2023年12月31日

チュチェ112(2023)年を振り返る(2):戦時プロパガンダの予行演習の新段階と、現実との乖離の深刻化、そして現れた「人間の弱さ」

毎年恒例の年末総括記事の第2弾です。今回は、ロシアのウクライナ侵攻を巡る日本世論の状況、日本メディアの報道姿勢について取り上げます。

今年の日本メディアの報道姿勢は、一般世論が徐々にウクライナ情勢への関心を低下させてゆく中、今夏の麻生太郎副総理大臣による「戦う覚悟」発言などを契機に戦時プロパガンダを新たな段階に発展させつつも、反転攻勢の停滞及び失敗が取り繕い難く明白になったことで米欧諸国でウクライナ支援への疑問や見直し論が公然と上がるようになって以降は、著しい混乱を見せた一年だったと考えます。

まず、「バフムトの戦い」を巡る日本メディア報道の混乱と醜態について振り返りたいと思います。

■「バフムトの戦い」――短期間で二転三転した日本メディア報道の混乱と醜態
昨秋のロシア軍のヘルソン市撤退以来、大きな戦線の変化がなかったところ、年明け以降、ドネツク州のバフムトでロシア軍の前進・ウクライナ軍の劣勢後退が見られるようになりました。全体として膠着状態が続く中、唯一例外的にロシア軍が攻勢を続けたのがバフムトの戦いであり注目しないわけにはいかない戦いでした。

この戦いを巡る日本メディアの報道は、自分たちにとって耳障りの良い情報・都合の良い情報に飛びついたり解釈を取り繕ったりし続けた挙句、ウクライナ軍が同地から敗退したためにすべてのストーリーが破綻し、たいへんな醜態を晒したものでした。6月10日づけ「バフムトの戦いに関する日本世論の反応を総括する」を読み返しつつ、振り返りましょう。

バフムトの戦いを日本メディアは当初どのように報じてきたかと言えば、もっぱら「バフムトに戦略的価値などない」でした。ではなぜそんな土地を巡って両軍が、開戦から約3か月となる昨年5月以来長期にわたって死闘を繰り広げてきたのかといえば、ロシアについては「指導者が戦略的価値の有無を判断できないほどに愚かだから」であり、ウクライナについては「そんな愚かなロシア軍を釘付けにできるから」とのこと。「愚かなロシア軍が『バフムト要塞』に無謀な攻撃を仕掛け、ことごとく撃退されて兵力を溶かしている」という構図です。

しかし、2月に入って戦況がますます悪化する中でゼレンスキー・ウクライナ大統領がバフムトの戦略的価値を強調して撤退を拒否するようになってからは、たとえばNHKなどは、大急ぎで前言を翻し取り繕うような「解説」を打ち出したものでした。
https://www.nhk.jp/p/catchsekai/ts/KQ2GPZPJWM/blog/bl/pK4Agvr4d1/bp/p8wm6WxqAj/
ロシア バフムトの攻略を目論む戦略的意味は
2023年2月16日 午前11:25 公開

ロシア国防省は13日、ウクライナ東部のドネツク州でウクライナ側の拠点のひとつバフムトの近郊にある集落を掌握したと発表。NATOのストルテンベルグ事務総長は軍事侵攻の開始から1年を前に警戒していたロシアによる大規模な攻撃はすでに始まっているという認識を示しました。別府キャスターの解説です。

(「キャッチ!世界のトップニュース」で2月14日に放送した内容です)

・ウクライナ南東部にある交通の要衝「バフムト」
東部ドネツク州にあるウクライナ側の拠点バフムト。なぜ、ロシアは執拗にこの町の攻略を目論むのでしょうか?その戦略的な意味について見ていきます。

ウクライナ南東部の前線ですが、弓のような形になっており、バフムトは中心部あたりにあります。ロシア側は、ここを突破し、ウクライナにさらに攻め込もうとしていると見られます。

こちらの地図ではご覧のように、バフムトはいくつもの幹線道路が交差するほか、鉄道も通る、交通の要衝でもあります。ロシア側は「ここを押さえれば、東部ドネツク州での支配を広げていける」との狙いがあると指摘されています。バフムトは、1年近くになるロシアのウクライナ侵攻で、最も長期にわたって攻防が続いてきた場所となっています。

またバフムトは、ウクライナの国土防衛の戦いにおいて象徴的な場所にもなっています。

12月20日、ゼレンスキー大統領自らがバフムトに入り、兵士たちを鼓舞しました。その時に、ゼレンスキー大統領は兵士たちから託されたウクライナの国旗をアメリカの首都ワシントンに持って行き、連邦議会で演説を行った際、下院議長に手渡しました。

(以下略)
このように、「愚かなロシア軍が『バフムト要塞』に無謀な攻撃を仕掛け、ことごとく撃退されて兵力を溶かしている」という見方は静かに取り下げられ、ほとんど何の説明もないままに「交通の要衝を巡るバフムト決戦」といった具合に戦いが位置づけられるようになりました。

しかしながら、ウクライナ軍の劣勢はどうにも取り繕い難いためでしょうか、3月ごろからは「遅滞戦術」の一種として描くむきが強くなりました。
https://www.nhk.jp/p/catchsekai/ts/KQ2GPZPJWM/blog/bl/pK4Agvr4d1/bp/pkLynzNvra/
ウクライナがバフムト防衛を続ける2つの理由

ウクライナ東部バフムトをめぐっては、ウクライナ軍が撤退するとの観測も一時、出ていましたが、現状では、町の中心部で抵抗を続けています。

なぜ、バフムトの防衛を続けているのか。そこには、強大なロシア軍に対峙しなければならないウクライナ側の厳しい事情があります。別府キャスターの解説です。

(「キャッチ!世界のトップニュース」で3月13日に放送した内容です)

・バフムト防衛の狙い@ 人海戦術を図るロシアへの損失拡大

(中略)
その上で、ウクライナの事情ですが、「@ロシア側に少しでも多くの損失を与えたい」ことがあります。

ウクライナ軍は、川の西側を拠点にして、迫り来るロシア側を迎え撃っています。イギリス国防省は、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」が侵攻してくるのを押しとどめているとした上で、この一帯が、ロシアの兵士や戦闘員の「Killing zone(キリング・ゾーン)」になっていると分析しています。

「ワグネル」はロシアの刑務所から多くの受刑者をかき集めて、バフムトに人海戦術で投入していると見られますが、ここで兵力を削ぐことができれば、ロシア側の弱体化につなげられるとウクライナ側は期待しています。

・バフムト防衛の狙いA 春の反転攻勢に向けての時間稼ぎ
もうひとつの事情が、「Aなんとか時間を稼ぎたい」ことです。ウクライナ側は、春になれば、南部での大規模な反転攻勢に出る構えです。その作戦は、来月(4月)にも始まるとの観測もあります。それに向けて、欧米からの兵器がより多く届くのを待っている状況で、それまでは、ロシア側をバフムトに足止めさせておきたいという事情も見えます。

(以下略)
「たしかにウクライナ軍は徐々に後退しているが、これは反転攻勢のためにロシア軍を消耗させているものであり、長期的・戦略的にはプラスなのだ」というわけです。「バフムト要塞へのロシア軍の無意味な攻撃」がほとんど何の説明もなく「バフムトでの両軍決戦」に描かれ直されたかと思えば、今度もまたほとんど何の説明もなく「ウクライナ軍の遅滞戦術」に描かれ直されたわけです。ウクライナ軍の劣勢を取り繕うために、なし崩し的に解釈が変更されたと見なさざるを得ないでしょう。

戦況認識のご都合主義的な揺れ動きは続きました。5月10日ごろからバフムトでウクライナ軍の前進が見られるようになりロシア軍を一定程度後退させることに成功しました。これにより、俄かに「ロシア軍が包囲殲滅されてウクライナ軍がバフムトを奪還する」という見立てが出てくるようになりました。「遅滞戦術」だったはずのバフムトの戦いがまたも急に、ほとんど何の説明もなく「包囲殲滅戦」に切り替わったのです。

そして訪れたロシア軍のバフムト制圧。5月20日、ロシア軍と行動をともにするワグネル・グループ代表のエフゲニー・プリゴジン氏がバフムトの完全制圧を宣言。ロシア政府もその宣言を認めました。ウクライナ軍は「まだ市内の一角に兵員が残って戦っている」とするものの、同市の主たる部分をロシア軍が掌握していることは動かし難く、また、ウクライナ軍の反撃に伴う戦闘も大規模なものは起こらなくなりました。「完全制圧」とは言えないかもしれないが「バフムトの戦いは一旦、基本的に終わった」とは言えるでしょう。

プリゴジン氏の完全制圧宣言の前日、NHKは「激戦地バフムト ウクライナ側が徐々に前進」などと書き立てたばかり。そりゃ、ウクライナ当局の「大本営発表」はそう言うでしょう。ジャーナリストたるもの、それがフェイクなのかファクトなのかを独自に検証する責務があるはずです。マリウポリ陥落2日前まで「アゾフスターリ製鉄所でウクライナ軍の反転攻勢が始まった!」と騒いでいた「悲劇」を再演してしまったNHKでした。ジャーナリズムを放棄して大本営発表を垂れ流すだけの報道機関に、いよいよなり下がったわけです。

バフムトの戦いに関する日本メディアの報道を改めて総括するに、バフムトの戦いの位置づけを「ロシア軍に消耗を強いるバフムト要塞」にしていたところ、ある日を境に突然、ほとんど何の説明もなく「バフムト決戦」そして「時間稼ぎのための遅滞戦術」へと次々に修正し、そうかと思えば急に「包囲殲滅戦」に変更したこと、制圧前日まで「ウクライナ軍の反撃が進んでいる」などと状況把握していたことは、戦況の悪化を取り繕おうとプロパガンダを重ねた結果の醜態ですが、もっと突き詰めてしまえば、自分たちにとって耳障りの良い情報・都合の良い情報に飛びついたり解釈を取り繕ったりし続けた結果の醜態と解釈することもできるでしょう。

恐るべきは、このように目まぐるしく解釈が変遷していったのが僅か3か月の間の話ということ。年単位で少しずつ解釈が摩り替って行っているのならば、バフムトの戦いに強い関心を持ち続けている人以外は気が付かないのも無理はないでしょうが、ほとんど説明もなく短期間で何度も解釈が大きく変わることに対して疑念や疑問の声がほとんど上がらなかったわけです。

このことがウクライナメディアでの話ならば「戦時下の戦意維持・高揚のためのプロパガンダの取り繕いとその破綻」として見なすことができますが、ことは日本メディアの話です。日本メディアが日本人相手にプロパガンダを取り繕ったところで戦況には何の影響もありません。語弊があるかもしれませんが「この戦争は日本の戦争ではない」ので、本来は日本メディアがプロパガンダをせっせと展開する理由がありません。「今日のウクライナは明日の台湾・沖縄」だとしても、一歩引いて冷静に戦いの推移を見る余裕があるはずなのに、のめり込むかのようにウクライナ有利・ロシア不利の構図を描き報じる日本メディア

開戦初期の橋下・グレンコ論争を振り返るに、この戦争については「邪悪なロシアの侵略に挙国一致で対抗するウクライナの正義の戦争」という勧善懲悪的な見方がすっかり定着し切っています。また、かねてよりウクライナ軍の劣勢を指摘すると「親露派」呼ばわりされる風潮が否めないところでもあります。米欧諸国からの軍事物資の供給が戦場での需要に追いついていない以上はウクライナ軍が劣勢になるのは至極当然であり、なによりも動かし難い客観的事実であるのに、それを指摘するのはケシカランという言い分が罷り通っています。

メディアとしては、こうした世論動向を無視して番組や紙面を編成することは編集権を持つ自分たちへの批判に繋がるので、何を措いても避けようとすることでしょう。そういった事情があって、ほとんど何の説明もなく「戦いが位置づけ」がコロコロと変更されたものと思われます。このことは、不都合な現実から目を背けたい「豆腐メンタル」というべき弱い心が社会意識として広く存在しているものと思われます。

「世論の見たくないものから目を背ける習性は、そこまで酷くはないだろう」というご指摘もあるかもしれません。しかし、もしそうだとすると、これほどまでに短期間にコロコロと戦いの位置づけが変更されているのに疑念や疑問の声がほとんど上がらないということは、「人々が批判的な目で報道を見ていない」ということになります。あるいは、「ウクライナ情勢に対する一般世論の関心が非常に低下している証拠」ということになります。どれに転ぶにしても非常に問題のある状況であると言わざるを得ないでしょう。

昨年大晦日の総括記事で、日本世論が「プロパガンダに満ちた「大本営発表」からさらに都合の良い情報を「取捨選択」して独自の戦況を描き出」しているとしましたが、メディアと世論の相互作用・相乗効果でますます社会がおかしな方向、いわゆる「国際社会」から乖離した方向に向かっていると言わざるを得ません。

■「プリゴジンの乱」――ここぞというときに何も書けない日本メディア
かねてより日本メディアは、ロシア政府・正規軍とワグネル・グループ(プリゴジン氏)との確執を取り上げてきていました。たとえば、バフムトの戦いでは、補給を巡ってロシア正規軍とワグネル・グループとの間で対立と口喧嘩が起こったことを日本メディアは非常に紙幅・放送時間を割いて報じてきたものでした。この確執が拡大し内輪揉めが深刻化することでロシアの戦争継続能力が失われてゆくという筋書きなのでしょう。「悪党が内輪揉めで弱体化しその隙を突いて正義の味方が逆転勝利する」というのは、勧善懲悪物語の昔からの定番ですからね。眉唾ものも含めて数えきれないくらい書き立てられてきたものでした。

そんな最中の6月23日に発生したプリゴジンの乱(ワグネルの乱)。ロシア国防省とワグネル・グループとの確執が爆発した事件ですが、それまで確執を云々し妄想を繰り広げてきた日本メディアは、6月25日づけ「現代ロシアの二・二六事件たる「ワグネルの乱」にかかる報道について」で取り上げたとおり、不気味なまでに謙抑的に振舞いました。たとえばNHKは、いままで、嬉々としてロシア国防省とワグネル・グループとの確執を針小棒大に報じ続けてきたのにもかかわらず、今まで書き溜めてきた確執ネタを一気に大放出するのかと思えば、「プーチン政権がただちに揺らぐことはない」だの「戦況そのものへの影響はそれほど大きくない」だのと述べるに留まりました。いざホンモノの内紛が起こるや分析不能・対処不能になったわけです。

NHKに限らずメディア各社は、いままで自分たちが描いてきた構図や筋書きに則れば、曲がりなりにもそれなりの解説にはなりそうなところ、何を恐れているのか海外メディアの報道を待ち既報をまとめるに留まったのでした。昨年大晦日の総括記事では、昨秋のヘルソン市からのロシア軍撤退にいち早く反応できなかった日本メディアの醜態を取り上げて「現地を独自に取材する能力もなければスタジオで情勢を独自に分析する能力もない日本メディア」としましたが、取材力はまったく向上していないようです

やっと何か書きだしたのかと思えば、6月29日づけ「「中国経済の崩壊が始まった」とか「北朝鮮は追い詰められている」と同じ類の「プリゴジンの乱はプーチン政権の終わりの始まり」論」で取り上げたとおり「プーチン体制の終わりの始まり」論に留まる日本メディア。当該記事でも書きましたが、「終わりの始まり」論は既にNHKが昨年11月に使っています。「終わりの始まり」が始まってから既に半年以上たっているわけです。「北朝鮮の崩壊は近い」と言われて20年以上経ちますが「プーチン政権の終わりの始まり」論も似たような与太話なのでしょう。

現実問題としてプーチン政権は安定的であり転覆の恐れは非常に低いものと考えられます。それを認めたくないので「終わりの始まり」という表現を使うことで「プーチンは少しずつではあるが、確実に着実に破滅に向かっている」と位置づけ精神を安定させようとしているのでしょう。「中国経済の崩壊が始まった」とか「北朝鮮は追い詰められている」と同じ類のものだと思われます。これもまた、前述の「豆腐メンタル」によるものと考えられます。

なおこの後、プリゴジン氏が飛行機事故で死亡しましたが、当ブログではこのニュースを取り上げませんでした。今回の年間総括記事でも取り上げません。飛行機事故なのかそれを装った暗殺・粛清なのかを論ずるつもりはありません。これは、当ブログがロシアのウクライナ侵攻を取り上げている理由は、それ自体の推移や国際関係論的な見地から考えることを目的とはしておらず、「今日のウクライナは明日の台湾・沖縄」のスローガンの下に戦時プロパガンダの予行演習を行っている日本メディアの報道姿勢・報道内容を批判的に分析・評論するためだからです。プリゴジン氏の死亡を巡る日本メディアの報道は、当方がチェックした範囲では戦時プロパガンダの予行演習としては特筆すべきものがなく、昔からよくあるロシア報道の一つという他なく、それゆえ当ブログで取り上げる対象にはなりませんでした。

■待ちに待った「反転攻勢」があっという間に停滞し、プロパガンダの自家中毒で進退窮まった
今年は年明けから「ウクライナの春季反転攻勢」が確実視されていました。米欧諸国からはこのために莫大な額の軍事支援が施されました。そしてその期待に応え、またパトロンの関心を引き続けるためにウクライナ政府・軍当局も劇的な反転攻勢の期待を煽るような発言や雰囲気づくりに努めてきたものでした。昨夏のハルキウ方面での攻勢が直前まで攻勢意図さえも厳重に秘匿された正に奇襲攻撃であったところ、今回は随分と早くから春季攻勢がアナウンスされ、敢えて期待を膨らませているかのようでした。まるでスポーツの国際試合であるかのような盛り上げ方でした。

日本メディアも、たとえばNHKの「解説委員室」では、軍事・安保担当解説委員の津屋尚氏が昨年12月28日づけ「厳冬の戦い ウクライナが年明け大規模作戦か」を筆頭に、4月12日づけ「ウクライナ反転攻勢の大規模作戦へ」、5月16日づけ「ウクライナ 大規模反転攻勢へ」などと期待を高めるような言論を展開してました。

特に4月と5月に、1か月間という短期間の間に似たようなタイトルと似たような内容の話、期待感を高める効果以外に内容のない記事を繰り返していたことは注目すべきことです。というのも、「春季反転攻勢」と呼ばれていたように4月中には攻勢が始まるのではないかと何となくみんな予想していたところ、5月下旬になっても一向に作戦が始まらなかったからです。なかなか始まらない反転攻勢への関心を繋ぎとめるために、このような解説記事を繰り返し投稿したのでしょう。

ウクライナ軍の準備が整わなかったのが遅延原因なのだとは思いますが、米欧諸国・西側諸国世論の期待を煽りに煽ったこと、そして何よりも攻勢開始が遅れたことは、今になってみれば本当に痛いことでした。みんなすっかり昨夏のハルキウ攻勢のような劇的な展開が再現されると思っていたところ、攻勢開始が遅れたことによりロシア軍に防衛陣地構築の時間的余裕を与えてしまい、本来は1日から数日程度で奪還する予定だったロボティネなる集落に到達するのに2か月近く掛かった挙句、主たる成果と言えばその程度。ウクライナ全図レベルの縮尺地図で見る限り新たに奪還された領土はほとんど判別できません。

反転攻勢が遅々として進まないことについて、ウクライナ政府関係者などは「ハリウッド映画のような反転攻勢を期待するべきではない」と繰り返し主張していますが、そもそもそういう期待感を煽ったのは他でもない自分たち自身。プロパガンダの自家中毒で進退窮まっているというほかありません

ロボティネ奪還のときは少し世論も沸いたものでしたが、結局「ロシアだってそれなりに構えているのがたら、あせらずウクライナの勝利を信じながらじっくり戦況を見てゆこう」という声も日を追うごとに尻すぼみに。NHKも徐々に「反転攻勢を続ける」から「反転攻勢が膠着状態にあるという指摘もある」というふうに表現を変化させてきました。そして12月16日づけ「ついに報じられた「反転攻勢は失敗」、そしていつ「交渉による戦争終結を望む世論が増え続けている」が報じられるのか」でも取り上げたとおり、近頃はついに「反転攻勢は失敗」という指摘も出てくるようになりました

■分析の体をなしていない「プーチンはご乱心だから・・・」
反転攻勢を巡る報道についてもう少し詳しく見てゆきましょう。

先般の反転攻勢は、だいたい6月8日から10日ごろに始まったと言われていますが、厳密にいつ始まったのかはいまだに定かではありません。日頃、戦果を針小棒大に発表するウクライナ当局が、世論が待ちに待った反転攻勢の開始を華々しく宣言しなかった点、そして、ハリウッド映画のような劇的な展開を商業主義的に期待する米欧諸国・西側諸国メディアも反転攻勢の開始を大々的に報じなかった点において、当初より「嫌な予感」がする攻勢開始でありました。

攻勢開始と前後して、カホフカ水力発電所のダムが決壊するという出来事が発生しました。この原因及び事件であった場合の仕手については依然として不明ですが、特に日本メディアは早々に「ロシアに動機がある」「プーチンはもはやマトモな思考ができていないので、論理的には考えにくいが、ロシアの犯行である可能性は十分にある」という報じ方を展開しました。これらの報道については、6月7日づけ「説明になっていない「プーチンご乱心」説が開戦以来、罷り通っている:カホフカ水力発電所ダム決壊事案を巡って」において取り上げましたが、本当に酷かったものでした。

「プーチンはご乱心だから、じゅうぶんにあり得る」が罷り通るのであれば、どんなに説に飛躍があっても、まったく物証がなくても何でもありです。いかなる荒唐無稽・根拠薄弱な「分析」であっても成り立ってしまいます。こんなものは分析とは言いません。取材力・分析力が足りず真相を突き止められないならば、いっそ何も言わない・書かない方がマシ。それくらい酷いシロモノです。

そもそも、動機があることと実際に犯行に手を染めることは決定的な違いがあります。動機(犯人なりのストーリーの立証)に加えて物的証拠を上げることが犯人特定において肝要です。その点、「ロシアに動機がある」論についても、6月6日づけ「クレバ・ウクライナ外相の反応から見えること」において述べたとおり、ロシアにとってもダム決壊によって防衛陣地や地雷原が流されてしまうことに利益があるとは考えにくいところ。プーチン大統領の「歪んだ世界観」をプロファイリングして、彼独自の世界観に立ったときの合理性に照らして分析するのであれば、まだ傾聴の価値がありますが、そのレベルには至っていないので、まったく無意味・無価値というほかありません。しかし、その程度の「分析」しかできないのが日本のマス・メディアなのです。

■もはやウクライナ情勢は「基本的に用済み」? 戦時プロパガンダが強度と効果において新たな段階に入った?
反転攻勢の開始からおよそ1か月たった7月上旬。既に始まっているはずの反転攻勢で戦果が上がったという報道・発表がほとんど出てこない中、アメリカ政府がウクライナに対してクラスター爆弾の供与を決定したというニュースが報じられました。7月10日づけ「「クラスター爆弾の供与要請は、それだけウクライナが追い詰められていることを示している」by NHK(!)」で取り上げました。

当該記事で書いたとおり本件を巡っては非常に興味深い報道がみられました。7日放送のNHK「ニュースウオッチ9」が、「ウクライナ軍の反転攻勢に遅れ」という状況認識に続きクラスター爆弾供与(放送当日時点では供与検討)に関して「ウクライナが追い詰められている」と言明したのです。大したことのないウクライナ軍の部分的前進を針小棒大に取り上げつつ、他方においてことあるごとに「ロシアは追い詰められている!」と捲し立ててきたNHKがあのように報じたわけです。

当該記事では、このような報道姿勢・報道内容の変化について、この直前にCIA長官がキーウを訪問しゼレンスキー大統領らウクライナ政府幹部たちから「クリミア半島の境までウクライナ軍を移動させ東部でも攻勢を強めた上で、年内にロシアと停戦交渉を開始する計画」について説明を受けたというニュースに触れつつ考察しました。かねてよりウクライナ政府は「クリミアを含む全領土の奪還してから外交交渉のテーブルに着く」を公式的に掲げてきたところ、CIA長官には「クリミア半島の境までウクライナ軍を移動させ(=クリミア半島は軍事的には奪還しない)、外交交渉のテーブルに着く」としたのです。これは大きな後退です。

ウクライナ政府にとってアメリカは権力の唯一の源泉・唯一の後ろ盾です。レオパルト戦車の供与を渋るドイツには居丈高に要求するが、アメリカ様には絶対にそんな口は利きません。CIA長官の訪問においてもアメリカ様の期待どおりの回答を用意していたものと思われます。つまり、戦火の拡大を厭わないCIAさえも「クリミア半島は軍事的には奪還しない」という意味で停戦の方向に動き始めたものと考えられるわけです。

また、国策報道機関NHKは概ね日本政府の立場に沿った報道をしていますが、その日本政府はほとんど常にアメリカ政府の意向に沿った政策を展開しています。つまり、NHKの報道は究極的にはアメリカ政府の意向に沿っているものです(このあたりの詳細は、3月9日づけ「ウクライナ侵攻1年の日本メディア:日本は依然としてアメリカの占領下にある」及び、ウクライナ情勢そのものではありませんが、鹿児島県屋久島沖で発生した米軍輸送機オスプレイの墜落事故について「不時着水」だの「墜落」だのとブレまくったことについて取り上げた11月30日づけ「「アメリカがそう言ったから」以外に何の理由もないことだけは一貫する属国ニッポン」で論じました)。

これらの事情を総合するに、アメリカはウクライナ政府が望む形での勝利を諦め、NHKはその意向に沿ったものと考えられます。ウクライナ軍もロシア人捕虜を拷問・殺害しているという報道が出るようになってきたことを取り上げた3月26日づけ「またしても「隙間風」を感じざるを得ない」や、欧州諸国が保有する米製F-16戦闘機の中古品供与を巡って「ゲームチェンジャーだ!」などと持て囃して騒ぎ立てる日本メディアに対して当のアメリカがあまり乗り気ではない反応を見せていることを取り上げた5月29日づけ「「NATO加盟国がF-16戦闘機をウクライナへに移転する場合、アメリカはそれを妨げない」の見方:人間を中心に主体的に考えるとは一体どういうことを指すのか」などで取り上げたとおり、今年に入ってから「風向き」は明らかに変化していたところ、ついに大変化として現れたわけです。それも反転攻勢が企図どおりに進まない最中において。

アメリカ政府の意向を汲んだのか、これ以降、NHK等の日本メディアはプロパガンダの方向を切り替えように見受けられます。それまで積極的には報じようとはしなかったウクライナ軍の劣勢について徐々に報じるようになったのです。しかしながら、やはり「今日のウクライナは明日の台湾・沖縄」の原則は墨守しています。たとえば8月21日づけ「ウクライナでの徴兵・動員不正を主要報道番組で報じないNHKの真意とは」では、ウクライナでの強引な徴兵や徴兵逃れ、そしてそれらを巡る汚職を英BBCや朝日新聞等が報じるところ、NHKはなかなかこのことについて報じようとはしませんでした。

このことについては、挙国一致で侵略者と戦っている(ことになっている)ウクライナで、徴兵を巡る汚職が大規模に横行しているという報道は、「台湾・沖縄有事でも同じように徴兵を巡る汚職が起こるのでは・・・?」という日本国民の不安・懸念を呼び起こすにはあまりにも十分すぎるニュースです。「臭いものに蓋をしたい」という意識が働いてNHKは主要番組でこのニュースを取り上げたがらなかったものと推測しました。

11月13日づけ「特筆すべきウクライナ情勢報道の風向き変化について」では、ゼレンスキー政権内部で不協和音が上がっているという米欧メディアの報道を、様子見のために少し待機した形跡はあるものの、開戦以来ジャーナリズムを投げ捨てて戦時プロパガンダの伝動ベルトに成り下がってきた日本メディアが報じるようにことは特筆すべきことだと述べました。

この背景については、日本メディアが「ウクライナは不利な状況にある」などと報じるということは、アメリカの意思が停戦にほぼ固まってきたということが底流としてありつつも、もはやウクライナ情勢は日本の支配層・為政者たちにとって「基本的に用済み」となりつつあることが影響していると推測しました。

その理由について当該記事では2つの理由を指摘しました。すなわち、(1)いつまでもウクライナ情勢にばかり国民の関心が留まり続けて、肝心かなめの台湾・沖縄有事に移行しないのは大問題だから、そして(2)損失や犠牲についても一定程度注目しつつ「それでも戦う」という戦時プロパガンダの新しい段階に移行したという理由です。

詳細は当該記事を是非ともご覧いただきたいのですが、前者については、今年8月に台湾を訪問した麻生副総理大臣が「戦う覚悟」なる発言をし、それをTBSなどが肯定的に報じた例を挙げ、国民の関心を台湾・沖縄有事に移行させる時期がきたためだとしました。後者については、典型的な戦意高揚番組であったNHK総合「映像の世紀 バタフライエフェクト」の「戦場の女たち」のようなコンテンツが姿を消したことを例として挙げました。また、11月21日づけ「ババ抜きジャパン」において、「娘が戦場へ 帰りを待つ家族の思い」というタイトルで特集を組んだNHK「おはよう日本」を取り上げ、鉄砲玉に仕立て上げられて死ぬ若人だけではなくその親世代にも「戦う覚悟」を要求する戦時プロパガンダが展開されるようになったことを以って持論をさらに補充しました。一般人をその気にさせて戦地に送り込むプロパガンダの予行演習段階から、戦闘が長期化する中で傷つき疲弊した兵士たちを再び戦地に送り返すプロパガンダ、銃後の国民たちに後方支援を要求するプロパガンダの予行演習段階に移行したものと考えます

■御用学者たちの「情勢分析」や「解説」の破綻
反転攻勢の失敗は、これまでせっせと「情勢分析」や「解説」を展開してきた御用学者たちの主張を決定的に破綻させました。11月13日づけ「特筆すべきウクライナ情勢報道の風向き変化について」で詳しく取り上げました。

NHK解説委員の津屋尚氏は先にも言及したとおり、年明けから繰り返し反転攻勢について「情勢分析」し「解説」を展開してきましたが、当の反転攻勢が早々に停滞の様相を呈すると打って変わって沈黙するようになりました。彼は昨秋、NATO関係者の言としつつも「戦力の立て直しは非常に困難で、ロシア軍は“組織的な戦闘”が難しくなっている」と演説を打ちましたが、現状はご存じのとおり。ロシア軍は依然として戦車3000両、装甲兵員輸送車1万2000両を保有し、1か月あたりの砲弾生産量は推定で150万発。これとは別に400万発の砲弾在庫もあるそう。ミサイルやドローンが枯渇する気配はなく、いまも毎日のように激しい攻撃が続いています。兵員についても、いまのところ大規模な在郷軍人の動員は必要ない状況にあります。むしろ、ウクライナ軍が男性総動員でも兵力不足で女性の動員拡大の方向に進みつつある状況にあります。つまり、津屋解説委員の言説は今日時点から振り返るに「すべて外している」のです。

高橋杉雄氏や兵頭慎治氏といった、精力的に解説を展開してきた防衛省関係者による「情勢分析」や「解説」をメディアで聞く機会も減ってきました。もともと折に触れて、素人目にも「?」な主張を展開する彼ら。兵頭氏は先般、ウクライナ軍のドニプロ川渡河について自論を展開しましたが、当該記事でも指摘したとおり効果的な反転攻勢という意味では非常に疑わしい話でした。そして、「渡河作戦は「自殺任務」 ウクライナ軍の兵士証言」(12/18(月) 9:17配信 共同通信)が報じたとおり、「功を急ぐゼレンスキー大統領によるバフムト以来の政治的固執」という結末を迎えてしまったようです。10月末になっても「ウクライナ軍がドニエプル渡河作戦、成功すればアゾフ海到達へ」なる記事で異次元の楽観論を展開していた西村金一氏(元幹部自衛官)までもが、11月半ばにもなると「正念場迎えたウクライナ軍、カギ握るドニプロ川本格渡河作戦」という記事において「正念場」という表現を使うようになったくらいです。

それにしても驚くべきは、防衛省関係者たちが悉く予測や分析を外していること。もちろん、情報収集・分析能力は国家機密なので、テレビや雑誌等で正確なそれが展開されるはずがありません。しかし、それにしても外しすぎではないでしょうか。あまりにも低レベルだと敵国に「日本はチョロい」と誤解せしめ、要らぬ軍事的リスクを背負うことになりかねません。国民を兵士として戦地に送る「戦う覚悟」ばかり先行し、戦争指導の大前提である戦況分析という「戦う覚悟」がお話にならないレベルに留まっていると言わざるを得ないでしょう。

こんな現象・事態は、「遠い異国での戦争」だから起こっていると思いたい。「本番」の台湾・沖縄有事でこの調子なら、一体どのようなことが起こるのか、どんな大本営発表になるのか・・・

■苦し紛れの情勢描写は、ささやかな抵抗のつもりか、それとも単なる自己弁護か――袋小路に追い詰められている
11月25日づけ「戦時プロパガンダの行き詰まり、袋小路に追い詰められるNHK」では、今秋以来の風向きの変化に抗するが如き日本メディアの「ささやかな抵抗」について取り上げました。

英『エコノミスト』誌等米欧メディアが報じたゼレンスキー政権内部で不協和音が上がっているという報道は、米欧諸国の国内世論がウクライナ支援に後ろ向きになりつつある中、それに拍車をかけるものです。これは、米欧諸国の為政者たちが、自国の国内世論が更にウクライナ支援に後ろ向きになっても構わないと認めているからに他なりません。米欧諸国の為政者も、いよいよ停戦の方向を歩み始めたものと考えられます。

しかし、こうした流れに逆張りするかのようにNHKが11月ごろから、独自の情勢解釈の定式化を試みる記事を報じました。11月18日放送「ニュース7」です。詳細は当該記事をご覧いただきたいのですが、理屈として筋が通っておらず印象操作の類であることがよくわかります。客観的事実やデータからどうやって「「国民は、ウクライナ国内の結束の乱れは、ロシアを利することになると分かっている。政権にとっては辛口の調査結果を出しているシンクタンクも「改善策を進めよ、という励ましでもある」とコメントしている。ロシアに勝利して戦争を終わらせるーウクライナの人たちの思いが揺らぐことはない」という結論を導き出すことができるのか・・・まったく筋が通っていません。

英『エコノミスト』誌のインタビュー記事をはじめとする米欧メディア報道の反響が予想外に「いよいよ停戦か?」という方向に向かってしまったので、それを修正しようとする意図があるというのは考えにくいものです。もしそうだとすれば、ほかでもない『エコノミスト』誌等がまず火消しに奔走するはずなので、NHKは外電のコタツ記事を報じるだけで足りるはず。わざわざ独自に逆張り記事を用意する必要はありません。

まず、米欧諸国に蔓延る厭戦機運・停戦機運に対するNHKの抵抗という線が考えられます。米欧諸国も日本も、ウクライナ侵攻を「ロシアによる侵略」と捉えている点には違いはありません。しかし、「確かにロシアの侵略ではあるが、ウクライナが自力で侵略者を放逐することができないだから、現状での停戦でもしょうがないんじゃないか」、つまり、「自力で何ともならないなら、ウクライナはもう諦めろ」という突き放した意見が最近の米欧諸国の世論において、ますます力をつけつつあるように見受けられます。

これに対して日本世論は、当ブログでも取り上げてきたとおり、開戦当初から「侵略を始めたロシアが悪いんだ! なぜ被害者であるウクライナから停戦を申し入れなければならないんだ! ウクライナは一寸足りとも領土を妥協するべきではなく、ロシアが音を上げるまで徹底的に戦うべきだ!」という意見で凝り固まっています。米欧流の「自力で何ともならないなら、ウクライナはもう諦めろ」は、鈴木宗男参議院議員が同じようなことを何度か口にして激しく叩かれてきましたが、日本ではとても認める訳にいかない「筋の通らない」ロジックなので逆張り記事を拵えたものと考えられるのです。

もう一つ考えられるのは、いままで愚直に「国際社会が結束してロシアの侵略に対抗している」という米欧諸国陣営のコンセンサスに則って戦時プロパガンダを展開してきたのに、盟友だったはずの米欧メディアにハシゴを外されたNHKが自己弁護を展開しているという線です。日本のマスコミ関係者は、自分自身に対する批判にとにかく弱く、少しでも矛先が向こうものならば激しく抵抗するものだからです。今まで報じてきたこととあまりにも異なる米欧メディアの報道が伝える事実は、NHKのマスコミとしての信頼性を下げるには十分過ぎるもの。NHKとしては何らかの言い訳を展開せずには居られなかったという可能性があります。

米欧諸国は急に方向転換したわけではありません。徐々にウクライナ支援の旗色は悪くなっていました。そうした風向きの変化を敏感にキャッチして徐々に報道内容を変化させてきていれば、ここにきて急に慌てることはなかったでしょう。しかし、「邪悪なロシアの侵略に挙国一致で対抗するウクライナの正義の戦争」という勧善懲悪的構図で凝り固まっていた日本においては、そのような報道はとてもできなかったでしょう。深まる現実との乖離がついに誤魔化し切れなくなったので、もはや論理無視の強引で苦し紛れの印象操作で乗り切ろうとしていると考えられるわけです。袋小路に追い詰められていると言わざるを得ません。

苦し紛れの印象操作といえば、12月6日づけ「ついに報じられた「反転攻勢は失敗」、そしていつ「交渉による戦争終結を望む世論が増え続けている」が報じられるのか」で取り上げた事象もそうでした。米紙『ワシントン・ポスト』は12月4日、「反転攻勢は失敗」と報じたところですが、NHKはその直前に「前線では、今も一進一退の攻防が続いていて、一部ではこう着状態という見方も出ています」とか「期待された成果は出ていないものの、反転攻勢を続けているからこそ、ロシアからさらに多くの国土が奪われるのを防ぐことはできています」などと、先般の反転攻勢のせめてもの意義を強調していました。苦し紛れの情勢描写という他ないものですが、それにしても本当に間が悪い。やればやるほどドツボに嵌り込んでいるように見えます。

当該記事では、ウクライナの独立系調査機関「レイティング」が実施した世論調査が交渉による戦争終結を支持するウクライナ国民が増え続けていると発表したことについて、NHKがコツコツと積み上げてきた情勢描写を根本から引っ繰り返す致命打になるが、戦時プロパガンダ機関になり下がったNHKが果たしていつどのような形でこのニュースを報じるのか注目であると述べました。私の調べ方の問題も否めませんが、いまのところNHKがこのことを報じた形跡は見つけられておりません

■ささやかな抵抗もできなくなった12月に「人間の弱さ」があらわれた
12月に入ると、NHKが行ったような抵抗もできないほどに戦況はウクライナにとって悪化するようになりました。12月19日づけいよいよ「そのとき」が近づきつつあるのではないか」では、根こそぎ的動員が既に行われているウクライナにおいて、更なる追加動員が必要だとする「ウクルインフォルム」の記事を取り上げました。いままでプロパガンダで繕ってきた損失を遂に覆い隠すことができなくなった証左であると考えられます。それほどの戦況になっているわけです。

当該記事では、ウクライナに敗戦の可能性があるという韓「国」紙『中央日報』の記事を取り上げ、いよいよ「そのとき」が近づきつつあるのではないかとしました。また同時に、オーサーコメントを寄せた服部倫卓 北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授の「ウクライナの「敗戦」というのが、具体的に何を意味するのかが分からない」だの「来年夏ごろにそう(ウクライナ側が負けを認めて、領土の割譲を含む和平交渉に応じるということ)なっているとは、私には思えない」という根拠のないお気持ちコメントを取り上げて、「PV数がかなり少ないことが推察される記事にも、こんなコメントを寄せてしまうあたり、すぐそこまで差し迫った現実を認めたくないのでしょうか?」としました。

服部倫卓教授といえば、9月22日づけ「「ここが踏ん張りどころ」とするのではなく現状否認の方向に話を持って行ってしまう「人間の弱さ」」で取り上げたとおり、国連総会でのゼレンスキー・ウクライナ大統領の演説会場に空席が目立ったことについて「ウクライナに対する支援の気運の衰えを示すものではなく、国連総会という場の軽視の表れ」なる苦し過ぎる解釈を展開したお方。

「そろそろ止めにして欲しい」という本音は日増しに強まっています。当事者以外は厭戦機運が蔓延しているのが現実なのです。「だからこそ、ウクライナ応援団としては、ここが踏ん張りどころなんだ!」という方向に話を持っていくべきところ、「ウクライナに対する支援の気運の衰えを示すものなんかじゃないもんね! ぜったい違うもんね!」という現状否認の方向に話を持って行ってしまうというのは、「人間の弱さ」というものは、こういうことを指すんでしょう

■総括
昨年の大晦日総括記事(第1弾 第2弾)で当ブログは、「生身の人間の生活を軽視し、大義や筋論などの抽象的なものを優先する」及び「勧善懲悪・破邪顕正的な二項対立」という世論動向という2つの特徴から一年間のウクライナ情勢を総括しました。これを踏まえつつ今年を総括するに、日本メディアは、上述の2つの特徴に起因する昨年来の基本路線に立ちながら、今夏の麻生副総理大臣による「戦う覚悟」発言を受けて戦時プロパガンダの予行演習を更にブラッシュアップしようとしてきたものと捉えることができます。他方、その基本路線ゆえに、米欧諸国政府及びメディアのウクライナ支援疲れに機敏に追随することができず、特に先般の反転攻勢が停滞してからは「苦し紛れ」という他ない情勢描写を繰り返し、遂には今まで積み上げてきたものが現実との間で取り繕い切れない矛盾をきたし、破綻してしまったと言えるでしょう。

「生身の人間の生活を軽視し、大義や筋論などの抽象的なものを優先する」及び「勧善懲悪・破邪顕正的な二項対立」を基本としている限りは、ウクライナ支援への疑問や見直し論が公然と口にされるようになった米欧諸国の風向きの変化について行くことはできないはずです。しかし、これらは非常に日本的な発想。ここから外れた言論は「親露派」のレッテルを貼られかねない非常に危うい行動であるし、自分たちにとって耳障りの良い情報・都合の良い情報に飛びついたり解釈を取り繕ったりするのは人間の性といっても過言ではないので、その是正はかなり難しいと予想されます。最終的にはアメリカからの外圧で型に押し込められるとは思いますが・・・

それよりも当ブログは、防衛省関係者たちが悉く予測や分析を外してきたことを問題視しなければならないと訴えたいと思います。国民を兵士として戦地に送る「戦う覚悟」ばかり先行し、戦争指導の大前提である戦況分析という「戦う覚悟」がお話にならないレベルに留まっていると言わざるを得ないでしょう。結局、それは直接的には情報収集能力と分析力の不足ではありますが、根本的には、希望的観測に飛びつく習性でありそれは「豆腐メンタル」というべき精神的弱さに行きつくものです。

今年見られたような現象・事態は、「遠い異国での戦争」だから起こっていると思いたい。「本番」の台湾・沖縄有事だったら一体どのようなことが起こるのか、どんな大本営発表になるのか恐ろしくて仕方ありません。戦争指導者たちが的確な采配を取ることができれば、兵士として実際に戦わされる一般国民が「生身の人間の生活を軽視し、大義や筋論などの抽象的なものを優先」したり「勧善懲悪・破邪顕正的な二項対立」に立ったりしたとしても、被害は小さく抑えることができるはずです。しかし、戦争指導者たちの采配が愚劣で、その上、一般国民が「生身の人間の生活を軽視し、大義や筋論などの抽象的なものを優先」したり「勧善懲悪・破邪顕正的な二項対立」に立ったりしていれば、「非常に士気の高いインパール作戦」というべき目も当てられないことになるでしょう

■来年の執筆方針
米欧諸国においてウクライナ支援への疑問や見直し論が公然と口にされるようになったとはいえ支援が途絶することはなく、よって戦争は今しばらく続いてしまうものと考えられます(一刻も早い停戦を、その場しのぎになったとしても、まずは一段落つけることを切に願っています)。それゆえ、来年の執筆方針を定める必要があります。

日本メディアに取材力と分析力が欠如しているのは既に十分理解したので、来年はその点を指摘する記事は減らす予定です。また、既に散々書いてきたので「生身の人間の生活を軽視し、大義や筋論などの抽象的なものを優先する」及び「勧善懲悪・破邪顕正的な二項対立」という極めて日本的な発想を個別世論などから新たに見出す記事も減らす予定です。

来年は、米欧諸国政府及び同メディアの報道姿勢に日本メディアが機敏について行けているかについて慎重に観察してゆきたいと考えています。もし機敏について行けるようになったとすれば、それは「生身の人間の生活を軽視し、大義や筋論などの抽象的なものを優先する」及び「勧善懲悪・破邪顕正的な二項対立」という日本的発想との間で何らかの折り合いがつけられたということになるでしょう。

また、「今日のウクライナは明日の台湾・沖縄」というスローガンと関連して、台湾情勢の動きに伴って「戦時プロパガンダの予行演習」にどのような変化がみられるのかについても取り上げたいと考えています。メディア論的な切り口とともに防衛省関係者たちの実力が如何ほどのものであるのかを見るという切り口で取り上げたいと思っています。

来年も引き続きロシアのウクライナ侵攻を巡る日本世論の状況、日本メディアの報道姿勢について取り上げてまいりたいと考えています。
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チュチェ112(2023)年を振り返る(1):朝鮮民主主義人民共和国創建75周年、国家経済発展5か年計画3年目、祖国解放戦争戦勝70周年のそれぞれの意味

今年も例年どおり、過去ログの読み返しを通して一年間の出来事を振り返りたいと思います。その第1弾として、朝鮮民主主義人民共和国の動向及びチュチェ思想について、今年一年間当ブログで執筆した内容と関連事項を振り返ます。

■朝鮮民主主義人民共和国創建75周年
まず今年は、朝鮮民主主義人民共和国創建75周年の記念すべき年でした。

9月9日づけ「人類史において貴重な経験としての朝鮮民主主義人民共和国の75年間」においても述べたとおり、共和国はソビエト連邦よりも長い歴史を刻んでいます。この生命力の源はいったい何処にあるのかと考えたとき当ブログは、徹底的に人民に依拠した国である点にあると考えます。共和国の75年は、対内的な固い結束の歴史として、また、対外的自主性の勝利の歴史として総括できると考えます。

○対内的な固い結束の歴史として共和国の75年
対内的な固い結束の歴史として共和国の75年を振り返るとき、建国前の土地改革、灰燼に帰した祖国解放戦争後の復興、チョルリマ(千里馬)運動、1960年代の著しい内憂外患、1990年代の「苦難の行軍」、そして先般の新型コロナウイルス禍といったさまざまな困難、日本のような国であればもう何度も政権崩壊しているような苦難を共和国はすべて克服してきましたが、その背景には、党と国家、人民大衆の非常に密な関係性の存在を指摘せずにはいられません。

ソ連が硬直的な中央集権的指令経済に堕して瓦解の道を歩んで革命から74年で瓦解したのに対して、共和国がそれよりも長い歴史を刻み続けてこられたのは、このような革命的大衆路線に拠るところが非常に大であると考えます。党や国家が人民大衆の上に君臨して指令を下すのではなく、大衆とともに問題解決策を探る革命的大衆路線を採用することで困難を突破してきたと考えられるのです。

革命的大衆路線は、もともとはマルクス・レーニン主義の朝鮮における適用の一環として始められたものですが、時代が下がるにつれてその創造的側面が強くなりました。朝鮮式社会主義の本質というべき社会政治的生命体論は、革命的大衆路線の発展形態として位置づけることができるでしょう。

社会政治的生命体においては、人間どうしは同志愛と革命的義理心に基づいた道徳義理的団結によって有機体的に結び付けられています。これは「自由と平等」を前提としつつそれよりも一段高みにある関係性であり、すなわち、社会的存在としての人間が幸福に生きるための人生観の基礎です。社会政治的生命体論は、また、「首領・党・人民大衆が三位一体的な統一体を構成することで革命の主体が形成され、そうした統一体が主体として運動を展開することで人類史が前進する」という見解に立っていますが、この見方はミクロとマクロを一体化させたシステム的な主体の定義となっており、社会主義理論において人間を革命の主体として復権させた正しい理論であるとも考えています。

○同志愛と革命的義理心に基づいた道徳義理的団結を取り結ぶことが如何に社会の強靭さを培うか
社会的存在としての人間が幸福に生きるための人生観の問題は、現代日本において非常に深刻な問題となっています。そうした社会情勢の典型的な表れのひとつが、東京新宿歌舞伎町で展開されるトー横キッズの存在、すなわち昨今の居場所づくり問題だと言えるでしょう。

居場所の問題は、つまるところ個人と集団との関係性の問題に行きつきます。個人として単独で生きていくのか、集団の輪に加わって共に生きていくのかという問題です。トー横キッズたちの存在・居場所づくり問題は、人間は、集団の輪に加わって共に生きていくことを求めるものであり、そこにこそ人間としての幸福があることを示しているものと考えます。人間どうしが同志愛と革命的義理心に基づいた道徳義理的団結を取り結ぶことの必要性を現代日本社会は示しているものと考えます。

現代日本社会における人生観問題・人間関係問題を考えるにあたっては、朝鮮式社会主義の本質的特徴としての社会政治的生命体論から学べることは非常に多いと当ブログは考えます。前述のとおり、日本のような国であればもう何度も政権崩壊しているような苦難を共和国は経験してきましたが、それらすべてを団結によって克服してきたわけです。なおかつ、共和国では居場所問題などまったく議題には上がっていません。固い団結があるのです。

同志愛と革命的義理心に基づいた道徳義理的団結を取り結ぶことが如何に社会の強靭さを培うのかを、朝鮮民主主義人民共和国の75年間は示しています。

○対外的自主性の勝利の歴史として共和国の75年
対外的自主性の勝利の歴史として共和国の75年を振り返るとき、米欧帝国主義諸国の軍事的圧迫と経済的封鎖のみならずソ連や新中国の覇権主義的な干渉にも徹底的に対抗することで「朝鮮革命の主人は朝鮮人である」という立場を共和国は固く守り抜いています

ここ最近、アフリカの旧フランス植民地諸国で政変が相次いでいます。フランスの新植民地主義的支配に風穴が空きつつあります。ある国・民族が他国の支配や干渉から独立して自主的に生きるためには、「思想における主体、政治における自主、経済における自立、国防における自衛」というチュチェ思想の基本テーゼを実現する必要がありますが、アフリカの旧フランス植民地諸国での政変は、直接のイデオロギー的な関連性は乏しいでしょうが、対外的自主性を何よりも重視する共和国の姿勢と結果的に通ずるものがあると言えます。朝鮮民主主義人民共和国の75年は、フランスの新植民地主義的支配に風穴をあけたアフリカ人民による最近の闘争に先駆けるものであると言えるのです。

中東情勢を巡っても世界の反帝自主闘争において朝鮮民主主義人民共和国が占める位置が非常によく現れています。10月31日づけ「反帝自主闘争における朝鮮民主主義人民共和国と社会主義・共産主義運動の位置」で取り上げたとおり、ヨルダン川西岸地区での反米デモで、キム・ジョンウン同志の肖像画が登場して話題になりました。共和国が建国以来一貫してアメリカ帝国との厳しい戦いの最前線に立ち続けてきた歴史的事実を、世界の反帝自主闘士たちはよく知っているのです。

○人類史において貴重な経験としての共和国の75年
対内的な固い結束の歴史としての朝鮮民主主義人民共和国の75年は、同志愛と革命的義理心に基づいた道徳義理的団結を取り結ぶことが如何に社会の強靭さを培うのかを示すものであると言えます。また、対外的自主性の勝利の歴史としての朝鮮民主主義人民共和国の75年は、中東での反米デモにキム・ジョンウン同志の肖像画が登場したことや、フランスの新植民地主義的支配に風穴をあけたアフリカ人民による最近の闘争に先駆けるものであると言える点において、反帝自主闘争における顕著な業績であると言えます。この75年間に朝鮮民主主義人民共和国が苦労に苦労を重ねて実践・実現してきたことは、人類史において貴重な経験なのです。

■国家経済発展5か年計画3年目
次に今年は、一昨年1月の朝鮮労働党第8回党大会で提示された国家経済発展5か年計画の3年目の年でした。

一昨年1月の朝鮮労働党第8回党大会での報告でキム・ジョンウン同志は、新たな5か年計画の期間に人民の食衣住問題の解決で必ず突破口を開き、人民が肌で感じられる実際の変化と革新を起こすという決心を明示なさっています。新型コロナウイルスとの防疫大戦のなかでもこの旗印は決して降ろされることなく今日まで経済建設が続いてます。

昨年末の朝鮮労働党中央委員会第8期第6回総会拡大会議においては、国防関係よりも先に経済建設および文化建設における成果が総括されましたが、年始より経済部門への注力が予想されていました。今年、共和国の経済各部門は、党大会で提示された整備補強戦略に従って持続的・安定的な生産のための土台を整えながら増産にも取り組んできました

○農業部門と工業部門での整備補強と増産
農業部門においては、2月下旬から3月初旬にかけて「農業特別総会」というべき党中央委員会第8期第7回総会拡大会議が開催されました。3月6日づけ「「農業特別総会」としての朝鮮労働党中央委員会第8期第7回総会拡大会議について」で取り上げたとおり、当該会議の議題は、灌漑設備の完備・高能率農業機械の増産・干拓地の開墾・耕地面積の拡大といった経済学的な意味における長期の政策、一朝一夕にはなし得ない物的生産力拡大のための投資に関するものが目立ったことが注目点でした。また、精神論の鼓舞ではなく物的生産力増大のための投資への具体的な言及が中心だったことも注目点でした。さらに、「売り惜しみとの闘争」と思しき議題が上がったものの、それが統制経済への回帰というほどのものではなさそうだということも注目点でした。

共和国の農業部門は、党中央委員会第8期第7回総会拡大会議で提示された方針を元に一年間活動してきたと言えます。その結果、各地の農場で増産に成功したという報告が届いています。この背景には、農業の機械化や植物活性剤の投入といった要素もあるようですが、何よりも灌漑設備の建設が今夏までに基本的に終わったことで干ばつや浸水への対策が打てるようになったことが大きかったといいます。たとえば、カンウォン道に台風6号が直撃し大きな被害が発生しましたが、キム・ジョンウン同志自ら現地指導し迅速に復旧を果たしました。今秋以降、朝露両国が急接近していますが、プーチン・ロシア大統領との首脳会談においてキム・ジョンウン同志は食糧援助を要請しませんでした。必要なかったのです。このことは、公式発表がいうほどの増産成功だったかはさておき、10月11日づけ「「北朝鮮」では餓死者が続出しているのか? そう言い切ることは実態を理解することを妨げるのではないか?」で述べたとおり、「食糧不足で飢餓が広がっている」というほどではないことを示していると思われます。

農業部門への国家的テコ入れの強化については、生産現場の裁量権を拡大する方向に進んでいた政策の見直し・国家統制の強化ではないかという見方もあり得ます。このことについて当ブログでは、8月14日づけ「共和国の農業戦線における国家統制の強化について」において、たしかに国家関与が拡大される方向に進みつつあることは否定しえないことだが、このことが如何なる指向性を持ったものであるのかは測りかねるものとしました。依然として甫田担当責任制は否定されておらず、まだ微調整・匙加減の域であるように見受けられるからです。

当該記事では、朝鮮総聯機関紙『朝鮮新報』編集局長による社会主義企業責任管理制に関する解説記事を理解の補助線としつつ、ここ最近の国家関与の拡大は、農業投資を拡大し戦略的に拡大再生産を展開するためであると考えました。外部からの投資が望めない中で生産を正常化・拡大化させるためには、他に投資主体が存在しない以上は国家が主導する他ありません。甫田責任管理制が根本的に変質しつつあるわけではないと当ブログは考えます。

もちろん今後も、国家の統一的な指導が具体的にどのような水準で展開されるのかに注目が必要でしょう。どこまで国家介入が緩和されるのかに注目する必要があるということです。あくまでも社会主義経済の旗印を維持しつつどこまで国家介入のレベルを緩和するのかという問題は、分断国家としての朝鮮民主主義人民共和国のアイデンティティに関わってくるからでもあります。

工業部門では、5月にハムギョン南道のテフン青年英雄鉱山でマグネシアクリンカー生産に成功しました。鉄鋼やセメント、ガラス等の製造に必要な耐火物生産にとって重要な前進です。10月にはピョンアン北道の「12月5日青年鉱山」で炭酸ナトリウム生産のための結晶芒硝生産工程が完工したといいます。これも建築資材の供給において重要な意味があります。整備補強戦略を推進するにあたって必要な段取りが着実に組まれています

○人民生活に密接にかかわる諸部門での成果
また今年は、住宅建設や余暇・娯楽施設建設、軽工業などの人民生活に密接にかかわる諸部門でも成果が強調されています。

ピョンヤン市ファソン区域の住宅建設はかねてより知られたことですが、今年は地方部・農村部でも文化的な住宅の建設が進み、また、勤労者大衆の休息のための余暇・娯楽施設も次々と建設されました。また、10月25日から11月21日の日程で軽工業製品展示会「軽工業発展―2023」が開催され、洗練されたパッケージの食料品やアパレル製品、家具・家電製品といった生活に密着した諸々の消費財の生産が強調されました。6月22日づけ「乳製品供給事業を特筆した朝鮮労働党中央委員会第8期第8回総会拡大会議について」で取り上げたとおり、6月の党中央委員会第8期第8回総会拡大会議では、子どもたちに対する乳製品の供給について特別に取り上げられました。

公式発表以外にも、たとえば「漂着ゴミ」からも人民生活に密接にかかわる諸部門での上々の成果を推察できます。3月23日づけ「NHK「おはよう日本」の「”漂着ゴミ”から読み解く北朝鮮」について:自分たちの方法が先進的で唯一絶対に正しいと思い上がっている西側メディアとしてのNHKの限界、共和国を悪しざまに言おうとするあまり、日本でもそれほど珍しいとは言い難いことに難癖をつけたNHK」で論じました。NHK「おはよう日本」が3月22日朝に放送した「”漂着ゴミ”から読み解く北朝鮮」という特集に関する記事です。

番組は、韓「国」トンア大学のカン・ドンワン教授がかねてより取り組んできた、漂着ゴミを通した共和国の消費生活分析にスポットライトを当てる内容でした。研究の着目点は非常に鋭く正しいものであると当ブログも思います。店の棚いっぱいに並べられた商品の写真や映像は宣伝として誇張できても、どこに流れ着くか分からない漂着ゴミは誇張できないからです。漂着ゴミは生活水準のバロメーターであると言えます。

番組では、ハローキティそっくりのキャラクターがプリントされた菓子袋や「辛ラーメン」を模したと思しき即席麵の袋を取り上げた上で「パッケージにあらわれたデザインの変化から北朝鮮経済の変化」が見られるとし、「キム・ジョンウン政権下で市場での取引は一段と活発になっています」「いまや中国からの輸入品は庶民にも身近なものになったと見られています」「国外の商品に触れた人々のニーズの変化を、党や国家がもはや無視できなくなってきた状況がゴミにあらわれている」としました。

市場を抜きにして北朝鮮を語ることは難しい」「資本主義のやり方で消費者から選択されるための広告文句やデザインが使われている」「北朝鮮の市場経済の様子をしっかりと表している」といったくだりが番組ではあり、こうした見方については、当該記事で述べたように誤った見方である(これこそが現代の朝鮮式社会主義である)と考えますが、共和国の消費生活において著しい変化が生じていることは明らかであると遂にNHKも認めたわけです。

○第8回党大会における「実際の変化」の真意
整備補強戦略に関する成果も勿論大切ですが、当ブログは、地方部・農村部での文化的住宅の建設や勤労者大衆の休息のための余暇・娯楽施設建設、生活に密着した諸々の消費財の生産にこそ注目する必要があると考えます。12月30日づけ「諦観とソ連崩壊、その轍は踏むまいとする朝鮮労働党」で述べたとおり、日常生活が変化・向上するからこそ「よりよい暮らしが可能だ」と希望を持って更なる生産活動に従事できるからです。

アメリカの敵対的な経済封鎖と新型コロナウイルス禍からの回復という喫緊の課題を突破するために全力を傾けなければならない状況においては、何を措いても生産能力の向上に注力しなければならないように考えがちであり、必ずしも生産能力の向上に資するものではない文化的住宅の建設や余暇・娯楽施設建設、洗練されたパッケージの食料品やアパレル製品、家具・家電製品の生産は枝葉的に考えられがちです。

しかしながら、当該記事で述べたとおり、ソ連末期の社会状況を鑑みるに、人々の生活上の「諦め」が西側を崇拝する意識を強めて社会主義を放棄し連邦崩壊に繋がったことを考えると、人々の日々の生活に潤いと楽しみを与える諸事業への注力は、非常に重要な取り組みであると言えます。

詳細はいまひとつハッキリしていませんが、3月6日づけ「「農業特別総会」としての朝鮮労働党中央委員会第8期第7回総会拡大会議について」で取り上げたとおり、今春の最高人民会議では、労働報酬基準法が改訂されたといいます。朝鮮中央通信によると、≪로동보수기준의 갱신과 생활비, 상금, 장려금의 계산지불, 로동보수지불확인을 비롯한 로동보수사업에서 제도와 질서를 더욱 엄격히 세우기 위한 내용들이 로동보수법에 보충되여 근로자들의 편의를 최대한 보장하는데 기여할수 있게 되였다.≫(労働報酬基準の更新と生活費、賞金、奨励金の計算支払い、労働報酬支払い確認をはじめとする労働報酬事業で制度と秩序をより厳格に立てるための内容が労働報酬法に補充され、労働者の便宜を最大限保障することに寄与できるようになった)とのこと。社会主義企業責任管理制においては悪平等的な報酬体系を改善して物質的・金銭的方法での勤労意欲の向上が図られているとかねてより指摘されていますが、この法改正もまたその文脈のものであると思われます。これもまた「よりよい暮らしが可能だ」と希望を持って更なる生産活動に従事させるための方策であると考えられます。

キム・ジョンウン同志が第8回党大会で言明された「実際の変化」とは、住宅や日用品に変化を起こし日常生活において実際的な変化を実現させることで、諦観が社会を支配することを防ぎながら社会主義建設において更なる飛躍に繋げようとしていると言えます。そう考えると、12月17日づけ「宇宙開発や新世紀産業革命などの種まき業績が定式化されるようになった――キム・ジョンイル総書記逝去から12年」でも述べましたが、キム・ジョンイル同志の逝去公告ではあまり大きくは触れられなかった宇宙開発や新世紀産業革命といった業績が近年、「将軍様は種をまかれた」という文脈で言及されるようになりましたが、このことはすなわち、これらの事業において一定の成果が上がってきたことを示しているものと思われます。つまり、共和国経済の状況は徐々に改善されつつあると言えるでしょう。

■祖国解放戦争戦勝70周年
そして今年は、祖国解放戦争(朝鮮戦争)戦勝70周年の記念すべき年でした。

祖国解放戦争での共和国の勝利、史上初めてアメリカが他国に膝を屈した祖国解放戦争の停戦は、世界の反帝自主闘争にとって重要な意義を持ちます。その70年目の節目の年である今年は、朝鮮総聯機関紙『朝鮮新報』は「〈金正恩総書記の活動・2023年7月〉戦勝70年、中ロとの結束を誇示」(2023年08月08日 13:22)において「金正恩総書記は中ロの代表らと共に祝い、反帝・自主の闘いにおける結束を内外に誇示した」と指摘しているように、朝中露の3か国が戦略・戦術的協同を改めて強化することを確認する契機になっています。

○朝露の急接近
今年の共和国の軍事活動については、軍事偵察衛星の発射や弾道ミサイル発射といった成果にも注目すべきですが、何よりもロシアとの関係が急速に深まったことに注目したいと思います。

7月28日づけ「『労働新聞』記事に掲載された「プーチン同志」「ショイグ同志」という表現が意味することについて」では、党機関紙『労働新聞』がロシアのプーチン大統領を「プーチン同志」と表記したことについて取り上げました。中国やベトナム、ラオスなどの社会主義諸国の要人を「同志」と呼びかけるのは通常のことですが、ロシアは社会主義国ではないのでプーチン大統領を「同志」扱いするのは異例です。

9月の首脳会談を経てからは更に関係が深まったようで、12月18日づけ「朝露関係のさらなる深化――統一ロシア大会への祝電における「プーチン大統領同志」表現」で取り上げたとおり、朝鮮労働党中央委員会は、ロシアの政権与党「統一ロシア」大会への祝電においても「プーチン同志」という表現を用いました。「統一ロシア」大会は政権与党の党大会であり、西側諸国との対決決起集会というわけではありません。戦勝記念日にそうするとは訳が違うはずのところ、「プーチン同志」宛に祝電を送ったわけです。深度ある急接近です。

またこのときは、7月の報道においては日本語版では「同志」という表現を使わなかったところ、日本語版でも「同志」をという表現を使うようになりました。このあたりの微妙な語句の使い分けに重要な意味を持たせるのが共和国のお国柄。日本語と朝鮮語の両方を解する方ならご理解いただけると思いますが、共和国メディアの日本語版記事は、朝鮮語版記事と見比べると「真意を測りかねる興味深い部分」に限って端折られていますよね。朝露関係の深化を大々的に誇示・宣伝する意図は明白です。

ところで、共和国においては政治と音楽が非常に深い関係にあります。キム・ジョンイル同志はかつて「私の初恋は音楽でした」と仰いましたが、音楽と統治とを結び付けられたからです。以前から主張してきているとおり、共和国は「音楽政治」の国であると言ってよいと考えています。そんな音楽政治は、キム・ジョンウン同志にも受け継がれています。チュチェ91(2002)年に朝露合作として披露された≪우리 친선 영원하리≫(われらの親善、永遠なれ)が、歌詞を新たにして再演奏されるようになったのです。
  旧歌詞の日本語訳及び、日本の趣味者による歌詞解説:https://wsdprk.blogspot.com/2015/04/urie-chinson-yongwonhari.html
  新歌詞の日本語訳及び、音源(YouTube動画):https://www.youtube.com/watch?v=nh2MbyyHrfo
朝露関係深化の最も顕著な一例であると言えます。

○朝露急接近はアメリカの世界戦略の行き詰まり
9月18日づけ「朝露接近と朝日関係」でも指摘したとおり、共和国は単にロシアに接近しただけではなく、かなり緊密な連携を目指し、その方向性を確立したものと言えるでしょう。そしてそのことは、アメリカの世界戦略の行き詰まり、及び、「困ったときの拉致問題頼み」に手を出そうとしていた日本の岸田政権の持ち札喪失を意味します。

アメリカの世界戦略の行き詰まりについて申し上げましょう。アメリカはいま、本命の対中国対決に備えながら既に火を噴いている対ロシア対決に奔走しています。イランも軽視できません。さらに最近はパレスチナにおいても戦火が燃え上っています。いくら「世界最強」のアメリカといえども、あちこちで戦争や紛争が多発していては「各個撃破」しきれるものではありません。そんななか、朝中露の反米3か国が結束の兆しを見せつつあることは非常に悩ましいことであるはず。そしてそれは、アメリカの形振り構わぬ近視眼的な行動の積み重ねであるという点において「身から出た錆」以外の何者でもありません。アメリカの世界戦略の行き詰まりという他ないでしょう。

○朝露急接近は岸田政権の持ち札喪失
「困ったときの拉致問題頼み」に手を出そうとしていた日本の岸田政権の持ち札喪失について申し上げましょう。ここ20年あまりの朝日交渉を振り返るに、「拉致問題は解決済み」という立場を一貫してとってきた共和国を再び交渉のテーブルに呼び戻すためには、相当の見返りが必要だと言わざるを得ません。

しかし、今般の朝露急接近を見るに、共和国が当面必要とする技術や物資がロシアから導入できる道筋が見えてきました。そうなると、もはや日本に割って入る余地はほとんどないと見なすべきでしょう。「文藝春秋」10月号に掲載された飯島勲氏の極秘訪朝交渉録を読みましたが、要するに「死亡しているとした拉致被害者の生存を認めて帰国させれば日本は経済援助をする。そうすれば共和国の経済状況は一気に好転するだろう」と繰り返していただけ。しかし経済援助は今やロシアから入手できるようになったのだから、「国内世論が強硬なもんで・・・」と言いかねない日本などもはや用なしなのです。

朝露急接近の少し前の5月末、思い付きだったのでしょうか、岸田首相は急に朝日交渉への意欲を表明しました。それに対して共和国政府が間髪おかず「会えない理由はない」と反応したのに舞い上がった日本政府は、共和国政府が当初からの牽制球として投げてきた「日本は「前提条件のない首脳会談」について言っているが、実際においてはすでに解決済みの拉致問題とわが国家の自衛権について何らかの問題解決をうんぬんし、朝日関係改善の前提条件として持ち出している」とか「先行の政権の方式で実現不可能な欲望を解決してみようと試みるのなら、それは誤算であり、無駄な時間の浪費になるであろう」(https://www.coreanews.net/entry/2023/05/29/204402)などを読み飛ばし・読み落として暴走を開始。6月26日づけ「岸田首相の対話呼び掛けに即座に反応があったからといって、拉致問題が日本当局の望む方向に動く展望はないと言わざるを得ない」でも取り上げたとおり、拉致被害者の曽我ひとみさんと首相官邸で面会する調整に入るほどに浮足立ちました。

他人の話をちゃんと聞いていない岸田政権に対して共和国政府は、6月28日づけ「「現時点においては岸田内閣を相手にしない」と言っていると思しきリ・ビョンドク共和国日本研究所研究員の談話について」で取り上げたとおり、「「被害者全員帰国」が実現しなければ拉致問題の解決などあり得ないと強情を張るのは、死んだ人を生かせというふうの空しい妄想にすぎないということを日本は銘記すべきである」という、どんなおバカさんにでも分かるような明白な談話を発表。岸田首相は予想どおりニワカ者だったので一気にトーンダウン。9月以降の朝露の急速かつ深度ある接近もあってその後、今に至るまでこの話は有耶無耶になっています。

○朝日関係の門戸は完全には閉ざされていない
なお、6月28日づけ記事でも書いたとおり、リ・ビョンドク共和国日本研究所研究員の談話の談話からは、「我々は、拉致問題について『日本国民』に対して誠意ある努力を展開してきた。しかし、『日本の執権層』は、特定失踪者問題に顕著に表れているように、この問題を口実に拉致産業をこしらえて拉致予算を蕩尽している」という共和国政府の理解が見えてきます。執権者と人民大衆とを分けて考えるというのは、社会主義・共産主義においては正道というべき理解の枠組みですが、このことはすなわち、「現時点においては岸田政権を相手にしないが、将来的には日本国民の代表と対話する用意がある」と言っていると考えることが可能です。門戸が完全に閉ざされているわけではないと当ブログは考えます。

■総括
対内的な固い結束の歴史としての朝鮮民主主義人民共和国の75年は、同志愛と革命的義理心に基づいた道徳義理的団結を取り結ぶことが如何に社会の強靭さを培うのかを示しています。対外的自主性の勝利の歴史としての朝鮮民主主義人民共和国の75年は、中東での反米デモにキム・ジョンウン同志の肖像画が登場したことや、フランスの新植民地主義的支配に風穴をあけたアフリカ人民による最近の闘争に先駆けるものであると言える点において、反帝自主闘争における顕著な業績であると言えます。この75年間に朝鮮民主主義人民共和国が苦労に苦労を重ねて実践・実現してきたことは、人類史において貴重な経験です。

キム・ジョンウン同志が第8回党大会で言明された「実際の変化」とは、住宅や日用品に変化を起こし日常生活において実際的な変化を実現させることで、諦観が社会を支配することを防ぎながら社会主義建設において更なる飛躍に繋げようとしていると言えます。キム・ジョンイル同志の逝去公告ではあまり大きくは触れられなかった宇宙開発や新世紀産業革命といった業績が近年、「将軍様は種をまかれた」という文脈で言及されるようになりましたが、このことはすなわち、これらの事業において一定の成果が上がってきたことを示しており、つまり、共和国経済の状況は徐々に改善されつつあると言えます。

祖国解放戦争戦勝70周年の諸行事は、朝中露3か国が戦略・戦術的協同強化を改めて確認する契機になりました。このことは、アメリカの世界戦略の行き詰まり、及び、「困ったときの拉致問題頼み」に手を出そうとしていた日本の岸田政権の持ち札喪失を意味します。しかしながら、「現時点においては岸田政権を相手にしないが、将来的には日本国民の代表と対話する用意がある」と言っているものと考えることができる共和国政府談話を鑑みるに、朝日関係において門戸は完全に閉ざされているわけではないでしょう。
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2023年12月30日

諦観とソ連崩壊、その轍は踏むまいとする朝鮮労働党

https://news.yahoo.co.jp/articles/043ef6f4bc0a381abba541c70f9608cd5c971346
崩壊直前の1991年6月のソ連にて…「ビッグマックに大行列、ワイロとチップがものをいう…これが社会主義というものだ」
12/19(火) 8:01配信
集英社オンライン

(中略)
ビッグマックを食べたいロシア人
ロシア人たちはどこへ行っても長い長い行列を作ってものを買うわけですが、外国人はドルとかクレジットカードを持っているがゆえにそういうところでものが買える。

(中略)
何人かの学生と話をしたんですが、彼らは西側の価値観を100%礼賛していて、できるならば亡命したいとまで言う。アメリカは難しいと思うが、オーストラリアはどうか? いや、南アフリカやイスラエルでもいいが、などと本気で聞かれると、ちょっと何と答えたらいいのか困ってしまいます。

例えば日本の常識じゃ考えられないような理不尽な目に遭うとするでしょ。そうすると「どうしてだ?」と若い人たちに聞くと、決まって「これが社会主義というものさ」(エータ・ソツィアリズム)と答える。

飛行機移動にはワイロが必須
アエロフロートで国内を移動すると、各空港では大抵イヤな経験をする。機内への荷物持ち込みの重量制限が極端に厳しいため、僕らの場合大体が重量オーバーになる。そういう時、空港の職員は必ずと言っていいほど、「タバコ持ってるか?」とワイロ(=タバコ)を要求する。

「こういう不正を誰か咎めたりチェックしたりする奴はいないのか?」と言うと、「仕方のないことだ。彼の責任ではない。これは社会のシステムが悪いのだ。エータ・ソツィアリズム」と諦めたように言うわけです。

彼の説明はこうです。空港職員の給料だけでは家計が苦しい。もともと機内持ち込みが極端に厳しい法律自体が理不尽なのだ。あの場で職員とケンカをすると正規のバカ高い(といっても日本で考えると安い)超過料金を支払ったうえ、預けた荷物が届く保証はない。

「そうすると、あのようなことが変わるきっかけとして誰が一体最初に異議を申し立てるのか?」と興奮気味に尋ねると「さあね。知らない。これが社会主義だから。彼のようにワイロをとって生きようがクソ真面目に働こうが給料は同じだからね。家族のことを考えるとワイロを要求する彼の方がエライと思うよ」。
ソ連崩壊直前の経済危機と、人々の諦めたような「これが社会主義」発言。もとより社会主義・共産主義は未来社会論であるところ諦めの空気が社会を支配しているようでは、8月クーデターが仮に成功していたとしても、ソ連は手遅れだったのでしょう。

この記事を読んでふと思ったのは、ソ連よりも長い歴史を刻んでいる朝鮮民主主義人民共和国のこと。近頃、共和国では、首都のみならず地方都市でも文化的な住宅や勤労者大衆の休息のための娯楽施設が次々と建設されています。また、3月23日づけ記事でも取り上げたとおり、消費財の広告文句やパッケージデザインがますます洗練されています。

朝鮮労働党は今、整備・補強戦略、つまり生産財に対する重点的な投資を行うことで自立経済の土台を再整備していますが、同時並行的に推進している文化的な住宅や娯楽施設の建設、消費財の広告文句やパッケージデザインへの注力は、整備・補強戦略とは直接的には関係はありません。アメリカの敵対的な経済封鎖と新型コロナウイルス禍からの回復という喫緊の課題を突破するために全力を傾けなければならない状況においては、必ずしも生産能力の向上に資するものではないことにも並行して手を出すことは、枝葉的に見えなくもありません

しかしながら、崩壊直前のソ連社会を覆った生活上の諦観、そしてそれがソ連人民の西側崇拝意識を強めて結果的にソ連崩壊をもたらしたことを考えると、必ずしも生産能力の向上に資するものではないが人々の日々の生活に潤いと楽しみを与える諸事業への注力は、非常に重要な取り組みであると言えます。日常生活が変化・向上するからこそ「よりよい暮らしが可能だ」と希望を持って生産活動に従事できるものです。

私自身、そのお言葉の深奥な意味合いを当時十分に理解していなかったと猛省しているところですが、一昨年1月の朝鮮労働党第8回大会で元帥様が言及なさった「実際の変化」という言葉は、こんにちの共和国の経済建設における重要なキーワードであります。同大会で元帥様は「新たな5カ年計画の期間に人民の食衣住問題の解決で必ず突破口を開き、人民が肌で感じられる実際の変化と革新を起こすというわが党の確固たる決心」と言明されました。人民の住まいや日用品など、生活水準において実際的な変化を実現させることで、諦観が社会を支配することを防ぎながら社会主義建設において更なる飛躍に繋げようとしているわけです。

ここにおいて注目すべきは、経済を社会の一部として位置づけつつ個人的利益と集団的利益をともに実現させてもいる均衡のとれた計画が推進されていること。これがたとえば日本だと経済政策と社会政策がバラバラに行われることでしょうし、個人的利益と集団的利益とを両立させることなど意図さえもしないでしょう。NHKクローズアップ現代が東京都港区の市街地再開発事例として「再開発はしたけれど 徹底検証・まちづくりの“落とし穴”」で取り上げているように、社会経済活動を統一的に指揮し、ときに脱法的な企業の行動を取り締まるという本来的な役割を果たさない例が確認されています。いくら「民間活力の活用」という国策に逆らえないとはいっても、行政は民間企業に対して指導的立ち位置を譲り渡してはならないはずです。やること為すことが悉くバラバラで有機的連関を持っておらず、自己の立ち位置を自ら放棄するような日本と対比するとき、共和国の確固とした姿勢が際立ちます。

国家経済発展5カ年計画の折り返しを迎えたチュチェ112(2023)年。かつて「どうせピョンヤンだけでしょ」と言われていた共和国の経済建設ですが、今やそんなことは言わせない成果が元帥様の執権下において続々と挙げられています。そして、生活が実際に変化・向上することは、人々をして諦観を打破して希望を抱かしめることになります。このことは、ソ連崩壊の経過を踏まえるに、社会主義体制を維持・発展させるためには非常に大切なことなのです。
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2023年12月29日

社畜根性極まれり

https://news.yahoo.co.jp/articles/6b341a5eff0de41dd561fd68fc4da751a3d7eadc
「富士そば」が年末年始に休む理由 年越しそばの需要はあっても…
12/26(火) 7:00配信
withnews

(中略)
そばというと年末の「年越しそば」のイメージが根強くありますが、実は富士そばでは、毎年12月31日午後3時ごろから1月4日まで、全店で休業しています。

かき入れ時≠ニも思える時期に、いつから年末年始の休業日を設けているのか、近年の働き方改革の一環なのかーー。広報担当者に聞くと、はっきりと始まった年はわからないものの、「年末年始の休業は、ずっと続いています」とのこと。

ただ、10年ほど前までは、「一部の店舗で元旦の正午ごろまで営業をしていることがあった」といいます。

(中略)
休業理由は創業者のポリシー
近年、コロナ禍などを背景に、小売業などで年末年始休業の動きがあります。

2022年には食品スーパーを首都圏で展開するサミットが「社員の“元気”充電のため」として三が日はほぼ全店で休業。今年は、ファッションビルを運営する丸井グループが、従業員の働き方を見直すなどの理由から大半の店舗を三が日は休業しました。

かたや、富士そばは年末年始の休業について「近年の働き方改革の影響があるわけではない」といいます。

「休業の理由は、創業者(丹道夫会長)の『年末・正月くらいは、家族でくつろいだほうが良い』という思いからくるもので、深い理由もトリビア的なものも何一つございません」

社会的な働き方改革の号令がかかる前から、独自にワークライフバランスを保ってきた富士そば。今後もこの方針に変わりはないそうです。
新型コロナウイルス禍(コロナ禍)において大きな変化があった今年。年末に「正月三が日の店舗開店」が働き方改革の文脈で話題になるあたり、かつての日常に着実に戻りつつあるようです(コロナ禍の真っ只中では、「働き方改革」どころか「仕事がない」「シフトに入れない」でしたから)。

しかしながら、コロナ禍以前と様相が大きく異なっているのは、労働市場が需要過多つまり働き手不足であるところ。それゆえ働き方改革は、労働時間の短さや休みの取りやすさ、給与・賞与、福利厚生といった労働者にとっての働きやすさの文脈で語られるようになりました。かつては労働力需要が必ずしも多くはなかったので、労働者は足許を見られてその労働力を安く買い叩かれたり長時間労働を強いられたり、甚だしくは給料未払いが発生したりしていました。それゆえ働き方改革は、長時間労働との闘いという文脈で語られることが多かったものです。労働問題を「自主権の問題としての労働問題」として位置付け労働者階級の立場に立っている当ブログとしては、労働者階級の立場が強化されつつあることは非常に好ましいことであると考えています。

そんな時代背景において出てきた上掲記事。「創業者のポリシー」を云々していますが、単純に、富士そばの主な客層はサラリーマンや中高年層であり、それゆえ年越し蕎麦市場に食い込み切れておらず、年末年始期間に従業員を雇って店を開けてもそれに見合う儲けが出ないだけでしょう。サラリーマンや中高年層が年に一度の年越し蕎麦を、立ち食い蕎麦の系譜に位置する富士そばで済ませなければならないほど困窮してはいないでしょうし、本当に困窮している人たちはそもそも年越し蕎麦を食べてはいないでしょう。

「年末・正月くらいは、家族でくつろいだほうが良い」などといって良い格好したいのならば、「人間は夜は寝るものだ」という真理に即して24時間営業を止めた方がもっと喝采を得られることでしょう。でも、そうはしない。やはり、真相は単純に年末年始期間は儲けにならないだけだと思われます

にもかかわらず、コメ欄では「創業者のポリシー」なるものを称えるコメントが占めています。「素晴らしいポリシーをお持ちの会長さんですね。従業員の方たちを大事にされているホワイト企業とお見受けしました」などという「関係者の仕込みかな?」と疑念を持たざるを得ないようなコメントまで見られます。未払い賃金の支払いを求めた労組員を懲戒解雇(東京地裁では無効と審判)したり、コロナ禍での雇用調整助成金を不正受給するような会社が「ホワイト」なわけがなかろうに。

労働需要過多に起因する労使関係における力関係の変化、労働者階級の交渉力の向上による社会変化も、「企業の温情」として位置づけられる我らがニッポン社会。社畜根性極まれり。
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2023年12月25日

カッコなしの大韓民国表現が現れるようになった意味

12月18日づけ「朝露関係のさらなる深化――統一ロシア大会への祝電における「プーチン大統領同志」表現」のコメント欄に、読者のぐうさんから次のコメントを頂戴しました。コメントありがとうございます。
最近は共和国の談話などでカッコも付けずに大韓民国と呼称する事が多いですが、それにはどの様な意味が込められているのでしょうか
非常に重要な問題提起だと思います。私は決して専門家ではないし総聯の有力活動家でもありませんが、私なりに考えてみました。いただいたコメントへのお返事を兼ねて今回はこのことについて取り上げたいと思います。

いままで、大韓民国をカッコをつきで表記・表現してきたことについては、以前の記事(http://rsmp.seesaa.net/article/500094911.html)で述べたとおり「所詮傀儡なのに、ひとかどの独立国家を気取っているぞ(笑)」といった揶揄の意味が込められていると考えられます。では、最近になってカッコを外すようになったことを以って「大韓民国を独立国家として認めた」のかと言えば、9日づけ朝鮮中央通信がカッコなしの大韓民国表現と윤석열괴뢰(ユン・ソギョル傀儡)表現を併記(http://www.kcna.kp/kp/article/q/c90a3156b6662306e202565dc04c8e37.kcmsf)していたり、18日づけ朝鮮中央通信が괴뢰군부(傀儡軍部)という書き出しで論評を書いて(https://chosonsinbo.com/2023/12/18-156/)いたりするので、そういうわけではなさそうです。

今般、朝鮮中央通信を改めて読み返したのですが、12月3日づけ≪《대한민국》것들은 북남군사분야합의서를 파기한 책임에서 절대로 벗어날수 없다≫まではカッコ付き大韓民国表現だったが、翌4日づけ≪인류공동의 재부인 우주령역에서 불법적인 이중기준은 절대로 허용될수 없다 조선민주주의인민공화국 국가항공우주기술총국 대변인담화≫以降はカッコが外れるようになったように見受けられます。

表現切り替わりの契機である4日づけ朝鮮民主主義人民共和国国家航空宇宙技術総局の代弁人談話(和訳はhttp://www.uriminzokkiri.com/index.php?lang=jpn&ptype=cfodoc&mtype=view&no=51007)は、「同じ衛星の打ち上げに対しても、一つは自主的な主権国家である朝鮮民主主義人民共和国のもので、もう一つは隷属的で親米的な大韓民国のものであるという理由によって適法性いかんが判別されるこんにちの悲劇的な状況は、朝鮮半島の平和と安定を破壊し、普遍的な国際的規範を蹂躙(じゅうりん)する張本人が誰なのかをはっきりと分かるようにしている」とか「自分らの手先は何でもやれるし、自分らが敵視する国は主権国家としての基本的な権利さえ行使できないというアメリカ式強盗さながらの論理が黙認され、許されるなら、世界の平和と安定は取り返しのつかない重大な危険に露出することになるであろう」などと指摘しています。つまり、「親米国の衛星発射が許されて反米国である私たちの衛星発射だけが許されないのか、そんなダブル・スタンダードは許されないだろう」と主張しているわけです。

この主張を全世界的に説得力を持たせるためには「大韓民国はアメリカの傀儡政権であって真の独立国家ではない」と言い張るのは得策ではありません。大韓民国を国家として正式に承認している国は多くあるのが現実なので、傀儡云々をすると、その一点だけを取り上げて門前払いする口実・契機を与えることになります。とくに日本人は、重箱の隅をつつくような茶々入れで話を意図的に脱線させ、議論が本丸に行きつくことを阻止する手を非常によく使います。議論を「親米国の衛星発射が許されて反米国である私たちの衛星発射だけが許されないのか、そんなダブル・スタンダードは許されないだろう」という核心にまで到達させるためには、誰も異論を唱えられないような正論だけでガッチリと道筋を固める必要があります。

もともと、「傀儡政権はカッコつきで呼ばなければならない」という明確なルールがあるわけではありません。たとえば、今年8月にカン・スンナム国防相名義で出された声明で共和国は、ウクライナのゼレンスキー政権について젤렌스끼괴뢰정권(ゼレンスキー傀儡政権)と明記しました(http://www.kcna.co.jp/calendar/2023/08/08-24/2023-0824-014.html)が、この表現にカッコはついておらず、우크라이나(ウクライナ)にもカッコはついていません。前掲の9日づけ朝鮮中央通信でも끼예브괴뢰당국(キエフ傀儡当局)という表現はあるが、やはりこの表現にもカッコはついておらず、우크라이나(ウクライナ)にもカッコはついていません。私自身、以前の主張を微修正する必要があると思っていますが、カッコ表現と韓「国」の傀儡性は一対一的なリンクの関係にはないわけです。

あるいは、先般、カッコつき大韓民国表現を巡って特に日韓両「国」が大騒ぎしたことに着目し、怒りのボルテージが一段と上がったことを示すために敢えてカッコ外しただけで、それ以上の意味はないという見方もできるでしょう。前述のとおり、依然として윤석열괴뢰や괴뢰군부といった表現は使っているのですから。

そういうわけで、話の脱線契機になりかねないカッコ表現を取りやめたとか、怒りのボルテージが一段と上がったことを示すためにカッコ表現を取りやめたといった考え方ができるのではないでしょうか? このように考えた場合、表現を切り替えたこと自体には意味合いが込められているものの、共和国の対南観や対南政策は実質的には何も変わっていないと思われます。
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2023年12月21日

北南の交流推進はユン「政権」にとって何か都合が悪いのか?

https://news.yahoo.co.jp/articles/c8222919e5e192539e0cc1e9def325976cd643f2
朝鮮学校取材の監督ら調査 韓国統一省、南北交流の規制強化
12/16(土) 20:34配信
時事通信

 【ソウル時事】韓国統一省が、無断で在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)と接触したとして、朝鮮学校を取材した映画監督らを調査していることが明らかになった。

 北朝鮮に強硬姿勢を取る尹錫悦政権下で、日本での南北交流に関する規制も強化されている現状が浮き彫りになった。

 韓国メディアによると、朝鮮学校が高校無償化から除外されたことを取り上げた映画「差別」を手掛けた金知雲監督に対し、統一省が11月、経緯を説明するよう求める文書を送った。過料の可能性についても記されていたという。

 韓流ブームの火付け役となったドラマ「冬のソナタ」に出演し、朝鮮学校支援に取り組む俳優のクォン・ヘヒョさんや、ドキュメンタリー映画「私はチョソンサラム(朝鮮人)です」の制作者にも同様の文書が送られていた。

(中略)
 かつては、無許可でも黙認されることが多かったが、最近は事前に申告しても統一省が許可せず、民間の南北交流が妨げられているとの指摘もある。朝鮮学校関係者によると、今年、予定されていた交流行事のキャンセルを通知してきた韓国の団体もあったという。

 統一省関係者は「過去に法の適用が多少緩く運営された側面があった」として、「法と原則にのっとった交流の秩序と体系を確立していく」と説明した。

(以下略)
まったく理解に苦しむユン「政権」の北南交流妨害。北南の交流推進はユン「政権」にとって何か都合が悪いことでもあるのかな?

さしづめ、支持率がますます低下しているユン「政権」ですが、伝家の宝刀たる「対日強硬姿勢」が、中国との対決構図をますます深めるアメリカ様の強いご指導ゆえに封印せざるを得ないので、時代錯誤的な「滅共」に手を出したのでしょうかね。知らんけど。
ラベル:国際「秩序」
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2023年12月19日

いよいよ「そのとき」が近づきつつあるのではないか

https://www.ukrinform.jp/rubric-ato/3801525-ukurainano-bing-li-wei-chiniha-dong-yuanga-bi-yaobudanou-qing-bao-zong-ju-ju-zhang.html
ウクライナの兵力維持には動員が必要=ブダーノウ情報総局局長1
8.12.2023 11:22

ウクライナ国防省傘下情報総局のブダーノウ局長は17日、ウクライナの防衛戦力の兵力を仮に110万人とした場合、その規模の兵力を契約兵で確保することはできず、動員は回避できないとの見方を示した。
同日開催されたパネルディスカッション「2024年 挑戦と展望」の際にブダーノウ局長が発言した。ウクルインフォルムの記者が伝えた。

ブダーノウ氏は、「理解してもらうために言おう。ウクライナ防衛戦力全体では現在…、国家機密に抵触しないように少し条件付きの数字を言うが、110万人としよう。そのような数を求人で埋め合わせることはできない。(編集注:その数を埋められるのは)動員だけだ。動員を止められるという考えをこそ止めるべきである。それは不可能だ。110万はどのような求人でも埋め合わせられない。数が大きく、それは弾薬と同様の問題である」と発言した。

また同氏は、その数は常に維持しなければならないと発言した。加えて同氏は、その点に関する問題の一つは国民の動機だと指摘し、「次のような問題がある。(編集注:志願を)望んだ者は、全員もう来ているのだ。誰を徴兵するのか? 残念ながら、そこに優れた答えはない。人々のための動機を見つけられなければ、強制的であろうとなかろうと、あるいは何らかの法規範に従った行為であろうと、どれだけの人を徴兵したところで、彼らのエネルギー効率はほぼゼロとなってしまう。それが最近起こっていることであり、それもまた率直に認めねばならない」と発言した。

(以下略)
ウクルインフォルムから引用する日がくるとは・・・ブダノフ中将のいう「110万人」は機密保持のための「仮の数」とのことですが、それでも相当数の動員が必要なのは間違いないでしょう。

ウクライナ軍が最近になって急に兵力を溶かし、穴埋めのために動員が必要になったわけではないはず。いままでプロパガンダで繕ってきた損失を遂に覆い隠すことができなくなったのでしょう

NHKが意外なことに、いち早く一応報じています。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231219/k10014291921000.html
【随時更新】ロシア ウクライナに軍事侵攻(12月19日の動き)
2023年12月19日 18時11分

(中略)
ウクライナ国防省 情報総局長「動員は避けられない」
ウクライナ国防省の情報部門のトップ、ブダノフ情報総局長は17日、討論会で「現在の兵力を契約軍人だけでは埋め切れず、動員は避けられない。弾薬と同じ問題だ」と述べました。

その一方で「動機づけを見いだせなければどれだけ徴兵しようと効果はほぼゼロになる」とも述べ、ウクライナで社会問題になっている徴兵逃れにも対処する必要があるという考えを示しました。

(以下略)
当ブログで何度か取り上げてきた津屋尚 ・解説委員が長い沈黙を破って久しぶりに発言しています。
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/300/490489.html
ウクライナ"戦争疲れ"国民は士気を維持できるか
2023年12月19日 (火)
津屋 尚 解説委員

(中略)
Q:どういうことですか?

A:最大の軍事支援国アメリカでは、ウクライナ支援の予算が、野党共和党の反対で議会の承認を得られず、年内に枯渇してしまう事態が現実味を増しています。
また、戦争の終わりが見えない中で、徹底抗戦を支えてきた「兵士たちの士気」と「国民の抵抗への意志」にも“戦争疲れ”が見え始めています。現地は厳しい冬を迎え、最前線で戦い続ける兵士たちは極度の緊張と疲労にさいなまれ、弾薬の不足に直面する部隊も出てきています。戦場から離れた都市でも、ロシアのミサイル攻撃などで犠牲になる市民が増え続けています。世論調査では、ウクライナ国民の大半が「勝利するまで戦い続けるべき」と答えていますが、1年前と比べるとその割合は徐々に減る傾向にあります。戦時下のウクライナでは60歳以下の成人男性は出国が禁じられていますが、これまでに2万人以上が国外に逃れようとして身柄を拘束されたと報じられているほか、賄賂を使って徴兵逃れをはかるケースも後を絶ちません。戦争が長期化する中で、兵員の確保も大きな課題です。

Q:こうした状況の中で、ロシアはどう出てくるでしょうか?

A:ロシアは、ミサイルやドローンを使って、電力など市民生活に欠かせないインフラへの攻撃を再び激化させています。市民を疲弊させ、戦意をくじく狙いです。
ウクライナの兵士と国民が士気を保って、ロシアの侵略と戦い続けられるかどうは、力による現状変更を許すかどうかという世界の秩序にも関わる問題です。
この冬はウクライナにとっても、支援国にとっても、正念場の冬になりそうです。
津屋解説委員が、NATO関係者の言としつつも「戦力の立て直しは非常に困難で、ロシア軍は“組織的な戦闘”が難しくなっている」などと飛ばしていたのは昨年10月(「追い詰められたロシア」2022年10月19日 (水))。この直後からロシア軍はドローンやミサイルを活用したインフラ網への大規模攻撃を繰り広げたのは周知のとおり。「ロシアの底力を見くびるべきではない」という慎重な見方は当時から西側諸国でも決して少数意見ではなかったのにもかかわらず。そんな津屋氏までもが調子のいい展望を描けなくなっているわけです。

「反転攻勢は少しずつだが続いている」と強弁するための数少ないキーワードのひとつだったドニプロ川東岸の橋頭堡についても、絶望的状況にあるという報道が出てきました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/573a50968c22caa21863c4456cfd715f9ef43707
渡河作戦は「自殺任務」 ウクライナ軍の兵士証言
12/18(月) 9:17配信
共同通信

(中略)
 ウクライナ外務省は11月中旬、ロシア側が支配するドニエプル川の東岸に複数の拠点を確保したと表明。しかし兵士らは同紙に「そこに拠点を築くのは不可能だ」と明かし、発表は誇張されていると指摘した。
メリトポリどころかトクマクさえも夢のまた夢、ドネツクでは押し戻され始め、ドニプロ川渡河作戦は「自殺任務」では、もはや「反転攻勢」は大失敗というほかないでしょう。

ロシア軍が「地上兵力の9割近くを喪失」したという米情報機関の「分析」が出てきたといいます。
https://news.yahoo.co.jp/articles/460ce7bdd86d72ad0bc55cb5d32df10f6eb1cb10
ロシア軍、地上兵力の9割近くを喪失か 米情報機関
12/13(水) 11:43配信
CNN.co.jp

(CNN) ロシア軍はウクライナへの侵攻を開始してからの約2年間で、現役の地上兵力のうち87%、戦車の3分の2を失ったとする米情報機関の見解が明らかになった。機密解除された報告書の内容に詳しい関係者が、CNNに語った。

報告書は、ロシア軍の進めてきた地上軍の近代化が、15年分後退したと指摘している。

報告書によると、ロシア軍はウクライナに侵攻した兵士36万人のうち、31万5000人を戦場で失った。さらに戦車3500台のうち2200台を失い、歩兵戦闘車と装甲兵員輸送車計1万3600台の32%に相当する4400台が破壊された。

地上軍の装備も先月末までに4分の1以上減少した。作戦の内容や規模が縮小した結果、昨年初めから大きな戦果を挙げられずにいるとみられる。

(以下略)
「地上兵力の9割近くを喪失」した軍隊に押し負けつつあるウクライナ軍って・・・

ついに下記のような直接的表現も。
https://news.yahoo.co.jp/articles/c3153438bff82344c10dc85234ea0ac498e9564f
「ウクライナ、敗戦の可能性」…結束が揺らぐ米・EUの援助遅延
12/18(月) 9:05配信
中央日報日本語版

ウクライナに対する米国と欧州連合(EU)の支援に支障が生じている中、米国防総省の一部では来年夏ごろウクライナがロシアに敗戦する可能性があるという最悪のシナリオに言及されている。海外メディアは実際にウクライナが敗戦する場合、「民主主義に対する権威主義国家の新たな侵略時代の序幕が開かれるだろう」と予想した。

ワシントンポスト(WP)やCNN・BBC放送などは16日(現地時間)、現在のウクライナに対する米国の援助遅延が今後ウクライナの国防力に及ぼす潜在的な影響と戦争敗北の長期見通しなどを米国・欧州政府の関係者が分析中だと伝えた。

(中略)
ウクライナに対する米国と欧州同盟国の援助が中断すれば、ウクライナが持ちこたえられる時間は長くないという見方が多い。匿名の米国防当局者はウクライナの敗戦の可能性に言及しながら、敗戦時点を「来年夏ごろ」と予想した。続いて「我々がいるからといってウクライナが必ず勝つという保証はないが、我々がいなければ彼らは確実に敗れるだろう」と話した。
(以下略)
「ウクライナ、敗戦の可能性」が米欧諸国ではその可能性を現実的なものとして考え始めているという韓「国」紙『中央日報』の報道。言霊信仰の因習ゆえか日本ではなかなか切り出しにくい話題ですが、事実とは人間の主観的な意識や願望から独立したもの。これはいよいよ「そのとき」が近づきつつあるのではないでしょうか。

しかし、まだ事実を受け止められない人もいるようで・・・オーサーコメント。
服部倫卓
北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授

ウクライナの「敗戦」というのが、具体的に何を意味するのかが分からない。
確かに、欧米の支援が滞る中で、武器・弾薬不足に陥ったウクライナ側が、反転攻勢に失敗する、さらにはロシアに占領地を拡大されるという可能性はある。
ある時点で、ウクライナの武器・弾薬不足が臨界点を超え、ウクライナ軍が総崩れになるということだろうか?
ただ、ロシア軍が前進することにも、また困難が伴うだろうし、一定の限界があるはずである。
「敗戦」というからには、ウクライナ側が負けを認めて、領土の割譲を含む和平交渉に応じるということなのかもしれない。将来的にそうなる可能性がないとは言い切れない。
しかし、来年夏ごろにそうなっているとは、私には思えない。
服部倫卓教授といえば、9月22日づけ「「ここが踏ん張りどころ」とするのではなく現状否認の方向に話を持って行ってしまう「人間の弱さ」」で取り上げたとおり、国連総会でのゼレンスキー・ウクライナ大統領の演説会場に空席が目立ったことについて「ウクライナに対する支援の気運の衰えを示すものではなく、国連総会という場の軽視の表れ」なる苦し過ぎる解釈を展開したお方。今回は「ウクライナの「敗戦」というのが、具体的に何を意味するのかが分からない」とのことw

コメント数が少ない点を鑑みるにPV数がかなり少ないことが推察される記事にも、こんなコメントを寄せてしまうあたり、すぐそこまで差し迫った現実を認めたくないのでしょうか?

ゼレンスキー大統領は「クリミアを含めたすべての領土を奪還する」非常に明確に目標を設定しているのだから、その目標が達成できないのならば、ウクライナの敗北でしょう。これに対してロシアは、以前にも指摘しましたが、戦争目標がハッキリしているとはとても言い難いところ。目標を設定しなければその未達を責められることもないので、その意味においてロシア軍が「負ける」ということはありません。また、目標が曖昧であればこそ、たまたま獲得した成果を後出しジャンケン的に「当初からの目標だった」と言い張ることもできます。結局のところ、この戦争はプーチン大統領が「目標を達成した」と言い張ればそれを以って勝利とすることができるのです。その意味おいて、ロシアは「非常に強い」といえるでしょう。

なお、戦争は政治的目標を達成するための手段でありスポーツ競技ではないので、「敗者がいれば、その反対側には必ず勝者がいる」ものではありません。また、戦争とは第二次世界大戦のように敵国を無条件降伏に追い込むような戦争ばかりではありません。敵の政治的目標の完全達成を阻止することに成功しても自己の政治的目標の完全達成も失敗したことで、痛み分けという形でともに敗者になることもあり得ます。
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2023年12月18日

朝露関係のさらなる深化――統一ロシア大会への祝電における「プーチン大統領同志」表現

http://www.kcna.kp/jp/article/q/194c91f44809c3381162187640fed0de.kcmsf
朝鮮労働党中央委員会が全ロシア政党「統一ロシア」第21回大会に祝電
(中略)
朝鮮労働党中央委員会は、統一ロシア第21回大会を熱烈に祝うとともに、大会を通じて貴党指導部と全ての党員に温かいあいさつを送る。

われわれは、今回の大会がプーチン大統領同志の強いロシア建設構想を実現するための貴党の活動において重大な意義を持つ契機に、意義深い会合になると確信する。

朝鮮労働党中央委員会は、わが両党間に結ばれた善隣・友好関係が朝露ボストーチヌイ首脳対面で遂げられた歴史的な合意を実現して、伝統的かつ戦略的な朝露友好・協力関係を新たな高い段階へ昇華させるのに積極的に寄与することになるとの期待を表明するとともに、貴党大会の活動で大きな成果が収められることを願う。−−−

www.kcna.kp (チュチェ112.12.16.)
共和国メディアがロシアのプーチン大統領を「同志」と呼ぶことについては、7月28日づけ「『労働新聞』記事に掲載された「プーチン同志」「ショイグ同志」という表現が意味することについて」及び9月18日づけ「朝露接近と朝日関係」において、朝露関係の深化として既に取り上げたところですが、今回は朝露関係が一段と深まりつつある証左として記録できるものと私は考えます。なぜならば、いままでに登場した「プーチン同志」という表現は、戦勝70周年記念行事といった限られた場面にのみ出現するものに過ぎなかったものだったからです。従前の朝露関係は、あくまでも反帝反米自主闘争に限った同志の関係に過ぎなかったということができます。

これに対して今回、朝鮮労働党中央委員会は統一ロシア大会への祝電に「プーチン大統領同志」という表現を用いました。いまロシアは西側諸国と激しく対立しているところではありますが、ロシアが西側諸国と対決しているのは、あくまでもロシアがロシアとして自主的に生き抜くためであり対決自体は目的ではありません。よって、統一ロシア大会は反帝反米自主闘争の決起集会ではありませんまた、統一ロシアは社会主義・共産主義を志向する政党でもありませんそのような政党の大会に「プーチン大統領同志」という表現を使ったわけです。このことに注目しないわけには行かないものと私は考えます。

加えて申せば、戦勝70周年記念行事における「プーチン同志」表現は、朝鮮語版にのみ見られたもので日本語版では「プーチン大統領」という表現を貫徹していました。それに対して今回は上掲のとおり、日本語版でも「プーチン大統領同志」という表現を使用しています。些細なことに見えるかもしれませんが、こういう微妙な表現の匙加減に大きなメッセージを込めるのが共和国のお国柄。このことにも注目しないわけには行かないものと私は考えます。

朝露関係が更に深化しています。
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2023年12月17日

宇宙開発や新世紀産業革命などの種まき業績が定式化されるようになった――キム・ジョンイル総書記逝去から12年

本日12月17日は、偉大な領導者、キム・ジョンイル同志の命日であります。もう12年もたったのですね。

毎年のことですが、今年も朝鮮労働党機関紙『労働新聞』を始めとする共和国メディアは、将軍様追悼の紙面です。今日は『労働新聞』の社説から抜粋して取り上げたいと思います。
사설
社説

위대한 령도자 김정일동지의 강국념원을 받들어 전면적국가부흥의 새시대를 힘차게 열어나가자
偉大な領導者、キム・ジョンイル同志の強国念願を奉り、全面的な国家復興の新時代を力強く切り開いていこう

2023.12.17. 《로동신문》 2면
2023.12.17『労働新聞』2面
(中略)
위대한 령도자 김정일동지는 비범한 령도로 강국건설의 강력한 담보를 마련해주신 절세의 애국자이시다.
偉大な領導者 キム・ジョンイル同志におかれては、非凡な領導で強国建設の強力な担保を用意してくださった絶世の愛国者である。

자주의 기치밑에 사회주의를 건설하고 지키는 투쟁은 그 한걸음한걸음이 가장 포악한 제국주의와의 첨예한 대결전과 주권국가의 신성한 권리를 유린하는 렬강들과의 심각한 정치투쟁을 동반한다.힘의 론리가 지배하는 이 세계에서 온갖 강권과 전횡을 짓부시며 부강조국건설을 다그치자면 그 누구도 넘볼수 없는 강력한 힘을 보유하여야 한다.
自主の旗印の下に社会主義を建設し守る闘争は、その一歩一歩が最も暴悪な帝国主義との尖鋭な大決戦と、主権国家の神聖な権利を蹂躙する列強との深刻な政治闘争を伴う。力の論理が支配するこの世界で、あらゆる強権と専横を押しのけながら富強祖国建設を急ごうとすれば、誰も見くびることのできない強力な力を保有しなければならない。

위대한 장군님께서는 인덕정치, 광폭정치로 당과 인민의 혼연일체를 실현하시여 우리 국가의 제일국력인 일심단결을 반석같이 다져주시였다.자식을 위하여 궂은일, 마른일 가리지 않고 지어 목숨도 서슴없이 내대는 어머니처럼 당이 인민을 위하여 고생하는 당, 인민을 위하여 복무하는 당이 될 때 무한대의 향도력을 가진다는것이 위대한 장군님의 당건설사상이였다.위대한 장군님의 탁월한 령도에 의하여 이 땅우에는 전체 인민이 당을 어머니라 부르며 운명도 미래도 다 맡기고 따르는 새로운 력사가 시작되고 천만이 한마음한뜻으로 뭉쳐 국가의 번영을 위해 분투하는 숭고한 화폭이 끝없이 펼쳐지게 되였다.
偉大な将軍様におかれては、仁徳政治・広幅政治で党と人民の渾然一体を実現し、我が国の第一国力である一心団結を盤石のごとく固めてくださった。子どもたちのために厭わしい仕事も嫌わず命をも躊躇なく差し出す母のように、党が人民のために苦労する党、人民のために服務する党になるとき無限大の嚮導力を持つというのが偉大な将軍様の党建設思想だった。偉大な将軍様の卓越した領導によって、この地には全人民が党を母と呼び、運命も未来も任せて後を続く新しい歴史が始まり、千万が心を一つに合わせて国の繁栄のために奮闘する崇高な画幅が果てしなく繰り広げられるようになった。

군력이자 국력이고 혁명의 승리이라는것은 위대한 장군님의 확고한 신조였다.사탕알이 없이는 살수 있어도 총알이 없으면 살수 없다는 철의 의지를 지니시고 그 누가 내 마음 몰라줘도 몰라준대도 희망 안고 이길을 가고가리라는 노래를 마음속으로 부르시며 우리 장군님께서 끊임없이 이어가신 선군혁명령도의 길에서 무적필승의 혁명강군이 자라나고 핵보유의 민족사적대업이 성취되였다.
軍力は国力であり革命の勝利であるというのは、偉大な将軍様の確固たる信条だった。飴玉がなくても生きていけるが弾丸がなければ生きていけないという鉄の意志を持ち、誰も私の心を分かってくれなくとも希望を抱いてこの道を進んで行こうという歌を心の中で歌われながら、我が将軍様が続けられた先軍革命領導の道において無敵必勝の革命強軍が育ち、核保有の民族史的大業が成就した。

오늘 우리 당과 인민은 위대한 장군님께서 온넋을 기울여 키워주신 정치군사적위력을 부단히 승화시키고 그 거대한 위력으로 모든 부문, 모든 분야의 전면적발전을 다그쳐가고있다.강대한 우리 국가의 래일을 내다보시며 위대한 장군님께서 품들여 마련해주신 불패의 힘을 계속 증대시키며 전진하기에 사회주의조선은 가까운 앞날에 모든 면에서 세계를 확고히 앞서나가게 될것이다.
こんにち、我が党と人民は、偉大な将軍様が全力を尽くして育ててくださった政治・軍事的威力を不断に昇華させ、その巨大な威力ですべての部門、すべての分野の全面的発展を急がせている。強大な我が国の明日を見通して偉大な将軍様が準備してくださった不敗の力を増大させ続けながら、社会主義朝鮮は近い将来、すべての面で世界を確実にリードするようになるだろう。

위대한 령도자 김정일동지는 뜨거운 사랑과 희생적인 헌신으로 인민의 행복을 위한 든든한 밑천을 마련하여주신 자애로운 어버이이시다.
偉大な領導者 キム・ジョンイル同志は、熱い愛と犠牲的献身で人民の幸せのためのしっかりした土台を作ってくださった慈愛に満ちた父であり母である。

위대한 장군님의 마음속 첫자리에는 언제나 인민이 소중히 자리잡고있었다.어버이장군님께서 한평생 간직하신 좌우명은 이민위천이였고 우리 장군님의 불면불휴의 강행군길도 인민행렬차로 이어진 숭고한 사랑의 길이였다.모든것을 인민을 위하여, 이것이 위대한 장군님의 혁명생애의 근본원칙이였고 투쟁목표였다.
偉大な将軍様の念頭にはいつも人民が居た。父なる将軍様が生涯大事にしていた座右の銘は以民為天であり、我が将軍様の不眠不休の強行軍の道も人民行き列車につながった崇高な愛の道だった。すべてを人民のために――これが偉大な将軍様の革命的生涯の根本原則であり闘争目標だった。

위대한 장군님께서는 생존 그자체가 기적이였던 고난의 시기에도 사랑하는 인민을 위하여 강국건설의 웅대한 설계도를 펼쳐주시고 인민들이 대대손손 덕을 입을수 있는 만복의 씨앗들을 온 나라에 뿌려주시였다.가장 어려운 시기에 개척된 우주정복에로의 길, 세차게 타오른 새 세기 산업혁명의 불길, 도처에 솟아오른 만년대계의 기념비적창조물들은 쪽잠과 줴기밥으로 날과 달을 이으시며 경제발전과 인민생활향상을 위하여 모든것을 다 바치신 우리 장군님의 눈물겨운 헌신을 떠나 생각할수 없다.
偉大な将軍様は、生存そのものが奇跡だった苦難の時期にも愛する人民のために強国建設の雄大な設計図を展開してくださり、人民が代々にわたり徳を受けることができる万福の種を国中に撒いてくださった。最も困難な時期に開拓された宇宙征服への道、力強く燃え上がった新世紀産業革命の炎、至る所に聳え立った万年大計の記念碑的創造物は、短眠と握り飯で日々を暮らし経済発展と人民生活向上のためにすべてを捧げた我が将軍様の感動的な献身とは分けて考えられない。

지금 우리 인민은 위대한 장군님께서 마련해주신 자립의 굳건한 토대에 의거하여 새로운 성과들을 련이어 이룩해나가고있다.위대한 장군님의 선견지명과 불면불휴의 로고가 깃든 튼튼한 토대가 있기에 우리 조국은 세상에 둘도 없는 인민의 락원으로 영원히 빛을 뿌리게 될것이다.
今、我が人民は偉大な将軍様が用意してくださった自立の堅固な土台に基づき、新しい成果を相次いで成し遂げている。偉大な将軍様の先見の明と不眠不休の労苦が刻まれたしっかりとした土台があるので、我が祖国は世界に二つとない人民の楽園として永遠に光を放つだろう。

将軍様の革命的業績を「誰も見くびることのできない強力な力」(国防力)の整備、「仁徳政治・広幅政治で党と人民の渾然一体を実現して一心団結を盤石のごとく固めたこと」、そして、宇宙開発や新世紀産業革命などの「種まき」をしたことにあると位置づけています。

将軍様逝去が発表された12年前の12月19日に発表された≪전체 당원들과 인민군장병들과 인민들에게 고함≫では、国防力強化や一心団結の強化・維持については既に業績として挙げられていたものの、宇宙開発や新世紀産業革命などの種まき業績に関する内容は見受けられなかったところ、没後10年以上過ぎた今日になってこれらの業績が定式化されて取り上げられるようになったわけです。このことからは、この12年間のキム・ジョンウン時代において、将軍様が生前に取り組んで来られた分野に一定の成果が見られるようになったので先代の功績として宣伝できるようになった、つまり平たく言うと共和国の状況は徐々に良くなってきているという党の情勢判断が伺えるように思われます。
ラベル:共和国
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2023年12月13日

党と国家のためにより忠誠心が高く有能な人材を登用して人民大衆中心の社会主義国家を盤石なものにしようとする確固たる意思――選挙法改正と地方人民会議代議員選挙について

https://chosonsinbo.com/jp/2023/11/28-163/
2万7千余人が当選、投票率99.63%/道・市・郡人民会議代議員選挙
2023年11月28日 13:26
共和国

11月26日、道(直轄市)・市(区域)・郡人民会議代議員選挙が行われた。朝鮮中央通信が配信した選挙結果に関する中央選挙指導委員会の報道によると、選挙者の99.63%が投票し、2万7858人の労働者、農民、知識人と活動家が代議員に当選した。今回の選挙は、新たに定められた選挙法の下で初めて実施された。

金正恩総書記が参加
中央選挙指導委員会の報道によると、今回の選挙には全国的に選挙人名簿に登録されたすべての選挙者の99.63%が投票。外国に滞在中、または遠海での作業により投票できなかった選挙者が0.37%、棄権した選挙者が0.000078%であった。また、投票した選挙者のうち、道(直轄市)人民会議代議員候補に対して賛成した選挙者は99.91%、反対した選挙者は0.09%、市(区域)・郡人民会議代議員候補に対して賛成した選挙者は99.87%、反対した選挙者は0.13%であった。

(以下略)
新たに定められた選挙法の下で初めて実施された今般の地方人民会議代議員選挙。選挙後の12月1日づけ朝鮮総聯機関紙『朝鮮新報』(紙媒体)が6面で「代議員定数より候補者を多く選抜」という解説記事を掲載したことが明らかに示しているとおり、今般の地方人民会議代議員選挙の注目点は、何よりも少なくとも推薦獲得の過程において代議員候補者(被選挙人)が競争的な方法で選出された点にあると言えます。

当該記事によると、共和国の選挙制度は「全国の選挙区・選挙分区に組織された選挙委員会が「選挙者会議」を経て推薦した代議員候補者一人に対し、当該の選挙区の選挙者たちが賛否について投票する形式」で行われるもので、「選挙に先だって選挙者会議で候補者に対する資格審査を行い、候補者を確定」する特徴をもつとのこと。今回の新法では、固定指標対象を選挙する選挙区では一人を、選抜指標対象を選挙する選挙区では二人を推薦することになっており、「定められた代議員数よりも多く選抜されたことで、選挙者会議の参加者たちが候補者の中から自らの意思に基づいて直接対象を選定できるようになった」そうです。

「固定指標対象」「選抜指標対象」というのは日本では聞き覚えのない特殊な用語ですが、固定指標対象の選挙区について当該記事では「固定指標対象として推薦された代議員候補者一人に対する投票は、選挙者会議の参加者の過半数以上の賛成を得られれば候補者として登録される。過半数以上の賛成を得られない場合は、別の候補者を立てて再度、選挙者会議を行」い、選抜指標対象の選挙区については、「より多く得票した者を候補者として登録」するといいます。

また、11月15日づけ『朝鮮新報』(電子版)は≪「〈법규해설〉 선거표는 《찬성》 혹은 《반대》투표함에 」≫(〈法規解説〉投票用紙は《賛成》あるいは《反対》の投票箱に )において、投票所についても≪선거자는 찬성하면 선거표를 《찬성》투표함에 넣으며 반대하면 선거표를 《반대》투표함에 넣는다. 선거자가 투표할 때 투표실에는 그 누구도 들어가거나 들여다볼수 없다.≫(選挙者は、賛成の場合は投票用紙を《賛成》の投票箱に入れ、反対の場合は投票用紙を《反対》の投票箱に入れる。選挙者が投票するとき、投票室には誰も入ったり覗くことができない)と報道。前掲12月1日づけ紙媒体記事でも「投票室には選挙者一名のみ入室できる」としつつ、かつての投票方法――選挙人は、投票用紙を受け取った後、賛成投票の場合はそのまま投票箱に票を投じ、反対投票の場合は鉛筆を取ってバツ印をつけてから投票する―に敢えて触れることで、新法による投票方法の新しさを強調しています。

さらに、前掲11月15日づけ電子版記事において≪당선된 최고인민회의 대의원은 중앙선거위원회가, 도(직할시)인민회의 대의원은 해당 도(직할시)선거위원회가, 시(구역), 군인민회의 대의원은 해당 시(구역), 군선거위원회가 발표한다.≫(当選した最高人民会議代議員は中央選挙委員会が、道(直轄市)人民会議代議員は該当の道(直轄市)選挙委員会が、市(区域)、郡人民会議代議員は当該市(区域)、郡選挙委員会が発表する)と報じたとおり、新法の制度は最高人民会議代議員選挙にも適用される予定のものであることが明らかになっています。中国の全国人民代表大会の選挙とも異なる共和国独自の選挙制度と言えそうです。

選挙者会議が具体的に如何なるメンバーで構成されており、そして如何なる基準で推薦を出しているのかは外部には伝わってきませんが、選挙者会議において被選挙人が競争的な方法で選出されるようになった(少なくともそれが公になった)ことは、共和国の政治において特筆すべきことであると思われます。日本テレビは「金正恩総書記が地方選で投票 民主的な選挙をアピールか 軍事境界線で“新たな動き”も…」(11/27(月) 20:45配信 日テレNEWS NNN)なる駄文を飛ばしていますが、もしそうだとすればもっと大々的な宣伝をしているはずで、当ブログは記事執筆にこんなに苦労しなかったはず。共和国が選挙制度改正に乗り出した真意はあくまでも内政のためでしょう。党と国家のためにより忠誠心が高く有能な人材を登用して人民大衆中心の社会主義国家を盤石なものにしようとする確固たる意思を見て取ることができます
ラベル:共和国
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2023年12月08日

日本「国」が精神的に独立した大人にならない限り、そして韓「国」が事大主義精神から脱しない限り、アメリカの思想的覇権が揺らぐことはないだろう

https://news.yahoo.co.jp/articles/f66e4e20476919df4a7db7fc1add2b12c43807a8
共通利益で日米韓の連携持続 エマニュエル駐日米大使
12/5(火) 18:34配信
共同通信

 エマニュエル駐日米大使は5日、東京都内で共同通信などの取材に応じ、日米韓が進める連携強化を巡り「3カ国には共通利益があり、だからこそ持続する」と述べ、一過性のものではないとの認識を強調した。中国、北朝鮮、ロシアについては「互いの戦略的利益が異なる」と語り、日米韓のような協力関係は築けないと指摘した。

(以下略)
朝中露に対する日米韓の優位性を説いているつもりになっているエマニュエル駐日米大使ですが、失笑を禁じ得ないものです。

朝中露3か国の関係は、それぞれ自主的な独立国家であり相互の関係は対等であるがゆえに是々非々の関係であると言えます。それゆえ、朝中露が「互いの戦略的利益が異な」っているのは至極当然のことであります。是々非々の関係でのお付き合いは、見ようによっては「一過性」と言えないこともないでしょうが、しかしそれもまた至極当然のことであります。本来、独立国家同士の利益は必ずしも一致しない(完全に一致しているのならば統一したほうがよい)ので、合従連衡すること自体は何らおかしなことではありません。そして何よりも、朝中露の3か国はいずれも自立的経済を確立している国々。いざとなれば、苦労することはあっても自給自足でやっていける国々。合従連衡できるということは、それだけ国が自主的であり独立的である証拠であると言えます。

エマニュエル駐日大使によると、朝中露が「互いの戦略的利益が異な」っているのに対して日米韓は「共通利益」があり、それゆえに朝中露の協力関係が一過性的であるのに対して日米韓の協力関係は持続的だといいます。事実から出発するに、朝中露の協力関係は前述のとおり是々非々ゆえに合従連衡の関係にありますが、朝中露それぞれがお互いに高度の独立性を保ちながら利益を引き出し合って来ています。つまり、相互に独立的な関係にありつつも協力的な関係にもある朝中露の適度な関係に対して日米韓の協力関係が「より高度かつ緊密」だというエマニュエル駐日大使の発言からは、日米韓の協力関係が相互独立性を損ねた形の「協力関係」であるとうことを示していると言えます。

事実から出発するに、アメリカ合衆国と日本「国」、そして韓「国」は、宗主国と属国・衛星国の関係であるがゆえに、日本「国」と韓「国」は、アメリカ合衆国の国益に付き合わされています。これを「共通利益」などとするのは、単なる自己利益に過ぎないものを「普遍的価値」であるかのように装う、フランス革命以来のブルジョアジーたちの常套句以外の何者でもありません。

ところで、エマニュエル駐日大使の発言には「敵ながらあっぱれ」といいますか、感心せざるを得ないところがあります。「共通利益」や「協力関係」といった精神的に未熟で独り立ちできておらず、付和雷同しないではいられない日本人の琴線に触れる言葉を散りばめている点です。ロシアのウクライナ侵攻を巡って日本メディアが「ロシアの国際的孤立」を殊更に強調してきた点に顕著に表れているように、日本人は「味方」の多寡をとにかく気にします。日常生活においても他人の評価を非常に気にしており、内心は「違うんじゃないか」とか「本当は嫌なんだけど」と思いながらも、多数派の後に続くのが日本人の生態です。とにかく「よそ様と同じ輪に入って同じことをする」ことを目指して生きています。

そうした日本人の生態からいえば、日米韓には「3カ国には共通利益があ」るので「協力関係」を築けるが、朝中露にはそれがないので「協力関係」は「一過性のもの」であるという構図化は非常に刺さってくるものです。さすがは日本総督としての駐日大使。日本人の精神年齢を熟知していらっしゃる。

アメリカの政治的・経済的・軍事的・思想的覇権と支配が続く限り、日米韓3か国の「共通利益」の関係は「持続」するでしょう。特に重大なのはアメリカの思想的覇権。「自由民主主義」のイデオロギー解釈権をアメリカが独占していることもさることながら、日本「国」が精神的に独立した大人にならない限り、そして韓「国」が事大主義精神から脱しない限り、アメリカの思想的覇権が揺らぐことはないでしょう。
ラベル:国際「秩序」
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2023年12月06日

ついに報じられた「反転攻勢は失敗」、そしていつ「交渉による戦争終結を望む世論が増え続けている」が報じられるのか

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231205/k10014278181000.html
【詳細】ロシア ウクライナに軍事侵攻(12月5日の動き)
2023年12月5日 19時21分

(中略)
米紙 “ウ軍の反攻失敗 米との意見相違が背景”
ウクライナ軍がことし6月に開始した領土奪還を目指した反転攻勢から半年となるのにあわせて、アメリカの有力紙ワシントン・ポストは4日、ウクライナやアメリカの政府や軍の関係者の話をもとにした記事を掲載し、作戦は失敗していると伝えたうえで、進め方などをめぐる両国の意見の相違などが背景にあると指摘しています。

具体的には、アメリカ側は南部ザポリージャ州に集中させた戦力をアゾフ海に向けて南下させてロシアの補給路を断つよう主張し、早ければ60日から90日で実行できると分析していたとしています。

しかし、ウクライナ側は1つのルートだけで進軍すれば、ほかの地域でロシア側が攻勢に出てくるとして、3方面での作戦を主張したということです。

ウクライナ軍が半年間で進むことができた距離は、およそ20キロにとどまり、100キロ以上先に位置するアゾフ海には到達できていないとしています。

また、アメリカ側が、ロシア軍が防御陣地を固めるのを防ぐため4月中旬に作戦を開始するよう求めたのに対して、ウクライナ側は、装備や兵士の訓練が整っていないとしてためらうなど、作戦の開始時期を巡っても意見が対立したとしています。

(以下略)
ついにNHKも報じた「反転攻勢は失敗」。12月5日午後7時放送の「ニュース7」は、スポーツコーナー直前の最後のニュースとして報じました。報じないわけには行かないが、あまり大きく報じたくないという意図が非常に顕著な編集です。

4日午後10時放送の「国際報道」が「前線では、今も一進一退の攻防が続いていて、一部ではこう着状態という見方も出ています」とした(「【動画】ウクライナのいま 油井キャスター現地報告」)直後の『ワシントン・ポスト』紙報道。何とも間が悪いことでしたw

6日午前10時過ぎ放送の「キャッチ!世界のトップニュース」は、「期待された成果は出ていないものの、反転攻勢を続けているからこそ、ロシアからさらに多くの国土が奪われるのを防ぐことはできています」などとしています(「【解説動画】ウクライナ 行き詰まる反転攻勢」)が、ロシア軍の攻勢によってウクライナ軍はドネツク州で少しずつ削り取られ後退させられているところ(「ロシア軍、東部激戦地で前進か 英分析、攻勢を強化」2/6(水) 18:23配信 共同通信)。苦し紛れの情勢描写を重ねることでますますドツボに嵌り込んでいるように見えます。

ウクライナの独立系調査機関「レイティング」が実施した世論調査によると、交渉による戦争終結を支持するウクライナ国民が増え続けているとのこと(「ウクライナ、交渉による戦争終結を望む世論が半数に」2/5(火) 19:58配信 ニューズウィーク日本版)。これはNHKがコツコツと積み上げてきた情勢描写を根本から引っ繰り返す致命打以外の何者でもありません。戦時プロパガンダ機関になり下がったNHKが果たしていつ、どのような形でこのニュースを報じるのか、注目です。
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2023年12月05日

剛毅で大胆な構想を打ち出す元帥様・朝鮮労働党のような不世出の偉人・偉大な党が日本に誕生する日は来るのだろうか

https://news.yahoo.co.jp/articles/3b700c8168848d44a7a72340e1ff4ea6c2921141
「少子化なら北朝鮮の体制崩壊」…危機の金正恩氏、母親を持ち上げる
12/4(月) 17:04配信
中央日報日本語版

「出生率低下を防ぎ子供を立派に育て革命の代を強く続けよう」

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が11年ぶりに開いた全国母親大会に参加し、少子化問題克服を呼び掛けこのように話した。北朝鮮では1組の夫婦が子ども2人を産まない水準に出生率が落ちたが、労働力が切実な低所得国にはより致命的と指摘される。

◇金正恩氏まで乗り出し「出生率」強調

朝鮮中央通信が4日に伝えたところによると、金委員長は前日平壌(ピョンヤン)で開かれた第5回全国母親大会に参加し、「いま社会的にみれば母親の力が求められることが多い。子どもを立派に育てて革命の代を強く続けていく問題と最近増えている非社会主義的な問題を一掃する問題」などを言及した。

金委員長はその上で「出生率低下を防ぎ子どもの保育教養をしっかりやる問題」を強調した。「母親は社会主義大家庭を強く守る原動力」としながらだ。

(中略)
◇「産めば国が育てる」宣伝戦

北朝鮮は最近国営メディアを通じて明確に出産を奨励している。労働党機関紙の労働新聞は連日「三つ子を産んだ妊婦は精力剤を使いながら健康管理に必要なすべての条件を保証され、子どもたちは国が義務的に育てる」(先月21日)、「各級党組織では子どもをたくさん産んで育てる母親を積極的に前に出し助けなければならない」(先月16日)などの報道を継続している。
三つ子を産んだ妊婦は精力剤を使いながら健康管理に必要なすべての条件を保証され、子どもたちは国が義務的に育てる」――こう言い切れるのが素晴らしい。さすが元帥様率いる朝鮮労働党。100%実施するのは相当に困難なことだとは思いますが、執権党がこのように断言する点に私は、元帥様及び朝鮮労働党の危機感及び本気度を見出すところです。

翻ってニッポン。何よりも重視すべき人権の問題についてプログラム規定説という「絵に描いた餅」を合憲・合法にする為政者にとって非常に都合の良い理屈があるにもかかわらず、社会政策の場面において、このようなことは口が裂けても絶対に言わないのがこの国の為政者たちです。人権問題でさえ絵に描いた餅が許されるのだから、それと比べてより政策的裁量幅の大きい社会政策は、ほとんど詐欺のような大風呂敷を広げておきながら実行せずとも何ら問題にはならないはず。しかし、そうしない。日本の為政者は政策の拡充に非常に消極的であるといわざるを得ません。少子化が問題視されて久しい今日であるにも関わらず、踏み込んだ政策は、御題目としてさえ打ち出されていません。

東京都で高校の授業料を私立校を含めて実質無償化する方針がようやく提示されました(「東京都、高校授業料を私立校含めて実質無償化へ…世帯年収910万円未満の制限を撤廃」12/5(火) 7:00配信 読売新聞オンライン)。いくら「地方分権の時代」であるとはいえ、国民の利益になる施策を国がリードしてはならないという意味ではないはず。国の不作為が際立ちます。

東京都の方針について世論は概ね歓迎しているようですが、少数ながら、反対意見も見受けられます。反対意見は大きくいって2通りあるようです。すなわち、(1)よい教育は本来「買う」べきものだから無償化すべきではない、及び(2)経済的に余裕のある層には必要ないはずだから所得制限は残すべきだ、であります。

(1)よい教育は本来「買う」べきものだから無償化すべきではないについては、1970年代ごろまでならまだしも産業構造が高度化し知識経済となった今日では通用しないでしょう。質の高い教育は個人的な自己投資ではなく国家的な投資になっているからです。一言でいえば時代錯誤なのです。幸いにして、15年前ほど前であればこのような主張の大合唱だったところ、今はかつてほどの勢いはなくなってきています。むしろ珍しくなってきています。いまだにこういうことを言っている人たちの年齢層を伺い知ることができそうです。

今日的基準において問題視すべきは、(2)所得制限は残すべきだであると考えます。言いたいことは分からないでもないのですが、「経済的に余裕のある層には必要ないはずだ」という主張は、子育て支援という本筋とは直接は関係のない話です。結局、トータルで帳尻が合えばいいのだから、たとえば「経済的に余裕のある層」には別の機会に負担させればよいだけでしょう。何もかも一つの政策の中に盛り込もうとすると制度設計が過度に複雑になります。政策が時機を逸することになりかねません。

先に私は、プログラム規定説という「絵に描いた餅」を合憲・合法にする為政者にとって非常に都合の良い理屈があるにもかかわらず、日本の為政者は政策の拡充に非常に消極的であると述べましたが、もしかすると、何か政策を打ち出そうとすると本筋ではない反対が予想外の方向から湧き上がるので、それを回避するために消極化しているという考え方もできるのかも知れません。日本の社会意識は依然としてムラ社会メンタリティなので、他者から批判されることをとにかく嫌い、何をおいても責任回避に走りがちです。

剛毅で大胆な構想を打ち出す元帥様・朝鮮労働党のような不世出の偉人・偉大な党が日本に誕生する日は来るのでしょうか?
posted by 管理者 at 22:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする