2023年06月29日

「中国経済の崩壊が始まった」とか「北朝鮮は追い詰められている」と同じ類の「プリゴジンの乱はプーチン政権の終わりの始まり」論

https://news.yahoo.co.jp/articles/a9aca92bccebb7a774ec7cad811409d50f7d958f
【報ステ】プーチン体制“終わりの始まり”か…ワグネル反乱の影響は 専門家2人に聞く
6/26(月) 23:30配信
テレビ朝日系(ANN)

ロシアの民間軍事会社『ワグネル』の反乱は、プーチン政権にどれだけ打撃を与えたのか。防衛省防衛研究所・兵頭慎治さん、ロシアの軍事・安全保障が専門の東大先端研専任講師・小泉悠さんに解説していただきます。

(以下略)
https://news.yahoo.co.jp/articles/a3996610cc7484e307cc87a693f785920870f7fc
三谷幸喜氏の目 プーチン政権の今後は「終わりの始まり」反旗を翻したワグネルの行動を読み解く
6/24(土) 23:02配信
日刊スポーツ

(中略)
 これについて三谷氏は「多くの独裁国家でクーデターを起こすの軍隊。(プーチン政権の)終わりの始まり」と語り、ワグネルの動きの背景について自身の見解を示した。三谷氏はNHK大河ドラマ「新選組!」「鎌倉殿の13人」の脚本を担当し、歴史の転換点を鋭い目線で研究。今後のロシア情勢の展開についても予測した。

(以下略)
あっけなく終わった「プリゴジンの乱」を「プーチン体制の終わりの始まり」と位置づける向きが強まっていますが、まさに「ものは言いよう」。実際のところは、次の記事が指摘しているとおりだと考えます。
https://news.yahoo.co.jp/articles/d025afcba4c4f5c095e0bd662c5326ab67a47dbf
武装反乱、プーチン政権弱体化には至らず 笹川平和財団の畔蒜主任研究員
6/27(火) 7:16配信
時事通信

 笹川平和財団の畔蒜泰助主任研究員(ロシア政治外交)は26日、時事通信の電話取材に対し、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏による武装反乱について、直ちにプーチン政権の弱体化につながるわけではないとの見方を示した。

 主なやりとりは次の通り。

 ―政権への影響は。

 プーチン大統領にとって、武装反乱を起こしたプリゴジン氏を何の罪にも問わず、事実上の亡命を許したのは政敵への妥協で、政権の権威にある種の傷が付いた。しかし、プーチン氏の代わりとなる人物はおらず、今回の反乱でプーチン政権が急速に政治的求心力を失い、レームダック(死に体)化や弱体化するとは考えられない。

(中略)
 ―国内の警戒態勢に変化はあるか。

 今後、警戒態勢をある程度強める可能性はある。ただ、今回の反乱はかなり特殊なケースで、ワグネルのように数万人の部隊を動かせる組織は国内には他にない。テロや類似の襲撃が散発的に起きることはあり得るが、軍というより連邦保安局(FSB)や国家親衛隊(旧内務省軍)の担当だ。

 ―ウクライナ侵攻への影響は。

 反乱が長期化していれば戦況に大きな影響を及ぼしただろうが、それは回避された。プリゴジン氏との「取引」はプーチン氏にとってマイナスであり、軍事衝突の回避を優先したのだろう。ワグネルは5月の(ウクライナ東部の要衝)バフムト制圧宣言後、戦闘で重要な役割を担っておらず、離脱しても影響はあまりない。
開戦以来、「プーチン政権の終焉近し」と言われ続けてきたのに、ようやく顕在化した「その兆候」と言えなくもない「プリゴジンの乱」を「終わりの始まり」などと位置づけるとは、プーチン政権は一体いつになったら崩壊するのでしょうか?

恐らく、冷静に考えたとき、「プリゴジンの乱」の顛末は上記、畔蒜泰助氏の分析のとおりなのだと思われます。プーチン大統領の威信には一定の傷が付いたものの、それは致命的な傷とは言えず、彼が直ちに求心力を失うとは言えないこと。ワグネルほどの組織はロシア国内には他に存在しないこと。ウクライナ侵攻への影響は小さいと思しきこと。しかしそれを認めたくないので、「終わりの始まり」という表現を使うことで「プーチンは少しずつではあるが、確実に着実に破滅に向かっている」と位置づけ、辛うじて精神を安定させようとしているのでしょう。「中国経済の崩壊が始まった」とか「北朝鮮は追い詰められている」と同じ類のものだと思われます。

ちなみに、「終わりの始まり」という表現は、既にNHKが昨年11月に使っています(「「プーチン氏の終わりの始まり」 ソビエト崩壊予見の学者の言葉」2022年11月14日)。「終わりの始まり」が始まってから既に半年以上たっているわけです。「北朝鮮の崩壊は近い」と言われて20年以上経ちましたが、プーチン政権についても、同じような展開が予想されます

それにしても日本世論は、敵国が何らかの形で追い詰められていないと自己の精神の安定を保てないんでしょうか? 対ロシア、対中国、対共和国について、あまりにも牽強付会な分析が長年にわたって横行しています。冷静かつ大局的に考えたとき、「でもやっぱり崩壊・破滅していないし、近いうちに崩壊・破滅しそうもないな」と気付かないとは思えないんですがね・・・見て見ぬふり? 大日本帝国軍みたいですね。
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2023年06月28日

「現時点においては岸田内閣を相手にしない」と言っていると思しきリ・ビョンドク共和国日本研究所研究員の談話について

https://www.coreanews.net/entry/2023/06/28/102720
2023-06-28
「日朝首脳会談」に対する当局者の言及を自ら否定 朝鮮外務省日本研究員が指摘

 朝鮮民主主義人民共和国外務省のリ・ビョンドク日本研究所研究員は27日、「国連は主権国家を謀略にかけて害する政治謀略宣伝の場になってはならない」と題した文を発表した。朝鮮中央通信が28日伝えた。

(中略)
 以下は文の全文。

日本が米国、オーストラリア、欧州連合(EU)などと結託して拉致問題に関するテレビ討論会というものを国連舞台でまたもや開こうとしている。

 過去と同様、今回の討論会もやはり、尊厳あるわが共和国の国際的イメージに泥を塗り、集団的な圧迫の雰囲気を醸成しようとする敵対勢力の断末魔のあがきにすぎない。

 日本が対朝鮮敵視に狂った国々と結託して毎年、奇怪な討論会を開くからといって、決して20世紀にわが人民に働いた特大型の反人倫犯罪が隠蔽されたり、加害者が「被害者」に変身するわけにはいかない。

 20世紀に朝鮮を武力で占領して840万人余りの青壮年を強制的に拉致し、100余万人を無残に虐殺し、20万人の朝鮮女性に性奴隷生活を強要した日本が、国連舞台で「拉致」と「人権」をうんぬんすること自体が破廉恥の極みであり、歴史に対する冒瀆(ぼうとく)である。

 日本人らが言っている「拉致問題」について言うなら、われわれの雅量と誠意ある努力によってすでに逆戻りできないように、最終的に、完全無欠に解決された。

 日本は当然、われわれの善意に過去の植民地支配と反人倫的蛮行に対する徹底した謝罪と賠償で真面目に応えるべきであった。

 しかし、歴代の日本執権層は「拉致問題」を極大化して反朝鮮敵対感をヒステリックに鼓吹したし、われわれの誠意を長期執権の政治的野望を実現することに悪用した。

 日本国内で失踪した数百人余りが全部われわれに「拉致」された可能性が濃厚であると言い立てたことによって「拉致産業」というなじみのない言葉まで生じた中、行方不明となったとされていた数人が自国内で現れたり、それが解明されたりして非難と嘲笑(ちょうしょう)を買った。

 日本政府は、国民の血税で搾り出した「拉致予算」を蕩尽して反朝鮮拉致騒動を起こすことでどれほどの利得をむさぼったのかを考えてみる必要がある。

 日本が実現不可能な問題を前面に掲げて旧態依然として国際舞台に持ち回っているのはたわいない時間の浪費であり、「前提条件のない日朝首脳会談」を希望すると機会あるたびに言及している日本当局者の立場を自ら否定すること同様である。

 日本がいくら「拉致問題」を国際化してみようと画策しても、日本の「拉致予算」に寄生することだけを工夫するえせの「人権」専門家と有象無象を除いては、そして同盟国の肩を持ちたくてやきもきしている米国とその追随勢力を除いては、誰の関心も引けないであろう。

 「被害者全員帰国」が実現しなければ拉致問題の解決などあり得ないと強情を張るのは、死んだ人を生かせというふうの空しい妄想にすぎないということを日本は銘記すべきである。

 ついでに言うなら、人権蹂躙(じゅうりん)行為で毎年新記録を樹立し、絶えず更新している米国は誰それの「人権」について非難するメンツも資格もない。

 国連はこれ以上、主権国家を謀略にかけて害する政治謀略宣伝の場になってはならない。

 国連舞台は当然、40余年間も一国、一民族の自主権を踏みにじり、反人倫大罪を犯したのに世紀と世代が変わるまで真面目に反省していない戦犯国の日本を糾弾し、汚らわしい過去と決別することを求める場にならなければならない。

 国連が神聖な憲章に従う使命を果たすには、こんにち、ありもしない周辺脅威を口実にして侵略的な先制攻撃能力保有策動に狂奔している日本とこれを積極的にあおり立てて地域の平和と安定を甚だしく脅かしている米国を暴露し、審判しなければならない。(了)
「被害者全員帰国」が実現しなければ拉致問題の解決などあり得ないと強情を張るのは、死んだ人を生かせというふうの空しい妄想にすぎないということを日本は銘記すべきである」と言い切った共和国。前回記事で取り上げた、日本当局者の淡い期待を完膚なきまでに粉砕する強烈な談話です。いままで拉致問題にそれほど言及しては来ず、それゆえにこの問題についてそれほど拘りがないと思しき岸田首相は、この談話を受けて「脈なし」と見て諦めるんでしょうか? これで諦めてトーンダウンしたら本当に為政者失格でしょうね。もう彼の総理大臣としての政治家生命は長くないと思っていますけどね。

岸田文雄氏については、早く政治家を引退して余生を満喫されることをお勧めします。なお、総理大臣としての岸田文雄氏が長続きすることは望みませんが、一個人としての岸田文雄氏が90年、100年、それ以上と長寿を全うすることは、彼もまた我らが社会政治的生命体の不可分な一部として、つまり同じ人間として祈念いたします。私は、社会政治的生命においても肉体的生命においても、人間の死は悲しむべきことだと考えています。また、のこされた人については、「諦めきれない」のが人情というものであり、そうであるからこそ身近な人を筆頭・中心として誠心誠意慰撫すべきであると考えます。もし、のこされた人の「諦めきれない」という人情に何らかの形で付け込むことがあるとすれば、それはカルト教団の手口であり、人間として恥ずべきことと考えます。私は自分自身を主体的な社会主義・共産主義者であると考えていますが、人倫に則り大テロル(Большой террор)の道を歩むまいと決意しています(もちろん、私は現代日本に大テロルを発動し得る立場にはない市井の民ですが、個々人の人権を重視するという心気構えの問題として)。

それはさておき、この談話で興味深いのは、「日本人らが言っている「拉致問題」について言うなら、われわれの雅量と誠意ある努力によってすでに逆戻りできないように、最終的に、完全無欠に解決された」というくだりでは「日本人ら」としているのに対して、「歴代の日本執権層は「拉致問題」を極大化して反朝鮮敵対感をヒステリックに鼓吹したし、われわれの誠意を長期執権の政治的野望を実現することに悪用した」というくだりでは「歴代の日本執権層」としていることです。

念のため、朝鮮中央通信が配信した朝鮮語原文に当たっておきましょう。私は「コリアニュース.com」を全幅的に信頼していますが、読者の皆さんの中には、翻訳の過程における意訳の可能性を懸念される方もいらっしゃるかも知れないからです。該当部分のみ抜粋します。
http://www.kcna.kp/kp/article/q/e6c7de399d7795fd352462a4d42fcd29.kcmsf
일본사람들이 말하는 《랍치문제》에 대하여 말한다면 우리의 아량과 성의있는 노력에 의해 이미 되돌릴수없이 최종적으로 완전무결하게 해결되였다.
(中略)
그러나 력대 일본집권층은 《랍치문제》를 극대화하며 반공화국적대감을 광란적으로 고취하였으며 우리의 성의를 장기집권의 정치적야욕을 실현하는데 악용하였다.
前段では≪일본사람들이≫(日本人たちが)と言っているのに対して、後段では≪력대 일본집권층은≫(歴代日本執権層たちは)と言っています。「コリアニュース.com」の記事は、共和国外務省日本研究員談話を正確に和訳しています。

つまり、この談話からは、「我々は、拉致問題について『日本国民』に対して誠意ある努力を展開してきた。しかし、『日本の執権層』は、特定失踪者問題に顕著に表れているように、この問題を口実に拉致産業をこしらえて拉致予算を蕩尽している」という共和国側の理解が見えてきます

執権者と人民大衆とを分けて考える――社会主義・共産主義の道を歩む共和国においては正道というべき理解の枠組み。「現時点においては岸田内閣を相手にしない」と言っているものと思われます
ラベル:政治
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2023年06月26日

岸田首相の対話呼び掛けに即座に反応があったからといって、拉致問題が日本当局の望む方向に動く展望はないと言わざるを得ない

https://news.yahoo.co.jp/articles/510c429fea366f9c41a4a4d19b4348a699729ed2
首相、曽我ひとみさんと7月上旬に面会へ 拉致問題解決の決意示す
6/21(水) 22:37配信
毎日新聞

 岸田文雄首相は7月上旬、北朝鮮による拉致被害者の曽我ひとみさんと首相官邸で面会する調整に入った。政府関係者が21日明らかにした。現職首相が曽我さんと面会するのは2018年7月の安倍晋三首相(当時)以来。岸田首相は曽我さんとの面会で、拉致問題解決に向けた決意を改めて示すとみられる。

(以下略)
長年にわたり口先ばかりで「第一人者」を僭称するが如きだった安倍元首相も酷いものでしたが、「困ったときの拉致問題頼み」があまりにも露骨な岸田首相のニワカ者っぷりはさらに酷いと言わざるを得ません。政局の道具という魂胆があまりにもハッキリしています。

https://news.yahoo.co.jp/articles/7219b5ba870b0bd209be95b6bcffaf5ddaf4f7f8
拉致解決へ首相訪朝はあるのか  対話呼び掛け、即座に反応【政界Web】
6/17(土) 16:00配信
時事通信

 北朝鮮による日本人拉致問題の解決に向け、岸田文雄首相が本腰を入れ始めた。「私直轄のハイレベルで協議したい」。5月下旬に日朝交渉への意欲を表明したところ、北朝鮮側は異例の早さで「会えない理由はない」と反応。日本側はこれを「留意する必要がある」(内閣官房幹部)と受け止め、さらなる動きを注視している。約20年ぶりの首相訪朝はあるのか。これまでの経緯を振り返った。(時事通信政治部 田中庸裕/肩書は当時)

日朝とも新しい文言
 首相は5月27日、拉致問題に関する集会で「条件を付けずに、いつでも金正恩委員長と直接向き合う」とした上で、「首脳会談を早期に実現すべく私直轄のハイレベルで協議を行っていきたい」と踏み込んだ。「条件を付けない」や「直接向き合う」は安倍政権から引き継ぐ立場だが、「直轄のハイレベル協議」は新しいフレーズだ。

 北朝鮮は同29日、パク・サンギル外務次官の談話を発表した。「拉致問題は解決済み」など従来の主張を繰り返す一方、新たに「日本が過去に縛られず、新しい決断を下し、関係改善の活路を模索しようとするなら、朝日両国が互いに会えない理由がないというのが、共和国政府の立場だ」との一文が盛り込まれた。

 これは「見慣れない文言」(日本外務省関係者)という。北朝鮮が「呼応」したのか。日本政府内を取材すると「これまでと違う反応だ」、「首相の発言が響いている」など一定の手応えを感じているようだ。

(中略)
 拉致被害者家族連絡会(家族会)は2月、全拉致被害者の一括帰国を条件に、北朝鮮への人道支援を容認する方針を決定。5月に訪米し、バイデン政権の理解も得たという。活動を支援する自民党議員は「政府は制裁一辺倒ではなく、交渉のために『人道支援カード』も切り得るという姿勢に転換した」とみる。

 日本側のシグナルは届くのか。北朝鮮側は現状、「軍事偵察衛星」の早期打ち上げを示唆するなど、挑発をやめる気配はない。その基本戦略は、核戦力の向上をてこに米国から体制保証を得ることとされる。韓国政府関係者は「北朝鮮が拉致問題のみを議論するために日朝対話をすることはない」と懐疑的だ。

 ある日本の情報機関筋は、北朝鮮で新型コロナウイルス感染拡大に伴う「鎖国」緩和の動きが出ていることに触れ、対外姿勢が変化する可能性を指摘。当面は北朝鮮の出方を見極める展開になりそうだ。
時事通信にしては異例の2ページにわたる記事。「当面は北朝鮮の出方を見極める展開になりそうだ」と結んでいますが、岸田内閣にそんな悠長なことを言っていられる残り時間はないでしょう。なんといっても、辛坊治郎氏に「このままだと政治的に野垂れ死にする恐れもある」と言われるくらいですから(「内閣支持率下落の岸田首相「このままだと政治的に野垂れ死にする恐れも」辛坊治郎が指摘」6/20(火) 17:20配信 ニッポン放送)、これは相当危うい事態であるはず。自民党の権力維持のために岸田降ろしが起こる日も遠くないでしょう。

そもそも「見込み」はあるのでしょうか?「事実からの出発」を徹底させることが必要です。パク・サンギル共和国外務次官の談話に当たってみましょう。
https://www.coreanews.net/entry/2023/05/29/204402
2023-05-29
朝鮮外務省パク・サンギル次官 岸田首相の朝日首脳会談発言と関連し談話発表

(中略)
 27日、日本の岸田首相がある集会で朝日首脳間の関係を築いていくことが大変重要であると発言し、朝日首脳会談の早期実現のために高位級協議を行おうとする意思を明らかにしたという。

 われわれは、岸田首相が執権後、機会あるたびに「前提条件のない日朝首脳会談」を望むという立場を表明してきたことについて知っているが、彼がこれを通じて実際に何を得ようとするのか見当がつかない。


 21世紀に入って、2回にわたる朝日首脳の対面と会談が行われたが、なぜ両国の関係が悪化一路だけをたどっているのかを冷徹に振り返ってみる必要がある。

 現在、日本は「前提条件のない首脳会談」について言っているが、実際においてはすでに解決済みの拉致問題とわが国家の自衛権について何らかの問題解決をうんぬんし、朝日関係改善の前提条件として持ち出している。

 日本が何をしようとするのか、何を要求しようとするのかはよく分からないが、もし他の対案と歴史を変えてみる勇断がなく先行の政権の方式で実現不可能な欲望を解決してみようと試みるのなら、それは誤算であり、無駄な時間の浪費になるであろう。

 過ぎ去った過去にあくまで執着していては、未来に向かって前進することができない。

 もし、日本が過去に縛られず、変化した国際的流れと時代にふさわしく相手をありのまま認める大局的姿勢で新しい決断を下し、関係改善の活路を模索しようとするなら、朝日両国が互いに会えない理由がないというのが、共和国政府の立場である。

 日本は、言葉ではなく実践の行動で問題解決の意志を示さなければならない。
さて、「現在、日本は「前提条件のない首脳会談」について言っているが、実際においてはすでに解決済みの拉致問題とわが国家の自衛権について何らかの問題解決をうんぬんし、朝日関係改善の前提条件として持ち出している。(中略)もし他の対案と歴史を変えてみる勇断がなく先行の政権の方式で実現不可能な欲望を解決してみようと試みるのなら、それは誤算であり、無駄な時間の浪費になるであろう」というくだり、ここからは拉致問題が日本当局の望む方向に動くとはとても思えません

その上で、「もし、日本が過去に縛られず、変化した国際的流れと時代にふさわしく相手をありのまま認める大局的姿勢で新しい決断を下し、関係改善の活路を模索しようとするなら、朝日両国が互いに会えない理由がないというのが、共和国政府の立場である」というくだり、ここを談話全体の文脈から鑑みるに、日本政府内を取材すると「これまでと違う反応だ」、「首相の発言が響いている」など一定の手応えを感じているようだ」という日本政府関係者の見立ては大きく外しているように思えてなりません。要するに、「今までのやり方を踏襲する限りは無駄だぞ、態度を改めれば相手してやってもいいぞ」と言われているわけですから。

つまるところ、何か爪痕を残したい岸田首相が閃いて飛びついたのが拉致問題だったのでしょう。しかしながら、コメント欄にもありますが、共和国としては「「拉致は解決済み」という北が、まして「死に体内閣」になった岸田政権にまともに対応するはずもなく、逆に「日本から取れる物があったら取ってやろう」程度のジャブを返したもの。」といったところだと思われます。功を急ぐ岸田首相の「ガード」が低くなり得るので、そこを狙うということです。あるいは、どうせ先が長くはなく何もできない岸田首相には少し甘い顔をしておいて、ポスト岸田が強硬姿勢を示せば直ちに「岸田前首相に対して示したとおり我々は門戸を開いてきた。それなのに新首相は・・・」と言うつもりなのかもしれません

いずれにせよ、岸田首相の対話呼び掛けに即座に反応があったからといって、拉致問題が日本当局の望む方向に動く展望はないと言わざるを得ないでしょう。
ラベル:政治
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2023年06月25日

現代ロシアの二・二六事件たる「ワグネルの乱」にかかる報道について

あっけない展開を見せる「ロシアの二・二六事件」たるプリゴジン氏の件。本当にこれで終わるのかなと思いつつも、現時点における情報に基づき、当ブログらしく、日本メディアの報道について取り上げたいと思います。

■不気味なまでに謙抑的だったNHKは「結果的に誤報だったときの責任を取りたくない」?
不気味なまでに謙抑的だったのがNHKでした。昨晩時点の報道については、昨日付け記事で取り上げたところですが、今日は、正午のニュースで「プーチン政権への影響」として権平恒志・モスクワ支局長が次のような内容を述べました。
プーチン政権がただちに揺らぐことはないものと見られます。きのうプーチン大統領が険しい表情で緊急の演説を行った後、政権幹部は忠誠心を競うように次々に大統領のもとでの結束を呼びかけました。(中略)ただ、欧米の軍事的な脅威から祖国を守る戦争だとするウクライナへの軍事侵攻の政権なりの大義がプリゴジン氏によって事実上否定されたことは、痛手になったと見られます。そもそも、ロシア国防省とプリゴジン氏との間で深まっていた確執をプーチン大統領が統制しきれなかったことが今回の事態を招いたとも言えます。国営メディアでは、プリゴジン氏の個人的な野心のせいで招きかねなかった悲劇を政権側が防いだと強調しています。
ニュース7では、今日も防衛省防衛研究所の兵頭慎治氏が登場。プリゴジン氏の動機を「ワグネルグループの存続を賭けた行動」とし、「処罰は避けられない」とされていたところ一転して処罰なしになった背景について「バフムト攻略の功績があったこととプリゴジン氏の政治的影響力は無視できないこと」と説明した上で、「今後への影響」として次のように解説しました。
戦況そのものへの影響はそれほど大きくないものと思われますが、ロシア国内に残した爪痕は小さくなかったのではないかと思います。今回ロシアの内紛という形でモスクワ近郊まで治安が乱れてゆく可能性がありました。治安を維持しながら人気を高めてきたプーチン大統領が十分にコントロールできなかったという意味において、プーチン政権にとって一定のダメージになったと思われます。そして、プリゴジン氏は、ロシア軍に反発する観点から、プーチン大統領のウクライナ侵攻の正統性であるNATOの脅威の対応、ロシア系住民の保護という戦争の大義を真正面から否定した、これもですね、ウクライナ戦争を行ううえでロシア国内に否定的な影響を与えて行く可能性もあるのではないか
いままで、嬉々としてロシア国防省とワグネルとの確執を針小棒大に報じ続けてきたNHK。その確執が爆発した今回の一件を受けて今まで書き溜めてきたネタを一気に大放出するのかと思えば、上記のとおり非常に慎重な論調に留まりました

NHKに限らず、多くのメディアがこのような状態に陥っています。あれだけ「ロシア国内の内紛が戦争継続を困難にしてゆく」と書き立てて来、ロシア国内の政治勢力の関係性について単純な構図化をし、大河ドラマや時代劇のような筋書きで妄想を展開してきたのに、いざホンモノの内紛が起こるや分析不能・対処不能になっているわけです。権平氏にしても兵頭氏にしても既に複数の報道機関が報じている話を取捨選択して整理しただけの内容。いままで自分たちが描いてきた構図や筋書きに則れば、曲がりなりにもそれなりの解説にはなりそうなところ、何を恐れているのか海外メディアの報道を待ち、既報をまとめるだけだったわけです

昨秋のヘルソン市からのロシア軍撤退のときと似て非なる展開です。あのときNHKは数日間沈黙を守り、海外メディアの見解がまとまったタイミングでようやく報じました。ヘルソン市からのロシア軍撤退は、軍事的視点から分析する必要がありました。当時のNHKにはそのような人材がおらず報じられなかった(取材力がなかった)可能性は大いにあります。語りたくても語ることができなかった可能性があります。

これに対して今回は、軍事というよりは政治でありロシアの政治力学や権力構造の視点から分析すればよい話です。この点についてはNHKをはじめとする日本メディアは開戦以来「プーチン政権崩壊近し」と繰り返してきたので、当然、一定の見識を持っているはず。内容が当たるかどうかは別として何か語ることはできるはずなのです。

「プーチン大統領の求心力の低下『か』」などと東スポの見出しのようなニュースを配信する分には、視聴者も「ふーん、そうかもねー」くらいで聞き流してくれるでしょうが、今回のような衆目を集める大事件、視聴者が確報を欲するタイミングではいつもの調子ではやれなかったのでしょう。

今回、積極的に分析して全世界に広めるのではなく既報をまとめるに終始したという事実からは、もしかするとNHKは、「取材力がない」というよりも「結果的に誤報だったときの責任を取りたくない」のかもしれません。取材力に自信がないのでしょうか?

■手のひらを返す可能性に引き続き注目
一部海外メディアは「ワグネルの今回の反乱がプーチン政権に動揺を与えた」という見方をしているようで、読売がコタツ記事を下記のとおり配信しています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/2752f49ca4ac6ef6a552e275382a3c76420059e8
ワグネル反乱でプーチン政権に動揺か、米欧各国はウクライナ情勢への影響あるとの見方
6/25(日) 20:11配信
読売新聞オンライン

(中略)
 各国は、ワグネルの今回の反乱がプーチン政権に動揺を与えたとみている。

 英国防省は「ロシアの治安部隊、特に国家親衛隊の忠誠が試される。最近のロシアにおいて、最大の試練となる」と分析。イタリアのアントニオ・タイヤーニ外相は伊紙のインタビューで、「反乱はプーチンへの結束神話を終わらせた。ロシアの前線が昨日より弱体化したのは確かだ」と述べた。

 英紙フィナンシャル・タイムズは「露内外の反プーチン勢力に希望を与え、ウクライナ軍にとって歴史的な好機となる」と指摘。独公共放送ARDは、ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏らの処罰をしなかったことがプーチン氏への深刻な打撃になるとの見方を示した。
明日以降、NHKがまた手のひらを返す可能性も残っています

■どうしてもプーチン大統領の求心力低下に繋げたいサンケイ
https://news.yahoo.co.jp/articles/144cb9bb64a2035bd3c4a22443ba9a2521d1722f
ワグネルがモスクワ進軍停止、ベラルーシ仲介 創業者らの安全保証
6/25(日) 6:33配信
ロイター

[ロストフナドヌー/ボロネジ 25日 ロイター] - ロシアの民間軍事会社ワグネルは24日、首都モスクワへの進軍を停止し、占領していたロシア南部から撤収を始めた。創設者エフゲニー・プリゴジン氏は流血の事態を避けるためと説明しており、プーチン大統領の権力への挑戦は収束しつつある。

(以下略)
オーサーコメントを見てみましょう。
佐々木正明
大和大学社会学部教授/ジャーナリスト
プリゴジンの乱の結末は、決して台風一過の後の青空ではなく、プーチン大統領にとって、政権基盤の弱体化という爪痕を残しそうだ。
ブリゴジン氏への刑事事件も1日で取り下げられたのだが、「政権は汚職まみれ」というプリゴジン氏の主張は多くの国民の心に突き刺さったようだ。

(以下略)
さすがサンケイ新聞編集委員。こういうことを書かないと気がすまないんでしょうね。

佐々木氏の勤め先であるサンケイ新聞は次のように報じています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/37e1d1ca2c7ea1ff87fdf656b74bab6390396ad6
プーチン氏の権威失墜 ワグネル反乱、不問の超法規的措置で決着
6/25(日) 21:32配信
産経新聞

ロシアの民間軍事会社(PMC)「ワグネル」の武装反乱は、プリゴジン氏が首都モスクワへの進軍を中止し、隣国ベラルーシに出国することで急転直下の決着を見た。ルカシェンコ・ベラルーシ大統領の仲介により、プーチン露政権はプリゴジン氏らの行動を不問にするという超法規的措置をとった。武装反乱には一応の幕引きが図られたものの、プーチン大統領の権威失墜はもはや止められない流れとなった。

(中略)
プーチン氏は24日のビデオ演説でプリゴジン氏の行動を「裏切り」と指弾し、露軍に「断固とした措置」をとるよう命じていた。一転してワグネルを不問にしたことは、国内の不満分子から「弱さ」の表れと受け取られる可能性が高い。

ロシアにはワグネル以外にも30以上のPMCが乱立し、国家の基本原則であるはずの「暴力の独占」はすでに崩れている。今回の反乱を受けて政権はPMCの統制強化に動くとみられるが、思惑通りに進むかは不明だ。(遠藤良介)
一転してワグネルを不問にしたことは、国内の不満分子から「弱さ」の表れと受け取られる可能性が高い」という分析は、あまり日本世論には刺さらないと思います。というのも、プーチン大統領がKGB出身であることは広く知られていることですが、日本世論に広く浸透しているKGBに対するステレオタイプに照らしたとき、「裏切り」とまで言われたプリゴジン氏の行動が本当に赦されるわけがなく「利用価値があるから、まだ生かしておく」というだけの話に過ぎないと考える日本人の方が多いと思われるからです。

どうしてもプーチン大統領の求心力低下に繋げたいのでしょうが、世論動向を無視した記事は読者に刺さらないでしょう。

ロシアにはワグネル以外にも30以上のPMCが乱立し、国家の基本原則であるはずの「暴力の独占」はすでに崩れている」という表現も妙な話です。「戦争の民営化」という言葉が大きく取り沙汰されるようになり民間軍事会社にスポットライトが当たるようになったのは、軍事タブーが根強い日本では、ようやくイラク戦争の頃からだったと記憶していますが、もうあれから20年以上経っています。「暴力の独占」は既に国内に対するものと解した方がよいでしょう。

何かもう一押し書き立てたかったのでしょうが、話題が脱線しているように思えてなりません

■個々人の利害関係を捨象し過ぎている「ウクライナ軍」の反転攻勢に追い風論
ところで、国際ニュースはすっかりワグネル事件一色。ウクライナでの戦況の話はすっかり吹き飛んでいます。昨秋のポーランドの農村での流れ弾ミサイル着弾事件のときもそうでしたが、ゼレンスキー大統領の発言(ゼレンスキー大統領「反乱にロシアは混乱」6/25(日) 21:33配信 産経新聞)でさえ、あまり注目を集めていません。メディア・プロパガンダ機関の主たる関心がプーチン体制だということが改めてハッキリしたわけです。

ワグネル事件とウクライナでの戦況を結び付ける数少ない論調について取り上げておきたいと思います。
https://news.yahoo.co.jp/articles/4b952d46f4f91b6416ea831a7511def8c2ae448d
ワグネル“首都まで200km”進軍も撤退 プーチン政権に衝撃…ウクライナ軍 反転攻勢の“追い風”になるか
6/25(日) 13:32配信
FNNプライムオンライン

(中略)
ウクライナ軍反転攻勢の“追い風”になるか
ロシアが内紛で混乱する中、ウクライナ側では今回の内紛でロシアの侵攻部隊が弱体化し、反転攻勢の追い風になることに期待が高まっている。

ウクライナ軍は24日、SNSを通じて、東部ドネツク州の中で2014年からロシアに支配されていた、複数の地域を解放したと発表した。

ゼレンスキー大統領は、ワグネルの反乱について、「ロシアの弱さは明白だ」と主張、「悪の道を進んだものは、皆自らを滅ぼす」としてプーチン大統領を非難。

ウクライナ国防省情報局のブダノフ長官もツイッターで、ワグネルとロシア国防省との対立を「権力と金をめぐる共食いだ」と投稿。

ポドリャク大統領顧問は「プーチン体制崩壊が始まる前段階か」とツイートしている。

今回の内紛でウクライナ軍の兵士の士気が上がり、反転攻勢がより一層強まる可能性が出てきている。
ウクライナ軍の兵士の士気が上がり」と書くFNNプライムオンライン(これもサンケイ系ですね)ですが、「ウクライナ軍」と一口に言っても軍事階級によって様々な立場があるでしょう

軍事とは政治の延長線上に位置するものなので、ゼレンスキー大統領、ブダノフ国防省情報局長官、ポドリャク大統領顧問といった国家幹部層にとってはこのニュースは朗報だったことでしょう。しかし、実際に戦場で戦っている戦線指揮官や兵士たちにしてみれば、遠い敵国本土での内紛がどうなろうと、いま直面している敵の砲撃がどうにかなるわけではありません

もちろん、仮にインタビューしてみたとすれば「グッドニュースだ」と言う可能性は高いものと思われます。しかし、ロシア軍の砲撃によって次の瞬間には木っ端微塵になる可能性がある最前線のウクライナ兵たちは、インタビューが終われば直ちに現実に引き戻されることでしょう。目の前の敵を倒して自分自身は生き残るという原則には変わりありません。目の前の敵に混乱が広まり、ロシア軍の砲撃がぎこちなくなってきたのならばまだしも、そうでないなら前線のウクライナ兵の行動に変化は起こらないでしょう

この戦争の報道をウォッチしていて思う視点的問題点として、一口に「ウクライナ軍」と言い過ぎていることがあると私は考えます。「ウクライナ軍」が人間の作る組織である以上、そこには様々な考え方があるはずです。とくに軍隊というものは高度に階級化・組織化されており、命ずる側と命ぜられる側がハッキリとしています。これを一口に「ウクライナ軍」と表現するのはあまりにも粗雑で乱暴です。

個々人の利害関係を捨象し過ぎているのです。

このような粗雑で乱暴な日本の世論傾向をもっと広い視野で見たとき、現代日本社会では、こうした傾向はあまりにも一般的になっていると言わざるを得ません。外部から見たときに一つの社会的集団と見なされる集団の、内部的な利害関係が軽視されているのです。個人レベルで利害関係が必ずしも一致しない人々について、パッと見の外形的な集団単位で一緒くたにしているのです。

典型的なのが会社・企業。たとえば、A株式会社(架空の例示的存在です!)がブラック企業だったとして、A株式会社の労働者の労働意欲が低かったとき、その原因はA株式会社の使用者側の待遇にあるのが真実であるところ、消費者は「A株式会社の接客はなっていない!」と言うのが常です。これは、消費者目線からすればA株式会社はA株式会社であり、そこにおける労使の別など意識することがないからです。自分の目に見える外形的な範囲で物事を判断する傾向が現代日本社会では横行しているわけです。

※もちろん、ことあるごとに「現代日本社会」を云々している当ブログもその危険性から完全にフリーだとは言いません。「デカい主語」の問題点は私は踏まえているつもりではあります。「お前の主語はデカすぎるぞ」というご批判があれば、是非ともコメント欄にてご指摘いただければ幸いです。

ソ連崩壊によってマルクス・レーニン主義の権威が失墜して以来、利害関係に対する深い追求が弱まっているように思われてなりません。本来的には利益関係が一致しておらず、精々は「呉越同舟」に過ぎない一企業の労使ですが、彼らが一緒くたに扱われる傾向が、早くは国労のスト戦法に対する乗客の反応に現れていたところ、ますます強化されているのが現状です。

目に見えるものだけで即断するという傾向がますます強まっています。そうした全体的・底流的な世論傾向が、今回のワグネル事件でも、まんまと、ありありと見えてきていると私は考えます。
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2023年06月24日

プリゴジン氏は何の根回しもしていなかったのか?

https://news.yahoo.co.jp/articles/3554397329093623ef524a2e7b834a4196d85298
プリゴジン氏「プーチン大統領は騙されて軍事作戦始めた」ショイグ国防相名指しで非難
6/23(金) 22:38配信
テレビ朝日系(ANN)

ロシアの民間軍事会社「ワグネル」創設者のプリゴジン氏がウクライナ侵攻について「ロシア国防省がプーチン大統領をだまして始めたもの」と主張する新たな動画を公開しました。

 プリゴジン氏:「国防省は今、国民をだまし、大統領をだましている。2月24日のいわゆる特別軍事作戦は全く異なる理由で開始された」

(中略)
 プリゴジン氏は今月23日、SNSを更新し、ウクライナはこれまでもドンバス地域を爆撃しておらず、また、ロシアを攻撃するつもりもなかったと述べ、ロシアが主張する特別軍事作戦の目的を完全に否定しました。

 そのうえで、「ショイグ国防相や大富豪が自身の利益のために戦争を始めた」などと強調しました。

(中略)
 プリゴジン氏の発言には、ショイグ国防相や「オリガルヒ」と呼ばれるロシア新興財閥らにウクライナ侵攻の責任をなすりつけようとする意図があるともみられています。

 一方で、「プーチン大統領がだまされた」とも発言していて、今後、波紋を呼びそうです。
「君側の奸臣を討つ忠臣」というセルフ・プロデュースをしてきたプリゴジン氏でしたが・・・
https://news.yahoo.co.jp/articles/9c3095c5d999596f6866509e82f9926bedb59053
プーチン大統領、プリゴジン氏は「国家反逆にあたる」…緊急演説で厳しく糾弾
6/24(土) 17:01配信
読売新聞オンライン

(中略)
プーチン氏は同日、緊急のテレビ演説を行い、「国家反逆にあたる」と、厳しく糾弾した。国家防衛のために必要な指示を軍に与えたとし、「武装反乱を準備している者は罰せられる」と、強調した。
二・二六事件になりましたとさ

国防省上層部批判においては、しばしばプリゴジン氏と同調していたカディロフ・チェチェン首長(「民間軍事会社「ワグネル」創設者プリゴジン氏がロシア正規軍と絶縁宣言 反政権派と手を組み“打倒プーチン”に動くか」6/19(月) 16:15配信 NEWSポストセブン)ですが、独立系メディアサイト「メドゥーザ」によると、「凶悪な裏切り」と述べたとのこと。
https://meduza.io/news/2023/06/24/kadyrov-nazval-gnusnym-predatelstvom-myatezh-prigozhina
Кадыров назвал ≪гнусным предательством≫ мятеж Пригожина
18:00, 24 июня 2023

Глава Чечни Рамзан Кадыров назвал ≪гнусным предательством≫ мятеж под руководством основателя ЧВК Вагнера Евгения Пригожина.

≪Все происходящее − нож в спину и настоящий военный мятеж!≫ − сказано в сообщении в его телеграм-канале.

Кадыров заявил, что ≪полностью поддерживает каждое слово≫ из обращения Владимира Путина и что ≪бойцы Минобороны и Росгвардии по Чеченской республике уже выехали в зоны напряженности≫.
プリゴジン氏は何の根回しもしていなかったのかという疑問が湧いてきます。

当ブログとしては、このことを今後、NHKなどがどのように報じてゆくのかというところに関心があります。

中村逸郎・筑波大学名誉教授の「見立て」を見ておきましょう。中村名誉教授が「面白枠」として定着して久しく、大勢は彼の見立てを超楽観・超極論と見做しており、一部媒体を除いて相手にされていません。この戦争に関するNHKのプロパガンダは相当のものですが、それでも中村名誉教授ほどではありません。というよりも、ある程度冷静なメディアは、中村名誉教授を一つの「目安」としてあのラインには近づかないようにしている風にも見えます。それゆえ、彼の見立てを見ておくことは「極端を知る」という意味で有益だと考えます
https://news.yahoo.co.jp/articles/6e726f5b2fbe818b8ab3feab7c52ff6f5f6e7a5f
民間軍事会社ワグネルとロシア国防省が対立 「ワグネルが地方行政府の建物を軍事的に制圧し、プリゴジン氏が臨時政府樹立…」との見立ても
6/24(土) 16:26配信
BSS山陰放送

ロシアの情報機関FSB=連邦保安局は現地時間の23日深夜、民間軍事会社「ワグネル」の創設者プリゴジン氏について、武装蜂起を呼びかけたとして捜査を始めたと明らかにしました。
プーチン大統領が、戦術核兵器がベラルーシ領内に運ばれたと明らかにしたりもするなど新たな局面を迎えているウクライナ問題。
ロシア政治の専門家・中村逸郎筑波大学名誉教授は、ワグネルをウクライナ軍が支援する形でロシアの中で内乱が起き、「オーナーのプリゴジン氏が臨時政府の樹立を発表するのではないか、との見立てもある」と指摘しています。

(中略)
ですからロシアの中で、正規軍と民間の軍事組織が対立している。この対立しているワグネルを、ウクライナ軍が支援する、そうした形でロシアの中で内乱が起こっていく、そしてこのワグネルは、地方行政府の建物を軍事的に制圧していく。そしてクレムリン・モスクワへの包囲網を拡大していって、二重権力、そしてワグネルのオーナーのプリゴジンさんが臨時政府の樹立を発表するのではないか、という形で、このプーチン政権は8月には崩壊するんじゃないかという見立ても出てきています」

山陰放送
ワグネルを、ウクライナ軍が支援する」――アメリカの警告を無視してバフムトに兵力を注ぎ込むほどに軍事合理性を貫徹できていないウクライナ軍が、侵略の尖兵たるワグネルを支援するという見立ては「あり得ない」レベルで考えにくいものです。それだけ打算的に考えられるような軍隊ではないでしょう。

そうした形でロシアの中で内乱が起こっていく」――ワグネルに呼応するような反政府勢力がどれほど居るのでしょうか?

二重権力、そしてワグネルのオーナーのプリゴジンさんが臨時政府の樹立を発表するのではないか、という形で、このプーチン政権は8月には崩壊するんじゃないか」――荒唐無稽の極み。政権が持続可能な形で存続するために何が必要なのか中村名誉教授はご理解なさっていないのでしょう。政治・経済・思想文化において人々の上に立ち得る各種資源を手中に収めている者だけが政権担当者になり得ます。この戦争でプリゴジン氏の立場は大幅に上昇・強化されたとはいえ、地方レベルでさえ独自の政権を打ち立てられるほどのものではありません。

中村名誉教授といえば、ちょっと前にはこんなことを言っていました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/ee3bdaf3aee5cbb3030e73dd604eacb260fcb2df
「8月革命でプーチン暗殺」の緊迫情報 元側近のワグネル創設者・プリゴジンが“ロシアの明智光秀”になる日
6/14(水) 6:02配信
SmartFLASH

(中略)
「政権内はすでに混乱していて、先月のクレムリンへのドローン攻撃について、プーチンは『上空を通過していっただけだった』と記者に言ったんです。つまり、誰も本当の攻撃内容を彼に伝えていない。都合の悪いことは口にすらできない状況なんです。

 クレムリン内部からは、プーチンの“対立候補”を探そうという動きが出ていると聞こえてきています。では、実際に誰がプーチンに弓を引けるかというと、民間軍事会社・ワグネル創設者のプリゴジンしかいないでしょう」(中村氏)

(中略)
「プーチンにとって、側近だったプリゴジンに暗殺されかねない状況。まるで、織田信長と明智光秀の関係性といったところでしょうか」(中村氏)

 2度めの“8月革命”が起こりうる。

週刊FLASH 2023年6月27日号
中村名誉教授やNHKの石川一洋・専門解説委員など、ある年齢層よりも上の人たちは、1991年8月のソ連共産党保守派のクーデター未遂事件の記憶があまりにも強烈だからか、ロシアで政変の可能性が僅かにでも発生するたびに「あのとき再来」に結び付けているように見受けられます(この点、彼らよりも下の年齢層の東野篤子氏や廣P陽子氏、そして小泉悠氏らは、ロシア国内の政変に期待している様子はあまり見受けられません)。

たとえば石川NHK専門解説委員は、一昨年8月に「ソビエトクーデター未遂事件30年 その意義とロシアの民主主義」(2021年08月20日)という演説を打ち、「ロシアの市民が自ら民主主義を守り、独立した民主国家ロシアの基礎を築くとともに、ほかの共和国の自立も守ったという点で歴史的な意義を持つ」などと位置づけました。

8月クーデター未遂事件は確かに「ソビエト帝国」において非常に異例なことではありましたが、結局のところあれは、熱しやすい民衆の熱情・激情の波に上手く乗った野心的政治家たちのカウンター・クーデターだったというのが実相でしょう。当時立ち上がった民衆の目指した社会像と、ソ連崩壊後の旧ソ連諸国の社会の在り方は明らかに異なっています。民衆はソ連崩壊とポスト・ソ連国家の主人になり切れませんでした。8月クーデター未遂事件に始まるソ連邦崩壊では、民衆の熱情・激情が上手く利用された言わざるを得ません。

なお、先ほどのNHKニュース7は、防衛省防衛研究所の兵頭慎治氏が出演(「【解説動画】プーチン氏 緊急演説 ワグネルと事態が進む可能性」2023年6月24日 20時00分)。ウクライナでの戦況の分析はプロなのでしょうが、兵頭氏にクーデターの帰結を分析できるのでしょうか? まだ東野篤子氏や廣P陽子氏の方が解説できるような気がしますが、それはさておき、彼は番組中で「ロシアは一枚岩ではないことが明らかに」とか「ロシアは、国内の動きにも対応しなければならない」といった程度の分析に終始しました。「ずっと前からそうだよね」という感想しか残らず、要するに現時点では、戦争遂行には大きな影響はないということなのでしょう

中村名誉教授があの調子で兵頭氏がこの調子なので、恐らく今後の報道は、大勢は「プーチン政権に大きな打撃(戦争への影響は分からない)」くらいのラインで、一部が「プーチン政権崩壊近し」で話が進むものと思われます
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2023年06月22日

乳製品供給事業を特筆した朝鮮労働党中央委員会第8期第8回総会拡大会議について

http://www.uriminzokkiri.com/index.php?lang=jpn&ptype=cfonew&mtype=view&no=47623
党中央委第8期第8回総会拡大会議に関する報道

【平壌6月19日発朝鮮中央通信】百戦百勝の朝鮮労働党の科学的で強力な指導実践によって、われわれの偉業の不抜さと強靭さが世界に一層誇示され、社会主義建設の新たな高揚期を開いていく全人民的闘争が深化する中、党中央委員会政治局は国家繁栄の雄大な目標の完璧(かんぺき)かつ実のある達成を図るために総会を招集した。

(中略)
報告で党中央委員会政治局は、現在、党が重視する政策的課題の実行状況に注目した。

特に、党中央委員会第8期第3回総会で示された新しい育児政策の実行の実態を詳細に分析、総括した。

これまでの2年間、道・市・郡でミルクの生産量を増やし、製品生産設備を備えるための多くの努力が傾けられ、ミルク製品を供給するシステムと秩序が整然と樹立されて、託児所・幼稚園年齢期の全ての子どもが一日も欠かさず正常にミルク製品を食べられるようになったのは、党中央委員会第8期の期間にわが人民の生活で起こった最もはっきりした変化の一つである。

党中央委員会政治局は、育児政策実行状況を単位別に、内容別に長所と短所を正確に探して総括し、ミルク製品の生産を増やすための実質的な対策を立て、一貫性あるものに推し進めることについて強調した。

(以下略)
朝鮮労働党中央委員会第8期第8回総会拡大会議について。朝鮮中央通信によると、同会議では様々な成果と課題が議題に上がったようですが、とくに乳製品の供給に対して特筆されていることに私は注目しました。元帥様肝いり事業であり、そして何よりも人民生活向上において極めて重要な地位にある乳製品供給事業。子どもたちの栄養状況が改善されることほど重要かつ喜ばしいことは他にありません。

もちろん、「実際のところどうなのか」は、外部から観測し難いことですが、少なくとも党と国家の重要課題として位置づけられており、そして成果として挙げられている点は注目に値することであると考えます。

総会報道が乳製品供給事業を特筆したことを踏まえつつ今回の総会を見ると、後代育成を踏まえながら人民の党・人民の国家としての朝鮮労働党と朝鮮民主主義人民共和国の更なる組織化を目指したものという位置づけも出来るように思われます。総会報道は下記のとおり続きます。
総会は、第2の議案「教育事業を発展させるための画期的措置について」を討議した。

党中央委員会の朴泰成書記が国の教育構造を先進教育を与えられるように直し、教育の内容と方法を世界的な教育発展の趨勢(すうせい)に合わせて改善すべきだという党の方針を体して、当該部門が推し進めてきた研究状況を報告し、総会の審議に提起した。

総会は、第3の議案「各級人民委員会の活動家の役割を画期的に強めることについて」を討議した。

党中央委員会の趙甬元書記は、自分の地域の発展を導く強力な牽引機、人民の生活に責任を持った戸主である道、市、郡人民委員会の活動家に対する党の信頼と期待はとても大きいと述べた。

会議では、人民委員長が自分の地域を党と国家に全的に責任を持つという確固たる観点と立場を持って、活動で主導性、創造性、活動性を積極的に発揮する上で提起される原則的問題が強調され、敗北主義に陥って受け持った事業を主人らしく展開していない一部の人民委員長に対する資料通報があった。

総会は、第4の議案「人民主権の強化において提起される問題について」を討議した。

最高人民会議常任委員会の崔龍海委員長が発言した。

崔龍海委員長は、人民の代表であり、国政の主人である代議員たちが国家と人民が付与した神聖かつ責任ある位置を自覚し、高い政治意識と創意性を発揮させる上で代議員選挙方法を改善することが持つ重要性に言及した。

わが国家主権の人民的性格に応じて勤労者大衆が国家と社会の真の主人としての責任と権利を十分に行使し、中央集権制原則に基づいた民主的選挙制度を一層強化、発展させるための方向で研究した新しい代議員選挙方法に関する解説があった。

崔龍海委員長は、代議員選挙方法に関する研究案を総会の審議に提起した。

総会は、第5の議案「党規律建設を深化させるための重要対策について」を討議した。

党中央委員会の趙甬元組織書記が発言した。

趙甬元組織書記は、金正恩総書記がわが党が革命を行う党、闘争する党としての威力を遺憾なく発揮するには党規律建設を党建設と党活動の先決の重大課題、重要路線に掲げるべきだという独創的な党建設思想を打ち出したことに言及し、社会主義建設の全面的発展、全面的繁栄という偉大な目標に向かって前進している現在、党規律を一層確立するのが持つ意義と重要性を強調した

趙甬元組織書記は、新時代の党建設理論に立脚して規律監督部門の機構システム、活動システムを改善するための方途を研究した状況を報告した。

党規律建設を新たな高さで一層深化させ、鉄の規律で党中央の唯一的指導の実現と党の広範囲な政治活動を徹底的に裏付け、朝鮮労働党の潔白な政治気風を変わることなく堅持するための制度的装置の補強において現実的意義を持つ対策案が総会の審議に提起された。
第2議案「教育事業を発展させるための画期的措置について」は言うに及ばず、第3議案「各級人民委員会の活動家の役割を画期的に強めることについて」が党の会議でわざわざ議案化されたことは、社会の組織化をさらに高度化しようとする党の強い意志を感じるものです。

というのも、各級人民委員会(日本でいう都道府県庁や市町村役場などの地方公共団体に相当するもの)は、党の組織ではなく行政の組織であり、それについて党中央委員会総会で決定が下されることには些か違和感があるからです。党の総路線提示に呼応する形で最高人民会議(日本でいう国会)で決めてもよいような議題を、わざわざ党中央委員会総会で取り上げるところには、「社会の組織化を更に進める必要がある」という情勢認識があるように思われます

第4議案「人民主権の強化において提起される問題について」も同様の視点から考えると興味深い議案です。人民の代表としての最高人民会議代議員の地位をより鮮明にする必要があるという提起からは、乳製品供給事業の強化と同じ文脈で、人民大衆の積極的支持のもとに共和国の人民権力を打ち固める方向性が鮮明に見られるように思われます

第5議案「党規律建設を深化させるための重要対策について」は、詳細は不明ながらも、これまでの議案を総括するような内容ではないでしょうか? 第1議案から第4議案までを徹底するためには党の規律を鉄桶のように固める必要があるという筋書きだと思われます
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2023年06月19日

経済の論理が政治を呑み込み、社会全体を侵食する現代資本主義が、ついにここまで来た:統一地方選挙から見える世相について

統一地方選挙から見える世相について考えてみたいと思います(選挙から2カ月も経つのにすみません。原稿素案は早くから出来ていたのですが、詰めの内容調整に時間が掛かりました)。

もとより当ブログは「日本の自主化・協同化」を探るというテーマがあるので、常にニュースから世相を炙り出すというのが本筋です。前回、5月8日づけ「災い転じて福となすべく「民間にできることは民間に」を換骨奪胎しよう」と重複する部分もありますが、「維新の躍進」が伝えられる今回の統一地方選挙について「経済の論理が政治を呑み込み、社会全体を侵食する現代資本主義が、ついにここまで来た」という視座で考えてみたいと思います。

■経済おける人間関係とは「互いに他人同士」、政治における人間関係とは「互いに身内同士」
https://news.yahoo.co.jp/articles/5c11abb988974f67d9b454f009e1ee582bd77214
立憲民主、共産党、れいわ......選挙の時の有権者の気持ちはこんなもの
4/11(火) 11:59配信
ニューズウィーク日本版
与野党問わず、まるでジョーク、いやジョークにもならない政治家たちの振る舞いが目立つ。統一地方選挙の季節だが、この果物屋店主に共感する人は多いはず

【果物屋にて】

とある国会議員が自身の選挙区を歩いていた。議員は果物屋の前で立ち止まり、店主に言った。

「何かおすすめの果物でも買っていこうかな」

「分かりました」

しかし、店主が差し出してきたのは、小さくてまだ青いミカンと、穴のあいたリンゴと、腐りかけたメロンだった。店主が言った。

「お好きなものをどうぞ」

議員は怒った。

「ひどいものばかり並べやがって! いったい何のつもりだ!」

店主が答えた。

「選挙の時の私たちの気持ちが少しでもお分かりいただけましたか」

(中略)
国会審議中に汚いヤジを飛ばしたり居眠りをしているのは与野党問わず。国会だけでなく地方議会も惨憺たるありさまだ。だが、これも「私たちが選んだ人たち」である。

4年に1度の統一地方選挙。美味(おい)しく、体に良さそうな果物は果たしてあるか。

【早坂 隆(ノンフィクション作家、ジョーク収集家)】
あくまでもジョークという断りがあるものの、経済行為と政治行為とを混同しています。経済おける人間関係と政治における人間関係は決定的に異なるものであるにもかかわらず、経済おける人間関係像を政治の分野にそのまま持ち込んでしまっています

著名な経済人類学者であるカール・ポランニーは、資本主義社会は、経済活動が社会活動の一部分して組み込まれていた前資本主義社会とは逆に、経済活動が社会活動を呑み込んでしまっており、経済の論理が政治などにも波及してしまっていると指摘しましたが、いよいよ事態はここまで来てしまったようです。

経済行為、典型的には私的営業が認められた商取引の世界には「売り手」と「買い手」が存在していますが、彼らが立場を入れ替わることは基本的にはありません。果物商A氏と顧客B氏がいたとして、私的営業が認められている限りにおいてはA氏はあくまでも果物の売り手であり続け、B氏はどこまでも果物の買い手であり続けます。ある日はA氏がB氏に、別の日にはB氏がA氏に当番制で果物を売るということはありません。それゆえ、買い手が売り物である果物の品質を酷評することは、カスハラにならない限りは、特段の問題はありません。

これに対して政治行為としての選挙は、一見すると候補者が自分自身の政治的手腕を売り込み有権者が1人1票の原則で投票する点において、商取引に類似しているようにも見えます。しかし、商取引において売り手と買い手が入れ替わらないのに対して、選挙は自分たちの中から代表者として政治家を選出するという点において決定的に異なります。商取引においては売り手は売り手・買い手は買い手であり続けるがゆえに、買い手は商品の質に責任を負わないのに対して、選挙とは自分たちの中から代表者を選ぶという行為であるがゆえに、政治家の質の低さは自分たちの責任になるのです。

商取引の場である果物屋で「小さくてまだ青いミカンと、穴のあいたリンゴと、腐りかけたメロン」が売られていれば、「いったい何のつもりだ!」と思って当然でしょう(別の店に行けばいいというツッコミはナシ)。売り手と買い手は他人同士なのだから、この言い分には理由があります。しかし、たとえば学級委員選挙において誰も立候補したがらなかったとして「なんで誰も立候補しないんだ!」などと口走ろうものならば、間違いなく「お前のクラスでもあるんだから、お前が立候補しろよ」と言われるでしょう。選挙の立候補者と有権者は身内同士なのだから「そういうお前も責任の一端を担っているんだぞ」ということになるからです。

■「交換」の歴史
もう少し突っ込んで考えてみましょう。経済活動の根幹を担う「交換」について考えてみましょう。

前出ポランニーによると、人間の経済活動には、どのような時代であっても「互酬」「再分配」及び「交換」の3つの方法・形態が組み込み合って共存しているといいます。そして、生存に欠くことのできない基礎物資を人々がどの方法で入手しているかで、その社会の経済を性格づけることができるといいます。

「互酬」とは、社会集団のメンバーが特定のパターンに従って相互に贈与しあうことをいいます。平たく「助け合い」と言ってもよいでしょう。ここにおいては、贈り物の質や量は必ずしも等価性原理には基づいておらず、むしろ集団の凝集性と集団間の連帯性を維持・向上することを目的として意志決定されます。

個々の人間が生存するために最初に「助け合う」対象は、通常は、血縁・姻族関係にある家族・親族同士です。それゆえ、「助け合う」ことの基本的関係は親族であると言えます。したがって、互酬の関係性は、血縁的紐帯が主要な組織である社会では支配的な経済的様式であると言えます。

「再分配」とは、物資等がいったん中央権力に集約されてから、中央権力の意向に従って各人に配給されることをいいます。なお、物理的に中央権力の下に物資が集約されずとも、中央権力の指図に従って分配が実現されれば、それは再分配と言い得ます。現代日本においても再分配制度は確立していますが、霞ヶ関ないしは永田町に物資が一時的にも集積しているという事実はありません。

「交換」とは、使用価値の異なるモノ同士で行われる行為です。同じモノ同士を交換することはまったく無意味なので、交換とは彼我の所有物が違っているときに起こるものです。つまり、彼我に「違い」があるところに「交換」が生じます。

「交換」は家庭内では基本的には生じない行為です。家族内は基本的に「互酬」原理で統合されており、「交換」は家族共同体同士の境界において外部に対して行われます。また交換は、自給自足的な古代の村落共同体の内部では、まったくなかったわけではありませんが、主たる様式ではありませんでした。ここでは「互酬」と「再分配」が基本であり、「交換」はヨソの村人や旅人といった村落共同体の外部に対するものでした。

前述のとおり、人間の経済活動においては、どのような時代であっても「互酬」「再分配」及び「交換」の3つの方法・形態が組み込み合って共存してきましたが、現在のように「交換」が主たる方法になったのは、19世紀以降のことことです。人間の歴史において長く市場は補助的なモノに過ぎませんでしたが、「経済が社会の中に埋め込まれている」というべき社会から「市場が全面的に拡大し、社会活動を支配する」社会への大転換が19世紀に起きたのです。

この大転換には、3つの前提条件があったといいます。すなわち、(1)私的所有権の確立、(2)個人の自律性の確立、そして(3)消費目的ではなく利潤目的での生産でした。そして前提条件の下で、土地や労働力といった本来商品とはなり得ないものまで市場交換の対象になったことで、市場交換が経済活動の主たる様式に成り上がったといいます。

この流れを総括するに「交換」とは、「個」が確立した状況において、彼我の持ち物が異なるときに、ヨソ者を相手に行う行為であると位置づけられると思われます。これに対して、政治活動とは社会共同体を運営する諸行為であります。その意味で人々は、経済的には他人同士であったとしても政治的には身内同士の関係にあるのです。

経済おける人間関係と政治における人間関係との違いは、端的に言ってしまうと上述のように、前者が他人同士であるのに対して、後者は身内同士だという点にあるでしょう。上掲記事は、この決定的な違いを見落として両者を混同しています。

■経営失敗の責任を取れる企業経営者はチャレンジャーになってもよいが、失政の責任を取り得ない政治家はチャレンジャーになってはいけない
経済行為と政治行為とを混同する見方が広く蔓延していることは、今回の統一地方選挙で大幅な議席増を果たした「日本維新の会」人気からも推察することができます。維新共同代表の吉村洋文・大阪府知事は次のように述べていますが、彼及び維新のこのような姿勢は、同党支持者から絶大な支持を獲得しています。
https://goetheweb.jp/person/article/20230509-climbers-6
日本維新の会・吉村洋文「日本は失敗を恐れている場合ではない」

リーダーの条件は「勇気」
リーダーにとって必要なものは何か? まずは結論から言います。必要なのは決断力、判断力、実行力。そしてその上にあるのが「勇気」です。日本人、とくに政治の世界は勇気がないから、前へ進めません。勇気がないから判断に時間がかかるのです。

大阪のIR整備計画は昨年4月に国へ申請し、今年4月に認定されました。認定するだけのことに、なんで1年もかかるのか? そんな状況で、ビジネスなんてできません。“失われた30年”といわれるように、なんの前進もなく時間だけが過ぎてしまいます。

(中略)
日本は「沈んでいく国」と言われています。実際にそう感じている人も少なくないでしょう。でも、日本は「強みがいっぱいある国」だとも思っています。真面目で、人を思いやる心があり、輪をもって行動することが得意で、道徳観や倫理観も高い。日本人は本当に優秀です。

優秀じゃないのが、経営者と政治家。日本が停滞している原因はここにあると思います。経営者も政治家も、責任追及されるのが嫌でチャレンジしなくなっている。

リーダーは勇気をもってチャレンジャーにならなくてはいけない。1回目、2回目がダメでも3回目がある。日本は失敗を恐れている場合ではないのです。
リーダーは勇気をもってチャレンジャーにならなくてはいけない」――これも経済活動と政治活動とを混同した見解であると言わざるを得ません。

経済学者の松尾匡氏は、連載記事『リスク・責任・決定、そして自由!』の第3回において「ハイエクは何を目指したのか ―― 一般的ルールかさじ加減の判断か」という記事で、反共主義・自由主義の哲学者・経済学者であるハイエクの経済思想について次のように解説しています。
あれこれの状況に直面したもとで、民間の人々ならいろいろな選択をそれぞれにする可能性があるところで、国家がその中で特定の政策を選ぶということは、特定の目的を人々におしつけることになります。ハイエクは、これは公平ではないと言います。

立法者が公平でありうるとしたら、まさにこの意味においてだけである。公平であるということは、特定の問題──決めざるをえない時にはコインを投げる必要のあるような問題──にどんな答えも持っていないということを意味するのである(*28)。(強調は引用者)

「決めざるをえない時にはコインを投げる必要のあるような問題」というのは、すなわちリスクのある問題ということです。つまり「役所はリスクのあることに手を出すな」ということです。私から敷衍して言えば、役所がリスクのあることに手を出すと、その結果はその判断に同意していない人も含む多くの人々を巻き込むことになるのに、その責任はとらないということです。せいぜい決定者が辞めるぐらいです。江戸時代なら切腹したかもしれませんし、北朝鮮では銃殺されるかもしれませんけど、だとしても、被害者が補償されるわけではありません。補償されたとしても、それは決定者の自腹で負担されるものではありません(そもそも無理)から、結局国庫の負担になって、一般国民に広く損が分散されるだけです。

野田前総理は、原発の再稼働を決めるにあたって、「総理としての責任で」とおっしゃいました。この「責任」ってどんな意味なのか、私にはまったくわからないのですけどね。万一今度原発に何か起こったときに、まだ野田さんが総理でいる可能性は、あの時点から見ても限りなくゼロでしょう。議員である可能性もほとんどない。辞めて責任をとるというわけにはいきません。ましてや自腹で被害者に賠償するはずはないし。

リスクのあることを決めても責任をとらなくてもいいのならば、どんどんリスクのあることに手を出してしまうでしょう。それでは、ただでさえリスクを抱えている民間の人々に、さらに過剰なリスクを押し付けることになってしまいます。

(中略)
リスクのあることは、すべてそのリスクにかかわる情報を持つ現場の民間人に決定を任せ、その責任は自分で引き受けさせる。公共は、リスクのあることには手を出さず、民間人の不確実性を減らして、民間人の予想の確定を促す役割に徹する。この両極分担がハイエクの提唱した図式だと言えるでしょう。
(中略)
役所が民間企業のようになれという誤解
さて、ハイエクは世界の政界に自由主義を広める目的で、「モンペルラン協会」を作って活動しました。また、ロンドンに作った「経済問題研究所」は、サッチャー革命の理論的拠点となりました。こうして世界中で「小さな政府」を掲げる新自由主義路線が、ハイエク思想の名の下に推進されてきました。

このような流れの中で日本でも、競争や財政削減や民営化を推進する動きが支持を集めてきましたが、はたしてそれはもともとハイエクの言っていたような根拠で理解されたものだったでしょうか。

私にはハイエクとは正反対の考え方で推進されているように思えます。

ここはやはり橋下徹さんのやられていることが典型だと思いますが、ことあるごとに「民間では……」と言って、職員を威圧したり、校長や区長を民間から公募したりしています。カジノにしろ「大阪都」にしろ、あえてリスクのあることを断行することがいいことのような姿勢をとっています。一言で言えば、役所が民間企業のようになることが、自由主義的転換の中身であるように理解されているように思います。しかもかなりブラックなやつ……。民間企業のやるようなことに役所が手を出してはならないというのがハイエクの主張だったのに。

(中略)
思い返せば、十数年前の小泉さんの「改革」もそうでしたけど、権力者が、民意の支持のもとに、ハイエクの最も嫌う、何らかの特定の目的を持った判断を行い、リスクをいとわずに断行することをよしとする姿勢が横行しているように思います。十数年前は、その結果もたらされた就職氷河期で、どれだけの若者の人生が狂ったか。リストラ横行してどれだけ自殺者が出たか。でもその判断をした当人たちは、何の責任もとりません。
経営失敗の責任を取れる企業経営者はチャレンジャーになってもよいが、失政の責任を取り得ない政治家はチャレンジャーになってはいけないのです。

■政治家の「引責辞任」は責任を取っているうちに入らない
維新系政党の指導者は代々、自分自身の進退を賭けて政策を推進するという「芸風」を取ってきました。橋下徹氏や松井一郎氏は大阪都構想に自身の進退を賭けましたし、馬場伸幸代表は昨夏の代表就任早々に今回の統一地方選挙で目標の600議席獲得がてきなければ辞任するとブチ上げたものでした(「600議席未満なら辞任 統一地方選めぐり維新・馬場氏」2022年08月29日21時02分)。

いわゆる「引責辞任」のつもりなのでしょう。「責任を取って辞める」が一連の儀式と化している現代日本では今更引責辞任について問い直されることはまずありませんが、しかし、政治家が辞任したところで一体どのような意味で責任を取ることができるというのでしょうか?

経済活動における失敗、たとえば、投資判断に失敗して損してしまったとすれば、損失を自ら引き受けることで責任を取ったと言えます。他人に損をさせてしまったとすれば、それを弁済して元通りにすれば責任を取ったと言えます。これに対して政治活動における失敗は、松尾氏が上掲記事で「江戸時代なら切腹したかもしれませんし、北朝鮮では銃殺されるかもしれませんけど、だとしても、被害者が補償されるわけではありません。補償されたとしても、それは決定者の自腹で負担されるものではありません(そもそも無理)から、結局国庫の負担になって、一般国民に広く損が分散されるだけ」と指摘したとおり、その被害があまりにも大きいので、その責任は取りようがありません。辞任はもちろんのこと、政治家が自殺したり処刑されたりしたところで失政による損失が穴埋めされるわけではないのです。いわゆる引責辞任は、現指導部を退場させることでそれ以上の失政を止めるという機能以上のものはないというべきです。

このように、経済活動と政治活動は、前者は決断に対して責任を取り得るのに対して後者は取り得ないという点においても決定的に異なるのです。企業経営者と政治家は決定的に異なります。経営失敗の責任を取れる企業経営者はチャレンジャーになってもよいが、失政の責任を取り得ない政治家はチャレンジャーになってはいけないのです。「有権者の民主的総意で一つのチャレンジに賭け、失敗した場合には全員で連帯責任を負う」にしても、上掲引用部分のハイエクの指摘にあるとおり、それは「特定の目的を人々におしつける」という側面があることを忘れてはなりません。

維新とその支持者たちは、この決定的な違いを見落として混同しています。

■「引責辞任」が政治家本人にとって大きな制裁になっていないことを自ら証明してきた維新
引責辞任が政治家本人にとって大きな制裁になっていないことは、維新が自ら証明してきました。たとえば、大阪都構想頓挫の「責任」を取った橋下徹氏ですが、政治家引退後の自由奔放な日々を見るに、引責辞任は政治家本人にとってマイナスになっていないと言わざるを得ません。公人としての立場を失って久しい橋下氏ですが、むしろそれゆえに自由奔放に発言を繰り返しています。

たしかに政治権力を失った彼は自分自身の手で政治を動かすことはできなくなりました。しかし、自ら育ててきた後継者に陽に影響力を行使したり、SNSを通して熱心な支持者たちに訴えかけることで間接的に政治的な力を行使しています。昨春にはロシアのウクライナ侵攻に関して停戦の必要性を連日力説しましたし、最近は、周回遅れの水道民営化論を展開したそうです(「『めざまし8』橋下徹氏、横浜市の2週連続“水道管漏水”で水道民営化提唱も異論続出「海外では民営から戻してるのに」」5/2(火) 11:00配信 New's)。多忙な現役の市長・府知事のままであれば、ウクライナの話や他市での漏水の話から水道民営化云々を語ってはいられなかったでしょう。市長・府知事時代よりも楽しそうなポジションに立っているように見受けられます。

このごろ政界引退した松井一郎氏も、「橋下さんとユーチューブで無責任に世相を切っていこうかな」などと口にしています(「「何の後悔もない」松井一郎大阪市長が任期満了 橋下氏とタレントで共闘≠焉I?」2023/4/6 14:37)。なんだか楽しそうですね。

■「独自」の責任観念は、経済活動とくに市場経済を正しく理解していないことを示している
経済行為と政治行為とを混同するにしても、経済活動とくに市場経済に対する理解が正しくあれば、政治に対する理解が足りなかったとしても「まだマシ」だと言えます。しかしながら、「政治的失敗の責任は取り得ない」にも関わらず、企業経営者と政治家を同列視した上で「リーダーは勇気をもってチャレンジャーにならなくてはいけない」とする吉村氏の発言からは、彼及び彼の支持者が独自の「責任」観念を持っていることを伺わせます。そしてそのことは、経済活動とくに市場経済を正しく理解していないということを示しています

松尾匡氏の連載記事『リスク・責任・決定、そして自由!』は、第2回「ソ連型システム崩壊から何を汲み取るか──コルナイの理論から」において、消費財が慢性的に不足していた冷戦期東側諸国の失敗について、リスクを伴う投資判断に対して失敗の責任が十分には問われなかったことがその失敗の原因であるとするコルナイ・ヤノーシュ(経済学者でハンガリー人民共和国の元経済官僚)の「ソフトな予算制約」という指摘を紹介しています。
コルナイさんは、ソ連型経済システムの特徴を、慢性的な不足経済として描いています。労働力も生産物資も消費財も、いつもどれも足りない経済ということです。発展途上国と違って、決して生産力が足りないわけではないのに、不足が不足を呼んで再生産される「均衡」に陥っているのです。

コルナイさんは、こんなことが起こる原因として、まず「投資渇望と拡張ドライブ」をあげます(*8)。要するに、企業が機械や工場を設備投資して、生産規模を拡大していくことに、歯止めがないということです。彼は、1973年のオイル・ショック後の景気後退期に、西側資本主義国の企業は設備投資を減らしたのに、東ヨーロッパでは、ハンガリーでもポーランドでも企業の設備投資意欲は衰えなかったという例をあげています。

次に、「量志向とため込み」をあげています。企業は、原料や燃料や部品などの投入資材を、倉庫一杯にため込もうとするわけです。
(中略)中央政府から突発的な生産ノルマが降りてきても、支障なく超過達成して、ご褒美のボーナスをもらえるよう、日頃からあらゆる手を尽くして生産に必要な資材を集めておくというわけです(*10)。
(中略)
さて、ではなぜ歯止めなく設備投資したり、生産資材を貯め込んだり、どんどん輸出したりするのでしょうか。コルナイさんがあげている根本的な原因は、「ソフトな予算制約」ということです(*16)。
(中略)
コルナイさんは、西側の企業では、企業のオーナー自身が設備投資決定すれば、「彼自身のお金にかかわる」と言います。つまり、失敗したら自分の損ということです。(中略)東側の国有企業経営者は違います。コルナイさんによれば、投資判断がうまく当たれば、昇給やボーナスが得られ、名誉も得られるけど、投資判断に失敗しても、「前よりもさほど低くない地位の別の機関や職場へ左遷させられるだけ」ということです(*18)。

つまり、国有企業経営者は、企業長単独責任制のもとで、資材購入や労働雇用の決定権を持っていました。ハンガリーやポーランドでは、設備投資の決定権まで持っていました。ところが彼らは、決定の結果おこることについては、責任をとる必要がなかったわけです。本当に社会のニーズに合うかどうかわからないリスクのある決定をする人は、本来そのリスクに応じて責任をとらなければならないと思います。しかし、その責任をとる必要がなく、うまくいった場合のメリットばかりがあるならば、資材のため込みにも設備投資にも歯止めがかからないのは当然です。

この問題を解決するためにはどうすればいいか。設備投資や資材購入や新規雇用の決定をする人が、その決定の結果について責任をとるようにしなければならないということです。つまり、失敗したら自腹で補償する。あるいは、倒産して地位を失う憂き目にあう。しかし、責任を取らされるばかりなら誰も決定する地位に着こうという人はでてきませんから、決定の結果うまくいったときの成果は、「利潤」としてある程度決定者に帰属するようにする……これは、要するに「私有」ということにほかなりません。

だからコルナイさんは、ソ連型システムは改革不可能で、西側同様の私有資本主義になるほかないという結論に至ったわけです。
資本主義経済・市場経済を標榜する西側諸国が冷戦期の体制間競争に勝ち残ったことは疑いなき事実ですが、20世紀社会主義に対する20世紀市場経済の真の優位性は「企業経営の判断に対して正しく責任を取らせた」ところにあったと言えます。松尾氏は当該記事の後半で、「投資決定者が責任をとらないソフトな予算制約」は、現代資本主義でも見られると指摘しています。20世紀社会主義と現代資本主義には共通の問題を抱えているわけです。
2008年にサブプライムローン問題をきっかけにして世界金融危機が起こりました。そこで、「金融自由化のせいで、ご立派な大手の金融機関まで、サブプライムローン証券とか何とか、新しくひねり出された怪しげな商品を取引して、自由にバクチをうって、もうけに浮かれていたからこんなことになったのだ」と、世界中で批判が起こりました。

このときアメリカでは、サブプライム取引の損失で経営危機に陥った大手保険会社のAIGに、巨額の公的資金が投入され、物議をかもしています。さらに、同社がその後、公金をもらっておきながら、400人の幹部社員に約160億円相当のボーナスを払ったことで、いっそう騒ぎが大きくなりました。

しかし、コルナイさんが指摘した、ソ連型システムがなぜうまくいかなかったのかという本当の理由をちゃんと理解していれば、こんなことにはならなかったのです。

金融自由化で、自由にいろいろな金融商品を取引できるようになった金融機関のディーラーの人たちは、他人から預かった「ヒトのカネ」を使ってバクチをうちます。たしかに、それでうまくいけば、金融機関ももうかるし、ディーラー本人もご褒美がもらえます。しかし失敗した場合は、しょせん「ヒトのカネ」であって、損するのは顧客。ディーラーの自腹が痛むわけではありません。

AIGがディーラーたちに高額のボーナスを払ったのも、そうしないとディーラーたちは沈みかかった船を見捨てて、別の会社に移ってしまうからです。どっちにせよ、失敗しても自分個人は大丈夫ということです。

金融機関にしても、あんまり大きいと、つぶれてしまったら国民経済に悪影響を与えてしまいます。つぶれたせいで景気がますます悪化してしまう。罪のない多くの会社がつぶれ、失業者もたくさん出てしまう。そんなことになるわけにはいきませんから、結局はつぶれないように、政府は公的資金を投入して救うほかありません。以前の日本の金融危機のときもそうでしたよね。

しかし政府がそんなふうにいざというとき救ってくれることは、誰でも最初から読めることです。コルナイさんの言う、「ソフトな予算制約」そのものです。

つまり、リスクと決定と責任が一致していないのです。リスクのある金融取引を決定しながら、その決定者は自分ではリスクをかぶらず、そのリスクがかかってくる顧客などに対して責任をとらない仕組みになっているわけです。こうなれば、どんどんと過剰にリスクの高いことに手を出していくことは、コルナイさんの理屈から言って当然のことです。
企業経営者と政治家を同列視した上で「リーダーは勇気をもってチャレンジャーにならなくてはいけない」とする吉村氏の発言、そしてそれを賞賛する維新支持者たちは、独自の「責任」観念を持っている点において、20世紀社会主義に対する20世紀資本主義の真の優位性を理解していないと言わざるを得ません正しい政治観もなければ正しい経済観もないのです。

■こんなんだから緊縮財政が続くんだろうな
「維新レベル」の発言は、しばしばヤフコメでも目にします。たとえば、「【速報】立憲民主党が内閣不信任決議案を提出 「政権を担う資格がないことは明白」」(6/16(金) 11:42配信 TBS NEWS DIG Powered by JNN)のコメント欄では、次のような投稿がありました。
茶番劇はもう良い。何故国が良くならないか?それは、政治家が経営者ではないからだ。生活の為、従業員、つまり国民の事を考えて努力しているのは、企業の経営陣であり、国は企業に努力させて税金を吸い上げるだけ。こんな日本は本当に終わり。国だけでなく、政治家自身が他人の努力や他人のお金(税金)を当てにやり過ごす考え方を見直した方がいい
さっそくツッコミ。
>生活の為、従業員、つまり国民の事を考えて努力しているのは、企業の経営陣であり、国は企業に努力させて税金を吸い上げるだけ。

企業の経営陣は従業員の生活より会社の存続が最優先。
コメ主は働いたことあるのかな?
政治家が企業目線になったからPB黒字化財政黒字化つまり国民赤字化をやりだしたのだよ
経営者目線で政府を運営して無駄の削減、効率化などをやれば民営化や規制緩和を推進する
それが窮屈な世の中を生み出している
比喩表現なのは分かるけど、国民は主権者であるのに対して、従業員は雇用契約に基づいて労働の対価を貰う存在。決定権もなければ解雇される可能性もあるので、国民と従業員を同列に扱うのは違うと思いますね。
比喩表現なのは分かるけど」というツッコミがありますが、維新のイイカゲンな主張が大人気を博しているところを見ると、どうも比喩として使っているようには思えません

資本主義政府に対して経済全体を操作し得るかのような過大な期待を寄せるのは誤りですが、かといって資本主義政府を資本主義企業と同じレベルの経済主体として位置づけ、同じような行動原理を期待することも大きな間違いです。こんなんだから、企業経営の出来損ないのような財務省主導の緊縮財政が続くのでしょうね。

■総括
このような政党が今や野党第一党を狙うポジションに立っているわけです。経済行為と政治行為とが混同されるばかりか、経済観までもが歪んだ主張が人気を博しているのが現代日本なのです。経済の論理が政治を呑み込み、社会全体を侵食する現代資本主義が、ついにここまで来ています
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2023年06月13日

「我は民意なり」という文革型政治家の思い上がり・暴走の萌芽に他ならない馬場伸幸・日本維新の会代表の「たたき潰す」発言

https://news.yahoo.co.jp/articles/f2ecdd24bcda7d19d7de10c0597551dff9560520
維新・馬場代表、立民を「たたき潰す」 遅延工作と批判
6/7(水) 16:55配信
産経新聞

日本維新の会の馬場伸幸代表は7日の党会合で、立憲民主党の憲法論議に関する姿勢や、国会での日程闘争路線を改めて批判した。「最近発刊の月刊誌のインタビューでも申し上げたが、立憲民主党をまず、たたき潰す。今日の(衆院憲法審査会幹事懇談会での)議論を聴いても、全く国会議員としての責務が分かっていない。国会でとにかく遅延工作をする先祖返りを起こしている。本当に国家国民のために、この方々は必要なのか」と述べた。

(以下略)
選挙において有権者から選ばれる立場の日本維新の会(維新)が立憲民主党(立民)を「たたき潰す」というシチュエーションをまったくイメージできないのですが、いったいどういう意味なのでしょうか?

立民に代わって維新が政権批判票の受け皿になると言いたいのかもしれませんが、それは有権者が投票行動によって示す意志の結果であり、「有権者が立民にノーを突きつけた」あるいは「有権者が立民をたたき潰した」とは言えても「維新が立民をたたき潰した」わけではありません。この取り違いは危険な兆候です。「我は民意なり」という文革型政治家の思い上がり・暴走の萌芽に他ならないからです。

そもそも、立民を「たたき潰す」のではなく、立民が掲げる政策をある意味で「パクる」ことでその独自性を奪う方向性を取るべきでしょう。異論をも包摂する懐の広さ、そしてある種の強かさこそが政権担当者にとって必要なものです。

この点、国民民主党(民民)の路線は比較的マトモに見えます。維新と民民との合流はしばしば指摘されるところですが、両者は政策実現の方法論が決定的に異なるので、一緒にならない方がよいと思います。左翼、、、というよりも極左と言った方がよいチュチェ思想派たる私は、当然のことながら民民には与しませんが、「対決より解決」を掲げる同党の建設的な指摘には「そういう考え方もあるんだな」と参考になることも少なくありません。

維新は、悪い意味で「野党」だと言わざるを得ません。

https://news.yahoo.co.jp/articles/242085902ac57cd6981a14afae75a535238d031c
立憲・泉氏「品なく下劣」 維新・馬場氏の「たたきつぶす」発言に
6/8(木) 19:00配信
朝日新聞デジタル

■立憲民主党・泉健太代表(発言録)

 (日本維新の会の馬場伸幸代表が「立憲民主党、たたきつぶす」と発言したことについて)大変に不穏当だ。公党に向かって、しかも党の会合で発言をしたことは、大変驚きますし、あきれます。本当に品のない下劣な発言だなと思う。
 
 維新がもしこれ以上勢力を伸ばして、野党第1党になったら、自民党の「御用野党」になる。全く国会の中での論戦はなくなる。自民党にとっては、もう非常に戦いやすい、最も便利な野党が誕生する。

(以下略)
もともと、大阪自民党の路線対立によって誕生したのが大阪維新の会であり、その全国版が日本維新の会です。自民と維新との対立は、内部抗争でしかありません。その意味で、「野党第1党になったら、自民党の「御用野党」になる」という指摘は正しいと考えます。

しかしながら、泉氏は少し感情を顕わにし過ぎたものと思われます。「下劣な発言」は強すぎるように思います。「下劣」ではなく「お下品」と言った方が宜しかったでしょう。実際、ボキャ貧と言わざるを得ないくらいに程度の低い発言ですから。
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2023年06月12日

ささいな情報に飛びつく悪しき風習・再び

https://news.yahoo.co.jp/articles/a8320c136f6c2ba8457d1ef6994a1462d9c6a34f/images/000
ロシア・ベラルーシ首脳

9日、ロシア南部ソチで話を交わすプーチン大統領(左)とベラルーシのルカシェンコ大統領。(AFP時事)
ルカシェンコ・ベラルーシ大統領(写真)。お元気そうで。ルカシェンコ大統領に影武者が居るのかは知りませんが。

https://news.yahoo.co.jp/articles/118c31bb569fcf994d4538965da7baf909314a36
ロシアによる「毒殺説」浮上 ベラルーシの大統領・ルカシェンコ氏危篤か プーチン氏と密談′縺cモスクワで救急搬送
5/29(月) 17:00配信
夕刊フジ

たびたび「健康不安説」が浮上していた、ロシアの隣国ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領がモスクワで、救急搬送されたとの情報が駆け巡っている。ベラルーシの野党指導者、ヴァレリー・ツェプカロ氏が27日、SNSに投稿したと、ウクライナのメディアが伝えた。ルカシェンコ氏は、ウラジーミル・プーチン大統領と密室で会談後に急変したため、海外メディアでは、ロシアにとってより従順な指導者にすげかえるための「毒殺説」も浮上している。

(以下略)
それで、ルカシェンコ氏に代わって誰を据え付けるというのでしょうか? ストーリーとしても成り立っていません。

ちなみに、「毒殺」というのは死んだときに言うもの。ルカシェンコ大統領は亡くなっていないので「毒殺」とは言いません。「毒殺既遂」と「毒殺未遂」は決定的に異なります。ちなみに、「毒殺未遂」も非難に値するものですが、「毒殺既遂」はその比ではありません。

https://news.yahoo.co.jp/articles/09eadb62ed4f25b9b44eb0c6f28e6b9e84fcbeb6
「やばいね。やっぱ、この国は」辛坊治郎 ベラルーシのルカシェンコ大統領、ロシアによる「毒殺説」浮上
5/29(月) 20:10配信
ニッポン放送

(中略)
辛坊)夕刊フジ、私の気になった記事が3面に掲載されています。
(中略)
辛坊)ルカシェンコ大統領の消息は、今のところ分かっていません。やばいね。やっぱ、この国(ロシア)は。やばいよ、やばいよって感じです。
いくらラジオとはいえ、夕刊紙・タブロイド紙を元ネタにする読売テレビ元解説委員長・・・

冗談だったんだとは思いますが、安倍晋三氏国葬の招待状が届かなかったと以前、ブチ切れていた辛坊氏。あれだけゴマをすっていたのにお呼びがかからなかったのがショックなのは分からないでもありませんが、、夕刊紙・タブロイド紙を元ネタにする人に招待状は届かないんじゃ・・・

https://news.yahoo.co.jp/articles/90f219aed912a38f5ed898087acc44c5df807f5c
重病説浮上のベラルーシ大統領、政府が動画公開 1週間ぶりに公の場
5/16(火) 14:16配信
ロイター

重病説が浮上しているベラルーシのルカシェンコ大統領(68)について、国営ニュースチャンネルは5月15日、同氏が軍司令部を訪問した際に撮影されたとする動画を公開した。左手に包帯を巻いているように見え、時折息切れしている様子が分かる。同氏は14日の式典を欠席するなど、9日以降、公の場に姿を見せていなかった。

(以下略)
1週間くらいで一体何を騒いでいるのでしょうか。人間なのだから体調不良になることだってあるでしょう。我が元帥様は1か月も動静不明だったことがありますが、共和国の統治には何の影響もありませんでした。

ルカシェンコ政権は、かなり高度に組織化されているように見受けられます。ルカシェンコ大統領個人が短期間休養したところで、ただちに体制の揺らぎには繋がらないものと思われます。

ささいな情報に飛びつく悪しき風習がルカシェンコ大統領の健康不安説においても見られています。
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2023年06月10日

バフムトの戦いに関する日本世論の反応を総括する

昨年来のバフムトの戦いが5月末でいったん終わったものと思われます。ここ数日のバフムト郊外での新たな動きは、いわゆる「反転攻勢」の一環として位置づけた方がよいように思われます。ロシアのウクライナ侵攻について当ブログは、それ自体の軍事的な推移や政治的な意味合いではなく日本の世論反応を主たるテーマとしてきました。今回は、一区切りついたと思われる5月末までを対象にまとめてみたいと思います。

■現在進行形の状況把握において「敵が愚かだから」などと見下すのは非常に危険なことなのに・・・
昨年8月から本格化したバフムトの戦いですが、日本メディアが注目するようになったのは、秋以降だったと言えます。昨年9月のハルキウ方面でのウクライナ軍の反撃以降、全体として膠着状態が続く中、唯一例外的にロシア軍が攻勢を続けたのがバフムトの戦いであり、注目しないわけにはいかない戦いでした。

バフムトの戦いを日本メディアは当初どのように報じてきたかと言えば、もっぱら「バフムトに戦略的価値などない」でした。たとえば国策報道機関NHKの「キャッチ!世界のトップニュース」は昨年11月15日づけ放送で次のように「解説」しました。
最近ロシア軍がドネツク州をよく攻撃しているんですけれども、その攻撃の中に戦術的にはあまり意味のなさそうな場所を攻撃していることが多いらしくて、どうも司令官が軍事的な成功というよりもプーチン大統領の言いつけを守ることを優先していると考えると合点がいくような事態が起きているんだそうです。
ではなぜそんな土地を巡って両軍が長期にわたって死闘を繰り広げてきたのかといえば、ロシアについては「指導者が戦略的価値の有無を判断できないほどに愚かだから」であり、ウクライナについては「そんな愚かなロシア軍を釘付けにできるから」とのこと。「愚かなロシア軍が『バフムト要塞』に無謀な攻撃を仕掛け、ことごとく撃退されて兵力を溶かしている」という構図です。たとえばアンドリー・ナザレンコ氏は、最近になっても「戦略的な価値が殆どないド田舎町を取るのに一国の総力をあげても7ヶ月間がかかり、7万人の兵士が命を落として、そして見事にネズミ捕りにハマる(笑)まじでアホ」(https://twitter.com/nippon_ukuraina/status/1660143698041262082)などと述べています。

「ウサギとカメ」の寓話ではありませんが、相手方を見下すことは、長い目で見て失敗する第一歩。すべて終わった後に振り返りとして「敵が愚かだった」と総括するのはアリですが、現在進行形の状況把握において「敵が愚かだから」などと見下すのは非常に危険なことです。ネット世論を見ていると現代日本社会は、とかく敵対する相手方を罵り見下すことで精神的な充足を得ようとするきらいがあるように見受けられますが、そういう悪癖がここにも現れてしまっているのかもしれません。

■「バフムト要塞」がしれっと「遅滞戦術」にスリ替わった
しかしながら、2月にゼレンスキー・ウクライナ大統領が下記のように断言してしまってからは、さあ大変。ゼレンスキー大統領によると、ウクライナ軍は「愚かなロシア軍を釘付けにする」ためにバフムトで戦っているわけではなく、バフムトの戦い自体が非常に重要な戦いであるというのです。そして、そんな重要な戦いでウクライナ軍はロシア軍に押されてきました。昨夏のハルキウ方面での劇的な反転攻勢劇の余韻がいよいよ消え去ったものでした。
https://www.sankei.com/article/20230204-5LW2M7X7ABLHVKBBBY3R7DQT7E/
ゼレンスキー氏、バフムト放棄を否定 米欧は撤退を助言か
2023/2/4 09:13

ウクライナのゼレンスキー大統領は3日、最激戦地である東部ドネツク州の要衝バフムトについて「われわれは可能な限り戦う」と述べ、ウクライナ軍に同市を放棄する考えはないと表明した。首都キーウ(キエフ)で同日開かれた欧州連合(EU)との首脳会議後の記者会見で発言した。複数の米メディアは、米欧諸国がウクライナ軍に戦力温存のためバフムトから撤退すべきだと助言していると報じていた。

ゼレンスキー氏は会見で「われわれはバフムトが要塞であり、そこで戦死した人々を英雄だと考えている」と強調。米欧諸国に求めている長距離兵器の供与が迅速に実施されれば、ウクライナ軍はバフムトにとどまらず、ドネツク州の露占領地域の奪還に取りかかることができると訴えた。

これに先立ち、米CNNテレビは1月下旬、バフムトには軍事的価値が乏しいとし、米欧がウクライナに戦闘の軸を東部から南部に移すよう促していると報道。米ブルームバーグ通信も2日、米欧がウクライナに対し、米欧製戦車の実戦投入など反攻の条件が整うまでは戦力の損耗を抑える必要があり、バフムトの放棄も検討すべきだと助言していると報じた。

(以下略)
ゼレンスキー発言を受けてNHKなどは、大急ぎで取り繕うような「解説」を打ち出してきたものでした。
https://www.nhk.jp/p/catchsekai/ts/KQ2GPZPJWM/blog/bl/pK4Agvr4d1/bp/p8wm6WxqAj/
ロシア バフムトの攻略を目論む戦略的意味は
2023年2月16日 午前11:25 公開
ロシア国防省は13日、ウクライナ東部のドネツク州でウクライナ側の拠点のひとつバフムトの近郊にある集落を掌握したと発表。NATOのストルテンベルグ事務総長は軍事侵攻の開始から1年を前に警戒していたロシアによる大規模な攻撃はすでに始まっているという認識を示しました。別府キャスターの解説です。

(「キャッチ!世界のトップニュース」で2月14日に放送した内容です)

・ウクライナ南東部にある交通の要衝「バフムト」
東部ドネツク州にあるウクライナ側の拠点バフムト。なぜ、ロシアは執拗にこの町の攻略を目論むのでしょうか?その戦略的な意味について見ていきます。

ウクライナ南東部の前線ですが、弓のような形になっており、バフムトは中心部あたりにあります。ロシア側は、ここを突破し、ウクライナにさらに攻め込もうとしていると見られます。

こちらの地図ではご覧のように、バフムトはいくつもの幹線道路が交差するほか、鉄道も通る、交通の要衝でもあります。ロシア側は「ここを押さえれば、東部ドネツク州での支配を広げていける」との狙いがあると指摘されています。バフムトは、1年近くになるロシアのウクライナ侵攻で、最も長期にわたって攻防が続いてきた場所となっています。

またバフムトは、ウクライナの国土防衛の戦いにおいて象徴的な場所にもなっています。

12月20日、ゼレンスキー大統領自らがバフムトに入り、兵士たちを鼓舞しました。その時に、ゼレンスキー大統領は兵士たちから託されたウクライナの国旗をアメリカの首都ワシントンに持って行き、連邦議会で演説を行った際、下院議長に手渡しました。

(以下略)
https://news.yahoo.co.jp/articles/e67d69a354615b02309bb095c431fca3561a905a?page=2
「バフムト攻防戦」はウクライナ軍の抵抗でワグネルが苦戦 専門家は「ロシア軍総崩れの可能性も」
3/18(土) 11:03配信
デイリー新潮

(中略)
「バフムトは両軍にとって戦略的に極めて重要な都市です。首都のキーフから東部に延びる幹線道路は、ハルキウからバフムトを経て黒海に向かって南下し、港湾都市のマリウポリにつながります。ウクライナ内陸部からクリミア半島に至る“回廊”上に位置するバフムトは、まさに交通の要衝と言えます」(同・軍事ジャーナリスト)
(中略)
 半島を絶対に死守したいロシア軍は、バフムト陥落を目指す必要性があるのだという。

「『戦略的価値のないバフムトにこだわるロシア軍の戦術は理解できない』と報じたメディアもありましたが、事実と異なります。バフムトを陥落すれば、制圧しているマリウポリと兵站がつながるのです。ロシア国内からバフムトを経由して黒海に出るルートが確保できるわけで、クリミア半島の防御が強固になります」(同・軍事ジャーナリスト)

(以下略)
じりじりと後退を余儀なくされたウクライナ軍。御大ゼレンスキーの「要衝」発言を否定するわけにはいかないが、バフムトの戦略的重要度を高く描きすぎると「ウクライナ劣勢」の印象が強くなりすぎるというジレンマに直面したのでしょう。NHKなどでは、3月ごろからバフムトの戦いを「遅滞戦術」の一種として描くむきが一層強くなりました。「たしかにウクライナ軍は徐々に後退しているが、これは反転攻勢のためにロシア軍を消耗させているものであり、長期的・戦略的にはプラスなのだ」というわけです。「愚かなロシア軍が『バフムト要塞』に無謀な攻撃を仕掛け、ことごとく撃退されて兵力を溶かしている」という構図が有耶無耶にされ、なし崩し的に新解釈が垂れ流されたのです。
https://www.nhk.jp/p/catchsekai/ts/KQ2GPZPJWM/blog/bl/pK4Agvr4d1/bp/pkLynzNvra/
ウクライナがバフムト防衛を続ける2つの理由

ウクライナ東部バフムトをめぐっては、ウクライナ軍が撤退するとの観測も一時、出ていましたが、現状では、町の中心部で抵抗を続けています。

なぜ、バフムトの防衛を続けているのか。そこには、強大なロシア軍に対峙しなければならないウクライナ側の厳しい事情があります。別府キャスターの解説です。

(「キャッチ!世界のトップニュース」で3月13日に放送した内容です)

・バフムト防衛の狙い@ 人海戦術を図るロシアへの損失拡大

(中略)
その上で、ウクライナの事情ですが、「@ロシア側に少しでも多くの損失を与えたい」ことがあります。

ウクライナ軍は、川の西側を拠点にして、迫り来るロシア側を迎え撃っています。イギリス国防省は、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」が侵攻してくるのを押しとどめているとした上で、この一帯が、ロシアの兵士や戦闘員の「Killing zone(キリング・ゾーン)」になっていると分析しています。

「ワグネル」はロシアの刑務所から多くの受刑者をかき集めて、バフムトに人海戦術で投入していると見られますが、ここで兵力を削ぐことができれば、ロシア側の弱体化につなげられるとウクライナ側は期待しています。

・バフムト防衛の狙いA 春の反転攻勢に向けての時間稼ぎ
もうひとつの事情が、「Aなんとか時間を稼ぎたい」ことです。ウクライナ側は、春になれば、南部での大規模な反転攻勢に出る構えです。その作戦は、来月(4月)にも始まるとの観測もあります。それに向けて、欧米からの兵器がより多く届くのを待っている状況で、それまでは、ロシア側をバフムトに足止めさせておきたいという事情も見えます。

(以下略)

■戦線が動いた途端に「ウクライナ軍がバフムトを奪還する」
しかし、この「バフムトの戦いは遅滞戦術である」という位置づけは、ウクライナ軍の劣勢を合理化するために捻り出した逃げ口上だったのでしょう。戦線が動いた5月中旬の世論動向がそれを示唆しています。

5月10日ごろからバフムトでウクライナ軍の前進が見られるようになり、ロシア軍を後退させることに成功しました。ロシア軍と行動を共にするワグネル・グループのプリゴジン氏はかねてよりバフムトの側面に脆弱性があると指摘してきたところ、そこを突くかのようなウクライナ軍の攻勢をうけて世論は一気に沸き立ちました。俄かに「ロシア軍が包囲殲滅されてウクライナ軍がバフムトを奪還する」という見立てが出てきました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/572b4360c464a4d0665f7a081c8ead7746e82dc3
バフムトでウクライナ軍前進、ワグネル殲滅作戦を遂行か
5/17(水) 11:02配信
JBpress

 今、要衝バフムトでのウクライナ軍の戦いが変わっている。

 戦いの目的には、要域を占拠する、あるいは敵軍を殲滅するというものがある。

 バフムトでの戦いでは、ロシア軍はこれまでこの地を占拠するという狙いで戦っていた。

 一方、ウクライナ軍はロシア軍に攻撃を強いて、犠牲を払ってでも攻勢を続けさせる戦法を採っていた。

 JBpress『ロシア軍バフムト攻勢は大敗北の予兆、クリミア奪還許す可能性大』(2023.3.8)参照

 ロシア軍は、戦果を強調するために、バフムトという要衝を占拠しようと、多くの犠牲を払ってでも攻撃を続行した。

 結局、5月9日の対独戦勝記念日までに、その目標は達成できなかった。

 一方、ウクライナ軍は要衝バフムトを守り切り、この地で後退してはロシア軍を引き込み、無謀に攻撃を繰り返すロシア軍の兵を多く殺傷した。

 ウクライナ軍の2つの目標は、十分に達成できた。

 その後、5月10日を前後して、これまでとは戦闘様相が変わってきた。

 ウクライナ軍の戦い方を見ていると、バフムトの奪還だけではなくバフムトで攻撃を続けるプリコジン氏が率いるワグネル部隊を、この地で包囲殲滅しようとしているようなのだ。

(以下略)
おなじみ西村金一氏の珍解説。ワグネル部隊などを包囲殲滅するためにどのような布陣があり得るのか色々とシミュレーションしていますが、「そもそも包囲殲滅するの?」「包囲殲滅して、次にどう繋げるの?」という根本的な部分が明らかになっていません。包囲殲滅することが自明のこととされています。

また、『週刊プレイボーイ』という、いかにも娯楽雑誌は、「ウクライナの「バフムト奪還作戦」始まる! 既報のシミュレーションが現実に!!」(5/17(水) 19:00配信 週プレNEWS)という記事を公開しているのですが、よく内容を見てみると、「バフムト奪還作戦」ではなく「バフムトをエサにロシア軍の戦力を引き続き誘引する」というモノ。元陸自幕僚長にインタビューしているというのに、おそらく編集部記者が解説内容を理解できておらず「ウクライナ軍の反撃が始まった! バフムトが奪還されるに違いない!」と先走っているようです。

たしかに、ウクライナ軍のオレクサンドル・シルスキー司令官が「ウクライナ軍はバフムート周辺に沿って進み、市の「戦術的包囲」に近づいている」と発言していました「ウクライナ陸軍司令官、バフムートの大半は支配下にないと認める」2023.05.22 Mon posted at 11:02 JST)。しかし、こうした発言は戦時下特有のプロパガンダとして慎重に取り扱うべきでしょう。いままでの布陣などから、果たして計画的なものなのか、場当たり的なものなのか、それとも口先だけのものなのかを判別する必要があるはずです。

ちなみに、ヤフコメレベルではありますが、バフムトの戦い最末期に、ワグネル・グループのプリゴジン氏が繰り返し、期日を区切って戦闘員の撤退を公言してきたことについて、バフムトでのウクライナ軍の反撃が弱いことと紐づけて「この発言はプリゴジンの命乞いであり、ウクライナ軍は見逃してやっているに違いない」というまったく根拠不明な言説が結構あちこちの記事のコメント欄で見られました。ウクライナからすればロシア侵略軍の中核であるワグネル・グループをなぜ見逃してやるのか、まったく理解できない筋書きですが、バフムト市内でのウクライナ軍の反撃の弱さを「合理化」するためには「手加減してやっている」と描くほかなかったのでしょう。

「敵に消耗を強いる『バフムト要塞』」が「時間稼ぎのための遅滞戦術」に変わり、そうかと思えば急に「包囲殲滅戦」に変わった理由を誰一人としてまったく説明できていません。そもそもすべての見立てが希望的観測の積み重ねなのでしょう。


■マリウポリ戦況報道の失敗を繰り返すNHK――ジャーナリズムの放棄
そして訪れたロシア軍のバフムト制圧。この週は本当に激動でした。御大ゼレンスキーが21日に「管轄下にない」などという不用意な発言(「東部バフムトの事実上の陥落認める」5/21(日) 15:43配信 共同通信)をして混乱が生じましたが、「ロシア側がバフムトの大半を掌握したとする一方、郊外でウクライナ軍の反撃が続いている」とのこと(「バフムト ロシア側が掌握発表 ウクライナ側は郊外反撃を強調」2023年5月22日 19時05分)。

要するに、バフムトはロシアが取ったということですが、NHKは、わずか2日前の19日づけ記事で次のように報じていたばかりでした。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230519/k10014048601000.html
【詳細】ロシア ウクライナに軍事侵攻(19日の動き)
2023年5月19日 21時51分

(中略)
激戦地バフムト ウクライナ側が徐々に前進と認識

ドネツク州の激戦地バフムトをめぐってウクライナ側は郊外で徐々に前進し、反撃が進んでいるという認識を示しています。

(以下略)
そりゃウクライナ当局の「大本営発表」はそう言うでしょう。ジャーナリストたるもの、それがフェイクなのかファクトなのかを独自に検証する責務があるはずです。

マリウポリ陥落2日前まで「アゾフスターリ製鉄所でウクライナ軍の反転攻勢が始まった!」と騒いでいた悲劇再び・・・まったく何も学んでいなかったようです。

■バフムトの戦いに関する日本世論の反応を総括する
米陸軍のマーク・ハートリング元司令官は21日、「ワグネルは来週、ウクライナで「悲惨な状況」に直面するだろう」と予言しましたが、結局何も起こらず(「ワグネルは今週、酷い目に遭う――米軍元司令官」5/22(月) 15:08配信 ニューズウィーク日本版)。ついに5月末を迎えても何も起こらずじまいでした。これ以上先の展開は、もはやいわゆる「反転攻勢」の一環として位置づけたほうが正確であると思われるので、バフムトの戦いは5月末までに一区切り付いたものと見なすべきでしょう。

バフムトの戦いに関する日本世論の反応を総括しましょう。バフムトの戦いの位置づけを「敵に消耗を強いる『バフムト要塞』」にしたかと思えば「時間稼ぎのための遅滞戦術」に修正し、そうかと思えば急に「包囲殲滅戦」に変更したこと、制圧2日前まで「ウクライナ軍の反撃が進んでいる」などと状況把握していたことは、都合の良い情報や解釈に飛びつき続けた結果という他ないものと思われます。

特に、「ドネツク州の激戦地バフムトをめぐってウクライナ側は郊外で徐々に前進し、反撃が進んでいるという認識を示しています」と報じた「【詳細】ロシア ウクライナに軍事侵攻(19日の動き)」(2023年5月19日 21時51分)から「ロシア側がバフムトの大半を掌握したとする一方、郊外でウクライナ軍の反撃が続いている」とする「バフムト ロシア側が掌握発表 ウクライナ側は郊外反撃を強調」(2023年5月22日 19時05分)への急転直下は、マリウポリ陥落2日前まで「アゾフスターリ製鉄所でウクライナ軍の反転攻勢が始まった!」と騒いでいたことの再現になりました。

■ロシア正規軍とワグネル・グループとの関係性にかかる描写について
バフムトの戦いを巡る世論動向で併せて指摘したいのが、ロシア国防省及びロシア正規軍とワグネル・グループとの関係性にかかる描写です。両者はもちろん敵であるウクライナ軍の前では友軍同士ではありますが、必ずしも良好な関係性ではありません。諸々の確執や対立は既に散々、報道されてきているとおりです。そもそも、バフムトの戦いは基本的にワグネル・グループの戦いであり、最近になって正規軍としての空挺部隊が投入されるようになったところです。カネで雇った傭兵集団の損失を正規軍の損失とイコールで評価することはできません。

しかし、NHKをはじめとする日本メディアは、国防省とワグネル・グループとが対立しているときは、その対立を子細に描き出して強調するのに、戦場でウクライナ軍が少し優勢になると、正規軍とワグネル・グループの傭兵部隊とをいっしょくたにして「ロシア軍の劣勢」として描き上げたものです。ご都合主義的な構図化が見られたわけです。

■都合の良い情報や解釈に飛びつき続ける背景は「豆腐メンタル」
バフムトの戦いを巡る世論動向でさらに一つ書き残しておきたいのが、軍事ブログ「航空万能論」のコメント欄についてです。当ブログでは、記事編集に際してあまり個人ブログを見ない(その余裕がない)のですが、当該ブログはそのコメント欄が面白いので、いつの間にかROM専で住み着いてしまいました。

他の軍事ブログ等に比べると当該ブログの論調はかなり冷静かつ客観的であり、NHKなどが「ロシアの劣勢」を書き立てる中でも慎重な見方をしていると私は見ています。それがどうも気に食わない人がいるようで、以前から時折コメント欄が荒れていたのですが、最近は「親ロシアブログ」などと罵倒する人まで出てきた様子。5月22日の記事はついに堪忍袋の緒が切れたのか、戦況分析に続いてこんな投稿が。
https://grandfleet.info/russia-related/ex-colonel-of-the-russian-army-bakhmut-victory-is-unnecessary/
繰り返しになりますが、基本的に管理人はウクライナ侵攻について戦場で何が起きているのか、ウクライナやロシアのメディアが何を伝えているのか、日本視点ではなく海外がウクライナ侵攻をどう見ているのかを重視し、管理人が興味深いと感じた情報を無意識に取り上げているだけで、取り上げる話題の選択に「中立」を意識したことは1度もありません。

管理人が取り上げる話題を読者がどのように解釈して評価するかは自由ですが、きっと「○○寄りのブログ」だと感じるのは「戦場の推移が応援している国にとって好ましいか好ましくないか」の違いでしかなく、ブログに特定の色をつけようと何度も書き込みしたところで「取り上げる話題」に何の影響も及ぼしません。

個人的には迷惑でしかないので権利を行使してコメントを消すかもしれない。
6月8日づけ記事ではこんなことも。
https://grandfleet.info/war-situation-in-ukraine/ukrainian-forces-launch-counteroffensive-fighting-south-of-orekhovo-zaporizhia-region/
もうウクライナ軍に不利な情報を垂れ流すなって突撃してくる人が多すぎ。戦場で何が起こってるのか知りたくないなら見ないで欲しい。
朝鮮半島情勢でもそうですが、「敵は追い詰められている」という構図でないと精神の安定が保てないのかと疑わざるを得ない豆腐メンタルな反応が、この戦争では特によく見られるように思われます。

こうした豆腐メンタルこそが、都合の良い情報や解釈に飛びつき続ける背景であるように思われます。
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2023年06月07日

説明になっていない「プーチンご乱心」説が開戦以来、罷り通っている:カホフカ水力発電所ダム決壊事案を巡って

https://news.yahoo.co.jp/articles/460d0af4b49482155fdca7f40f6383cf1c4e4dff
“タイミング悪い事故”可能性も? ロシア占領下のダム決壊…考えられることは
6/7(水) 5:53配信
日テレNEWS

ウクライナ南部ヘルソン州にあるダムが決壊しました。ウクライナとロシアの双方が、相手を非難しています。「映像から何が分かるのか」「誰が何の目的で実行したのか」「今後の戦況」の3つのポイントを中心に、ロシアの軍事や安全保障政策に詳しい東京大学・専任講師の小泉悠さんと共にお伝えします。

■旧ソ連有数の巨大ダム 数日前から壊れ始めていた?

(中略)
落合陽一・筑波大学准教授(「news zero」パートナー)
「素人質問ですが、ダムの破壊ってどうやってやるのでしょうか?」

小泉悠さん
「私もこういったものの専門家ではないので、なかなか分からないのですが、やはり相当の圧力を加えないとダムがここまで壊れることはないらしいです。第2次世界大戦中もダム破壊専用爆弾というものを作ったくらい頑丈な建造物になります。何か大きな力が加わった、または今回のダム破壊の前から、あちこちが壊れているということは衛星画像で確認されていました。もしかすると、時間をかけて破壊のプロセスが進んだ可能性もあると思います」

(中略)
有働キャスター
「他にはどのような可能性が考えられるのでしょうか?」

小泉悠さん
「今、言われている3つ目の可能性としては、『事故』があります。このダムはこれまでに2回攻撃を受けていて、かなりダメージが蓄積していたと言われています。また、今回の破壊の直前に大雨が降っており、貯水量がものすごく増えていたということです。さらに、数日前から一部が壊れ始める兆候が見られていました。もしかすると、ものすごく悪いタイミングで事故が起こってしまったということも指摘されていて、この可能性も排除できないと思います」

(以下略)
■「news zero」は悪くないな
ものすごく悪いタイミングで事故が起こってしまった」――この可能性がダム決壊当日の夜(日本時間)に日本テレビの看板報道番組で報じられたことは意外なことです。

この戦争が始まってから私は、プロパガンダ分析として今まで見てこなかったテレビ番組を見るようになったのですが、日本テレビ系「news zero」は、ロシアに対して厳しい基本姿勢を堅持しつつも、今回のようにロシアの弁明に理があるときには、NHKのようには頬かむりしていないという印象があります。NHKよりは遥かにマシだなというのは正直な感想です。

■今朝から迷走している国策報道機関NHK
いくつものニュース番組を持っている国策報道機関NHKは、今日は朝から迷走していました。

まず、午前4時20分放送開始の「国際報道2023」。この放送は前日夜10時にBSで放送したものの再放送なので、厳密には今朝の報道ではないのですが、本件について割いた時間はわずか6分。番組タイトルのわりに分析が甘いので、以前からこの番組の編集チームはマンパワー不足なのではないかと思ってきましたが、今回もそれを疑わせるのに十分なほどに物足りない番組内容でした。

ちなみに「国際報道2023」は、開戦以来、BSでの午後10時からの本放送に加えて、午後11時台と翌午前4時台の2回にわたって総合で再放送するという、異例なまでの力の入れようでしたが、今春から午後11時台の放送枠がドラマやドキュメンタリーの再放送枠に割り当て直され、誰が見ているのかまったく分からない翌午前4時台の再放送だけになっています。

受信料制度ゆえに視聴率に一喜一憂する必要のないNHKでさえ「午後11時台はドラマやドキュメンタリーの再放送に割り当てたほうがマシ」と判断させる番組であることが、この一件を見てもよくわかります。そして、「国際報道」を名乗る番組にこの程度のマンパワーしか割けないNHKの報道機関としての実力が如何ほどのものであるのかも、この一件が示しているように思われます。

「おはよう日本」。ダム決壊の事実およびウクライナ・ロシアの双方が互いに非難し合っている事実のみを報じました。朝のニュース番組と侮ることなかれ。朝から念入りにプロパガンダを展開するのがNHKです。空き家問題だの特別養子縁組問題だの、「国策的に重要なのは分かるけれど、それは『クローズアップ現代』や『ニュースウオッチ9』の特集コーナーでやれば?」と言いたくなるような話を朝7時20分頃から40分頃にかけて長々と報じているのが「おはよう日本」ですが、そんな「朝の国策報道番組」が、事実を手短に報じるしかなかったところにNHKの限界が見えてきます

BS午前8時台放送、総合午前10時台放送の「キャッチ!世界のトップニュース」は、「諸説ある」として事故説にも触れつつ「どちらが破壊したのかは判然としない」とし、「ダム破壊はどちらを利する?」という問題設定をすることで暗にロシア犯行説を匂わせました(同趣旨の内容が文字起こしされています――「ウクライナ南部のダム決壊に双方が非難 最大の被害者は市民」2023年6月7日 午後6:40)。ちなみに、私が見た限りでNHKが唯一、事故説に一瞬でも言及したのがこの番組でした。「キャッチ!世界のトップニュース」が一番マシという驚愕すべき事態・・・

「ニュース7」は、米シンクタンク「戦争研究所」の分析として「ウクライナ側の軍事作戦に与える影響は、限定的だという見方を示しました」としておきながら、その舌の根も乾かぬうちに兵頭慎治・防衛省防衛研究所研究幹事の分析(録画出演)として「ロシア側にとってはメリットがあると述べ、その理由として、ドニプロ川に架かる唯一の橋がダムに併設されていたが、破壊されたうえ、下流域が水没して地面がぬかるみ、ウクライナ側が戦車部隊などを進めることが難しくなったと指摘」したと報じました。また、「今後の戦況に与える影響については「ウクライナには複数のシナリオがあったと思うが、ヘルソン州の奪還作戦はやや難しくなった可能性がある。ゼレンスキー大統領が洪水対策にも注力しないといけなくなり、戦闘に集中できなくなる状況も懸念される」として」いるとのこと。(同趣旨の内容が文字起こし記事――「ウクライナのダム決壊 “数日間で被害拡大のおそれ”英国防省」2023年6月7日 19時47分)。とりあえず諸説を羅列している感が非常に強いと言わざるを得ません。

「ニュースウオッチ9」では、兵頭慎治氏がスタジオに生出演。「ニュース7」で「ヘルソン州の奪還作戦はやや難しくなった可能性」と言っていたのに、今度は「ヘルソンは陽動で本命はメリトポリ方面だから大勢に影響ないし」と主張しました。メリトポリ本命説は以前から指摘されてきたことで私もそうなんだろうと思っていますが、ではなぜ「ニュース7」では本命ではないヘルソン奪還困難化を云々したんでしょうか? ドニプロ川沿岸のヘルソン州はウクライナ軍にとって攻略優先度が低いんでしょ? ならどうでもいいじゃない。また、「ゼレンスキー大統領が洪水対策にも注力しないといけなくなり、戦闘に集中できなくなる状況も懸念される」とまで言っており、とても「大勢に影響なし」と受け取ることはできませんでした。

おそらく、今日一日迷走を続けているNHKが唯一的に一貫しているのが「ロシア犯行説」である点を鑑みるに、「ヘルソン州奪還を難しくするダム決壊をウクライナが仕掛ける動機はない」と言いたかったものと思われますが、もっと言いようがあったように思えてなりません。防衛研究所の研究幹事の分析のわりには、ずいぶんとテキトーな話だなぁという感想を禁じ得ません

■説明になっていない「プーチンご乱心」説が開戦以来、罷り通っている
NHKよりひどいのがニッポン放送の「飯田浩司のOK! Cozy up!」。この番組を直接聴いたことはないのですが、文字起こし記事は結構頻繁に目にします。いまだかつて一度たりとも参考になったことがない番組です。
https://news.yahoo.co.jp/articles/ff6ededaad42a4a98fa2facc18048e8f52185236
ウクライナの水力発電所ダム決壊 「ロシアが破壊した可能性」をBBCが指摘する根拠
6/7(水) 11:35配信
ニッポン放送

(中略)
ダムを破壊すれば、ロシアが実効支配しているクリミアに水がいかなくなってしまう 〜戦争遂行のことしか考えないプーチン大統領だが、物的証拠はない
佐々木)一方で、ダムを破壊してしまったら、ザポリージャ原発の冷却水が喪失することになりかねないし、クリミアはロシアがいま実効支配しているわけですが、クリミア自体に水がなくなってしまったら、住んでいる人は困ることになります。

飯田)クリミアに水がなくなってしまったら。

佐々木)でもプーチン大統領は、別に住民のことなど考えていないように見えるし、原発に対する危険も特に気にしないかも知れない。どちらかと言うと、「ウクライナとの戦争をいかに遂行するか」ということにしか関心がないことを考えれば、客観的に見ると、ロシアの方が実行する意味があるのではないかと思います。

飯田)状況証拠的には。

佐々木)ただ、現状ではそこまでわかりません。それ以上の物的証拠はないのです。

(以下略)
どちらかと言うと、「ウクライナとの戦争をいかに遂行するか」ということにしか関心がない」――この戦争の開戦以来繰り返されてきた「プーチンご乱心」説。いままでも原因不明・仕手不明事案について、論理的に考えると「ロシア犯行説」では辻褄が合わないときに出て来たものでした。「プーチンはもはやマトモな思考ができていないので、論理的には考えにくいが、ロシアの犯行である可能性は十分にある」という筋書きです。

どんなに説に飛躍があっても、まったく物証がなくても、「プーチンはご乱心だから、じゅうぶんにあり得る」が罷り通るのであれば、もはや何でもありです。こんなものは分析とは言いません。「プーチンはご乱心だから」で説明がつくのであれば、いかなる荒唐無稽・根拠薄弱な「分析」であっても成り立ってしまいます。動機があることと実際に犯行に手を染めることは決定的な違いがあります。物的証拠と動機(犯人なりのストーリーの立証)を上げることが犯人特定において肝要であります。

プーチン大統領の「歪んだ世界観」をプロファイリングして、彼独自の世界観に立ったときの合理性に照らして分析するのであれば、まだ傾聴の価値がありますが、それが欠いた状態では、まったく無意味というほかありません。その点において、上掲「分析」はもっとも酷い類いに入るものと言わざるを得ません。しかしながら、この手の報道が溢れかえっているのが日本の現状であります。ここまで酷いとは開戦前は思わなかった・・・
ラベル:メディア
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2023年06月06日

クレバ・ウクライナ外相の反応から見えること

https://twitter.com/DmytroKuleba/status/1665992773688868865
Infuriating to see some media report “Kyiv and Moscow accusing each other” of ruining the Kakhovka dam. It puts facts and propaganda on equal footing. Ukraine is facing a huge humanitarian and environmental crisis. Ignoring this fact means playing Russia’s “not all obvious” game.
カホフカ水力発電所のダムで爆発が発生した件の報道について、クレバ・ウクライナ外相がお怒りの模様。

カホフカ・ダムの決壊とそれによる洪水は、ロシア軍がせっせと仕込んできた地雷原などの防衛施設を押し流すことになります。地雷原などが流されることはウクライナ軍の利益になりますが、しかし、泥濘期が終わり地面が固まりつつあった大地が水浸しになることは新たな進軍阻害要素になります。いまウクライナは米欧諸国のパトロンたちに「成果」を挙げるようプレッシャーを受けているところなので、大地が水浸しになり進軍が困難になることはマイナス要素でしょう。総合的に考えたとき、ウクライナ軍にとって必ずしもメリットがあるとはいえないので、ウクライナ軍がダムを爆破したという説は、動機に照らしたとき疑わしく思われます。

ロシア側については、洪水によって大地が水浸しになることは、短期的にはウクライナ軍の進軍阻止になりますが、いままでせっせと構築してきた防衛施設が水に流されることは大きな損失です。どうせいつかは大地は乾くのだから、そのときのことを考えれば地雷原などが流されることはデメリットです。また、カホフカ・ダムはクリミア住民への水の供給を担っていたので、その破壊による結末は、クリミア併合を自身の歴史的成果と位置付けるプーチン・ロシア大統領の威信に傷をつけるものであるように思われます。だいたい、もしロシアがダムを爆破するとすれば、洪水予想エリアに西側供与の装備で固めたウクライナ軍部隊が展開したタイミングで爆破して水攻めにすることでしょう。このタイミングでのダム爆破は悪手であるように思われます。それゆえ、ロシア軍がダムを爆破したという筋書も動機に照らしたとき疑わしく思われます。

ちなみに、さきほどのNHK「ニュースウオッチ9」では、防衛省防衛研究所の山添博史氏が「双方にメリットがないので、いざというときのためにロシア軍が仕掛けていた爆発物が偶発的に炸裂したのではないか」といった趣旨の見解を示していました。、

冷静に考えれば、ロシア・ウクライナ双方にメリットがあるとは思えない情勢。それゆえ、メディアが慎重な報道をすることは私は当然のことと思いますが、クレバ外相はそうではないようです。

開戦初期であれば、米欧メディアは間違いなくウクライナの肩を持った報道をしたことでしょう。依然として、ロシアを永遠の宿敵と見なすイギリス政府は次のように主張しています。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230606/k10014091271000.html
“ロシア側が水力発電所のダムを破壊” ウクライナ軍発表
2023年6月6日 21時57分

(中略)イギリス外相 “民間インフラへの意図的な攻撃は戦争犯罪だ”
5日からウクライナの首都キーウを訪問していたイギリスのクレバリー外相は6日、ツイッターにウクライナ南部ヘルソン州にある水力発電所のダムが破壊されたことについて投稿しました。

このなかで、クレバリー外相は「忌まわしい行為だ」とした上で「民間インフラへの意図的な攻撃は戦争犯罪だ。イギリスは、ウクライナとこの大惨事の影響を受けている人々を支援する用意がある」としています。

(以下略)
しかし、今や状況はかなり異なっています。正直言って、みんなそろそろやめて欲しいんですよね。

クレバ外相の反応からは、状況の変化にウクライナ政府が十分に順応できていないことを示しているよう思われます。

また、いち早くウクライナ政府の肩を持ったイギリスですが、以前からアメリカやフランス、ドイツなどと比してウクライナへの肩入れの度合いが明白に異なっているように見受けられます。イギリス帝国の没落は著しいとはいえ、依然として無視できない国力は維持しています。しぶといイギリスの今後の動向にも注目が必要であると思われます。

そして「今日のウクライナは明日の台湾・沖縄」を踏まえるに、米欧諸国は無条件に「同盟国」の肩を持ってくれるわけではないことを、この一件は示していると言えるでしょう。やはり事大主義は我が身を危険に晒すものなのです。
ラベル:国際「秩序」
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2023年06月02日

「ヌリ号の成功に焦った北」? 人工衛星打ち上げロケット競争において韓「国」は共和国にほぼ10年遅れているのだが・・・

https://news.yahoo.co.jp/articles/0a1c8726ab8ec906a6330807393db42ed36d3a79
韓国の情報機関「ヌリ号の成功に焦った北、衛星打ち上げ失敗は準備不足が一因」 
6/1(木) 10:46配信
朝鮮日報日本語版

 北朝鮮の宇宙発射体(ロケット)が31日に西海に墜落したが、その原因はロケットの技術的欠陥と推定されている。北朝鮮は宇宙ロケットと技術面で共通する大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射にはこれまで何度も成功しているが、今回の失敗により現時点で長距離ロケット技術は完全な段階に至っていないことが分かった。7月21日の戦勝節(6・25戦争停戦協定締結日)70周年に向け祝勝ムードを高めたい金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長からの圧力などもあり、北朝鮮は早急に無理して打ち上げを強行し、結局自ら失敗を招いた可能性も考えられる。
(中略)
 韓国の情報機関である国家情報院もこの日、国会情報委員会への報告で「北朝鮮は過度に西寄りの経路を設定しながら、横機動により無理して東へと経路を変更したため技術的な問題が発生した可能性が考えられる」と説明した。国家情報院はさらに「ヌリ号の打ち上げ成功に刺激を受け、通常は20日ほどかかる準備期間を数日に短縮し、(打ち上げを)急いで強行したことも(失敗の)一つの原因になった」とも報告した。
(以下略)
ヌリ号の打ち上げ成功に刺激を受け」たという「分析」は、たぶん違うでしょう。なぜなら、北南の人工衛星打ち上げ競争は、クァンミョンソン(光明星)3号-2号機を打ち上げたウナ(銀河)3号の成功(チュチェ101・2012年12月12日)を以って北の勝利に終わっているのですから。共和国のウナ3号はタイミング的に先行し技術的にも自力更生でした。「先行×自力更生」に勝るものはありません。

韓「国」が人工衛星発射に成功したのは、自力更生で発射成功に漕ぎつけたウナ3号に遅れること1か月半後のナロ3号機(チュチェ102年1月30日)によるもの。それもロシアの技術支援に負んぶに抱っこで達成した成功でした。韓「国」の独自開発ロケットとしてのヌリ号が発射に成功したのは、ようやく昨年6月のこと。独自開発ロケットとしては、韓「国」は共和国にほぼ10年遅れたわけです。

共和国がヌリ号を意識しているとすれば、去年6月21日の初回成功(ヌリ2号機)を意識したはず。なぜ2回目(ヌリ3号機)の成功に反応して発射を急いだというのでしょうか? 

更に言えば、そもそも、共和国がヌリ号にライバル心を燃やしていたという兆候は確認できません。いったい何を根拠に?

もし急いでいたすれば、党中央委員会総会に間に合わせようとしたんでしょうね。
ラベル:共和国
posted by 管理者 at 20:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする