2022年07月31日

一種の英雄崇拝としてのHIMARS待望論に縋る日本世論

ロシアのウクライナ侵攻の開始から5か月の月日が経過しました。

最近の戦況ニュースといえば、やはりHIMARSの供与・戦線投入でしょう。とはいえ、それほど盛り上がっているようには見えません。西側諸国からの兵器供与のなかでも特にインパクトの大きいニュースではあるものの、HIMARSについては早くからその効果と限界が指摘されています。たとえばフランスF2は7月12日づけ放送(日本ではNHK「キャッチ! 世界のトップニュース」7月13日午前で放送)は次のように指摘していました。
ロシア軍はこれまでウクライナ軍の手の届かない場所で大きな弾薬庫を管理することができていましたが、今後は弾薬をひとつの場所に置いておけず、分散させなくてはなりません。ロシア軍にとって兵站面では非常に困難な状況になるでしょう(中略)これにより力の均衡が取り戻され、ウクライナ側の反撃が決定的なものになるでしょう。しかしこれだけで勝利をもたらすことは難しく、多くの軍事専門家はウクライナとロシアが将来的に交渉せざるを得ないだろうと見ています。
より分かりやすい解説が、ヤフコメではありますが「ロシアの進軍を止める?最強兵器「ハイマース」」(7/26(火) 19:22配信 ニューズウィーク日本版)でツッコミ的に、次のように投稿されています。
一局面に過ぎません。

射程が長く精密に攻撃できるという事は、攻撃のために接近する必要がないことを意味しますから、厳重に守られた重要目標を優先的に攻撃してるのでしょう。

しかし反攻ともなれば、間接射撃にばかりは頼れません。なぜなら、敵を駆逐して奪還した地点を防衛しなければならないためです。敵を蹴散らした空白地域に素早く展開して防戦するためには、歩兵の他に多数の戦車が必要になります。武器弾薬だけでなく、地形や周到に準備されたトラップなどを活かせたこれまでの戦いとは違い、ひらけた場所を反撃覚悟で突入しなければなりません。ウクライナ軍も激しく消耗することになるでしょう。

戦いはこれからが正念場です。
もとよりHIMARSは阻止砲撃用の兵器であり、実際には長距離砲として運用されているところですが、南部奪還となればそういう戦い方だけで済むものではありません。いまロシア軍は優勢な火力でウクライナ軍を圧倒していますが、しかしながら占領地を拡大できていません。撃ち合いだけでは戦争にはならないのです。

また、弾薬の在庫と供給の問題もあります。「撃ち合いでロシア軍を圧倒できるほど、HIMARS用のロケットに在庫はあるのかな?」という疑問です。
https://grandfleet.info/european-region/the-155th-day-of-the-battle-in-ukraine-raises-the-issue-of-ammunition-supply-for-himars/
2022.07.28
155日を迎えたウクライナでの戦い、HIMARS用弾薬の供給問題が浮上

(中略)
HIMARSで使用するGMLRS弾(GPS誘導のロケット弾)供給問題が浮上しており、南部戦線の反攻でHIMARSの役割は限定的になる可能性が出てきた。

米軍備蓄にGMLRS弾が幾らあるのか不明だが、2021会計年度以前に米軍は計5万発のHIMARS用弾薬(訓練弾のM28、GPS誘導のM31、射程拡張タイプのERを含むGMLRS弾+ATACMS弾の合計)を購入していることだけは確認されており、2022会計年度以降は年間3,000発〜5,000発の調達しか予定(2027会計年度までに約2万発)されておらず、仮にウクライナ軍が16輌のHIMARSで1日2回攻撃を実施すれば1ヶ月で5,760発(1輌6発×2回=12発×16輌=192発×30日=5,760発)のGMLRS弾を消費する。

この量は今後5年間に米軍が調達するHIMARS用弾薬の約29%に相当、さらに2021会計年度以前に受け取った計5万発のHIMARS用弾薬のうち約2万発をイラクとアフガニスタンで消費したという指摘もあり、このままのペースでウクライナ軍がGMLRS弾を消費すると中国など他の脅威に備えることが難しく、1日あたり消費量を48発(1輌のHIMARSが3発×16輌)に抑えれば「2023年までは弾薬不足に陥らない」と米ディフェンスメディアが試算している。

因みにGMLRS弾の年間最大生産量は約1万発で、ロッキード・マーティンは「要請さえあれば増産に対応する」と述べているものの直ぐに増産体制を整えるのは不可能(生産整備だけでなく構成部品の調達も課題)だと見られており、ウクライナが要求している100輌のHIMARS提供はランチャーの問題ではなくGMLRS弾の問題で(当面は)実現不可能なのだろう。
HIMARSは、いままでやられっ放しだったウクライナ軍に一定の抵抗能力を与える有益な兵器であり、このことは最終的にはウクライナにとって和平交渉においてプラスに働きうるとは言えるでしょう。しかし、HIMARSの戦線投入によって戦況が劇的に変化し、戦争が終わるとまでは言い難いでしょう

しかしながら、我らが日本世論は、HIMARSの戦線投入を「ゲームチェンジャー」などと囃し立てています
https://news.yahoo.co.jp/articles/9f6c98958276236c5d5db395bedeac42dce63527
ロシアの進軍を止める?最強兵器「ハイマース」
7/26(火) 19:22配信
ニューズウィーク日本版

<ロシア軍優勢だったウクライナ東部の戦況を一変させる「ゲームチェンジャー」の実力>
アメリカがウクライナに提供したM142高機動ロケット砲システム(HIMARS=ハイマース)は、射程の長さと、ロシア軍に深刻な打撃を与える能力の高さから、西側の軍事専門家たちからは戦況を一変させる「ゲームチェンジャー(戦況を一変させる兵器)」と呼ばれている。


(以下略)
読売新聞に至っては「南部ヘルソン奪還へ」などとかなり飛ばしています
https://news.yahoo.co.jp/articles/a0cd69f6268742b28068d054ae8bdcb0344ca08f
ロシア軍が占拠する南部ヘルソン奪還へ、ウクライナが攻勢強化
7/28(木) 23:52配信
読売新聞オンライン

 【キーウ=森井雄一】ロシア軍が占拠するウクライナ南部ヘルソンを巡り、ウクライナ側が反撃を強めている。ヘルソンを含むヘルソン州など南部2州では、ロシアが9月にも住民投票を実施し、「圧倒的な民意」を演出して支配を正当化する恐れが高まっているためだ。露軍も対抗し、戦力を補強している模様だ。

(以下略)
かつてヒトラーはV2ミサイルの投入に固執したものでした。ヒトラーは明らかに英雄崇拝思考の持ち主でしたが、奴のゲームチェンジャー・決戦兵器待望論は、単に敗色濃厚の戦況において一発逆転を期していた以上に、そもそもそういう考え方の持ち主だったとも考えられるでしょう。

我らが日本世論も、以前から指摘しているように、大河ドラマのような英雄豪傑物語を非常に好む傾向から言って一種の英雄崇拝があるものと考えられます。日本世論がゲームチェンジャー・決戦兵器に期待をかけ沸き立つのは、ヒトラーのV2固執と瓜二つヒトラー的英雄崇拝の精神は現代日本にも脈々と受け継がれているようです。

フランスF2の7月4日づけ放送(日本ではNHK「キャッチ! 世界のトップニュース」7月5日午前で放送)によると、現在ウクライナ軍は1930年代・40年代に製造された「骨董品と言うべき」(番組の表現)銃器も使って戦っているとのこと。「ロシア兵が持つ武器とは比べ物にならない」「これでは身を守れない」「武器だけではなく当時のサイドカーも現役」という苦しい状況にあるようです。以前、ロシア軍がT62戦車を投入していることについてイギリス国防省は「近代装備が不足している現状を表している」などと「分析」しました(「ロシア軍、50年前の戦車配備か 英分析「近代装備が不足」」5/27(金) 18:51配信 共同通信)が、ウクライナ軍の苦境は「それどころではない」ということになります。

「国際世論」がHIMARS供与のニュースにはしゃぎ回り、実際に戦果を挙げているその瞬間、方や歩兵たちはDP28やPM1910までも持ち出して戦っています。また、少し前にウクライナ軍の損耗率が最大50パーセントに上るというニュースが世界を揺るがせました(損耗率が最大50パーセントは、正規軍としての組織的戦闘能力を失っているという意味で「全滅」レベル)が、まだその損失の穴埋めが完了したというニュースは報じられていません。武器は輸入によって比較的容易に補充できても戦闘員の補充は困難です。これで「南部ヘルソン奪還へ」は飛ばしすぎでしょう

以前から述べているように私は「今日のウクライナ情勢は、明日の台湾・沖縄有事」という見方はある意味において正しいものと考えています。将来的な台湾・沖縄有事において展開されるであろうプロパガンダの基本的な骨格部分が既に見られているからです。その線で考えると、台湾・沖縄有事においてアメリカなどは日本に各種の大型で強力な兵器を供与し、それを受けて日本メディアは大々的な戦意高揚のプロパガンダキャンペーンを展開するでしょう。しかしその一方で、歩兵は非常に劣悪な環境に置かれるかもしれません

また最近、ほとんど怪文書というべき「プーチン健康不安説」「プーチン政権弱体化説」が再び登場するようになってきました。
「クレムリンの殺し屋」プーチンに相応しい最期は近付いている…MI6などが分析」(7/23(土) 17:16配信 ニューズウィーク日本版)
プーチン政権の弱体化が始まった」(7/25(月) 17:32配信 ニューズウィーク日本版)

プーチン政権の不安定性に関する議論は、すでに5月ごろまでには「安定的」という結論で決着していたはずですが、特段新しい論点もなくまた出てきたわけです。プーチン大統領個人の健康問題については、アメリカCIA長官が「プーチン氏の健康については多くの噂があるが、我々が知る限りプーチン氏は全くもって健康だ」と述べた(「プーチン大統領は「全く健康」 米CIA長官が病気説を否定」7/22(金) 4:49配信 CNN.co.jp)ばかりです。これらは、いったいどこから出てきた情報なのでしょうか? かなり「願望込み」の見立てと言わざるを得ないものです。景気のいいことを言ってはいるものの、依然として願望に縋りたくなるような戦況ということなのでしょう

ところで奇妙なのは、うわ言のように「ウクライナ軍の反転攻勢」を繰り返していたNHK、ルガンスク州陥落直前までウクライナ軍の一時的・局地的な前進を「反転攻勢だ!」などと願望込み込みで触れまわっていたNHKが、HIMARSの活躍に対してあまり盛り上がっていないことです。

6月26日のニュース7の時点では、ウクライナ軍の文字通り「大本営発表」を引いて「HIMARSが実戦投入されて標的に命中した」「西側の武器供給を受けて反転攻勢につなげたい」といった具合に景気の良い報道をしていました。供与されたHIMARSの台数に結局触れずじまい(たった数台のHIMARSでは広大な戦線で反転攻勢はできない)だったあたり、希望を抱かせる断片的情報に飛びついたのでしょう。

しかしその後、特に7月に入ってからというもの、そもそもウクライナ情勢に割く時間そのものが激減しています。開戦5か月になる7月24日のニュース7では、ウクライナ情勢は番組中盤以降で取り上げられるに留まりました。翌25日(月曜日)のニュースウォッチ9に至っては、ウクライナについてほとんど触れずじまい。開戦4か月の6月24日の同番組で、小泉悠氏を招いて「ウクライナ情勢に関心を持とう」「暴力による現状変更の試みに対しては、私たち自身がステークホルダーなんだ!」などと熱心に啓蒙していたのは一体何だったのかというくらいの静観でした。

ロシア国民の戦争への関心が低下しているというニュースが少し前に報じられたところ(「「現地に知人いない」ウクライナ侵攻 ロシア国民の関心低下 若者は34% 兵士死者の多くが少数民族や地方出身者」7/25(月) 18:35配信 TBS NEWS DIG Powered by JNN)ですが、日本世論の関心の低下は「それどころではない」のかもしれません。いくらニュース7やニュースウォッチ9といった「国策報道番組」でも、視聴者が関心を持っていない話題を重要ニュースとして長時間を割いて放送できなくなってきたのでしょう
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2022年07月29日

共和国のドネツク・ルガンスク両人民共和国承認は、ウクライナが分断国家化する見通しであるということ

https://chosonsinbo.com/jp/2022/07/22-79/
ドンバス地域の独立国家承認、朝鮮の正当な主権行使
2022.07.22 (07:47)
主要ニュース,共和国,対外関係

正しい歴史認識、自決権原則に沿った決定
朝鮮政府は7月13日、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の独立を認めることを決定し、自主・平和・親善の理念に従って、これらの国々と国家関係を発展させる意思を表明した。ウクライナは「ロシアが一時的に占領している領土の独立を認めた」として、朝鮮との断交を宣言したが、「これまで米国の朝鮮敵視政策に同調し、国家関係で公正性と正義が欠如した行為を繰り返したウクライナは、朝鮮の正当な主権行使に難癖をつける権利も資格もない」(外務省スポークスマン)と一蹴した。

ウクライナ紛争の起点
自主の旗印を掲げ、国際社会で反帝反米のための共同闘争を先導する朝鮮は、正しい歴史認識と人々の平等権及び自決権原則の尊重に基づいて今回の決定を下した。

ロシア系住民が多く住むウクライナのドネツク州とルガンスク州で投票によって「人民共和国」の独立が宣言されたのは8年前だ。今日のウクライナ紛争の火種が生まれたのもまさにその年だ。

2014年、米国の工作によってウクライナで政権転覆が起きた。 「革命」の美名の下にロシアを敵視する親米傀儡政権が登場し、国内の親ロシア勢力を弾圧と迫害の対象にすると、クリミア半島の人々(90%がロシア系住民)は投票を通じて独立を宣言、ロシアは住民の意向に従ってクリミア半島を併合した。ロシアと国境を接するウクライナの東部、ドンバス地域の二つの州で独立が宣言されたのはその直後であった。

(中略)
「米国の衛星国家からの独立」
ロシアはミンスク合意が履行されることを望み、両共和国の独立を公式に認めることを先送りしてきた、2021年に発足したバイデン政権は、ウクライナのゼレンスキー政権を煽ってドンバス内戦をさらに激化させ、今年に入りロシア系住民たちに対する迫害と攻撃は見過ごせない段階に至った。結局、プーチン大統領は両共和国の独立を承認し、その国の指導者たちと共に「友好協力および相互支援協定」に署名した。彼が協定に基づく集団的自衛権の発動により「特別軍事作戦」を開始すると発表したのが2022年2月24日だ。

(中略)
朝鮮は「ウクライナ事態の根源は、他の国々に対して強権と横暴をはたらく米国と西側の覇権主義政策にある」(外務省スポークスマン)との見解を示し、敵対勢力の政治軍事的脅威を根源的に取り除き、国の尊厳と平和、安全を守るための人々の闘いに連帯の意を表してきた。ドンバスの両共和国と外交関係を結ぶ決定も、こうした見解と立場に基づいている。

朝鮮の今回の決定には、自主の原則が貫徹されている。それについてドネツク人民共和国の指導者が「私たちにとって一つの外交的勝利」と意義を強調し、ルガンスク人民共和国の外務大臣が「ナチスの侵略と米国の衛星国家からの独立のために戦う私たちに対する支持」と歓迎したのは偶然ではない。

(金志永)
http://www.mfa.gov.kp/view/article/15509
주권국가의 정당한 선택
2022.7.26.

이미 보도된바와 같이 지난 13일 조선민주주의인민공화국은 도네쯔크인민공화국과 루간스크인민공화국의 독립을 인정하기로 결정하였으며 자주, 평화, 친선의 리념에 따라 이 나라들과 국가관계를 발전시켜나갈 의사를 표명하였다.

우리 공화국이 돈바쓰지역공화국들의 독립을 인정하였다는 소식이 발표되자마자 따쓰, TV 로씨야24를 비롯한 로씨야의 많은 언론들이 이에 대해 대서특필하였으며 정계와 학계, 사회계에서는 우리의 이번 조치를 주권국가의 자주적인 결정으로 지지하는 목소리가 높이 울려나왔다.

로씨야련방공산당 중앙위원회 위원장은 도네쯔크인민공화국과 루간스크인민공화국의 독립인정에 관한 조선의 결정을 환영하며 머지 않아 다른 나라들도 조선의 모범을 본받을것이라고 언명하였다.

련방평의회 국제문제위원회 제1부위원장을 비롯한 국회의 고위인물들은 조선이 취한 조치는 로씨야에 있어서 커다란 고무로 된다고 하면서 어려울 때 진정한 벗을 알수 있는것처럼 돈바쓰지역공화국들의 주권을 인정한 조선이야말로 로씨야의 진정한 친구라고 찬양하였다.

로씨야의 각계인사들도 《조선은 자기의 자주권을 어떻게 지켜야 하는가를 보여준 본보기나라》, 《세계의 또다른 지정학적중심인 조선의 이번 조치는 미국의 패권주의에 대한 대답》 등의 평가들을 내놓으면서 우리의 이번 조치를 자주적인 대외정책을 실시하는 주권국가의 정정당당한 선택으로 된다는데 대해 두드러지게 강조하였다.

특히 주조 로씨야대사는 조선은 신나치스정부를 반대하는 돈바쓰지역인민들의 투쟁을 정의로운것으로, 끼예브정권은 우크라이나인민들의 피의 대가로 로씨야를 압박하면서 저들의 지정학적문제를 해결하는 워싱톤의 꼭두각시로 간주하고있으며 이로부터 돈바쓰지역공화국들의 독립을 인정하였다고 언명하였다.

이것은 우리 공화국의 반제자주적인 대외정책의 정당성과 생활력에 대한 지지와 찬탄의 목소리가 날로 높아가고있는것을 실증해준다.

우리는 앞으로도 공화국의 자주권을 존중하는 세계 모든 나라들과의 친선관계를 강화하고 진정한 국제적정의를 실현하기 위해 적극 노력해나갈것이다.(끝)
共和国政府がドネツク・ルガンスク両人民共和国を承認するに至った理屈は分かったのですが、このタイミングになった理由が依然として謎に包まれています。この理由であれば、両人民共和国が独立を宣言した8年前に即承認してもよかったはずだし、ロシアが承認したのと同時期に承認してもよかったはず。開戦から5か月弱という微妙なタイミング、シリアに次いで承認したそのタイミングには、いったいどのような意味合いがあるのでしょうか?

共和国はこの戦争の結果を見通したのでしょう。すなわち、ウクライナの分断国家化です。ドネツク・ルガンスク両人民共和国を承認すればキエフ政権から国交を断絶されるであろうことは、非常に容易に想像できることです。それを敢えて行ったということは、一方においてドネツク・ルガンスク両人民共和国がキエフ政権から独立して存続し得る見通しが立ち、他方においてキエフ政権が完全なる従米国家に成り下がり、共和国にとって付き合っていても何の道理も利もないという見通しが立ったものと思われます。

また、この戦争の結果を超えたより遠大な歴史的見通しとして、米ロ対決構図においてロシア側につくことが自国にとって政治・思想的な道理においても地政学的国益・利益においてもプラスであるという見通しも立ったのでしょう。

それにしても、トランプ政権時代の朝米接近は今や昔。バイデン政権の稚拙な外交施策によって朝米関係は著しく悪化しました。6月25日の祖国解放戦争開戦日における反米集会が今年数年ぶりに開催されました。また、一昨日7月27日の戦勝記念日において元帥様は近年稀にみる語気の強さで対米対南批判を展開されました。

朝鮮半島においてもウクライナにおいてもアフガニスタンにおいても「センスがない」としか言いようがないバイデン政権です。そして、バイデン政権と、従米を超えて「崇米」というべきレベルのユン「政権」、核保有国である共和国を相手にしている自覚があるようには見えない・事の重大性を十分に理解しているとは思えないユン「政権」とのコンビは、ギリギリの瀬戸際において高度な理性・合理性が求められる現代の国際社会における不安定要素・リスクであるという他ありません
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2022年07月26日

敵が悪いのは当たり前

https://news.yahoo.co.jp/articles/d30ae2df09ce3674c6f36b14c96855047036a8c3
ゼレンスキー氏、失地回復なしの停戦応じず
7/23(土) 8:52配信
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版

 【キーウ(キエフ)】ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は22日、ロシアが2月の侵攻後に占領したウクライナ領土を支配し続ける形での停戦はさらなる紛争拡大を招き、ロシアに次の作戦に向けて軍の立て直しを図る絶好の機会を与えることになると危機感を示した。首都キーウの大統領府でウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のインタビューに応じた。

(以下略)
開戦以来ゼレンスキー・ウクライナ大統領の発言は頻繁に報じられてきましたが、彼の勇ましい発言は、政治家・最高指導者としては異例的に、「現実的可能性に基づいている」というよりも「自分自身の願望に基づいている」ように見受けられます。私自身「大統領がそう言うからには、そうなる段取りが確立して実現する見通しが立ったのだろう」と思わされてきたことが幾度あったことか。「6月にウクライナ軍の反撃大攻勢がある」説に至っては、「大山鳴動して鼠一匹」どころか「大山鳴動して何も起こらず」に終わりました。

そして彼が失地回復なしの停戦に応じないなどと「大義」に照らして述べている間にもロシア軍の攻撃によりウクライナの軍民、とりわけ民間人は死傷を続けていますが、これについてゼレンスキー氏といえば「ロシアがテロ国家であることがますます明らかになった」といった調子で非難する様子ばかりが報じられています。。

たしかに民間人を標的にしていると言わざるを得ない攻撃を仕掛けた時点で「ロシアはテロ国家である」とは言えるでしょう。しかし、テロリストから自国民を守ることは為政者の義務であるはず。「ロシアがテロ行為を続けているという現実の前にゼレンスキー政権は一体何をしているのか」という疑問が湧いてこざるを得ません。

もっとも、我々日本に住む者はゼレンスキー氏の発言すべてを完全に確認しているわけではありません。開戦当初はトップニュースで報じていたNHKの「ニュース7」や「ニュースウォッチ9」がウクライナ情勢に割く時間は激減しています。勇ましい発言部分・ロシア非難部分だけを「切り取って」報じている可能性は十分にあります。

ロシア軍の攻撃によってウクライナ人の生活は破壊され続けています。ここにおいてウクライナの大統領が「失地回復」ばかりに注目しているようであれば、国内から不満が噴出してしまうでしょう。そう考えると、まったく裏取りはしていませんが、おそらくゼレンスキー大統領の発言は日本メディアの手によって「切り取られている」ものと思われます。

そう考えると、おそらく編集され切り取られたゼレンスキー氏の勇ましい発言部分を真に受け、「そうだ失地回復だ!」などと賞賛する日本世論。民間人の被害は「ロシアが悪い!」で終わらせている日本世論。まったくおめでたいことこの上ありません。

以前にも述べたとおり、「今日のウクライナ有事は、明日の台湾・沖縄有事」であるという指摘はある意味で正しいと私は考えています。台湾・沖縄有事において展開されるであろうプロパガンダの基本的枠組みが、今日のウクライナ報道で既に見られているからです。「大義」を優先し、それによって発生する国民生活の被害は「敵が悪い」と述べるにとどまる・・・「敵が悪いのは当たり前。日本国民を守る責務は日本政府にある」という基本原理に見向きもしないという「未来」が見えてきます
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2022年07月15日

共和国がドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国を承認

http://www.kcna.kp/jp/article/q/6fdb24c01994aa0921a262e0ae4483851cfd6beecb3161b69e582ab5b8ecfeda34b7adf62449b32f86c47ee21ebb2777.kcmsf
朝鮮がドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国を公式認定
【平壌7月14日発朝鮮中央通信】朝鮮民主主義人民共和国の外相が、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の両外相に13日、書簡を送った。

外相は書簡で、朝鮮民主主義人民共和国政府がドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の独立を認定することを決定したことについて通報し、自主、平和、親善の理念に従って両国と国家関係を発展させていくという意思を表明した。−−−

www.kcna.kp (チュチェ111.7.14.)

http://www.kcna.kp/jp/article/q/51d4da4e6c8159ce0b1516913c38823f.kcmsf
朝鮮外務省代弁人の回答
【平壌7月15日発朝鮮中央通信】朝鮮民主主義人民共和国外務省のスポークスマンは、わが国がドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の独立を認定したことで15日、朝鮮中央通信社記者の質問に次のように答えた。

既報のように、13日、朝鮮民主主義人民共和国はドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の独立を認定することを決定し、自主、平和、親善の理念に基づいてこれらの国と国家関係を発展させていく意思を表明した。

人民の平等権および自決権原則の尊重に基づいて国家間の友好関係を発展させるのは、国連憲章の目的と原則に明らかにされている主権国家の固有で合法的な権利である。

かつて、米国の不当で不法な対朝鮮敵視政策に積極的に同調して国家間の関係において公正さと正義に甚しく欠ける行為を働いたウクライナは、朝鮮民主主義人民共和国の正当な主権行使についてけなす権利や資格もない。

われわれは今後も、主権平等と内政不干渉、相互尊重の原則に基づいて朝鮮民主主義人民共和国の自主権を尊重し、友好的に接する世界の全ての国と友好と協力のきずなを強化し、発展させていくであろう。−−−

www.kcna.kp (チュチェ111.7.15.)
かつて、米国の不当で不法な対朝鮮敵視政策に積極的に同調して国家間の関係において公正さと正義に甚しく欠ける行為を働いたウクライナは、朝鮮民主主義人民共和国の正当な主権行使についてけなす権利や資格もない」――共和国にしてみれば「アメリカ帝国の対共和国敵対・封鎖・圧殺政策に同調しておいて、自分たちがロシア帝国に押し潰されそうになるや否や何を言っているんだ」といったところなのでしょう。

大国間の力関係を機敏に察知し、絶妙なバランス感覚を発揮して現代国際社会の修羅場を潜り抜けてきた共和国が、このタイミングでドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国を国家承認した意味合いに注目すべきでしょう。

ところで、関連記事である「北朝鮮 親ロシア派勢力“独立”を承認 ウクライナは断交を宣言」(7/14(木) 11:44配信 テレビ朝日系(ANN))のコメント欄に興味深い書き込みが。
実のところ、ウクライナは旧ソ連時代から現代までを通じて、親日だったことは一度もなく、むしろ日本に対しては敵対していました。北朝鮮のミサイル技術は、主にウクライナとロシアの技術供与で作られ、ノドンやテポドンがここ何年にもわたって日本の安全を脅かし続けています。

また、中国最初の空母である”遼寧”の前身となる退役艦を、中国政府がバックについている中国企業に売り渡したのもウクライナイです。

ロシアに侵攻されてから、ウクライナに対して日本も莫大な援助を与えたり、難民を受け入れたりしていますが、国としてまったく感謝されることもなく、ウクライナ政府の公式HPには、昭和天皇がヒトラーと並ぶ”戦犯”として、侵略の象徴として掲載されたことは記憶に新しいです。

ロシアに侵略された国ではありますが、親日でない国に対する無条件の援助や難民の受け入れは、国益を考えるともっと冷静になるべきだと思います。
「難民の人権よりも自国の国益」の日本世論が、ことウクライナに限っては全面支持という非常に奇怪な現象が続いていますが、単に事態を総合的に把握・理解していないだけなんでしょうね。
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2022年07月14日

日本人こそ「大したことない」と甘く見てはならない

https://news.yahoo.co.jp/articles/64d0b8d246b12121c793c103d7745c0ddfd88a20
賞味期限切れのパン、大雨で缶詰めの乗客に配布…下車した乗客から電話で指摘
7/14(木) 11:49配信

(中略)
 同支社は年度に1回保存食を確認し、賞味期限が迫ったら廃棄することにしていた。缶詰パンが入った段ボールに賞味期限が書かれた紙が貼ってあったが、確認していなかったという。
(以下略)
内規で定期的に確認し、基準に引っかかったものは処分すべきものがそのままになっていた・・・この事象自体は大したことがないにしても、ハインリッヒの法則を踏まえれば管理体制を問い直さなければならないでしょう。

しかし・・・コメ欄。
井出留美
食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
確かに管理をしっかりしていなかったJR東日本は落ち度があったと思います。ただ今回の場合、5日以内の日持ちの食品に表示される消費期限とは異なり、おいしさの目安である賞味期限が過ぎていたという話です。
(中略)
自然災害の影響でやむを得ず臨時停車し、飲食物がない乗客に善意で配ったJR東日本。あたかも「品質が切れた食品」を配ったかのようにとらえる消費者は勉強不足。「賞味期限=品質期限」であるかのように誤解を与えかねないのでわざわざ報じる価値はないと考えます。
健康被害の土俵や、日本世論にありがちな「善意」の土俵に限られる非常に部分的・表層的な理解です。とんでもない! そういう問題ではないのです。

鉄道マンはハインリッヒの法則に敏感です。一つ一つは「大したことない」ことでも、厳密・厳格に執行する職場文化を醸成しないと、ゆくゆくは取り返しのつかない大事故の主体面での原因につながるのです。

ところで、妥協と失敗を許さない作り込み型の職人的完璧主義が、低賃金低成長の時代にあって持続不可能になりつつある中、近頃日本世論では、その反動の流れが見られつつあります。もっと「いい加減」にしてよいのではないかという主張です。そしてそれを容認することが「寛容さ」の現れだとする、論点を道徳問題化する主張が見られつつあります。

しかしながら、仕事の質を「いい加減」にするためには、力を入れるべきところと力を抜くべきところを見極める能力が絶対的に不可欠です。昨年9月18日づけ「「アジャイル推し」と「45歳定年制」の導入でシステムとしての会社は機能低下・機能不全に陥る」でも述べたとおり、簡潔設計と大量生産を得意とするロシア人がそうできているように、「基幹」や「主系統」といった発想・樹形図的な整理の能力が欠かせません

作り込み型の職人的完璧主義は、こうした発想・能力は必ずしも必要とはされません。すべてにおいて妥協と失敗を許さない・すべてに対して全力投球を要求されるだから、何が基幹・主系統なのかを見極める必要はないのです。作り込み型の職人的完璧主義の社会においては「いい加減」が鍛えられる機会は乏しいと考えられます

日本が作り込み型の職人的完璧主義の社会であればこそ、つまり、何が基幹・主系統なのかを見極めて「いい加減」にする能力のない人たちの集合体であればこそ、「大したことない」と甘く見てはならないでしょう。
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2022年07月11日

日本政治の停滞の時代

https://news.yahoo.co.jp/articles/1636c5fefeb665a7e8123852eadde359f22a6b3f
国民民主党、実は人気を伸ばしていた?自民・公明は微減、立民は大幅マイナス...参院選「党派別得票率」を見る
7/11(月) 12:44配信
ハフポスト日本版

参議院議員選挙は7月10日に投開票され、憲法改正に前向きな自民・公明・維新・国民の4政党の議席が全体の3分の2を超える177議席に到達。与党勝利が大々的に伝えられる結果となった。

一方で、2021年10月31日に実施された衆議院議員選挙と、今回の参院選で、政党や政治団体などに票を投じる比例代表の得票を見ていくと、違った傾向も見えてくる。

(以下略)
だーかーらー、政権選択選挙である衆議院選挙と、そうではない参議院選挙を単純比較しちゃいけないっての! 政権選択選挙であるか否かによって有権者の投票意識・投票行動は変わり得るのだから! もし、衆議院選挙の得票率と参議院選挙の得票率とを比較するのならば、その質的差異を補正するウェイト付けが必要なの! 異なる投票率の選挙どうしの得票数比較で前進後退を論ずる一昔前の日本共産党よりはマシですが、依然として統計学の初歩も理解していない酷い記事です。

というわけで、今回参議院選挙の各党比例得票率と前回参議院選挙の各党比例得票率との比較で記事を書き換えると次のようになるでしょう。なお、今回参議院選挙の各党比例得票率は上掲記事から、前回参議院選挙の各党比例得票率はウィキペディア記載からです。前者が得票率の小数点第2位を四捨五入しているので、それにならって後者記述も小数点第2位を四捨五入します。

自由民主党
2019参院選:35.4%
2022参院選:34.4%
増減:マイナス1.0%

公明党
2019参院選:13.1%
2022参院選:11.7%
増減:マイナス1.4%

立憲民主党
2019参院選:15.8%
2022参院選:12.8%
増減:マイナス3.0%

日本維新の会
2019参院選:9.8%
2022参院選:14.8%
増減:プラス5%

日本共産党
2019参院選:9.0%
2022参院選:6.8%
増減:マイナス2.2%

国民民主党
2019参院選:7.0%
2022参院選:6.0%
増減:マイナス1.0%

れいわ新選組
2019参院選:4.6%
2022参院選:4.4%
増減:マイナス0.2%

参政党
2019参院選:-(擁立せず)
2022参院選:3.3%
増減:比較不可

社民党
2019参院選:2.1%
2022参院選:2.4%
増減:プラス0.3%

NHK党
2019参院選:2.0%
2022参院選:2.4%
増減:プラス0.4%

つまるところ、自民・公明・立憲・共産及び国民民主党といった既成政党が減らしつつも維新・参政・NHKといった新興勢力、および何故か社民が前進しているわけです。左右の区分で言えば、自民・公明及び国民民主党の減少分ブラスアルファを維新が吸収し、れいわの減少分がほぼ社民党に移ったと言えるでしょう。日本共産党の比例得票率マイナス2.2%は左翼陣営で吸収しきれるものではないので、総体的には左翼陣営の後退と言い得るでしょうが、そうはいってもマイナス2.2%。総体的に見てそれほど大きな変動であるとは言えなさそうです。左右陣営内部での票の左右にとどまり、陣営を跨いだ「転向票」はそれほど多いとは言えなさそうです。

ウクライナ情勢も安倍氏追悼もほぼ無関係。新自由主義的な維新が躍進するわけでも化石左翼政党が壊滅するわけでもなかった今回の参議院選挙。停滞の時代です。
ラベル:メディア 政治
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2022年07月10日

ブルジョア的ではない博愛主義の模索へ

https://news.yahoo.co.jp/articles/21854f8e09b76e4f3d130a27704293671045912a
安倍元首相暗殺は“令和の「5・15」「2・26」”になるのか――専門家が容疑者の“英雄化”を懸念
7/9(土) 20:48配信
SmartFLASH

「現時点で、この事件をどう捉えるかは難しいですが、ひとつには代表制民主主義への不信感があると考えます」

 と語るのは、『小泉政権』などの著書があり、比較政治が専門の東京大学・内山融教授だ。

 7月8日に起きた安倍晋三元首相の銃殺事件。発砲した山上徹也容疑者ははその場で取り押さえられ、逮捕された。

「世界的に、既成政党への不満から過激な発言をするリーダーに期待を託すというポピュリズムが台頭しています。トランプ現象もその典型です。

 トランプが犯した最大の罪というのは、民主主義を支える基本的な約束ごとや規範を壊してしまったこと。民主主義というのはお互いに血を流すのではなくて、票をめぐって、選挙で戦う仕組みです。『選挙で負けたら、その結果におとなしく従う』『自分が嫌う人物でも、相手の言論の自由は守る』といった、最低限のルールがあります。

 ところがトランプは、権力を使って相手の言論を封じこめたり、誹謗中傷をしたり、選挙で負けると議事堂襲撃を煽って抗おうとするなど、基本ルールを壊していきました。そうした動きが、日本でも広がるのが怖いですね。今回の事件が、日本の民主主義を支えるルールが壊れる“蟻の一穴“になってほしくありません」

 だが、内山教授の願いとは裏腹に、すでにネット上では、山上容疑者を「真の英雄」などと呼ぶ投稿が多数ある。もちろん、単なる炎上狙いの“戯言”であることも多いが、陰謀論などに触発されて、明らかに本気で、山上容疑者を称賛する声も出てきている。

「かつて『ジャパン・アズ・ナンバーワン』と言われていましたが、今の若い世代にとって、生まれたときから日本は凋落していました。そこへコロナの不安や物価高も加わり、閉塞感が強いのは間違いありません。でも、政治家は自分たちの声に耳を傾けてくれない。選挙では何も変わらないから、過激な手段に訴えようという流れが生まれてくると危険です。

 5・15事件や2・26事件が軍国主義へ進む岐路になったと言われるように、20年後、30年後に、今回の事件が日本の民主主義崩壊への一歩だったと、歴史家に位置づけられないことを願います」(内山氏)
安倍晋三元首相が銃撃され亡くなりました。お悔やみ申し上げます。
 
昨日からテレビ等ではこのニュースで持ち切りですが、ほとんどにおいて「暴力による言論封殺を許すな」や「民主主義への挑戦を許すな」といった体裁を取っています。安倍氏が今も政権与党に絶大な影響力をもつ元首相の現職国会議員であることを踏まえると理解できないことはない指摘ですが、どうも腑に落ちないのも率直なところです。

やはり「どんな理由があれ、人が人を殺すことは許されないことだ」というのが基本中の基本なのではないかと私は考えるのです。もちろん、テレビ等もそれは大前提としつつ「それプラス」として、人間・安倍晋三氏が同時に政治家・安倍晋三氏であることを以って「暴力による言論封殺を許すな」(※)や「民主主義への挑戦を許すな」と言っているのだとは思いますが、力点を置くところに違和感を感じざるを得ないのです。

※言論封殺と言論弾圧を混同・誤用している人が多くて残念。無職の山上容疑者が政権与党最大派閥領袖の安倍元首相の言論を「弾圧」できるわけないでしょw重要キーワードはさすがに誤用しないでほしい・・・

政治家である以前に人間である、この理解が大切だと私は考えています。私は生身の人間を重視すべきと考えます。

それゆえ、上掲内山融・東大教授の見解は、「政治家である以前に人間である」という理解、及び現時点で判明していることから考えるに、いくら何でも飛躍しすぎているように思えてなりません。

分析の論理が奇妙です。「かつて『ジャパン・アズ・ナンバーワン』と言われていましたが、今の若い世代にとって、生まれたときから日本は凋落していました。そこへコロナの不安や物価高も加わり、閉塞感が強いのは間違いありません」といいますが、「今の若い世代にとって、生まれたときから日本は凋落して」いたのなら、彼・彼女らは、閉塞感よりも「世の中そんなものだ」と考えるのではないでしょうか?

たとえば最近、日本では「マスクの外し時」が話題になっています。私を含むそれなりに齢を食った身:マスクなんて本当は冬に風邪を引いた時にするモノであり夏の盛りにするようなモノではないという観念を持っている身からすれば、新型コロナウイルスの特徴が分かってきたこのタイミングは「そろそろ潮時かもしれない」と思うに至るところです(とはいえ私は現状では、着けたり外したりする方が面倒なので、マスク着用を墨守しているところです)。しかし、聞くところによると小中学生など「マスク着用が当たり前」の環境で育ってきた世代は、医学的・科学的に感染リスクが低い場面でもノーマスクにかなり抵抗を感じているそうです。コロナ禍以前を知る世代にとってマスク着用は窮屈なイレギュラーな事案以外の何物でもありませんが、コロナ禍しか知らない・記憶にない世代にとってはマスク着用は当然のことで窮屈でも何でもないのです。

「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代を肌感覚として知っている内山教授からすれば、現状は閉塞感しかないのかも知れません。しかし、そういう時代を知らない世代からすれば、「そんなもんだ」としか感じないものと思われます。

こういう事件が起こるたびに学者が「分析」を展開するものですが、この手の「分析」に共通することは、当事者の主張や見解を無視して演繹的に話を展開するところにあると私は考えています。内山教授の分析には、山上容疑者の動機供述も「今の若い世代」の具体的な意見表明も一切出て来ず、ひたすらに内山教授の「ぼくが かんがえた・・・」だけが展開されています。この点においても、生身の人間を重視すべきと考えます

ところで、「政治家である以前に人間である、この理解が大切だ」としても、歴史を振り返るに暴力を用いることで時代の画期をなしたことが多々あったことも事実です。これらの歴史的事実とどのように向き合うべきなのでしょうか。民衆が話し合いを求めても一切それに応じない専制権力者はもとより、民主主義と単なる多数決主義を混同して少数派を無視して抑圧する多数派とはどのように接してゆけばよいのでしょうか。

このことを解決せずにただ「生命の貴重さ」を述べているだけでは、これは「ブルジョア博愛主義」と言われても仕方ないとは思います。私は現時点で、この壮大な歴史的評価を下せるほどの人物ではないことを率直に認めざるを得ません。それでも私は「政治家である以前に人間である、この理解が大切だ」という信念を、「ブルジョア博愛主義」と言われても維持したい。特に私が信奉する社会主義・共産主義界隈は歴史的に流血の事態を数多く経てきたので、真っ先に解決すべき問題であると言えます

社会主義・共産主義の最終的な目的は、マルクスの『フォイエルバッハ論』などを踏まえるに、生身の人間の重視にあると私は考えています。その根本根底に立ち返りたいと私は考えています。ブルジョア的ではない博愛主義を模索したい。引き続き思索を深めたいと思っています。
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2022年07月09日

フランスF2とNHKとのウクライナ報道比較から浮き彫りになった日本世論の深刻な現状

「世に倦む日日」が取り上げた、6月24日放送NHKワールドニュースから1週間以上の日にちが過ぎました(私は関連番組である「キャッチ! 世界のトップニュース」――BS1平日朝8時から、総合平日朝10時5分から――を録画して定点観察しています)。

フランスF2が、まだウクライナ政府統治下だった頃のリシチャンシクの親ロ派住民に対して行ったインタビューを同時翻訳しつつそのまま放送した当該番組。ロシア軍の接近をうけて住民を退避させようとウクライナ兵がシェルターを訪問したところ、親ロ派住民の鋭い敵意ゆえに緊迫した空気が流れる中で連発された「私たちを攻撃して子どもたちを殺しているのウクライナ軍」や「プーチン大統領の軍を待っている」、「ロシアは私たちの友人」、「彼らと一緒になりたい」といった発言。そして「彼らはロシア軍が街を砲撃しているとは思っていない」や「彼らはロシア軍が解放してくれることを望んでいる」というナレーション。

フランスF2をそのまま放送しただけとはいえ、日本メディアがあのようなインタビューを報じたことは極めて異例です。まずお目にかかることができない内容です。「挙国一致で侵略者と戦うウクライナの軍民」というのが開戦以来4か月間、日本人のウクライナ観として定着しきっているところです。とりわけNHKは、当ブログでも言及してきたとおり、「ウクライナ軍の反転攻勢」をうわ言のように繰り返し、些細な前進を針小棒大に報じてきました。いったいどういった風の吹き回しなのでしょうか?

ついにルガンスク州全体がロシア軍の手に落ち、次はドネツク州攻略かと目されています。ウクライナにとってはあまりにも痛い敗北です。NHKもついに現実に向き合う準備を始めたのでしょうか? 私はこの1週間、いつも以上に注意深くNHKの報道番組(キャッチ! 世界のトップニュース、正午のニュース、ニュース7、ニュースウオッチ9、国際報道2022)を録画して視聴してきました。

結論から言ってしまえば、「キャッチ! 世界のトップニュース」などがNHKの中で異端中の異端であると言えそうです。そして、同番組と比較すると他の日本国内向け放送は、分かりやすい対立構図に持ち込もうとするあまり「既定の型」に無理矢理押し込もうとして現実を上手く分析し切れていないことが浮き彫りになったように思われます。また、番組によって「分析」が矛盾しており支離滅裂になっています。各番組の編集者が別人どうしである上に、事実を事実として報じることよりも断片的事実を継ぎ接ぎして溜飲を下げることを優先しているからこその現象だと思われます。

■日本人好みの「分かりやすい対立構図化」が、むしろ現実の理解を妨げてしまっている
たとえば、問題のフランスF2のインタビューが放送された6月24日。この日はちょうど開戦4か月目の日でしたが、この日のニュース7はウクライナの民間人やウクライナ軍の損害にのみ焦点を当てて「日常は戻るのか」という構成を持ち出しました。ロシアについては「厳しい情報統制の中でも制裁への不満が燻っている」という観点からの報道にとどまりました。

一部報道によるとプーチン・ロシア大統領は国内強硬派の主戦論・好戦的言説にも頭を痛めているといいます(「高まる「タカ派」の声、プーチンが追い込まれている」)。しかし、「プーチン個人の戦争」という構図に合わないからか開戦から4か月たっても日本メディアはこのことになかなか触れようとせず、このように「制裁への不満が燻っている」と繰り返し続けています。同日のニュースウォッチ9も同様の見方を繰り返すにとどまりました。既定の型に当て嵌まる断片的事実を継ぎ接ぎするスタイルではフランスF2が取り上げたような声が報じられるはずもありません

また、先週は一方でG7サミット及びNATO首脳会議があり、他方でプーチン・ロシア大統領が中央アジア諸国を歴訪するなど外交イベントが続く一週間でした。対立構図化を描くには好材料が豊富に転がっていました。6月27日正午のニュース及びニュース7は、プーチン大統領の中央アジア歴訪について「東側諸国の結束を強める狙いか」と「分析」しました。一体いつから中央アジアは「東側諸国」になったのでしょうか。タジキスタンやトルクメニスタンもいい迷惑でしょう。だいたい、ロシアは「孤立」していたのではなかったのか・・・

対立構図を分かりやすくするためにはキャラクターを単純明快にすることが大切ですが、そうなると話が薄っぺらくなるものです。フランスF2の報道が立体的・多角的であるのに比して、無理に対立構図に持ち込もうとするNHKの報道の平板さが際立ちます。

分かりやすい対立構図化は日本人そしてその親分であるアメリカ人が非常に好むものです。ことあるごとに対立構図を描いて現実を理解しようとします。そしてこのとき、善悪を対立軸に据えます。自陣営こそが善であり敵陣営が悪であることは自明の前提です。とりわけ日本人の場合は「自分は普通」という確固たる思い込みがあるので、敵陣営は悪であると同時に異常ということになります(この意味において日本人の「中流意識」と差別意識は表裏一体のものと私は考えていますが、それは別稿で)。

しかし、現実はそんなに簡単に割り切れるものではありません6月28日の「キャッチ! 世界のトップニュース」は、ドイツZDFの放送を取り上げました。現在、米欧諸国はアフリカ諸国などを自陣営に引き込もうと外交攻勢を強めているところですが、これに対して南アフリカの外相がZDFのインタビューに次のように答えていました。
ウクライナとロシアの戦争を招いた問題は10年以上も前からグローバルな議論のテーマでもありました。しかしアフリカはこういった席には一度も招かれていません。ですから突然に、こちらの方向性あるいはもう一方の方向性のどちらかを選びなさいと言われる筋合いはないのです
日本的対立構図では理解できない南ア外相発言。しかし彼・彼女らにとっては非常に率直な意見でしょう。世界は日本的な対立構図化で対応できるほど簡単にはできていないのです。

「キャッチ! 世界のトップニュース」はこの他にも6月27日に、スタジオでのNHK局員による解説として「戦争のコストの大きさが各国を追い詰め始めている」とも指摘しました。また、ウクライナからの穀物世輸出が滞っていることについて「G7以外では、この飢餓が欧米による対ロ制裁のせいだという見方が広がっている」とも指摘しました。さらに6月29日放送に至っては、新たなる対ロ制裁としての石油価格上限設定について、「そもそもそんなことができるのか制度設計が難しい」と指摘した上で「G7にしてみれば、経済制裁や戦争の影響で自分たちはかなり苦しい状況になっているのにロシアを追い詰められていないことに焦りもある」と言い切りました

「追い詰められているのはロシア」――これがこの4か月間の日本における標準的な理解でした。日米欧も決して楽ではないがロシアほどの苦境ではないと信じ切っていました。現実は「キャッチ! 世界のトップニュース」が報じていることに近いと私は考えます。実態としては西側諸国も焦っています。このことに目をつぶりロシアが一方的に追い詰められていると強弁している事実は、現実の理解を助けるために設定したはずの対立構図化に雁字搦めになってしまい、むしろ現実の理解を妨げられてしまっていることを示しています。

■「既定の型」に無理矢理押し込もうとして現実を歪めている
さて、6月27日にロシア軍はクレメンチュクにミサイル攻撃を仕掛けました。これにより市内のショッピングセンターに大きな被害が出るに至りました。

このことについて6月29日の「キャッチ! 世界のトップニュース」ではロシア国営放送の言い訳――ウクライナ軍施設を攻撃したところ、数百メートル離れた場所にある営業していないショッピングセンターに飛び火した――をまず流した後、スタジオで検証を行いました。被害を受けたショッピングセンター付近の監視カメラ画像や航空写真を時系列的に分析すると、ウクライナ軍施設とされる工場もミサイル攻撃を受けてはいるが、まずショッピングセンターに着弾した後に工場に着弾しているし、フランスF2の現地取材によるとショッピングセンターにミサイルの破片があったので「飛び火」とは言えない、そして、ショッピングセンターが営業していなかったという弁解についても、イギリスBBCがそれを反証していると指摘していました。また、6月30日の同番組は、イギリスBBCの「イギリスの国防省は、ロシアは別の場所を狙っていた可能性はあるとしていますが、実際に攻撃を受けたのはショッピングセンター」「ロシアはその結果を受け入れざるを得ないと考えているよう」を報じました。

これに対して6月29日のニュース7。ゼレンスキー・ウクライナ大統領らウクライナ政府側の「テロリスト」「計算された攻撃」発言に呼応してか、「キャッチ! 世界のトップニュース」も使った同じ航空写真のうちショッピングセンター付近のみ(ウクライナ軍施設とされる工場とショッピングセンターは数百メートル離れているようです)をズームした上で「ショッピングセンター以外に目立った攻撃の痕はない」とし、あたかもロシア軍がショッピングセンターを初めから狙って攻撃したかのように報じましたまさに「切り取り」です(ただ、これはさすがに露骨すぎるのでNHK内部でも異論が出たのか、ニュースウォッチ9や国際報道2022ではこのようなシーンはありませんでした)。

このようにNHKの日本国内向け放送は、分かりやすい対立構図に持ち込もうとするあまり「既定の型」に無理矢理押し込もうとして現実を歪めています

■それぞれの思惑で断片的事実を継ぎ接ぎしているため、番組によって「分析」が矛盾し支離滅裂になっている
続いて、番組によって「分析」が矛盾しており支離滅裂になっていることについて取り上げたいと思います。このことが典型的に現れているのが、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟申請についてでした。NHKの番組同士が「同士討ち」を展開しています。

6月30日のニュースウォッチ9は、トルクメニスタンでのプーチン大統領の「(フィンランドとスウェーデンのNATO加盟を)望むならご自由に。しかし軍の部隊やインフラが配備される場合は我々は鏡のように対応しなければならないことを明確に理解すべきだ」というインタビュー場面を引いた上で権平恒志・モスクワ支局長に「『NATOの拡大は脅威だ』と主張しウクライナに軍事侵攻した結果として、中立の立場を保ってきた北欧の二か国がNATO加盟に動き出したのはプーチン大統領にとって皮肉な誤算」と発言させました。

これに対して6月30日深夜の国際報道2022は、同じインタビュー場面を少し前から放映しました。すなわち、「ウクライナと抱えているような問題はフィンランドとスウェーデンとはない。望むならご自由に。しかし軍の部隊やインフラが配備される場合は我々は鏡のように対応しなければならないことを明確に理解すべきだ」と。ニュースウォッチ9は、非常に重要な一言がカットしていたのです。

プーチン大統領の開戦演説に立ち戻れば、たしかにNATOの拡大はロシアにとって脅威であることは間違いないのですが、いわゆる「歴史的ロシア」にNATOが駒を進めたことを非常に問題視していることが分かります。フィンランド・スウェーデンのNATO加盟とウクライナのNATO加盟は問題の質が根本的に異なるというわけです。もとよりロシアは核保有国なのだからフィンランド・スウェーデンがNATOに加盟したところで軍事的にはそう大きく情勢が変わるものではありません。

何とかして「プーチンは藪をつついて蛇を出した」「自業自得」という構図に持ち込みたかったのでしょう。インタビュー場面を切り取って印象操作を狙うニュースウォッチ9でしたが、こともあろうに同じNHKの国際報道2022がそれと矛盾する番組を作ってしまいました。事実を事実として報じることよりもそれぞれの思惑で断片的事実を継ぎ接ぎしているため、番組によって「分析」が矛盾し支離滅裂になってしまっているわけです。

同じ現象は7月1日のニュース7と同日のニュースウォッチ9でも展開されました。ニュース7ではまたしても「一部奪還 反転攻勢に」というテロップを出しました。何事かと思えばズミイヌイ島からのロシア軍撤退のことだそうです。あまりにも小さい事象を「反転攻勢」とは呆れる話です。他方、ニュースウォッチ9では、防衛研究所の高橋杉雄氏による「ウクライナが(ズミイヌイ島を)奪回したことで黒海の制海権をめぐる情勢が大きく変わることはない」という分析を放映しました。

ニュース7とニュースウォッチ9を両方とも見た視聴者も随分といたのではないでしょうか。「さっきと言っていることが違うぞ」と気が付く人も少なくなかったでしょう。断片的事実を継ぎ接ぎしているため、同じテレビ局なのに一貫性のない支離滅裂な分析になってしまっています

■総括
このようにNHKの日本国内向け放送は、分かりやすい対立構図に持ち込もうとするあまり「既定の型」に無理矢理押し込もうとして現実を上手く分析し切れていません。むしろ現実の理解を妨げてしまっています。また、事実を事実として報じることよりも断片的事実を継ぎ接ぎして溜飲を下げることを優先しているために、番組によって「分析」が矛盾しており支離滅裂になっています

このことは単なるマスコミの編集姿勢の問題に限ったものではなく、日本人が非常に好むモノの見方・考え方に根差しているものであり、その意味で日本世論の深刻な現状を示すものであると言えると考えます。

ウクライナ侵攻5カ月目…日本人は「戦争報道のインチキさ」今こそ検証を」(6/30(木) 6:01配信 ダイヤモンド・オンライン)という記事があります。「あの当時、マスコミが大騒ぎしていた「国際社会で孤立」や「中国とギクシャク」という話の方がインチキで、アメリカやEUの視点に基づいた「こうなったらいいのに」という願望を多分に含んだ戦争プロパガンダだった」や「「日本が世界の中心」という考えが日本人の認識をゆがめる」、「プロパガンダに乗せられやすい日本人は自ら窮地に陥る」といった非常に重要な指摘の連続です。単なるプロパガンダの問題としてではなく日本の社会意識に問題の根本があることを指摘しています。
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2022年07月03日

「当事者に委ねる」などと逃げるしかないニッポンの「弱小国」っぷり

4月7日づけ「民間人疎開にかかる橋下氏の主張の正当性が証明され、さらに事実上、世論動向が橋下氏の主張に近づき始めている」に先日、読者の方からコメントを頂戴したので返信しました。

※こちら側の都合で申し訳ないのですが、新規記事の投稿と過去記事の管理は別管理しております。場合によっては編集協力してもらっている同志らと相談しつつ、じっくり考えたいのです。そのため、頂戴したコメントへの反応が遅れることがあるのでご了承ください。

橋下徹氏といえば、今般のロシア・ウクライナ戦争をめぐって持論を精力的に発信されています。かつては「時代の風雲児」として時勢におもねるような形で伸し上がった橋下氏が、世論の反発を受けることを厭わず発信し続けています。

当該記事でも書いたとおり、4月にあったとされるキエフ郊外での民間人虐殺事件は、開戦初期(3月3日〜4日)に展開された橋下氏と「アパ学者」アンドリー・グレンコ氏との論争における橋下氏による主張の正当性を証明する形になりました。この論争については当ブログでは3月13日づけ「最悪の場合「ベルリン市街戦」に至る日本世論、歴史に学んでいるように見えて経験に学ぶ愚者たる日本世論」において取り上げました。

フジテレビ系のワイドショー「めざまし8」で展開された当該議論。橋下氏にしてもグレンコ氏にしても、まだ実際には何も起こっていない段階における理屈や仮定の議論だけで「はいそうですか」で引き下がるような人物ではありません。結局当該議論は、番組MCの谷原章介氏によって打ち切られる形で蓋をされたわけですが、このとき谷原MCは「橋下さん、やっぱりこれはウクライナの方にしか分からない歴史的な背景みたいなものがあるのかも知れません」というセリフを口にしたといいます(「橋下徹氏 ウクライナ出身の政治学者と大激論「どんどん国外退避したらいい」に「1度支配されたら」」2022年3月3日 12:26 スポニチ)。

口先から生まれたような人間である橋下氏を「理屈」によって黙らせることは至難の業です。それゆえ谷原MCは、このような「発言権」という切り口で橋下氏の口を封じる他に手はなかったのでしょう。谷原MC及び番組企画陣にしてみれば必死の執り成しだったことは非常に容易に想像できるものであります。この理屈は、日本でよく使われる典型的な「逃げ」の手口であります。たとえば、社会保障・社会福祉分野において、相手方(受給権利者側)の無知・無理解をよいことに、余計な手間と支出を増やしたくない支給義務者が「本人がいいと言っているんだから余計なお世話をするな(=入れ知恵をしてオレの仕事と負担を増やすな)」といった具合に展開されるものであります。この理屈を持ち出すということは、当事者性を悪用することで議論を打ち切ろうとする魂胆が潜んでいると言わざるを得ないものなのです。

しかし、この程度で民事弁護士としてキャリアをスタートさせた橋下徹という人物を黙らせられるわけがありません。当事者同士に任せていては意地や感情といった要素ゆえに纏まるものも纏まらなくなる、だから(弁護士や裁判官といった)第三者の仲介が必要だというのが民事弁護士・橋下徹の職業的確信でありましょう。案の定、橋下氏は依然として従前からの主張を堅持しています(ちなみに、西側諸国における「ウクライナ疲れ」が公言されつつある昨今、勇ましい言説が鳴りを潜めるのと軌を一にする形でグレンコ氏の登場機会が減少しているところです)。

橋下・グレンコ論争はSNSにおいて非常に激しい反応を巻き起こし、賛否両論の厄介事を避けることを第一目標としがちな昨今の日本人の習性もあってか、いまやすっかり橋下・グレンコ論争を思わせる展開は、公共電波においては微塵も見られなくなっています。とはいえ、論点を封印して議論に蓋をしたところで事実が変わるわけがなく、事実をもとに議論を展開しようとすれば必然的にこの論点に至るものです。たとえばフジテレビ系6月5日朝放送の「日曜報道 THE PRIME」。橋下氏、西村康稔・経済再生担当大臣および玉木雄一郎・国民民主党代表の議論はまたしてもこの議論に行き着いたものでした。

番組中、橋下氏の提起に対して西村大臣は「ウクライナの立場は支持・支援するが、第3次世界大戦に至らないように慎重に対応する必要がある」という要旨の無難で現実的な回答を展開しました。要するに、日本としてウクライナ支援・支援の立場は不変だが、現実的対応はロシアの反応を見極めながら小出しにしていく必要があるということです。西村康稔という人物は、新型コロナウィルス対応のころから思っていましたが、良くも悪くも「自分が思ったことを正直に口にしてしまう人」なんでしょう。今般の戦争については、まったくそのとおりなんですが、もう少し表現に捻りがあってもよいように思います。

これに対して玉木代表の応答。「ウクライナが抗戦姿勢であるところに停戦だ何だと外野がとやかく言うべきではない」という、まさに谷原MC的な「逃げ」を展開しました。ウクライナが徹底抗戦姿勢であるのは開戦当初から一貫していることであり、それに対して日本が主体的にどのように関与すべきかと問われているときにこれでは答えになっていないにも関わらず!

案の定、橋下氏から「ゼレンスキー・ウクライナ大統領は領土をすべて取り戻すと言っている。クリミアも取り戻す対象ということになる。それを日本や西側諸国が支援したら、第3次世界大戦にならないのか?」(趣旨)と突っ込まれていました。絶妙なタイミングでCMに入り、CM明けには別の議論にテーマが移ってしまったため玉木代表の再反論は聞けませんでしたが、谷原MC的な「逃げ」から入った玉木代表はマトモに応答はできなかったでしょう。とりわけすでに西村大臣が非常に率直で本音ベースな回答をしてしまった以上、いくら国民民主党といっても「自民党さんと同じです」とは言い難いでしょう。まさに厄介な問題から逃げようという魂胆がミエミエだったわけです。

昨今、「当事者性」というものは何かと引き合いに出されるものになっています。口達者な人物との「議論」において勝ち目がない人ほど「発言権」を振りかざして議論自体を封じようとするものですが、そのとき「当事者性」が悪用される傾向にあるように見受けられます。こうした「当事者性」の悪用がロシア・ウクライナ戦争を巡って日本言論空間において展開され続けているという現実は、日本がこの戦争に主体的に関与しかねる「弱小国」であることを間接的に示すものであると言えるのではないでしょうか? たとえばイギリスは、結局のところアメリカ頼りではあるものの、一定の範囲内で自国独自にウクライナ支援を展開できる程度の国力は持っています。それゆえ威勢の良い徹底抗戦論を唱道しています。それさえもできないニッポンなのであります。
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