そごう・西武労組、スト実施を通知 31日に池袋店で検討「不採算」部門(←カギカッコで括っているとおり、米ファンド独自の儲け基準での「不採算」という意味)が切り捨てられ当該部門労働者の雇用が失われかねない事態において、「採算」部門の労働者が連帯してストライキに打って出る――ストライキの本来的な在り方です。「不採算」部門単独のストライキでは、会社側が切り捨てたがっている部門がいくら「じゃあ働かない!」といったところで「どうぞどうぞ、部門廃止を更に早めることにします」とされるのがオチであり意味合いが薄いところ、「採算」部門を含む900名の組合員が参加する見込みのストであれば、意味のあるものになるでしょう(池袋本店単独なら悪くない)。
小売り・外食
2023年8月28日 16:05 (2023年8月28日 17:24更新)
セブン&アイ・ホールディングスの百貨店子会社のそごう・西武の労働組合は28日、ストライキの実施を経営陣に予告通知したと発表した。セブン&アイはそごう・西武を米ファンドに売却することを決めているが、労組は売却後の雇用維持などで反発している。今後も交渉を続けるが決裂すれば、31日に西武池袋本店(東京・豊島)でストを実施する予定だ。スト回避へセブン&アイ側の対応が焦点となる。
(中略)
百貨店でのストは1962年の阪神百貨店労働組合が最後とみられ、実施されれば約60年ぶりだ。ストは消費者への影響が出るほか、社会的な企業イメージの悪化にもつながる。流通産業に詳しい法政大学の矢作敏行名誉教授は「池袋駅の乗降客が不便を被ったり、人流が変わったりするなど街に対する影響は避けられない」と指摘する。
それでも労組側がストに踏み切るのは、セブン&アイへの不信感がある。24日にはセブン&アイがそごう・西武の取締役を増員し過半数をセブン&アイ側が占めるようにするなど、早期の売却手続き完了に向けた地ならしと受け止められる動きが明らかになり労組側の反発を招いた。
(中略)
労組側は労使交渉を継続するが、決裂すれば、西武池袋本店で8月31日に実施する。対象店舗で働く組合員数は約900人。食料品や一部の衣料品など、そごう・西武が自ら運営する売り場の営業はストップする。寺岡氏は「取引先が運営する売り場は体制が整うかもしれないが、レジ業務などオペレーションの問題は出てくる。全ての機能が終日営業できるとは思わない」と述べた。
(以下略)
また、8月31日限りのストライキであることは利用客にとってはそれほど大きな影響にはならないものの、一日営業できないことは会社側にとっては決して小さくない影響をもたらします。以前より当ブログでは、かつての国労による闘争の反省から、利用者(消費者)にとっての利益と労働者の職業的矜持を両立した労組活動の展開(三方よしの方法論)が必要だと訴えてきましたが、今回は十分に配慮されているものと推察します。
それにしても「ストは消費者への影響が出るほか、社会的な企業イメージの悪化にもつながる」だの「池袋駅の乗降客が不便を被ったり、人流が変わったりするなど街に対する影響は避けられない」(日経新聞元編集委員で矢作敏行・法政大学名誉教授)などと、日経新聞は根拠薄弱でほとんど中傷と言うべきことを書き立てていますが、労使のコミュニケーション不足がこの事態に至ったと考えれば、「乗降客が不便」を労働者側に一方的に押し付けるのもフェアではないでしょう。また、木曜日の一日ストがどれほど利用客の不便につながるというのでしょうか?(ぜひ統計学的に意味のある集計をしてみてほしい。絶対やらないだろうけどw) 鉄道会社の集改札ストのように「利用客への影響はほぼ皆無だが会社への打撃は甚大」という方法論が理想だとは思いますが、百貨店がそのようなストライキを展開するのは難しい(バックヤード限定スト? でもそれってストライキ終了後の、遡り在庫把握作業が大変なことになるよね・・・考えただけでも恐ろしい)ので、この程度は致し方ないように考えます。国労・動労の順法闘争のようなものであれば大問題ですが、今回のストライキ予告はそのようなものでは決してありません。
日経新聞が憧憬してやまないアメリカでは、ホワイトカラーもブルーカラーも雇われ人たちはごく普通にストライキしています。日経新聞は日本経済について何かといえば「ガラパゴス」呼ばわりしますが、百貨店業界でのストライキが60年ぶりだなんて日本の労働市場の「ガラパゴス化」は世界的に見ても異常なことではないでしょうか?
「労働者『ごとき』が会社様に反旗を翻すだなんて思い上がりも甚だしい」と言いたいのかと勘ぐってしまいます。
「これを機に転職しなよ!」? たしかに百貨店業界の先行きは決して明るくはないので、そういう「一抜け」の方法もあり得るのかも知れません。しかし、人それぞれの事情があり、仮に転職準備をするにしてもそれぞれのタイミングがあります。今般労組が掲げているのが「部門閉鎖反対」ではなく「雇用維持」である点に注目する必要があります。「転職」論者は抽象論としては否定し難いのですが、具体論としては現実味が乏しいところに荒唐無稽さがあるんですよね。
私はこのストライキが成功することを階級的連帯意識から強く願うものです。しかしながら、労組の求めを米ファンドが受け入れたとして、彼らがその儲け主義の本性を改心するはずがなく、巻き返しを虎視眈々と狙っているものと思われることについて警鐘を鳴らしておきたいと思います。以前から述べてきたように、労働者が、要求実現型労組運動による成果物・獲得物を自己のライププランの不可分な一部分とすることは、会社との結びつきを不可分にすることとイコールです。本来、労働者は勤め先の会社に対して自主的であらねばならぬところ、要求実現型労組運動を展開すればするほど成功すればするほど会社との結びつきが強まるのです。
ここにおいてこそ、生産の自主管理化・経営の協同化、少なくとも会社経営に対して労働者階級が食い込むことの必要性が出てきます。当ブログでは、利用者(消費者)にとっての利益と労働者の職業的矜持を両立する労組活動を生産の自主管理化・経営の協同化を展望に収める労組活動に結び付ける必要性について繰り返し申してきました。
会社は不当労働行為に当たるストライキ妨害は許されませんが、ストライキに伴って提示される労働者の要求に応じる義務はありません。正当なストライキの要求を拒否することもまた正当です。会社が労働者の要求を呑んだとしても、それは「ここは折れておいた方が後々、利益につながるだろうな」という打算的な判断によるものに過ぎません。これに対して経営に食い込んだ者の利益に対して会社は応じる義務があります。会社は、社会的役割を果たす必要があるとはいえ、まずは所有者のものだからです。それゆえ、労働者自身が会社経営に食い込むことで、そもそもの会社経営の方向性を転換させるべきなのです。
幸いにして昨今はSGDsなるスローガンがあります。もちろん、SGDsはブルジョアたちが「やっている感」を出すためのパフォーマンスに過ぎず、こんなものに本気で期待するわけにはいきませんが、しかし、ここで提唱されているお題目はいずれも一概には否定しがたいものばかりです。これらのお題目を上手く利用する強かさを持って生産の自主管理化・経営の協同化、少なくとも会社経営に対して労働者階級が食い込む労働運動に結び付けてゆく必要があると考えます。
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ラベル:自主権の問題としての労働問題