2022年05月31日

掛け金を払えなければ医療費を工面できないアメリカ社会への疑問・異議が見られず、個人の自衛手段としての民間保険への加入の重要性ばかりが強調される日本世論の徹底的な「個人」主義化の現状

https://news.yahoo.co.jp/articles/9800807dad1d25b90d005d915fc8386a2b554b22
益若つばさ 米国で運ばれた救急車の料金に驚き「保険大事、、!」と実感 歩けなくても入院できず
5/30(月) 20:39配信
スポニチアネックス

 滞在先の米ロサンゼルスで仙骨を骨折したモデルでタレントの益若つばさ(36)が30日、自身のツイッターを更新。骨折した時に病院に運ばれた救急車の料金が高額だったことを報告「保険大事、、!」とつづった。。

 益若はこの日、「先日アメリカから帰国する日に階段から落ちてしまい、尾てい骨の上の仙骨を骨折してしまいました」と報告。「吐き気やくらみで全く動けず救急車を呼んでタンカーに運ばれロスの病院へ行き、骨折と診断されました」とし、現在は「一人で寝たり起きたり歩いたりがちゃんとできず、車椅子か歩行器で支えてもらいながら生活をしています」とし「アメリカは病院の値段が高い&基本入院できない」ため自宅療養をしている報告。長時間の飛行機に乗ることが出来る許可が出るまで米国に滞在し休養するとした。

(以下略)
偉大な首領:キム・イルソン同志は、『保健医療従事者は、党の革命戦士となれ』(チュチェ50・1961年6月7日)において次のように指摘されました。
 黄金がすべてを支配し、黄金しか眼中にない資本主義社会では、医学が人民の健康増進に奉仕するのではなく営利の手段に利用されており、医師は人民のためではなく金もうけのために働いています。資本主義社会の医師は、患者の胸部よりも先に聴診器を財布にあて、患者に金がいくらあるかということから「診察」します。患者が金持ちであれば治療に誠意をつくし、貧乏人はいくら重病であっても診察してくれず、瀕死の状態に陥っても背を向けます。結局、資本主義社会の医師は、金に目がくらんで人命には無関心であり、人が病気にかかり死のうともなんの道義的責任も、良心の呵責も感じません。患者が入院して死んでも、これはもともと不治の病だの、手遅れだのと文書を作成すればそれまでのことです。
益若さんの「保険大事、、!」という意見、営利企業による民間保険への加入は、現実として資本主義が世界のほとんどを覆っている現代世界においては、個人が自衛手段として取り得るほぼ唯一の道・最善の方法です。これは疑いのないことです。

しかしながら、それとは別個に「社会としての在り方」も問う必要があるでしょう。営利企業による民間保険に加入しなければ、つまり掛け金を払えなければ医療費を工面できないアメリカ社会はどうなのかという問題です。

もちろん、「アメリカ社会の在り方」はアメリカ人が考えることです。しかし、アメリカ社会の在り方を主体的に評価し、我が国としてどう考えるかということは、まさしく我々の課題なのです

あまりそういう観点での記事反応が見られない:掛け金を払えなければ医療費を工面できないアメリカ社会への疑問・異議が見られないあたり、徹底的な『個人』主義化・社会の瓦解が進んでいると言わざるを得ないのかもしれません
posted by 管理者 at 00:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする

2022年05月25日

防疫大戦において朝鮮式社会主義の真価が発揮されている

http://uriminzokkiri.com/index.php?ptype=cgisas&mtype=view&no=1227478
주체111(2022)년 5월 23일 《로동신문》
전체 인민을 방역대전에로 힘있게 불러일으키는 선전화들 새로 창작

만수대창작사에서 전체 인민을 악성전염병과의 투쟁에로 힘있게 불러일으키는 다양한 주제의 선전화들을 새로 창작하여 내놓았다.

전체 인민들과 인민군장병들이 신심을 굳게 하고 위대한 힘을 배가하여 방역대전을 승리적으로 결속할데 대한 당중앙의 숭고한 뜻이 선전화 《우리의 신념과 의지, 단결로써 조성된 방역위기를 타개하고 조국과 인민의 안녕을 굳건히 지키자!》에 담겨져있다.

당중앙군사위원회 특별명령을 받아안고 방역대승을 선도해갈 조선인민군 군의부문 전투원들의 철석의 각오와 의지가 선전화 《방역대전에서 당중앙 별동대의 위용을!》에 맥박치고있다.

선전화 《최대비상방역태세를 견지하며 생산과 건설, 알곡증산을 최대한 다그치자!》에는 당중앙위원회 제8기 제8차 정치국회의 정신을 받들고 사회주의의 전면적발전을 위한 당의 로선관철투쟁을 중단없이 완강하게 밀고나갈데 대한 요구가 집약적으로 반영되여있다.

선전화 《우리의 제일가는 공산주의적미덕과 미풍으로!》에는 이 세상 그 누구도 가질수도 흉내낼수도 없는 서로 돕고 위해주는 우리 사회의 덕과 정을 어렵고 간고한 오늘의 방역대전에서 더 높이 발양해나갈 우리 인민의 드높은 열의가 비껴있다.

조국의 안녕과 인민의 생명안전이 다름아닌 자신들에게 달려있다는것을 명심하고 그가 누구이든 언제 어디서나 최대비상방역체계의 요구를 절대준수해나갈데 대한 사상이 선전화 《동무는 비상방역규정을 지키고있는가?》에 담겨져있다.

새로 창작된 선전화들은 위대한 당중앙의 령도따라 전인민적인 비상방역투쟁에서 사회주의제도의 정치사상적우세를 과시하며 결정적승리를 이룩해나가려는 우리 인민들과 인민군장병들의 과감한 투쟁을 적극 고무할것이다.
조국의 안녕과 인민의 생명안전이 다름아닌 자신들에게 달려있다≫(祖国の安寧と人民の生命の安全が他ならぬ自分たちにかかっている)――「クレーマー化」及び「駄々を捏ねるおこちゃま化」した日本世論(「チュチェ109(2020)年を振り返る(2):新型コロナウィルス禍によって世論が「クレーマー化」及び「駄々を捏ねるおこちゃま化」した」及び「チュチェ110(2021)年を振り返る(2):コロナ禍を乗り越え更に協同化してゆく道は長く険しいことを示す「2年目」の世論動向」)とは決定的に異なる共和国
http://uriminzokkiri.com/index.php?lang=jpn&ptype=cfonew&mtype=view&no=40932
徳と情によって難局を打開するわが国


最近、わが国の境内に悪性ウイルスが流入して国家と人民の安全を重大に脅かす突発的な事態が生じた。

しかし、わが人民は少しも悲観したり絶望したりせず、堅忍不抜の意志で難局を打開している。

災難と苦労はあるとしても、苦痛と不安、動揺のない安定した社会、困難で力に余るが互いに助けて導き、より楽天的に生きていく人々、まさにこれが社会主義のわが国の真の姿であり、誇るに足る国風である。

朝鮮革命の異なる各年代に発揮された時代精神に連綿と貫かれているチュチェ朝鮮固有の集団主義の気風は、わが人民がひどい試練と難関を切り抜けて勝利者の自負と誇りをとどろかすようにした根本の源であった。

家庭より国を先に考え、自分自身よりも同志のためを思う集団主義的品格は、世代と世代を継いでこんにちも年々誇示されている。

(中略)
互いにいたわり、他人のために自分をささげることをまたとない誇りと見なすこのような美しい徳と情を身につけた人々の行いは、毎日のように伝えられている。
http://uriminzokkiri.com/index.php?lang=jpn&ptype=cfonew&mtype=view&no=40940
防疫戦で強く発揮される共産主義的美徳と美風



こんにちの防疫戦で朝鮮式社会主義特有の国風である集団主義がより強く発揮されて、防疫大勝を早めることに寄与している。

「一人はみんなのために、みんなは一人のために!」という共産主義的スローガンが、防疫大戦に奮い立った各地の活動家と勤労者の持ち場と職場ごとで力強く響き渡った。

各地の活動家が住民の中に入って、わが党と国家が人民の生命安全を保護するために取っている防疫措置について解説する一方、生活での難問を適時に解決してやっている。

家庭で用意した食品と医薬品を当該の住居地域の住民世帯と単位に送った。

各地の勤労者も、国の防疫危機を打開するためのよいことを探してやっている。

病んでいる人は温かく気遣ってやり、不便を訴える人は力添えしてやり、困難な人は私心を去って助けてやる朝鮮式社会主義の絶対的優越性と生命力によって、朝鮮人民は防疫大勝を必ず収めるであろう。
上掲過去ログで私は、日本世論の惨状の原因を「消費者意識の奇形的肥大化」に求めましたが、これに対して共和国では、徳と情そして共産主義的美徳と美風が発揮されているとのことです。

http://uriminzokkiri.com/index.php?lang=jpn&ptype=cfonew&mtype=view&no=40928
「労働新聞」高い政治意識と高度の自覚を発揮して防疫危機を打開しよう

19日付の「労働新聞」は社説で、全ての活動家と党員と勤労者は高い政治意識と高度の自覚を持って党中央委員会政治局会議の決定を徹底的に実行して、防疫大戦の勝利を収めることに積極的に寄与しようとアピールした。

同紙は、わが党にとって人民の生命安全を守ることより重大な革命事業はないとし、次のように指摘した。

一人一人の人民の生命は何よりも貴重であり、全人民が健在で、健康であってこそ、党もあり、国家もあり、この地のあらゆるものがあるというのが、わが党の確固たる信条である。

党中央委員会政治局は今回、われわれの非常防疫戦線に破裂口が生じる国家最重大非常事件が発生したことに関連して最大非常防疫システムを稼動させることを決定し、各級党、行政、経済機関、安全、保衛、国防部門をはじめ国の全ての機関、全ての部門が現在の防疫状況に即して活動システムを正しく立て、国家事業が円滑に行われるようにするための諸般の措置を講じた。

防疫大戦の主体は他ならぬ、わが人民自身である。

全人民が高い政治意識と高度の自覚を持って組織力と団結力を発揮してこそ、党中央の構想と意図通りにこんにちの防疫大戦を輝かしい勝利で締めくくることができる。

みんなが防疫活動の主人であるという非常な自覚を抱いて緊張した動員態勢を堅持し、悪性ウイルスが拡散しかねない隙間と要素をもれなく探して完全に遮断するばかりでなく、不意の状況を予想して先制的な措置を取ってこそ、直面した防疫危機を徹底的に解消することができる。

同紙は、いかなる過酷な挑戦と障害も歴史のむごい苦境を偉大な団結の力で打ち勝ち、勝利してきたわが党と人民の前進を絶対に遅滞させることはできないと強調した。
一人一人の人民の生命は何よりも貴重であり、全人民が健在で、健康であってこそ、党もあり、国家もあり、この地のあらゆるものがあるというのが、わが党の確固たる信条」――まさに朝鮮労働党が結党以来掲げてきたことです。

たしかに、ひと昔前;先軍政治全盛期のころだと「党・国家があるから、全人民が健在で健康である」という逆の関係性が強調されがちではありました。しかし、これは時代背景からして致し方のない特殊な事態だったと総括すべきものです。核武力の完成など国防上の懸念、国家共通の懸念に解決が見られたがゆえに、ようやく朝鮮労働党結党以来の確固たる信条が何らの妨害要素もなく掲げられるようになったというべきなのです。

https://news.yahoo.co.jp/articles/f71dd2a68045a53c2695e3f01e40a1a7bd5b3832
正恩氏「建国以来の大動乱」 北朝鮮「17万人超発熱、21人死亡」 中国との協力模索か・新型コロナ
5/15(日) 7:09配信
時事通信

 【ソウル時事】北朝鮮で新型コロナウイルスの感染爆発が深刻化しているもようだ。

 金正恩朝鮮労働党総書記は14日、党政治局の協議会で「建国以来の大動乱」と危機感をあらわにした。朝鮮中央通信によると、13日には前日の10倍近くとなる約17万4440人の発熱者が出て、21人が死亡した。正恩氏は「中国の成果」に学ぶよう指示しており、北朝鮮は今後中国との協力を模索すると予想される。

(中略)
 また、先進国の防疫対策に学ぶ必要性を指摘し、「中国の党と人民が悪性伝染病との闘いで収めた成果と経験を見習うのが良い」と指示した。北朝鮮は新型コロナの感染例を初めて認めた12日に全国の郡や市の封鎖と生産活動維持の方針を決めているが、今後中国のような厳格なロックダウン(都市封鎖)に進むとみられる。
(以下略)
共和国は「自力更生」を国是としています。これは、事大主義が国を滅ぼしたという苦い歴史的経験によるものです。これは歴史的観点からみて完全に正しい立場ですが、一歩間違えると「車輪の再発明」(Reinventing the wheel)や「独りよがり」になりかねないものでもあります。

ここにおいて「中国の党と人民が悪性伝染病との闘いで収めた成果と経験を見習うのが良い」と断言なさった元帥様。この柔軟性こそがキム・ジョンウン総書記の時代を特徴づけるものだと言えるでしょう。
posted by 管理者 at 22:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする

2022年05月17日

マウリポリ陥落

■「事実上の陥落」「事実上の投降」って何?
https://news.yahoo.co.jp/articles/787fb4d39a52b8cf213e5fcc76e5417b8524fd3a
アゾフスタリ製鉄所から女性や子どもらの避難完了 一時停戦の最終日に
5/8(日) 10:31配信
ABEMA TIMES

 ロシア軍に包囲されているウクライナ南東部マリウポリの製鉄所から、女性や子ども、高齢者の避難が完了したことがわかった。
 
 ウクライナのベレシュチュク副首相は7日、「アゾフスタリ製鉄所からすべての女性、子ども、高齢者が避難した」と発表した。人数などの詳しい情報を明らかにしていないが、「マリウポリのこの部分の人道支援作戦は完了した」とした。7日はロシアが発表していた3日間の一時停戦の最終日だった。

(以下略)
待ち望まれていた民間人・非戦闘員の退避が完了したという吉報が飛び込んできています。本当に良かった、これ以外の感想はありません。

そしてそれから約1週間。アゾフスターリ製鉄所からウクライナ側兵士の撤退が始まりました。マリウポリの陥落ですが、日本メディアはこのことについて妙な言い回しで報じています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/a7fc84c94bc7752066bd4d6fe304d6fb483396fd
マリウポリ事実上の陥落か ウクライナ軍、製鉄所の兵士撤退を命令
5/17(火) 11:45配信
毎日新聞

 ロシア軍が包囲を続けるウクライナ南東部マリウポリをめぐり、ウクライナ軍の参謀本部は17日、抗戦現場となってきたアゾフスターリ製鉄所から兵士の撤退を命じた。ゼレンスキー大統領も「兵士たちにとって、つらい一日になる」と発言した。撤退は、抗戦してきた戦闘員の投降を意味するとみられ、マリウポリが事実上、陥落した可能性が高い。

 ウクライナ参謀本部は17日未明ごろ、フェイスブックに「マリウポリの守備隊は任務を完了した」と投稿した。アゾフスターリ製鉄所で防戦していた兵士に対し「人命を守るように命じた」と明記しており、すでに退避のオペレーションが進行中だと説明している。

(以下略)
https://news.yahoo.co.jp/articles/945434e242eb457441f758a70b6e0839b126768a
約3カ月の攻防戦に幕 製鉄所のウクライナ兵、事実上の“投降”
5/17(火) 17:30配信
テレビ朝日系(ANN)

 ロシア軍が攻勢を強めていたマリウポリの製鉄所で、ウクライナ側が戦闘の終了を発表しました。多くのウクライナ兵が、親ロシア派が支配する町などに移送され、事実上の投降とみられています。

(以下略)
ウクライナ参謀本部の「マリウポリの守備隊は任務を完了した」という投稿はまだ理解できます。「負けました」なんて言おうものならロシア側の格好の宣伝道具になってしまうので、こういう言い回しをせざるを得ないのでしょう。

しかし、それとは無関係であるはずの日本メディアが「事実上の陥落」や「事実上の投降」という、めったに聞かない不自然な言い回しを繰り出すのはいったいどういうことなのでしょうか? アゾフスターリ製鉄所はマウリポリ防衛の「最後の砦」と呼ばれてきた拠点ですが、これが落ちた以上は「事実上」も何も「マウリポリ陥落」以外のなにものでもありません。日本メディアは「ウクライナ国営放送日本語版」ではないのだから、粛々と事実を伝えればよいだけです。

■「反転攻勢」ムードに水を差すマウリポリ陥落のニュース
15日夜のNHK「ニュース7」は、南部ヘルソン州の併合を巡る住民投票の動き(「露、南部ヘルソン州併合示唆か キーウ再攻撃に警戒も」5/12(木) 23:21配信 産経新聞)など、高まり続けているウクライナ南部での「ロシア化」の動きを完全に無視しつつ、東部ハルキウ近郊でのロシア軍の撤退を「ウクライナ軍の反転攻勢」と描いたうえで、国外避難していたウクライナ人の帰国が増えつつあると報じてウクライナ情勢の報道を終えましたが、それからわずか2日後のマリウポリ陥落について次のようなtweetをしました。
https://twitter.com/nhk_news/status/1526497869779320833
【マリウポリの攻防戦が節目に】
ロシア軍が投降を迫っていた東部の要衝マリウポリの製鉄所で、ウクライナ側が戦闘任務の終了を発表。マリウポリをめぐる攻防戦は大きな節目を迎えています。
#ニュース7 でお伝えします。

午後6:40 ・ 2022年5月17日
「東部の要衝マリウポリ」――「東部」ではウクライナ軍が反転攻勢していたんじゃなかったのか、だからウクライナ人が帰国し始めていたんじゃなかったのか。日曜日に見た放送はいったい何だったのか疑問がわいてきます。

ここ最近の「反転攻勢」ムードに水を差すマウリポリ陥落のニュース。いつも賑やかなヤフコメも心なしか「静か」です。もちろん現実は、ウクライナ軍のハルキウ奪還とロシア軍のマリウポリ制圧は同時に展開されていたものです。単に日本人がハルキウばかり注目していただけに過ぎません

この「静けさ」は、いかに日本人の目が一つの視点に凝り固まっているのかを示していると言えるでしょう

■アゾフ大隊司令官は「シェルターに民間人が避難している」とは最近まで言っていなかった
それにしてもアゾフスターリ製鉄所からの民間人・非戦闘員退避は時間が掛かりました。いったん戦闘が始まってしまうと斯くも民間人・非戦闘員の退避は遅れてしまうものだということが、今回改めて鮮明になりました。

一点引っかかるのは、「実際に」退避が遅れるのは段取りの問題などから仕方ないとして、退避させようという「声が上がるのが遅れた」ことです。たとえば4月17日の下記記事。すでにアゾフスターリ製鉄所では激しい戦闘が展開されていましたが、民間人・非戦闘員には触れられてさえいません。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000251792.html
ロ軍の降伏勧告に応じず マリウポリ製鉄所の400人徹底抗戦か
[2022/04/17 21:25]

 ウクライナ南東部マリウポリで立てこもるウクライナ兵にロシア軍が投降を呼び掛けたものの、ウクライナ軍はこれを拒否し、徹底抗戦の構えをみせています。

 ロシア軍はマリウポリにあるアゾフスタリ製鉄所に立てこもるウクライナ兵に対し、日本時間の17日午後7時までに武器を置けば命を保証すると投降を呼び掛けました。

 CNNによりますと、これに対してウクライナ軍は降伏を拒否し、マリウポリ市の防衛を継続すると主張しているということです。

 一方、ロシア国防省はウクライナ軍の通信を傍受したとして、ウクライナ軍が「投降を希望した兵士を銃殺しろと内部で命じた」と伝えています。

 また、投降したウクライナ兵の情報として、アゾフスタリ製鉄所には400人のウクライナの部隊が残っているとしています。
しかし、その2日後の19日になって急に「製鉄所の地下シェルターには、1000人以上が身を潜めている」と言い出し、にわかに民間人・非戦闘員問題が浮上するようになりました。1000人以上もの民間人が急に涌いてきたのでしょうか?
https://news.yahoo.co.jp/articles/6e88cd3b6431f02ea1b68ad78d016cf3e9745123
マリウポリ“最後のとりで”製鉄所の状況は…アゾフ連隊司令官を取材「避難者は数日間太陽を浴びていない」
4/19(火) 23:58配信
日テレNEWS

陥落間近とされるウクライナ南東部マリウポリで、戦闘が激化しているのがアゾフスタリ製鉄所です。マリウポリ市議会によると、製鉄所の地下シェルターには、1000人以上が身を潜めているといいます。
(以下略)
http://japan.hani.co.kr/arti/international/43209.html
「徹底抗戦」マリウポリの製鉄所に民間人1千人…「ほとんどが子どもと女性、高齢者」
登録:2022-04-20 06:27 修正:2022-04-21 07:02

 ウクライナ東南部の都市マリウポリを死守するため、ウクライナ軍が徹底抗戦を続けているアゾフスタリ製鉄所に民間人約1千人が避難しており、大規模な民間人被害が懸念されている。

 マリウポリのミハイロ・ベルシニン警察局長は18日、ロシア軍に包囲されたアゾフスタリ製鉄所に子連れの女性など約1千人の民間人が避難していると明らかにした。同氏は同日、米CNNとの電話インタビューで、避難した民間人の中には女性や高齢者、子どもが多く含まれているとし、「ロシア軍が猛烈な勢いで製鉄所を爆撃している」と伝えた。

(以下略)
この戦争が始まってから私はNHK「ニュース7」を欠かさず視聴しています。必ずしも午後7時にテレビの前に居られるわけではないので保険として録画予約も設定しているのですが、4月15日から4月21日までの録画をこのたび見返したところ、4月19日になって急に「製鉄所のシェルターに1000人以上の市民が避難」という話が出てきていました。

興味深いのは、その前日18日の放送ではアゾフ大隊司令官のインタビューが放映されていたのですが、「徹底抗戦の決意」こそあれシェルターに避難している民間人・非戦闘員の話は出てこなかったことです。番組はこの他、マリウポリ市長の「3月9日からの2週間で街は文字通り地表から消え去った」という発言、シュミハリ・ウクライナ首相の「マリウポリはまだ陥落していない。兵士が今もいて彼らは最後まで戦う」発言、そしてウクライナ政府関係者の「(製鉄所の)部隊にさらに多くの死者が出た場合、停戦交渉が中止されかねない」という発言を報じたのち、ハルキウやドネツク方面での戦闘に話を移してしまいました(クラマトルスクの鉄道駅にロシア軍のミサイルが着弾した事件をはじめとしてハルキウ・ドネツク方面については民間人の被害・犠牲を中心に報じていました)。

首相や市長がアゾフスターリ製鉄所の実態を把握していないのは、危機管理上どうなのかとは思いますが、現実問題としてはあり得る話です。実際に首相や市長自身が籠城しているわけではないのだから報告が上がってこなければ知る由もありません。しかし、現地で自ら籠城しているアゾフ大隊司令官のインタビューでシェルターに避難している民間人・非戦闘員の話が出てこなかったのは奇怪なことです。

■アゾフ大隊司令官が初めから言わなかったのか、NHKがその部分をカットしたのか
アゾフ大隊司令官が初めから言わなかったのか、アゾフ大隊司令官は伝えていたがNHKがその部分をカットしたのかは分かりません。なお、19日の放送においてNHKは、米CNNを引いて「信憑性の確認は十分にはできない」と断りを入れていました。日本メディアはこの戦争についてほとんど独自取材できておらず、自ら情報を分析する能力がないので、せっかくアゾフ大隊司令官がスクープ情報を提供してくれていたのに「疑わしいからカット」にしていたのかもしれません。

しかし、いままで未確認情報を未確認のまま垂れ流してきたことは一回や二回ではありません。流してもよかったが「徹底抗戦の流れから外れるから編集カット」したのかもしれません。橋下・グレンコ論争が示しているとおり、民間人・非戦闘員の退避問題は論じるにあたって非常に神経を使う問題です。NHKの番組編集部が民間人・非戦闘員避難に主張の力点を置き過ぎることに対する「恐怖」を感じていたとしても不思議ではありません。

■民間人・非戦闘員が置き去りにされるのが戦争というもの
近々改めて取り上げたいと思っている記事として「自衛隊の元空将と元陸将が分析「ロシア軍はなぜ苦戦するのか?」」があります。予備自衛官で日本安全保障戦略研究所研究員の田上嘉一弁護士、陸上自衛隊元西部方面総監の小川清史氏、元航空自衛隊西部方面航空隊司令官の小野田治氏らがウクライナ戦争の戦況を論じている記事です。一般公表できる範囲内で現職自衛官時代に培った知識をもとに論じておられるお三方による対談ですが、メディアの戦況報道を見ているだけでは見えてこない「プロの分析」といえます。

このなかで次のくだりが目に留まりました。
ウクライナも、ロシアを見くびっていたところが多少あったと思います。でなければ、民間の人達をあれだけ・・・攻撃された市街地にまた戻ってきて瓦礫を片づけたり、国民保護を一体どうしているのかという点でちょっと疑問な部分はある。
やっぱりそう見えますよね。ロシア側が繰り返す「人間の盾にしている」とまでは言いませんが、民間人・非戦闘員の退避問題において疑問を感じざるを得ません。

ロシア側の対応にも苦言を呈しておかなければなりません。ロシアはウクライナ政府とアゾフ大隊を「ネオナチ」呼ばわりしてきましたが、本当にそうならば、「なら降伏しなさい」で降伏するはずがありません。「ウクライナは民間人を人間の盾にしている」というのであれば、それが「ネオナチ」の本質であるのならば、「特別軍事作戦」を称している以上は、小児病院を誤爆したときのような「ウクライナのせい」という言い逃れをすべきではありません。ウクライナ側が「民間人を人間の盾にしている」とすれば、ロシア側は「民間人の被害を以ってウクライナ批判のネタにしている」と言わざるを得ません。「どちらが先に手を出したのか」問題を別とすれば、この戦争は「どっちもどっち」なのです。

民間人・非戦闘員が置き去りにされるのが戦争というものですが、それが鮮明に表れたのがマリウポリの戦いであったと言えます

■今日のまとめ
いつも賑やかなヤフコメも心なしか「静か」なマウリポリ陥落のニュース。「反転攻勢」ムードに水が差された形だが、マウリポリでのウクライナの劣勢は急に始まった話ではありません。この「静けさ」は、いかに日本人の目が一つの視点に凝り固まっているのかを示しています。

民間人・非戦闘員が置き去りにされるのが戦争というものですが、それが鮮明に表れたのがマリウポリの戦いであったと言えます。
posted by 管理者 at 23:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする

2022年05月16日

ウクライナ戦争をめぐって展開されている「国際社会」の結束とは、「昭和天皇=ヒトラー」の構図

https://news.yahoo.co.jp/articles/f6bbca61ec649e6defd634479bf49cc1e273be33
「テロ組織のたまり場だ」トルコのエルドアン大統領が北欧2カ国のNATO加盟に否定的な考え
5/14(土) 10:52配信
ABEMA TIMES

(中略)
 NATO加盟国でもあるトルコのエルドアン大統領は13日、北欧2カ国の加盟に否定的な考えを示し、その理由として両国は「テロ組織のたまり場だ」と述べた。トルコはテロ組織とみなすクルド人武装勢力などを支援しているとして、北欧諸国を繰り返し非難してきた経緯がある。

 NATOの新規加盟には現在の加盟国が全会一致で賛成する必要があるため、トルコが反対すれば両国の加盟は困難になる。トルコはNATO加盟国ながらロシアとも友好的な関係を保ち、欧米諸国が主導する経済制裁には参加していない。(ANNニュース)
コメント欄。
トルコにはがっかりですね。
日本人としてはトルコは親日国として有名な国ですが、今回のロシア軍によるウクライナ侵攻に対してはなんとなく煮えきらない態度をしてきた。
NATO加盟国であることから、当然ウクライナを支援しフィンランドとスウェーデンのNATO加盟にも賛成するものと思っていたが残念だ。
最近ではアメリカの反対を押し切ってロシア兵器の購入を決めたり、シリア内戦ではロシア軍とトルコ軍が協力してパトロールするなど、ロシアとの繋がりが懸念されていたが、西側の懸念はどうやら的中してしまったらしい。
これでハンガリーと共にトルコもロシアの手先であることが判明したに等しいですね。
いわゆる「国際社会」は自国利益むき出しの修羅場であり、「正義」はあくまでも方便にすぎないことを依然として十分には理解していない日本世論的な反応というべきコメントです。

日本世論が頻繁に言及する「国際社会」なる概念は、実際のところ米英とその追随国数か国に過ぎないことは、当ブログ読者の皆様であれば先刻ご承知のことかと思いますが、今般のウクライナ戦争においてはそれが非常に鮮明に現れています。今回のトルコの意向は非常に自国利益に率直な決断です。北欧諸国でのクルド人武装勢力の活動に以前から悩まされてきたトルコが、このことを外交交渉カードに使っています。また、天然資源輸出をめぐる攻防においてインドの独自路線も目立っています。ロシアは大国です。米英が必ずしも覇権を確固なものにはできていない国々に対する影響力は過小評価できません。

「国際社会」はウクライナ支援で結束していません。心なしか最近は、メディア報道において「国際社会」というワードが出没する機会が減ってきているように思われます。相変わらず岸田首相はことあるごとに「国際社会の結束」と口にしていますが、日々空虚さを増しているように思われます。

むしろ、ウクライナ戦争をめぐる「国際社会」の結束を示す現象は、「昭和天皇=ヒトラー」の構図であると言えるのではないでしょうか? 少し前に発生したウクライナ政府の公式Twitterとされるアカウントでのtweetの件です。衝撃的なtweetについて駐日ウクライナ大使館は次のように弁解しました。
https://twitter.com/UKRinJPN/status/1518393663856193537
当アカウントは2016年に開設されており、現在ではウクライナ政府と関係がありません。制作者の歴史認識不足と思われます。
午前9:57 2022年4月25日
「現在ではウクライナ政府と関係がありません」という弁解は俄かには信じがたいものですが、万に一つ「制作者の歴史認識不足」が原因だとすれば、ウクライナにおける常識は「昭和天皇=ヒトラー」ということになります

それにしてもどうして、ちょっと考えればすぐに分かるような程度の低い言い訳を展開するのか理解に苦しみます。これでは、クラマトルスクの鉄道駅を誤爆して民間人に被害が生じたときのロシア側弁解と同レベルです。

現在の国際社会の秩序と歴史的な正義は、第二次世界大戦の戦争結果の上に据えられています。正義のとしての連合国・悪としての枢軸国という構図です。日本人が幾ら抗議したところでこの構図は非常に盤石なものです。「昭和天皇=ヒトラー」こそが国際社会の共通認識なのです
ラベル:国際「秩序」
posted by 管理者 at 21:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする

2022年05月13日

「5.9戦争宣言」予測が外れたという事実にかかる恥の上塗りから見えること

ロシアが5月9日の戦勝記念日を機に「戦争宣言」をするという観測が尾を引いています。5月10日づけ「「北朝鮮」報道化したロシア報道:「5.9戦争宣言」の予測を巡って」において書いたとおり、あくまでも英米など西側諸国の「分析」に過ぎないものであり、ロシア政府筋がそれを匂わせたり、リークしたものではありませんでした。予測は案の定、外れましたが、このことについて恥の上塗りというべき取り繕いが日本メディアにおいて展開されています
https://news.yahoo.co.jp/articles/91d46a698b879b8456db1b4ec4504cb333869e27?page=3
プーチン大統領が戦勝記念日の演説で「戦争宣言」しなかった理由
5/10(火) 17:30配信
ニッポン放送

二松学舎大学国際政治経済学部・准教授の合六強が5月10日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロシアのプーチン大統領が戦勝記念日の式典で行った演説について解説した。

(中略)
戦争宣言をしなかった理由

飯田)ウクライナが相手というよりも、背後にいる国や組織への批判、アメリカや西欧諸国という部分が大きかった。以前、ラブロフ外相が「代理戦争なのだ」という話もしていました。その辺りの話が多かったということですか?

合六)いろいろなことを盛り込めたでしょうが、戦勝記念日のスピーチは比較的短いのが恒例です。当初の予定では大きな戦果を挙げて、勝利宣言をするのではないかと思われていましたが、それができる状況にはありません。戦争宣言もしませんでした。戦争宣言をしなかったのは、リスクが非常に高いからです。これまで「特別軍事作戦」と言ってきたにもかかわらず、ここで「戦争」と言ってしまうと、特別軍事作戦がうまくいっていないのではないかと国民にとらえられる可能性があります。戒厳令を出して総動員しても、国民がついてくるのかどうかわからないということもあります。

飯田)国民に総動員をかけても。

合六)何を選ぶかというときに、NATO批判やアメリカ批判を展開することで、いまの軍事作戦のための協力をあおごうとしているのではないでしょうか。

(中略)
なぜ「終末の日の飛行機」を飛ばさなかったのか 〜悪天候は本当か
飯田)規模が縮小されたという話があります。航空機を飛ばすことも中止になりました。映像を観ながら、「曇天とは言いながらも、明るい」と思いました。国内的にはそれほど影響しなかったということですか?

合六)パレードの規模が小さくなったのは、戦力が前線に行っていることが影響しているのだと思います。登場すると言われていた「終末の日の飛行機」と呼ばれる「イリューシン80」……核戦争が起きた際、空から指揮命令ができる飛行機は飛びませんでした。本当に天候が悪かったから飛ばさなかったのかどうかは、よくわかりません。「核」という印象をトーンダウンしようとしたのかも知れませんが、今後のプーチン大統領の発言やロシアの行動を見ないとわからないところです。

(以下略)
■ロシアが開戦時に自ら作り出した「設定」に従う限り、「戦争宣言」などあり得ない
驚くほど何の根拠もない憶測と、印象操作にしても弱い「思います」の連続・・・ここで「戦争」と言ってしまうと、特別軍事作戦がうまくいっていないのではないかと国民にとらえられる可能性」? ロシア国内にそのような情勢が形成されつつあるという確度の高い情報が存在しているのでしょうか? もし存在しているのならば間違いなく自慢げに言及するはずのところですが、そのような確度の高い情報がないということは根拠がないということでしょう

ロシアによるウクライナ侵攻にかかる重大な特徴として、ロシアの侵攻理由・動機への理解が極めて乏しいという事実があります。3月6日づけ「力の信奉と大義優先の点において77年前から進歩せず、卑劣な他力本願まで加わった:ロシアのウクライナ侵攻をめぐる世論について(2)」でも書きましたが、開戦から1週間以上たった3月4日になってようやくNHKがプーチン大統領の開戦演説を全文和訳したことが象徴的に示しているとおり、ロシアの開戦動機・理由が非常に軽視されています。無視されているといってもよいでしょう。誰も「なぜプーチンは戦争を始めたのか?」「プーチンの世界観はどうなっているんだ?」に興味を持っていないのです。異常というほかありません。

しかし現実には、プーチン大統領の開戦演説がNHKニュースで和訳され今も公開されています【演説全文】ウクライナ侵攻直前 プーチン大統領は何を語った?2022年3月4日 18時25分)。重要と思われる箇所を引用しておきましょう。
【演説全文】ウクライナ侵攻直前 プーチン大統領は何を語った?
2022年3月4日 18時25分

2月24日に突然、ロシアがウクライナを侵攻。その日、侵攻直前に、ロシアの国営テレビはプーチン大統領の国民向けの演説を放送しました。
プーチン大統領は何を語ったのか?
演説全文は次のとおりです。

(中略)
NATO主要諸国は、みずからの目的を達成するために、ウクライナの極右民族主義者やネオナチをあらゆる面で支援している。
(中略)
私たちは、旧ソビエトの空間に新たに誕生したすべての国々を尊重しているし、また今後もそのようにふるまうだろう。
それらの主権を尊重しているし、今後も尊重していく。
その例として挙げられるのが、悲劇的な事態、国家としての一体性への挑戦に直面したカザフスタンに対して、私たちが行った支援だ。

しかしロシアは、今のウクライナから常に脅威が発せられる中では、安全だと感じることはできないし、発展することも、存在することもできない。

2000年から2005年にかけ、私たちは、コーカサス地方のテロリストたちに反撃を加え、自国の一体性を守り抜き、ロシアを守ったことを思い出してほしい。
2014年には、クリミアとセバストポリの住民を支援した。
2015年、シリアからロシアにテロリストが入り込んでくるのを確実に防ぐため、軍を使った。

それ以外、私たちにはみずからを守るすべがなかった。

今もそれと同じことが起こっている。
きょう、これから使わざるをえない方法の他に、ロシアを、そしてロシアの人々を守る方法は、私たちには1つも残されていない。
この状況下では、断固とした素早い行動が求められている。

ドンバスの人民共和国はロシアに助けを求めてきた。
これを受け、国連憲章第7章51条と、ロシア安全保障会議の承認に基づき、また、本年2月22日に連邦議会が批准した、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国との友好および協力に関する条約を履行するため、特別な軍事作戦を実施する決定を下した。
その目的は、8年間、ウクライナ政府によって虐げられ、ジェノサイドにさらされてきた人々を保護することだ。
そしてそのために、私たちはウクライナの非軍事化と非ナチ化を目指していく。
また、ロシア国民を含む民間人に対し、数多くの血生臭い犯罪を犯してきた者たちを裁判にかけるつもりだ。

ただ、私たちの計画にウクライナ領土の占領は入っていない。
私たちは誰のことも力で押さえつけるつもりはない。

(中略)
現在起きていることは、ウクライナ国家やウクライナ人の利益を侵害したいという思いによるものではない。
それは、ウクライナを人質にとり、我が国と我が国民に対し利用しようとしている者たちから、ロシア自身を守るためなのだ。

繰り返すが、私たちの行動は、我々に対して作り上げられた脅威、今起きていることよりも大きな災難に対する、自己防衛である。
どんなにつらくとも、これだけは分かってほしい。
そして協力を呼びかけたい。
できるだけ早くこの悲劇のページをめくり、一緒に前へ進むために。

私たちの問題、私たちの関係を誰にも干渉させることなく、自分たちで作り上げ、それによって、あらゆる問題を克服するために必要な条件を生み出し、国境が存在するとしても、私たちが1つとなって内側から強くなれるように。
私は、まさにそれが私たちの未来であると信じている。

ウクライナ軍の軍人たちにも呼びかけなければならない。

親愛なる同志の皆さん。
あなたたちの父、祖父、曽祖父は、今のネオナチがウクライナで権力を掌握するためにナチと戦ったのではないし、私たち共通の祖国を守ったのでもない。
あなた方が忠誠を誓ったのは、ウクライナ国民に対してであり、ウクライナを略奪し国民を虐げている反人民的な集団に対してではない。
その犯罪的な命令に従わないでください。
直ちに武器を置き、家に帰るよう、あなた方に呼びかける。
ロシアの一貫した「設定」は、次のくだりに凝縮されています。すなわち、「現在起きていることは、ウクライナ国家やウクライナ人の利益を侵害したいという思いによるものではない。それは、ウクライナを人質にとり、我が国と我が国民に対し利用しようとしている者たちから、ロシア自身を守るためなのだ。繰り返すが、私たちの行動は、我々に対して作り上げられた脅威、今起きていることよりも大きな災難に対する、自己防衛である」です。

ロシアは「ウクライナを人質にと」っている「ウクライナの極右民族主義者やネオナチ」に対する戦いとして「特別軍事作戦」を展開していると自ら「設定」しています。ロシアが開戦時に自ら作り出した「設定」に従う限り、「戦争宣言」などあり得ないといってもよいでしょう。「戦争」は国と国の対決であり、この対決は容易に国民・民族同士の対決に転化してしまうものです。事態を「戦争」と規定することは、ロシアが自ら作り出した「設定」と矛盾をきたすでしょう。長々と歴史的経緯に熱弁を振るうプーチン大統領とロシア政府。おそらく「歴史的使命」を自らに課しており、確信犯的にこの戦争を戦っているものと思われます。それゆえ、自ら「設定」をぶち壊すことは考えにくいものです。

■日常生活で自己中な日本人が国際情勢・天下国家を語るときだけ聖人君子になるはずがない
3月6日づけ記事で私は、日本世論の動向について(1)勧善懲悪・破邪顕正的な二項対立及び(2)「悪党」の主張には一切耳を傾けないがあると指摘しました。しかし最近、日本社会のクレーマー化に関連して昨今のクレームの動向について分析している過程で、もっと低レベルな背景があるのではないかと思うに至っています。「『自分中心』に凝り固まっている」という可能性です。

正当なお客さまのご意見とは決定的に異なるクレーマー的クレームというものは、大抵は自己中の極みというべきものですが、日常生活で自己中な人が天下国家を語るときだけ聖人君子になるはずがありません。日常生活で自己中な日本人が国際情勢・天下国家を語るときだけ聖人君子になるはずがないのです。クレーマー化する日本社会が、「なぜプーチンは戦争を始めたのか?」「プーチンの世界観はどうなっているんだ?」に興味を持とうともしないことは、必然的な現象と言ってよいでしょう。

この手の品性下劣さが如何なる経緯で形成されたのかは、引き続き考えてゆきたいと思います。

■相手の内的論理を踏まえるのではなく憶測に憶測を重ねる、徹頭徹尾デタラメな「北」朝鮮報道と同じ展開
ニッポン放送記事に戻りましょう。合六氏は「戒厳令を出して総動員しても、国民がついてくるのかどうかわからない」といいます。はてさて、何故、遠くウクライナに戦線があるのにロシア国内に戒厳令を出すのでしょうか? 戒厳令がどういうモノなのか分かって言っているのでしょうか? たしかに最近、アメリカ当局者が戒厳令について言及しました(「「ロシアは紛争長期化へ準備」米高官が指摘 「戒厳令」可能性も」5/11(水) 4:10配信 毎日新聞)が「プーチン露大統領が劣勢にあると認識した場合」との条件付きで、将来的な可能性にとどまるものです。

合六氏は「NATO批判やアメリカ批判を展開することで、いまの軍事作戦のための協力をあおごうとしている」ともいいます。専門家を称しつつプーチン大統領の開戦演説を読んでいないんでしょうね。開戦演説でプーチン大統領が延々と恨みがましく主張していたように、ロシアは今般のウクライナ情勢において一貫してNATOそしてアメリカを見据えてきました。NATO批判・アメリカ批判こそ、この戦いに至った動機の核心にあります。

パレードの規模が小さくなったのは、戦力が前線に行っていることが影響している」? 「経済封鎖のせいで懐事情が厳しい」というのならまだ分かります(たぶんそうだと思う)が、予備兵力が枯渇しているという解釈は予想の斜め上でした。「北」朝鮮でさえ、もっとも厳しい時期でも軍事パレードにはカネの糸目をつけませんでしたが、今のロシアがそこまで追い詰められているという情報はありません

本当に天候が悪かったから飛ばさなかったのかどうかは、よくわかりません」に至っては、当日の天候を調べればすぐに真相が分かるのではないでしょうか?

もうお腹いっぱい。「北」朝鮮報道と同じ展開。相手の内的論理を踏まえるのではなく憶測に憶測を重ねています。徹頭徹尾デタラメな記事というほかありません。

■ウクライナ・バブル――国際的にはまったく無名の一地方議員による出所不明の主張に依拠する「学者」
デタラメといえば次の記事も凄かった。5月10日づけ「「北朝鮮」報道化したロシア報道:「5.9戦争宣言」の予測を巡って」で門倉貴史氏と一緒に取り上げた白鳥浩・法大教授がついに「一線」を越えてしまいました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/8fee48dfcd967fd007f23e51aa4722c15fe042fc
11日ロシア軍が化学兵器攻撃か マリウポリの製鉄所
5/10(火) 11:51配信
テレビ朝日系(ANN)

 ウクライナ南東部マリウポリの製鉄所に残る兵士に対して、ロシア軍が11日に化学兵器を使う準備をしているとマリウポリの市議が指摘しました。

 ウクライナ国防省は9日、ロシア軍がアゾフスタリ製鉄所に戦車などを使って襲撃を試みていると発表しました。

 マリウポリ市のラシン市議は、ロシア軍が11日に製鉄所に残るアゾフ大隊の兵士に対して、化学兵器による攻撃を仕掛けようとしているとSNSで訴えました。

(以下略)
コメ欄。
白鳥浩
法政大学大学院教授/現代政治分析

この報道はマリウポリの製鉄所における戦闘に、ロシアが手を焼いていることを示している。ある意味で、ロシア側に戦勝記念日までに制圧できなかったことに対する苛立ちと焦りを感じることは、まちがいではない。

(以下略)
プロパガンダ合戦が展開されているこのタイミングにおいては、ゼレンスキー・ウクライナ大統領やアゾフ連隊指揮官の発言でさえも慎重に取り扱わなければならない(とくにアゾフ連隊指揮官は「化学兵器攻撃を受けた!」と主張した過去――いまだにアメリカでさえ事実関係を確認していないので、おそらく虚偽の主張――があります)ところ、国際的にはまったく無名の一地方議員による出所不明の主張について「この報道はマリウポリの製鉄所における戦闘に、ロシアが手を焼いていることを示している」などと「分析」する白鳥教授。白鳥教授のトンチンカンな「分析」には、新型コロナウイルス報道などにおいて今までも楽しませて貰ってきましたが、今回は凄まじいという他ありません

白鳥教授の専門は政党政治と選挙だというので、そもそも国際情勢や軍事はもとよりロシア・ウクライナ史は門外漢であるはず。もちろん「専門外のことについて意見を述べてはいけない」とは言いません。人間たるもの自分の意見を言いたくなってしまうものなので、白鳥教授が専門外のウクライナ情勢について持論を展開したくなる気持ちは分かります。私自身、国際情勢や軍事は専門ではありません。東スラヴ族は好きだし、その民族史に敬意を持っていますが、専門知識はありません。しかし、白鳥教授がオーサーコメント欄に、素人のヤフコメと同等またはそれ以下の「分析」を書き込んでいる事態をYahooは真剣に考えたほうがよいでしょう。事前に承認した専門分野以外には投稿できないようにするといった「温情」があったほうがよいように思われます。

■構成・演出の単純さは、視聴者の単純さ
メディアは「記念日」商法に味を占めたようです(「「軍の中に相当な不満たまっている」プーチン氏11分間の演説に“戦争宣言”“総動員令”なし 次の節目は「ロシアの日」か」5/10(火) 22:09配信 TBS NEWS DIG Powered by JNN)。「5.9戦争宣言」の言い出しっぺだったウォレス・イギリス国防相の発言は4月28日。それからの10日間のカウントダウンの「盛り上がり」っぷりはたしかにもの凄いものがありました。

この構成・演出の単純さには辟易しますが、商業メディアは広告収入つまり売れてナンボの世界です。つまり、構成・演出の単純さは、つまるところ視聴者の単純さ以外の何物でもないのです。この戦争はまだしばらく続くものと思われます。視聴者大衆の意識改革・意識革命は遠大な課題であり今すぐに解決できるものではありませんが、せめて恥の上塗りに見える事象はやめて欲しいと願ってやみません
posted by 管理者 at 23:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする

2022年05月10日

「北朝鮮」報道化したロシア報道:「5.9戦争宣言」の予測を巡って

https://news.yahoo.co.jp/articles/87cdf53de62332f5bdebdb16a9b86ffaf63af296
【速報】プーチン大統領「戦争宣言」せず ウクライナ侵攻を正当化
5/9(月) 16:31配信
FNNプライムオンライン

ロシアの首都モスクワで9日、対ドイツ戦勝記念日の式典が行われ、プーチン大統領が演説を行ったが、注目されていた「戦争宣言」はしなかった。

(以下略)
コメント欄。専門外の分野に首を突っ込み、素人のヤフコメと同等以下の内容を精力的に書き込んでいる門倉貴史氏と白鳥浩氏の「豪華共演」w
門倉貴史
エコノミスト/経済評論家

プーチン大統領が正式に「戦争」を宣言するのではないかという観測もあったが、それは見送られた。
 戦争宣言をすれば、予備役や民間企業など国家総動員を図ることが可能になるが、その一方で国民の反発が強くなる可能性が出てくる。また、戦争宣言は、国内外にこれまでの「特別軍事作戦」がうまくいかず、失敗であったことを公式に認めることにもなり、ロシア軍の士気にマイナスの影響を及ぼす可能性もあった。
 戦争宣言のメリットとデメリットを考慮すれば、デメリットのほうが大きいとの判断から、戦争宣言に踏み切らなかったのではないか。

(以下略)
白鳥浩
法政大学大学院教授/現代政治分析

プーチン大統領は「戦争宣言」を行わなかった。
これには様々な意味があるのかもしれない

(中略)
21世紀の戦争は、コストの高いものとなることをプーチン氏も自覚したのではないだろうか。
「5月9日の対独戦勝記念日を以ってロシアがウクライナに正式に宣戦布告する」という観測は確かに少し前から取り沙汰されていましたが、あくまでも英米など西側諸国の「分析」に過ぎないものだったはず。ロシア政府筋がそれを匂わせたり、リークしたものではありませんでした。

またしても「北朝鮮」報道と同じ展開。西側が勝手に推測して盛り上がっているに過ぎない出来事がいつの間にか既定路線にすり替り、それが現実のものにならないことが分かるや否や「目論見、外れたり!」と騒ぎ立てる現象。チュチェ106(2017)年4月26日づけ「大規模砲撃演習を「極めて挑発的な威嚇」と認識できない単細胞な「世論」」で私は次のように書きました。
「4月25日核実験実施」という推測がいつの間にか既定スケジュールに脳内変換され、それが現実のものにならないと見るや、さらに脳内補完を強め、相手側の真意をまったく読み違える。自分たちの「推測」に過ぎないものが、いつの間にか「現実」のスケジュールに摩り替わっている・・・日本軍の戦略的敗北の過程――なぜかは分からないが連合国・連合軍の戦術・戦略を決めてかかり、それと異なる兆候を無視する――と瓜二つです。

西側の「分析」関連で次の記事。
https://news.yahoo.co.jp/articles/1b8ca1662b55ba60ced05ddafe545f5e22527492
【寄稿】 「プーチン氏の前にはもはや種々の敗北しかない」 英の国防専門教授
5/9(月) 9:44配信
BBC News

ロシアでは毎年5月9日を、第2次世界大戦の対独戦勝を記念する「戦勝記念日」として祝う。モスクワで予定される毎年恒例の軍事パレードなど、各種の祝賀行事でロシア政府が何を主張するにしても、現状はウクライナに対する勝利とは程遠い状態にあると、イギリスの国防研究者、マイケル・クラーク教授は指摘する(文中敬称略)。

もはやこの戦争に、ロシアが有意義な形で勝つことはできない。

(中略)
ジョージア、ナゴルノ・カラバフ、シリア、リビア、マリ、そして2014年にウクライナで2度、ロシア政府は低コストで介入し、相当に有利な立場に立った(2014年にウクライナで2度というのは、まずクリミアを違法に併合したのち、ロシアに従属するルガンスクとドネツクの自称共和国を作ったことを指す)。

どの場所でもロシアは素早く、容赦なく動き、西側世界は段階的な制裁でしか対抗できなかった。西側の制裁に現実を変える力はなかった。プーチンは「現場で新しい事実を作り出す」のが得意だった。

今年2月に彼は、同じことをウクライナで、最大級の規模でやろうとした。人口4500万人の国、領土面積でいうと欧州で2番目に大きい国の、政治的実権を約72時間のうちに奪取しようとしたのだ。驚くほど無謀なギャンブルで、最も大事な第1週で、その賭けは完全に失敗した。

(中略)
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の軍隊や、外の世界が反応できる前に、首都キーウ(ロシア語でキエフ)の政府を支配下におくという「プランA」の実現に失敗した後、ロシア政府は「プランB」に移った。これは「プランA」よりも「作戦展開」を重視する軍事的な計画で、まずキーウを包囲してから、チェルニヒウ、スーミ、ハルキウ、ドネツク、マリウポリ、ミコライウといった他の主要都市を攻略しようというものだった。降伏か全滅かと首都キーウを脅かす間に、ウクライナの武力抵抗をあっさり消滅させようというのが狙いだった。

しかし、これもまた失敗した。陥落してロシアの支配下に入った主要都市は南部へルソンのみで、ここでも住民はロシアの統治に抵抗し続けている。結局のところ、ウクライナほど巨大な国を圧倒的に支配するには、ロシアの軍勢は小さすぎた。

(中略)
戦況の停滞にいらだつロシア政府は、今度は「プランC」に移行した。これはキーウと北部の制圧を諦め、その代わり、東部ドンバス地域からおそらく南西部オデーサに至る南部全域に大攻勢をかけるため、戦力を集結させるというものだ。主要な港湾都市オデーサを含む南岸一帯をロシアが掌握すれば、ウクライナは事実上、内陸国になってしまう。

そして現在、南東部のイジューム、ポパズナ、クルルカ、ブラジキウカなどで展開しているのが、この作戦だ。

ロシア軍はウクライナ軍の統合作戦部隊(JFO)を包囲しようとしている。JFOはウクライナ陸軍の約4割にあたる部隊で、2014年以来、分離派が実効支配するルハンスクとドネスクの自称「共和国」に対峙(たいじ)している。この地域でロシア軍にとって鍵となる目標は、スロヴィヤンスクとその南のクラマトルスクを掌握することだ。両都市ともドンバス地方全域を支配するための要衝となる。

そしてこの戦争は、軍事的にこれまでとは異なる段階に入った。今までより広い土地で、今までより良い天候の中、戦闘が繰り広げられる。戦車と機械化歩兵、そして何よりも敵の装甲車がなだれ込んでくる前に相手の防衛を殲滅(せんめつ)するよう設計された大砲を駆使して。

しかし、これはそれほど単純なプロセスではない。

ロシアの攻勢は出遅れ、ウクライナのJFOはロシアの進軍を食い止めている。おかげで、今頃はここまで到達しているはずとロシア側が想定していたほどの前進は、まだ実現できていない。これによってウクライナ側は貴重な時間を稼いだ。戦闘が本格化する前に、それぞれが重火器を前線に投入しようと、今は「ヘビーメタル(重火器)の競争」が進行中だ。これは今後数週間でさらに状況が進むだろう。

しかし、ドンバスで何が起きたとしてもそれは、さまざまな敗北の選択肢から何かを選ぶ機会を、プーチンに与えるに過ぎない。

(以下略)
プランAからCまでの整理はたしかに今までの戦況の変遷をなぞったものです。しかしながら、素人考えながらもちょいちょいと違和感を覚えざるを得ません

記事中、「結局のところ、ウクライナほど巨大な国を圧倒的に支配するには、ロシアの軍勢は小さすぎた」とありますが、このことについては3月20日づけ「「北朝鮮」報道化したロシア報道:怪しげな情報源によるもの、希望的観測の継ぎ接ぎ等々」でも述べたとおり、20万弱の兵力でウクライナ全土を占領統治することはそもそも無理です。全兵力を束にしてぶつけても不可能です。算数の問題として、ロシアが用意した兵力規模から見てウクライナ全土を直接統治する気はもともとなかったと考えるべきではないでしょうか?

また、NATO諸国との緩衝地帯を求めているロシアが自ら西進してNATO諸国と国境を接することも考えにくいものです。具体的にどの程度の領域を緩衝地帯化すればロシアとして安心できるのかについては、私はそこまで地政学に詳しくないので分かりかねるところです(ウクライナ全土を緩衝地帯化すればいいのか、ドンバスはロシアに併合してしまっても構わないのか、それともヘルソン州を含むいわゆるノヴォロシアのかなり広大な領域までも併合してしまって構わないのかは私には分かりません)が、流石にNATO加盟国であるポーランドとの国境地帯まで併合してしまっては緩衝地帯にはならないでしょう。やはり、ウクライナ全土を直接統治する気はもともとなかったと考えるべきではないでしょうか?

初めからロシアが軍事力を使うことでウクライナ政府に強制できたプランは、チェコ事件のように政権首脳部を無理やり交代させるパターンか、あるいは、冬戦争のように現政権首脳部を「痛い目」に合わせて「思い知らせる」パターンしかありませんでした。いくらプーチン・ロシア大統領が「裸のツァーリ」でも、こんなことまで分からないとは考えにくいものです。プランA・Bの解釈に違和感を覚えます

そもそも客観的に不可能であり、主観的にその意志があったのかも疑わしい「計画」が現実のものにならなかったからといって、「失敗」だと言い立てることに非常に違和感を感じます。「北朝鮮」報道と同じ過ちを犯しているように思えてなりません。

プランCの解釈については、たしかに、ロシア側としてはゼレンスキー・ウクライナ大統領が早々に白旗をあげてウクライナ全土を衛星国化できればラッキーだと思っていたでしょう。しかし、プーチン大統領の開戦時演説を振り返るに、ドンバス地方の「防衛」こそが戦争目的の核心だったと推察できます。このことは、今日のプーチン氏演説にも色濃く現れています。
Victory Parade on Red Square」(ロシア大統領府:演説全文の英訳)
「祖国防衛は常に神聖」 プーチン大統領演説要旨」(2022年5月9日 20:01 日本経済新聞)

ちなみに、勇ましいことは言うが自己保身第一であり、その問題に関しては驚異的に鋭敏なアンテナを持っている日本のジャーナリストたちが「現地取材」と称して、ほぼ安全な西部リヴィウを一貫して取材拠点としているあたり、ロシア側としては戦火をウクライナ全土に広げる意志はもとより乏しいことは明白だったように思われます。

ウクライナ軍はたしかに敢闘しました。しかし、いまのところロシアの「野望」は完全には達成されていないものの「戦争目的」は(辛くも)達成されています。記事におけるプランA・Bに対する断定的評価に対してプランCに対する評価は少々控え目です。プランC自体が現在進行形だということも大いに影響しているのでしょうが、現在の「膠着状態」にある戦況を見るに少し弱気の評価にならざるを得ないのかもしれません。

結局、ロシアとしてどこまでが「歴史的ロシア」と言い得るのか、そして、どの程度の領域を「中立化」できればロシアとしてNATO諸国との緩衝地帯として安心できるのかがカギになってくるように思われます。つまり、何を以って「勝利」とするのかという問題です。

権力にとっての最大の関心事は政権転覆の危険性ですが、ロシアの国家権力としては、国内・国民世論の不安定化こそが真の脅威であり外野が騒いでいるくらいならばそれほど脅威になると思っていないように見受けられます。もとよりロシアは対外的に支持・共感されようとは思っておらず、対内的にストーリーが完結していれば構わないと思っているように見受けられます。

「勝利」の水準設定は一元的にプーチン大統領による裁量の範囲内です。彼は先日「ウクライナでの軍事作戦で「全ての目標を無条件で達成する」と強調した」といいます(「ロシア大統領、欧米介入には軍事対応も ウクライナ作戦「目標達成する」 英報道「核への言及」と警戒」4/28(木) 8:42配信 時事通信)。何を以って目標達成とするかは、ロシア政府の一存です。最後は荒唐無稽的であっても「勝利」を言い張ることでしょう。

関連記事:3月20日づけ「「北朝鮮」報道化したロシア報道:怪しげな情報源によるもの、希望的観測の継ぎ接ぎ等々
posted by 管理者 at 00:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする

2022年05月08日

事大主義は国を滅ぼす

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN06ATE0W2A500C2000000/
戦勝記念日に行事なし ウクライナ首都
ウクライナ侵攻
2022年5月7日 0:32

(中略)
旧ソ連圏のウクライナはロシアと同じ9日を祝日としてきたが、近年は欧州で第2次大戦が終結した8日を記念日にしようとする動きがあり、行事も開催されている。
西欧諸国が対独戦勝記念日を5月8日としているところロシアが9日に設定しているのは、ナチス・ドイツが降伏文書に調印したその瞬間がモスクワ時間(UTC+3時間)では9日にあたるからです。

現在ウクライナは東欧時間を採用しています。3月の最終日曜日から10月の最終日曜日まではサマータイムなので、サマータイム期間は東欧時間とモスクワ時間との間に時差はありません(ロシアではサマータイムは採用していません)。つまり、ナチス・ドイツが降伏文書に調印したその瞬間は、ウクライナでもロシア(モスクワ時間)でも「5月9日」になります。

いくらロシアから離れて西欧に近づきたいからといって、ウクライナはウクライナであり東欧に位置していることは動かし難い事実です。どんなに頑張っても西欧になることはできません。そんなにロシアが嫌いならば、いっそのこと「ロシアこそ現代のナチス」としつつ「ウクライナこそ5月9日を正統に祝う資格のある唯一の国」くらい言ってのければよいものを、対独戦勝記念日を8日に変更してしまうのは見境のない擦り寄りに見えます。自らの立場を投げ捨ててまで西欧に擦り寄るその姿は、事大主義といっても良い水準ではないでしょうか。

しかし、ここまで露骨に西欧に擦り寄ったにも関わらず今般の戦争では当の西欧諸国はウクライナとはハッキリと一線を画しています。武器などの援助は大規模に行われているものの、流されている血はウクライナ人のものだけです。思えば開戦前のウクライナの対ロ強硬姿勢は西欧諸国の威光を借りたものという部分もありました。

かつて首領様は「歴史的経験が示しているように、事大主義に陥れば人は愚か者になり、民族は滅び、革命は失敗をまぬがれ」ないと仰いました(『青年は朝鮮革命の最終的勝利のために経済建設と国防建設のすべての分野で先鋒隊となろう』チュチェ57・1968年4月13日)。目下の状況は、歴史的経験にまた一例が追加されたように思われます。
posted by 管理者 at 20:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする

2022年05月05日

子どもの日に願うこと・・・「悪」にはいかに対応すべきなのか

https://news.yahoo.co.jp/articles/e337c23d030a624c81fb44676f1717b56a0d8a21
山口県阿武町「4630万円誤送金騒動」で副町長を直撃!「フロッピーディスクは悪くない」「ミスした職員は食事も喉が通らない状態」
5/3(火) 10:01配信
デイリー新潮

(以下略)
コメント欄。
職員のミスはミスとして組織で再発防止を考えていただくとして、今回のケースは一般の会社で考えると「嫌な客に当たっちゃったなあ」という話でしょうね。
同じミスをしても相手がすぐに返してくれればこれほど大きな問題にはならなかったはずで、「再発防止に努めます」で済んだ話です。
一般企業でも、たまたまミスをしてしまった相手がクレーマーだったり、ちょっと変わった人だったりすると苦労するわけで、、、たまたま1つのミスが変な人にあたってしまってかわいそうに。
もちろんミスを肯定しているわけではありません。そこはきちんと組織で改善してほしい。
まったく異論ないコメントですが、唯一引っかかったのが「もちろんミスを肯定しているわけではありません」という補足的一文。なぜ本筋とは関係のない脱線的な一文が?

当ブログではかなり前から、社会的に物議を醸す問題にかかる世論を取り上げて分析してきました。たとえば、刑事裁判における被告人の主張に対する批判的世論の沸騰などです。これらを分析してきた経験から申せば、日本世論においては「悪」に対して一定の「批判の型」どおりに全員が批判の意思を表示することが社会的に当然に期待されている傾向があるように思われます。いったん「悪」判定された出来事や人物に対しては、「たしかに悪いには違いないが、そこまで言わなくても・・・」と言おうものなら「悪党に味方している」とされてしまいます。それどころか、まったく悪党に味方する意思はなくとも「批判の型」どおりに批判しないと「悪党の味方」扱いされてしまうものです。「同調圧力」というにはあまりにもグロテスクですが、それが我が国:ニッポンであると言わざるを得ないところです。

上掲の「もちろんミスを肯定しているわけではありません」という補足的一文は、わざわざこんな一文を保険的に挿入しておかないと思わぬ方向から批判を受けてしまう昨今の日本世論の動向を反映した自己防衛策だと思われます。こんなことをわざわざ書かないといけないほど、「悪」に対する「正しい」対応が一面化・硬直化しているわけです。

「悪」に対する対応に関連してもう一件。
https://news.yahoo.co.jp/articles/25d183a860d1d7d7d498608df5bd60952543058c
「ブチャ虐殺を普通のロシア人はどう受け止めているか」佐藤優「事態は極めて深刻」
4/18(月) 15:16配信
プレジデントオンライン

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続いている。4月にはウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊での民間人虐殺が明るみになった。元外交官で作家の佐藤優さんは「ロシアはブチャ事件を情報戦として捉えて全否定している」「戦時中の発表はすべて、そのまま鵜呑みにするのは危険な性質を帯びている」という。

(中略)
■「ブチャの民間人虐殺は、西側が仕掛けた謀略だ」という理解

 キーウ近郊のブチャやチェルニーヒウで多数の民間人の遺体が発見された事件でも、ロシア国民の多くは、「遺体の写真や映像は西側が作ったフェイクだ」という政府の説明を信じて、西側が仕掛けてくる心理戦、謀略戦に対する警戒感を強めるようになりました。

 このように、ロシア語世界と西側世界の間で、大きな認識のギャップが起きており、事態は極めて深刻です。私はここに、恐ろしさを感じています。日本の報道を見ても、ウクライナ国内に住んでいるロシア人が故郷の両親に電話をかけると、現状認識について話が合わないという事例があります。

 戦争の当事者でない日本まで届く情報は、実際に起こっていることの一部にすぎません。どちらか一方の情報がすべて正確で、どちらか一方の情報はすべて誤りだという単純な見方をしていると、物事を見誤ります。自己抑制的に両方の情報を見比べて、自分の頭で真偽を見極める必要があるのです。
言葉を慎重に選びながらも要点を余すところなく伝えている佐藤優氏の主張。今回の戦争は情報戦・世論戦が非常に盛んであり氾濫する情報をどのように総合して判断するべきか、いつも以上に問われています。

しかし、コメント欄では次のような「いつも」の頭が痛くなるコメントが寄せらせています。
ロシアから発信される情報の真偽だけでなく、ウクライナから発信される情報の真偽も吟味すべきということが、この記事の主張(記事の中では何も議論はしていない)だと思うが、その主張自体に意味が無いということ。ロシアが侵略しウクライナの領土で民間人が巻き込まれていることは疑いようの無い事実であって、その時点でウクライナから発信される情報の真偽を問わず、支援をすべきだということ。

戦争という非常事態において、明確な被害者から発信される情報の真偽をいちいち確認してから行動していては何も出来ない。
見事なまでに悪い意味で典型的な日本世論。刑事裁判に関する世論でも本当によく見かけるものですが、まず、「ロシアは一方的な侵略国でありウクライナは一方的に被害者である」という認識が正しいとしても、やってもいないことに関する汚名や責任までも被らされるべきではありません。人権云々以前に、相手が悪党だからといってやってもいないことに関する汚名や責任をかぶせると、本当にそれをやってのけた極悪党に対する非難が軽薄なものになってしまうからです。悪にはその悪の程度に過不足なく合った非難が浴びせられるべきなのです。

また、「ウクライナから発信される情報の真偽を問わず、支援をすべき」といいますが、その支援をどの程度まで強化すべきかという具体的な程度・匙加減を考えるとき「ウクライナから発信される情報の真偽」は重要な基準になります。すなわち、ロシアは今、特別軍事作戦と称してあくまでも攻撃対象はウクライナの軍事施設等に限っていると未だに述べています。ロシアが本当に特別軍事作戦を律儀に行っているとすれば、民間人・非戦闘員に犠牲が出てはいないとすれば、ロシアの侵略行為を止めるだけでコトは済みます。もちろんそうではないことを我々はすでに知っています。おびただしい数の民間人・非戦闘員に犠牲が出ています。そうであるからこそ、ロシアに対する非難の度合い及びウクライナに対する支援の度合いは、軍事施設等に限定した場合よりも数段強い必要があります。やはり、悪にはその悪の程度に過不足なく合った非難が浴びせられるべきなのです。

世の中の大抵のことは最終的に「程度の問題」に行きつくものです。善悪の問題でさえ大きな悪と小さな悪を比較して対応に差をつける必要が出てきます。しかし、勧善懲悪・破邪顕正的な二項対立に凝り固まった日本世論は、「程度の問題」としての扱いに慣れていないから、小悪党にアクセル全開で批判したかと思えば、極悪党に対して陳腐な批判しかできなくなるのです。非常に浅い言説しか紡ぎだせないのです。

明確な加害者は自らの罪を軽くするために「いやあいつもあいつで悪いんだ」などと述べて喧嘩両成敗に持ち込もうとするものです。明確な被害者の名誉と立場を守るためにも「明確な被害者から発信される情報の真偽」は慎重に調査する必要があります。

さらに、この発想においては「過剰防衛」や「防衛に便乗した加害行為」はそもそも想定外のものです。上掲コメントは「悪党の被害者は善人」という勧善懲悪・破邪顕正的な二項対立に凝り固まっています。しかし、人間はそんなに善良ではありません。「明確な被害者」が普段から相手方に恨みや不満をもっていて、相手方からの先制攻撃を奇貨として便乗して加害行為をすることは当然に考えられるものです。

「防衛に便乗した加害行為」はそれ自体新たな加害行為であり別問題として取り上げるべきものです。相手が悪党だからといって便乗した加害行為は許されないものだし、「明確な被害者」が悪党と同じレベルに堕するべきではありません。

いま、ウクライナ軍は、戦死したロシア兵の身元を顔認証で特定しその写真を母親に送りつけているといいます(「死んだロシア兵を顔認証で身元特定、その写真を母親に送りつけるウクライナ軍」 2022.4.19)。また、ウクライナ軍がロシア兵捕虜を無残に処刑する映像がネット上に流出しています(「ウクライナ軍がロシア兵捕虜を無残に処刑する映像がネット上に出回る 米有力紙が検証」4/11(月) 22:57配信 クーリエ・ジャポン)。さらに、戦死したロシア兵が持っていた遺品の携帯電話を拾ったウクライナ兵が、わざわざ戦死者の家族や友人に電話をかけてゲラゲラ笑いながら戦死事実を伝え罵ったというニュースが流れました(https://matomame.jp/user/yonepo665/b6a3b9197e3d20f4ae7a)。

これらが事実だとすれば、ウクライナ側の行為は「祖国防衛の大義」とはまったく無関係の「やりすぎ」でしかありません。案の定、日本世論はこれらのニュースにダンマリでした。「悪党の被害者は善人」という構図から外れるので処理できなかったのでしょう。ふだんは未確認情報でも大騒ぎするくせに! ちなみに、ウクライナ政府内で「ロシアのスパイ」とされた人物が銃殺(「やっぱりウクライナもソ連だな」と思わざるを得なかった)された件に至っては、「あの」アパ・グレンコ氏は「現時点で何とも言えない」などとして逃げている始末です(「ウクライナ出身の政治学者グレンコ氏 ウクライナ代表団メンバー射殺情報に「現時点で何とも言えない」」2022年3月7日 10:36)。

きょうは「子どもの日」。未来を担う子どもたちには、こんな大人にはならないで欲しい。悪にはその悪の程度に過不足なく合った適切な対応が出来る大人になって欲しいと切に願うものです。アンパンマンや戦隊モノは、小悪党・中悪党・大悪党の3段階くらい出演させて、悪の程度によって対応に差が出る描写をして欲しいと思います。ああいうのホント、子どもに見せられないですよ。
posted by 管理者 at 23:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする