https://news.yahoo.co.jp/articles/f08588df52d6dd7bcc106a4cc27a27393d45b9c3ゼレンスキー政権内不和か 米誌タイム報道、波紋広がる
11/3(金) 18:31配信
共同通信
【キーウ共同】ウクライナのゼレンスキー大統領が対ロシア戦勝利に固執し、新たな戦略や方向性を打ち出すのが難しくなっているとの匿名の政権高官発言を米誌タイムが報じ、波紋を広げている。侵攻が長期化し、国際社会の支援継続が不透明さを増す中、政権内部の不和を示唆する内容。側近は火消しや発言者捜しに躍起になっている。
(中略)
ゼレンスキー氏は「私ほど勝利を信じている人間は誰もいない」と訴えたが、側近の一人は「大統領の頑固さが、戦略や方向性を示そうとする政権の努力に水を差している」と指摘。全土奪還にこだわるゼレンスキー氏に早期の停戦交渉入りを持ちかけることはタブー視されているという。
また、ある高官は、侵攻当初に作戦会議で冗談を飛ばし周囲を和ませていたゼレンスキー氏が、最近は報告を聞き命令を出すと、すぐ退室するようになったと明かした。
https://news.yahoo.co.jp/articles/cb34fe3f2a35b49ce9a5cd28f9d618cac6343f78戦況は膠着、長期の消耗戦に突入 ウクライナ軍総司令官
11/5(日) 14:51配信
CNN.co.jp
(CNN) ウクライナ軍のザルジニー総司令官は5日までに、国内の戦況は膠着(こうちゃく)状態にあり、ロシアに有利な方向へ傾く長期の消耗戦の段階に入ったとの判断を示した。
英誌「エコノミスト」への長めの寄稿文や同誌との会見で述べた。この中で「第1次世界大戦がそうだったように、技術的な進歩の影響で我々は手詰まり状態に陥っている」と説明。「すごい打開策が出てくる可能性は非常に少ない」と予想し、代わりに大きな損失と破壊が相互に生じる均衡状態が続くだろうとした。
https://news.yahoo.co.jp/articles/93bd6976648e21337658968ab454450d08640babゼレンスキー大統領と軍部で溝か 反撃が期待通り進まず
11/6(月) 22:34配信
テレビ朝日系(ANN)
ウクライナによるロシアへの反撃が思うように進まないなか、ゼレンスキー大統領と軍部の間で溝が生じていると指摘されています。
(中略)
また、ゼレンスキー大統領は3日、特殊作戦軍の新司令官を交代させましたが、ザルジニー総司令官に知らせていなかったと報じられていて、ゼレンスキー大統領と軍部の間で溝が生じている可能性があります。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は1日、「エコノミスト」のインタビューで、「反撃は期待通りに進まず膠着(こうちゃく)状態に陥っている」などと述べました。
■特筆すべき風向きの変化
これら報道については、「いつ報じるのかな、そもそも報じるのかな」と思いつつ、報じられるタイミングとの関係を踏まえつつ待っていました。
様子見のために少し待機した形跡がありますが、タイム誌報道とエコノミスト誌報道が日本メディアで報じられるようになったのは特筆すべきことです。
なぜならば、米欧諸国のメディアは、たとえばノルドストリーム爆破事件の実行犯報道で見られたように、戦時下においてもジャーナリズムが息づいています。これに対して
日本メディアは、たとえば昨年4月10日づけ「
TBSのジャーナリズムは今もまだ死んだまま:「ウクライナ国営放送日本語版」に成り下がったTBS『報道特集』と金平茂紀氏」で取り上げたTBSの報道や、マリウポリ陥落2日前まで、些細な局地的前進を針小棒大に「ウクライナ軍の反転攻勢が始まった!」と騒ぎ立てたNHKの報道が典型的だったように、
ジャーナリズムを投げ捨てて戦時プロパガンダの伝動ベルトに成り下がっています。
そんな日本メディアが「
大統領の頑固さが、戦略や方向性を示そうとする政権の努力に水を差している」や「
ロシアに有利な方向へ傾く長期の消耗戦の段階に入ったとの判断を示した」「
ゼレンスキー大統領と軍部の間で溝が生じている」といった内容を報じたわけです。
「戦時プロパガンダの伝動ベルト」たる日本メディアさえもがウクライナにとって不利な状況を報じるに至っているわけです。
※個人ブログ「航空万能論GF」は、これら報道について、ほとんど即座に日本語で要旨をまとめた記事を公開されています。とても参考になるのでご紹介します。
2023.10.31「
米タイム誌、大統領の頑固さがウクライナの柔軟性や選択肢を狭めている」
2023.11.2「
ザルジニー総司令官が反攻作戦の評価に言及、私が間違っていた」
2023.11.5「
ゼレンスキー大統領と軍の不協和音、ザルジニー総司令官に知らせず司令官交代」
■米欧諸国がウクライナに停戦を促し始めたことが背景
案の定、
米欧諸国がウクライナに停戦を促し始めたことがタイミング的に背景としてあるようで・・・
https://news.yahoo.co.jp/articles/5ab3ac1ec525a7f580e7dc27fd4914efacddf6c1ウクライナ反攻から5カ月 戦局膠着、水面下で停戦案も?
11/5(日) 19:18配信
産経新聞
ウクライナのゼレンスキー大統領がロシア軍に対する反攻の開始を認めてから間もなく5カ月となる。ウクライナ軍はこの間、最前線の南部と東部で限定的に前進したものの、大規模な領土の奪還には至っていない。戦局が膠着(こうちゃく)の度を増し、さらに中東情勢が米国のウクライナ支援に影響する可能性もある中、欧米諸国内でウクライナに停戦を促す動きが出始めたとも伝えられている。
ゼレンスキー氏が反攻開始を認めたのは6月10日。反攻の軸は大きく南部ザポロジエ州方面と東部ドネツク州方面に分けられた。
南部での反攻でウクライナ軍は、露軍の支配下にあるアゾフ海沿岸の「陸の回廊」を分断して露軍の補給路を断ち、南部一帯の奪還につなげる戦略を描いた。ウクライナ軍は8月、ザポロジエ州ロボティネを奪還。ただその後は次の奪還目標である小都市トクマク方面に前進できていない。
ウクライナ軍は10月、南部ヘルソン州でドニエプル川渡河作戦を行い、露軍支配下にある同川東岸地域に拠点を確保。ザポロジエ州とは別の南進ルートを確立する狙いとみられる。ただ同川東岸に進出しているウクライナ軍部隊は小規模だ。
東部ドネツク州バフムト周辺ではウクライナ軍が一定の領土を奪還した。ただ露軍は秋ごろからドネツク州アブデーフカやリマン、ハリコフ州クピャンスク周辺などで攻勢を強化。相当の損害を出しつつも局所的に前進しているもようだ。
(中略)
ウクライナ軍が近く反攻の成果を上げられる可能性は低い。要因の一つは軍の損耗だ。米誌タイム(電子版)は10月30日、匿名のウクライナ高官らの話として、現場部隊が人員や武器・弾薬不足を理由に前進命令を拒否していると報道。ウクライナ兵の平均年齢が43歳まで上昇しているとも伝えた。「冬の寒さは軍の活動を困難にする。来春まで前線を固着させるだろう」とも指摘した。
さらに、イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの交戦を受け、米国によるウクライナ支援の縮小が現実味を帯び始めた。欧州連合(EU)でもハンガリーやスロバキアが支援に難色を示し、欧米側の支援がスムーズに続くかは見通せない。
これらを背景に、米NBCニュースは今月4日、複数の米当局者らの話として、欧米側がウクライナに停戦を促し始めたと報道。ウクライナがロシアに一定の譲歩をする代わりに北大西洋条約機構(NATO)がウクライナの安全を保障する案が出ているとした。
ただゼレンスキー氏は従来、停戦はロシアによる占領地支配の既成事実化と将来の再侵略を招くとして交渉を否定。停戦に向けた動きが近く本格化するかは未知数だ。
アメリカ様の停戦意図に沿った報道を展開しているというわけです。
日本はアメリカの属国なので、日本の視点とアメリカの視点は基本的に一致しています(一致させられています)。それゆえ、国際情勢はアメリカの視点、つまりアメリカの利益から報じることが基本です。
日本メディアが「ウクライナは不利な状況にある」などと報じるということは、アメリカの意思が停戦にほぼ固まってきたということなのです。アメリカとして意思を固めたからこそ、その意思を属国にも周知徹底させているわけです。
■もはやウクライナ情勢は「基本的に用済み」?
もちろん、日本はアメリカの属国であるとはいえ、日本にも独自の国益があります。昨今の中東情勢を巡っては、イスラエル全面支持の米欧諸国とは若干違った対応を日本は取っています。しかしながら、「ウクライナは不利な状況にある」ことを認める本件自体においては、米欧諸国の論調をほぼそのまま垂れ流しています。
「今日のウクライナ情勢は明日の台湾・沖縄有事」というスローガンの下、勇ましく景気のいいプロパガンダ報道であふれていた日本言論空間が手のひらを反すように論調を変化させたという事実からは、
日本メディアにとって、もはやウクライナ情勢は「基本的に用済み」であり、それゆえに以前ほど徹底的に戦時プロパガンダを展開する必要はなくなったという見方もできるかもしれません。
「今日のウクライナ情勢は明日の台湾・沖縄有事」というスローガンはだいぶ定着してきたものと思われます。となれば、
いよいよ本丸である台湾・沖縄有事そのものに注目が集まるように話題を転換して行かなければなりません。相対的にウクライナ情勢そのものの「重要性」は低下してくるので、縛りもゆるくなってくるものと思われます。むしろ、
いつまでもウクライナ情勢にばかり国民の関心が留まり続けて、肝心かなめの台湾・沖縄有事に移行しないのは大問題でしょう。
TBS『報道特集』は、今年7月以降、にわかに「台湾有事」をクローズアップ。7月1日づけ「
「ロシアを許せばウクライナの次は台湾」“台湾有事”に危機感を抱く台湾の人々の思いとは」及び同22日づけ「
「台湾も沖縄も軍事的なコマ・・・」米中対立の最前線、二つの島から見た“台湾有事”」は、昨年4月10日づけ「
TBSのジャーナリズムは今もまだ死んだまま:「ウクライナ国営放送日本語版」に成り下がったTBS『報道特集』と金平茂紀氏」で取り上げた昨年3月12日放送の「
日本人ジャーナリストが見た首都キエフの今」と似たような仕上がりになっています。
またこれもTBSですが、麻生太郎氏の「戦う覚悟」発言(8月8日)を受けて早くも8月12日の『新・情報7daysニュースキャスター』は「緊張高まる台湾を緊急取材 『戦う覚悟』の現場を見た」と称して特集を放映。高校の授業の一環として軍人指導下での軍事教練が行われている様子をはじめとして、民営の射撃訓練場で練習する民間人の姿を報じました。番組は「すべての人が戦う覚悟を持つわけではない」としたものの、「『戦う覚悟』の現場を見た」という特集名からも分かるとおり、主たるメッセージは「台湾市民は台湾有事の備えを進めている」にあるのは明白です。コメンテーターの三雲孝江氏は、軍事教練に参加した高校生が「平和がいい」と発言したことについて「救われる」としつつも「現実的な備えとしては(よいのではないか)」などと評価したものでした。
いわゆる反転攻勢が思ったほど進展していないだけでは最近のウクライナ情勢に関する報道の低調ぶりは説明できません。
意図して扱いを小さくしていると見なすのが自然です。
本丸である台湾・沖縄有事そのものに注目が集まるように話題を転換しつつあることも考慮する必要があるでしょう。
米欧諸国が停戦に向けて大きく傾き始めたタイミングでその流れに乗っかることは、アメリカ様の利益であり、また、日本の支配層の利益でもあるのです。
■戦時プロパガンダが強度と効果において新たな段階に入った?
景気の良いプロパガンダばかりではなく割と現実に沿った報道も見られ始めたことは、
戦時プロパガンダが強度と効果において新たな段階に入ったことを示しているとも考えられます。以前は非常に勇ましい反面、損失や犠牲などについては触れたがらない典型的なプロパガンダが展開されてきたものでしたが、
ここ最近、損失や犠牲についても一定程度注目しつつ「それでも戦う」というプロパガンダが展開されるようになってきました。一層の警戒が必要になってくるものと考えます。
前者の典型例が昨年12月30日づけ「
単なる女性自衛官募集番組(それも程度の低い)になり下がった「映像の世紀 バタフライエフェクト」の「戦場の女たち」」で取り上げたNHK総合「映像の世紀 バタフライエフェクト」の「戦場の女たち」でした。詳細は当該記事をご覧いただきたいのですが、要するに、著名な女性兵士らの勇ましい官許・公式回顧録からの引用で番組の大半が構成されており、彼女らの犠牲や苦悩、とりわけ戦後のPTSDや差別についてまったくと言ってよいほど取り上げられなかった典型的な戦意高揚番組でした。
これに対してNHKは、開戦1年半になる8月24日にロシアと戦うウクライナ軍の女性兵士について『おはよう日本』で特集し、同じネタを10月まで何度か使いまわしてきました(「
ロシアと戦う女性兵士「塹壕で地獄を見た」それでも戦場に立つ」)。
当該特集は、冒頭から「
私たち兵士は、戦場で傷を負います。戦場から帰ってきた時、さまざまな困難に直面することがありますが、それが普通のことであると、戦場に行く兵士に教えてほしい」などと
戦争の現実を率直に認め、「
地下鉄に向かう時に、仲間の『アラスカ』(軍のコードネーム)が亡くなったというメッセージを受け取りました。彼のことは、笑顔でしか覚えていません」というシーンでは
堪え切れず泣き出すところを放映。「映像の世紀 バタフライエフェクト」の「戦場の女たち」とはまったく異なる編集方針です。
しかし、心理カウンセラーが「
あなたは今、喪失に次ぐ喪失を経験しています。市民が暮らす環境に身を置くことが、そのつらさを、少しずつ和らげる機会になると思います」と勧めるも、「
キーウは、もう自分がいるべき街ではない。戦場の仲間のもとに戻りたい」とし、「
私は2022年2月24日までは、自分の世界を生きてきました。ドンバスなど東部で起きていた紛争には関心がありませんでした。しかし、いまは、家、家族、自分自身、都市を守る。そして、ウクライナを守らなければならない時が来たのです」「
力によってのみ、敵を私たちの土地から追い出すことができるのです」という
決意表明で終えるという構成を組みました。
損失や犠牲についても一定程度注目しつつ「それでも戦う」という構成は、まちがいなく戦時プロパガンダですが、新たな形態であるといえます。
ちなみに、粗悪品が多く、かつ、男性用ばかりでサイズが合わないことも多々ある官給品では身を守れないので防弾チョッキを自腹で購入したそう。「
かかった費用は日本円で10万円を超えていた」とのことですが、戦争前からヨーロッパではかなり貧しい方だったウクライナ(一人当たりのGDPは2020年時点において3700ドル程度)ではかなりの負担になったのではないでしょうか? わざわざこういうシーンを挿入してきたところにも、戦時プロパガンダとしてのメッセージを見出す必要があるでしょう。
ウクライナでの戦争が期せずして長期化していることを受けて、
台湾・沖縄有事の長期化の可能性も考慮に入れる必要が出てきています。
勇ましく景気のいいプロパガンダだけでは戦い切れないことが明らかになってきたのです。戦争が長期化するにつれて怪我をして戦線を離脱する人たちは、どうしても増えるものです。
このNHKの特集は、そうした人たちを、怪我から回復し次第再び戦地に送り込むための「仕組み」作りに取り組み始めた証拠であると見なすことができるでしょう。
■御用学者たちの情勢分析の破綻
泥濘期が始まりました。
今期のいわゆる反転攻勢は、いくら何でももう終わりです。御用学者たちの情勢分析を簡単に総括したいと思います。
今年に入ってから度々、取り沙汰されてきた「ウクライナ軍の本格的反転攻勢」談義。待てど暮らせど始まらないことに対して漏れ聞こえる不満の声に対して、ウクライナ当局及びそのパトロンである米欧諸国は、ギャラリーを飽きさせないためか大風呂敷を広げてきました。
その結果、「国際社会」は昨夏のハルキウ攻勢を超えるような大戦果が挙がるものと期待を高めたものでした。
ついに6月、
大方の予想よりもだいぶ遅く始まった攻勢は、これもまた大方の期待に反してまったく劇的な展開をみせませんでした。冷静に考えればロシアも相当念入りに準備してきたはずなので、これは至極当然のことなのですが、プロパガンダの自己中毒にかかったウクライナ当局及びそのパトロンである米欧諸国は事態の説明に苦慮する羽目に。たとえばゼレンスキー大統領は「ハリウッド映画とは違う」などと主張するのが精一杯(「
ゼレンスキー氏「ハリウッド映画とは違う」…大規模な反転攻勢「望んでいたよりも遅い」」2023/06/22 00:14)でした。そんな風に期待感を膨らませたのは他でもない自分たち自身だというのに。
ようやく8月末になってザポリージャ州のロボティネという集落を奪還したときには大きなニュースになりました。「これより先は地雷原もそれほど分厚くはないので、攻勢スピードは上がるはず」と言われたものの、上掲サンケイ記事にもあるとおり、それ以降は前進できていないのが現実です。メリトポリどころかトクマクにも到達できていません。8月中旬には既に「メリトポリ奪還の公算小さい」という報道が出ていました(「
ウクライナ軍、南東部の要衝メリトポリ奪還の公算小さい=米当局者」2023年8月19日)が、いまのところそのとおりになっています。
9月ごろには、最前線での停滞と反比例するかのようにドローン等によるロシア軍後方への、
それこそハリウッド映画のような劇的な攻撃が盛んに報じられるようになりましたが、肝心かなめの占領地奪還はまったく進展せず。そして
最近はそういった耳目を集める戦果さえも低調・散発的になりつつあります。むしろ、態勢を立て直したロシア軍の猛攻が報じられているところです。
※軍事素人の私ですが、こうして振り返ると、昨夏のハルキウ大攻勢が今、ウクライナ及び米欧諸国の足を大きく引っ張っているのではないかと思えてきます。
あまりにも劇的な領土奪還は、それが新たな基準となってしまい今般の反転攻勢のハードルを著しく上げました。プロパガンダの自家中毒を自ら導いたわけです。また、ハルキウからのロシア軍の撤退は妙に迅速だったように見受けられましたが、いま振り返れば「損切りとして悪くはない決断」でした。
ウクライナ軍にとっては攻めやすくロシア軍にとっては守りにくい地域から迅速に手を引いたことで、ロシア軍にとっては戦線整理・戦力再配置になったわけです。このとき引き揚げた部隊を再配置したことで、
南部戦線に途方もなく分厚い多重の防衛線が敷かれることになったように思われます。
一般メディアは、反転攻勢の停滞に対して基本的に沈黙しています。
たとえば津屋尚・NHK解説委員は、昨年12月28日の「
厳冬の戦い ウクライナが年明け大規模作戦か」以来、今年1月11日に「
強まる欧米の軍事支援〜ウクライナ領土奪還の行方」、4月12日に「
ウクライナ反転攻勢の大規模作戦へ」、5月16日に「
ウクライナ 大規模反転攻勢へ」と期待を煽る解説を展開してきました。
津屋氏といえば、昨年12月31日づけ「
10月末から12月末までの約2か月間のウクライナ情勢まとめ(1)」でも取り上げたとおり、
非常に露骨なプロパガンダを展開する「解説委員」です。昨年10月19日づけ「
追い詰められたロシア」において、ロシア軍は武器も弾薬も兵員も足りておらず、NATO関係者の言としつつも「
戦力の立て直しは非常に困難で、ロシア軍は“組織的な戦闘”が難しくなっている」と演説を打ちましたが、
現状はご存じのとおり。
エストニア軍情報機関によると、
ロシア軍は依然として戦車3000両、装甲兵員輸送車1万2000両を保有。まだまだ相当数残っています。
1か月あたりの砲弾生産量は推定で150万発というので、これは桁違いの生産量です(「
ロシア軍の戦車はどれだけ残ってる?ウクライナ侵攻前は約9000両も保有 現在は」11/10(金) 6:12配信 乗りものニュース)。戦車については、少し前にT-55やT-62を再稼働させたことで「次はT34か?」などと、だいぶバカにされたものでしたが、旧式戦車も束になれば意外とバカにならないようで戦線は崩壊していません。T-80の生産ラインの再構築も始まっている(「
ロシア、T-80戦車の生産を再開か 「ゼロ」から新規に製造」2023.09.12)ようで、ただちに大量投入されることはないでしょうが不気味な動きが続いています。また、
砲弾については、これとは別に400万発の在庫があるとのことです(「
“ロシアに弾薬約400万発残っているか” エストニア軍トップ」2023年10月23日 18時23分)。
ドローンによる攻撃は、昨冬にも猛威を振るいましたが、
いよいよロシア軍が主導権握る地域も出てきたようです(「
ウクライナ優位揺らぐ無人機戦闘、ロシアが大量配備で主導権握る地域も」11/10(金) 9:04配信 ロイター)。
兵員については、「どこからか湧いて出てきているのか?」と思わずにはいられないくらい、
ロシア兵は次から次に補充されています。
むしろ、ウクライナ軍が男性総動員でも兵力不足で女性の動員拡大の方向に進みつつあるとのこと(「
ウクライナ、軍の動員対象拡大 人員不足、女性医師も」2023/09/24)。マーク・ミリー米統合参謀本部前議長が9月10日に「
戦闘に適した天候の期間は「約30〜45日」しか残っていない」と指摘した(「
ウクライナ、東・南部で前進 反転攻勢「残り45日」か」2023年09月11日21時00分)のに対して、ブダノフ・ウクライナ国防省情報総局長が「
大きな問題ではない。現在、主な戦闘は歩兵によって行われている。多数の無人機も使われている。戦車などを使う機会は減っている」と強弁した(「
ウクライナ国防省の高官 “気象条件 大きな問題ではない”」2023年9月25日 18時38分)ものですが、いままで基本的に動員対象として計算されていなかった女性の動員を拡大せざるを得ないことと整合性が取れていません。
虚勢を張らねばならないほどウクライナ軍は苦しい状態にあることが推察されます(ロシアも大変だと思いますよ、念のため)。
さらに特筆すべきは、
「挙国一致で侵略者と戦うウクライナ国民」像の綻びとも取れるニュースが飛び込んできています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/d6c87d29d5f2bdb91df367e59f1273f86457dddd戦場から戻すよう求め…ウクライナ各地で動員兵士の家族ら集会 複数メディア報じる
11/13(月) 18:44配信
日テレNEWS NNN
複数のウクライナメディアは12日、動員兵士の家族らが兵士を戦場から戻すよう求める集会がウクライナ各地で開かれたと報じました。
ウクライナのオンラインメディア「ストラナ」によりますと、ウクライナでは12日、動員された兵士の家族らが兵士の軍務を解くよう求める集会を各地で開きました。
ロシアからの攻撃を受けているオデーサなどでは、女性や子どもたちが小規模ながらデモ行進を行ったということです。
他のメディアも、首都キーウやジトーミル州でも集会が開かれたと報じ、別のメディアは、軍の元幹部へのインタビューを掲載して、「大多数の動員兵士が1年半以上にわたって戦闘任務に就いている。彼らを戻す仕組みがない」と制度の不備を指摘しました。
(以下略)
もちろん、このことを以って直ちにウクライナ国民の結束が崩壊するとは私も考えていません。しかし、
日本メディアは同じような事態がロシア国内で起これば直ちに「ロシアで厭戦機運が高まっている! プーチンの終わりは近い!」と書き立ててきました。
本件は、日本メディアがせっせと作り上げてきたイメージを突き崩すには十分すぎる出来事です。
つまり、津屋解説委員の「解説」は今日時点から振り返るに「すべて外している」のです。このことについて完全に頬かむりして「解説」を続けている彼のメンタルの強さは驚きを感じざるを得ません。
今年も彼は懲りずに「解説」を続けてきましたが、いよいよ自己矛盾が極限に至ったことで解説できなくなってきたのでしょう。「
ウクライナ 反転攻勢は成功するのか」を解説した
6月19日以降しばらく沈黙し、ようやく「
どうなるウクライナの反転攻勢 時間との闘い」と
9月14日に反応を見せ、その後は今日にいたるまで再び沈黙しています。
思えば、高橋杉雄氏や兵頭慎治氏といった、
精力的に解説を展開してきた御用学者(防衛省関係者を御用学者と呼ぶのは中傷でも何でもないはず)
の解説をメディアで聞く機会が減ってきたように思います。10月22日放送NHK「ニュース7」で兵頭慎治氏は、ウクライナ軍のドニプロ川渡河について解説しています(
https://www.youtube.com/watch?v=z8DVwv4zMOA)が、正直これは非常に疑わしい話です。たとえば、スペイン語のミリタリーサイト≪
Revista Ejércitos≫は、まったく無視しているわけではないが、注目しているとは言い難い言及にとどめています。「功を急ぐゼレンスキー大統領によるバフムト以来の政治的固執」の線さえも否定できないものとも考えられます。
なお、
いまだに西村金一氏はネットニュース媒体で景気のいい「分析」を展開しています(「
ウクライナ軍がドニエプル渡河作戦、成功すればアゾフ海到達へ」2023.10.31)が、
元幹部自衛官がこんな調子って日本の国防は本当に大丈夫なのでしょうか・・・? 西村氏の情勢把握は、見たいものしか見えていないようです。
国民を兵士として戦地に送る「戦う覚悟」ばかり先行し、
戦争指導の大前提である戦況分析という「戦う覚悟」がお話にならないレベルに留まっているように思えてなりません。
■総括
タイム誌報道とエコノミスト誌報道が日本メディアで報じられるようになったのは特筆すべきことです。日本はアメリカの属国なので、日本の視点とアメリカの視点は基本的に一致しています(一致させられています)。
ジャーナリズムを投げ捨てて戦時プロパガンダの伝動ベルトに成り下がっている日本メディアまでもが「ウクライナは不利な状況にある」などと報じるということは、アメリカの意思が停戦にほぼ固まってきたということを示していると思われます。
また、日本メディアにとって、もはやウクライナ情勢は「基本的に用済み」であり、それゆえに以前ほど徹底的に戦時プロパガンダを展開する必要はなくなったという見方もできるかもしれません。
「今日のウクライナ情勢は明日の台湾・沖縄有事」というスローガンはだいぶ定着してきたものと思われます。となれば、
いよいよ本丸である台湾・沖縄有事そのものに注目が集まるように話題を転換して行かなければならないので、意図して扱いを小さくしていると見なすのが自然です。
さらに、景気の良いプロパガンダばかりではなく
割と現実に沿った報道も見られ始めたことは、戦時プロパガンダが強度と効果において新たな段階に入ったことを示しているとも考えられます。ここ最近、損失や犠牲についても一定程度注目しつつ「それでも戦う」というプロパガンダが展開されるようになってきました。
戦争が長期化するにつれて怪我をして戦線を離脱する人たちは、どうしても増えるものです。そうした人たちを、怪我から回復し次第再び戦地に送り込むための「仕組み」作りに取り組み始めた証拠であると見なすことができるでしょう。
御用学者たちの情勢分析の破綻がいよいよ顕著になってきました。国民を兵士として戦地に送る「戦う覚悟」ばかり先行し、
戦争指導の大前提である戦況分析という「戦う覚悟」がお話にならないレベルに留まっているように思えてなりません。