2024年01月29日

朝鮮式社会主義の特徴を糾合した「地方発展20×10政策」の推進方法について

最高人民会議第14期第10回会議(1月15日)と党政治局第8期第19回拡大会議(1月23・24日)のうち、経済建設議題について取り上げます。

■必要な投資を行った上で農民の熱意や努力を持ち出す方向性が堅持されている
最高人民会議第14期第10回会議においてキム・ジョンウン同志は綱領的な施政演説を行われました(「金正恩総書記が最高人民会議第14期第10回会議で綱領的な施政演説を行う」平壌1月16日発朝鮮中央通信)。この中でキム・ジョンウン同志は「共和国政府に提起される重要な課題は、国家経済の上昇推移を引き続き高調させて国の経済全般を安定的かつ持続的な発展軌道に確固と乗せること」であると言明。「経済部門は、社会主義建設の基本部門であり、強力で近代的な自立経済のしっかりした裏づけがなくてはわが国家の高い尊厳と自主的発展と人民の裕福で文明的な生活について考えられない」からであると説明なさいました。

経済建設のさまざまな問題について指摘なさるキム・ジョンウン同志ですが、当ブログはまず、農業についての言及に注目したいと思います。キム・ジョンウン同志は「人民の生活改善のための事業で重要なことは、第一にも第二にも農業を立派に営むことである」としたうえで、次のように指摘されました。
昨年のように、内閣と経済指導機関が肥料と農薬、燃油をはじめ営農物資をあらかじめ前もって保障して、農場で農業を安心して営める条件を十分に整えてやらなければならず、全国が再び年明けから支援熱風を強く巻き起こして農業部門を思想的・精神的に、物質的・技術的に鼓舞、激励しなければならない

農業部門では、農業勤労者の愛国的熱意と集団主義精神をより強く発揚させて、先進的な農業科学技術に基づいて科学農業熱風を巻き起こし、地力を高め、灌漑システムを完備する事業を力強く推し進めて、気候条件がどうであれ無条件に今年をまたもや豊作の年に作るべきである。

これとともに、小麦の栽培面積を増やして穀物生産構造を変え、小麦加工拠点を建設する事業と農村経営の機械化、干拓地の建設も本格的に推し進め、野菜栽培と畜産、果樹栽培と工芸作物農業も共に発展させるべきである。

特に、今年中に平壌市に近代的な家禽工場をもう一つ建設し、今後は各道にも建ててわが人民により多くの卵と肉が与えられるようにしようとする。
(引用部分の太字化は当方編集による)
1月15日づけ「朝鮮労働党中央委員会第8期第9回総会拡大会議について」で当ブログは「単に農民の熱意や努力といった精神論だけを持ち出すのではなく、必要な投資を行った上で農民の熱意や努力を持ち出す方向性を堅持するものと思われます」と述べましたが、今般のキム・ジョンウン同志の施政演説を読んでその見立てが正しかったと自負するものです。

■所謂中央集権化とは言い難い現代版革命的大衆路線の朝鮮式社会主義
次に、地方開発・地方発展にかかる言及に注目したいと思います。「地方発展20×10政策」のことです。キム・ジョンウン同志は次のように指摘されています。
金化郡に模範的に地方産業工場を近代的に建設し、自前で運営する立派な経験も蓄積したし、実際に郡内の人民の生活向上で必須的であり、他の市、郡もいくらでも今後そのような能力を培うことができるし、いずれにせよいつかは必ず解決すべき問題であると思う。

もちろん、現在の市、郡の能力を見て直ちに運営能力があると見られる郡から建設順位を決めるのは正しいことだが、建設の順序はつけることができても、この国の公民の生活を心配して、それを解決するためのわが党の決定や共和国政府の施策で誰かを優先視し、誰かを軽視する文書のページ数やその順位が決められては絶対にならない。

私は、近代的な地方産業工場の建設を毎年20の郡ずつ間違いない政策的課題として党が直接とらえ、金化郡と同じ水準できちんと実行して、10年内に全国の全ての市、郡、言い換えれば、全人民の初歩的な物質的・文化的生活水準を一段と飛躍させようとする。

農村振興のための路線と別途に、地方産業の発展を強力に推し進めて、可及的早期に全国的版図で地域人民の初歩的な物質的・文化的生活水準を一段と飛躍させようとするわが党のこの政策を「地方発展20×10政策」と命名し、強力に推し進めようとする。

これは、言葉だけであったこととは異なる一つの巨大な変革、地方の世紀的な立ち遅れを払拭して地方人民の宿望をかなえてやり、われわれの人々の認識領域で改変をもたらすための一つの壮大な革命である。

金正恩総書記は、金化郡に地方産業工場を模範的に建設した経験に基づいて党が責任を持ってそれぞれの郡に資金、労働力、資材を持続的に、年次的に、義務的に保障するとともに、国家的指導活動体系を立てるための対策的問題について披歴し、発言を続けた。

そして、党中央委員会の組織指導部に地方産業建設指導課を別に設けて、私が直接責任を持って総括し、頑強に推し進める考えをしている。

このために、すぐ党中央委員会政治局拡大会議を招集して、「地方発展20×10政策」を実務討議し、決定しようとする。

われわれは、世紀的な宿願を達成する実際の大きな措置を講じてわが党の遠大な社会主義強国の建設を力強く推し進めるべきである。
そして、「地方発展20×10政策」の進め方について、次のようにも指摘なさっています。
金正恩総書記は、人民の生活で地域的跛行(はこう)性を減らし、当該地域が自前で生きていけるように自立性を育んでやるための国家的な措置も講じることに言及し、次のように続けた。

道・市・郡で地元の特性と資源を合理的に利用して人民の生活資金を充当する問題は、党的にもすでに強調されたことがあるが、これを保証できるように経済実務的に、法的に必要な後続措置が適時に伴わず、承認の手順と工程が複雑で、制限のハードルが高いことなど、さまざまな要因によって、地方ではおかげをまともに被っていない。

これらの弊害を全国的に全て掌握し、当該地域の人民の生活を改善するのに役立つように、海を控えた所では海を、山を控えた所では山をよく利用して観光業も行い、資源も効果的に開発、活用できるように実質的な対策を立ててやらなければならない。

このようにして、わが人民の衣食住において実際の改変をもたらすべきである。
(引用部分の太字化は当方編集による)
海を控えた所では海を、山を控えた所では山をよく利用して観光業も行い、資源も効果的に開発、活用できるように実質的な対策を立ててやらなければならない」というくだりに注目したいと思います。政治局会議(「金正恩総書記が党政治局拡大会議で綱領的な結語を述べる」平壌1月25日発朝鮮中央通信)では、より踏み込んだ形で次のように指摘されています。
推進委員会に党中央委員会の部署、国防省と当該の省、中央機関の活動家が網羅されたが、それに合わせて相互間の協同もよくしなければならない。

金正恩総書記は、党が金化郡のように地方産業工場を建てろというのはその地方産業工場のように近代化水準と文明的な労働条件、生活条件が保障されるように建てろということであって、決して一律的に工場の規模を金化郡と全く同じように定めろということではないと述べ、地方産業工場の規模は市、郡の人口と住民の需要、経済実態と自然地理的条件をよく打算して定めるようにしなければならないと述べた。

市、郡の具体的な実情に合わせて設計するのが特別に重要であり、設計単位と施工単位、運営単位間の3者合意システムを確立して工場を運営する過程に不合理な問題が提起されないようにすべきであると述べた。
(引用部分の太字化は当方編集による)
党が金化郡のように地方産業工場を建てろというのは(中略)決して一律的に工場の規模を金化郡と全く同じように定めろということではない」や「設計単位と施工単位、運営単位間の3者合意システムを確立」というくだりからは、今般の地方開発・地方発展は、当該地域の実情に応じた形で推進すべきである、そして、各部署が合意形成の方法で連携を取って推し進めてゆくべきであるという政策の基本的な方向性を見て取ることができます。キム・ジョンウン時代の朝鮮式社会主義の特徴がよくあらわれていると思われます。

近頃ちまたでは「北朝鮮で再び中央集権化が進みつつある」という「分析」をよく耳にします。しかしながら、「海を控えた所では海を、山を控えた所では山をよく利用して」や「決して一律的に工場の規模を金化郡と全く同じように定めろということではない」といった発言を見るに、所謂中央集権化とは言い難いのが実際のところであると思われます。

チュチェ112(2023)年4月9日づけ「『社会主義強盛国家建設の要求に合わせ国土管理事業で革命的転換をもたらすことについて』から元帥様の統治の重要な要素を学ぶ」においても指摘しましたが、キム・ジョンウン同志の統治は、分権制というと語弊があるが中央集権一辺倒とも異なるものであると考えます。キム・ジョンウン同志が統治最初期に発表された『社会主義強盛国家建設の要求に合わせ国土管理事業で革命的転換をもたらすことについて』(チュチェ101・2012年4月27日)においては、地方や個別単位の具体的な状況に応じた独自性が生かされ得る理論的余地が存在しているからです。社会主義企業責任管理制や圃田担当責任制が定着して久しいことからもこのことは確定的に言えることであると考えます。今回の「地方発展20×10政策」もまた前例と同じく、現代版革命的大衆路線と言い得る路線を歩むものと当ブログは考えます

■「地方発展20×10政策」が党主導の事業である意味
「地方発展20×10政策」について、「金正恩総書記が党政治局拡大会議で綱領的な結語を述べる」(平壌1月25日発朝鮮中央通信)記事を参考に、もっと詳しく見てゆきましょう。

キム・ジョンウン同志は「何よりも、全国の市、郡に地方産業工場を建設するための事業システムから整然と立てなければならない。何事においても、事業システムを正しく立てるのが重要である」と指摘されつつ、「地方発展20×10政策」推進のたのより具体的・実務的なレベルの指摘をなさいます。「今後、組織される「地方発展20×10非常設推進委員会」では、設計から資材と資金の保障、原料拠点を築くことに至るまで、地方産業工場の建設と運営の準備に関連する全ての事業を統一的に掌握、指揮するシステムを整然と立てて統制力を強化しなければならない」というご指摘は、日本風にいえばサプライチェーンの構築が必要だということになるでしょう。

ここで注目しておかなければならないのは、「地方発展20×10政策」の組織責任主体についてです。党組織が前面に推し出されている一方で、従来、経済司令塔とされてきた内閣への言及がありません「地方発展20×10政策」は党主導の事業であることが推察されます。

記事によると、「党の中の党」である組織指導部内の地方産業建設指導科が「地方発展20×10政策」の実行に関する政治的・政策的指導を行うとのこと。また、党政治局員が市・郡を一つずつ受け持って地方産業工場の建設を推進する構えでもあるとのこと。現場レベルでは、道や市・郡の党責任書記が「地方発展政策貫徹の直接的な組織者、実行者であり、「党中央は地方発展政策実行状況をもって道・市・郡党責任書記の党性、人民性、責任感について評価すると述べ、各道党責任書記は今年に建設される2つの市、郡の地方産業工場を実際に運営できるように原料拠点を築き、技能工の養成を責任を持って行って年末に党中央委員会総会に報告(せよ)」というくだりによると、各級党責任書記は党性・人民性・責任感で評価されるとのこと。

地方人民委員長(日本風に言えば都道府県知事または市町村長)の役割については、「道・市・郡人民委員長が自分の地域の人民の生活に責任を持った戸主らしく、地方発展政策の実行において責任感と役割を強めるべき」と言及があるものの、従来、経済司令塔とされてきた内閣についての言及はまったくありません。最高人民会議で農業部門については、引き続き内閣と経済指導機関が主たる役割を果たすべきであると規定されたのとは対照的です。

内閣への言及がないことを当ブログは理解します。「朝鮮労働党中央委員会第8期第19回政治局拡大会議に関する報道」(平壌1月25日発朝鮮中央通信)によると、「国の経済的状況と膨大なこの課題の遂行について、党内の一部の政策指導部署と経済機関では現実的かつ革命的な可能性を見い出せず、言葉で間に合わせていたし、今回の総会でまで条件の有利な幾つかの市・郡にだけ地方産業工場を建設し、残りの市・郡は今後、建設する準備でも進めるという消極的な態度を取った」とのことなので、従来の経済司令塔に任せっきりにはできないということなのでしょうが、それ以上に、キム・ジョンウン同志は次のように仰っているからです。
こんにち、われわれには人民により文明的で幸せな生活条件と環境を提供すべき重くて栄誉ある課題が提起されている。

この席に列席した党と政府の指導幹部は、数千万の人民の大いなる信頼を生の命脈に刻み付け、頑強な奮発力と闘志を発揮して本会議の決定をたがわず貫徹することで、この地のどこにも人民の幸せな笑い声が響き渡るようにしなければならない。

銘記して自覚すべきことは、人民に対する奉仕精神と姿勢である。

われわれが目的とした壮大な革命事業の成果いかんは、いわゆる資金、資材、労働力の有無と保障性、経済企画の用意周到さに先立って、われわれの指導幹部、活動家の透徹した人民観によって保証されなければならないと思う。

われわれにとって人民は何か、われわれが何のために、誰のためにこの膨大な事業をそれも最も困難な時期に自ら担ったのかを常に銘記しなければならない。

わが党が明らかにした最も正確な闘争路線と方針があり、すでに蓄積された経験もあり、自立経済の強固な潜在力がある限り、地方が変わる新時代は遠い後日ではなく、目前の現実に開かれるであろう。

全ての活動家は、今日の政治局拡大会議で採択された決定を最も徹底的に、最も完璧に貫徹する上で自分の使命と本分を全うすることで、わが人民のこの上ない信頼に無条件必ず報いなければならない。

ともに、百倍の信念と勇気を抱いて偉大なわれわれの偉業の新しい変革的結実のために、社会主義の全面的発展のために、偉大なわが人民の福利のために力強く闘っていこう。
共和国では、経済実利上の御託を並べて「できない理由」を紡ぎ出す経済実務担当者の悪しき傾向が以前から指摘されてきました。そう考えると、党の根幹に関わるこのような重要事業については、やはり党が自ら積極的に前面に出て指揮を取らなければなければならないのではないか、そう思います。

共和国における社会主義建設における今次の最重要課題としての「地方発展20×10政策」におい党組織の役割が強調されている点、「地方発展20×10政策」が党主導の事業であると位置づけられた点から、キム・ジョンウン同志がこの問題に本気で向き合っていることを読み取らなければなりません

■人民軍の動員
「地方発展20×10政策」の推進中核主体にも注目する必要があります。「金正恩総書記は、地方産業を発展させるための闘いの戦域に最も活力あって戦闘力のある人民軍を押し立てたと述べ、人民軍はわが党の宿願となる革命課題を実行する壮大なこの闘いでも当然旗手になり、主人公になるべきであり、人民の幸福の創造者、守護者としてのその高貴な名を守らなければならないと述べた」とあるように、本件政策の推進中核主体は人民軍であるといいます。人民軍将兵の闘争目標に対する無条件絶対性やその組織性の高さを経済建設にも生かそうというのは、共和国の伝統的気風ですが、今般もこれを十全に生かして難関を突破しようというわけです。

■全面的に支持すべき現代的な社会主義建設路線
併せて注目しておきたいのが、「朝鮮労働党中央委員会第8期第19回政治局拡大会議に関する報道」(平壌1月25日発朝鮮中央通信)で報じられた次のくだりです。
今の時点で、革命的な方略を立てて市・郡の経済的資源と原料源を最大限効果的に確保し、利用して地方産業を全面的に、バランスを取って発展させられるように各方面の措置を取り、各地方経済の特色のある発展を図り、それに対する投資の幅を拡大し、互いに競争する風潮を確立して多角的な成長を促すのは、地方の人民の物質的・文化的生活水準を一段階押し上げることにおいても、とても差し迫った当面の課題となり、わが党の社会主義的地方発展政策の将来的見地から見ても非常に重大で責任的であり、時宜にかなった選択と決断になる。
毎度毎度の指摘になりますが、「互いに競争する風潮」という言及があります。「地方産業を全面的に、バランスを取って発展させられるように各方面の措置を取り、各地方経済の特色のある発展を図り、それに対する投資の幅を拡大し、互いに競争する風潮を確立して多角的な成長を促す」という今次路線は、全面的に支持すべき現代的な社会主義建設路線であると考えます。

■総括
さて、こうして見てみるとキム・ジョンウン同志は、持てるリソースを総動員して「地方発展20×10政策」を取り組もうとする確固たる決意を固められたものと推察できます。特に当ブログが注目したいのは、現代版革命的大衆路線とも言い得る地方のそれぞれの実情に応じた地方開発・地方発展を、党的指導の枠内で、人民軍将兵を活用しつつ推進するという朝鮮式社会主義の特徴を糾合したシナリオの行方です。現代社会主義論の探究は当ブログの一つのテーマであります。引き続き大きな関心を持って学んでゆきたいと思います。
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2024年01月25日

共和国の対大韓民国新路線について

1月15日づけ「朝鮮労働党中央委員会第8期第9回総会拡大会議について」の続きです。今回は対大韓民国政策の歴史的転換にかかる部分について、最高人民会議での元帥様の施政演説も交えて検討してゆきたいと思います。

■元帥様の情勢認識
昨年末の朝鮮労働党中央委員会総会を報じる朝鮮総聯機関紙『朝鮮新報』の「朝鮮労働党中央委員会第8期第9回総会拡大会議に関する報道」(2024年01月01日 08:29)を基に、「金正恩総書記は、核戦争の瀬戸際に至った朝鮮半島地域の危うい安保環境と敵対勢力の軍事的対決策動の性格を分析、評価し、国家防衛力の急進的発展を一層加速させることに関する重大な政策的決断を宣明した」以降に記されている情勢分析をまず確認してゆきましょう。

キム・ジョンウン同志は「米国とその追随勢力の反朝鮮対決策動は依然として悪辣(あくらつ)に強行されたし、その無謀さと挑発さ、危険さは史上前例がないほど、敵のあがきは極に至っている」と指摘。その理由として、「南朝鮮に(アメリカの)超大型戦略原潜が40余年ぶりに再び入ってきた」ことや「(アメリカの)核戦略爆撃機が史上初めて着陸した」こと、「超大型原子力空母打撃集団を時を構わず送り込」んだこと、「日本、南朝鮮の連中と繰り広げた合同軍事演習の回数が昨年に比べておよそ2倍に増えた」ことなどを挙げられました。この結果、「各種の米国核戦略手段の連続的な朝鮮半島地域投入で南朝鮮が米国の前方軍事基地、核兵器廠に完全に変わってしま」ったと情勢認識を示されました。

大韓民国側は最近でも、今夏予定の合同軍事演習に核作戦シナリオを導入することを決める(「韓米が合同演習で「核作戦シナリオ」実施へ 拡大抑止強化」2023/12/16(土) 11:34配信 聯合ニュース)といった具合に北侵挑発を続けていますが、このことについてキム・ジョンウン同志は「米国が痼疾的(こしつてき)に濫発している反朝鮮敵対行為が単に、修辞的威嚇や誇示性目的だけに限られたものではなく、実際の軍事的行動につながって双方武力間の衝突を誘発させかねない犯行段階に明白に進化したということを見せている」と指摘されました。

この中で注目すべきは、従米を超えて崇米というべき域に達しているユン・ソギョル行政府の所業であります。キム・ジョンウン同志は、ユン行政府が「形式上にでも武力衝突防止という微弱な使命を果たしてきた9・19北南軍事分野合意の破棄という結果までもたらした」と指摘したうえで、「注目すべきことは、尹錫悦かいらい一味が不法無法の幽霊機構である「国連軍司令部」を第2の朝鮮戦争挑発のための多国籍戦争機構に拡大してわれわれとの「力のバランス」を成し、最後まで対決しようと自滅的な企図をしていることである」と指摘なさいました。その上で、「朝鮮半島地域の危険な安保環境を時々刻々激化させ、敵対勢力が強行している対決的な軍事行為を綿密に注目してみれば、「戦争」という言葉はすでにわれわれに抽象的な概念ではなく、現実的な実体として迫っている」という重要な情勢認識を定式化なさいました。

また、その情勢認識を基に対外事業部門でとらえていくべき戦略・戦術的方針、及び北南関係と統一政策における新しい立場の定立及び対敵活動で断固たる政策転換について宣明なさいました。対外事業においては、社会主義国の政権党との関係発展に力を入れながら反帝・自主的な国々との関係をより一層発展させ、国際的規模で反帝共同行動、共同闘争を果敢に展開していく路線を提示されました。対米・対敵闘争においては強対強、正面勝負の原則を一貫して堅持・実施すべきであるとされました。

その関連で対南部門で根本的な方向転換をする路線が提示されました。「膨大な双方の武力が対峙している軍事境界線地域でいかなる小さな偶発的要因によっても物理的激突が発生し、それが拡大しかねないということは周知の事実であり、現在の朝鮮半島に最も敵対的な両国が並存していることに対しては誰も否定できない」としつつ、さらに歴史的経緯を振り返るキム・ジョンウン同志。「この不正常の事態は、歴代かいらい政権の政策延長線から見る時、決して突然変異のような偶然の現象ではなく、北南関係史の必然的帰結である」と言明なさいました。

この理由としてキム・ジョンウン同志は、歴代の大韓民国為政者らが持ち出した政策はいずれも「南による北の吸収統一」でしかなく、「われわれの体制と政権を崩壊させるというかいらいの凶悪な野望は「民主」を標榜しても、「保守」の仮面をかぶっていても少しも異なるものがなかった」からであると指摘。その上で、キム・ジョンウン同志は「長きにわたる北南関係を振り返りながらわが党が下した総体的な結論は、一つの民族、一つの国家、二つの体制に基づいたわれわれの祖国統一路線と克明に相反する「吸収統一」「体制統一」を国策と定めた大韓民国の連中とは、いつになっても統一が実現しないということである」と断言なさいました。

確かに、共和国が武力による赤化統一路線から一国二制度の高麗民主連邦共和国構想による段階的な統一路線に大きく方針を変えたのにもかかわらず、大韓民国はイ・スンマンの頃から皆「北進統一」論に固執しています。ユン・ソギョル氏が、仮に今日、時代錯誤的な「滅共統一」を絶叫しても何ら驚くには値しません。

このような認識を展開したうえでキム・ジョンウン同志は「現実は、われわれをして北南関係と統一政策に対する立場を新しく定立すべき差し迫った要求を提起している」、「現実を認めて南朝鮮の連中との関係をより明白にする必要がある」と問題を提起。「われわれを「主敵」と宣布して、外部勢力と結託して「政権崩壊」と「吸収統一」の機会だけをうかがう一味を和解と統一の相手に見なすのは、これ以上、われわれが犯してはならない錯誤」と断定したうえで「北南関係は、これ以上、同族関係、同質関係ではない敵対的な両国関係、戦争中にある両交戦国関係に完全に固着された。これが、こんにちの北と南の関係を見せる現住所と言える」となさったのです。

続いて「党中央委員会統一戦線部をはじめとする対南事業部門の機構を整理、改編するための対策を立て、根本的に闘争の原則と方向を転換すべきである」とか「米国と南朝鮮の連中が、もしあくまでもわれわれとの軍事的対決をもくろもうとするなら、われわれの核戦争抑止力は躊躇(ちゅうちょ)せず重大な行動に移る」あるいは「朝鮮半島でいつにでも戦争が起こりうるということを既定事実化して、南朝鮮の全領土を平定しようとするわが軍隊の強力な軍事行動に歩調を合わせていくための準備を先を見通して講じていく」といった具体的方向性を提示なさいました。

■「もうお前たちには、身内としての特別扱いをしない」
さて今般、キム・ジョンウン同志が提示なさった対南部門での根本的な方向転換の経緯は、要約すると「大韓民国には同胞のよしみということで破格的な配慮してきたというのに、奴らは我々の善意を踏みにじってきたのだから、もう話し合いの対象ではなく単なる敵である」といったところになります。もっと平たく言えば、「大韓民国は話せば分かり合える相手ではない」であり「もうお前たちには、身内としての特別扱いをしない」ということです。1月15日の最高人民会議での演説でも次のように指摘されています。
党中央委員会2023年12月総会でも厳かに宣明されたように、わが党と政府と人民は流れた歴史の長きにわたる期間、いつも同族、同胞という観点から度量の大きい包容力と粘り強い忍耐力、誠意ある努力を傾けて大韓民国の連中と祖国統一の大義を虚心坦懐に論じたりもした

しかし、苦い北南関係史が与える最終結論は「政権崩壊」と「吸収統一」を夢見ながらわが共和国との全面対決を国策としており、日増しに道理に外れて凶悪になり、傲慢(ごうまん)無礼になる対決ヒステリーによって同族意識が骨抜きになった大韓民国の連中とは民族中興の道、統一の道を共に歩めないということである。

北南関係がこれ以上同族関係、同質関係ではない敵対的な二国家関係、戦争中にある完全な二つの交戦国関係であるという現実は、外部勢力の特等手先集団である大韓民国が極悪で自滅的な対決妄動で書き込んだ北と南の明白な現住所であり、世界に向けて滞りなくベールをはがした朝鮮半島の実状である。
民族中興の道、統一の道を共に歩めなくした元凶は大韓民国の連中であり、もはや北南関係は戦争中にある完全な二つの交戦国関係であると言明されています。確かに「同胞のよしみ」を取り去れば北南間の関係はただ一つ、戦争中にある完全な二つの交戦国関係になるでしょう。

■決して根拠のない情勢認識ではない
最高人民会議での演説では、このくだりに続いて次のように指摘されています。
これに関連して、朝鮮民主主義人民共和国憲法の一部の内容を改正する必要があると思う。

すでに、私はこの前の総会で大韓民国憲法というものに「大韓民国の領土は朝鮮半島とその付属島嶼とする」と公然と明記されている事実について想起させた。

今回、一部の外国の憲法資料を調べてみると、国家主権が行使される領域部門、言い換えれば自国の領土、領海、領空地域に対する政治的および地理的な定義を憲法に明白に規制している。

現在、わが国の憲法には上記の内容を反映した条項がないが、わが共和国が大韓民国は和解と統一の相手、同族であるという現実矛盾的な既成概念を完全に払拭して徹底的な他国に、最も敵対的な国家に規制した以上、独立的な社会主義国家としての朝鮮民主主義人民共和国の主権行使領域を合法的に正確に規定するための法律的対策を立てる必要がある。
党中央委員会総会よりも踏み込んだ表現。大韓民国が和解と統一の相手、同族であるというのは現実と矛盾していると言明されています。

ここで是非とも注目しなければならないのは、共和国の憲法が今まで領土・領海・領空について明確な表現をしてこなかったのに対して、大韓民国はその統治領域について「朝鮮半島とその付属島嶼とする」などと敵対的に言明してきたところ。党中央委員会総会で「われわれの体制と政権を崩壊させるというかいらいの凶悪な野望は「民主」を標榜しても、「保守」の仮面をかぶっていても少しも異なるものがなかった」とキム・ジョンウン同志が指弾されたことは決して無根拠ではないのです。

■チュチェ思想における「民族」の定義に立ち返れば
ここで是非、チュチェ思想における「民族」の定義を踏まえなければならないと考えます。チュチェ思想において民族とは、「血縁、言語、文化生活、地域の共通性にもとづいて社会歴史的に形成された人々の堅固な集団」であるとされています。長い歴史的過程の中で、異なる氏族や種族に属した人々のあいだの経済的および文化的連携が緊密になったことで一定の領土内に血縁や言語、文化生活の共通性に基づいた一つの統一的な生活単位が生まれ、新しい社会的共同体である民族が形成されたわけです。なお、ここでいう血縁(血縁的関係)とは、朝日新聞の牧野愛博氏がよく勘違いして使っている生物学的な意味ではなく、身体的および心理的な共通感を抱かせる社会政治的な一体感、疑似的な家族意識に近い仲間意識をいいます。ここには儒教の伝統的な血縁観が色濃く反映されていると言えます。

この点、共和国と大韓民国との関係は、まず言語については、ほぼ問題なく意思疎通できる意味において共通的だとは言えますが、キム・イルソン同志の労作『朝鮮語の民族的特性を正しく生かすことについて』で既に指摘さてれいたとおり、大韓民国における朝鮮語は「西洋化、日本化、漢字化したために朝鮮語らしくなくなり、朝鮮語の民族的特性がしだいに失われつつあ」ります。あれから50年以上経っており、大韓民国における朝鮮語の乱れはさらに深刻化していると考えられ、言語の共通性は日に日に損なわれているものと考えられます。ちょうど1年前に制定された「ピョンヤン文化語保護法」は、この観点から考えるとその立法動機が非常に意味深であると言えるでしょう。

文化生活については、共和国は大韓民国のブルジョア文化の退廃性をかねてより鋭く批判してきたところです。「南朝鮮というものは政治は完全に失踪し、社会全般がヤンキー文化で混濁しており、国防と安保は米国に全的に依存する半身不随の奇形体、植民地属国にすぎない」とも言及されています。文化生活の共通性はないといってよいでしょう。

地域の共通性については、軍事分界線を超えた北南の往来は不可能です。また、交流の類も近年はますます低調になってきています。ユン政権になってからは、昨年12月21日づけ「北南の交流推進はユン「政権」にとって何か都合が悪いのか?」でも取り上げたとおり、大韓民国の統一省は日本国内の朝鮮学校を取材した映画監督らを調査するという常軌を逸する締め付けを行うに至っている始末。人間の往来の困難さが増す中で地域の共通性は著しく損なわれていると言わざるを得ないでしょう。

このように、民族を定義づける血縁、言語、文化生活、地域の共通性のうち、そのうち3つが既に大きく損なわれているわけです。そして血縁的関係性について言えば、これはもとより「共通感」という点において想像上のもの。最後の紐帯であった血縁意識さえも大韓民国の執拗な悪意によってズタズタにされた以上は、もはや同族扱いする理由はないでしょう。

■1950年代末から1960年代までの対南政策を思い起こさせる
キム・ジョンウン同志は、続けて次のように指摘なさっています。
朝鮮半島で戦争が起こる場合には、大韓民国を完全に占領、平定、収復し、共和国領域に編入させる問題を反映することも重要であると思う。

そして、わが人民の政治・思想生活と精神・文化生活の領域で「三千里の錦繍江山」「8千万同胞」のように、北と南を同族にまどわす残滓的な単語を使用しないということと、大韓民国を徹頭徹尾、第1の敵対国、不変の主敵と確固と見なすように教育を強化するということを当該の条文に明記するのが正しいと思う。

この他にも、憲法にある「北半部」「自主、平和統一、民族大団結」という表現が今や削除されなければならないと思う。

私は、これらの問題を反映して共和国憲法が改正されなければならず、次回の最高人民会議で審議されなければならないと思う。

憲法改正と共に、「同族、同質関係としての北南朝鮮」「わが民族同士」「平和統一」などの象徴として映りかねない過去時代の残余物を処理するための実務的対策を適時に伴わせなければならない。

差し当たり、北南交流協力の象徴として存在していた京義線のわが方の区間を回復不可の水準に物理的に完全に断ち切ることをはじめ、境界地域の全ての北南連携条件を徹底的に分離させるための段階別措置を厳格に実施しなければならない。

そして、首都平壌の南の関門に無様に立っている「祖国統一3大憲章記念塔」を撤去するなど、自余の対策も実行することによって、わが共和国の民族史で「統一」「和解」「同族」という概念自体を完全に除去しなければならない。
北と南を同族にまどわす残滓的な単語を使用しない」「わが共和国の民族史で「統一」「和解」「同族」という概念自体を完全に除去しなければならない」などと強い表現が連続して現れます。大韓民国を対話の相手と認めるからこそ使用されてきた一連の表現ですが、もはやそうではなくなった以上は、すべて削除しなければならないというのは道理には適っていると言えます。

ここで注意しなければならないのは、「統一」「和解」「同族」という概念が必ずしも一般的意味でのそれではあるとは言い難く、大韓民国を対話の相手だと認める文脈での表現、もっと平たくいえば大韓民国を身内扱いする文脈での意味合いであったということです。

当ブログがかねてより指摘してきたことですが、言葉というものは辞書に載っている意味だけがあるのではなく文脈によって形成された、通常とは異なる特別な意味合いを持っている場合もあります。特に共和国は、正統という概念を非常に重視するお国柄であるため、言葉が持つ意味合いを練りに練ってから繰り出します。たとえばチュチェ思想において「血縁」という言葉は非常に重要なキーワードですが、これには生物学的な意味合いは含まれてはおらず、儒教文化に根ざした社会政治的な一体感・仲間意識を指す意味合いが込められています。

それゆえ、この演説を「二つのコリア路線の固着化」だとする見立ては些か語弊があるように思われます。「同族どうしで話し合いによって和解し平和的に統一する」が大韓民国側の執拗な悪意のために不可能になったと言っているだけ、言い換えれば「大韓民国は話せば分かり合える相手ではない」だけであって「朝鮮半島で戦争が起こる場合には、大韓民国を完全に占領、平定、収復し、共和国領域に編入させる問題を反映することも重要」と言明されているとおり、大韓民国の地域を奪還することは依然として国是でありつづけています。それゆえ、統一を全面的に撤回したわけではありません。もっとも、実際問題として朝鮮人民軍が軍事分界線を越えて南進する可能性は、成功する可能性を鑑みるに現状では低いと思われるので、武力統一に打って出る可能性は低いでしょうが、たとえば、「大韓民国における革命的事変・体制転覆級の事件があれば統一し得る」とは言えるでしょう。1950年代末から1960年代までの対南政策を思い起こさせます。

■≪삼천리 아름다운 내 조국≫という国歌の歌詞の処遇に注目すべき
関連して、「北と南を同族にまどわす残滓的な単語を使用しない」のくだりでは「三千里の錦繍江山」という表現が例として挙げられていますが、共和国の国歌には≪삼천리 아름다운 내 조국≫という表現があります。この表現が今後どうなるのかは注目に値するでしょう。

삼천리 아름다운 내 조국≫は建国以来一度も書き換えられていないくだりであります。北南対立が戦争という形で噴出した祖国解放戦争の時代でも、住民蜂起を促す形での大韓民国行政府の崩壊を目指す1960年代でも、それらとは真逆的な6・15会談の時代でも同じく歌われ続けてきた点において≪삼천리 아름다운 내 조국≫という表現は、大韓民国との関係とは無関係だと言えます。もしこの歌詞が引き続き維持されるのならば、今回「統一」「和解」「同族」といった諸表現が問題視された原因が「大韓民国を身内扱いするからこその表現であるため」という私の推論が正しいと言えるでしょう。もし≪삼천리 아름다운 내 조국≫という表現が削除されたら、改めて分析しなければならないと考えています。

■政府と人民大衆とを区別・峻別する社会主義・共産主義者の基本姿勢に照らせば
また、もう一つ注目しておかなければならないのは、ここで槍玉にあげられているのは一貫して大韓民国、つまり韓国政府だという点です。以前から繰り返し指摘してきたように社会主義・共産主義者は政府と人民大衆とを区別・峻別しますキム・ジョンウン同志は大韓民国については、もはや同胞としての特別扱いはしない、大韓民国は話せば分かり合える相手ではないと突き放していますが、彼の地に住む人民大衆については言及はしていません。「「8千万同胞」のように、北と南を同族にまどわす残滓的な単語を使用しない」と言明されているので、今後は「同胞だから」というだけの理由で無条件に身内扱いはしないでしょうが、だからといって無分別に敵扱いするとも言えないのではないかと思われます。

最高人民会議での演説においてキム・ジョンウン同志は次のように指摘されています。
対外活動部門は、激変する国際政治地形と安保環境に主動的に対処するための活動を策略的に、積極的に展開して、わが革命に有利な条件と環境を整え、国権守護、国益死守の原則に基づいて一寸の脱線や譲歩も許してはならない。

社会主義国との関係発展を優先課題にして双務的・多角的協力をより一層強化し、国際的規模での反帝共同行動、共同闘争を果敢に展開し、自主と正義を志向する全ての国、民族と思想と体制の差を超越して団結し、協力して、国の対外関係領域を一層拡大するための活動で新たな進展を遂げなければならない。

これらの課題が、共和国政府が差し当たりとらえて必ず貫徹すべき主要政策である。
自主と正義を志向する全ての国、民族」と「思想と体制の差を超越して団結」すると言明されるキム・ジョンウン同志(「と」が続く「自主と正義を志向する全ての国、民族と思想と体制の差を超越して団結」という文章を何処で区切るのか少し悩ましいところですが、英語版で≪irrespective of ideology and social system.≫とあったので、上述のように解釈するのが文法的にも内容的にも自然だと思います)。自主と正義を志向する民族とは引き続き思想や体制の差を超えて団結すると言っているので、大韓民国国民であったとしても自主と正義を志向する限りは団結の対象になる余地が理論的にはあり得ます。

蓋し、今後の共和国政府の大韓民国国民に対する接し方は、アメリカ国民に対する接し方に準ずるのではないでしょうか。「戦争中にある完全な二つの交戦国関係」は、アメリカもそうです。すなわち、政府と敵対的関係にあるのでその国民は基本的に敵性国民ということになるが、個人的に親善友好の意思がある人士については個別的に対応するというものです

「韓国は議会制民主主義の国なのだから、韓国政府の政策は韓国国民の意思に基づくものだろう」という指摘もあるかもしれません。しかし、社会主義・共産主義者は階級国家論に依拠しているので、大韓民国政府はその支配者たちに牛耳られていると見做します。今年はアメリカ大統領選挙の年ですが、ちょうど朝鮮労働党機関紙『労働新聞』はこのことについて「米国ではカネと大企業から切り離された権力者は存在しない」とか「資本家の代弁者に過ぎない」と報じています(「北朝鮮、米選挙激戦と報道 「軍需産業が本当の大統領」」2024/1/22 09:56)。政府と人民大衆とを区別・峻別し、政府は支配階級に牛耳られていると見做す社会主義・共産主義者の基本原則を共和国は引き続き忠実に実践しています。

■総括
共和国の対大韓民国姿勢の急激な変化は、たとえば、南朝鮮という表現がカッコつきの大韓民国表現に取って代わり、そして昨年末ごろからカッコなしの大韓民国表現に取って代わった点に非常に端的に現れていました。当ブログでは昨年12月25日づけ「カッコなしの大韓民国表現が現れるようになった意味」において「カッコ表現と韓「国」の傀儡性は一対一的なリンクの関係にはな」く、カッコつきの大韓民国表現がカッコなしの大韓民国表現に取って代わったこと自体には何らかの意味合いが込められているものの、「共和国の対南観や対南政策は実質的には何も変わっていない」としましが、このたびの一連の出来事を鑑みるに私の見立ては外れたと言わざるを得ません。

正直に申せば、カッコつきの大韓民国表現が出てきた頃までは、昨年7月20日づけ「キム・ヨジョン党中央副委員長の「大韓民国」発言は「二つのコリア政策のあらわれ」とは言い難いだろう」で述べたことについてはそれなりに自信があったのですが、12月時点は我ながら苦しい見立てでした。これは何といっても、路線変更を指摘する勇気は私にはなかったことに起因します。確かにカッコなしの大韓民国表現は目新しいものでしたが、「傀儡」という昔ながらの表現が引き続き使われていたなど、文脈を総合するにそれ以外の点において路線変更があったとまでは断定し難かったのです。

今回、朝鮮労働党及び共和国政府が新しい路線をこれ以上ないほどに明確に示しています。そしてこれは偏に大韓民国の執拗な悪意に起因するものであることが明白であります。大韓民国は、彼らの敵対的な悪意ゆえに、話せば分かり合える相手ではないのです。そうである以上は、現在の情勢認識に基づく新路線を受け入れるべきでしょう。路線変更を指摘する勇気を持てずにモヤモヤしていた私としては、強力なお墨付きを得られた思いです。

【コラム】金正恩の民族・統一否定に韓国の主体思想派は「メンタル崩壊で沈黙」」(1/23(火) 17:58配信 中央日報日本語版)によると、キム・ヨンファン氏が「韓国国内の従北主体思想派が沈黙しているのはさらに驚くべきでいぶかしい。これまで本当に統一を叫んできたならば金正恩政権の反統一路線表明に対し非難する大規模糾弾集会でも開かなければならないはずだがまだ何の動きも見せていない。北朝鮮の対南戦略急変で突然方向感覚を失い「メンタル崩壊」に陥ったのだろうか」などと宣っていますが、この見立ては失当でしょう。キム・ジョンウン同志は「反統一路線」に舵を切ったのではなく、「大韓民国は話せば分かり合える相手ではないので、もう相手にしない」と言っているに過ぎません。それゆえ、大韓民国が転覆すれば統一はあり得るのです。その線での統一工作、1960年代的な工作活動は依然としてあり得るでしょう。

大韓民国で活動するチュチェ思想派はおそらく朝鮮労働党及び共和国政府が提示した歴史上画期的な新路線が意味することを注意深く研究している最中であるものと思われます。社会主義・共産主義者は、正統的であればあるほど「正しさ」を重視する傾向にあるので、物事をじっくりと時間をかけて深く考えることで持論をブラッシュアップする傾向にあります。

「大韓民国は話せば分かり合える相手ではないので、もう身内としての特別扱いをしない」という新路線の基本に対する理解を柱としつつ、政府と人民大衆とを区別・峻別する社会主義・共産主義者の基本姿勢を底流として踏まえて理解すべきものと考えます。
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2024年01月15日

朝鮮労働党中央委員会第8期第9回総会拡大会議について

今年も年初記事として、昨年末の朝鮮労働党中央委員会第8期第9回総会拡大会議について取り上げたいと思います。朝鮮総聯機関紙『朝鮮新報』の「朝鮮労働党中央委員会第8期第9回総会拡大会議に関する報道」(2024年01月01日 08:29、以下「記事」と呼称)をニュースソースとして使わせていただきます。

キム・ジョンウン同志の司会によって進行した本総会拡大会議。記事によると大きく次の構成でした。
1.2023年度の党および国家政策の実行状況に対する総括と2024年度の闘争方向について

2.児童・生徒のための社会主義的施策の実行で責任感を強めることについて

3.党中央検査委員会の2023年度の活動状況について

4.2023年度の国家予算執行状況と2024年度の国家予算案について

5.現段階において党の指導的機能を強化するための一連の措置について

6.組織問題
■人民的な政治・政策の核心的特徴がよく現れている第一議案の報告構成
第一議案の「2023年度の党および国家政策の実行状況に対する総括と2024年度の闘争方向について」について確認してみましょう。

まず報告では、人民経済の全般で収められた注目に値する成果が概括されました。

この中で農業部門への特別言及として、「全般的な経済発展と人民の生活保障において決定的意義を持つ支配的目標である穀物生産目標を超過遂行」したと発表。『朝鮮新報』の「〈そこが知りたいQ&A〉党中央委第8期第9回総会の内容は?」(2024年01月10日 15:43)によると、「22年の農業生産が十分ではなかったことで深刻な食糧難に陥っ」ていたところ、「12の重要課題のうち最初の課題として掲げられた穀物生産目標を超過達成した」ので、キム・ジョンウン同志は「23年度の経済活動で達成した最も貴重な成果」であったと指摘なさいました。

キム・ジョンウン同志は、「農業部門の活動家と勤労者自らの熱意と自信が比べようもなく高まり、喜びに満ちた決算分配集会が全国の農場で次々と行われたのは農場員の精神状態に一大革命をもたらす重要な契機にな」り、「これこそ2023年度の穀物生産目標を達成するための闘争過程に獲得した、そして今後の持続的な農業発展のためのこの上ない貴重な変革の中の本当の変革である」と述べられたと記事は報じています。また、その背景事情として、黄州キンドゥン水路工事と康翎湖淡水化工事、数千ヘクタールの干拓地地区外建設が完工したことで、30万ヘクタールの干拓地開墾目標を達成するための強固な土台が築かれたことを記事は指摘しています。

農民の熱意や努力といった精神論を単独で持ち出すのではなく、第8回党大会が定めた整備・補強戦略の一環としての灌漑等農業インフラ整備を増産の背景とした上で農民の熱意や努力を持ち出しています。また、「喜びに満ちた決算分配集会が全国の農場で次々と行われた」と敢えて言及することで、努力の物質的な成果が農民に帰属・還元されていることを強調していると言えます。

次に報告は、建設部門についての特別言及として住宅建設について言及しています。共和国では伝統的に、経済部門の成果について実際の数量ではなく前年比や計画達成率といった比率で表現をすることが多いところ、例外的に具体的な数値を挙げて言及しています。また、首都だけでなく農村住宅建設計画についても言及があります。

住宅建設の意義については、昨年12月30日づけ「諦観とソ連崩壊、その轍は踏むまいとする朝鮮労働党」や昨年末の総括記事で分析したとおり、人々が諦観を抱くことを阻止するためには非常に重要なことです。日常生活が変化・向上するからこそ「よりよい暮らしが可能だ」と希望を持って生産活動に従事できるからです。

比率表現では具体的にどれだけ国富が増えたのかは分かりにくいもの。ここで具体的な数値を挙げて成果を示すことは、より生活向上の実感を抱く効果があります。また、農村住宅建設計画への言及は、生活水準の向上が全国的になりつつあることを実感させる効果があります。

文脈が前後しますが、地方における経済発展と、人民の生活・文明の創造において進展が見られたというくだりがあります。「どの道でも、党中央総会の決定に反映された科学技術図書館と学生服工場、履物工場、標準薬局を建設し、高麗薬工場を改修・近代化し、育児政策の実行を推し進めるために沸き立つ高揚した闘いの雰囲気と仕事ぶりが年中持続的に堅持され」、「発電所と畜産農場、少年団キャンプ場、野外劇場、大学、伝染病予防院、基礎食品工場、山林科学研究所、乳牛牧場、航空クラブをはじめ、展望的かつ当面の経済的需要と地域人民の生活上の便宜を図ることができ、新時代の建築美学的要求にも合致する数多くの対象が新しく建設された」ことにより、「2023年は各地方でも誇るに足る建造物が目立つように多くなった名実共に変革の年になった」とのこと。特に「黄海南道でかつての営農活動で現れていたいろいろな弊害を根絶するための教育と闘争の旋風を巻き起こし、科学的農業推進組の役割を強めて穀物買付計画を遂行したのは、誰よりも農業の主人である道内の市・郡党委員会と農業部門の党組織、活動家と農業勤労者と人民が特別に多く苦労した結果である」と特筆されています。

「2023年度の党および国家政策の実行状況に対する総括」としてまず経済建設について報告し、その中でも農業部門と建設部門(住宅建設)、そして地方経済と社会における変化について特別言及するという構成からは、キム・ジョンウン同志及び朝鮮労働党の人民的な政治・政策の核心的特徴がよく現れていると言えるでしょう。

■朝鮮式社会主義建設の独自性としての「追いつけ追い越せ・経験交換運動」
報告では、続いて、龍城機械連合企業所での大型コンプレッサー製造に特別な言及がありました。記事は「党中央委員会が任せた機械製品の生産を第2のチョンリマ(千里馬)精神の創造過程、集団的技術革新の過程に転換させ」たことによって、「経済部門に潜んでいる敗北主義と技術神秘主義に痛打を加え」、「党政策の正当性と生命力を力強い実践で証明」したと報じています。

また、文脈前後しますが、次のくだりがあります。
新時代の5大党建設路線を貫徹するための闘いの中、わが党の組織的・思想的強固化と戦闘力強化の百年の大計を保証する中核的かつ革新的な党活動体系と方法が研究、実行された。

全党的に、強力な党員大隊を組織、派遣して両江道の農村住宅の建設を助ける活動と党中央委員会の各部署と省、中央機関が立ち遅れた農場を受け持ってもり立てる活動が企画され、展開されたのは、上部が下部を助け、立ち遅れた単位を共に発展させるわが党の伝統的な活動方法のしっかりした具現として、わが党活動におけるもう一つの貴重な進展となる。
集団主義・集団的革新は共和国の国是である朝鮮式社会主義の核心です。生産活動における集団的技術革新、党建設活動における所謂チョンサンリ(青山里)方式、≪따라앞서기,따라배우기,경험교환운동≫(追いつけ追い越せ・経験交換運動)が引き続き強調されています。

昨年は、≪따라앞서기,따라배우기,경험교환운동≫(追いつけ追い越せ・経験交換運動)への言及が引き続き多い一年でした。たとえば、5月18日づけ『労働新聞』社説(http://www.kcna.co.jp/calendar/2023/05/05-18/2023-0518-008.html)、7月31日づけ『労働新聞』社説(http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?OEAyMDIzLTA3LTMxLU4wMTBAMkBAQDFAMTA=)、11月7日づけ『労働新聞』記事(https://chosonsinbo.com/2023/11/07-161/)などが、追いつけ追い越せ・経験交換運動に言及しています。また、12月22日のウンサン探査機械工場の竣工式スピーチでも追いつけ追い越せ・経験交換運動に触れられています(https://chosonsinbo.com/2023/12/25-162/)。特に7月31日づけ社説は、≪우리 식의 본보기들을 끊임없이 창조하고 일반화하여 모든 부문, 모든 단위가 다같이 발전해나가도록 하는 가장 우월한 방법이다.≫(われわれ式の手本を絶えず創造し一般化し、すべての部門・すべての単位が共に発展していくようにする最も優越した方法だ)と位置付けています。こうした流れを受けて『朝鮮新報』が「追いつけ追い越せ」というコラムでこの運動について取り上げています(https://chosonsinbo.com/jp/2023/11/20-122/)。

共和国で社会主義的競争・集団主義的競争が展開されてきたことについては、当ブログでも繰り返し取り上げてきた(チュチェ105・2016年6月6日づけ「朝鮮労働党第7回党大会は経済改革・競争改革を漸進的に継続すると暗に宣言した画期的大会」、チュチェ106・2017年1月2日づけ「キムジョンウン委員長の「新年の辞」で集団主義的・社会主義的競争が総括された!」、チュチェ108・2019年1月29日づけ「集団的革新・社会主義的競争の旗の下に前進する社会主義朝鮮」など)ところですが、≪따라앞서기,따라배우기,경험교환운동≫というスローガン及び関連スローガンは、展開されるべき競争があくまでも集団主義的なものであり、他人を踏み台にしたり蹴落としたりするものではないことを強調していると言えます。

■先富論を基本原則とする中国の改革開放論との比較
追いつけ追い越せ・経験交換運動を基礎とする朝鮮式社会主義建設の独自性に着目すべきであると考えます。共和国で目下展開されている経済改革を「市場経済化」などとし、中国の改革開放になぞらえて「北朝鮮の改革もここまで来た」などと勝手なことをいう「専門家」が非常に多いものですが、そうした見方は現実を見誤ることになるでしょう。

中国の改革開放論は、その基本原則を先富論に置いています。先富論とは、要するにトリクルダウン「理論」のことです。習近平時代になってから共同富裕論が唱えられるようになったことが何よりもの証拠ですが、トリクルダウン「理論」としての先富論は必ずしも想定どおりには行かなかったと言わざるを得ません。

中国が先富論に基礎づけられる改革開放に乗り出したことは、結局のところ人民公社を解体したことで集団主義を破壊し個人主義を復権させたことであると言わざるを得ません。ケ小平としてはそんなつもりはなかったのかも知れませんが、人々の思想意識が十分に集団主義化していなかった状況で改革開放を始めてしまったことで個人主義に歯止めが掛からなくなったことは否定しがたいことでしょう。

これに対して、共和国の追いつけ追い越せ・経験交換運動は、集団主義を基礎として「経験交換」の部分に力点が置かれています。イデオロギー的には、7月31日づけ『労働新聞』社説(http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?OEAyMDIzLTA3LTMxLU4wMTBAMkBAQDFAMTA=)が非常に分かりやすく説明しているとおり、日本風に端的に言えば「仲間どうしでの切磋琢磨による底上げ」であると言えます。実務的には、先進単位の経験や技術を横展開し一般化するための展示会や発表会が頻回に組織されており、これは労働者の競争心を搔き立て増産に駆り立てているといいます。困難な状況下においても人民経済の現代化・増産化を実現する欠かせない要素であるといいます。

「経験交換」の部分に力点が置かれ、それが十分に実践されている追いつけ追い越せ・経験交換運動が「最も優越した方法だ」として位置づけられている点にこそ、先富論に基礎づけられる中国の改革開放の理論と現実とは異なる朝鮮式社会主義の独自性があると言えるでしょう。

また、共和国の追いつけ追い越せ・経験交換運動は、イルクン(活動家)の役割を強調しています。同上社説では「活動家は、大衆が確信をもって競争に参加できるように競争目標をはっきり明白にし、具体的な現実性があるように立案し、その貫徹のための事業を緻密に、断固として突き進めなければならない」と言明されています。

これに対して、中国共産党は改革開放の社会主義的な舵取りを十分に行ってきたのか、甚だ疑問であると言わざるを得ません。この点にも朝鮮式社会主義の独自性があると言えるでしょう。

ところで、「党中央委員会が任せた機械製品の生産を第2のチョンリマ(千里馬)精神の創造過程(に転換させた)」ってくだり、いいですよね。マルクスは、『資本論』などの著作を通じて、それまでバラバラな存在だった労働者どうしが機械制大工業における生産活動を通じて結び付けられてゆき新しい社会を担う思想意識を培ってゆくという人間改造の雄大な展望を示しましたが、機械製品の生産が第2のチョンリマ精神の創造過程になったというのは、科学としての社会主義の要点を踏まえているように読めます。なんだかニヤッとしちゃいますよね。

■社会主義全面的発展の時代
記事では、今般の5か年計画期間中の3年間について次のように言及しています。
金正恩総書記は、わが党と人民はこの3年間の頑強な闘いを通じて国家経済発展の基礎を強固に築き、持続的発展へ進むことを目的にした5カ年計画を十分に完遂することができるという確信を持つことになったと述べた。

現在、わが人民と青年の思想・精神状態において大きな肯定的変化が起こって革命的熱意と闘争気勢が大変高揚し、各部門が活気づいて力強く興起しているのは、第8回党大会以降、われわれが堅忍不抜の精神をもって攻勢的な闘いを繰り広げた結果に獲得した有利な形勢である。

これは、今後の前進と発展において最も大事で力強い土台を持ったことになり、今やわれわれが党大会の課題を実現するための闘いで最も困難な峠、極点を突破したと確実に自負することができる。

総括的に、朝鮮革命は党中央委員会第8期に入って国防分野だけでなく、経済と文化の全ての分野が同時に興起し、首都だけでなく地方も共に変貌(へんぼう)し、都市と村、山河だけでなく、人々の思想・精神の面においても大きな変化をもたらす社会主義全面的発展の時代を開いた。

この3年間の経験は、党の指導体系が強固であり、党に対する全人民の信頼がしっかりした状況の下、際会する難局を果敢に切り抜ける勢いを堅持して用意周到に、真摯(しんし)に活動するなら、難関克服、変化・発展の重大課題を十分に成功裏に達成することができるということである。

これら全てのことは、第8回党大会が明らかにした闘争綱領が前例なく過酷な難関の中でも、朝鮮革命の前進・発展を力強く牽引する最も正確で、強力かつ威力ある旗印であることを実証しており、今後の2年間の連続的な闘いによって立派に実現するという楽観と確信を持つようにしている。
国防分野だけでなく、経済と文化の全ての分野が同時に興起し、首都だけでなく地方も共に変貌(へんぼう)し、都市と村、山河だけでなく、人々の思想・精神の面においても大きな変化をもたらす社会主義全面的発展の時代を開いた」という表現に注目したいと思います。先軍の時代は終わり、経済も文化も、首都も経済も、山河も人心もすべてにおいて大きな変化の時代が到来したのです。もとより、社会の意識的計画的な運営によって、特定の分野や階層だけが突出して変化・発展するのではなくバランスの取れた変化・発展を期するのが社会主義。まさしく社会主義全面的発展の時代が開かれたわけです。

なお、先軍の時代は終わったのは、国家核武力が完成したからであると申し添えます。

■熱意や努力といった精神論だけを持ち出すのではなく、また、人民生活水準向上を実感できる方向へ
チュチェ113(2024)年の闘争課題について、記事は次のように報じています。
金正恩総書記は、優先的に注目すべき問題は国家的な行政・経済事業体系と秩序を強化することであると述べ、内閣が憲法が付与した全般的国家管理機関の任務にふさわしく国家経済の命脈を生かし、目的指向的な経済発展を牽引する上で提起される原則的問題と実践方途について具体的に明示した。

人民経済の全ての部門で生産成長に拍車をかけ、整備・補強を急いで終え、新年度も12の重要目標を引き続き押し立てて、そこに力を集中することについて強調しながら、金属、化学、電力、石炭、機械、鉄道運輸をはじめ基幹工業部門で遂行すべき重点課題を提示した。

結語は、機械工業の母体である龍城機械連合企業所を党中央委員会第8期の期間に現代化の標準、手本に作り、その経験に基づいて新たな5カ年経済発展計画の期間に大安重機連合企業所と楽元機械総合企業所をはじめ重要機械工場を現代化することを現段階でわが党の機械工業の発展方向に確定し、その実行のための方途的問題を明らかにした。
一昨年末の朝鮮労働党中央委員会第8期第6回総会拡大会議では、チュチェ112(2023)年について、「2023年を国家経済発展の大きな歩みを踏み出す年、生産の成長と整備・補強戦略の遂行、人民の生活改善で要の目標を達成する年に規定し、全般的部門と単位の生産を活性化し、党大会が決定した整備・補強計画を基本的に遂行することを経済活動の中心課題に提示」していました(https://chosonsinbo.com/jp/2023/01/01-91/)。これに対して今般、「人民経済の全ての部門で生産成長に拍車をかけ、整備・補強を急いで終え」るというくだりが現れました。予定どおり基本的には整備・補強計画は完了しており、あと少しのやり残しを片づけるという段階に達しているものと思われます。

首都建設・農村住宅建設、国土環境保護、農業・軽工業については、次のように言及があったといいます。
結語では、首都建設と第8期党中央委員会が歴史的な決断を下して始めた重大課題である農村住宅の建設を一層迫力あるものに推進する上で提起される諸般の課題と、党中央が構想している雄大な展望建設計画実現のための実践的な問題が言及された。

また、国土環境保護部門と都市経営部門で5カ年計画に反映された段階別課題を着実に推し進め、全ての機関、企業所が災害危機に対処するための活動を年次別に強力に実行することについて言及された。

(中略)
金正恩総書記は、国の全般的な農業インフラの実態と農業技術力を調査、評価したことに基づいて、農業機械発展戦略と段階別目標を明確に立て、農村経営の機械化を強く推し進め、国の灌漑システムを完備する事業と干拓地の建設を引き続き力強く推し進めることをはじめ、農業の生産力を持続的に増大させるための具体的な課題と方途を提示した。

全国的に農村を積極的に支援する社会的雰囲気と風潮を一層高調させ、糧政規律を厳格に立て、小麦生産量が増えるのに合わせて各地域に小麦加工工場を現代的に建設し、小麦加工技術を改善して製品の質を高めることについて指摘した。

結語では、軽工業部門で2024年に一般消費財、基礎食品の質向上を第一の課題にして闘いを繰り広げ、軽工業工場と地方産業工場の現代化を促し、養蚕業部門を発展させ、商業、給養、便益サービス活動を改善する上で提起される課題が言及された。

(中略)
金正恩総書記は、社会主義の全面的発展に向けた今日の闘いで重要な位置を占めており、旗印を掲げて絶え間なく躍進すべき文化分野でこれまでの3年間、特に2023年の活動で得た貴重な経験と教訓に基づいて、文化建設の各方面でより力強い進軍の歩幅を伸ばすことを強調した。
引き続き、単に農民の熱意や努力といった精神論だけを持ち出すのではなく、必要な投資を行った上で農民の熱意や努力を持ち出す方向性を堅持するものと思われます。また、人民生活の水準向上を実感できる軽工業部門や商業、給養、便益サービス活動の改善、文化分野での建設にも引き続き注力する方向であることを見て取ることができます。

■第二議案が括りだされた理由は朝鮮労働党の確固たる決意の表れ
第一議題についてはこの後、対外・対南政策について言及がありますが、これについては別稿で取り上げたいと思います。第二議案「児童・生徒のための社会主義的施策の実行で責任感を強めることについて」について続いて取り上げます。

第二議案が第一議案に含まれずに単独議案として括りだされたことに大変な意味合いがあると見なすべきです。内容としては、記事の分量から見ても第一議案に含めることも可能だったはずだからです。

記事によると、「2023年度の制服、かばん、靴の生産および供給実態を具体的に分析した」とのこと。制服の無料支給はキム・イルソン同志の時代から続くもの(https://www.afpbb.com/articles/-/2871786)であり、徳性実記のエピソードになってきたので、今回についても単なる配給ではなく政治的意味が非常に大きい象徴的出来事であるというべきです。

記事にもあるとおり、「われわれの児童・生徒のための事は経済実務的な事業である前に、わが祖国の洋々たる前途を保証する政治的事業であり、子供の明るい笑いはすなわち、社会主義制度の象徴に、朝鮮式社会主義のイメージになる」わけで、このことは「革命は代を継いで行うもの」という真理に基づいた朝鮮労働党の確固たる決意の表れであると言えるでしょう。

第三、第四、第五議題については記事からは何も分からないので割愛します。第六議題(組織問題、つまり人事異動)については、最高人民会議での人事異動を含めて別稿で取り上げたいと思います。
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