2023年11月30日

「アメリカがそう言ったから」以外に何の理由もないことだけは一貫する属国ニッポン

https://news.yahoo.co.jp/articles/393db11494ad102efd41e3d4efbf55125ac927d6
オスプレイ事故は「不時着水」 政府、米軍説明受け
11/29(水) 21:33配信
時事通信

 政府は29日、鹿児島県の屋久島沖で発生した米軍輸送機オスプレイの墜落を「不時着水」と位置付けた。

 米側から「最後までコントロールを試みていた」との説明があったことを踏まえた判断。米軍も「不時着水」の用語を使っているといい、宮沢博行防衛副大臣は同日、記者団に「最後の最後までパイロットは頑張っていたということだ」と理解を示した。

 防衛省によると、「墜落」は機体のコントロールを失ったケースで使用。一方、「不時着」や「不時着水」はコントロールを失わず、パイロットの意思で降りた際に用いており、2016年に沖縄県名護市沿岸部で米海兵隊のオスプレイが大破した事故も不時着水とされた。

(以下略)
「最後までコントロールを試みていたから墜落ではなく不時着水」というのならば、既に方々でツッコミされているとおり日本航空123便墜落事故も、回収されたブラックボックスの録音データを聴く限りは不時着事故になります。ニッポンの「軍部」は未だに、撤退を転進などと言い換えたように小手先の言葉の使い分けで事態を矮小化しようとしているのかと呆れたのですが、何と真相は「アメリカが不時着水と言っているから」だったそう。思ったよりも酷い理由・・・

そうかと思えば、今日になってアメリカが「墜落」と表現するようになったのに追随するニッポンの「軍部」。
https://news.yahoo.co.jp/articles/16d5e2be2e52ed03878a8bfae577703da572e788
「墜落」と説明 オスプレイ事故で防衛相 前日から改める
11/30(木) 12:05配信
琉球新報

(中略)
 木原氏は、見解を改めた理由について、米側から「墜落、クラッシュ(crash)という表現であったというふうに説明があった」と述べた。29日の時点では「不時着水、英語でいうところのアンプランド・ランディング(unplanned landing)、そういう表現であるとの説明を受けていた」と明らかにした。
(以下略)
「アメリカがそう言ったから」以外に何の理由もないことだけは一貫しています。ここに国の主体性は欠片もありません。込み入った説明をするまでもなく、日本がアメリカの属国・植民地であることが非常に分かりやすい形であらわれました

日本の政治的・経済的・軍事的な対米従属については、さまざまな形で指摘される一方でさまざまな形で抗弁・反駁もされ、「日本はアメリカに従属しているのか」というテーマは常に激しい議論の対象になってきましたが、さすがに本件を対米従属の現象形態とすることについては抗弁しがたいものと思われます。

https://news.yahoo.co.jp/articles/7cfac6ec27e94638276cb1ad536e0ab459baaddd
米軍オスプレイ、事故翌日も普天間で訓練 憤る住民「やりたい放題」
11/30(木) 11:37配信
沖縄タイムス

 鹿児島県屋久島沖で米空軍のCV22オスプレイが墜落した事故から一夜明けた30日午前、沖縄本島中部の周辺上空ではCV22と、同型機のMV22オスプレイが相次いで訓練飛行する様子が確認された。県や米軍嘉手納基地、普天間飛行場の周辺自治体は、事故原因が究明されるまで、米海兵隊や海軍を含むオスプレイ全機の飛行や飛来を停止するよう求めている。

(中略)
 訓練飛行の様子を見ていた北谷町に住む男性(39)は「県や地元自治体が飛行停止を求めているさなかの訓練に憤りしかない。米軍は沖縄でやりたい放題だ」と語気を強めた。

 嘉手納町の男性(57)は「今回の事故で、基地周辺住民の安全が保証されていないことが露呈した。オスプレイは安全だと言う主張は崩れ去っている」と飛行停止を訴えた。
「アメリカ軍が沖縄を軽んじている」のは記事が指摘しているとおりだと私も思いますが、このことは同時に、原因追究も無しに俄かには信じ難い形で墜落した航空機の同型機に自軍兵士を搭乗させる点において、アメリカ軍は自軍兵士の命さえも軽んじていると言えると思われます。

アメリカ軍兵士は貧困層から絶えず供給されるので困らないということなのでしょうか?さすがはアメリカ帝国主義。
ラベル:政治
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2023年11月27日

김정은장군찬가

https://news.yahoo.co.jp/articles/24d7439645b432a9878a6d21277f0a3a11c874ea
北朝鮮の国家行事の儀式歌が「金正日将軍の歌」から「金正恩将軍の歌」に 権力継承から12年目の変更
11/26(日) 7:15配信
NEWSポストセブン

 北朝鮮では建国記念日などに催される重要な国家行事において、参加者全員が歌う「儀式歌」がある。これまでは金正恩朝鮮労働党総書記の父、金正日氏を讃える「金正日将軍の歌」が主に歌われてきたが、11月に入ってからは、儀式歌が金正恩氏を賛美する「金正恩将軍の歌」に変わったことが明らかになった。

 2011年末に金正日氏が死去し、金正恩氏が3代目の最高指導者の座についてからすでに約12年が経っており、金正恩氏個人の権威確立を図る狙いがあるとみられる。米政府系報道機関「ラヂオ・フリー・アジア(RFA)」が報じた。

(中略)
「金正恩将軍の歌」は文字通り、最高指導者としての金正恩氏をたたえるための歌。3番の歌詞の中には「将軍はまばゆい世紀の太陽」「将軍は燦然と輝く勝利の旗印」「白頭山大国の三千里に明るい未来を繰り広げるその名も偉大な金正恩将軍」など、次々と金正恩氏を賛美するフレーズが登場する。

 ちなみに1番目では「将軍は強大な朝鮮の精神」、2番目では「将軍は千万の聡明な知恵」などのフレーズが使われている。

(中略)
 それに比べると、「金正恩将軍の歌」は金正日氏の死後12年目とかなりの年数を経て、ようやく儀式歌になったわけだが、金正恩氏がもはや金正日氏の遺名に頼ることなく、名実ともに北朝鮮の最高指導者としての地位を確立していることを象徴しているといえそうだ。
≪김정은장군찬가(金正恩将軍賛歌)≫(https://www.youtube.com/watch?v=gV5S0jBWAPA)のこと? 書いてある歌詞から見て「金正恩将軍賛歌」っぽいですが・・・

≪우리 민족끼리(わが民族どうし)≫の解説文をご紹介しておきます。朝鮮語ですが。http://www.uriminzokkiri.com/index.php?ptype=cgisas&mtype=view&no=1244011

金正恩氏がもはや金正日氏の遺名に頼ることなく、名実ともに北朝鮮の最高指導者としての地位を確立していることを象徴しているといえそうだ」という指摘には同感。今後、「金正恩の権力基盤は脆弱! 北朝鮮は崩壊寸前!」と書き立てる記事が出てきたら、この件を持ち出してやりましょう!
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2023年11月25日

戦時プロパガンダの行き詰まり、袋小路に追い詰められるNHK

■ウクライナ情勢について独自の逆張り的な情勢解釈の定式化を試みるNHK――理屈として筋が通っておらず印象操作の類
英『エコノミスト』誌及び米『タイム』誌による先般のウクライナ・ゼレンスキー政権内部での「不協和音」報道が世界を駆け巡り、その余波は今も強く残っています。

これらの報道で重視すべきは、ゼレンスキー政権内部で不協和音が生じているかどうかではなく、そう報じられたこと自体にあります。マスコミは、さまざまな利害関係者との駆け引きの中で報じる内容を調整しているのが常であり、好きなことを好きなだけ書けるわけではありません。特に「ロシアによる侵略」という構図の中においては、報道内容は政治的要請との調整が非常に厳しくなるので、すべてをありのままに書くことはできないでしょう。戦時下ではすべての報道は、程度の差こそあれプロパガンダ性を帯びているものなのです。

そうであるにもかかわらず、とりわけ米欧諸国の国内世論がウクライナ支援に後ろ向きになりつつある中、それに拍車をかけるような報道が全世界を駆け巡ったわけです。これは、米欧諸国の為政者たちが自国の国内世論が更に後ろ向きになっても構わないと認めているからに他なりません。今までは国内世論の突き上げを何とか取り成しつつ支援を継続すべく努力してきた米欧諸国の為政者も、いよいよ停戦の方向を歩み始めたものと考えられます。

しかし、こうした流れに逆張りするかのようにNHKが最近、独自の情勢解釈の定式化を試みる記事を報じました。11月18日放送「ニュース7」は、池田大作氏の訃報に続いて番組中盤でウクライナ情勢について5分程度の枠で特集(いくら何でも池田氏の死亡よりも優先度が低い話だとは思えませんが・・・)。ほぼ同じ内容がWEB記事化されています。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231119/k10014262501000.html
汚職に軍との“不協和音”も…ゼレンスキー大統領の内憂外患
2023年11月19日 5時38分

ウクライナではロシアとの戦闘が長引くなか、ウクライナの調査会社が先月末に発表した世論調査では、政府や大統領への信頼度が低下。特に政府への信頼度は39%と、去年5月に比べてほぼ半減しました。

さらにゼレンスキー大統領と軍幹部との間に“不協和音”との指摘も。

国民の支持を得て戦ってきたゼレンスキー政権に何が起きているのか。
今後の戦況に影響は?詳しくお伝えします。

(中略)
ゼレンスキー大統領と軍幹部の間に“不協和音”
戦況の分析や見通しを巡ってゼレンスキー大統領と軍幹部との間で意見の食い違いが表面化し、不協和音が生じているのではないかという指摘も出ています。

ウクライナ軍のザルジニー総司令官は今月1日付けのイギリスの経済誌「エコノミスト」の寄稿やインタビュー記事の中で、戦況について「第1次世界大戦と同じように、こう着状態に陥る段階に達している」という認識を示しました。

これに対してゼレンスキー大統領は4日に行った記者会見で「皆、疲れているが、こう着状態ではない」と述べ、総司令官の見方を否定しました。

ゼレンスキー大統領は、今月3日のビデオ声明で、軍の特殊作戦を担当する司令官を新たに任命したと発表しましたが、地元メディアは、解任されたホレンコ前司令官が「理由は知らない。報道で知った」と不満を示したと伝えています。

英BBC “徴兵逃れで2万人近くが出国”
イギリスの公共放送BBCは17日、ウクライナからこれまでに2万人近くが徴兵を逃れるために国外に出国したことがわかったと伝えました。

(中略)
汚職の問題が次々と…
ウクライナでは、一握りの政治家や実業家が利権を独占する政治構造が続いていて、2019年に行われた大統領選挙で政治経験のなかったゼレンスキー大統領がはじめて当選したのは、汚職に対する国民の不満も背景にあったとみられます。

しかし、ロシアによる侵攻を受けて欧米などからの軍事支援が続くなかでも汚職の問題が次々に明らかになりました。

ことし1月には、大統領府のティモシェンコ副長官など汚職の疑惑やスキャンダルが指摘されていた政府の要人が相次いで解任されました。

(中略)
欧米諸国 汚職対策の強化を求める
こうした事態を受けてウクライナへの軍事支援を行っている欧米諸国は、ゼレンスキー政権に対して汚職対策の強化を求めています。

(中略)
ウクライナ政府への信頼度が大幅低下 調査会社
こうした中、ウクライナの調査会社、キーウ国際社会学研究所が先月31日に発表した世論調査では、
▼ゼレンスキー大統領を信頼していると回答した人は76%で、去年5月の91%から下落したほか、
▼ウクライナ政府への信頼度は39%と、同じく74%から大幅に低下したことがわかり、相次ぐ汚職問題の発覚などが影響しているという見方も出ています。

また、ことし9月下旬から先月中旬にかけて行った世論調査で、ロシアとの戦い以外で何が問題か尋ねたところ「汚職」を挙げた人が63%と最も多くなりました。

さらに、別のシンクタンクがことし7月から8月にかけて行った世論調査では、回答した人の78%が「戦時下の政権や軍部の汚職の直接的な責任は大統領にある」と回答しました。

シンクタンクの責任者は地元メディアに対して「この数字は警告であると同時に『汚職対策をやれば支える』という励ましでもある」とコメントしていて、ゼレンスキー大統領にとって汚職との戦いは喫緊の課題となっています。

(中略)
【記者解説】首都・キーウの横川浩士記者
ゼレンスキー大統領と軍との不協和音や国民の不信感の高まり、戦況に影響はあるのか?

(横川記者)
現時点では直接的な影響はないとみられる。ただ、大統領と軍の隙間にロシア側がつけ込み、揺さぶりをかけようとする動きも見られる。

さらにただでさえウクライナへの支援疲れが指摘されるなかで汚職がはびこったままだと欧米からの支援の継続にも影響しかねない。

再び求心力を高めるために何が必要か?

(横川記者)
汚職対策で成果をあげることが極めて重要。各国からの信頼を取り戻し、必要な兵器の供与や兵士の訓練を進め戦況を好転させていく、そんな機運を高めていくことが大事だ。

信頼度が低下しているとのことだが、国民はついて行く?

(横川記者)
国民は、ウクライナ国内の結束の乱れは、ロシアを利することになると分かっている。政権にとっては辛口の調査結果を出しているシンクタンクも「改善策を進めよ、という励ましでもある」とコメントしている。

ロシアに勝利して戦争を終わらせるーウクライナの人たちの思いが揺らぐことはない。
こうして文字に起こされたものをじっくり読解すると、理屈として筋が通っておらず印象操作の類であることがよくわかります

英『エコノミスト』誌が報じたザルジニー・ウクライナ軍総司令官へのインタビュー記事、ホレンコ・ウクライナ軍前司令官の「報道で解任されたことを知った」発言に加え、2万人を超えるウクライナ国民が兵役逃れのために国を脱出したという英BBCの報道や、政府への信頼がが急落しているというキーウ国際社会学研究所が行った世論調査結果といった動かし難い事実・データを取り上げておきながら「「国民は、ウクライナ国内の結束の乱れは、ロシアを利することになると分かっている。政権にとっては辛口の調査結果を出しているシンクタンクも「改善策を進めよ、という励ましでもある」とコメントしている。ロシアに勝利して戦争を終わらせるーウクライナの人たちの思いが揺らぐことはない」などと総括するNHK。いったいあれらの事実やデータからどうやって、このような結論を導き出すことができるのか・・・まったく筋が通っていません

情報が非常に多く詰め込まれている記事ですが「ニュース7」ではこれが僅か5分程度に押し込められていたので、少なくない視聴者は、特集終盤には冒頭の内容が頭から抜けてしまい、最後の「ロシアに勝利して戦争を終わらせるーウクライナの人たちの思いが揺らぐことはない」などと根拠もなく断言する部分だけが印象に残ってしまったのではないでしょうか? これも一つのプロパガンダの手口です。

■英『エコノミスト』誌インタビュー記事の後追い軌道修正?
なぜ、ここにきてNHKは逆張り記事を、英『エコノミスト』誌の配信からかなり時間が経ってから繰り出してきたのでしょうか? いくつか可能性が考えられるでしょう。

まず、英『エコノミスト』誌のインタビュー記事の反響が予想外の方向に向かってしまったので、それを修正するという意図です。これならば、配信からかなり時間が経ってから逆張り記事を用意した時系列が説明できます。しかし、仮に後追い軌道修正の必要があるとすると、ほかでもない英『エコノミスト』誌自身あるいは米欧メディアがまず火消しに奔走するはずなので、NHKは外電のコタツ記事を報じるだけで足りるはず。わざわざ独自に逆張り記事を用意する必要はありません。

英『エコノミスト』誌のインタビュー記事及びそこから生じる印象を打ち消すような報道は、米欧の主要メディアをすべてチェックしたわけではありませんが、私は目にしていません。英『エコノミスト』誌のインタビュー記事の反響は、予想外ではなかったということです。となると、今般の逆張り記事はNHKが独自の判断で用意したものであると言えます。

■米欧諸国に蔓延る厭戦機運・停戦機運に対するNHKの抵抗?
次に考えられるのが、米欧諸国に蔓延る厭戦機運・停戦機運に対するNHKの抵抗という線です。米欧諸国も日本も、ウクライナ侵攻を「ロシアによる侵略」と捉えている点には違いはありません。しかし、「確かにロシアの侵略ではあるが、ウクライナが自力で侵略者を放逐することができないだから、現状での停戦でもしょうがないんじゃないか」、つまり、「自力で何ともならないなら、ウクライナはもう諦めろ」という突き放した意見が最近の米欧諸国の世論において、ますます力をつけつつあるように見受けられます。

これに対して日本世論は、当ブログでも取り上げてきたとおり、開戦当初から「侵略を始めたロシアが悪いんだ! なぜ被害者であるウクライナから停戦を申し入れなければならないんだ! ウクライナは一寸足りとも領土を妥協するべきではなく、ロシアが音を上げるまで徹底的に戦うべきだ!」という意見で凝り固まっています。被害を最小限に抑える問題よりも「善悪」の問題が優先されているわけです。米欧流の「自力で何ともならないなら、ウクライナはもう諦めろ」は、鈴木宗男参議院議員が同じようなことを何度か口にして激しく叩かれてきましたが、日本ではとても認める訳にいかないロジックなので、逆張り記事を拵えたものと考えられます。

■米欧メディアにハシゴを外されたNHKが自己弁護?
もう一つ考えられるのは、いままで愚直に「国際社会が結束してロシアの侵略に対抗している」という米欧諸国陣営のコンセンサスに則って戦時プロパガンダを展開してきたのに、盟友だったはずの米欧メディアにハシゴを外されたNHKが自己弁護を展開しているという線です。

日本のマスコミ関係者は、自分自身に対する批判にとにかく弱く、少しでも矛先が向こうものならば激しく抵抗するものです。たとえばいま、スケートの羽生結弦選手の離婚について、誹謗中傷やストーカー行為や許可のない取材・報道があったと当事者から声が上がっていますが、マスコミ各社が総力を挙げて「自分たちのせいじゃない」「羽生選手に覚悟がなかっただけだ」などと責任回避の自己弁護を激しく展開しています(本稿はウクライナ情勢に関する記事なので、羽生選手の件については別稿で取り上げたいと思います)。

当ブログで繰り返し取り上げてきたとおり、NHKは戦時プロパガンダの展開にかなり力を入れてきました。「ゼレンスキー大統領を中心として挙国一致・全国民が一丸となって侵略者と戦うウクライナ」像を作り上げたり、その実態は米欧諸国でしかないのに「国際社会が結束してロシアの侵略に対抗している」などと構図化したりして報じてきました。英『エコノミスト』誌及び米『タイム』誌の報道は、NHKがこれまで積み上げてきた情勢認識を根底から覆すものです。今まで報じてきたこととあまりにも異なるこれらの報道が伝える事実は、NHKのマスコミとしての信頼性を下げるには十分過ぎるもの。NHKとしては何らかの言い訳を展開せずには居られなかったという可能性があります。

米欧諸国は急に方向転換したわけではありません。徐々にウクライナ支援の旗色は悪くなっていました。そうした風向きの変化を敏感にキャッチして徐々に報道内容を変化させてきていれば、ここにきて急に慌てることはなかったでしょう。しかし、前述のとおり開戦以来「侵略を始めたロシアが悪いんだ! なぜ被害者であるウクライナから停戦を申し入れなければならないんだ! ウクライナは一寸足りとも領土を妥協するべきではなく、ロシアが音を上げるまで徹底的に戦うべきだ!」という意見で凝り固まっていたニッポン。とても現実に即して報道内容を調整することはできなかったでしょう。

深まる現実との乖離がついに誤魔化し切れなくなったので、もはや論理無視の強引な印象操作で乗り切ろうとしているのが、本件記事であると考えられるのです。

■総括
いずれにせよ、上掲記事のロジックは破綻しています。まったく筋が通っていません。それでもあのように報じてしまったNHK。報じるしかなかったというべきでしょうか。袋小路に追い詰められています
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2023年11月24日

独自・固有の技術を基本にして人工衛星を軌道投入した共和国、本当に「寝耳に水」だった可能性があるニッポン

https://news.yahoo.co.jp/articles/c774f77633fe787e09fae083067e080931877b31
韓国、北朝鮮衛星は「成功」 ロシア技術支援背景と分析
11/23(木) 17:38配信

(中略)
 国情院は金正恩朝鮮労働党総書記が9月にロシアを訪問した際、プーチン大統領がロケット技術を支援する考えを表明したと指摘。北朝鮮が首脳会談後、失敗した過去2回の打ち上げに関するデータをロシアに渡し、分析結果を受け取った状況を確認したという。
ロシアの技術的助言があったとしても、元帥様の訪露は9月。それからまだわずかに2か月程度。となれば、チョルリマ1型衛星運搬ロケットは共和国独自・固有の技術でほぼ完成していたとみなすべきでしょう。

ロシアロシアと強調する韓「国」。共和国が独自・固有の技術で人工衛星を軌道投入したという事実のインパクト薄めたいのでしょうか?

https://news.yahoo.co.jp/articles/ff4211d0c98e089836c46b9ae1d5ca74fce316ba
松野長官、北朝鮮の衛星打ち上げ「成功」を疑問視
11/22(水) 12:08配信

産経新聞

松野博一官房長官は22日の記者会見で、北朝鮮の朝鮮中央通信が軍事偵察衛星「万里鏡1号」を打ち上げ、成功したと報じたことについて「地球周回軌道への衛星の投入は確認されていない」と北朝鮮側の発表を疑問視した。衛星打ち上げを失敗と認識しているかどうかについては「分析中だ」と述べるにとどめた。

(以下略)
これ、いったい何だったんでしょう?

https://news.yahoo.co.jp/articles/b27d11e7595e3738821204a9aa9f6c37e26cbca5
「寝耳に水」「なぜ早めた」 北朝鮮の「衛星」発射、戸惑う自衛隊
11/22(水) 9:45配信
毎日新聞

 北朝鮮が21日夜に「人工衛星」を発射し、東京・市ケ谷の防衛省では自衛隊員が対応に追われた。通告期間よりも前の発射という予想外の行動に「何が起きたのか」「極めて異例で寝耳に水」などと驚きや戸惑いの声が上がった。

(中略)
 一報を受けて駆けつけた自衛隊幹部は「通告まで時間があったのでゆっくり構えていた。衛星でない別の弾道ミサイルの発射かと思った」と驚きを隠さない。「北朝鮮はあくまで衛星の発射だと主張し、国際社会のルールに沿って発射期間を通告してきた。国際的な信用を落としてまで、なぜ発射を早めたのか」と首をかしげた。
(中略)
 ある制服組は「3回連続の失敗は北朝鮮の指導者のメンツがつぶれてしまう。有言実行に向け、準備に時間をかけて、ロシアから技術支援を受けた可能性もある」と推測する。気象条件を考慮して前倒ししたとする見方もあるが、「発射の通告期間は長く、気象条件が良い日取りを選べば済むはずだ」と述べた。【松浦吉剛】
「寝耳に水」ってあんた・・・もちろん、防衛省・自衛隊の情報分析に関する実力を隠すために敢えて惚けている可能性はゼロではありません。「能ある鷹は爪を隠す」というものです。しかし、いくら何でも「寝耳に水」は演出が過ぎるでしょう。あまりにもアホを演じすぎると仮想敵国に「日本はチョロい」と誤解せしめ、いらぬ軍事的挑発、最悪の場合は軍事侵攻を招きかねません。たとえばロシアはウクライナを甘く見過ぎた結果、「数日でカタが付く」と誤信して全面侵攻を決断してしまいました。その結果は周知のとおり。果てしない消耗戦の泥沼に腰まで浸かっています。

ロシア・ウクライナ戦争を巡る渡部悦和氏や西村金一氏といった自衛隊OBらの「分析」を見るに、本件についても本気で「寝耳に水」と思っている可能性が否定できません国民に台湾・沖縄有事を念頭に「戦う覚悟」を要求しておいて、自分たちの警戒不足・能力不足について「寝耳に水」は酷過ぎるでしょう。
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2023年11月21日

ババ抜きジャパン

11月13日づけ「特筆すべきウクライナ情勢報道の風向き変化について」で私は、昨今の「今日のウクライナ情勢は明日の台湾・沖縄有事」というプロパガンダの展開について、「ここ最近、損失や犠牲についても一定程度注目しつつ「それでも戦う」というプロパガンダが展開されるようになってき」たとしつつ、「戦時プロパガンダが強度と効果において新たな段階に入った」とし、その論拠として8月24日放送のNHK『おはよう日本』の特集について言及しました。

ロシアと戦うウクライナ軍の女性兵士、オレーナ・イワネンコさん(42歳)を取り上げた当該特集は、上掲記事でも言及したとおり、冒頭から「私たち兵士は、戦場で傷を負います。戦場から帰ってきた時、さまざまな困難に直面することがありますが、それが普通のことであると、戦場に行く兵士に教えてほしい」などと戦争の現実を率直に認め、「地下鉄に向かう時に、仲間の『アラスカ』(軍のコードネーム)が亡くなったというメッセージを受け取りました。彼のことは、笑顔でしか覚えていません」というシーンでは堪え切れず泣き出すところを放映するも、心理カウンセラーが「あなたは今、喪失に次ぐ喪失を経験しています。市民が暮らす環境に身を置くことが、そのつらさを、少しずつ和らげる機会になると思います」と勧めたのに対して、「キーウは、もう自分がいるべき街ではない。戦場の仲間のもとに戻りたい」としつつ「私は2022年2月24日までは、自分の世界を生きてきました。ドンバスなど東部で起きていた紛争には関心がありませんでした。しかし、いまは、家、家族、自分自身、都市を守る。そして、ウクライナを守らなければならない時が来たのです」「力によってのみ、敵を私たちの土地から追い出すことができるのです」という決意表明で終えるという構成を組みました。損失や犠牲についても一定程度注目しつつ「それでも戦う」という構成は、勇ましい官許・公式回顧録からの引用で番組の大半を構成した昨年末放送のNHK総合「映像の世紀 バタフライエフェクト」の「戦場の女たち」とは全く異なる趣きの戦時プロパガンダのニュー・バージョンであるという他ありません。

あの放送から約3か月。去る11月16日のNHK『おはよう日本』は、またしてもオレーナ・イワネンコさんについて取り上げました。今度は「娘が戦場へ 帰りを待つ家族の思い」というタイトルで、朝7時17分から7が25分にかけて、オレーナさんへの父母へのインタビューを特集化しました。いまだWEB記事になっていないのですが、今回は、11月13日づけ当ブログ記事の続きとして、当該特集のプロパガンダ性について取り上げたいと思います。

特集は、以前にもオレーナ・イワネンコさんについて番組が取り上げていることに言及したうえで「今回、オレーナさんの両親が今の思いを話してくれました」「祖国のために戦地へ向かう兵士たち。その家族は複雑な思いを抱えながら帰りをまっています」という切り出しで始まりました。今回は、銃後にスポットライトを当てたプロパガンダであるわけです。

オレーナさんの人となりについて簡単に触れたのちに特集はイワネンコ夫妻(オレーナさんの父母)のインタビューを開始。母によると、オレーナさんは「私は決断したの、だから反対しないで 私のことを応援してほしい 私は前線に行きたい」といって入隊を志願したとのこと。父は「もちろんショックでしたが、予想外ではありませんでした 娘はいつも先頭に立つリーダー的な存在でしたから」と回顧しました。

祖国のために戦う娘を誇らしく思う一方、両親は複雑な思いも抱いています」というアナウンスに続いて引き続きイワネンコ夫妻のインタビューが続きました。父は「娘が戦場にいっていることは、気が重いことです」と言明。「両親は二度と戦場に戻ってほしくないと伝えましたが、仲間とともに国のために戦いたいと娘は戦場に戻っていきました」というアナウンスを挟んで父の「望んでいることではありませんが、誰かがやらなければいけないことなのです 彼女を応援するしかないのです これは彼女が決めたことですから」という発言を放映しました。

また、オレーナさんは描きかけ絵画を実家に残して出征したそうですが、このことについて取り上げた上で、「ママ、帰ってきたら絵を完成させるねと言ったんです この言葉で娘は生き残ることを約束してくれたのだと思います 前線に送るために娘を育てたわけではありません 少しでも早く戦争が終わってほしいと思っています」という母の言葉で特集は終わりました。

民放のニュース番組がエンタメ情報や行楽地情報を放映している裏で、朝から「娘が戦場へ」という特集を組む『おはよう日本』の視聴者たちの年齢層が見えてきます。上掲11月13日づけ記事でも述べたように、ウクライナでの戦争が期せずして長期化していることを受けて台湾・沖縄有事の長期化の可能性も考慮に入れる必要が出てきています。戦争が長期化するにつれて怪我をして戦線を離脱する人たちは、どうしても増えるものです。勇ましく景気のいいプロバガンダだけでは戦い切れないことが明らかになってきているのです。

8月24日の特集は、怪我から回復し次第再び戦地に送り込むための「仕組み」作りに取り組み始めることで、(自分自身は絶対に戦場に赴くことがない)麻生太郎氏が力説する「戦う覚悟」づくりにNHKが加担している証拠であると見なすことができたものですが、11月16日の特集は、鉄砲玉に仕立て上げられて死ぬ若人だけではなく、その親世代にも「戦う覚悟」を要求する戦時プロパガンダであるということができるでしょう。おそらくもうしばらくすると、今度は「銃後の配偶者、子ども」あたりにスポットライトを当てた非常に露骨なプロパガンダが展開されるものと思われます。

しかし、その効果のほどは疑わしいと言わざるを得ないでしょう。

いまウクライナでは、兵員ローテーションが上手く回っていないことに起因して、一部の兵士が戦場に出ずっぱりになっている一方で不正行為を含む徴兵忌避が横行することで国内に亀裂が走りつつあるところです(「戦場から戻すよう求め…ウクライナ各地で動員兵士の家族ら集会 複数メディア報じる」11/13(月) 18:44配信 日テレNEWS NNN)。このことが直ちにウクライナの戦争継続能力喪失に繋がるわけではないということは、上掲11月13日づけ記事でも述べましたが、ウクライナ国内の団結に亀裂が走りつつあることは隠しようのない事実であると言わざるを得ません。ロシアという歴史的宿敵を前に一致団結していたウクライナでさえ、開戦から1年半を過ぎればこうなってくるのです。

その点、我らがニッポンは、当ブログでも繰り返し指摘してきたとおり、社会意識のブルジョア「個人」主義化が非常に深刻化しており、共同体意識が形骸化しています。もちろん、「場の空気」が支配するお国柄なのでプロパガンダを強烈に展開すれば一定の規律にはなり得るでしょうが、あくまでも自己保身のための「空気を読む」行為にすぎず、その意味において「外から押し付けられた規律」であり「内心から湧き出るモチベーション」ではないので、他人様の目がないところでは直ちに弛緩するものと容易に想像できるものです。

「命を投げ出して国を守るのは想像できない」…平和祈念展示資料館で若者達が語った、あまりにリアルな「戦争への想い」」」(11/17(金) 7:03配信 現代ビジネス)という記事では、下記のとおり、なかなかリアルな声が取り上げられています。
「国」のために戦う難しさ
 ここで、私から質問させてもらいました。意図したわけではないのですが、結果的に若い人達に意地悪な問いになってしまったかもしれません。

 いまウクライナ戦争が起きていますね。前線で戦っているウクライナ人は、攻め込んできたロシアに負けてしまったら、自分はもうウクライナ人ではなくなる。だから、戦うのだ、と思っている人が多いのだと思います。アイデンティティのために戦っている。

 もし日本が外国から攻められても、同じ感覚を持つ人が多数派でしょうか。

 私の肌感覚では、じつはかなり多くの人の心のうちに、以下のようなホンネが隠れているように思うのです。

 〈占領軍に対して文句を言わない限り殺されはしないから、早々に両手をあげて降伏してしまっていい〉

 言いたいことは言えず、街中に監視カメラだらけ、あとからやってきた占領国人がなにもかも優遇され、日本人は人権が制限される。それでも、殺されはしないだろうと。こんな「卑怯」な早期降伏希望者が、口には出さないだけで、案外多いように思いますが、どうでしょうか。

 「まあ、そうですね、それは否定できないです」

 「(現状で)戦うのは、難しいと思います」

 「(そう内心思っている人は)多い」

 「多いし、これから多くなりそうな感じ」

 学生たちは、自分ごとととらえた上で、正直な気持ちを話してくれました。

 この漠然とした気分はどこから来るか。それは、自分や、家族の命を守りたい気持ちはイメージできても、「国を守る」、というときの「国」はイメージできない、というところからに思えます。

 私自身も感覚的にわかるところがあります。目の前に外国軍の兵士がいて、私の家族に銃をむけていて、私の手元にも銃があり、いま引き金を引かないと家族が殺される、という場面だったら迷いません。引き金を引くでしょう。このとき自分には間違いなく家族を守っている自覚があります。

 ではこのとき、「国」を守るために戦っているか? と問われたら、即答できません。答える前にまず、「国」とはなんぞや、が心に浮かんできてしまいます。
自分や、家族の命を守りたい気持ちはイメージできても、「国を守る」、というときの「国」はイメージできない」――無理もないことです。そもそも、ブルジョア「個人」主義の立場においては「「国を守る」、というときの「国」」なるものは、単なる想像上の産物でしかないでしょう。

ウクライナの社会意識について私は論ずるほどの資料を持ち合わせていませんが、ウクライナでさえ兵役の在り方について社会的亀裂が走っているところ、我らがブルジョア「個人」主義社会たるニッポン社会が、ウクライナ以上の団結を示し得る可能性は非常に乏しいのではないでしょうか?

『おはよう日本』では、オレーナさんの父の「望んでいることではありませんが、誰かがやらなければいけないことなのです 彼女を応援するしかないのです これは彼女が決めたことですから」という発言をクライマックスに持ってくることで、日本人にもこのような「戦う覚悟」を持つように暗に要求しましたが、我らがニッポン社会では「『誰か』がやらなければいけない? じゃあ『誰か』がやってくれ。私はお断りだ」といった具合に「ババ抜き」が展開される予感がします(兵役逃れが横行している汚職大国ウクライナ以上にニッポンの兵役逃れは醜いものになりそう・・・客観的根拠はないものの、そんな直感的な予感がします・・・)。

自民党の「保守」政治家連中は、この国における共同体意識の低下・瓦解を、たとえば日教組(日本教職員組合)の「権利偏重の偏向教育」のせいだと主張します。しかし、この国で現実的に起こっていたことは、まさにブルジョア「個人」主義化というべきものであり、これは自民党の支持基盤であるプチ・ブルジョア分子の思考回路そのものであります。つまり、この国における共同体意識の低下・瓦解は、自民党が推進してきたものなのです。「今日のウクライナ情勢は明日の台湾・沖縄有事」なるスローガンを掲げて必死に「戦う覚悟」の醸成に尽力する自民党。自ら堀った墓穴を必死に埋め戻している構図です。間に合うのかな?
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2023年11月16日

労働者同士が互いに搾取し合っている末期症状

https://mainichi.jp/articles/20231115/ddm/005/070/102000c
社説
技能実習に代わる制度 権利守る仕組みは十分か
毎日新聞 2023/11/15 東京朝刊

 外国人にも、労働者としての権利を保障する仕組みを整えなければならない。

 技能実習に代わる受け入れ制度の創設に向け、政府の有識者会議の議論が大詰めを迎えている。

 最終報告書のたたき台では「人材確保」が目的に明記された。即戦力の外国人労働者が得られる在留資格「特定技能1号」の水準に達するよう、3年間、就労を通じて育成する制度に改める方向だ。

 技能実習制度は、日本で技能を身につけ、帰国後に生かしてもらう「国際貢献」が建前だが、低賃金や長時間労働、劣悪な職場環境といった人権侵害を生んできた。

 特に問題なのが、転職が原則として認められないことだ。過酷な環境でも我慢するしかない。耐えきれずに失踪する人が後を絶たず、昨年は9006人に上った。

(中略)
 しかし、転職は労働者の権利である。働き続けてもらいたいのであれば、待遇や労働環境の向上に取り組むのが筋だ。
(中略)
 日本社会は、外国人労働者の存在がなければ成り立たなくなっている。雇用の調整弁として扱うような政策とは決別する時だ。
この社説で決定的に欠落していることは、マルクスが『資本論』の序言で言明した「資本家も競争の強制法則に晒されている」という事実であり、そしてそうであるがゆえに、「消費者も労働者の搾取に加担している」という現実に言及しておらず、さらに、根本的には緊縮財政主義の問題に行きつくという点を指摘できていない中途半端な仕上がりに終わっています。

働き続けてもらいたいのであれば、待遇や労働環境の向上に取り組むのが筋だ」というのは正しい指摘ではありますが、しかし、待遇や労働環境の向上に取り組むための原資の問題を問わねばなりません。

従来、労働者の搾取にかかる問題は、企業の営利主義動機が元凶とされてきました。要するに、儲け主義のシワ寄せが無産階級としての労働者に被せられているという指摘です。もちろん、こんにちにおいてもこの構図は根本的には変わってはいません。しかし、昨今の企業は「濡れ手に粟」というほど儲けているわけではありません。

いま問わねばならないのは、原材料・エネルギー価格が高騰しているにも関わらず財・サービスの小売価格がほとんど変化していないことであります。要するに、労働者の搾取しているのは企業だけではなく、消費者も労働者の搾取に加担しているわけです。

消費者にも言い分があるのは分かります。「賃金が上がらないのだから安い商品を求めるのは当然じゃないか」と。ごもっともです。現状はまさに負のスパイラルに落ち込んでいると言えます。本来、こういうときのために財政出動と、それを支えるマクロ経済学理論があるはずなのですが、緊縮財政主義が支配する日本においては打開の糸口さえも見出し難い状態が続いています

労働者は同時に消費者でもあります。消費者も労働者の搾取に加担しているということは、すなわち、労働者同士が互いに搾取し合っているということに他なりません。食うか食われるか、もはや末期症状という他ありません。

関連記事:チュチェ111(2022)年10月1日づけ「消費者がアーティストを搾取し芸術界に株式会社形態が侵食する反面、分配をめぐる自然発生的な問題提起が上がり初期協同社会を構想するにあたって人類史的な意義を持つ労働者協同組合が歴史的な日を迎えている・・・時代は着実に前進している
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2023年11月13日

特筆すべきウクライナ情勢報道の風向き変化について

https://news.yahoo.co.jp/articles/f08588df52d6dd7bcc106a4cc27a27393d45b9c3
ゼレンスキー政権内不和か 米誌タイム報道、波紋広がる
11/3(金) 18:31配信
共同通信

 【キーウ共同】ウクライナのゼレンスキー大統領が対ロシア戦勝利に固執し、新たな戦略や方向性を打ち出すのが難しくなっているとの匿名の政権高官発言を米誌タイムが報じ、波紋を広げている。侵攻が長期化し、国際社会の支援継続が不透明さを増す中、政権内部の不和を示唆する内容。側近は火消しや発言者捜しに躍起になっている。

(中略)
 ゼレンスキー氏は「私ほど勝利を信じている人間は誰もいない」と訴えたが、側近の一人は「大統領の頑固さが、戦略や方向性を示そうとする政権の努力に水を差している」と指摘。全土奪還にこだわるゼレンスキー氏に早期の停戦交渉入りを持ちかけることはタブー視されているという。

 また、ある高官は、侵攻当初に作戦会議で冗談を飛ばし周囲を和ませていたゼレンスキー氏が、最近は報告を聞き命令を出すと、すぐ退室するようになったと明かした。
https://news.yahoo.co.jp/articles/cb34fe3f2a35b49ce9a5cd28f9d618cac6343f78
戦況は膠着、長期の消耗戦に突入 ウクライナ軍総司令官
11/5(日) 14:51配信
CNN.co.jp

(CNN) ウクライナ軍のザルジニー総司令官は5日までに、国内の戦況は膠着(こうちゃく)状態にあり、ロシアに有利な方向へ傾く長期の消耗戦の段階に入ったとの判断を示した。

英誌「エコノミスト」への長めの寄稿文や同誌との会見で述べた。この中で「第1次世界大戦がそうだったように、技術的な進歩の影響で我々は手詰まり状態に陥っている」と説明。「すごい打開策が出てくる可能性は非常に少ない」と予想し、代わりに大きな損失と破壊が相互に生じる均衡状態が続くだろうとした。
https://news.yahoo.co.jp/articles/93bd6976648e21337658968ab454450d08640bab
ゼレンスキー大統領と軍部で溝か 反撃が期待通り進まず
11/6(月) 22:34配信
テレビ朝日系(ANN)

ウクライナによるロシアへの反撃が思うように進まないなか、ゼレンスキー大統領と軍部の間で溝が生じていると指摘されています。

(中略)
 また、ゼレンスキー大統領は3日、特殊作戦軍の新司令官を交代させましたが、ザルジニー総司令官に知らせていなかったと報じられていて、ゼレンスキー大統領と軍部の間で溝が生じている可能性があります。

 ウクライナ軍のザルジニー総司令官は1日、「エコノミスト」のインタビューで、「反撃は期待通りに進まず膠着(こうちゃく)状態に陥っている」などと述べました。
■特筆すべき風向きの変化
これら報道については、「いつ報じるのかな、そもそも報じるのかな」と思いつつ、報じられるタイミングとの関係を踏まえつつ待っていました。様子見のために少し待機した形跡がありますが、タイム誌報道とエコノミスト誌報道が日本メディアで報じられるようになったのは特筆すべきことです。

なぜならば、米欧諸国のメディアは、たとえばノルドストリーム爆破事件の実行犯報道で見られたように、戦時下においてもジャーナリズムが息づいています。これに対して日本メディアは、たとえば昨年4月10日づけ「TBSのジャーナリズムは今もまだ死んだまま:「ウクライナ国営放送日本語版」に成り下がったTBS『報道特集』と金平茂紀氏」で取り上げたTBSの報道や、マリウポリ陥落2日前まで、些細な局地的前進を針小棒大に「ウクライナ軍の反転攻勢が始まった!」と騒ぎ立てたNHKの報道が典型的だったように、ジャーナリズムを投げ捨てて戦時プロパガンダの伝動ベルトに成り下がっています

そんな日本メディアが「大統領の頑固さが、戦略や方向性を示そうとする政権の努力に水を差している」や「ロシアに有利な方向へ傾く長期の消耗戦の段階に入ったとの判断を示した」「ゼレンスキー大統領と軍部の間で溝が生じている」といった内容を報じたわけです。「戦時プロパガンダの伝動ベルト」たる日本メディアさえもがウクライナにとって不利な状況を報じるに至っているわけです。

※個人ブログ「航空万能論GF」は、これら報道について、ほとんど即座に日本語で要旨をまとめた記事を公開されています。とても参考になるのでご紹介します。
2023.10.31「米タイム誌、大統領の頑固さがウクライナの柔軟性や選択肢を狭めている
2023.11.2「ザルジニー総司令官が反攻作戦の評価に言及、私が間違っていた
2023.11.5「ゼレンスキー大統領と軍の不協和音、ザルジニー総司令官に知らせず司令官交代

■米欧諸国がウクライナに停戦を促し始めたことが背景
案の定、米欧諸国がウクライナに停戦を促し始めたことがタイミング的に背景としてあるようで・・・
https://news.yahoo.co.jp/articles/5ab3ac1ec525a7f580e7dc27fd4914efacddf6c1
ウクライナ反攻から5カ月 戦局膠着、水面下で停戦案も?
11/5(日) 19:18配信
産経新聞

ウクライナのゼレンスキー大統領がロシア軍に対する反攻の開始を認めてから間もなく5カ月となる。ウクライナ軍はこの間、最前線の南部と東部で限定的に前進したものの、大規模な領土の奪還には至っていない。戦局が膠着(こうちゃく)の度を増し、さらに中東情勢が米国のウクライナ支援に影響する可能性もある中、欧米諸国内でウクライナに停戦を促す動きが出始めたとも伝えられている。

ゼレンスキー氏が反攻開始を認めたのは6月10日。反攻の軸は大きく南部ザポロジエ州方面と東部ドネツク州方面に分けられた。

南部での反攻でウクライナ軍は、露軍の支配下にあるアゾフ海沿岸の「陸の回廊」を分断して露軍の補給路を断ち、南部一帯の奪還につなげる戦略を描いた。ウクライナ軍は8月、ザポロジエ州ロボティネを奪還。ただその後は次の奪還目標である小都市トクマク方面に前進できていない。

ウクライナ軍は10月、南部ヘルソン州でドニエプル川渡河作戦を行い、露軍支配下にある同川東岸地域に拠点を確保。ザポロジエ州とは別の南進ルートを確立する狙いとみられる。ただ同川東岸に進出しているウクライナ軍部隊は小規模だ。

東部ドネツク州バフムト周辺ではウクライナ軍が一定の領土を奪還した。ただ露軍は秋ごろからドネツク州アブデーフカやリマン、ハリコフ州クピャンスク周辺などで攻勢を強化。相当の損害を出しつつも局所的に前進しているもようだ。

(中略)
ウクライナ軍が近く反攻の成果を上げられる可能性は低い。要因の一つは軍の損耗だ。米誌タイム(電子版)は10月30日、匿名のウクライナ高官らの話として、現場部隊が人員や武器・弾薬不足を理由に前進命令を拒否していると報道。ウクライナ兵の平均年齢が43歳まで上昇しているとも伝えた。「冬の寒さは軍の活動を困難にする。来春まで前線を固着させるだろう」とも指摘した。

さらに、イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの交戦を受け、米国によるウクライナ支援の縮小が現実味を帯び始めた。欧州連合(EU)でもハンガリーやスロバキアが支援に難色を示し、欧米側の支援がスムーズに続くかは見通せない。

これらを背景に、米NBCニュースは今月4日、複数の米当局者らの話として、欧米側がウクライナに停戦を促し始めたと報道。ウクライナがロシアに一定の譲歩をする代わりに北大西洋条約機構(NATO)がウクライナの安全を保障する案が出ているとした。

ただゼレンスキー氏は従来、停戦はロシアによる占領地支配の既成事実化と将来の再侵略を招くとして交渉を否定。停戦に向けた動きが近く本格化するかは未知数だ。
アメリカ様の停戦意図に沿った報道を展開しているというわけです。

日本はアメリカの属国なので、日本の視点とアメリカの視点は基本的に一致しています(一致させられています)。それゆえ、国際情勢はアメリカの視点、つまりアメリカの利益から報じることが基本です。日本メディアが「ウクライナは不利な状況にある」などと報じるということは、アメリカの意思が停戦にほぼ固まってきたということなのです。アメリカとして意思を固めたからこそ、その意思を属国にも周知徹底させているわけです。

■もはやウクライナ情勢は「基本的に用済み」?
もちろん、日本はアメリカの属国であるとはいえ、日本にも独自の国益があります。昨今の中東情勢を巡っては、イスラエル全面支持の米欧諸国とは若干違った対応を日本は取っています。しかしながら、「ウクライナは不利な状況にある」ことを認める本件自体においては、米欧諸国の論調をほぼそのまま垂れ流しています。

「今日のウクライナ情勢は明日の台湾・沖縄有事」というスローガンの下、勇ましく景気のいいプロパガンダ報道であふれていた日本言論空間が手のひらを反すように論調を変化させたという事実からは、日本メディアにとって、もはやウクライナ情勢は「基本的に用済み」であり、それゆえに以前ほど徹底的に戦時プロパガンダを展開する必要はなくなったという見方もできるかもしれません。

「今日のウクライナ情勢は明日の台湾・沖縄有事」というスローガンはだいぶ定着してきたものと思われます。となれば、いよいよ本丸である台湾・沖縄有事そのものに注目が集まるように話題を転換して行かなければなりません。相対的にウクライナ情勢そのものの「重要性」は低下してくるので、縛りもゆるくなってくるものと思われます。むしろ、いつまでもウクライナ情勢にばかり国民の関心が留まり続けて、肝心かなめの台湾・沖縄有事に移行しないのは大問題でしょう。

TBS『報道特集』は、今年7月以降、にわかに「台湾有事」をクローズアップ。7月1日づけ「「ロシアを許せばウクライナの次は台湾」“台湾有事”に危機感を抱く台湾の人々の思いとは」及び同22日づけ「「台湾も沖縄も軍事的なコマ・・・」米中対立の最前線、二つの島から見た“台湾有事”」は、昨年4月10日づけ「TBSのジャーナリズムは今もまだ死んだまま:「ウクライナ国営放送日本語版」に成り下がったTBS『報道特集』と金平茂紀氏」で取り上げた昨年3月12日放送の「日本人ジャーナリストが見た首都キエフの今」と似たような仕上がりになっています。

またこれもTBSですが、麻生太郎氏の「戦う覚悟」発言(8月8日)を受けて早くも8月12日の『新・情報7daysニュースキャスター』は「緊張高まる台湾を緊急取材 『戦う覚悟』の現場を見た」と称して特集を放映。高校の授業の一環として軍人指導下での軍事教練が行われている様子をはじめとして、民営の射撃訓練場で練習する民間人の姿を報じました。番組は「すべての人が戦う覚悟を持つわけではない」としたものの、「『戦う覚悟』の現場を見た」という特集名からも分かるとおり、主たるメッセージは「台湾市民は台湾有事の備えを進めている」にあるのは明白です。コメンテーターの三雲孝江氏は、軍事教練に参加した高校生が「平和がいい」と発言したことについて「救われる」としつつも「現実的な備えとしては(よいのではないか)」などと評価したものでした。

いわゆる反転攻勢が思ったほど進展していないだけでは最近のウクライナ情勢に関する報道の低調ぶりは説明できません。意図して扱いを小さくしていると見なすのが自然です。本丸である台湾・沖縄有事そのものに注目が集まるように話題を転換しつつあることも考慮する必要があるでしょう。米欧諸国が停戦に向けて大きく傾き始めたタイミングでその流れに乗っかることは、アメリカ様の利益であり、また、日本の支配層の利益でもあるのです。

■戦時プロパガンダが強度と効果において新たな段階に入った?
景気の良いプロパガンダばかりではなく割と現実に沿った報道も見られ始めたことは、戦時プロパガンダが強度と効果において新たな段階に入ったことを示しているとも考えられます。以前は非常に勇ましい反面、損失や犠牲などについては触れたがらない典型的なプロパガンダが展開されてきたものでしたが、ここ最近、損失や犠牲についても一定程度注目しつつ「それでも戦う」というプロパガンダが展開されるようになってきました。一層の警戒が必要になってくるものと考えます。

前者の典型例が昨年12月30日づけ「単なる女性自衛官募集番組(それも程度の低い)になり下がった「映像の世紀 バタフライエフェクト」の「戦場の女たち」」で取り上げたNHK総合「映像の世紀 バタフライエフェクト」の「戦場の女たち」でした。詳細は当該記事をご覧いただきたいのですが、要するに、著名な女性兵士らの勇ましい官許・公式回顧録からの引用で番組の大半が構成されており、彼女らの犠牲や苦悩、とりわけ戦後のPTSDや差別についてまったくと言ってよいほど取り上げられなかった典型的な戦意高揚番組でした。

これに対してNHKは、開戦1年半になる8月24日にロシアと戦うウクライナ軍の女性兵士について『おはよう日本』で特集し、同じネタを10月まで何度か使いまわしてきました(「ロシアと戦う女性兵士「塹壕で地獄を見た」それでも戦場に立つ」)。

当該特集は、冒頭から「私たち兵士は、戦場で傷を負います。戦場から帰ってきた時、さまざまな困難に直面することがありますが、それが普通のことであると、戦場に行く兵士に教えてほしい」などと戦争の現実を率直に認め、「地下鉄に向かう時に、仲間の『アラスカ』(軍のコードネーム)が亡くなったというメッセージを受け取りました。彼のことは、笑顔でしか覚えていません」というシーンでは堪え切れず泣き出すところを放映。「映像の世紀 バタフライエフェクト」の「戦場の女たち」とはまったく異なる編集方針です。

しかし、心理カウンセラーが「あなたは今、喪失に次ぐ喪失を経験しています。市民が暮らす環境に身を置くことが、そのつらさを、少しずつ和らげる機会になると思います」と勧めるも、「キーウは、もう自分がいるべき街ではない。戦場の仲間のもとに戻りたい」とし、「私は2022年2月24日までは、自分の世界を生きてきました。ドンバスなど東部で起きていた紛争には関心がありませんでした。しかし、いまは、家、家族、自分自身、都市を守る。そして、ウクライナを守らなければならない時が来たのです」「力によってのみ、敵を私たちの土地から追い出すことができるのです」という決意表明で終えるという構成を組みました。損失や犠牲についても一定程度注目しつつ「それでも戦う」という構成は、まちがいなく戦時プロパガンダですが、新たな形態であるといえます。

ちなみに、粗悪品が多く、かつ、男性用ばかりでサイズが合わないことも多々ある官給品では身を守れないので防弾チョッキを自腹で購入したそう。「かかった費用は日本円で10万円を超えていた」とのことですが、戦争前からヨーロッパではかなり貧しい方だったウクライナ(一人当たりのGDPは2020年時点において3700ドル程度)ではかなりの負担になったのではないでしょうか? わざわざこういうシーンを挿入してきたところにも、戦時プロパガンダとしてのメッセージを見出す必要があるでしょう。

ウクライナでの戦争が期せずして長期化していることを受けて、台湾・沖縄有事の長期化の可能性も考慮に入れる必要が出てきています。勇ましく景気のいいプロパガンダだけでは戦い切れないことが明らかになってきたのです。戦争が長期化するにつれて怪我をして戦線を離脱する人たちは、どうしても増えるものです。このNHKの特集は、そうした人たちを、怪我から回復し次第再び戦地に送り込むための「仕組み」作りに取り組み始めた証拠であると見なすことができるでしょう。

■御用学者たちの情勢分析の破綻
泥濘期が始まりました。今期のいわゆる反転攻勢は、いくら何でももう終わりです。御用学者たちの情勢分析を簡単に総括したいと思います。

今年に入ってから度々、取り沙汰されてきた「ウクライナ軍の本格的反転攻勢」談義。待てど暮らせど始まらないことに対して漏れ聞こえる不満の声に対して、ウクライナ当局及びそのパトロンである米欧諸国は、ギャラリーを飽きさせないためか大風呂敷を広げてきました。その結果、「国際社会」は昨夏のハルキウ攻勢を超えるような大戦果が挙がるものと期待を高めたものでした。

ついに6月、大方の予想よりもだいぶ遅く始まった攻勢は、これもまた大方の期待に反してまったく劇的な展開をみせませんでした。冷静に考えればロシアも相当念入りに準備してきたはずなので、これは至極当然のことなのですが、プロパガンダの自己中毒にかかったウクライナ当局及びそのパトロンである米欧諸国は事態の説明に苦慮する羽目に。たとえばゼレンスキー大統領は「ハリウッド映画とは違う」などと主張するのが精一杯(「ゼレンスキー氏「ハリウッド映画とは違う」…大規模な反転攻勢「望んでいたよりも遅い」」2023/06/22 00:14)でした。そんな風に期待感を膨らませたのは他でもない自分たち自身だというのに。

ようやく8月末になってザポリージャ州のロボティネという集落を奪還したときには大きなニュースになりました。「これより先は地雷原もそれほど分厚くはないので、攻勢スピードは上がるはず」と言われたものの、上掲サンケイ記事にもあるとおり、それ以降は前進できていないのが現実です。メリトポリどころかトクマクにも到達できていません。8月中旬には既に「メリトポリ奪還の公算小さい」という報道が出ていました(「ウクライナ軍、南東部の要衝メリトポリ奪還の公算小さい=米当局者」2023年8月19日)が、いまのところそのとおりになっています。

9月ごろには、最前線での停滞と反比例するかのようにドローン等によるロシア軍後方への、それこそハリウッド映画のような劇的な攻撃が盛んに報じられるようになりましたが、肝心かなめの占領地奪還はまったく進展せず。そして最近はそういった耳目を集める戦果さえも低調・散発的になりつつあります。むしろ、態勢を立て直したロシア軍の猛攻が報じられているところです。

※軍事素人の私ですが、こうして振り返ると、昨夏のハルキウ大攻勢が今、ウクライナ及び米欧諸国の足を大きく引っ張っているのではないかと思えてきます。あまりにも劇的な領土奪還は、それが新たな基準となってしまい今般の反転攻勢のハードルを著しく上げました。プロパガンダの自家中毒を自ら導いたわけです。また、ハルキウからのロシア軍の撤退は妙に迅速だったように見受けられましたが、いま振り返れば「損切りとして悪くはない決断」でした。ウクライナ軍にとっては攻めやすくロシア軍にとっては守りにくい地域から迅速に手を引いたことで、ロシア軍にとっては戦線整理・戦力再配置になったわけです。このとき引き揚げた部隊を再配置したことで、南部戦線に途方もなく分厚い多重の防衛線が敷かれることになったように思われます。

一般メディアは、反転攻勢の停滞に対して基本的に沈黙しています。

たとえば津屋尚・NHK解説委員は、昨年12月28日の「厳冬の戦い ウクライナが年明け大規模作戦か」以来、今年1月11日に「強まる欧米の軍事支援〜ウクライナ領土奪還の行方」、4月12日に「ウクライナ反転攻勢の大規模作戦へ」、5月16日に「ウクライナ 大規模反転攻勢へ」と期待を煽る解説を展開してきました。

津屋氏といえば、昨年12月31日づけ「10月末から12月末までの約2か月間のウクライナ情勢まとめ(1)」でも取り上げたとおり、非常に露骨なプロパガンダを展開する「解説委員」です。昨年10月19日づけ「追い詰められたロシア」において、ロシア軍は武器も弾薬も兵員も足りておらず、NATO関係者の言としつつも「戦力の立て直しは非常に困難で、ロシア軍は“組織的な戦闘”が難しくなっている」と演説を打ちましたが、現状はご存じのとおり

エストニア軍情報機関によると、ロシア軍は依然として戦車3000両、装甲兵員輸送車1万2000両を保有。まだまだ相当数残っています。1か月あたりの砲弾生産量は推定で150万発というので、これは桁違いの生産量です(「ロシア軍の戦車はどれだけ残ってる?ウクライナ侵攻前は約9000両も保有 現在は」11/10(金) 6:12配信 乗りものニュース)。戦車については、少し前にT-55やT-62を再稼働させたことで「次はT34か?」などと、だいぶバカにされたものでしたが、旧式戦車も束になれば意外とバカにならないようで戦線は崩壊していません。T-80の生産ラインの再構築も始まっている(「ロシア、T-80戦車の生産を再開か 「ゼロ」から新規に製造」2023.09.12)ようで、ただちに大量投入されることはないでしょうが不気味な動きが続いています。また、砲弾については、これとは別に400万発の在庫があるとのことです(「“ロシアに弾薬約400万発残っているか” エストニア軍トップ」2023年10月23日 18時23分)。

ドローンによる攻撃は、昨冬にも猛威を振るいましたが、いよいよロシア軍が主導権握る地域も出てきたようです(「ウクライナ優位揺らぐ無人機戦闘、ロシアが大量配備で主導権握る地域も」11/10(金) 9:04配信 ロイター)。

兵員については、「どこからか湧いて出てきているのか?」と思わずにはいられないくらい、ロシア兵は次から次に補充されています。むしろ、ウクライナ軍が男性総動員でも兵力不足で女性の動員拡大の方向に進みつつあるとのこと(「ウクライナ、軍の動員対象拡大 人員不足、女性医師も」2023/09/24)。マーク・ミリー米統合参謀本部前議長が9月10日に「戦闘に適した天候の期間は「約30〜45日」しか残っていない」と指摘した(「ウクライナ、東・南部で前進 反転攻勢「残り45日」か」2023年09月11日21時00分)のに対して、ブダノフ・ウクライナ国防省情報総局長が「大きな問題ではない。現在、主な戦闘は歩兵によって行われている。多数の無人機も使われている。戦車などを使う機会は減っている」と強弁した(「ウクライナ国防省の高官 “気象条件 大きな問題ではない”」2023年9月25日 18時38分)ものですが、いままで基本的に動員対象として計算されていなかった女性の動員を拡大せざるを得ないことと整合性が取れていません。虚勢を張らねばならないほどウクライナ軍は苦しい状態にあることが推察されます(ロシアも大変だと思いますよ、念のため)。

さらに特筆すべきは、「挙国一致で侵略者と戦うウクライナ国民」像の綻びとも取れるニュースが飛び込んできています
https://news.yahoo.co.jp/articles/d6c87d29d5f2bdb91df367e59f1273f86457dddd
戦場から戻すよう求め…ウクライナ各地で動員兵士の家族ら集会 複数メディア報じる
11/13(月) 18:44配信
日テレNEWS NNN

複数のウクライナメディアは12日、動員兵士の家族らが兵士を戦場から戻すよう求める集会がウクライナ各地で開かれたと報じました。

ウクライナのオンラインメディア「ストラナ」によりますと、ウクライナでは12日、動員された兵士の家族らが兵士の軍務を解くよう求める集会を各地で開きました。

ロシアからの攻撃を受けているオデーサなどでは、女性や子どもたちが小規模ながらデモ行進を行ったということです。

他のメディアも、首都キーウやジトーミル州でも集会が開かれたと報じ、別のメディアは、軍の元幹部へのインタビューを掲載して、「大多数の動員兵士が1年半以上にわたって戦闘任務に就いている。彼らを戻す仕組みがない」と制度の不備を指摘しました。

(以下略)
もちろん、このことを以って直ちにウクライナ国民の結束が崩壊するとは私も考えていません。しかし、日本メディアは同じような事態がロシア国内で起これば直ちに「ロシアで厭戦機運が高まっている! プーチンの終わりは近い!」と書き立ててきました本件は、日本メディアがせっせと作り上げてきたイメージを突き崩すには十分すぎる出来事です

つまり、津屋解説委員の「解説」は今日時点から振り返るに「すべて外している」のです。このことについて完全に頬かむりして「解説」を続けている彼のメンタルの強さは驚きを感じざるを得ません。今年も彼は懲りずに「解説」を続けてきましたが、いよいよ自己矛盾が極限に至ったことで解説できなくなってきたのでしょう。「ウクライナ 反転攻勢は成功するのか」を解説した6月19日以降しばらく沈黙し、ようやく「どうなるウクライナの反転攻勢 時間との闘い」と9月14日に反応を見せ、その後は今日にいたるまで再び沈黙しています。

思えば、高橋杉雄氏や兵頭慎治氏といった、精力的に解説を展開してきた御用学者(防衛省関係者を御用学者と呼ぶのは中傷でも何でもないはず)の解説をメディアで聞く機会が減ってきたように思います。10月22日放送NHK「ニュース7」で兵頭慎治氏は、ウクライナ軍のドニプロ川渡河について解説しています(https://www.youtube.com/watch?v=z8DVwv4zMOA)が、正直これは非常に疑わしい話です。たとえば、スペイン語のミリタリーサイト≪Revista Ejércitos≫は、まったく無視しているわけではないが、注目しているとは言い難い言及にとどめています。「功を急ぐゼレンスキー大統領によるバフムト以来の政治的固執」の線さえも否定できないものとも考えられます。

なお、いまだに西村金一氏はネットニュース媒体で景気のいい「分析」を展開しています(「ウクライナ軍がドニエプル渡河作戦、成功すればアゾフ海到達へ」2023.10.31)が、元幹部自衛官がこんな調子って日本の国防は本当に大丈夫なのでしょうか・・・? 西村氏の情勢把握は、見たいものしか見えていないようです。

国民を兵士として戦地に送る「戦う覚悟」ばかり先行し、戦争指導の大前提である戦況分析という「戦う覚悟」がお話にならないレベルに留まっているように思えてなりません。

■総括
タイム誌報道とエコノミスト誌報道が日本メディアで報じられるようになったのは特筆すべきことです。日本はアメリカの属国なので、日本の視点とアメリカの視点は基本的に一致しています(一致させられています)。ジャーナリズムを投げ捨てて戦時プロパガンダの伝動ベルトに成り下がっている日本メディアまでもが「ウクライナは不利な状況にある」などと報じるということは、アメリカの意思が停戦にほぼ固まってきたということを示していると思われます。

また、日本メディアにとって、もはやウクライナ情勢は「基本的に用済み」であり、それゆえに以前ほど徹底的に戦時プロパガンダを展開する必要はなくなったという見方もできるかもしれません。「今日のウクライナ情勢は明日の台湾・沖縄有事」というスローガンはだいぶ定着してきたものと思われます。となれば、いよいよ本丸である台湾・沖縄有事そのものに注目が集まるように話題を転換して行かなければならないので、意図して扱いを小さくしていると見なすのが自然です。

さらに、景気の良いプロパガンダばかりではなく割と現実に沿った報道も見られ始めたことは、戦時プロパガンダが強度と効果において新たな段階に入ったことを示しているとも考えられます。ここ最近、損失や犠牲についても一定程度注目しつつ「それでも戦う」というプロパガンダが展開されるようになってきました。戦争が長期化するにつれて怪我をして戦線を離脱する人たちは、どうしても増えるものです。そうした人たちを、怪我から回復し次第再び戦地に送り込むための「仕組み」作りに取り組み始めた証拠であると見なすことができるでしょう。

御用学者たちの情勢分析の破綻がいよいよ顕著になってきました。国民を兵士として戦地に送る「戦う覚悟」ばかり先行し、戦争指導の大前提である戦況分析という「戦う覚悟」がお話にならないレベルに留まっているように思えてなりません。
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2023年11月07日

21世紀的なインターナショナリズムを構築する必要がある;ロシア十月社会主義大革命106周年

本日11月7日は、ロシア十月社会主義大革命から106年の日であります。チュチェ思想派、主体的社会主義者としては、そのルーツにあるロシア十月社会主義大革命は歴史における画期的出来事であると位置づけるものです。

新型コロナウイルス禍は決してまだ終わってはいないのが事実ですが、しかし、経済活動をはじめとして徐々に復調の方向性にあることもまた事実です。劇的に縮小した経済活動は確実に拡大しています。近頃、「深刻な人手不足」というワードを耳にしない日はありません。

しかしここで非常に奇妙な事態が発生しています。「深刻な人手不足」だと言われているにも関わらず賃金がさして上がっていないのです。もちろん、非自発的失業が存在する現実世界では労働力需要の増大はまず非自発的失業者を吸収するので、(新古典派経済学の労働市場理論と異なり)経済活動の拡大が直ちに賃金が上昇するわけではないものの、「深刻な人手不足」と呼ばれるほどの重大事態であれば当然、賃金は大きく上昇していて然るべきであります。

その理由は、企業・資本が労働者を安く買い叩こうとしているに過ぎないためです。「良い品はそれなりの値段がする、よい仕事にはそれなりの報酬が要る」というのが世の理ですが、この期に及んで安い賃金で求人しているのだから「深刻な人手不足」になるのは当然のことです。

もちろん、マルクスが『資本論』の序文で述べたように、企業家・資本家も「競争の強制法則」に晒されている社会・経済的な被造物なので、安い賃金しか提示できない社会・経済的な構造問題にも目を向ける必要があるとは思います。問題は決して企業家・資本家のモラルの問題ではありません。しかしながら、日本の企業家・資本家、そしてその代理人たる日本の為政者たちは、目下の「深刻な人手不足」を「外国人材の積極活用」という形で乗り切ろうとしています。いくら「競争の強制法則」に晒されているとはいえ、このことは、まことに愚かしいことであると言わざるを得ません。

日本の企業家・資本家、そしてその代理人たる日本の為政者たちは、日本人労働者が敬遠する賃金や仕事内容でも外国人労働者なら応募して来、黙々と働くと考えているようです。しかし、外国人労働者はいわば「渡り鳥」のようなものであり、すこし条件が変われば直ぐに出国してしまうものです。彼らは日本に拘泥する必要などまったくありません。むしろ、その多くが日本語しか解さない日本人労働者の方が日本での働き口に拘泥する傾向があるでしょう。

また、そごう・西武労組がストライキを打ったことで日本社会は大騒ぎになるくらいに日本人は仲間同士で連帯したり己の権利を主張したりすることに慣れていませんが、外国人は必ずしもそうではありません

日本の労働者たちがいかに権利主張に慣れていないのかについては、たとえば先に自治労を脱退した愛知県の小牧市職員組合の例が事態を典型的に示していると考えます。
https://www.chunichi.co.jp/article/758578
自治労脱退の小牧市職が会見 県本部再任用役員の給与引き上げ根拠追及
2023年8月30日 05時15分 (8月30日 05時16分更新)

 小牧市職員組合(市職)が、再任用役員の給与引き上げに反発して自治体職員らでつくる「自治労愛知県本部」を脱退した問題で、市職側は29日、会見を開き、県本部に求めた給与引き上げの根拠資料の開示が回答期限の今月22日までになかったと明らかにした。

(中略)
 市職の青木清執行委員長は「原資の組合費は、元をたどれば公務員の給与であり、税金だ。不透明な使われ方をしていいのか」とし、今後も追及する姿勢を強調した。自治労の支援を受ける立憲民主党の愛知10区総支部長の藤原規真弁護士も会見に同席し、「選挙で応援はもらったが、給与引き上げにお手盛りの疑念があれば、市職の顧問弁護士として放置するわけにはいかない」と話した。
(以下略)
県本部が再任用職員の給与を引き上げたことに対して市職組が反発したことに起因する自治労脱退。確かに「給与引き上げにお手盛りの疑念があれば…放置するわけにはいかない」という指摘はまっとうなものです。独占と搾取を許さない主体的社会主義者として私は、たとえ民間企業といえども際限のない賃上げや役員報酬・株主配当の増額は容認できるものではありません。公務員の給与は尚更です。その意味で、小牧市職組の反発及び給与引き上げの根拠資料の開示要求は理解できるものです。

しかし、「原資の組合費は、元をたどれば公務員の給与であり、税金だ」というロジックは賛同できません。「原資の組合費は、元をたどれば公務員の給与」は分かりますが、「税金だ」は蛇足でしょう。「公務員の給与」になった時点でそれは公務員個人の財産になったのだから、その処分は当人の裁量であり税金かどうかは関係ありません。たまに「俺らの税金で飯くってるくせに偉そうなこと言うな!」というクレーマーが居、そうした主張を温床として今、維新が勢力を拡大していますが、市職組がクレーマーの論理に乗っかっているわけです。

扶桑社新書に『自治労の正体』という本があります(森口朗 著)。物置に仕舞い込んだので手元にはないのですが、たしか「公務員が有給休暇を使って組合活動をしているのは、国民の理解を得られないだろう」といった趣旨のくだりがありました。まったく失当な言い分です。有給休暇を何に使おうと当人の勝手であり、組合活動は違法行為でも反社会的行為でもない以上は、まったく何の問題もないからです。こういうことを言っているから組合を敵視するサンケイ系の自称「保守」はバカにされるんだよと思ったものですが、小牧市職組の上掲ロジックは、本来は当人の勝手であることに「公務員」という属性を引き合いに出してケチをつける点において、森口朗氏の組合敵視発言と大差ないものであると言わざるを得ません。

小牧市職組は自治労加盟時代から、公務員バッシングの世論にいささか阿る部分があったと言わざるを得ません。たとえば自治労自治研で小牧市職組は次のようなレポートを提出していました。
https://www.jichiro.gr.jp/jichiken_kako/report/rep_okinawa31/jichiken31/1/1_1_j_11/1_1_j_11.htm
市民に見える市職の活動
〜市民に必要とされる職員をめざし
  市民の望む職員をめざし
自治体改革(行財政改革)の前に組合改革を
 愛知県本部/小牧市職員組合

(中略)
 自治研を非難するつもりではないが、組合が地方自治を考える前に、組合のあり方をまず考え直す時期に来ているのではないだろうか。
 特殊勤務手当やわたりなどの過去の産物を死守することは、全く市民に理解されない。堂々と市民に説明できる手当や昇給制度などを労働の対価として受け取ればそれで十分ではないだろうか。
 小牧市職員組合(以下:市職)は、古い体質の労使交渉による賃金・労働条件の闘争は放棄した。しかし御用組合に成り下がったわけではない。
 市職は、独自の活動を実施し、当局側とあくまでも協調協議により、紳士的な合意に基づき賃金・労働条件を決定している。
 そして部課長会、課長補佐会、消防職員とも連携を取り、市民の目に見える活動を年間を通じて実施している。
 市民に必要とされる職員、市職こそが、今後、公務員が公務員として、生き残れる唯一の道と考える。

(中略)
 しかし、この成果にあぐらをかいていられるほど公務員にとって甘い時代ではない。
 委託化を初めとする合理化が進むなかで、当局側の提案を待つことなく、市職から委託を初めとする合理化推進に関する提案を打ち出し、市民が望む行政をめざし、協調協議を進めている。
 その際に、市職としての委託推進の大前提は二点のみの、@雇用の確保と質の更なる向上、A貴重な税財源の有効活用。これには過去からの働き方と考え方からの脱却が不可欠。
 現在学校給食について、2つの給食センターと単独で給食調理業務を行っている8つの学校がある。今年の夏からは1給食センターを委託。2008年夏には8単独調理校を統合し新設給食センターを建築し委託。栄養士によるチェックや統一仕入れなど給食の維持向上を条件に検討を進めている。
 さらに市職として、委託先の給食がこれまでの給食と質的に確保されているかどうか、業務がスタート後に試食会を実施し検証していきます。
 この給食センター委託に関し、組合的に最大の課題は調理員の雇用問題。  
 担当部局の教育委員会庶務課は人事課任せ。人事課は担当課の方向性を待って対応と、用地買収さらには建物建築のスケジュールは表に出されているが、雇用の問題は蚊帳の外の状態。市職から先に委託後の調理員の働く場所の確保を提案し調整している。
 具体策としては、現在保育園で正規調理員1人と臨時用務員1人体制の14園について、委託後、正規調理員2人の体制で行い、用務員の仕事も調理業務の合間を縫って実施していく方向。
 その準備段階として今年の夏休みの本務外勤務で、センター調理員を各3日間、保育園にて保育調理研修の実施を市職が提案し、人事課と教育委員会、児童課を市職がリードして、雇用の場の確保のためにプランを作成。
 保育園においては、今年秋に19番目の新設園を指定管理者に。市民の多様なニーズに対応すべく、延長保育の拡大、休日対応も検討中である。
 さらに、温水プールも指定管理者、図書館も受付業務を委託開始し、支所においても受付業務の委託の検討を開始した。
 委託を悪とする主張に市職は同調しない。質の低下が懸念されるのであれば、質の低下の原因を徹底的に当局側と検証し、問題点を解決した上で、質を維持しながら委託すれば何ら問題はない。今まで正規職員が携わっていたからの理由だけの保身は市民に一切通用しない。

(中略)
 また、行政のスリム化と同様に市職の体制のスリム化も必要と考える。
(中略)
 最後に、首長を初めとする各種選挙体制の強化も今後の公務員の存亡には不可欠と考える。
 特に首長選挙では、市職が連合愛知、民主党の先頭に立ち、選挙戦をたたかい抜いてきた。また、昨年の衆議院選挙においては、執行部を中心に精力的な支援体制を構築し、三選した前田衆議院議員においては、市職の准組織内と言っても過言でない関係を築けている。
 近隣の首長、市議会議員選挙においても、連合愛知の一員として、組織拡大が最大のテーマであることを充分理解し、積極的な支援活動を展開している。
 昨年の豊山町長選挙、清須市長選挙、今年に入ってからの北名古屋市長選挙並びに市議会議員選挙、清須市議会議員選挙、春日井市長選挙並びに市議会議員補欠選挙では、今後の自治労組織拡大の足がかりが構築できたと総括するとともに、今後、県本部と連携を密にし、積極的に組織拡大に取り組んでいきます。
 来年予定される県議選挙並びに市議会議員選挙においても、市職の意見反映できる議員の擁立と当選に向けての体制の強化を急がねばならない時期に来ている。
 小牧市職は、当局側をリードする市職をめざし、市民に理解され、市民の望む行政を追求して、独自のスタイルで進んでいきます。
自治研第31回全国集会はチュチェ95(2006)年10月だったので、自民党も民主党も挙って新自由主義路線を歩んでいた頃ですが、それにしても世論への阿りが強烈です。

雇用の確保と質の更なる向上」とは言ってはいるものの、「当局側の提案を待つことなく、市職から委託を初めとする合理化推進に関する提案を打ち出」す小牧市職組。「委託を悪とする主張に市職は同調しない。質の低下が懸念されるのであれば、質の低下の原因を徹底的に当局側と検証し、問題点を解決した上で、質を維持しながら委託すれば何ら問題はない」というくだりには、組合員・市職員の利益を見出すことはできません。公務員たるもの市民の利益を重視することは当然ですが、公務員もまた無産階級である以上、自らの労働力を切り売りすることで生活費を稼ぎだしているのだから、その限界費用(marginal cost)に見合う賃金(限界費用曲線は供給曲線とイコール)は必要不可欠です。それを自ら放棄する方向性を打ち出しているのが小牧市職組というわけです。近江商人「三方よし」の方向性を目指すべきところ、いくら時代背景がああだったとはいえ、失当なレベルで世論に阿っていたわけです。さすが商売人でない公務員。「限界費用」という単語は知らなくても商売人なら限界費用に見合う対価が必要だということは直感的に理解している事柄。所詮公務員、費用問題を本気で考えたことがないのでしょう。

挙句には「行政のスリム化と同様に市職の体制のスリム化も必要」と言ってのける始末。市民にとっては市職組の規模なんてまったくどうでもいいんですが・・・なんなら自分が住む自治体に職労があるか知らない市民も多いのでは? 維新のような周回遅れのロジックで自分で自分を追い込むだなんて、公務員って本当に世間知らずでズレており、かつ、自己犠牲を超えて自虐的な人種だなという感想を禁じ得ないものです。

そんな小牧市職組はついに次の衆院選では自民と維新の候補者を推薦する予定とのこと(「長年“非自民”の政党を支援…愛知県小牧市の職員組合 次期衆院選で自民と維新の現職議員の推薦方針を決定」(2023/05/24 11:39配信))。政策実現可能性の意味で自民党支持はまだ理解の余地がありますが、さしたる根拠もなく公務員を目の敵にする維新を市職組が支持するとは、錯乱状態なのかと疑わざるを得ません。しかし、いよいよコトはここにまで至っているわけです。

さすがに外国人労働者はここまで錯乱はしていないでしょう。日本人労働者は中途半端に為政者目線で物事を考えるので自己利益の主張を遠慮してしまいがちですが、世界の労働運動を見るに、日本人労働者のような発想をするのはむしろ少数派であると考えられます。「とりあえず主張しておく、落としどころは偉い人たちの交渉で落ち着くだろう」というのが世界のトレンドです。それゆえ、日本の労働市場に外国人労働者が大挙参入すれば、そのような労働運動に転換する可能性があります。

このように考えると、なぜ日本人労働者が敬遠する賃金や仕事内容でも外国人労働者なら応募して来、黙々と働くと日本の企業家・資本家、そしてその代理人たる日本の為政者想定しているのか、まったく理解に苦しむものです。

とはいえ、日本の企業家・資本家、そしてその代理人たる日本の為政者たちの外国人労働者に対する幻想・夢想は非常に大きく、おそらく今後、徐々に外国人労働者の受け入れが拡大してゆくものと思われます。日本の労働者階級は、この事態を想定して戦いを組んでゆく必要があると考えます。

外国人労働者が日本の労働市場に参入するということは、チュチェ111(2022)年6月28日づけ「技能実習制度問題を解決する道は「移民労働者としての受け入れ」ではなく「協同化」」でも論じたように、結局のところ労働供給を増やすことであり、マルクス経済学で言うところの産業予備軍を増やすことに他なりません。勤め先の数は変わらないのに働き手の数が増えれば供給過多になり労働力の単価は低下します。労働者の労働市場における価格交渉力は低下します。現況のままでの外国人労働者受け入れは、もともと弱い労働者階級の交渉力を更に低下させることにつながるでしょう。このことは、日本の労働者階級にとってはマイナス要素です。

他方、仲間同士の連帯意識や自己の権利を主張することについて日本人労働者よりは抵抗感が薄い外国人労働者が日本の労働市場に参入し、日本の労働者階級の構成要素として加わることは、労働運動にとっては決してマイナスではないと考えます。

ロシア十月社会主義大革命においては、『インターナショナル』が歌われ、「共産主義インターナショナル」(コミンテルン)が結成されるなど、インターナショナリズムが非常に盛んになりましたが、しかし、当時は現在ほど長距離移動が容易ではなかったので、当時のインターナショナリズムはあくまでも思想的なそれにとどまっていたものと考えます。「ロシアで革命が起こったらしいぞ、俺たちイギリス人/ドイツ人/フランス人/朝鮮人/日本人も新聞をよく読んで情勢を研究して頑張らないとな!」といったものだったと考えます。

しかし、長距離移動が容易になり現実に他国に出稼ぎに向かう人がロシア十月社会主義大革命の時代とは桁違いに多い現代では、異なる生育環境・文化的背景を持つ人たちが直接に交流する機会があるので、当時とはまた異なる形のインターナショナリズムの可能性があります。新聞や書籍というものは非常に勉強になるものではありますが、編集の過程で言語化しにくいニュアンスなど少なくない情報がカットされてしまうもの。これに対して生身の人間が直接的に交流することは、体験として人々の脳裏に直接的に訴えかけるものがあるのです。

新しい時代の特徴をよく掴んだ上で、現実に即した戦い方を組んでゆく必要があると考えます。特に、これから増える一方であろう外国人労働者との連帯、そして彼らとの協同化の道筋を探る必要があるでしょう。仲間同士の連帯意識が弱く自己の権利を主張することに慣れていない日本人労働者が外国人労働者の連帯意識や権利意識から学ぶことは非常に多いと考えます。新聞や書籍から異国の闘争に学び連帯する20世紀的なインターナショナリズムから、生身の人間同士の直接的交流から言語化しにくいニュアンスを含めて学び合う21世紀的なインターナショナリズムを構築する必要があると考えます。
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