http://www.uriminzokkiri.com/index.php?lang=jpn&ptype=cforev&stype=2&ctype=3&mtype=view&no=36898朝鮮最高人民会議第14期第5回会議の第2日会議
【平壌9月30日発朝鮮中央通信】朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議第14期第5回会議の第2日会議が9月29日、平壌の万寿台議事堂で行われた。
(中略)
会議は、第六の議案として組織問題を討議した。
朝鮮民主主義人民共和国国務委員会の副委員長、委員を召還、補欠選挙した。
朝鮮民主主義人民共和国国務委員長の委任により国務委員会第1副委員長で最高人民会議常任委員会委員長である崔龍海代議員の提議によって朴奉珠氏を国務委員会副委員長から召還した。
また、金才龍、李萬建、金衡俊、李炳哲の各氏、金秀吉、金正官、キム・ジョンホ、崔善姫の各代議員を国務委員会委員から召還した。
金徳訓代議員を国務委員会副委員長に補欠選挙した。
趙甬元、朴正天の両氏、呉秀容、李永吉、張正男、金成男、金與正の各代議員を国務委員会委員に補欠選挙した。
(以下略)
■キム・ヨジョン同志昇格の意味
キム・ヨジョン同志が、ついに
国務委員に昇格しました。この意味をどのように捉えるべきでしょうか。
共和国の党・政府関係者は皆、それぞれの専門知識をもとにした「キャラクター」が与えられています。それゆえ、たとえば、キム・ヨンチョル(金英哲)同志が重用されるようになると「北朝鮮は強硬派を登用したので、対外関係が硬直化する」と言った具合に、外務省のチェ・ソンヒ(崔善姫)同志が重用されるようになると「対話の兆し」と言った具合に評価されます。
しかし、キム・ヨジョン同志についてはこのような「キャラクター」からの評価は困難です。かつて北南連絡事務所を爆破したかと思えば、最近はムン・ジェイン韓「国」「大統領」の終戦宣言提案に対して関心を示しました。その直前に共和国外務事務次官が厳しめに批判したのと比べるとかなりソフトな対応でした。キム・ヨジョン同志は他の要人とは異なり、
「一人二役」を演じ分けること許されている稀有な人物なのです。
それだけ事態が流動的で、硬軟の変化を示すために、いちいち担当者を交代させていられるほどは時間的な余裕がないのでしょう。
外交というものは、「自分たちがどう思っているか」という問題であるのと同時に「相手がどう受け止めるか」という問題でもあります。キム・ヨジョン同志については、
キム・ジョンウン同志の実妹ということで「特別な地位である」と何よりも相手側がそう認識しています。
キム・ジョンウン同志が実際のところ実妹の「本当の能力」を如何に評価しているかは分かりませんが、「外交の顔」として利用可能であることは間違いのないことでしょう。
そのような「外部からの評価」に乗っかり「外交の顔」としてキム・ヨジョン同志を登用されたと考えたとき、
今後は積極的な外交攻勢が展開されるものと見てよいでしょう。今回の政府人事でミサイル開発に深く関与してきたパク・チョンチョン(朴正天)同志が、不正腐敗問題での降格から早くも返り咲いた点を併せて考えると、
硬軟両面の展開が予想されます。
■本当に「血統」ゆえなのか?
ところで、いつも参考にさせていただいている日本大学の川口智彦氏が運営している「北朝鮮報道で書かれないこと (dprknow.jp)」の「
「朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議第14期第5回会議で」:「(第1)副部長同志」が「国務委員会委員」に、チョ・ヨンウォンも、金ドクフンが副委員長、朴ポンジュ引退、李ビョンチョル解任、崔ソンフィも解任、「(第1)副部長同志」に北南、朝米を一任か (2021年9月30日 「朝鮮中央通信」)」(9月30日づけ)では、キム・ヨジョン同志の登用について「
「(第1)副部長同志」を入れてきたのは明らかに「白頭の血統」だから」としています。同時に「
朝米関係部分を訳しながら思ったのは、対南と対米を「(第1)副部長同志」にやらせることにしたのではないかということだ。このところの「談話」を見ていても、それは十分にあり得るし、発するメッセージの重さや直接交渉をするにしても、崔ソンフィの比ではない。「元帥様」の意向を汲んで、ある程度はフリーハンドな交渉もできるのが「(第1)副部長同志」だし、失敗したところで、対人民の示しを付けるための「解任」程度で済む。」とも分析しています。
「白頭の血統」というキーワードにおける「血統」の意味を生物学的な意味・DNA鑑定でシロクロつくような意味として捉える、よくある俗流解釈でキム・ヨジョン同志の昇格を説明していますが、
やはりこの手の俗流解釈には無理があると改めて思いました。
当ブログでは以前から、「ペクドゥ(白頭)の血統」というキーワードにおける
「血統」の意味は、儒教思想をベースとしたチュチェ思想の社会政治的生命体論に基づく疑似的共同体としての意味であり、
DNA鑑定でシロクロつくような生物学的な意味ではないと繰り返し主張してきました。詳しくは本年6月17日づけ「
「金王朝の変質」論を事実に即して検討すると、そもそも金「王朝」ではないということになる」及び6月20日づけ「
やはり「キム王朝」は実際には「王朝」とは言い難い」で論じたとおりです。
キム・ヨジョン同志の血統は最近初めて分かったものではないので、ピョンチャン(平昌)オリンピックに派遣さるなど既に大役は何度も経験しているのに「
なぜいままで国務委員でなかったのか」ということになります。
もし、「キム王家の一員とはいえ実績が必要だ」というのならば、そもそも「血統」が主変数ではないということになるでしょう。
また、「
失敗したところで、対人民の示しを付けるための「解任」程度で済む」というのも妙な話です。
失敗して解任されるようでは、扱いが「他の党・政府要人並み」であると言わざるを得ません。
いわゆる
「ロイヤルファミリー」は無謬であることが絶対的条件です。もし、キム・ヨジョン同志が「血統」ゆえに登用されたとすれば、
担当政務に失敗したからと言って解任などあってはならないこと。日本の自民党政治家よろしく「秘書が勝手にやりました」といった具合に、自分自身だけは徹底的に責任から逃れなければならないものです。
キム・ヨンジュ(金英柱)同志(首領様の実弟)のように路線対立の相手方になってしまったり、キム・ソンエ(金聖愛)同志(首領様の後妻)のように重大な越権・不正行為が明らかになると流石に排除されざるを得ないものですが、両者とも徐々に登場機会を奪われ、そして失脚後かなり長いこと隠遁生活を余儀なくされたもの。
よほど深刻でどうしても排除しなければならない事態に陥らない限り、いわゆる「ロイヤルファミリー」はアンタッチャブルなものです。
ある日突然降格されたかと思えば、別の日に突然要職に復帰するような扱いは、「他の党・政府要人並み」であると言わざるを得ないのです。
現にキム・ヨジョン同志は、昇格と降格を繰り返しています。いわゆる「ロイヤルファミリー」らしからぬ人事状況であり、「他の党・政府要人並み」の扱いと見た方が自然ではないでしょうか? まして、
「失敗したら解任すればいい」だなんて「ロイヤルファミリー」の扱いではありません。
キム・ヨジョン同志は、DNA鑑定でシロクロつくような生物学的な意味では元帥様の実妹なのでしょうが、とはいえども「失敗したからと言って炭鉱には送られない」くらいの「特権」しかないものと思われます(十分に「特権」的であると思える一方で、懲罰とはいえ女性を炭鉱労働者にするのかという疑問もありますが)。
■その他の人事について
その他の人事について、気になった限りで取り上げます。
キム・ジェリョン(金才龍)同志の国務委員解任は、おそらく党組織指導部長職に専念するためでしょう。党の中の党である組織指導部長が他の職務を兼任し過ぎると、第二のチャン・ソンテクになりかねないからです。すでに1月の党中央委員会全員会議で、党政治局員に選出されつつも中央軍事委員からは解任されています。必要最低限の役職だけに就かせるという意図が見えます。
キム・ヒョンジュン(金衡俊)同志の解任。前ロシア大使であるということ以外、この方のことはよく存じ上げないところです。5年間ロシアにいればロシア通扱いになるのかは分かりませんが、今後対ロシア政策に深化があるか注視すべきでしょう。
リ・ビョンチョル(李炳哲)同志の解任。今夏の党政治局第2回拡大会議で怠業を批判された流れで政府人事からも弾き出されたものと見てよいでしょう。基本的に政府人事は党人事の後追いですから。ただ、同時に批判されたパク・チョンチョン(朴正天)同志が今回初めて国務委員に補選されたのに対して既に先んじて国務委員だったリ・ビョンチョル同志が逆に解任されたということは、挽回できなかったんでしょうね。
チョ・ヨンウォン(趙甬元)同志の国務委員補選は当たり前。むしろ今まで国務委員じゃなかったのかというくらいです。
パク・チョンチョン(朴正天)同志の補選。ミサイル開発に深く関与してきた人民軍前総参謀長が政治局常務委員への昇格に加えて国務委員にも選出された意味は、先の国連総会演説と関連付けたとき、あまりにも明らかでしょう。
情報技術の専門家とされる、党経済部長のオ・スヨン(呉秀容)同志の国務委員補選には期待を寄せたいと思います。
リ・ヨンギル(李永吉)同志の国務委員補選。かつて韓「国」発で処刑説が流れた彼が国務委員に選出されるに至ったわけですが、あの時騒ぎ立てていた連中は皆、頬かむりをしています。いかに「処刑説」がいい加減なものなのかを再認識できます。
■キム・ジェリョン同志の組織指導部長職専念の意味;「首領+集団」の指導体制になりつつある
キム・ジェリョン同志の人事に注目したいと思います。
朝鮮労働党は今年1月の第8回党大会で、「金日成・金正日主義」を減らす一方で、総書記職を復活させると同時に第一書記を設置しました。6月4日づけ「
「朝鮮労働党中央委員会第一書記」職が設置された意味と「赤化統一」の行方について」で論じたとおり、「最高指導者とその他」という構図を墨守し最高指導者以外の人物にいかなる権威も生じないよう長きにわたり慎重に組織編成をしてきた朝鮮労働党にしては非常に異例なことです。そして、第一書記という名称の歴史的意義を踏まえるとき、この職名には「総書記の意を体する」という重要な意味合いが与えられています。
総書記−第一書記体制は、朝鮮労働党の組織理論と歴史において非常に異例なる出来事であるわけですが、韓「国」紙『ハンギョレ』は、このことについて「
変化の核心は“人治”から“党中心の制度による統治”への重心移動だ」とか「
第8回党大会以降、金正恩(キム・ジョンウン)労働党総書記時代の統治基調が、“個人”から“システム”へと重心を移す流れを加速化させるという宣言」と分析しています。上掲過去ログでも述べたとおり、私もこの分析を共有しています。
その流れの中に位置する今秋の党人事と今回の政府人事。キム・ジェリョン同志が党の組織指導部長に就任した一方で、党中央軍事委員と国務委員を退任しました。「党の中の党」である組織指導部の部長に就任することは間違いなく出世であります。もし何か政治的に失敗をして懲罰的に降格されるとすれば、真っ先に組織指導部長職を解任されるはずです。つまり、党中央軍事委員や国務委員からの解任は、「組織指導部長職に専念せよ」ということに他なりません。
前述のとおり、
一個人が要職を兼任し過ぎると第二のチャン・ソンテクになりかねません。今回の人事には、そうした懸念が色濃く現れていると見るべきでしょう。1月の党大会と今秋の党・政府人事に通底していることは、
最高指導者を含めて統治が徐々に制度化・システム化しつつあることだと思われます。第一書記職の設置により総書記の負担が軽減されたわけですが、このことはすなわち、
総書記への権力集中が若干ながら緩和されたことを意味します。そして、
キム・ジェリョン同志が党組織指導部長に専念したように、党幹部が兼任を減らして担当に集中・専念することは、これも権力集中の緩和になるものです。
共和国が「首領制」を掲げる限りは、完全なる集団指導体制になるとは考えにくいところですが、
「首領+集団」の指導体制になりつつあるとは言えるのではないでしょうか?