東部では一部、ウクライナ軍が前進を続けているものの、南部のウクライナ軍はほとんど前進できていないようです。18日にはゼレンスキー・ウクライナ大統領までもが「一連の勝利のあと、小康状態になっていると思われるかもしれない」という表現を使うに至っています(「ロシア軍がウクライナ各地の民間インフラ施設を攻撃 前線後退で攻撃対象を拡大か」9/19(月) 14:28配信 テレビ朝日系(ANN))。攻勢開始直後に満ち満ちていた「戦争の終わりが見えてきた」や「この勢いでロシアを全土から駆逐してくれ」といった類の言説はまったくといってよいほど見られなくなりました。
あれほど念入りに準備したにもかかわらず、攻勢初期の奇襲は別として、装備は劣悪・士気は著しく低いとされるロシア軍に対して思うように前進できていないウクライナ軍の現状。おなじみ「西側の軍事援助がさらに増えれば・・・」のタラレバ議論は流石に飽きられてきたのか目にする機会が減ってきたように思います。
■曖昧で要領を得ない単なる印象論
ウクライナ軍の「反転攻勢」がしぼむ中、またしてもロシア報道が「北朝鮮」報道化し始めました。やはり、ロシアが追い詰められていないと自分の精神的な安定が保てないのでしょうか?
https://news.yahoo.co.jp/articles/ccb49f51340e859ef468357da3dadaf3b7bb8bd0
ウクライナ市民に活気「勝てると本気で信じるように」、ロシアは暗く「動員免除の条件は…」上掲記事を読む直前、私はたまたま教育社会学者で放送大学学長である岩永雅也氏の『教育社会学概論』(昔の放送大学の教科書)を読んだのですが、次のようなくだりがありました。
9/23(金) 20:41配信
読売新聞オンライン
【キーウ=上杉洋司】ロシアによるウクライナ侵略を巡り、ウクライナ軍が東部などで反転攻勢を強め、ウクライナ市民は活気づいている。一方、予備役招集が始まったロシアでは、戦争に巻き込まれる恐れが高まる市民が不安を募らせている。
ウクライナの首都キーウで防弾チョッキの製作に携わるマリア・ホルデンさん(45)は、「ロシアに勝てるとみんなが本気で信じるようになった」と笑みを浮かべた。職場や通勤途中のバスの中で、「勝利」という言葉をよく耳にするようになったという。
(中略)
一方のロシアでは、暗いムードが漂い始めた。徴集兵を支援する人権団体の幹部は22日、予備役登録者から「動員免除の条件にはどのようなものがあるのか」といった問い合わせが、「これまでの何倍にも増えた」と明らかにした。
(以下略)
自身の体験を振り返れば分かるように、そうした日常的な教育事象に対置される命題は、さしあたり印象的で個別的であり、多くの場合価値判断をともなっている。たとえば、自分の周囲の女子高生たちを見て「最近の若い女の子たちは派手すぎる」と認識したとしよう。たしかに、そう認識した個人の範囲内である限り、この認識には十分意味がある。というのも、その命題を参照するのが常に自分自身であるために、「最近の若い女の子たち」という言葉の指す具体的な集団も、「派手」という形容語句の意味も、「〜すぎる」という価値判断の基準も、すべて自明であって疑う余地のないものだからである。しかし、この認識の結果を他の人々が用いるとしたらどうだろう。「最近の若い女の子」とはいつごろからどのあたりに住む何歳くらいの少女か、「派手」というのは具体的にどのような状態を指すのか、「〜すぎる」というのはどんな基準から言えるのか、といった疑義が生じて、たちまちこの命題は曖昧で要領を得ないものになってしまう。もちろんこのような認識を実証的と呼ぶことはできない。岩永雅也『教育社会学概論』(2019)放送大学教育振興会 p19-20
「活気」と「暗い」を記事の柱としている上掲読売記事は、岩永氏が「もちろんこのような認識を実証的と呼ぶことはできない」と断じた「最近の若い女の子たちは派手すぎる」という曖昧な命題とほとんど同じ構成であると言わざるを得ません。要するに単なる印象論。そう信じて疑わない仲間内で盛り上がる分にはこれでもよいのでしょうが、その「信念」を共有していない人にとっては「活気」だの「暗い」だのというのは「曖昧で要領を得ない」のです。
■まんまと踊らされている
ことごとく予想を外す西村金一氏に至っては次のような記事を書き始める始末です。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/71989
プーチンの表情に明らかな変化、敗北の不安くっきりと長いだけであまり中身がない記事ですが、「印象操作にしても非常に程度が低いなあ」と思わざるを得ません。西村氏が「不安もなく自信ありげの様子」として挙げる写真はいずれも記念写真の類から取ってきたものであり、西村氏が「自信がなく不安そうで疲労している表情」として挙げる写真はいずれも不意に撮れたオフショット的な写真から取ってきたものだからです。そんなものを並べて比較しても何の意味があるのでしょうか?
ウクライナ侵攻前から現在までの写真を徹底分析
2022.9.27(火)
西村 金一
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナ侵攻前の2月4日に北京オリンピック開会式に合わせて、中国の習近平主席と会談した。
その時は、不安もなく自信ありげの様子であった。
侵攻前日、安全保障会議の場で、プーチン氏が側近に「ウクライナ東部の独立を支持するか」を質問した時には、無表情を装いながらも強圧的な態度が垣間見えた。
この会議から7か月近くが過ぎた9月15日、ウズベキスタンで開催された上海協力機構首脳会議で、プーチン氏と習近平氏が再び会談した。
プーチン氏のその時の表情が、侵攻前の表情とあまりにも変わっていたので驚いた。
この時、プーチン氏は自信がなく不安そうで疲労している表情を海外のメディアの写真に撮られた。
このような弱い表情を見せたことは、大統領に就任してから一度もなかったからだ。
プーチン氏の表情はこれまでとどう異なっているのか、特に9月の習近平氏との会談時の表情に注目し写真を比べて、分析する。
習近平氏との2つの会談だけの比較だと、たまたまそのように見えただけ。特別な写真だけを選んだ・・・ということになってしまう。
そこで、侵攻前、侵攻直前、侵攻を続けている時期、9月の上海協力機構会議の発表と習近平と再び会談したのもの、その後の表情を見比べて、違いを評価したい。
(中略)
5.ロシア海軍の日8月1日、戦況行き詰まる
8月には、都市ハルキウは奪還され、東部では軍の主力を向けているのにもかかわらず、攻撃の進展も僅かでしかない。
記念日の前日までに兵員の死者は4万人を超え、戦車約1800両・装甲車約4000両・火砲900門が破壊された。
ウクライナ軍が欧米の兵器を得て、徐々に反転攻勢に向けて準備を進め、攻勢をうかがっている状況だ。ロシア軍の攻勢の兆しはない。
このように、負け戦になりつつある状況での海軍記念日では、プーチンの様子はどうなのだろうか。
プーチン氏とショイグ国防相ほか2人が小型のボートに乗船し、海軍艦艇を閲兵している様子だ。
この4人とも、暗い雰囲気が漂っている。
プーチン氏は、国のトップとしての自信がなくなり、何かを見ているだけのようだ。
ショイグ国防相は目がうつろだ。海軍司令官も、黒海艦隊旗艦「モスクワ」を撃沈され、冴えない表情だ。
この4人の暗い表情からは、ロシア軍の兵士の士気がかなり落ちていることをもうかがわせる。
(中略)
6.上海協力機構首脳会議では自信喪失
9月15日と16日、ウズベキスタンで行われた上海協力機構の首脳会議と習近平氏との会談でのプーチン氏の様子だ。
9月15日の会談での様子だ。
ネクタイの色は紺系だ。特徴的なのは、眼光が弱い、額には皺が多い、髪の裾が少し伸びていて整髪されていないことだ。
これほど精彩がないプーチン氏を見たことがない。これまで無表情で見下す様子がよくあったが、今回だけは、自信がなくなって弱々しい表情だ。
習近平氏相手に、このような表情を見せるとは、兄貴分だったはずのプーチン氏が、習近平氏の方が兄貴分になってしまって、見下されてしまったのだろうか。
9月16日の会議の前に、習近平氏と少し話をした時の様子である。
この日は、2人ともワイン系のネクタイだ。習近平氏はカメラの前で、一瞬のことであるが、プーチンを見ずに前を向き、わざと冷たくあしらっている態度を見せつけているかのようだ。
プーチン氏は通訳を見ているのか、自信がある眼光の鋭さはない。どう見てもこれまでと違う。自信がないようにしか見えない。
9月16日、会議で発言するプーチン氏の様子だ。目や口元に強さが見えない。自信を失った様子だ。これまで見たことがない表情だ。
プーチン氏の苦悩と自信を喪失したことを表した写真だ。
(以下略)
報道写真というものは非常に効果的なプロパガンダの道具です。人間が視覚から受ける印象は非常に強力だからです。戦時において撮影される報道写真は、おしなべて記事執筆担当者の宣伝方針に従って、意図があって撮影されるものです。
いま「ロシアが追い詰められている」という筋書きに沿った記事が求められています。戦時において「敵が追い詰められている」という構図は宣伝上、非常に有用だからです。「疲れが見えているプーチンの写真を基に、ロシアが追い詰められているという構図の記事を書いてやろう」という意図があって撮影された写真はそこかしこに転がっていると見てよいでしょう。そんな報道写真を集めて「ほらみろ、プーチンが疲れている! ロシアは追い詰められている!」と書き立てている西村氏。まんまとプロパガンダに乗せられて踊らされているわけです。アホらし。
そもそも、これは戦争なのだから最高司令官が疲れを見せるのは当然でしょう。ゼレンスキー・ウクライナ大統領も般若のような険しく、そして疲れた顔をしています。ブッシュ・ジュニア元大統領じゃあるまいし、いつもノーテンキにニコニコしている方がどうかしています。
思い起こせば4月には、小刻みに足を揺らしつつ右手でテーブルの端を握って離さない、尋常な様子ではないプーチン大統領の姿が報じられたものです(「プーチン氏は病気を隠している?…右手でテーブル端を握って離さず、足は小刻みに揺れて」2022/04/23 08:45)。プーチン大統領はおそらく戦争とは無関係にもともと体調に問題があり、戦争のストレスがそれに拍車をかけていると見るのが自然だと思われます。とはいえ、戦争を指導することはできる程度の体調だと思われます。
もっとも、この手の記事は内輪向けの士気向上ネタなので、本来は真面目に批評するようなものではありません。しかしながら、日本世論の場合、この手の話題を単なる士気向上ネタとして消化するのではなく、真面目な情勢分析の下敷きとしてしまう傾向があります。注意が必要でしょう。
■証拠が揃った段階で整理・総括すれば?
つい最近のニュースとして耳目を集めた「予備役の部分的動員」について、次のような主張が展開されています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/727c221a0a5ce58a4d4984a3003b4703ab42b68f
「プーチン政権の断末魔だ」ロシアの予備役招集・出国禁止で辛坊治郎が指摘辛坊氏はこれを「断末魔」だと信じたいのでしょうが、実際にそうなるかは現時点では何とも言えないでしょう。分からないこと、見えてきていないことが多すぎます。
9/27(火) 15:10配信
ニッポン放送
キャスターの辛坊治郎が9月26日、自身がパーソナリティを務めるニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」に出演。ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン政権が予備役の招集を決めるとともに、予備役男性の出国禁止に乗り出そうとしていることについて、「プーチン政権の断末魔だ」と指摘した。
(中略)
アフガニスタンへの侵攻では、亡くなった旧ソ連兵の親族らが嘆き悲しんでいる姿が国民の間に広がっていき、世論に押される形で侵攻が終わりました。当時の統治者がゴルバチョフ氏という非常に開明的な人物だったということも大きく影響しているでしょう。では、ウクライナ侵攻でも同様のことが起きるのかというと、プーチン体制が終わらない限りなかなか難しいかもしれません。とはいえ、部分的動員や予備役男性の出国禁止からは、プーチン政権の断末魔や焦りが見えてきたという印象があります。
不思議でならないのは、じっくりと展開を見守ってから「やっぱりこうなった! やったやった!」と誇ればいいものを、なぜ辛坊氏を典型例とする日本メディアの報道は、まだそうなっていない段階から熱心に憶測を書き立てるのでしょうか? よくわからない段階からああでもないこうでもないと推測を並べることよりも、もはや誰の目にも明らかなくらいに証拠が揃った段階で整理・総括した方が喜びは大きいと思うんですが・・・
辛坊氏の主張は未来予測のうちには入らないと思われます。未来予測というのは、たとえば「xx奪還においてウクライナ軍はどの方面から軍を進めるだろうか?」といった問いを立てた上で、「北から回り込むだろう」とか「いや、いったんooで橋頭保を築いてから・・・」といった具合に徹頭徹尾、冷静に語るものです。価値判断などを一切捨象して、マルクスではありませんが「自然史的過程」として叙述することこそが未来予測と言い得るものです。
断片的事実に飛びつき希望的観測を展開することで精神を安定させることを優先しているのでしょう。じっくりと展開を見守る精神的余裕がないのでしょう。
いまロシアは力を振り絞って戦いを組んでいます。ロシア指導部にとってはまったく予想外だったでしょう。「ロシアは追い詰められている」という見方は必ずしも間違いではないでしょう。とはいえ、このことについて「敵であるロシアが疲弊している! 追い詰められてきている! やったやった!」などと歓喜するのは、展開を軽く見過ぎています。「窮鼠猫を噛む」の如く死力を尽くしてロシアが攻勢を仕掛けてくる危険性があるからです。たしかに、あのロシアを「窮鼠」に追い込んだとすればウクライナの奮闘はまさしく人類史的に特筆すべきものですが、「窮鼠」の牙が「猫」にとっての致命傷になってしまえば、結局は「勝ったのはロシア」ということになってしまいます。
ソビエト・フィンランド間の冬戦争を分析する重要性が、今ますます高まっていると私は考えます。冬戦争は、「カレリア地方の強奪」という最低目標を達成したという意味ではソビエトの戦争目標は達成され、「独立の維持」という最低目標の維持という意味ではフィンランドの戦争目標は達成された戦争でした。つまり、両国の最低目標ベースでは「冬戦争において、両国とも完勝はしていないが完敗もしてもいない」ということができます。戦争と言えば、独ソ絶滅戦争的な「敵を滅ぼすか自分たちが滅ぼされるか」の二択しか頭にない日本的理解においては理解しがたいかもしれませんが、現代の戦争はそういうものです。
ロシア・ウクライナ両国ともに決定打に欠けている現状、ウクライナ米欧諸国が「ヌルい」ウクライナ支援に終始している現状を見るに、冬戦争の展開から学び取れることは多いと考えます。西村金一氏や辛坊治郎氏のような単細胞な見立ては現実を分析できているとは思えないところです。
■4州を「先行」して併合した意味合いとは?
さてここからは「占領地のロシア連邦への編入にかかる住民投票の強行」と「予備役の部分的動員」について考えてみたいと思います。
※なお、これから述べることは、「いま日本メディアで報道されている範囲内の情報を異なる角度から見たとき、このようにも解釈できるよね? なのに何でそんなに決めつけるの?」という観点によるものです。もとより当ブログの問題意識は日本メディアの報道姿勢にあり、戦況の正確な予測にはありません。というよりも、正確な戦況は私には分かりません。海外メディアから情報を仕入れており、日本メディアではなかなか報じられない最新の戦況に詳しい方にとっては呆れる話かも知れませんが、「一般人向け日本メディアで報じられている範囲から考えたとき、こういう解釈も可能だろう」という意味でご理解賜りたいと思います。
意外に思ったのは、ドネツク、ルガンスク、ヘルソン、及びザポロジエの4州だけで住民投票が強行されたことです。以前に構想が提示されていた「ノヴォロシア連邦」は、すでに人民共和国が建国されているドネツクやルガンスクのほかに、ハリコフやニコラエフ、オデッサにも人民共和国を設置してそれらを連邦化するというものでした。ロシアの「野望」は広大だったわけです。「ノヴォロシア連邦」は無期限的な凍結状態に追い込まれて久しいところ、今回のロシア軍の進軍経路と戦略目標は「これらの地域を今度こそ取る」という意志を感じるものでしたが、それを完全には果たさないままに4州を「先行」して併合したわけです。
このことについて、笹川平和財団主任研究員の畔蒜泰助氏は、「露政権は「プランBも修正に追い込まれた」 笹川平和財団・畔蒜泰助氏」(9/23(金) 6:30配信 毎日新聞)で「占領した地域をロシア領とすることにより、攻撃を受けた場合には核兵器で反撃する対象地域になると宣言した」と指摘しています。そういう風に理解することも可能でしょうが、これらの地域を併合することは核兵器を投入するための絶対不可欠な条件とは言えないでしょう。「屁理屈」というよりは「メチャクチャ」というべき「論理」を繰り出し続けてきているロシアです。そもそもロシアは論理を欲しているのかさえ疑わしいものです。予想の斜め上を行く展開で核兵器を使用することが現実的問題として考えられます。
「ノヴォロシア連邦」の「野望」に反して4州だけを併合した意味合いを考える必要があるように思われます。プーチン大統領が当初から唱えていた「ドンバスの解放」や、ラブロフ外相の「地政学的な課題は変わった」発言を振り返るとき、今般の戦争ではハリコフやニコラエフ、オデッサなどの具体的な地名には触れられていないので、これらの地域を今回併合できなくても「有言不実行」の謗りからは免れることができます。しかしながら、これでいったん手を打たざるを得なかったとすれば、「野望」ベースで考えたときロシアにとっては「大きな挫折」と言い得ます。
ここで重要なのは、誰もロシアに住民投票を早く実施するように求めてはいないことです。実際問題として4州はロシアの実効支配下にあり、ウクライナがそれを奪還することは困難な情勢にあります。誰も圧力を加えておらず、ロシア自身が決心しなければそのままにしておくこともできた4州併合問題を、「野望」ベースで考えたときに「大きな挫折」になることを辞さずにロシア自身が「先行」させたという事実から何が読み取れるのでしょうか?
あまり注目はされていませんが、アゾフ連隊指揮官が捕虜交換でロシアの拘束から解放されトルコに向かうという報道が出てきています(「ウクライナ兵ら215人、捕虜交換で解放 ロシアには55人引き渡し」9/22(木) 14:33配信 AFP=時事)。ウクライナを「非ナチ化」するというロシアの戦争目標において主要なターゲットであるはずのアゾフ連隊指揮官らが抹殺されることなくトルコに移送されたわけです。思い起こすと、マリウポリの戦いにおいてウクライナ政府は、「アゾフ連隊が全滅させられたら、もう停戦交渉はしない」と発言したものでした(「ゼレンスキー大統領「マリウポリで我々の軍を壊滅させることは全交渉のピリオドに…」 露国防省は“ウクライナ軍を完全排除”発表」4/17(日) 12:04配信 日テレNEWS)。このことを思い返すに、これはロシア側のメッセージとして捉えることもできるのではないでしょうか?
4州の「先行」併合もメッセージとして考えることができないでしょうか? 「ドネツク、ルガンスク、ヘルソン、及びザポロジエの4州だけで手を打つ」という意思表示です。もちろん、この意思表示の相手方はウクライナ政府ではなく米欧諸国に他なりません。プーチン大統領は北方領土問題において「引き分けによる解決」という折衷的な方法を持ち出したことがありましたが、今回も「4州併合で引き分けだ」と言いたいのかもしれません(たしか佐藤優氏だったと思いますが、「引き分け」が今回もキーワードになるといったようなことを言っていた記憶・・・)。
念のため申し上げておくと、もし本当にロシアがこのような魂胆を持っているとすれば、非常に自分勝手な言い分であることは間違いありません。ここで言いたいのは、「事実として、ロシアはそう考えている可能性がある」ということです。
■みんなそろそろ止めにしたい頃合い?
そして「予備役の部分的動員」です。現状、ロシア軍にとって一番の泣きどころである兵力を補充して戦線を支えつつ「4州で手を打つが4州は戦果として何としてでも維持する」というメッセージを発していると解釈することもできるでしょう。
このタイミングで、天然ガスパイプラインであるノルドストリームが「非常に都合よく」破損したというニュースが飛び込んできています。破壊工作の可能性があるといいます(「ロシアのパイプライン損傷、爆発も ガス漏れ、破壊工作の可能性」9/27(火) 17:26配信 時事通信)。かねてよりロシアはエネルギー危機を醸成して米欧諸国のウクライナ支援、つまりウクライナ軍の兵站を攻撃しようと画策してきました。これに対して米欧諸国は当初から必ずしも足並みを一貫させてはおらず、最近はますます足並みの乱れが目立ちつつあるところです。「破壊工作」が事実だとすれば、誰の犯行かはだいたい想像がつくし、これが(可能性としては低いとは思いますが)ロシアを陥れるデッチ上げの冤罪だとすると、その意味合いもまた明白であるように思われます。
いま「核の危機」に対する懸念がかつてないほどに高まっていますが、このことも停戦・終戦に向けた地ならしとして解釈することもできるでしょう。プーチン大統領の恫喝的発言が狙っている効果はあまりにも明白です。「ウクライナから手を引け。なんなら核を使うぞ。さあさあ終わりにしよう。ウクライナ支援をやめたまえ」と。これに対して最近は米欧側でも「核の危機」に言及する政治指導者が現れてきています。たとえば、NATO加盟方針を示したフィンランドのニーニスト大統領は次のように指摘しています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/7bcebddba192354c1b8a27e74e1048e12fb34c6e
プーチン氏、いかなる敗北も「認めず」 フィンランド大統領プーチン大統領を「戦士」と呼ぶのは、ちょっと意外です。翻訳の問題として片づけられないように思われます。「チンピラの核恫喝に屈しない」という立場であれば、プーチン大統領を「戦士」とは呼ばないでしょう。
9/27(火) 7:32配信
CNN.co.jp
(CNN) フィンランドのニーニスト大統領は27日までに、ロシアによるウクライナ侵攻が危険な状況を迎えていると警告した。ロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻に高い信頼性を与えていたものの、自分に不利な状況になってきているとの見方を示した。
ニーニスト氏はCNNの取材に対し、プーチン氏がウクライナ侵攻に全てをつぎ込んでいると語った。
ニーニスト氏はプーチン氏について、「戦士」だと形容。そのため、プーチン氏がいかなる種類の敗北についても受け入れるのを目撃することは非常に困難であり、そのことが状況を危機的なものにしていることは間違いないと指摘した。
(以下略)
読売新聞編集委員の飯塚恵子氏は「これによって長期化は避けられず、停戦する気がないということがはっきりした」などとしています(「ロシア国内反発 なぜプーチン大統領は 部分的動員を決断したのか【深層NEWS】」9/27(火) 18:12配信 日テレNEWS)が、必ずしもそうとは言い切れないように思われます。みんなそろそろ止めにしたいと思っている頃合いであるようにも思われます。
■総括
このように、一般向け日本メディアで報じられている範囲から考えたとき、必ずしも今後の展開の予想は一つに絞られないと思われます。この大雑把な現状認識からは、複数の展開を予想可能ではあるはずです。しかしながら、日本メディアの予想は非常に画一的なものです。私が思い付きで書き並べただけでも上述の分量になるくらい論証として穴や飛躍が多すぎるのです。ウクライナ軍の「反転攻勢」がしぼむ中、またしてもロシア報道が「北朝鮮」報道化しています。