2023年05月31日

失敗は成功の母

http://www.kcna.kp/jp/article/q/7142df36a42436897659ab36722d0082.kcmsf
朝鮮中央通信社が報道発表

【平壌5月31日発朝鮮中央通信】朝鮮中央通信社は、軍事偵察衛星打ち上げの際、事故が発生したことで31日、次のような報道を発表した。

朝鮮民主主義人民共和国国家宇宙開発局はチュチェ112(2023)年5月31日6時27分、平安北道鉄山郡西海衛星発射場で予定されていた軍事偵察衛星「マンリギョン―1」号を新型衛星キャリア・ロケット「チョンリマ―1」型に搭載して打ち上げた。

打ち上げられた新型衛星キャリア・ロケット「チョンリマ―1」型は正常飛行中、1段の分離後、2段エンジンの始動不正常によって推進力を失い、朝鮮西海に墜落した。

国家宇宙開発局のスポークスマンは、衛星キャリア・ロケット「チョンリマ―1」型に導入された新型エンジンシステムの信頼性と安全性が落ち、使われた燃料の特性の不安定に事故の原因があると見て、当該の科学者、技術者、専門家が具体的な原因の解明に着手すると指摘した。

国家宇宙開発局は、衛星の打ち上げにおいて現れた重大な欠陥を具体的に調査、解明し、それを克服するための科学技術上の対策を早急に立てるとともに、さまざまな部分試験を経て可及的速い期間内に第2次打ち上げを断行すると明らかにした。−−−

www.kcna.kp (チュチェ112.5.31.)
共和国の軍事偵察衛星が失敗してしまいました。いち早く失敗を報じ、ただちに欠陥の克服を宣言したことはキム・ジョンウン時代の特徴を示しています。事実を認め現実に立脚してこそ発展があると考えます。

https://news.yahoo.co.jp/articles/5ffada4a0f392d68f876dfb4887c7758ed137f08
北「衛星」は「自前情報狙うも政治的焦り?」香田洋二氏
5/31(水) 21:04配信
産経新聞

北朝鮮が31日に打ち上げた「軍事偵察衛星」について、元自衛艦隊司令官の香田洋二元海将に話を聞いた。



人工衛星をロケットで打ち上げるには、重量物を載せて秒速7・9キロ以上で重力にあらがって上昇しなければならない。弾頭を地上へ落下させればいいミサイルと異なり、エンジンや燃料供給系統で不具合が起きることが多く、今回の失敗はそうした可能性がある。

北朝鮮の予告した通り、南極と北極を通る「極軌道」へ向けて発射された。極軌道は偵察衛星などが利用する軌道で、北朝鮮は偵察衛星の打ち上げを図ったと思われる。

(中略)
ただ、今回は雷などで電波が届きにくくロケット発射に不向きな台風が沖縄南方に接近している状況で強行した。金氏が何らかの政治的思惑から相当焦っている可能性もあり、発射を急がせるかもしれない。(聞き手 市岡豊大)
香田氏の同趣旨の発言が今朝のNHK「おはよう日本」でも放映されていました(7時33分ごろ)。
いま、沖縄の南に台風がいるが、実は発射地域の天候だけではなくて、1段目、2段目、3段目の飛行状態の確認のために遠いところの天候を気にする。それを気にせずに発射したということで、ある意味、技術的に、あるいは飛行情報の収集に自信を持ったという風に考えられる。初日に発射したということで、北朝鮮が技術的サイドは自信を持ったという風に考えられる
弾道ミサイルの発射実験であれば、台風接近の中では十分な飛翔データを取得できないので発射しないはず、それでも発射したということは、飛翔データ取得が主目的ではないのではないかというのが香田氏の見立てです。妥当な分析だと思います。
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2023年05月30日

「衛星と称する弾道ミサイル」なる珍妙な表現を繰り出すしかケチをつける口実がないのだろう

https://news.yahoo.co.jp/articles/eb5ab2a0021ca3d0cb9b9bd4476d33e96188614c
北朝鮮、弾道ミサイル発射強行なら「重大な挑発行為」=官房長官
5/29(月) 11:42配信
ロイター

[東京 29日 ロイター] - 松野博一官房長官は29日午前の記者会見で、北朝鮮の衛星と称する弾道ミサイルの発射の事前通告について、強行すれば日本の安全保障に対する「重大な挑発行為」と述べ、関係諸国と緊密に連携し、北朝鮮に自制と国連安保理決議の順守を求めていくとした。

(以下略)
https://news.yahoo.co.jp/articles/ab5508f711ded6c94bdc2e94649aeef3c61ccfb8
弾道ミサイル技術を用いた発射は安保理決議違反=岸田首相
5/29(月) 11:35配信
ロイター

[東京 29日 ロイター] - 岸田文雄首相は29日、北朝鮮が人工衛星の打ち上げに伴い海上に危険区域を設定すると日本に通告したことを受け「衛星と称したとしても、弾道ミサイル技術を用いた発射は(国連)安保理決議違反であり、国民の安全にかかわる重大な問題だ」と記者団に語った。

(以下略)
今回の軍事偵察衛星発射は、国防五か年計画に照らせばこそ、本当に衛星打ち上げを目標とするものであると考えられます。もちろん、今回打ち上げ予定の衛星が直ちに軍事的に実用的かは別ですが、簡単な作りのものから徐々に改良・発展させてゆくのが技術開発というものです。

論ずるまでもなく軍事偵察衛星は、敵情をリアルタイムに把握するためには非常に重要な手段です。弾道ミサイルは、実験データは残るにせよ打ち上げてしまったらそれっきりですが、軍事偵察衛星は設計上の耐用期間にわたって運用され続けるものです。「日本の国益」という観点から言えば、敵国たる「北朝鮮」が軍事偵察衛星を運用すること自体が長期にわたる脅威であるはず。本来、この点にこそ注目しなければならないのに、「衛星と称する弾道ミサイル」なる珍妙な表現を繰り出す松野官房長官、そして「国連安保理決議違反」などとする岸田首相

それくらいしかケチをつける口実がないのでしょう。「人工衛星を打ち上げてはいけない(表向きが違うだけで弾道ミサイルの発射実験と同じだから※)」という決議はあっても、「人工衛星を運用し続けてはいけない」という決議はありません。つまり、軍事偵察衛星を運用すること自体は文句のつけようがないからです。

※弾道ミサイルは大気圏再突入技術を要するのに対して人工衛星打ち上げロケットにはそれがまったく不要なので、人工衛星打ち上げロケットの発射=弾道ミサイルの発射実験という定式化には些か違和感を感じざるを得ません。大気圏再突入は、それ自体がかなり高度な技術です。

国連安保理決議など何とも思っていない共和国は今回も自らの決断に従って、任意のタイミングで軍事偵察衛星を発射することでしょう。そして、軍事偵察衛星は設計上の耐用期間にわたって共和国の国家安全に貢献することでしょう。これを力ずくで止めようものならば、どこぞの国と同じになってしまいます。そもそも、そんなことは日本の実力では不可能ですが。日本は、またしても指をくわえて見ているしかないものと思われます。
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2023年05月29日

「NATO加盟国がF-16戦闘機をウクライナへに移転する場合、アメリカはそれを妨げない」の見方:人間を中心に主体的に考えるとは一体どういうことを指すのか

バイデン・アメリカ大統領が「NATO加盟国がF-16戦闘機をウクライナへに移転する場合、アメリカはそれを妨げない」と表明しましたが、「F-16はゲームチェンジャーにはなり得ない」という報道が早くも出てきています。

■明らかにハイマースが供与・納入のときとは様子が異なっている
https://www.sankei.com/article/20230523-XHY4EDA2RBOMTDS2M56CXEFJDA/
米空軍長官、F16供与は「戦況を劇的に変えない」とクギ
2023/5/23 08:45

ケンドール米空軍長官は22日、ウクライナへのF16戦闘機供与について「持っていない能力を与えるが(状況を一変させる)劇的なゲームチェンジャーにはならない」との見解を示した。ワシントンでの国防専門記者団との会合で語った。

ケンドール氏は、ロシアもウクライナも制空権を握れておらず、航空戦力は戦況に決定的な影響を及ぼしていないと指摘。空軍制服組トップのブラウン参謀総長と22日に協議したと述べた上で「われわれは、根本的な変化をもたらすとは考えていない」と説明した。

(以下略)
https://news.yahoo.co.jp/articles/7cb2e0f6a8f99bd9c61dff6a1e11aab779463920
現実味増すウクライナへのF16供与、訓練などで課題山積
5/25(木) 18:40配信
CNN.co.jp

(CNN) ウクライナが米欧に求め続けていたF16型戦闘機の引き渡しはバイデン米大統領が先に操縦訓練の支援への同意を表明するなどして現実味を増す展開となってきた。

ただ、ウクライナが仮に同機を手にしたとしても戦況を一気に有利にし得る兵器にはならないとし、弱点も抱えることになると軍事専門家らはみている。ロシア側はF16機が実戦に投入されたとしても大きな戦力にはならないと見越し、むしろその弱味につけ込む対応策を講じるとも予測している。

同機の現役パイロットはCNNの取材に応じ、同機がもたらす攻撃力への期待は過多になっている可能性に言及した。戦場で違いを生み出せる戦力になるのかの質問には「そうではない」とも言い切った。

(以下略)
アメリカ空軍の長官がこのように語り、CNNや産経が報じています・・・

■あまり乗り気ではない理由
そもそも、F-16が実際にいつ搬入されるか、もっといえば本当に搬入されるのかも確定はしていません。バイデン大統領の決定は要するに「同盟国の中で手持ちのF-16をウクライナに供与する国があれば、アメリカは妨げはしない」というものであり、アメリカが自ら供与するわけではありません。また、いまのところアメリカの同盟国で具体的に供与を表明した国はありません。その理由は結局は、F-16一式(機体と維持管理のための諸々)が非常に高価だという点にあるようです。
https://grandfleet.info/us-related/u-s-milley-says-10-f-16s-for-ukraine-will-cost-2-billion/
2023.05.26
米国のミリー議長、ウクライナへのF-16提供コストは10機で20億ドル

ウクライナに対するF-16の提供について様々なニュースや話題が飛び交っているが、多くのメディアはF-16がもたらす効果を楽観的に報じ、軍関係者、専門家、防衛産業の関係者は効果に懐疑的な立場を崩していない。

ウクライナに対するF-16の提供について様々なニュースや話題が飛び交っているが、多くのメディアは「西側諸国の在庫にはF-16が沢山あるし、米YahooNEWSは4ヶ月でパイトットの訓練は十分だと報じている。F-16があればウクライナを勝利に導ける」と楽観的に報じているが、軍関係者、専門家、防衛産業の関係者は「なぜウクライナの空域保護に最も高価で、最も時間がかかり、最も効果が低そうな戦闘機が提供が必要なのか」と懐疑的な立場を崩していない。

米国のミリー議長は25日、ラムシュタイン会議後の記者会見で「ウクライナ空域を保護する最も安価な方法は地上配備型の防空システムだ。これこそがロシアの航空支配を阻止する最も効果的な方法だったので、我々は防空システムの供給を優先してきた。10機のF-16をウクライナに提供するには10億ドルもの費用がかかり、この10機を維持するには更に10億ドルの費用がかかる。つまり10機の戦闘機提供にかかるコストは20億ドルだ。圧倒的な航空戦力を保有するロシアに対してF-16で対抗するなら相当数の機体が必要で、これを構築するには非常に長い時間がかかる」と述べた。

ケンドール空軍長官も22日「ウクライナでは双方が効果的な地対空ミサイルを使用しているため航空戦力は決定的な役割を果たしておらず、戦闘機の使用は特に限定的で、F-16は戦場のパワーバランスを劇的に変化させるものではない」と、F-16を操縦していたブリードラブ元大将も「F-16はMiG-29より遥かに優れた戦闘機だが、ウクライナ人が欧米流の航空戦術を徹底的に身に着けなければF-16の利点を何一つ発揮できないだろう。F-16をMiG-29のように操縦するならホットロッドのMiG-29を手に入れたというだけでお終いだ」と指摘。

ミリー議長も、ケンドール空軍長官も、ブリードラブ元大将も「長期的な取り組みの一環」としてF-16を提供することに賛成で、特にブリードラブ元大将は「ウクライナ人の熱意と努力は我々の想像を上回り、常に我々は訓練にかかる時間を過大評価している」と述べ、国防総省が見積もった「18ヶ月間」より短い時間でウクライナ人は必要なスキルを身につけられると予想しているが、F-16が戦場にもたらす効果についてだけは懐疑的だ。

(中略)
あるF-16の元パイロットは「戦場には夥しい量の地対空ミサイルが存在するため1,000フィート以下の低空を飛行する必要がある。この制限は非ステルス機なら旧ソ連機でも西側機でも同じだ。つまりF-16でもウクライナ人が持っている戦闘機とやれることに違いはない」と指摘、つまり前線に対する近接航空支援ではF-16でも旧ソ連機でもやれることに大きな差はなく、巡航ミサイルを運搬するTu-95やTu-160をロシア領空で迎撃できる可能性も0だ。

ウクライナ空域に侵入してきたロシア軍機、巡航ミサイル、Shahed-136を迎撃すること位しか期待できないなら「防空システムに投資する方が効果的だ」という意味で、米統合参謀本部のバトラー大佐は「率直に言うと(政府がウクライナ支援向けに容認している資金内で)F-16を提供すれば、米国は他の物を提供できなくなるだろう」と警告しており、ミリー議長も内心は「空域保護に限られた資金と能力を投資するなら地上配備型の防空システムを優先させた方がいい」と思っているかもしれない。

因みにウクライナ国家安全保障・国防会議のメンバーは「ロシアは1,500機保有する航空戦力の内400機を戦争に投入しており、ウクライナに提供される西側製の戦闘機の数も40機ではなく200機程度まで増やしてほしい」と、最高議会の議員も「世界には4,600機ものF-16があり、私達が要求しているは1%未満の数で本当に大したことがない」と述べており、この調子でF-16提供を要求されれば欧米諸国の支援資金は一瞬で蒸発する。

(以下略)
「非常に高価ではあるが何とかやり繰りしてF-16供与を実現しよう」という方向性ではなく、また、「F-16がダメなら他の戦闘機を」という方向性でも現時点ではないようです。
https://grandfleet.info/us-related/biden-administration-tells-nato-member-states-to-allow-f-16-transfer-to-ukraine/
2023.05.19
バイデン政権、NATO加盟国にF-16のウクライナ移転を許可すると伝達

(中略)
パイロットの訓練問題はひとまず置いておくとして、ウクライナが要求する「西側製戦闘機の提供」の実現を妨げている要因には「誰が機体を提供するのか」「誰が提供にかかる費用を負担するのか」という問題が確実に絡んでおり、先に結論を述べておくと米国は「ウクライナが戦争継続のため必要とする資金、装備、弾薬の大半を負担しているので戦闘機提供は欧州主導でやってくれ」と言うのが本音で、欧州は「ウクライナに引き渡す戦闘機をF-16に限定することで欧州は提供を支援する立場に収まりたい」と願っている可能性が高い。

そもそもウクライナが希望しているのは「西側製戦闘機」であって「F-16」である必要はなく、もしF-16の入手が難しいなら「ラファールやグリペンでもいい」とウクライナ空軍は述べており、米国は保有するF-16の提供に消極的なので、西側製戦闘機の提供に積極的な欧州諸国が保有する機体をウクライナに提供すれば、仮に政治的な問題で米国製戦闘機(F-16やF/A-18)の移転承認が困難なら欧州機(タイフーン、ラファール、グリペン)を提供すればいいだけだ。

要するに英国が主導する戦闘機提供の連合体が「F-16」に提供機種を限定するのは「誰が機体を提供するのかという問題の矛先を米国に向ける・巻き込む」という政治的な意図があり、最も戦闘機提供に積極的な英国は「我々にはウクライナが希望するF-16を持っていない」というロジックで機体を提供する立場にないと主張、メディアが政府の報道官に「F-16の代わりにタイフーンを提供する用意はあるのか」と質問すると「提供するつもりはない」と断言している。

(以下略)
「対ウクライナ支援の姿勢は取り続けるが、実際の供与はあまりしたくない」という本音がよく現れているようです。

軍事素人たる当ブログ管理者には、これらの分析がどれほど正しいのか独自に検証することは困難ですが、こういう報道がいち早く出てきた点に注目したいと思います。明らかにハイマースが供与・納入のときとは様子が異なっています

■以前の調子を続けている人
しかしながら、以前の調子を続けている人も・・・
https://news.yahoo.co.jp/articles/31e4564a17d603193f458996312751853249f117
バイデン大統領、ウクライナへのF16供与を容認 「旧ソ連製ミグ29の何倍もの戦闘能力」辛坊治郎が解説
5/22(月) 19:01配信
ニッポン放送

キャスターの辛坊治郎が5月22日、自身がパーソナリティを務めるニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」に出演。アメリカのバイデン大統領が19日、先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で各国首脳に、ウクライナ軍のパイロットにアメリカ製のF16戦闘機の訓練を行うことを承認したことを巡り、「F16はロシアやウクライナが主力にしている(旧ソ連製の)ミグ29戦闘機の数倍もの戦闘能力を持つ。ロシアとの戦況に非常に大きな影響をもたらす」と解説した。

(中略)
辛坊)アメリカ製の戦闘機にはF15もあります。F15は現在、日本の主力戦闘機です。F15はエンジンを2基積んでいますが、F16はこのF15のエンジンのうち1基を使い飛行します。ですから、F15よりも小型で軽量、高性能です。

F16は最新のステルス戦闘機より1世代前ですが、ロシアやウクライナが主力にしている(旧ソ連製の)戦闘機であるミグ29の何倍もの戦闘能力を持つといわれています。このF16がウクライナに供与されると、ロシアとの戦況に非常に大きな影響をもたらします。
軍事素人には具体的な誤謬の指摘はできませんが、ここ最近の報道記事の論調とは明らかに異なる「独自見解」であることは容易に分かります。

ハイマースのときもそうだったと記憶していますが、この手の方々は「秘密兵器による劇的な展開」に期待しすぎているように見受けられます。エンジンの性能を云々したりミグ29の何倍もの戦闘能力をもつなどと指摘したりする辛坊氏ですが、機体そのものの性能(それもカタログ上の性能)を比較することは、私が言うのもアレですが、いかにも素人という感想を禁じ得ません。戦力とは武器の性能の高さや兵士の士気の高さなどだけで規定されるものではなく、物量などを含んだトータルなものだからです。

昨年7月31日づけ「一種の英雄崇拝としてのHIMARS待望論に縋る日本世論」で、HIMARSの戦線投入を「ゲームチェンジャー」などと囃し立て「南部ヘルソン奪還へ」などと飛ばす日本世論について次のように述べました。
かつてヒトラーはV2ミサイルの投入に固執したものでした。ヒトラーは明らかに英雄崇拝思考の持ち主でしたが、奴のゲームチェンジャー・決戦兵器待望論は、単に敗色濃厚の戦況において一発逆転を期していた以上に、そもそもそういう考え方の持ち主だったとも考えられるでしょう。

我らが日本世論も、以前から指摘しているように、大河ドラマのような英雄豪傑物語を非常に好む傾向から言って一種の英雄崇拝があるものと考えられます。日本世論がゲームチェンジャー・決戦兵器に期待をかけ沸き立つのは、ヒトラーのV2固執と瓜二つ。ヒトラー的英雄崇拝の精神は現代日本にも脈々と受け継がれているようです。
上述のとおり、今回のF-16問題では早々に慎重な見解が見られており、日本世論も少しは冷静さを持つようになってきたようにも見えますが、辛坊氏のように「相変わらず」の人もまだまだ居るようです

■プロパガンダのやり過ぎは逆効果
あえてやっていると思しき人も。5月22日づけ放送「キャッチ!世界のトップニュース」の文字起こし記事です。
https://www.nhk.jp/p/catchsekai/ts/KQ2GPZPJWM/blog/bl/pK4Agvr4d1/bp/pOPy08ozxl/
ウクライナ情勢の焦点をキーウの防衛問題専門家と読み解く
2023年5月22日 午後5:20 公開

ウクライナのゼレンスキー大統領が出席したG7広島サミットはきのう閉幕。ウクライナが供与を求めていたF16戦闘機について、アメリカはヨーロッパの同盟国による供与を容認する立場を明らかにしています。バイデン大統領はサミットでの会談で、同盟国などとともにウクライナのパイロットへの訓練を開始することを表明しました。

また、ウクライナ東部の激戦地バフムトをめぐりウクライナ、ロシア双方の主張が食い違っています。ロシア大統領府はプーチン大統領がバフムトを完全に掌握したことを祝福したと発表し、一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアに占領されていない」と否定しています。

広島でのゼレンスキー大統領の発言を受け、焦点となった「F16戦闘機の供与や訓練」「バフムトの状況」「反転攻勢の見通し」について、別府キャスターがウクライナの首都キーウにいる防衛問題専門家のタラス・ジョウテンコ氏にインタビューしました。

(「キャッチ!世界のトップニュース」で5月22日に放送した内容です)

@ウクライナ軍への「F16戦闘機の供与や訓練」
まず、F16戦闘機についてです。ウクライナ側がかねてから欧米に求めてきたものですが、G7サミットの間に、アメリカはNATO加盟国がウクライナに供与することを決めた場合、容認する考えを示しました。また、ウクライナ軍のパイロットに対し、「F16戦闘機を使った訓練の実施を支援する」とし、ゼレンスキー大統領は支援への感謝を表明。欧米からウクライナへの軍事支援が一段と強化されることになり、ジョウテンコ氏は、「ロシアの空からの攻撃からの防衛に非常に大きな意味を持つ」と指摘しました。
 
ジョウテンコ氏:F16は空における優位性だけでなく、地上の作戦においても、ミサイル防衛においても、ウクライナ軍にとってゲームチェンジャーとなるだろう。巡航ミサイル、弾道ミサイル、ロシアがスーパー兵器だと主張するミサイルなどから、これまで以上に守られることになる。

(以下略)
このタラス・ジョウテンコ氏がどういう人物なのかが判然としませんが、「キーウにいる防衛問題専門家」という触れ込みなので、戦時下という状況を勘案するに「ウクライナ政府の公式路線に沿った情勢分析ができる人物」ということなのでしょう。おそらく国際的に権威のある専門家ではないように思われます。もしそうならば、箔をつけるために経歴紹介があるはずですから。

それにしても、ハイマース供与・納入のときとは打って変わって慎重な見方が当初から一般メディアでも報じられているところ、相変わらず、NHKは正体不明の「キーウにいる防衛問題専門家」を引っ張りだしてまで「ゲームチェンジャー」などと囃し立てているわけです。

NHKの報道論調どおりであれば、今頃ロシアのミサイルやドローンは完全に枯渇し、ロシア軍は士気の低下と弾薬の不足で攻勢どころか防衛態勢の構築さえ出来なくなっているはずです。しかし、バフムートはロシアの手に落ち、侵攻開始後で最大規模とされるドローン攻撃がキーウ市に対して行われました(「キーウへドローン攻撃 侵攻後で最大規模 ウクライナ」5/28(日) 12:45配信 時事通信)。

ロシアは崖っぷちだったのでは? 「ウクライナが優勢だとずっと言われてきたが、本当なのか?」という疑問が自然発生的に出てきてもおかしくないでしょう。このままいくとNHKは、自局に対する視聴者の信頼を失うだけではなく、いままで積み上げてきたウクライナ情勢の基本的な枠組みに対して視聴者の疑念を惹起しかねません。その結果、ウクライナの勝利に対する日本の視聴者たちの信頼を毀損しロシアの情報戦をアシストすることになるでしょう。「ウクライナが優勢だとずっと言われてきたが、いつまでもロシアは干からびない。NHKのウクライナ報道は疑わしい。そもそもウクライナが優勢で勝利は近いという認識も疑わしい」となりかねないのです。プロパガンダのやり過ぎは逆効果なのです。

■相変わらずのタラレバ論――人間を中心に主体的に考えるとは一体どういうことを指すのか
また、文字起こし記事は見つかりませんでしたが、5月20日「サタデーウォッチ9」では兵頭慎治・防衛省防衛研究所研究幹事が、F-16について「米欧諸国による武器支援レベルが一段上がった」としつつも、ウクライナはF-16戦闘機を200機ほど欲しているので、これからはアメリカが自らの手持ち機体を供与することも求められるだろうと指摘しました。

そんな大盤振る舞いしたらアメリカのウクライナ支援予算は、それだけで使い切ってしまうのでは・・・上掲「航空万能論」記事でも「この調子でF-16提供を要求されれば欧米諸国の支援資金は一瞬で蒸発する」と指摘されているとおりです。

相変わらずのタラレバ論。戦争とは政治的目標を達成するための手段の一つであり、戦争を実施するためには物質的な基礎基盤が絶対的に不可欠です。つまり、戦争を語るということは、その政治的目標が何処にあり、それを支える物質的基盤が何であるかを語るということでもあると考えます。米欧諸国がF-16を200機供与することで一体どのような政治的目標を達成し得るのか、そのための物質的基盤はあるのか。「アメリカが自らの手持ち機体を供与することも求められるだろう」ではなく、アメリカがそうする国益上の必要性と現実的な可能性を解説してこそ専門家なのではないかと考えます。

ちなみに、チュチェ思想派として私は、「人間を中心に主体的に考えるとは一体どういうことを指すのか、どうすればそのように考えることができるのか」と折に触れて考えています。現時点での見解としては、「現実世界を人間を中心に主体的に考えるとは、人間の利益上の必要性と現実的な可能性との関係性を踏まえて考えること」と個人的に理解しています。

「人間があらゆるものの主人であり、すべてを決定する」がチュチェ思想の基本原理ですが、ここからは、人間とは自己の自主的要求を追求すべくすべての活動を展開する存在であることが導出されます。他方、物質世界に生きる人間存在は客観的環境の影響を受けざるを得ないので、常に自己の要求と現実的可能性の折り合いが必要になります。なお、人間には客観世界を改造する創造的能力があるので、客観的環境の影響を一方的に規定されるものではありませんが、正しい方法に則って改造しなければ成功しないので、現実的可能性を踏まえる必要があります。現実的可能性を軽視し自主的要求にばかり偏重すると、日帝的精神論の失敗の轍を踏むことになります。リベラリズムも現実的可能性を重視しているとは言い難いので、日帝的精神論に近づきつつあると考えます。

マルクス主義は、社会変革のための現実的可能性については非常に深い理論体系を創出しましたが、社会変革に関する人間(プロレタリアート)の利益上の必要性に関する探究は必ずしも十分ではなかったように考えます。このことは、プロレタリアートのプチ・ブルジョア化が進んだ現実の推移を機敏に把握し得なかった一因であったように思われます。

兵頭氏について言えば、アメリカなどがF-16を大量に供与する国益上の必要性と現実的な可能性に踏み込むことなく「アメリカが自らの手持ち機体を供与することも求められるだろう」と話を繋げたことは、プロパガンダとして意識的に展開しているのでなければ、物事を人間中心に主体的に考えられていない証左であると私は考えます。僭越ながら申せば、要するに外しているわけです。こうした解説が公共電波に乗って放映されたことの意味合いは、プロパガンダだとしても素だとしても深刻な事態を示しているでしょう。
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2023年05月24日

いまだに「グローバルサウスをどう取り込むか」などと話している西側諸国の数百年にわたる「身から出た錆」

https://news.yahoo.co.jp/articles/177150c83b1ca6c9c35a847dd8722d9fa65fa4ce
岸田首相「グローバルサウス」とG7の連携を強調 広島サミット閉幕
5/21(日) 21:17配信
日テレNEWS

G7広島サミットの閉幕にあたり、岸田首相は会見で、「グローバルサウス」と呼ばれる途上国・新興国とG7との連携強化を強調しました。

ロシアによるウクライナ侵攻で途上国や開発国などに経済的な影響が広がる中、岸田首相は、「こうした国や人の声に耳を傾ける」と強調しました。

岸田首相「世界が複合的な危機に直面する今こそ、国際的なパートナーの声を聞き、きめ細かに対応していく決意です」

(以下略)
最近急に耳にするようになってきた「グローバルサウス」なる単語。三菱総合研究所の記事によると、「明確な定義はないが、言葉が広まった1950年代は、「支援されるべき対象」「発展途上国」としての意味合いで使われることが多」く、「@冷戦後の「第三世界」に代わる呼称A南半球に存在するかどうかに関わらず相対的に貧しい国々を指す呼称B立場の弱い南の国々の政治的連帯を指す呼称の3つの側面がある」とのこと。なに、まだこんなことを言っていたの。久しい以前から「課題」として指摘されているのに、いまだに「グローバルサウスをどう取り込むか」などと話しているということは、数十年もまったく進捗していないということに他なりません。

ここにきて数十年来の課題(宿痾?)を、装いだけを新たに持ち出した理由は明らかです。というよりも、自白していますw
https://news.yahoo.co.jp/articles/dbc043e241ce07dddb6dd233c2e7b5ba134fb070
G7、2日目開始 中露にらみグローバルサウスとの連携協議
5/20(土) 10:51配信
産経新聞

先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)は20日午前、2日目の討議に入った。G7と中国、ロシアの対立が激しさを増す中、国際社会で「第3極」として台頭する「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国との連携強化に向けた支援策などを話し合う。続いて、中国による経済的威圧を念頭に、鉱物資源や半導体など重要物資のサプライチェーン(供給網)の強靱化を協議する。

広島サミットは同日午後、グローバルサウスの中核に位置づけられるインドを含む招待国8カ国の首脳らも参加し、「拡大(アウトリーチ)会合」を実施する。ロシアによるウクライナ侵略以降、グローバルサウスが直面している食料危機などを中心に意見を交わし、成果文書を取りまとめる。

(以下略)
https://news.yahoo.co.jp/articles/3200b36710161647ee21c29caff7e1222e72f96d
国際秩序維持へ「第三極」取り込み 対中ロ、温度差に危機感 岸田首相・広島サミット
5/21(日) 7:06配信
時事通信

 岸田文雄首相は先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の20日の討議で、「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国との連携強化を軸に据えた。

 ロシアのウクライナ侵攻で浮き彫りとなったG7とグローバルサウスの温度差に対する危機感が背景にある。G7、中ロ双方に距離を置く「第三極」がそれぞれ事情を抱える中、首相は「法の支配」に基づく国際秩序の強化に向け、働き掛けを重視する姿勢を打ち出した。

(中略)
 新興・途上国がウクライナ侵攻の影響で食料やエネルギー分野で危機に直面する中、首相はサミットに先立ち、アフリカ4カ国を歴訪。4日にアフリカ東部モザンビークで記者会見した際には、「G7の対ロ制裁が食料・エネルギー価格高騰の原因だという誤った印象を与えて分断する動きがある」と懸念を示していた。

 新興・途上国の一部には、こうした考えを持つ国もあるといい、政府関係者は「G7の支援がウクライナばかりに向いているとの不満がある」と指摘する。

(中略)
 ただ、インドはロシアと軍事的結びつきが強く原油輸入も続けており、G7、中ロ双方と等距離を保つ姿勢を崩してない。新興・途上国には中ロとの関係が深い国が多く、政府関係者は「価値観の押し付けと思われる場合もある」と述べ、G7の側に引き寄せる難しさを口にした。
なんのことはありません。昔の構図のまま。「第一世界」(西側諸国)と「第二世界」(東側諸国)が、お互いの闘争(冷戦)において自陣営を有利にするため「第三世界」に触手を伸ばしているに過ぎません。

先般、朝鮮中央通信は、共和国の国際問題評論家であるチョン・イルヒョン氏の分析として次の記事を配信しました。
https://www.coreanews.net/entry/2023/05/09/152947
2023-05-09
米国の欺瞞的な対アフリカ政策は失敗を免れない 朝鮮の国際問題評論家が指摘

 朝鮮の国際問題評論家チョン・イルヒョン氏が7日、発表した文「米国の欺瞞的な対アフリカ政策は失敗を免れない」と題した文を発表した。朝鮮中央通信が7日配信した。

 チョン氏は文で、「米国の新たなアフリカ戦略の目的が決して、アフリカ諸国のためのものではなく、徹頭徹尾地域で日ごとに高まる中国とロシアの影響力を牽制し、覇権を追求することで、自分らの世界戦略実現のための踏み台を築くところにある」と指摘、アフリカ大陸で「覇権主義に基づいた米国の強権と専横」は通じないと強調した。

 以下に全文を紹介する。

(中略)
新たなアフリカ戦略の本質
 昨年8月、米国は速い人口成長、豊かな天然資源、国連舞台における影響力など、アフリカの地政学的重要性について列挙し、今後5年間、民主主義、安保、経済をはじめとする分野でアフリカ諸国との協力を一層強めるという内容の新しいアフリカ戦略を発表した。

 新しい戦略の真情さを証明して見せるかのように、今回アフリカを訪問したホワイトハウスの高位政客らは、アフリカ諸国の経済危機解消と安全保障、社会発展にいわゆる大きな寄与でもするかのように華麗な言辞とさまざまな協力うんぬんを並べ立てた。

 しかし、彼らの現地での言動を注意深く見てみると、米国の新たなアフリカ戦略がいったい何を狙ったものかが難なく分かる。

 今年に入って、真っ先に地域を訪問した財務長官は、訪問の先々で大陸が経ている食糧危機をロシアの「せい」になすり付け、ロシア産ガスと石油に対する価格上限制導入の必要性を力説するのに熱を上げたし、ザンビアではこの国の対外債務問題を解決するためには中国の「積極的な協力」が必要であると言い、地域に生じた債務危機の責任を中国に転嫁しようとした。

 ニジェールを訪れた国務長官もやはり、西アフリカ地域でのロシアの軍事活動に言い掛かりをつけて反ロシア雰囲気を鼓吹し、アフリカで最もひどい債務危機をなめているガーナとザンビアを訪問した副大統領は米国の「透明性のある援助」と中国投資の「危険性」を口を極めて宣伝した。

 結局、米行政府高官らの言行は、米国が昨年、発表した新たなアフリカ戦略にロシアと中国がアフリカで自分らの利益のために不安定を造成し、国際秩序に挑戦していると記した文句をもう一度想起させたものになった。

 諸般の事実は、米国の新たなアフリカ戦略の目的が決して、アフリカ諸国のためのものではなく、徹頭徹尾地域で日ごとに高まる中国とロシアの影響力を牽制し、覇権を追求することで、自分らの世界戦略実現のための踏み台を築くところにあるということを示している。
歴史的事実、そして帝国主義をめぐる社会・経済学的な見通しを持っていれば直ちに「帝国主義の本質は何も変わっていない」ことが分かるはず。その意味でチョン・イルヒョン氏は非常に重要なポイントを指摘しています。

G7の魂胆は見抜かれているのでしょう。グローバルサウスとロシアとを引き剝がすというのは西側諸国の目下の重要課題ですが、道のりはかなり険しそうです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/5b9d22c1f9a337a6ed721e1da7b1dadaab24680d
ブラジル大統領、米国を批判 国連でウクライナ議論訴え
5/22(月) 9:50配信
共同通信

 先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の拡大会合に参加したブラジルのルラ大統領は22日、広島市で記者会見し、ロシアの侵攻を受けるウクライナを支援する米国のバイデン大統領はロシアへの攻撃をけしかけていると批判した。平和実現のためには「意味がない」と述べ、ウクライナ問題はロシアと敵対するG7の枠組みではなく国連で議論すべきだと訴えた。

 G7広島サミットでは、「グローバルサウス」と呼ばれ、ウクライナ侵攻で中立的な立場を取る国も多い新興・途上国との連携強化が焦点の一つだったが、その一角のブラジルとG7の足並みの乱れが一連の会議終了直後に露呈した。

(以下略)
マンガのような絶妙タイミング。「米国のバイデン大統領はロシアへの攻撃をけしかけている」というのは、まさにロシアが描くこの戦争の構図そのものです。インドなどのように抽象論でのらりくらりと西側諸国の要求を回避するのとはレベルが違います。

少し前には、南アフリカがロシアに対して秘密裏に武器提供した情報があると駐南ア米国大使が発言し物議を醸しました。結局、発言当人は謝罪したそうですが、この一件からは、少なくともアメリカ政府は南アフリカの対ロ政策にかなりの不満を持っていることが分かります。
https://news.yahoo.co.jp/articles/39f072614e7a5c493b26c9317743305dfd85b6a9
南アが反論「ロシアへの武器供給承認せず」、指摘の米大使は謝罪
5/13(土) 0:45配信
ロイター

[ヨハネスブルク 12日 ロイター] - 南アフリカは12日、制裁対象のロシア船が昨年12月に南アフリカ・ケープタウン近郊の海軍基地で武器を積載したとする米国の非難に反論した。

米国のブリゲティ駐南アフリカ大使は11日、ロシアの船舶が昨年12月に南アフリカのサイモンズタウンの海軍基地で武器を載せたと確信していると述べ、南ア政府が公言するウクライナ紛争での中立性に合致しないことを示唆した。

(中略)
南ア外務省はこの日、ブリゲティ大使を呼び、前日の発言について抗議。外務省は声明で「昨日の行動と発言に対して政府の強い不快感を表明した」とした。外務省によると、ブリゲティ大使は「一線を越えた」ことを認め、「南ア政府と国民に無条件で謝罪する」と述べたという。

ブリゲティ大使は、パンドール南ア外相と会談し、自身の公の発言による誤解を正すことができたとツイートした。
(以下略)
マレーシアがグローバルサウスになるのかは分かりませんが、マハティール元首相の発言。
https://news.yahoo.co.jp/articles/78adfe3446d60171724cdd0c694b288010468441
軍事支援は「対立を激化」 マハティール氏、G7批判
5/23(火) 18:21配信
共同通信

 来日中のマレーシアのマハティール元首相(97)が23日、東京都内で共同通信の単独インタビューに応じた。先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で首脳らがロシアの侵攻を受けるウクライナへの軍事分野を含む支援で連帯を示したことについて「争いを激化させるだけだ」と批判した。

 マハティール氏は、バイデン米大統領が米国製F16戦闘機の供与を容認したことなどを念頭に「米国はロシアとの対立をあおっている」と非難。

(以下略)
朝鮮中央通信などは開戦当初から指摘していたことですが、やはり、見る人がみればそう見えるんですよね。

さて、グローバルサウスを取り込むために西側諸国は経済的支援を基本に据えるようです。その方向性は今次サミットで非常に明確でした。外野に目をやれば、「グローバルサウスの国々を「西側」が引き寄せるためには 「6G」を握れるかどうかがポイント」(5/15(月) 17:30配信 ニッポン放送)といった記事もでてきています。

話しはそう簡単には行かないでしょう。西側諸国が提示する「支援」にはいつも裏があり、今回もそうだろうと疑うには十分過ぎる歴史的事実があります。西側諸国が総じて資本主義の最高段階としての帝国主義国である点を鑑みるに、この「経済支援」は結局のところ「商品市場と資本投下先の確保」に堕するであろうという予測も成り立ちます。西側諸国の社会経済体制が近江商人の「三方よし」精神とそれを支える制度であれば信用されたでしょうが、ますます激しくなる競争環境は、そこから日々ますます遠ざかっていると言わざるを得ません。そんなわけで、西側諸国が中国やロシアを上回る「経済支援」を供与したところで、アフリカ諸国は簡単には靡かないでしょう。

ちなみに、中ロ両国との対立軸を描くためかG7についてはしばしば「自由と民主主義の価値観、法の支配の重要性・・・」云々言われていますが、勢力拡大のための売り文句が「経済支援」ということは、やはりG7の本質は経済的な利益集団に過ぎないことを自ら証明しています。語るに落ちるとはこのことを言うのでしょう。かつてソ連が、蒋介石支援のような例外はあるとはいえ、一応は共産主義イデオロギーを標榜する集団に支援していたのとは大違いです。これに対して、ソ連の足を引っ張るためならポル・ポトをも支援したのが西側諸国。やはりただの利益集団と言わざるを得ないでしょう。

ここでいう帝国主義は「新植民地主義」というべきものを指しています。新植民地主義についてキム・ジョンイル総書記は『反帝闘争の旗をさらに高くかかげ、社会主義・共産主義の道を力強く前進しよう』(チュチェ76・1987年9月25日)次のように指摘しています(『金正日選集』第9巻、朝鮮・外国文出版社、邦文、1997、p26〜27)。
第2次世界大戦の結果、民族解放運動がかつてなく高揚し、植民地体制が崩壊して、帝国主義は致命的な打撃を受けました。帝国主義者は失った植民地を取りもどすため、狡猾な新植民地主義的方法を追求しました。かれらは、むきだしの強圧的な方法によって植民地を支配し略奪した以前とは異なり、新興独立諸国と発展途上諸国の自主権を名目上認め、「援助」を提供する方法でこれらの国を政治的、経済的に従属させ、搾取と略奪を強行しました。

新植民地主義は、帝国主義者が発展途上諸国に容易に浸透できる方法となりました。帝国主義列強は、かつては植民地をめぐってはげしい争奪戦をくりひろげましたが、新植民地主義に依拠するようになってからは結託して発展途上諸国に浸透し、とくに「援助」をエサにしてこれらの国の人民の抵抗をおさえ、容易に商品市場と原料資源を手に入れることができました。
帝国主義は19世紀や20世紀に現象として見られたもの――軍事的に進出し武力で統治する――だけではありません。まして16世紀のスペイン帝国のように植民地住民を奴隷のように酷使して強烈に搾取するような体制だけでもありません。資本主義の最高段階としての帝国主義の基本目的は「商品市場と資本投下先の確保」です。植民地にも積極的に投資をすることが現代帝国主義なのです。

20世紀後半以降、植民地独立運動の激化や米欧列強ではリベラリズム高揚により、英仏に代表されるような旧来型の植民地支配の継続が困難になってきました。植民地独立運動を抑えるコストが飛躍的に高まり、また、植民地統治を続ける大義名分が失われていったのです。他方、資本主義の更なる高度化によって植民地の位置づけが「商品市場と資本投下先の確保」に純化・収斂していったことから、必ずしも直接統治する必要もなくなっていました。

それゆえ米欧列強は、思い切って植民地の独立を認めることにしつつ経済面では支配下に置くことで、植民地主義をアップデートし、実質的には何ら違いのない方法を取ることにしたわけです。新植民地主義においては、いままで培ってきた植民地経済の利権構造を守りつつ、新しい独立政府がその利権を損ねるような真似をすれば、「援助」の匙加減を利用したり、あるいは政権転覆したりするという手法を取るようになりました。総書記が指摘なさるようにこれが新植民地主義であり、現代帝国主義の狡猾な正体なのであります。

いわゆるグローバルサウスの国々は、総じて西側諸国の植民地支配を受けてき、独立後も西側諸国の「援助」を受けてきました。西側諸国が「どういう人たち」なのかを痛いほど知っています。西側諸国の「援助」に裏があることをよく知っている訳です。ルラ・ブラジル大統領の発言は直球過ぎますが、ここまで西側諸国の思いどおりに中ロ両国の封じ込めが上手くいかず、いまだに「グローバルサウスをどう取り込むか」などと話している西側諸国ですが、その背景には、西側諸国の数百年にわたる「身から出た錆」の存在を指摘しないわけには行かないでしょう。
ラベル:国際「秩序」
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2023年05月19日

ロシアの在郷退役軍人(予備役)部分動員が「追い詰められている証拠」で、戦闘未経験者を含むウクライナの志願兵募集が「挙国一致で侵略者と戦う」?

https://news.yahoo.co.jp/articles/5ab3bbd54fc1c60362d68380b635f4eb60a3b139
ウクライナ反転攻勢へ… 数万人規模の“志願兵”を募集 戦闘未経験者も… 
5/19(金) 5:53配信
日テレNEWS

反転攻勢の準備を進めるウクライナでは、新たに数万人規模の志願兵を募集しているといいます。年齢や性別を問わず、多くの人が面接を受けており、なかには戦闘経験が一度もない人もいるといいます。侵攻開始から間もなく1年3か月となるウクライナの今を取材しました。

(以下略)
昨秋にロシアが予備役つまり在郷退役軍人の一部に動員をかけたとき、挙って「ロシアは追い詰められている!」とされたところ、今回のウクライナによる戦闘未経験者を含む志願兵募集については、そのような反応はまったくといってよいほど見られません。この記事も「挙国一致で侵略者と戦うウクライナ」風の仕上がりになっています。「物は言いよう」とは、まさにこのことを言うのでしょう。

服部倫卓・北海道大学教授の下記コメントがプロパガンダ破りになっているのが幸いです。
今のところ「部分動員」に留まっているロシアと異なり、ウクライナでは「総動員令」が出ている。
にもかかわらず、このニュースでは数万人規模の「志願兵」を募集していると伝えており、その点がやや意外だった。
それだけ、ウクライナは今次の反転攻勢に賭けているということなのだろう。逆に言うと、この反転攻勢でロシアによる占領地を広範に解放できないと、戦線が膠着してしまう恐れがある。

(以下略)
非常に妥当な見方だと思います。
ラベル:メディア
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2023年05月17日

人間であること自体が自信の根拠である究極的な自己肯定感に支えられた哲学思想たるチュチェ思想

https://news.yahoo.co.jp/articles/b880ecd3e55f04481982102391070c5803bbdbac
「自己肯定感」を追い求めることが泥沼である訳 評価されないと自分はダメと感じてしまう人へ
5/1(月) 8:02配信
東洋経済オンライン

(中略)
■誰とも比較されない「自分だけの価値」

 他人と比較されない場所に、自分の価値をちゃんと見つけてあげることが大事ですね。

 例えば、会社で評価が上がった、下がったということばかり気にしていたとしても、「仕事はもちろん大事だけれども、それがすべてではないよね」とも考えられます。

 子どもを育てたり、夫婦の生活があったり、趣味で活躍したり、自分にはいろんな生活の基盤があって、それぞれの場所に自分のペルソナがあるわけです。

 いろいろな価値観がある中で、1つの物差しだけで見ることはないと考えるようにしていけば、少しずつ見え方が変わるのではないでしょうか。

 ただ、なかなか価値観は変えられませんし、いまの自分を認めようと思いながら、認められないことに苦しんでいる人も多いものです。

 そこで、自己肯定するということではなく、まったく違う発想をしていただきたいというのが、僕の考えです。

 自己肯定感というものは、実は、認めなくてもよいものです。「認めても、認めなくてもどちらでもよい」という状態でいることが、究極の自己肯定なのです。

 自分の人生というのは、自分が生きている間にしかないものなんですよね。周りはどうでもいいんです。

 自分勝手に生きようと言っているわけではありませんが、自分の意識も身体も存在しているこの時間を、せっかくなら楽しく過ごそうと考えてはどうでしょうかという話なんですね。

 認める、認めないはどうでもよくて、楽しく過ごせるようにすればいいわけです。自分にとって効果が得られて、そこに関しては自分を肯定できるなと思ったら、それを楽しんでやればいいし、肯定できなくて苦しいと思ったら、時間がもったいないと考えて、他のことに回せばいい。

 そういうふうに時間を楽しくする意識を持ち、次元を変えてしまうと、自己肯定できる、できないという話からは解放されるのです。

■もっと動物らしく生きよう

 言い換えると、もっと動物らしく生きましょうということでもありますね。

 犬や猫は、「僕はこのままでいいんだろうか」なんてことは、たぶん考えていないと思います(笑)。単純に楽しく生きようとしていますよね。ご主人様が帰ってくれば尻尾をふって、「美味しいものを食べたいぞ」「散歩に行きたいな」――そういう感じでいいんですよ。

 余計なことを考えすぎだという話なんですね。

(以下略)
言いたいことの趣旨はだいたい分かるのですが、「もっと動物らしく生きよう」という表現に違和感。誰とも比較されない「自分だけの価値」」を追求することは、まさにチュチェ思想が掲げる主体的人間の姿そのものだからです。

著名な革命歌謡≪승리의 길≫(勝利の道)では次のように歌われています。
우리는 자기를 믿듯 승리를 굳게믿고 산다
我らは己を信じるように 勝利を固く信じて生きる

고난의 천리를 가면 행복의 만리가 온다
苦難の千里を行けば、幸福の万里が来る

수령님 따라서 시작한 이 혁명
首領様に続き始めたこの革命

기어이 장군님따라 승리 떨치리
必ずや将軍様に従い勝利を轟かさん
우리는 자기를 믿듯 승리를 굳게믿고 산다≫(我らは己を信じるように 勝利を固く信じて生きる)――通常の観念では、この歌詞とは逆に、何かしら外部から与えられる根拠なり信念ゆえに自分自身を信じることができるものです。たとえば、マルクス・レーニン主義者は、マルクス・レーニン主義の教義が科学的に正しいことを根拠に自分自身の考えに自信を持っています。それゆえ、マルクス・レーニン主義の教義に揺らぎが見られた1980年代末のソ連・東欧圏での混乱を前にすっかり自信を失い、いとも簡単に革命の旗を捨て去ったものでした。

これに対してチュチェ思想は、「人間があらゆるものの主人であり、すべてを決定する」という人間中心の哲学的原理ゆえに、自己が人間存在たること自体に自信の根拠を置き、「自分自身を信じるからこそ、自らの創意工夫によって実現される勝利を確信する」という立場に立ちます。人間であること自体が自信の根拠なのです。

言い換えれば、「科学的に正しい理論・路線に則るからこそ自信を持つ」のではなく、「人間があらゆるものの主人でありすべてを決定するからこそ、紆余曲折や一時的失敗・困難はあったとしても最終的には成功を収め得るので、自信を持つ」のであります。

チュチェ思想は、自分自身が人間存在である点に唯一的な根拠を置く、究極的な自己肯定感に支えられた哲学思想であるのです。その立場から申せば、「もっと動物らしく生きよう」という記事の呼びかけの趣旨はだいたい分かるのですが、「むしろ、これこそが真の究極的な人間的生き方だ」と申したいところです。

その意味で、アイデンティティの危機に陥りがち現代においてこそ、究極的な自己肯定感に支えられた哲学思想たるチュチェ思想の可能性が高まっていると私は考えます。
ラベル:チュチェ思想
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2023年05月13日

政治指導者が自主的・主体的に決断を下さず事大主義・他力本願に走ると、取り得る選択肢が狭まってゆく

久しぶりにウクライナ情勢。

■自ら反転攻勢による戦果の期待を大きく膨らませておきながら「F16などの追加支援が未到着でも攻勢を始めざるを得ない」という状況に追い込まれてもいる
「ウクライナ軍の春季攻勢は近い」と言われ始めて少なくとも1か月は経ちました。昨夏のハルキウ方面での攻勢が直前まで攻勢意図さえも厳重に秘匿された正に奇襲攻撃であったところ、今回は随分と早くからゼレンスキー政権幹部らによって春季攻勢がアナウンスされ、敢えて期待を膨らませているかのようです。まるでスポーツの国際試合であるかのような盛り上げ方です。いったいどうしたのでしょうか?

そうかと思えば、ここ数日は次のような「軌道修正」的な報道が出てくるようになってきました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/b9ae49a090c6cfc2b968afe0474fb71c5fcea018
ゼレンスキー氏、反転攻勢の開始「もう少し時間が必要」…米欧供与の装備を待つと説明
5/11(木) 20:19配信
読売新聞オンライン

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は10日、英BBCとのインタビューで、侵略を続けるロシア軍に対する大規模な反転攻勢の開始には「もう少し時間が必要だ」と述べた。兵士の犠牲を減らす準備を整えるため、当初は「4月か5月」(ウクライナ国防相)としてきた反攻の時期がずれ込む可能性を示唆した。
 
 ゼレンスキー氏は「今の状態でも我々は前進し、成功するだろう。ただ、多くの兵士を失うのは受け入れられない。待つ必要がある」と述べた。反攻に向けて編成した旅団は「用意ができている」と強調しつつ、「(米欧諸国が)供与を約束した装備の全てが届いていない」と指摘し、装甲車などの到着を待っていると説明した。

(以下略)

https://news.yahoo.co.jp/articles/7e030169b808d715d1f9bd672d9016560f369dc0
ウクライナが計画する反転攻勢、決定的な現状打破にはならず 英外相
5/10(水) 9:35配信
CNN.co.jp

(CNN) ロシアによる侵攻が始まって以降、ウクライナは大きな勇気と抵抗を示しているが、映画のような反転攻勢を期待するべきではないと、英国の外交トップが指摘した。

訪米中のクレバリー英外相は9日、「現実の世界はそのようには展開しない」と述べた。

ウクライナを巡っては、近くロシアに対する反攻が行われるとの見方が広がっている。

クレバリー氏は「ウクライナ軍には大いに奮闘してほしいし、それを期待している。ここまで彼らが期待を上回る戦果を挙げるのを見てきたからだ」としつつ、それでも人々は「現実的になる必要がある」と付け加えた。

「これは現実の世界であって、ハリウッド映画ではない」(クレバリー氏)

(以下略)
大規模な攻勢があるのかないのかハッキリしない状態を長引かせ、ロシア軍にプレッシャーを掛けて精神的に疲弊させるという情報戦の可能性も否定は完全にはできません。しかしながら最近、ゼレンスキー大統領をはじめとする政権幹部は、あれほど渇望していたF16戦闘機の供与を待たずして攻勢に出るとも述べており、情報戦とは言い難いようにも見受けられます。
https://news.yahoo.co.jp/articles/5c611255856ace38010df174ce440c2dff0d12bb
ウクライナ軍報道官「反転攻勢の準備」クリミア火災に軍の関与示唆
5/1(月) 13:59配信
日テレNEWS

(中略)
また、ゼレンスキー大統領は北欧メディアによるインタビューでも反転攻勢に触れ、西側諸国からの援助が約束されている「F16戦闘機などの兵器の納入を待たずに開始する」と話し、すでにロシア軍も防衛に向けて準備を進めていると述べています。
(以下略)
航空優勢のない状態で戦車や装甲車だけで攻勢をかけることは、まさにロシア軍がこの戦争で何度も犯してきた失敗であるはず。下記記事によると、ウクライナが以前から保有しているミグ29戦闘機では戦況打開にとっては不足とのこと。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230324/k10014017831000.html
「ロシア対抗には米のF16が必要」ウクライナ空軍パイロット
2023年3月24日 5時44分

(中略)
今月上旬、NHKの取材に応じたのは、ウクライナの防空任務にあたる空軍の戦闘機部隊の隊長で、自身もミグ29戦闘機のパイロットを務める男性です。
(中略)
そのうえで「大国ロシアは多くの戦闘機や兵器を持っている。ウクライナが勝利できるのは、ロシアよりも最新の兵器などを使う場合に限られる」と述べ、最新兵器の一層の供与を求めました。
(以下略)
ロシアを混乱・攪乱させるための情報戦とは考えにくいでしょう。混乱・攪乱のために「F16戦闘機などの兵器の納入を待たずに開始する」というのは、筋書きとして不自然です。「早急なる供与を求めるための一芝居」とも考えづらいものです。そんな「脅し」を掛けられるほど今のウクライナの立場は強くありません。「F16などの追加支援が未到着でも攻勢を始めざるを得ない」という状況にウクライナが追い込まれているように見受けられます

■事大主義者がついてきた大言壮語が自縄自縛するに至った
昨夏の前例に反して、自ら反転攻勢による戦果の期待を大きく膨らませておきながら「F16などの追加支援が未到着でも攻勢を始めざるを得ない」という状況に追い込まれてもいるようにも見える・・・非常に不可解だなと思っていたところ、英タイムズ紙の≪Ukraine is not ready for any offensive, but will have no choice≫という記事を読んで疑問が氷解しました。ウクライナ軍は、実際のところ順調には準備が整っていないのに大規模攻勢の期待を膨らませる宣伝を展開せざるを得なかったのです。

記事は次のように指摘しています。
they still lack proper air defenses for any major offensive operation. That puts them at risk from Russian supremacy in the air. Western defense sources are also unsure whether senior commanders can adapt to the new systems as well as their soldiers on the ground.Still, Kiev has little choice but to launch a major spring or summer offensive. Its leaders are increasingly locked up. As one US defense official put it: “The Ukrainians have surprised us as well as Putin in the past, but have much less room for maneuver now . . . and the Russians know it.”
彼ら(注:ウクライナ軍)には大規模な攻撃作戦を行うための適切な防空手段がまだない。これにより、彼らはロシアの航空優勢の危機にさらされることになる。西側の国防関係者らも、上級指揮官が地上の兵士と同様に新しいシステムに適応できるかどうかについても確信を持っていない。それでも、キーウ政権には春か夏に大規模な攻勢をかける以外に選択肢はほとんどない。キーウ政権の指導者たちはますます追い込まれている。あるアメリカの国防当局者は次のように述べている。「ウクライナ人はこれまでプーチン大統領と同様に我々を驚かせてきたが、現在は策動の余地がはるかに少ない…そしてロシア人はそれを知っている」

President Zelensky has played the West with great skill, but to maintain support he must show what Washington insiders rather tastelessly call a “return on investment”.
ゼレンスキー大統領は西側諸国に対して優れた手腕を発揮してきたが、その支持を維持するには、ワシントンの関係者たちが悪趣味的に「投資収益率」と呼ぶものを示さなければならない
事大主義者がついてきた大言壮語が自縄自縛するに至ったというべきでしょう。米欧諸国の支援を頼みの綱とし、その歓心と支持を取り付けるために時に大言壮語してきたゼレンスキー政権幹部は、いよいよ成果を上げなければ面目が立たない局面に至ったのです。

今の状態でも我々は前進し、成功するだろう。ただ、多くの兵士を失うのは受け入れられない。待つ必要がある」という上掲読売記事に掲載されているゼレンスキー大統領の発言は、遅ればせながら状況を把握した事大主義者の発言として理解できるでしょう。米欧諸国はウクライナに巨額の支援を展開してきましたが、これは結局のところ、ロシア弱体化のための鉄砲玉としてウクライナ人を利用するという魂胆によるものに過ぎません。ウクライナ人がどれだけ死んだところで米欧諸国にとっては痛くも痒くもありません。ゼレンスキー大統領が言うとおり、いまのまま攻勢を開始すればウクライナ軍の人的損害は大きくならざるを得ませんが、ウクライナ人の流血に「寛容」な米欧諸国からすれば「F16があろうとなかろうと挙げられる戦果は大して変わらない。いま手持ちの戦車で突撃しろ。散々支援してきたんだぞ。そろそろ代金をお前たちの血で払え。損失は受け容れろ」というわけでなのでしょう

自国人民の命運をかけた戦いにおいて、他国の支援に依拠することが如何に危険であるかを示す好例だと言えるでしょう。

■指導者がしっかりとガバナンスを効かせることができなかった結末
戦果を上げなければならないとはいえ、初めから冷静で現実的な情勢分析に基づいて発言し支援を要請してきていれば、次回攻勢にここまで期待が掛けられることはなかったでしょう。ミリー参謀総長をはじめとしてアメリカ軍部は早くから「軍事的勝利でこの戦争を終わらせることはできない」と警鐘を鳴らしていたところゼレンスキー大統領をはじめとする政権幹部は、そうした指摘に真剣に耳を貸すことはありませんでした。大きな軍事的勝利に執着して巨額の軍事支援を引き出し続け、自ら反転攻勢のハードルを上げて来ましたが、その背景には、国内強硬派の声があるように思われます。記事では次のようにも指摘されています。
He must also balance domestic politics. Hawks like Kyrylo Budanov, Ukraine’s military intelligence chief, are preventing any meaningful talk about negotiations,
彼(ゼレンスキー大統領)は国内政治のバランスも取らなければならない。ウクライナ軍の情報機関トップであるキリロ・ブダノフのようなタカ派は、交渉に関する有意義な話し合いを妨げている。
国内強硬派の突き上げを収めることができず、彼らの要求のままにゼレンスキー大統領ら政権幹部は米欧諸国に軍事支援を求めてきたと整理できそうです。指導者がしっかりとガバナンスを効かせることができなかった結末としても現在の情勢を理解することができるでしょう。

■指導者が自主的・主体的に決断を下さないとこうなる
もしかすると、「欲しいと言ったところで無条件に供与されるわけではないので、国内強硬派がうるさいし、無理そうでも取りあえず要請してみるか。希望どおり供与されなくても『アメリカ様の決定だ』と言えば、国内強硬派もしつこくは言わないだろう。ゼレンスキー大統領以外にリーダーたりうる人物はウクライナにはおらず、アメリカの支援なくして一日たりとも戦い続けることはできないからな。ロシアとの停戦交渉に決定的な悪影響が生じるようなモノなら、アメリカが慎重に考えた上で決めてくれるだろう」という他人任せな見通しだったのかもしれません。

もしそうだとすれば、アメリカもまた一枚岩ではないことを見落としたと言わざるを得ません。たしかにアメリカは、総路線としてはウクライナ支援の立場を表明していますが、情報機関がロシア封じ込め・ロシア弱体化のためにこの絶好の機会をさらに活用しようと望んでいるのに対して、軍部は中国との覇権競争を見据えこの戦争の長期化・拡大には反対する立場を鮮明にしています。ウクライナ軍の迎撃ミサイルがポーランド領内に着弾した昨秋の事件では、情報機関が「ロシアのミサイル説」をリークしたのに対して、ただちに軍部が「そのような証拠はない」と火消ししましたが、この一件は、アメリカ政府内部での路線対立が顕在化したものとして捉えることができます。

国内強硬派からの突き上げを自ら収めようとせずアメリカがよい塩梅に調整してくれるだろうと期待したレンスキー政権が「とりあえず要請」したところ、戦火の拡大を望む一方でウクライナの損害には「寛容」なアメリカの情報機関が「当時者がこう言っているから」と後押しし、懸念する軍部を情報機関が説き伏せていたとすれば、国内強硬派の突き上げ、米情報機関の期待、そして米軍部の「成果があるって聞いたんだけど」を受けるゼレンスキー政権としては、次回攻勢は必ず実行し大戦果を上げないわけには行かなくなります。

状況を総合するに、米欧諸国依存の事大主義の末路、及び国内強硬派に対して指導者がしっかりとガバナンスを効かせることができなかった結末として現在の状況を位置づけることができるように思われます。政治指導者が自主的・主体的に決断を下さず事大主義・他力本願に走ると、取り得る選択肢の乏しい現在の状況に至った原因であると考えられるのです。

以前、鈴木宗男代議士が「自力で戦えないなら停戦すべきだ」と述べて激しく叩かれていましたが、鈴木氏は戦争を他力本願で進めるといつか選択肢をなくすと見抜いていたのでしょうか?
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2023年05月08日

災い転じて福となすべく「民間にできることは民間に」を換骨奪胎しよう

統一地方選挙が終わりました。

■維新とは本質的に自民である
各種選挙のたびに話題になる「維新の躍進」について今回の統一地方選挙でも話題になっています。たしかに維新は議席数を大きく伸ばしました。日本の政治に新しい時代が切り拓かれつつあるように見えるかもしれません。しかしながら左翼・チュチェ思想派たる私は、今般の維新の躍進は、大勢に(そして体制に)影響はないと見ています。なぜならば、維新とは本質的に自民であると考えているからです。

こんなことを言うと維新支持者は目の色を変えて反論してくることでしょう。橋下語録、松井語録、吉村語録を引き合いに出して自民党との違いを並べることでしょう。しかし、党の性質とは、党が掲げる看板や党幹部の言動だけで規定されるものではなく、ひとりひとりの党員や党を支持する有権者によっても規定されます。より正確に言えば、ひとりひとりの党員や党を支持する有権者と党が掲げる看板や党幹部の言動は相互作用的に影響を及ぼし合い、その結果として党は形成され発展するのです。

維新支持者も含めて万人が認めることだと思いますが、共産・社民・れいわの各党に投票する層は維新には投票しないだろうし、逆もまたしかりでしょう。これに対して自民党と維新、ついでにいえば国民民主党や立憲民主党は支持層が被っていると考えられます。公明党? あそこは創価学会の指令があれば何でもアリでしょう。支持層に注目したとき、維新と自民は同じ保守層を基盤としているので、両党は本質的に同じなのです。

維新の躍進は保守層、および左派に与しない無党派層を取り込んだところにあるわけですが、私には「向こう岸でパイの取り合い合戦が展開されている」と見えるのです。同じ支持層を奪い合う関係にある自民党からすれば「維新の躍進」は大問題でしょうが、そもそも支持層が根本的に違う左翼陣営にとっては「向こう岸」の内輪揉めは関心の対象外なのです。その意味で大勢に(そして体制に)影響はないと考えるのです。

ちなみに、党が掲げる看板などに注目した場合も、私に言わせれば自民も維新も「根は同じ」です。たとえば維新は「維新が保健所を減らしたの?」という弁明を展開しています。曰く「維新が保健所を削減したとの情報が散見されるが、大阪府の保健所再編は維新誕生の前、2000年(平成12年)のことで太田府政時代」とのこと。維新府政1期目ならこの言い逃れでも通用したでしょうが、10年も時間があったのに何もしなかったのだから、キッカケは太田府政であったとしても維新はそれを継承したと言わざるを得ないでしょう。れいわ新選組の大石あきこ代議士は「基本的に歴代政権、歴代府政において「職員数削減」は成果の指標として重視されてきた」とか「太田房江・元大阪府知事と、吉村・大阪府知事が、リストラによる保健所パンクの責任を押し付け合っている」などと指摘しているところです(「「維新府政が保健所リストラ」はデマかどうか検証しました。」)。そもそも、もとはといえば大阪自民党の分裂によって誕生したのが維新。やはり、左翼から見れば大差ないと考えます。

■維新人気は小泉改革路線・ネオリベ改革路線の熱狂の延長線上に存在している
もちろん、大勢に影響はないとはいえ、維新がパイの分捕り合戦で大きく前進した事実から見えてくるものもあります。「改革保守」を自称する維新の躍進からは、依然として小泉改革路線・ネオリベ改革路線人気が続いていること、もしかすると再び盛り上がり始める可能性があることが見えてきます

たとえば、維新にとっての新しいフロンティア開拓であった奈良県知事選挙では、同党がナニモノであるのかが改めて鮮明に示されたように思われます。

具体的な実績を訴えればよい現職候補者に対して新人候補者は理念や青写真を掲げざるを得ません。特に奈良県における維新の地盤はこれまで脆弱であり、その主張が十分に浸透しているとは言い難いところでした。そのため奈良県知事選挙において維新は、たとえば、3月19日づけで公開した「維新が変える。新しい奈良へ。 −税金の"使い道"を見直す。−」に見られるように、理念や青写真を語ることから始めました。

維新は当該記事において「私たちは将来、真に何が必要かを厳しく見極め、税金の使い道を見直して、奈良の暮らしを豊かにします」と前置きしたうえで8つの項目を提示しています。各項目にはさらに2〜3程度の小項目がぶら下がっています。

ここにおいて維新は、順番が前後しますが、2番目の項目として「徹底した行財政改革」を掲げつつ「行政のスリム化 民間にできることは民間に委ね、行政事務のデジタル化を図って行政コストを削減します」と謳っています。

「民間にできることは民間に」というのは、それ自体は否定しがたいスローガンです。これ自体は当たり前のことであり、それゆえに具体性のないスローガンに過ぎません。実務者としての政治家は、具体的に何が「民間にできること」なのかを切り分けるところにその手腕が発揮されます。また、具体的ではないだけではなく「古臭い」という印象さえ感じざるを得ないスローガンでもあります。小泉改革のころから使い古されてきたものだからです。

具体性に欠ける上に古臭いものが冒頭で打ち出されるということは、維新人気が小泉改革路線・ネオリベ改革路線の熱狂の延長線上に存在していることを示しています。つまり、「維新の躍進」というのは結局のところ小泉改革路線・ネオリベ改革路線人気の継続なのです

ここ20年余りの日本政治を振り返ると、2000年代前半の小泉人気、2000年代後半の民主党人気、2010年代前半の維新人気は、いずれもネオリベ的改革を求める有権者の層を上手く取り込んだ政党の興亡史でした。小泉改革の副作用の顕在化など、ネオリベ的改革に対して一定の懐疑的な見解が広がった2010年代後半以降は、「改革」のお熱にも一段落がついたものでしたが、依然としてそれは底流として流れ続けており、もしかすると今回の統一地方選挙は再びネオリベ改革ブームが始まる兆候なのかもしれません。当ブログでも繰り返し指摘してきたとおり、社会的分業の徹底的な専門細分化による超知識労働社会への社会変化により、いまや雇われ人も個人事業主的なプチブル意識を持つに至っています。労働者大衆までもがネオリベ改革を望む条件は揃っています

■日本をダメにしたデフレ・マインドそのもの
「徹底した行財政改革」と並んで「身を切る改革」が持ち出されています。具体的には、小項目として「知事・市町村長の退職金の廃止!と給与のカット!」と「議員定数・報酬の削減」を掲げています。「次世代への投資」や「チャレンジを生み出す経済政策」、「いきとどいた福祉政策」よりも先に持ってくるあたり、これらが維新政治の特徴なのでしょう日本をダメにしたデフレ・マインドそのものが初っ端から出てました

日本の経済・社会を「失われた30年」とする見方は定着していますが、私は、「良い品はそれなりの値段がする、よい仕事にはそれなりの報酬が要る」という世の理に逆行し、高品質と低価格を同時に要求し続けたために社会が疲弊していった結果であると考えています(もちろん「これだけ」と言うつもりはありませんが、大きな要素だと考えます――たった一つの原因で起こっているほど、システムとしての社会は単純にはできていません)。

いま日本社会では、遅ればせながらデフレ脱却のための持続的な賃上げが目指されていますが、ここにおいては「良い品はそれなりの値段がする、よい仕事にはそれなりの報酬が要る」という世の理を常識化し、かつ実践することが鍵の一つになると私は考えます。このタイミングでデフレ・マインドの筆頭格というべき給与・退職金カットを謳うことは、その真逆を行くものです。財政再建に現実的に繋がるわけがなくパフォーマンスの域を超えるものではない知事・市町村長の給与・退職金カットは、無意味であるばかりか有害でさえあると言わざるを得ないのです。

給与・報酬等のカットというデフレ・マインドが「改革」の旗印になっていることに驚かざるを得ません。これが失敗の本質だというのに、ますます失敗を加速させようとしているのです。

■議員定数削減は、目先の損得勘定に基づく近視眼的発想
給与・報酬等カットと並んで維新は、議員定数「多すぎる」などとして削減しようと画策しています。「頭数の割には有権者の方を向いた政治になっていないから、いっそ減らしてしまおう」と言いたいのでしょう。しかし、議員定数を削減してしまうと議員一人が代表する地域住民の数が増えるので、ますます住民と政治との距離が広がるものと考えられます。逆効果になると考えます。

SNSの活用などコミュニケーションを効率化するツールが年々増えているとはいえ、一人の人間が1日24時間のうちに応対できる人数には限りがあります。近年「タイム・パフォーマンス(タイパ)」という言葉が流行っていますが、定数削減により「椅子取りゲーム」がますます激しくなれば、政治家はタイパ狙いで組織力が高い一握りの利益団体・利権団体のさらに重視することでしょう。

政治家と利益団体・利権団体との癒着を正して広範の住民の方向を向いた政治を目指すというのであれば、政治家と有権者の距離を縮める必要があるはずです。政治家と有権者との距離を縮めるためには、人口当たりの議員数をむしろ増やす必要があるのではないでしょうか?

日本は間接民主制を採用していますが、これは、民主主義の原点たる古代ギリシア等の直接民主制が現代においては実践しにくいため、次善の策として採用されているものです。有権者が一堂に会して共同体の意思を決定するというのは、まず集まるだけで一苦労です。直接民主制の実践困難性ゆえに「代表者として議員を選出し、その議員に共同体の意思決定を任せる」という間接民主制に行きついたわけです。ある意味で「仕方なく」やっているのが間接民主制なのです。そのような歴史と原理を鑑みたとき、間接民主制においては、直接民主制に近づけるべく一人の議員が代表する有権者の数を最小限に抑える必要があるはずです。多様なバックグラウンドをもった数多くの議員が討論を展開してこそ間接民主制が直接民主制に準ずる正統性ある制度たり得ると考えます。

なお、アメリカ第4代大統領のジェームズ・マディソンは『ザ・フェデラリスト』において、直接民主制は間接民主制と比べて「数の暴力」が抑制されにくいという指摘しています。熱しやすい民衆の性向を考えると、諸手を挙げて直接民主制を賞賛することはできず「議員は多ければ多いほどよい」と単純に言えるものではないのも確かです。しかしながら、維新について言えば、新型コロナウイルス禍において見られたように民衆を扇動する政治手法を取っています。扇動を政治手法として採用している以上は、議員数を絞って一議員の代表性を高めたとしても暴走の歯止めにはならないように思われます。

多くの議員を抱えることは、一見して多額の費用を要し非効率的だと思うかもしれません。しかし、「失敗したとき」のことを考えると必ずしもコスト高とは言えないでしょう。政治というものは国家百年の大計を構想するものであり、かつ、失敗したときの損失がビジネスとは比べ物にならないくらい大きいもの。むしろ失敗することを前提に体制を組んでおく必要があります。決して目先の損得勘定で近視眼的に判断してはなりません

たとえばヒトラーは、側近らの反対を押し切って稚拙な戦争指導を執行した結果、ドイツを敗戦に導きました。連絡と調整のため必ずしもスピーディな意思決定が行われていたとは言い難い米英軍に対して、ドイツ軍はヒトラーの命令が絶対だったので非常にスピーディであり「効率的」でした。しかし、ヒトラーという一個人の能力に頼り切りだったドイツの戦争指導は、多くの戦略家たちの合議によって決定・執行された米英の戦争指導に及ばなかったのです。

中央集権的な計画経済に対する分権的な市場経済の有用性もその一例と言えるでしょう。中央集権的計画経済は、党や政府の命令一下に国家資源を集中投入できるので、宇宙開発や軍拡のように何を為せばよいのか既に分かっているケースでは高いパフォーマンスを発揮しますが、人々のニーズを探り当てる必要がある消費財の生産などは苦手とします。ソ連や東欧諸国においては、党や政府の経済担当には特に優秀な人材が登用され、早くからコンピューターを導入して高度な計算を行っていましたが、天才的な発想力の持ち主であっても一人の個人や少数の徒党が考え付く事柄には限界があるのです。

これらを踏まえて考えたとき、多様な意見が出ればそれだけ真実に近づく確率が高まると言えるでしょう。天才的な発想力の持ち主であっても一人の個人や少数の徒党が考え付く事柄には限界があるので、より多くの人を共同体の意思決定に巻き込む必要があるのです。維新の方法論は、自ら発想の幅を狭めていると言わざるを得ません

維新が掲げる議員定数の削減は、統治の正統性を損ねるばかりか有効性も損ねる方法論であると考えます。

■「大して成果を上げていないのに・・・」というのならば、しっかり監督・指導して働かせるのが正道
そもそも、「大して成果を上げていないのに議員が多すぎる、政治家の報酬が高すぎる」というのならば、しっかり監督・指導して報酬に見合うだけ働かせるのが正道であるはず。にもかかわらず、出てくるのは定数削減や報酬カットといった話ばかりであり、監督強化という方向には決して話が行きません。

さしづめ、他人の仕事を監督するというのは非常に面倒くさく即物的な成果が出にくいので、手っ取り早く楽をするために「働きが十分ではない人を指導して働かせる」よりも「働きが十分ではない人をクビにして取り換える」のを選んでいるのでしょう。解雇をチラつかせるというのは最も簡単な古典的労務管理手法です。「主権者としての立場と責任を自ら放棄している」とも言えますが。

「働きが十分ではない人をクビにして取り換える」という方法論が惨劇として現れたのがJR福知山線脱線事故でした。事故から18年の節目に神戸新聞が特集した「「次ミスしたら辞めさせられる」運転士の焦り、歯車が狂い始めた事故25分前 尼崎JR脱線、報告書で振り返る」(4/24(月) 19:35配信 神戸新聞NEXT)のコメント欄で、エコノミストの門倉貴史氏が次のように指摘しています。
「目標を達成できなければ減給や解雇」というようにプレッシャーを与えて従業員の生産性を高めたり、ミスを減らそうとしても、うまくいかないケースが多い。
 そのようなプレッシャーは、従業員にとっては恐怖となり、追い詰められて逆にミスが増えたり、ごまかしなど不適切な手段で目標を達成しようというインセンティブが働きやすくなるからだ。
 たとえば、かつて米国のウェルズ・ファーゴ銀行では大規模な不正営業が発覚したが、ノルマを達成できなければ失職するかも知れないという恐れが、職員による不正営業(顧客に無断で口座を開設)の動機となっていた。
 このように強制力の強いプレッシャーは、逆に従業員のミスを誘発したり、ごまかしなど倫理に反する行動を助長しやすくなる。
前述のとおり私は、「維新の躍進」とは結局のところ小泉改革路線・ネオリベ改革路線人気の中途半端な継続であると考えています。新自由主義(ネオリベラリズム)とは何であるかは一概には言い難く、それゆえネオリベ改革路線人気とはどのようなマインドによるものであるかを定義づけることは難しいものです。新自由主義とは、「主義」というほど高尚なものではなく、現代資本主義にとって都合のよい諸政策の最大公約数に過ぎないからです。しかし敢えてそれを「市場原理を再評価して政府による介入を最低限とすべきと提唱する発想・潮流」と位置づけ資本主義純化運動として捉えたとき、現代資本主義経済における競争の熾烈さを鑑みるに、そのマインドは、「即物的な短期利益の追求をよしとするマインドと親和的である」と傾向的に言えると考えます。すぐに目に見える成果を上げることを要求したり、人材やノウハウを時間をかけて内部で育成することよりも手っ取り早く外部から調達し充当したりする傾向がネオリベ改革路線のマインドの傾向的特徴であると考えます

このように考えると、JR福知山線脱線事故は新自由主義の時代を象徴する事故であったと言えるでしょう。運行ダイヤの余裕時分さえもを削ろうとしたり、懲罰的処遇やそれに関連する恐怖でガバナンスを取ろうとしたりするのは、手早く楽に利益追求を目指す新自由主義的発想そのものです(もちろん、阪急電車との熾烈な競争環境という条件を無視すべきではないでしょう――まさに「競争の強制法則」です)。

■中途半端さがプラスされる維新政治
「他人に仕事をさせる」上では信賞必罰で臨む必要があるとはいえ、ここ20年あまりの歴史は、即物的な利益追求の方法論では上手くいかないことを示しています。維新の場合、ここに中途半端さがプラスされるので、ますます上手くいかないことが予想されます

最近は地方議員等のなり手不足がいよいよ深刻化し無投票当選が激増しています。彼らの待遇が大きな問題であるとの指摘があります。通常、優秀な人物を異業種から引き抜くためには高い報酬を提示する必要がありますが、維新は「身を切る改革」を掲げるので、そうしたヘッドハンティングの手法を取ることは論理矛盾になります

議員定数を減らすのならば少数精鋭にすることが絶対条件であるはずなのに、報酬を減らしてしまったら一体どんな人たちが集まるというのでしょうか? 「身を切る改革」路線を突き詰めると、熱意はあるかもしれないが能力が高いとは言えない人材や未経験者、あるいは議員業以外に生業を持っている人材しか残らないように思われます。後者は業界団体との「太いパイプ」の存在を疑わせます。そういう人に「改革」はできるのでしょうか? 自民党議員と大差ないように思われます。あるいは、「官製やりがい搾取」という末路も見えてきます。

かつて、リーマン・ショックの金融危機のさなかアメリカの大手保険会社AIGは、公的資金を注入されておきながら「優秀」な幹部社員らに巨額のボーナスを支給し顰蹙を買いました。現代資本主義の無責任な一面をこれでもかというほど見せつけた一幕でしたが、敢えてAIGの言い分に傾聴するならば、「そうでもしないと熾烈な人材獲得競争に打ち勝つことができない」という見方もできるかもしれません。それもまた真実の一面を示していると考えます。新自由主義的な金融自由化によって最も大きく恩恵を受け、ある意味において新自由主義を体現していると言えるアメリカの大手保険会社の経営「判断」と比べたとき、維新の「議会の少数精鋭化を目指すが、報酬はカットする」という方法論の中途半端さが際立つように思われます。

なお、経済学者の松尾匡氏は、AIG等の金融機関に勤めるディーラーたちについて、上手く運用できればボーナスを得られるが投資に失敗したところで「所詮は他人のカネ」である点において投資判断にかかる「リスクと決定と責任」が一致しておらず、投資が無責任になりがちであると指摘した上で、「無責任の体系」という意味ではソ連型の経済システムと通底する部分があると指摘しました(「ソ連型システム崩壊から何を汲み取るか──コルナイの理論から」)。非常に重要な指摘であり、ソ連・東欧圏崩壊を分析するにあたって新しい視座であると考えます。資本主義にも社会主義にも共通の構造的問題があると言えます。

「民間にできることは民間に」などと御題目のように唱える維新ですが、「議会の少数精鋭化を目指すが、報酬はカットする」などというメチャクチャなことを言っているくらいなので、ここまで深くは考えてはいないものと思われます。彼らは資本主義の理解が不十分なままに「民間にできることは民間に」などと唱えているわけです。この中途半端さは非常に危険だと言えるでしょう。

■「科学的な冗長化」という発想が欠けている
余談ですが、新自由主義の信奉者たちは「ムダを省く」と口癖のように言います。ムダを省くのはもちろん大切なことです。しかし、彼らは往々にして最低限の余裕・保安機構をも「ムダ」扱いしてしまっています。「科学的な冗長化」という発想が欠けています。その意味において私は、新自由主義的発想とは、目先の損得勘定に基づく近視眼的発想であると言い換えることもできると考えます。

意外に思うかもしれませんが、建材をケチりまくり、それゆえに粗悪品の代名詞になっている「戦時設計」は、実は冗長性を十分に確保しています。たとえば戦時中に完成した関門トンネルは、本州方面線と九州方面線の2つのトンネルから成り立っていますが、信号設備などは複線ではなく単線並列構造を取っています。関門トンネルは、本州方面トンネルに九州行き列車を、九州方面トンネルに本州行き列車を走らせることも可能になっているのです。通常時においては本州方面トンネルには本州行き列車しか走らないので、九州方面に運行するための信号設備が使わることはありません(逆もまた然り)。それゆえ、これは一見してムダな設備投資です。しかし、何らかの原因で片方のトンネルが不通になってしまったとしても、単線並列構造であれば、もう片方のトンネルを直ちに上下線共用で使うことができるので、輸送力が低下することはあってもゼロになることはありません。本州と九州とを結ぶ大動脈であるからこそ一見してムダな設備投資に見えても敢えて行ったわけなのです。

単なるムダなのかそれとも冗長化と言い得るのかは、結局のところ科学の領分になります。冗長化については工学において研究結果が豊富にあり、各種産業はそうした研究結果をもとに定量的に冗長性を確保することで科学的にムダを省いています。これに対して新自由主義の信奉者たちが口にする「ムダを省く」において、こうした科学的な裏付けの存在を感じさせるケースは、ほとんどありません。一事が万事まったく感覚的に、精々目先の近視眼的な損得勘定に基づいて推し進められているとしか言いようがありません。

■政治を変えただけでは不十分
この30年間続いてきたデフレ・スパイラルについて私は、正確にはデフレ・ネオリベ・スパイラルであると考えています。物価の下落が企業収益を圧迫し、それを受けて企業は一方において経費節約をしようとしつつ他方において規制緩和等の経済「改革」を要求します。それは一部企業の業績を一時的に向上させることはあっても、個人消費を低迷させることになり結局は需要不足を引き起こし、更なる物価の下落を引き起こします。そうなると企業は更なる経費節約と経済「改革」を要求し、ますます事態は悪化してゆくわけです。

維新のマインドは上述のとおり、デフレ・マインドであると同時にネオリベ・マインドです。維新は、ここ30年にわたって展開されてきた現実の悪いところを凝縮したような政策方針、そして、一体どうやって少数精鋭をそろえるのか皆目見当もつかない「議員定数を減らし報酬も減らす」を筆頭に、落ち着いて考えれば矛盾だらけの方法論を掲げていると言わざるを得ません

前述のとおり、維新とは本質的に自民であると考える左翼・チュチェ思想派の立場から申せば、自民が増えようが維新が増えようがあまり違いはありません。しかし、保守陣営の中で維新がパイの分捕り合戦で大きく前進した事実からは、依然として小泉改革路線・ネオリベ改革路線人気が続いていること、ことによっては再び盛り上がり始める可能性があることが見えてきます。落ち着いて考えれば矛盾だらけの方法論に再度注目が集まりつつあるわけです

こうした現状になりつつある原因について私は、「有権者が愚かだから」とは言いたくはありません。有権者は決して愚かではありません。だいたい、本当に「有権者が愚か」ならば、バカを騙して転がすこともできない自力の足りなさを猛省しなければならないでしょう。有権者は、現在の政治・経済・社会の状況を鑑みてどの党・どの候補者が「よりマシ」的に自分たちの生活を改善し得るのかをよく見ています。

それゆえ、左翼が自民に対する批判票の受け皿になれていないこと、保守寄りの無党派層に食い込めていないことに根本的な問題意識を持たなければならないと考えています。そして、社会主義・共産主義に軸足を置くのならば、やはり政治運動に限らず経済運動・社会運動を含めて総体的に運動を展開する必要があるとも考えます。社会的分業の徹底的な専門細分化による超知識労働社会への社会変化により、いまや雇われ人も個人事業主的なプチブル意識を持つに至っており、労働者大衆までもがネオリベ改革を望む条件は揃っているからです。政治を変えただけでは不十分だと考えます。

資本主義全盛期の社会において社会主義・共産主義を急進的に実現しようとする政治的テーゼを展開したところで「非現実的」とか「経済を分かっていない」と言われるのがオチです。一般に「改良主義」は社会主義・共産主義界隈においては罵倒語に等しいものですが、私は、有権者へのアピール手法として「改良」を選択肢に入れることも辞すべきではないと考えます。最終的な到達点をあくまでも社会主義・共産主義においていれば、そこに至る経路を戦術的に調整することはあって然るべきと考えます。それゆえ、まず下部構造、生活の実態を社会主義・共産主義に漸進的に近づけることから変革の運動を始める必要があると考えます。

この国では、政治の努力だけでは変革は起こり得ないと考えます。元来、政治とは社会を統一指揮すること(≪위대한 령도자 김정일동지의 사상리론:법학≫より)ですが、日本の場合、「御上からの指令」という実態があるように思われます。人民生活の現場と法や制度を作る立法府・法や制度を運用する行政府とは連携を密にしていなければならないところ、この国では社会の組織化が遅れているので、両者の間が分断されているのです。それゆえ、生活現場においてその実態を社会主義・共産主義に近づけつつ、同時に人民生活の現場と立法府・行政府との距離を縮める必要があります。

■災い転じて福となすべく「民間にできることは民間に」を換骨奪胎しよう
左翼を魅力的にするにあたっては、現実の課題に対するソリューションを提示することが何よりも大切になります。現実と理想とを如何に近づけてゆくかについてビジョンを提示することが大切になります。もっといえば、保守陣営が政策目標を達成させて左翼陣営にとって困難さが増したとしても、そこから反転攻勢の突破口を探し出すくらいの気概が必要だと考えます。

私は以前から立場を鮮明にしてきたとおり、私は左翼として日本の自主化、協同社会としての社会主義・共産主義社会を目指す立場に立っています。現時点の日本社会が資本主義社会である以上は、それを所与の条件として資本主義の上に社会主義・共産主義社会を構築することになると考えています。

科学的社会主義に基づいて資本主義から社会主義そして共産主義を目指すということは、「災い転じて福となす」ことを目指すものであると考えます。マルクスの『資本論』は資本主義経済のカラクリを暴露し、資本主義の発展は一方においてプロレタリアートの困窮化を引き起こしつつ、他方において未来社会としての社会主義・共産主義の展望を切り開くものであるということを論証する著作です。プロレタリアートにとって資本主義の発展は「災い」ですが、それは同時に「福」にも繋がるわけです。

「民間にできることは民間に」と「身を切る改革」のスローガンに集約される小泉改革路線・ネオリベ改革路線・維新政治を、どのように「災い転じて福となす」にするかを考える必要があります。ここにおいて私は、「民間にできることは民間に」のスローガンは協同社会化の突破口になり得るものと考えます。

協同社会を「経済における民主化」であると考えると、行政による独占や参入規制にも厳しい目を向ける必要があるでしょう。行政の職員や参入規制に守られた特定企業の社員たちが如何に優秀であったとしてもその発想には限界があるので、より多くの人の意見を民主的に取り入れるとすれば、一定の門戸開放は必要になります。

「民間にできることは民間に」を維新が言うがままにしてしまえば、これは災い以外の何物にもなり得ませんが、このスローガンに内実がないことを逆手にとって経済における民主化としての協同化に繋げ、福となす必要があると私は考えます。日経新聞などが声高に主張する「岩盤規制」談義にも、やりようによっては使いどころがあるわけです。

我らが左翼陣営は、維新政治に断固反対することはあっても、これを逆手に取る強かさに欠けているように思われます。政敵に反対することも大切ですが、政敵の野望が実現してしまったとして、それを出発点としてどのように巻き返して乗り越えてゆくかという戦略も必要だと考えます。換骨奪胎するくらいの強かさを持ちたいものです。
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