークしている人はあまりいないでしょうが、
「音楽政治」の共和国だけにちょっと気になるところが。
「
朝鮮労働党第3回大会が開かれた60余年前の峻厳(しゅんげん)な年に、時代を震撼させた不滅の頌歌「金日成元帥にささげる歌」が管弦楽と歌で響き渡る」というくだり。「金日成元帥にささげる歌」を紹介するために第3回党大会に言及する意味とは何なのでしょう? 言い換えれば、
「金日成元帥にささげる歌」はそんなに特殊な曲ではなく、むしろ定番的なものです。さまざまな機会によく演奏されてきました。それを敢えて今回は、第3回党大会と結びつけて紹介する意図とは何なのでしょう?朝鮮労働党第3回大会は1956年4月下旬に開催された大会ですが、この直前の2月末、ソ連共産党第20回大会で歴史的な「スターリン批判」があり、それに勢いづいた党内反対派がソ連や中国の権威を笠に着て執行部に挑戦してきたものでした。ソ連・中国もまた共和国を衛星国化しようと露骨な干渉に乗り出した時期でした。そうした厳しい環境下で、誕生したばかりの社会主義政権において工業化を推進するため、大衆運動としての色彩が濃厚であるチョルリマ(千里馬)運動が同年12月末から展開されたのでした。
総書記の職位が復活したことから冒頭でも書いたように第5回大会を連想し、それとの異同を念頭に置いてきたのですが、
もしかすると第3回大会を連想し、それとの異同を念頭に置いたほうが良いのかもしれません。
もちろん、昔は昔であり今は今なので「昔そうだったから今回もそうだ」という見方はまったく非科学的な見方です。しかし、ヒントにはなります。
今回の党大会で示されたこと、言明されたことだけではなく行間から読み取れることも含めて、共和国の行く手を見てゆきたいと思います。