北朝鮮が突如、ウクライナを非難 誇り捨ててまでの事情?脱北の元労働党幹部が証言■切り取り記者、牧野愛博
4/12(水) 8:23配信
GLOBE+
北朝鮮の朝鮮労働党の金与正・朝鮮労働党副部長が4月1日、ウクライナを非難する声明を発表した。この声明を子細に眺めると、北朝鮮と与正氏本人がいかに苦しい状況に置かれているかが見えてくる。北朝鮮の誇り高い国是をかなぐり捨てると同時に、与正氏がかつて見せてきた「余裕」が消えているからだ。北朝鮮を逃れたある元労働党幹部が背景事情を明かした。(牧野愛博)
「ゼレンスキー当局、物乞いと請託の念仏」
声明は、ウクライナが独自に核武装するか、米国核兵器の配備を望んでいるとして、「ゼレンスキー当局の陰険な政治的謀略の産物」だと非難した。「目を開ければ主人を見上げ、口を開けば物乞いと請託の念仏を唱えるゼレンスキー当局は、最初からロシアの相手になり得ず、彼らが現在のように核の妄想に執念を燃やせば、むしろロシアの核の照準圏内でより鮮明な標的になるであろう」と述べ、激しい表現でウクライナをこき下ろした。
北朝鮮を建国した与正氏の祖父、金日成主席は中ソ対立のなか、自主独立路線を掲げてきた。1970年代までに整備した主体思想はその象徴だ。北朝鮮は非公式の場では、スターリンに兵器を請い、毛沢東の経済支援を期待したが、公式の立場は自主独立だ。公式の立場で露骨にロシアにすり寄った与正氏の声明は極めて異例だ。
この場合、ウクライナを敵視するというよりも、国際社会で苦境に立つロシアに寄り添い、ロシアからこれまで得られなかった大規模な経済支援や軍事支援を手に入れようという思惑が透けて見える。
また、北朝鮮は核武装にあたり、「なぜ戦勝国の米英中ロ仏だけが核兵器を保有できるのか」として、戦後秩序に挑戦してきた。ウクライナの主張を批判すれば、自分の立場と矛盾する。韓国の一部で出ている米戦術核の朝鮮半島再配備が嫌なのかもしれないが、金日成主席がこの声明を読んだら怒り出すだろう。
(以下略)
さすがは切り取り記者、牧野愛博氏。彼の主張は、「白頭の血統」を生物学的な意味として捉えて組み立てるものを筆頭に、幾つかの単語やセンテンスに反応して自分勝手な独自解釈や意味付けを施した上で、それらを切り取って繋ぎ合わせることで成り立っています。そして、当ブログでも何度か指摘してきたように、その独自解釈は共和国公式発表を踏まえたものではなく彼の想像・理解の域を超えるものではないために、しばしば現実の推移を上手く説明できていません。
今回もそんな彼の習性が非常に顕著に表れています。
■事大主義ゼレンスキー政権の真の狙いは、アメリカの核の傘に入ることである
朝鮮総聯機関紙『朝鮮新報』によると、キム・ヨジョン副部長の発言は次のとおりです。
https://chosonsinbo.com/jp/2023/04/02-99/
「無謀な核妄想は自滅を招く」/金与正党副部長が談話発表キム・ヨジョン副部長の談話全体、特に「ゼレンスキー当局が、すでに穴がぼつぼつ開いた米国の核の傘の下に入ってこそ、ロシアの強力な猛射撃を避けられると打算したなら、彼らは確かに誤った道、最後の道へ進んでいる。米国を神頼みにして上司の虚弱な約束を盲信する手先らは、核時限爆弾を背中に負う自滅的な核妄想から一日も早く覚める方が自分らの命を守る最上の選択になることをはっきり悟らなければならない」というくだりを見るに、共和国としては、「ゼレンスキー政権の真の狙いは、アメリカの核の傘に入ることである」と見做しているようです。たしかに、「他国の核の傘に入って我が身を守ってもらうこと」は、自主の対極にある事大以外の何物でもありません。
2023年04月02日 06:49
朝鮮中央通信によると、朝鮮労働党中央委員会の金与正副部長は1日、「無謀な核妄想は自滅を招く」と題する談話を発表した。談話は、次の通り。
先日、ウクライナ大統領のホームページには米国の核兵器を自国の領土に配備するか、あるいは自前で核兵器を作るかを主張する内容のアピールが掲載された。
このアピールに、90日以内に2万5000人以上の住民が署名する場合、大統領は提起された発起を審議し、これに関する公式立場を明らかにするようになるという。
住民の意思表明というもっともらしい外皮をかぶせたが、それがゼレンスキー当局の陰険な政治的謀略の所産であることを難なく推測することができる。
2022年2月、ミュンヘン安保会議でゼレンスキーが自国の核保有国地位を回復する立場を明らかにしたのをはじめ、ウクライナの公式人物らが複数の契機に自らの核野望を露骨にさらけ出したのは、すでによく知られた事実である。
ロシアを打ち破ることができるという治癒不能な誇大妄想症にかかったウクライナ当局が、後のことを見通す初歩的な意識も、その悪結果を処理する何らの能力もなく、自らの生存を脅かす核惨禍を自ら招いている。
ゼレンスキーが米国の核兵器搬入だの、独自核開発などと言い立てるのは、自国と国民の運命をもって賭博してでも、なんとしてでも自分らの余命を維持してみようとする極めて危険な政治的野望の発現である。
当局者が政治的感覚が鈍く、私利分別力が足りなければ、国と民族を抜き差しならぬ破滅のどん底に追い込むことになるというのがすなわち、世の中の理である。
目を開ければ上司を見上げ、口を開ければ物乞いと請託の念仏を唱えるゼレンスキー当局は、あらかじめロシアの相手にならず、彼らが現在のように核妄想に執念を燃やせば、むしろロシアの核照準圏内でより鮮明な標的になるであろう。
ゼレンスキー当局が、すでに穴がぼつぼつ開いた米国の核の傘の下に入ってこそ、ロシアの強力な猛射撃を避けられると打算したなら、彼らは確かに誤った道、最後の道へ進んでいる。
米国を神頼みにして上司の虚弱な約束を盲信する手先らは、核時限爆弾を背中に負う自滅的な核妄想から一日も早く覚める方が自分らの命を守る最上の選択になることをはっきり悟らなければならない。
■住民の意思表明というもっともらしい外皮を被せた
独自核開発については、「当局者が政治的感覚が鈍く、私利分別力が足りなければ、国と民族を抜き差しならぬ破滅のどん底に追い込むことになるというのがすなわち、世の中の理である」と指摘されているように、ロシアとの力関係を考えれば、あまりにも無謀であると言わざるを得ません。
共和国が国是として掲げる自主独立とは、単に対決することではありません。恐らく牧野氏は、共和国の国是である自主独立の正確な意味を踏まえることなく、例によって自分勝手な独自解釈をしているのでしょう。キム・イルソン主席は、回顧録『世紀とともに』で次のように仰っています(外国文出版社、邦訳第1巻、253ページ)。
わたしは尚鉞先生に、安重根の闘争方法をどう思うかとたずねた。尚鉞先生は、安重根の行為はもちろん愛国的だ、しかし闘争方法は冒険主義的だと答えた。先生の指摘はわたしの見解と一致した。わたしは、日本帝国主義の侵略に抗するたたかいは、決して大軍閥の代弁者を一人や二人懲罰するテロリズムの方法で勝利できるものではなく、必ず人民大衆の覚醒を促して、すべての人民を奮い起こすときにのみ、その目的が達成できると考えていた。今回、キム・ヨジョン副部長は、その談話においてゼレンスキー政権の核武装策動について「住民の意思表明というもっともらしい外皮をかぶせたが、それがゼレンスキー当局の陰険な政治的謀略の所産である」と断定しました。首領様が必勝の鍵として指摘なさった「人民大衆の覚醒を促して、すべての人民を奮い起こす」方法論ではないと見ているからでしょう。
首領様の方法論に従えば、強大な国と対決するのであれば必ずや人民大衆に依拠した方法論で戦いを組まなければなりません。しかしいま、ゼレンスキー政権が取り組もうとしていることは、「2022年2月、ミュンヘン安保会議でゼレンスキーが自国の核保有国地位を回復する立場を明らかにしたのをはじめ、ウクライナの公式人物らが複数の契機に自らの核野望を露骨にさらけ出したのは、すでによく知られた事実である」というくだりで暴露されているとおり、人民大衆からの要求に基づくもの、『我らのキム・ジョンイル同志』に歌われている「素朴なその考えを政治に盛り込んで」ではなく、為政者たちが既にその道筋を描き切ったものに対して「住民の意思表明というもっともらしい外皮」を被せて取り繕ろうとしているものに過ぎません。
ウクライナ国家の人口は、おおむね4400万人弱です。今回、ゼレンスキー政権は、「90日以内に2万5000人以上の住民が署名する場合、大統領は提起された発起を審議し、これに関する公式立場を明らかにする」としたそうです。単純な四則演算の問題として、国民の1パーセントにも満たない数の署名でゼレンスキー大統領はこの問題を審議するのだと言います。厳格な国民投票ではなく署名、それも1パーセントにも未満の賛成で・・・結論ありきと言わざるを得ないでしょう。
ちなみに、牧野氏は『我らのキム・ジョンイル同志』をご存じなんでしょうかね? 共和国は音楽政治の国なので、分厚い労作を読み込まずとも、代表的な政治宣伝音楽を聞くだけでかなり色々なことを知ることができますよ。
■ウクライナの核武装化は、どう転んでも事大主義的な末路を辿らずには居られず、自主独立路線とは相容れない
そもそも、昨今の情勢を勘案するに、米国の核兵器搬入にしても独自核開発にしても、「アメリカという虎の威を借る」という行為以外に行きつく先はないでしょう。
米国の核兵器搬入については上述のとおり事大以外の何物でもありませんが、「独自核開発」といっても、ウクライナの地からソビエトの核兵器が搬出されて久しい今日、核兵器開発・核兵器管理にかかるノウハウは既に大きく失われているものと思われます。「独自核開発」とは、共和国のように本当にすべてを自力で解決することを言うのであり、何らかの形で他国の支援を受けるようでは独自開発とは言いません。他国の支援を期待することは、これもまた事大主義的であると言わざるを得ません。
ウクライナの核武装化は、いずれにせよロシアとの関係を徒に悪化させ、結局はアメリカの助けを借りざるを得なくなることでしょう。どう転んでも事大主義的な末路を辿らずには居られないでしょう。
なお、現在ゼレンスキー政権はNATOへの加盟を熱望していますが、共和国の国是である自主独立路線とは、同時に非同盟主義でもあります。NATO加盟を掲げながらの核武装化は、仮に独自開発だったとしても自主独立路線とは相容れないものです。
■総括
共和国の自主独立路線に基づく核武装とは、単に核兵器を開発・保有して大国と対峙することではなく、すべてを自国人民に依拠した方法により自力で行うことによって達成するものです。
これに対して今、ゼレンスキー政権が望んでいることは、アメリカの核の傘に入ること、アメリカの核の庇護を受けることであり、これは事大主義以外の何物でもありません。
独自核開発路線についても、自国人民に依拠した方法とは言い難く、また、ウクライナには核兵器開発・核兵器維持にかかるノウハウが既に大きく失われていると思われるので、結局はアメリカの助けを借りざるを得なくなることでしょう。どう転んでも事大主義的な末路を辿らずには居られないでしょう。
さらに申せば、NATO加盟を掲げながらの核武装化は、仮に独自開発だったとしても共和国の国是である自主独立路線とは相容れないものです。
「誇り高い国是をかなぐり捨てる」などと書き立てる牧野氏ですが、全体の趣旨を踏まえれば、自主独立の立場から従米国家に成り下がりつつあるゼレンスキー政権を論難する談話であったと言えるでしょう。「ウクライナの主張を批判すれば、自分の立場と矛盾する」という牧野氏の見立ては誤りであると言わざるを得ません。例によって自分勝手な独自解釈で現実の推移を上手く説明できていない牧野氏。今回は「自主独立」を自分勝手に独自解釈したのが誤りでした。重要なキーワードをことごとく外しているような・・・