■必要な投資を行った上で農民の熱意や努力を持ち出す方向性が堅持されている
最高人民会議第14期第10回会議においてキム・ジョンウン同志は綱領的な施政演説を行われました(「金正恩総書記が最高人民会議第14期第10回会議で綱領的な施政演説を行う」平壌1月16日発朝鮮中央通信)。この中でキム・ジョンウン同志は「共和国政府に提起される重要な課題は、国家経済の上昇推移を引き続き高調させて国の経済全般を安定的かつ持続的な発展軌道に確固と乗せること」であると言明。「経済部門は、社会主義建設の基本部門であり、強力で近代的な自立経済のしっかりした裏づけがなくてはわが国家の高い尊厳と自主的発展と人民の裕福で文明的な生活について考えられない」からであると説明なさいました。
経済建設のさまざまな問題について指摘なさるキム・ジョンウン同志ですが、当ブログはまず、農業についての言及に注目したいと思います。キム・ジョンウン同志は「人民の生活改善のための事業で重要なことは、第一にも第二にも農業を立派に営むことである」としたうえで、次のように指摘されました。
昨年のように、内閣と経済指導機関が肥料と農薬、燃油をはじめ営農物資をあらかじめ前もって保障して、農場で農業を安心して営める条件を十分に整えてやらなければならず、全国が再び年明けから支援熱風を強く巻き起こして農業部門を思想的・精神的に、物質的・技術的に鼓舞、激励しなければならない。(引用部分の太字化は当方編集による)
農業部門では、農業勤労者の愛国的熱意と集団主義精神をより強く発揚させて、先進的な農業科学技術に基づいて科学農業熱風を巻き起こし、地力を高め、灌漑システムを完備する事業を力強く推し進めて、気候条件がどうであれ無条件に今年をまたもや豊作の年に作るべきである。
これとともに、小麦の栽培面積を増やして穀物生産構造を変え、小麦加工拠点を建設する事業と農村経営の機械化、干拓地の建設も本格的に推し進め、野菜栽培と畜産、果樹栽培と工芸作物農業も共に発展させるべきである。
特に、今年中に平壌市に近代的な家禽工場をもう一つ建設し、今後は各道にも建ててわが人民により多くの卵と肉が与えられるようにしようとする。
1月15日づけ「朝鮮労働党中央委員会第8期第9回総会拡大会議について」で当ブログは「単に農民の熱意や努力といった精神論だけを持ち出すのではなく、必要な投資を行った上で農民の熱意や努力を持ち出す方向性を堅持するものと思われます」と述べましたが、今般のキム・ジョンウン同志の施政演説を読んでその見立てが正しかったと自負するものです。
■所謂中央集権化とは言い難い現代版革命的大衆路線の朝鮮式社会主義
次に、地方開発・地方発展にかかる言及に注目したいと思います。「地方発展20×10政策」のことです。キム・ジョンウン同志は次のように指摘されています。
金化郡に模範的に地方産業工場を近代的に建設し、自前で運営する立派な経験も蓄積したし、実際に郡内の人民の生活向上で必須的であり、他の市、郡もいくらでも今後そのような能力を培うことができるし、いずれにせよいつかは必ず解決すべき問題であると思う。そして、「地方発展20×10政策」の進め方について、次のようにも指摘なさっています。
もちろん、現在の市、郡の能力を見て直ちに運営能力があると見られる郡から建設順位を決めるのは正しいことだが、建設の順序はつけることができても、この国の公民の生活を心配して、それを解決するためのわが党の決定や共和国政府の施策で誰かを優先視し、誰かを軽視する文書のページ数やその順位が決められては絶対にならない。
私は、近代的な地方産業工場の建設を毎年20の郡ずつ間違いない政策的課題として党が直接とらえ、金化郡と同じ水準できちんと実行して、10年内に全国の全ての市、郡、言い換えれば、全人民の初歩的な物質的・文化的生活水準を一段と飛躍させようとする。
農村振興のための路線と別途に、地方産業の発展を強力に推し進めて、可及的早期に全国的版図で地域人民の初歩的な物質的・文化的生活水準を一段と飛躍させようとするわが党のこの政策を「地方発展20×10政策」と命名し、強力に推し進めようとする。
これは、言葉だけであったこととは異なる一つの巨大な変革、地方の世紀的な立ち遅れを払拭して地方人民の宿望をかなえてやり、われわれの人々の認識領域で改変をもたらすための一つの壮大な革命である。
金正恩総書記は、金化郡に地方産業工場を模範的に建設した経験に基づいて党が責任を持ってそれぞれの郡に資金、労働力、資材を持続的に、年次的に、義務的に保障するとともに、国家的指導活動体系を立てるための対策的問題について披歴し、発言を続けた。
そして、党中央委員会の組織指導部に地方産業建設指導課を別に設けて、私が直接責任を持って総括し、頑強に推し進める考えをしている。
このために、すぐ党中央委員会政治局拡大会議を招集して、「地方発展20×10政策」を実務討議し、決定しようとする。
われわれは、世紀的な宿願を達成する実際の大きな措置を講じてわが党の遠大な社会主義強国の建設を力強く推し進めるべきである。
金正恩総書記は、人民の生活で地域的跛行(はこう)性を減らし、当該地域が自前で生きていけるように自立性を育んでやるための国家的な措置も講じることに言及し、次のように続けた。(引用部分の太字化は当方編集による)
道・市・郡で地元の特性と資源を合理的に利用して人民の生活資金を充当する問題は、党的にもすでに強調されたことがあるが、これを保証できるように経済実務的に、法的に必要な後続措置が適時に伴わず、承認の手順と工程が複雑で、制限のハードルが高いことなど、さまざまな要因によって、地方ではおかげをまともに被っていない。
これらの弊害を全国的に全て掌握し、当該地域の人民の生活を改善するのに役立つように、海を控えた所では海を、山を控えた所では山をよく利用して観光業も行い、資源も効果的に開発、活用できるように実質的な対策を立ててやらなければならない。
このようにして、わが人民の衣食住において実際の改変をもたらすべきである。
「海を控えた所では海を、山を控えた所では山をよく利用して観光業も行い、資源も効果的に開発、活用できるように実質的な対策を立ててやらなければならない」というくだりに注目したいと思います。政治局会議(「金正恩総書記が党政治局拡大会議で綱領的な結語を述べる」平壌1月25日発朝鮮中央通信)では、より踏み込んだ形で次のように指摘されています。
推進委員会に党中央委員会の部署、国防省と当該の省、中央機関の活動家が網羅されたが、それに合わせて相互間の協同もよくしなければならない。(引用部分の太字化は当方編集による)
金正恩総書記は、党が金化郡のように地方産業工場を建てろというのはその地方産業工場のように近代化水準と文明的な労働条件、生活条件が保障されるように建てろということであって、決して一律的に工場の規模を金化郡と全く同じように定めろということではないと述べ、地方産業工場の規模は市、郡の人口と住民の需要、経済実態と自然地理的条件をよく打算して定めるようにしなければならないと述べた。
市、郡の具体的な実情に合わせて設計するのが特別に重要であり、設計単位と施工単位、運営単位間の3者合意システムを確立して工場を運営する過程に不合理な問題が提起されないようにすべきであると述べた。
「党が金化郡のように地方産業工場を建てろというのは(中略)決して一律的に工場の規模を金化郡と全く同じように定めろということではない」や「設計単位と施工単位、運営単位間の3者合意システムを確立」というくだりからは、今般の地方開発・地方発展は、当該地域の実情に応じた形で推進すべきである、そして、各部署が合意形成の方法で連携を取って推し進めてゆくべきであるという政策の基本的な方向性を見て取ることができます。キム・ジョンウン時代の朝鮮式社会主義の特徴がよくあらわれていると思われます。
近頃ちまたでは「北朝鮮で再び中央集権化が進みつつある」という「分析」をよく耳にします。しかしながら、「海を控えた所では海を、山を控えた所では山をよく利用して」や「決して一律的に工場の規模を金化郡と全く同じように定めろということではない」といった発言を見るに、所謂中央集権化とは言い難いのが実際のところであると思われます。
チュチェ112(2023)年4月9日づけ「『社会主義強盛国家建設の要求に合わせ国土管理事業で革命的転換をもたらすことについて』から元帥様の統治の重要な要素を学ぶ」においても指摘しましたが、キム・ジョンウン同志の統治は、分権制というと語弊があるが中央集権一辺倒とも異なるものであると考えます。キム・ジョンウン同志が統治最初期に発表された『社会主義強盛国家建設の要求に合わせ国土管理事業で革命的転換をもたらすことについて』(チュチェ101・2012年4月27日)においては、地方や個別単位の具体的な状況に応じた独自性が生かされ得る理論的余地が存在しているからです。社会主義企業責任管理制や圃田担当責任制が定着して久しいことからもこのことは確定的に言えることであると考えます。今回の「地方発展20×10政策」もまた前例と同じく、現代版革命的大衆路線と言い得る路線を歩むものと当ブログは考えます。
■「地方発展20×10政策」が党主導の事業である意味
「地方発展20×10政策」について、「金正恩総書記が党政治局拡大会議で綱領的な結語を述べる」(平壌1月25日発朝鮮中央通信)記事を参考に、もっと詳しく見てゆきましょう。
キム・ジョンウン同志は「何よりも、全国の市、郡に地方産業工場を建設するための事業システムから整然と立てなければならない。何事においても、事業システムを正しく立てるのが重要である」と指摘されつつ、「地方発展20×10政策」推進のたのより具体的・実務的なレベルの指摘をなさいます。「今後、組織される「地方発展20×10非常設推進委員会」では、設計から資材と資金の保障、原料拠点を築くことに至るまで、地方産業工場の建設と運営の準備に関連する全ての事業を統一的に掌握、指揮するシステムを整然と立てて統制力を強化しなければならない」というご指摘は、日本風にいえばサプライチェーンの構築が必要だということになるでしょう。
ここで注目しておかなければならないのは、「地方発展20×10政策」の組織責任主体についてです。党組織が前面に推し出されている一方で、従来、経済司令塔とされてきた内閣への言及がありません。「地方発展20×10政策」は党主導の事業であることが推察されます。
記事によると、「党の中の党」である組織指導部内の地方産業建設指導科が「地方発展20×10政策」の実行に関する政治的・政策的指導を行うとのこと。また、党政治局員が市・郡を一つずつ受け持って地方産業工場の建設を推進する構えでもあるとのこと。現場レベルでは、道や市・郡の党責任書記が「地方発展政策貫徹の直接的な組織者、実行者」であり、「党中央は地方発展政策実行状況をもって道・市・郡党責任書記の党性、人民性、責任感について評価すると述べ、各道党責任書記は今年に建設される2つの市、郡の地方産業工場を実際に運営できるように原料拠点を築き、技能工の養成を責任を持って行って年末に党中央委員会総会に報告(せよ)」というくだりによると、各級党責任書記は党性・人民性・責任感で評価されるとのこと。
地方人民委員長(日本風に言えば都道府県知事または市町村長)の役割については、「道・市・郡人民委員長が自分の地域の人民の生活に責任を持った戸主らしく、地方発展政策の実行において責任感と役割を強めるべき」と言及があるものの、従来、経済司令塔とされてきた内閣についての言及はまったくありません。最高人民会議で農業部門については、引き続き内閣と経済指導機関が主たる役割を果たすべきであると規定されたのとは対照的です。
内閣への言及がないことを当ブログは理解します。「朝鮮労働党中央委員会第8期第19回政治局拡大会議に関する報道」(平壌1月25日発朝鮮中央通信)によると、「国の経済的状況と膨大なこの課題の遂行について、党内の一部の政策指導部署と経済機関では現実的かつ革命的な可能性を見い出せず、言葉で間に合わせていたし、今回の総会でまで条件の有利な幾つかの市・郡にだけ地方産業工場を建設し、残りの市・郡は今後、建設する準備でも進めるという消極的な態度を取った」とのことなので、従来の経済司令塔に任せっきりにはできないということなのでしょうが、それ以上に、キム・ジョンウン同志は次のように仰っているからです。
こんにち、われわれには人民により文明的で幸せな生活条件と環境を提供すべき重くて栄誉ある課題が提起されている。共和国では、経済実利上の御託を並べて「できない理由」を紡ぎ出す経済実務担当者の悪しき傾向が以前から指摘されてきました。そう考えると、党の根幹に関わるこのような重要事業については、やはり党が自ら積極的に前面に出て指揮を取らなければなければならないのではないか、そう思います。
この席に列席した党と政府の指導幹部は、数千万の人民の大いなる信頼を生の命脈に刻み付け、頑強な奮発力と闘志を発揮して本会議の決定をたがわず貫徹することで、この地のどこにも人民の幸せな笑い声が響き渡るようにしなければならない。
銘記して自覚すべきことは、人民に対する奉仕精神と姿勢である。
われわれが目的とした壮大な革命事業の成果いかんは、いわゆる資金、資材、労働力の有無と保障性、経済企画の用意周到さに先立って、われわれの指導幹部、活動家の透徹した人民観によって保証されなければならないと思う。
われわれにとって人民は何か、われわれが何のために、誰のためにこの膨大な事業をそれも最も困難な時期に自ら担ったのかを常に銘記しなければならない。
わが党が明らかにした最も正確な闘争路線と方針があり、すでに蓄積された経験もあり、自立経済の強固な潜在力がある限り、地方が変わる新時代は遠い後日ではなく、目前の現実に開かれるであろう。
全ての活動家は、今日の政治局拡大会議で採択された決定を最も徹底的に、最も完璧に貫徹する上で自分の使命と本分を全うすることで、わが人民のこの上ない信頼に無条件必ず報いなければならない。
ともに、百倍の信念と勇気を抱いて偉大なわれわれの偉業の新しい変革的結実のために、社会主義の全面的発展のために、偉大なわが人民の福利のために力強く闘っていこう。
共和国における社会主義建設における今次の最重要課題としての「地方発展20×10政策」におい党組織の役割が強調されている点、「地方発展20×10政策」が党主導の事業であると位置づけられた点から、キム・ジョンウン同志がこの問題に本気で向き合っていることを読み取らなければなりません。
■人民軍の動員
「地方発展20×10政策」の推進中核主体にも注目する必要があります。「金正恩総書記は、地方産業を発展させるための闘いの戦域に最も活力あって戦闘力のある人民軍を押し立てたと述べ、人民軍はわが党の宿願となる革命課題を実行する壮大なこの闘いでも当然旗手になり、主人公になるべきであり、人民の幸福の創造者、守護者としてのその高貴な名を守らなければならないと述べた」とあるように、本件政策の推進中核主体は人民軍であるといいます。人民軍将兵の闘争目標に対する無条件絶対性やその組織性の高さを経済建設にも生かそうというのは、共和国の伝統的気風ですが、今般もこれを十全に生かして難関を突破しようというわけです。
■全面的に支持すべき現代的な社会主義建設路線
併せて注目しておきたいのが、「朝鮮労働党中央委員会第8期第19回政治局拡大会議に関する報道」(平壌1月25日発朝鮮中央通信)で報じられた次のくだりです。
今の時点で、革命的な方略を立てて市・郡の経済的資源と原料源を最大限効果的に確保し、利用して地方産業を全面的に、バランスを取って発展させられるように各方面の措置を取り、各地方経済の特色のある発展を図り、それに対する投資の幅を拡大し、互いに競争する風潮を確立して多角的な成長を促すのは、地方の人民の物質的・文化的生活水準を一段階押し上げることにおいても、とても差し迫った当面の課題となり、わが党の社会主義的地方発展政策の将来的見地から見ても非常に重大で責任的であり、時宜にかなった選択と決断になる。毎度毎度の指摘になりますが、「互いに競争する風潮」という言及があります。「地方産業を全面的に、バランスを取って発展させられるように各方面の措置を取り、各地方経済の特色のある発展を図り、それに対する投資の幅を拡大し、互いに競争する風潮を確立して多角的な成長を促す」という今次路線は、全面的に支持すべき現代的な社会主義建設路線であると考えます。
■総括
さて、こうして見てみるとキム・ジョンウン同志は、持てるリソースを総動員して「地方発展20×10政策」を取り組もうとする確固たる決意を固められたものと推察できます。特に当ブログが注目したいのは、現代版革命的大衆路線とも言い得る地方のそれぞれの実情に応じた地方開発・地方発展を、党的指導の枠内で、人民軍将兵を活用しつつ推進するという朝鮮式社会主義の特徴を糾合したシナリオの行方です。現代社会主義論の探究は当ブログの一つのテーマであります。引き続き大きな関心を持って学んでゆきたいと思います。