2022年01月30日

【追記】こんにちの朝鮮民主主義人民共和国の経済にかかる3題・・・社会主義的競争、社会主義的イノベーション、嗜好品への注目

昨年末の朝鮮労働党中央委員会第8期第4回全員会議で「朝鮮式農村振興戦略」が提起されたことをうけて今年に入ってから共和国では農業政策がホットイシューとなっています。農業省が農業委員会に格上げされたり、朝鮮農業労働者同盟第9次大会が開かれたりしています。アメリカによる厳しい経済封鎖のさなかにおいても、興味深い農業政策及び経済政策が展開されています。関連する記事を新聞スクラップ的にまとめておきたいと思います。
http://uriminzokkiri.com/index.php?ptype=crevo4&mtype=view&no=10059
농업근로자동맹은 우리식 사회주의농촌발전을 위한 투쟁에서 선봉부대가 되자
農業勤労者同盟は朝鮮式社会主義農村の発展をめざす闘争で先鋒部隊になろう
全文を、日本語として意味が通じるレベルで和訳している時間的余裕がないので、各自自動翻訳で大意を掴んでいただきたいと思います。

農村における3大革命、とりわけ思想革命が重要だといいつつ、農村に対する国家的投資についても言及があります。将軍様の労作『社会主義建設の歴史的教訓と我が党の総路線』(チュチェ81・1992年1月3日)によると、設備投資ばかりを優先させたことがソ連・東欧における社会主義体制の崩壊の原因であるとされているので、共和国としては3大革命、とりわけ思想革命の重視はどうしても言及せざるを得ないものです。

しかし、将軍様がおっしゃる思想革命がどうにも単なる精神論的であったのに対して、元帥様がおっしゃる思想革命は、アメリカによる厳しい経済封鎖のさなかでありながらも最大限的に物質的担保があると言えます。いままでの「3大革命」とは良い意味で様相が異なるように思います。

また、ここにおいても社会主義的競争に言及があります。以前から言及してきたとおり、キム・ジョンウン時代のキーワードとして確固たる地位を築いていることがここでも明らかになったと言えるでしょう。

ところで、社会主義的競争を元帥様の時代を象徴する経済政策だとみなす私の見方には、もしかすると異論があるかも知れません。この単語自体は決して新しいものではないからです。

社会主義的競争という単語自体は、たしかにソ連もかつて標榜したことがあるものです。しかし、チュチェ101(2012)年5月11日づけ『朝鮮新報』の「活発な経済単位間の競争、農業・重工業などで増産の原動力に」によると、あくまでも「朝鮮の独特の運動」であるといいます。また、上掲記事がチュチェ101(2012)年5月11日づけで公開されている点、おそらく将軍様(チュチェ100年12月逝去)の時代から既に社会主義的競争が始まっていたことが推察されます。

しかしながら、賃金体系の改正など個人に対するインセンティブを内実伴う形で取り込んだものは、史上初めて、元帥様の時代から始まったものと言えます。ソ連のリーベルマン理論に基づくコスイギン改革は頓挫しました。将軍様の時代において共和国の賃金制度は非常に硬直的で、個人に対するインセンティブは事実上、存在しないといっても良いくらい微々たるものでした(以前から述べてきたとおり、将軍様の経済政策は当時の国際環境=対米対決に伴う準戦時的状況から考えて致し方ない部分はあったと思いますけど)。

それに比べてこんにち元帥様が個人に対するインセンティブに配慮した形で社会主義的競争を位置付けたことは、やはり画期的なことであり、キム・ジョンウン時代を特徴づけるキーワードとして見なすべきと私は考えます

https://news.yahoo.co.jp/articles/82905d319ed99fb30f45e8ffa327117e3e984655
金委員長「食料事情厳しい」…北朝鮮、農業省を農業委員会に格上げ
1/26(水) 15:01配信
中央日報日本語版

(中略)
一方、北朝鮮当局が最近、小麦農作業の拡大を強調していることについては、住民の需要を反映した異例の措置という分析が出てきた。北朝鮮で西欧式の食生活が広がり、小麦粉の需要が増えているという説明だ。

東国大北朝鮮学研究所のキム・イルハン研究教授は「北で小麦粉の価格が急騰しているのは需要の増大による」とし「北の住民が小麦粉を嗜好食品として認識していると推定され、こうした社会的な需要が政策に反映されている」と述べた。

北で小麦粉の価格が急騰しているのは需要の増大による」とし「北の住民が小麦粉を嗜好食品として認識していると推定され、こうした社会的な需要が政策に反映されている」――人民が嗜好食品に目を向け、国家がその需要を満たすべく政策展開する・・・ジャガイモ革命の時代とは隔世の感があります。

嗜好食品に目を向けられるくらい余裕があるということは、こんにちの共和国においては、なんだかんだで生存の基本的需要は一応満たされているということになるのでしょう。

農業とは直接関係ありませんが、広く経済政策として気になった記事があったので併せて新聞スクラップしておきます。
https://www.chosonsinbo.com/jp/2022/01/17sk-12/
イノベーションの鍵は産学連携/新技術とIT製品開発の取り組み
2022.01.17 (17:03)

金日成綜合大学先端技術開発院のIT研究所
金日成綜合大学に設置された先端技術開発院のIT研究所は、朝鮮のソフトウェア開発における中核的な研究拠点だ。人工知能(AI)などの最先端科学技術に基づくIT製品を多数開発し、科学技術の産業化をけん引している。

(以下略)
かつてシュンペーターは、中小企業家がイノベーションの担い手であるとしつつ、次第に大企業化・官僚化し最終的に「社会主義」になるとしました。しかし、こんにち社会主義朝鮮においては、内閣直轄の中央大学がイノベーションの担い手になっているといいます。

「社会主義」を中央集権的・行政指令的なものとみなす限りは確かにシュンペーターの指摘はそのとおりかも知れません。しかしこんにち共和国において展開されている社会主義企業責任管理制による個別企業所の経営独立性を踏まえるに、シュンペーター理論は一定の修正が必要であるように思われます

【追記】
https://kcnawatch.org/newstream/1642323667-54393521/%EA%B8%B0%EC%88%A0%ED%98%81%EC%8B%A0%EC%82%AC%EC%97%85%EC%9D%84-%ED%99%9C%EB%B0%9C%ED%9E%88-%EB%B2%8C%EB%A0%A4/
기술혁신사업을 활발히 벌려
技術革新事業を積極的に広げる

우리 나라의 어느 부문, 어느 단위에서나 자체의 과학기술력량을 강화하기 위한 사업이 활발히 벌어지고있습니다.
我が国のさまざまな部門・単位で自らの科学技術力量を強化するための事業が活発に行われています。

평양건구기술교류사에서는 종업원들에게 선진과학기술을 정상적으로 보급하고 그들을 일하면서 배우는 교육체계에 망라시키며 기술혁신을 위한 필요한 조건들을 보장해주는 등 여러 사업들이 진행되고있습니다.
ピョンヤン建具技術交流社では、従業員たちに先進科学技術を正しく普及し、働きながら学ぶ教育体系に網羅させ、技術革新のために必要な条件を保障するなどの事業が進められています。
(中略)
이런 성과들로 하여 교류사는 전문생산단위도 아니고 큰 기업소도 아니지만 지난 시기 수도 평양의 1만세대 살림집건설장을 비롯한 중요건설장들에 많은 건설자재들을 보장할수 있었습니다.
このような成果により、ピョンヤン建具技術交流社は専門会社でも大企業でもありませんが、昨年、首都ピョンヤンの1万世帯住宅建設現場をはじめとする重要な建設現場に多くの建設資材を送ることができました。
(以下略)
専門会社でも大企業でもないピョンヤン建具技術交流社におけるイノベーションは、共和国における「社会主義中小企業」によるイノベーション。大企業化により官僚化した経済社会を「社会主義」と呼ぶシュンペーター的見方はやはり見直すべきであるように思われます。
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2022年01月29日

「ウクライナ危機」で得をするのは誰か

■ロシアは「敵性国家」であり「悪党」ではなかったのか?
ロシアとウクライナとの最近の緊張関係について、日本にとってロシアは「敵性国家」ということになっているはずなのに、ロシア側の事情を踏まえた意見が散見されます。曰く「ロシアがウクライナに手を出そうとするのも、分からなくはない」という空気が醸成されています。「歴史的ロシア」なる理屈を持ち出し、「自衛」を口実としたドサクサ紛れの拡張主義に見えなくもないロシアの行動があまり強くは叩かれていないのです。

中国の海洋進出が強くたたかれていることとの対比、及び、究極的には社会主義体制の存続のみが目的でありドサクサ紛れの拡張主義的動機が限りなくゼロに近いと言いうる共和国のミサイル発射が激しく叩かれていることと対比すると、異様であるとさえいます。

普段、中朝露でひとくくりに「レッドチーム」などと呼ばれ、その言い分にはまったく耳を貸してもらえないロシア。国家間の利害対立の構図ではなく「善であり正義である日米豪欧vs邪であり悪である中朝露」といった西部劇的な構図の悪党方として位置付けられているロシアいったいどういう風の吹き回しなのでしょうか?

それだけ親ロ派がメディア工作・世論工作を積極的に展開して成功させているということでしょうか? 昔から日本のマスメディアには親ソ・親ロ派が根を張っているとは言いますが、幾ら何でもここまで露骨に親ロ的プロパガンダを流すことはではないでしょう。そんなことをすればアメリカが「正規ルート」で対抗的プロパガンダを打ってくるはず。日本はアメリカの「緊密な同盟国」なのだから。

■アメリカは自然発生的な「宥和」的世論を敢えて「泳がせてきた」?
アメリカは内心ではロシアが先に手を出すことを期待している、あるいは、そうせざるを得ないように追い込んでいるのではないでしょうか?

「ロシアがウクライナに手を出そうとするのも、分からなくはない」というロシア側の事情を踏まえた見方は、アメリカが本気でロシアのウクライナ侵攻を阻止したいと考えているならば、決して許してはならない言説です。古今東西、この手の「宥和」的な国内世論が、侵略戦争を始めたがっている国の指導者に「いけるんじゃないか」とか「始めてもそんなに反発を受けないんじゃないか」と思わしめ、実際に開戦に繋がってきました。

他方、侵略に対して本気で受けて立つ、徹底的に対抗するつもりの国は、このような「宥和」的な国内世論を許さず、毅然とした内容のプロパガンダを流布させるものです。特にアメリカの戦時プロパガンダはいつも非常に単純な正邪善悪がハッキリとした西部劇的な構図化から始まります。「相手にも一理ある」はアメリカ的ではありません。そしてこの構図化は、日本などの同盟国にも共有を強く求められるものであります。9・11報復やイラク戦争がそうだったように。

イラクの大量破壊兵器はついに発見されませんでしたが、イランやイスラエルに挟まれたサダム・フセイン氏が大量破壊兵器を夢想したとしても「分からなくはない」ものでした。しかし、そのような意見はアメリカが本気でイラクと一線を交えようとしていた当時は許されない意見でした。

アメリカは自然発生的な「宥和」的世論を敢えて「泳がせてきた」ように思われます。その上、バイデン大統領は先に「「小規模な侵攻」であれば、全面侵略の場合に比べて対応は軽いものになるだろうと示唆した」といいます(「バイデン氏、ロシアのウクライナ「侵入」を予測 「小規模侵攻」なら対応議論も」1/20(木) 11:27配信 CNN.co.jp)。当のウクライナからの抗議を受けて軌道修正し、それ自体は失言として処理されましたが、もしかすると失言ではなくわざと、アチソン・ライン発言のようなものを口にすることで「いけるんじゃないか」とか「ウクライナに侵攻を始めても、それほど反発を受けないんじゃないか」とロシアに錯覚させる謀略だったのではないでしょうか? そのように考えることも可能でしょう。

■アメリカによるフレーミングにより事態がチキンレース化しつつある
しかし、ロシアのプーチン大統領は待てど暮らせどウクライナに侵攻しようとしません。ロシアメディアは「NATO軍は何年も取り組んできた計画を実行しようとしている。ロシアを封じ込め、プーチン大統領を倒し、ロシアのエネルギー資源を乗っ取る計画」を映し出しているといいます(「ウクライナへの侵攻恐れる西側、ロシアのテレビに映るのは別の世界」1/26(水) 14:30配信 CNN.co.jp)。「現代のアチソン・ライン発言」と言っても過言ではないバイデン大統領発言でも動かなかったロシア。情勢を錯覚して先制侵攻しそうにありません。

ここ1週間ほど、今度は今にも戦争が始まるかのような報道が立て続けに出てくるようになってきました。たとえば、アメリカのオースティン国防長官は「ウクライナ国境周辺に集結した10万人規模のロシア軍は「複数の都市や大規模な領土を奪取可能だ」と述べ、プーチン大統領の決断で侵攻が可能な状態だとの認識を示した」といいます(米長官、ロシア軍は侵攻準備完了 「都市の奪取可能」」1/29(土) 7:06配信 共同通信)。ロシア軍がウクライナ国境に大軍を集結させたことを「先制侵略準備」と決めつけた上で、今にも戦争が始まるかのように危機感が煽られています。アメリカによって。

当のロシア自身は一貫して「NATOはこれ以上東進するな、ウクライナのNATO加盟を許すな」と繰り返すにとどめています。それどころか、ウクライナ政府でさえ、たとえばレズニコフ国防相は現時点でロシア軍は侵攻を実行できるような攻撃部隊を編成していない」と述べている(「ウクライナ国防相、ロシアによる侵攻のリスクは深刻視せず1/26(水) 0:18配信 Bloomberg)し、ゼレンスキー大統領は「尊敬される複数の国家指導者でさえ、明日にも戦争になると言ってくる。これはパニックだ」と言っています(「ウクライナ大統領、西側諸国は「パニックを作り出すな」 ロシアとの緊張めぐり」1/29(土) 13:44配信 BBC News)。アメリカが一人で勝手に盛り上がって、キエフから外交官の家族を退避させるなど画面映えすることを演出しているわけです。

アメリカによるフレーミングにより事態がチキンレース化しつつあります。「宥和」政策という釣りエサにはプーチン・ロシア大統領が食いつかなかったので、今度は危機感を極限化してチキンレースの様相にコトを持って行こうとしているのでしょうか? 危機を煽ってロシアが振り上げた拳の下ろしどころに困らせているように思われます。開戦に追い込むか、あるいは、「プーチンは日和った弱腰」にさせようとしているのでしょう。

■ウクライナ国境に展開しているロシア軍部隊は先制侵攻用か?――もとより防御と攻撃は表裏一体のもの
ところで、ウクライナ国境に展開しているロシア軍部隊の存在そのものを以って直ちに先制侵攻準備完了とは言えないでしょう。ウクライナが本当にNATOに加盟してしまったら、モスクワ攻略の要衝をNATOが手中に収めることになるのだから、ロシア軍が対抗して軍部隊を展開するのはある意味当然の成り行きでしょう。

第二次世界大戦の独ソ戦においてナチス・ドイツは軍集団を3つに分けて、バルト3国経由でレニングラードを目指す北方軍集団、ベラルーシを経由してモスクワを目指す中央軍集団、そしてウクライナを経由してモスクワを目指す南方軍集団を設置しました。既にバルト3国はNATOの手に落ちています。ウクライナを取られるとロシアの心臓部が危ういのです。

ウクライナを出撃基地とするNATO軍を想定し、その進撃路を阻むように対抗的にロシア軍を配置し、さらに「敵基地攻撃能力」を確保しておく・・・たしかにウクライナ国境に展開していると「される」ロシア軍部隊は、アメリカなどが主張するように先制侵攻にも使えるものですが、モスクワ防衛及び反撃にも使えるものです。もとより防御と攻撃は表裏一体のものです。ウクライナ国境にロシア軍が展開しているからと言って、それだけでは先制侵攻準備であるとは必ずしも言い切れないでしょう。

■先制侵攻によるロシアの利益とは?
ロシアがウクライナに先制侵攻したとして、ロシアにとってどのような戦略的目標が達成され得るのかということも考える必要があります。換言すれば、ロシアの国益達成のために先制侵攻は必要不可欠なのかということです。戦争とは政治であり、そして目標達成の見込みがあるときだけ武器を取るものです。

武力でゼレンスキー政権を打倒して親ロ政権を樹立するのでしょうか? チェコ事件でさえ相手国の親ソ派に「介入要請」をさせ、形の上では「軍事介入」の体裁を取りました。つい先日、イギリス政府が親ロ派の面々を暴露したところです。今のウクライナに、「介入要請」を出すという「大役」を演じる役者は残っているでしょうか?

ウクライナを併合してロシアが直接統治するのでしょうか? NATOの東進を嫌がるロシアがウクライナ全土を併合して自ら西進してNATOに近づいてゆくでしょうか?

クリミアのようにその地域が丸ごと軍事的価値のある軍事基地のような場所であれば、併合して直接統治した方が良いかもしれませんが、ウクライナ全土はロシアにとって負担になるだけでしょう。ウクライナ防衛のために更にその外側に緩衝地帯が必要になってしまいます。ソビエト連邦はポーランドと東ドイツを緩衝地帯にしましたが、今やどちらもNATO加盟国です。また、東ウクライナはロシア系が多く親ロ的な素地がありますが、西ウクライナにはまったくそのような風土はありません。むしろポーランドとの歴史的つながりが強いので、プーチン大統領が言う「歴史的ロシア」のロジックは通じにくいものと思われます。そのような厄介な地域を含むウクライナ全土を併合するでしょうか?

ロシアの利益が見えてきません。

■「いま、この出来事によって誰がどのように得をするのか」という主体的な理解が必要
ゼレンスキー・ウクライナ大統領の苦言をよそに今後もアメリカは危機を煽り続けることでしょう。「宥和」政策という釣りエサにはプーチン・ロシア大統領が食いつかなかった以上、危機感を極限化してチキンレースの様相にコトを持って行こうとするでしょう。アメリカにとってロシアが暴発するもよし、プーチン大統領が腰抜け扱いされるもよしです。

戦争は政治です。「いま、この出来事によって誰がどのように得をするのか」という主体的な理解が必要です。
ラベル:国際「秩序」
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2022年01月23日

「アメリカ帝国主義」名指しが復活し、「より頼もし」い実際の行動に移ると結論した朝鮮労働党中央委員会第8期第6回政治局会議

https://www.chosonsinbo.com/jp/2022/01/20-59/
朝鮮労働党中央委員会第8期第6回政治局会議 / 金日成主席の生誕110周年と金正日総書記の生誕80周年を祝う問題を討議
2022.01.20 (06:40)
主要ニュース,共和国

(中略)
政治局会議では次に、現在の朝鮮半島周辺の情勢と一連の国際問題に対する分析報告を聴取し、今後の対米対応方向を討議した。

会議では、最近、米国がわが国家の正当な主権行使に不当に言い掛かりをつけて無分別に策動していることに関する資料が通報された。

米国は朝米首脳会談以降、近年だけでも自分らが直接中止を公約した合同軍事演習を数百回にわたって行い、各種の戦略兵器実験を行う一方、先端軍事攻撃手段を南朝鮮に搬入し、核戦略兵器を朝鮮半島の周辺地域に投入してわが国家の安全を重大に脅かした。

また、わが国家を悪辣に中傷、冒瀆しながら、およそ20余回の独自の制裁措置を講じる妄動を働き、特に現米行政府はわれわれの自衛権を骨抜きにするための策動を執拗に続けている。

諸般の事実は、米帝国主義という敵対的実体が存在する限り、対朝鮮敵視政策は今後も持続するということを再度はっきりと実証している。

(以下略)
諸般の事実は、米帝国主義という敵対的実体が存在する限り、対朝鮮敵視政策は今後も持続するということを再度はっきりと実証している」…昨年の朝鮮労働党第8回党大会では「帝国主義」には言及したものの「アメリカ帝国主義」とまでは名指ししていませんでした(※)が、今回はついにアメリカを名指しするに至りました。共和国側の苛立ちの強さは相当なものであるとみてよいでしょう。

※昨年1月30日づけ「朝鮮労働党第8回党大会について」においても書きましたが、キム・ジョンウン総書記は1年前の党大会の時点ではアメリカを名指しで批判することはなさいませんでした。当該記事で私は次のように述べました。
地球上に帝国主義が存在し、わが国家に対する敵対勢力の侵略戦争の危険が続く限り、わが革命武力の歴史的使命は絶対に変わらず、われわれの国家防衛力は新たな発展の軌道に沿って絶えず強化されなければならない」とはいったものの、あくまでも一般論です。もちろん文法的・文脈的には、「アメリカ=帝国主義」と言っているようなものなのですが、共和国独特の語法から見て、これは「アメリカ名指し」とまでは言えないのです。共和国は、さすがの私でも「ちょっと品がないからお止めになった方が・・・」と言わざるを得ない罵倒を国営通信で連呼してしまう国。それにしては「控えて」いますよね。

記事は続けて次のように報じています。
党中央委員会政治局は、シンガポール朝米首脳会談以降、われわれが朝鮮半島の情勢緩和の大局面を維持するために傾けた誠意ある努力にもかかわらず、米国の敵視政策と軍事的脅威がこれ以上、黙過できない危険ラインに至ったと評価し、米帝国主義との長期的な対決により徹底的に準備しなければならないと一様に認めながら、国家の尊厳と国権、国益を守り抜くためのわれわれの物理的力をより頼もしく、確実に固める実際の行動へ移るべきであると結論した。

政治局会議は、米国の日増しにひどくなっている対朝鮮敵対行為を確固と制圧できるより強力な物理的手段を遅滞なく強化し、発展させるための国防政策課題を再度手配するとともに、われわれが先決的に、主動的に講じた信頼構築措置を全面再考し、暫定的に中止していた全ての活動を再稼動させる問題を迅速に検討することに対する指示を当該部門に与えた。

政治局会議で採択された当該の決定は、革命発展の切実な要求と現在の情勢の下で、わが国家の存立と自主権を頼もしく保証するための時宜にかなった正当な措置となる。

朝鮮労働党中央委員会第8期第6回政治局会議は、チュチェの永遠なる太陽であり、社会主義朝鮮の偉大な影像である金日成主席と金正日総書記を千年、万年高く仰ぎ、この地に自主的で尊厳ある強大国を必ず建設しようとする朝鮮労働党の革命的意志と不屈の気概を力強く誇示した。
シンガポール朝米首脳会談以降の共和国側なりのストーリーに則った対応であることを強調しています。たしかに米「韓」合同軍事演習は依然として続いています。対米戦争を回避したい一心の共和国(「朝鮮はなぜミサイル試射を公表するのか」2022.01.19 (09:57) 朝鮮新報)としては、緊張を強いられる状況が続いています

さて、アメリカ・バイデン政権はどう出るでしょうか。この1年間のバイデン政権の外交センスを見ていると、「これがアメリカ帝国主義の首魁か?」と我が目を疑わざるを得ないような失態が相次いでいるように思われます。アフガニスタン撤退は言うに及ばず、アメリカ・イギリス・オーストラリアによる"AUKUS"発足に絡むフランスとの外交危機においてバイデン政権は、「バイデン氏の失態はトランプ的」とまで扱き下ろされています(「バイデン氏の失態は「トランプ的」、マクロン氏はメンツ潰され…揺らぐオーカス」2021/09/24 08:02 読売新聞)。ごく最近でも、ウクライナ情勢について、「「小規模な侵攻」であれば、全面侵略の場合に比べて対応は軽いものになるだろう」などという驚愕の発言を口走ってしまう始末です(「バイデン氏、ロシアのウクライナ「侵入」を予測 「小規模侵攻」なら対応議論も」1/20(木) 11:27配信 CNN.co.jp)。さすがに火消しに追われていますが、この発言は「歴史的なもの」になりかねません。

これは決してジョー・バイデン氏個人の問題ではなく、組織としてのバイデン政権の能力の低さ、軽率さを表しているものと見なすべきです。このような政権が朝鮮半島情勢を正確に分析し、現実的な落とし所を見極めて行動できるでしょうか? アメリカ中間選挙を前に「ウクライナでの失態を朝鮮半島で挽回する」とバイデン政権が考えたとしても、かくも外交センスに欠けたバイデン政権にはあまり期待できないように思われます

西側メディアは遠からず共和国のICBM発射があるだろうと予測しています。共和国側も「国家の尊厳と国権、国益を守り抜くためのわれわれの物理的力をより頼もしく、確実に固める実際の行動へ移るべきであると結論した」としているので、「いま以上」があるのは間違いないでしょう。

ではそのタイミングは? dprknow様でもご指摘されているように、今回の政治局会議が、首領様・将軍様の生誕記念を祝賀することと本件とを同じ会議で論じ、かつ、その報道もこの2つの議題を一つの記事にまとめている点において、首領様・将軍様の生誕記念日のスケジュールと関連したタイミングになることが予想されます。何といっても記事の結びが「チュチェの永遠なる太陽であり、社会主義朝鮮の偉大な影像である金日成主席と金正日総書記を千年、万年高く仰ぎ、この地に自主的で尊厳ある強大国を必ず建設しようとする朝鮮労働党の革命的意志と不屈の気概を力強く誇示した」となっているわけですから。

北京オリンピック、建軍節、光明星節、韓「国」大統領選挙、太陽節・・・タイミングはさまざまに考えられます。また、共和国の対米政策の根本動機は、突き詰めると現体制の安定、そして経済と人民生活の向上にあります。そのための硬軟両面からの交渉として見れば、これらのイベントのスケジュールに加えて、国内の社会主義建設における諸事情も変数として考慮に入れる必要があります。いかに自立的民族経済が高度化し、この度の世界的パンデミックにおいて長期間にわたって国境を高度に封鎖できているといっても、永遠にそうし続けることはできません。

慎重に動向を注視してゆく必要があります。
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