2024年02月28日

日本世論のロシア談義が、いかにイメージやステレオタイプ先行で語られているのか

https://news.yahoo.co.jp/articles/388889e5326faa449b064fa191b0ead1d2b7239e
日独などは「便利なばか」 ロシア外務省局長、G7声明で
2/27(火) 23:58配信
共同通信

 ロシア外務省のザハロワ情報局長は27日に発表した声明で、ロシアにウクライナからの無条件完全撤退を求め、対ロ制裁の強化を表明した先進7カ国(G7)首脳声明を「ロシアへの不当な要求」と批判、米英両国が反ロ的な政策実行のために日本やドイツなど他のG7の指導者を「便利なばか」として利用しているとこき下ろした。

(以下略)
「『便利なばか』って、《Полезный идиот》のことかな?」と思いつつロシア語でニュース検索してみたところ、news.ruに《Захарова рассказала о ≪полезных идиотах≫ в G7》という記事がありました。

「役に立つ馬鹿」とはWikipediaにもあるとおり、もともとは「本人は自分自身を東側の協力者と思っていないが、実際には都合良く東側の宣伝などに利用されている西側諸国の左翼知識人」のことを指す言葉で、現代では「善を促進する力になるというバカ正直な考えで、知らず知らずのうちに悪意ある企てに協力している人たちに対する軽蔑語」として使われているものです。

普通、《Полезный идиот》は「役に立つ馬鹿」と訳すところ「便利なばか」と訳した共同通信。すっかり忘れ去られたキーワードなのでしょう。コメント欄にはこんなコメントが・・・
ソビエト社会主義共和国連邦は1922年に成立し、1991年に崩壊しました。69年の間、ソ連は、文句を言わずに権力に服従する国民を育ててきました。この飼いならされた国民こそ、ソ連にとって「便利なばか」と言えるでしょう。プーチンはこの戦略をいまだに踏襲している。
(中略)
「飼いならされた国民」は配給頼りのために働かない、意欲がない、考えない。よってその国は発展しない、イノベーションが起きないのです。
「ロシア=ソ連」という、日本社会を何となく覆っているステレオタイプ的理解に基づいたコメント。本当のソビエト通であれば知らないはずがない《Полезный идиот》を履き違えた上に、イノベーション云々などと明後日の方向に話を持って行っています。「プーチン政権の統治は愚民化政策だ」と言いたげな口ぶりですが、それは元来的な意味での愚民化政策とは異ります。また、ソ連が採用していた民主集中制(全党的な議論で決まったことは無条件に実行せよ)と愚民化政策は元来無関係です。

朝鮮半島情勢についてトンチンカンなコメントを寄せていた(2月9日づけ「ウワサ話に過ぎないものが如何にして真実扱いされていくのか」参照)今井佐緒里氏がまたオーサーコメントを寄せています。「便利なばか」が《Полезный идиот》だと見抜けていないようです。「「便利なばか」発言は、NATOが更に拡大し、米と欧の分断は絶対に不可能と悟り、自分達が非欧州と決定づけられたような焦りの裏返しに見えます。日本も加えたのは(戦略上)敵になってほしくない気持ちがあるのでしょうか」だそうです。何の根拠があってそう言っているんだろう?

日本世論のロシア談義が、いかにイメージやステレオタイプ先行で語られているのかが如実に現れた一幕です。
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2024年02月26日

これはジャーナリズムとは言えない

https://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2024/02/20/2024022080168.html
記事入力 : 2024/02/25 20:05
韓国の保守メディアは保守政権をもっと批判すべきか?【朝鮮日報コラム】

「保守メディアが保守政権をもっと鋭く批判しなければならない」――。1月末に朝鮮日報の批評欄に掲載された読者権益委員会の記事タイトルだ。保守メディアの見方で保守政権を批判する方が左派メディアによる批判よりも政府・与党には鋭く感じられるという意味だ。教科書的に言えば、メディアが権力を批判することがメディアの存在理由だ。その対象である権力が右派であれ左派であれ、メディアが保守的であれ左派的であれ関係ない。マスコミの存在理由は批判機能だ。
あからさまに話を逸らしている、ある意味で名文。見ていきましょう。

 2000年代に入り、保守メディアが主流となる状況でも、保守政権の大統領は相次いで獄中生活を送り、文在寅(ムン・ジェイン)政権が胎動し、今も圧倒的議席を持つ左派政党の専横とそのリーダーの健在ぶりを目撃している。それは保守メディアが保守政権を批判し、結局左派政権が勢いづくのを助けたにすぎない。

 では左派メディアはどうだったのか。左派メディアは左右の区別なく公正だったのか。保守・右派政権を攻撃する際には、時に「フェイクニュース」を駆使するほど冷酷で攻撃的だったが、左派権力を批判する際にもそれほど厳しく臨んだのか。ある代表的左派メディアは、文在寅政権時代にある事務官の内部告発事件を最初から報道さえせず、自社労組から告発されたことがある。あるメディア担当記者は「左派メディアが左派権力を批判するのをこの十数年間見た記憶がない」と話す。

 批評者も保守政権に対する保守メディアの態度は批判し、左派メディアによる偏向報道には口を閉ざしている。
「だから何?」という感想しか出てきません。左派メディアが革新政権を批判しないからといって、保守メディアが保守政権を批判しない理由にはならないでしょう。

私は最近、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領夫人の金建希(キム・ゴンヒ)氏に関連するいわゆる「ディオールバッグ事件」で保守メディアの硬直性を感じる。大統領夫人がそんな「贈り物」を親北朝鮮関係者から脈絡もなく受け取ったということ自体が間違っている。それに意地を張って事件を長期化させた大統領側の態度も理解不能だ。しかし、これが果たして政権2年目の尹政権に打撃を与えるほどの大きな政治的事件なのか。
(中略)
 4月10日の韓国総選挙は韓国の政治情勢で重要な意味を持つ。韓国の左派と右派の勢力関係を決める選挙で大統領夫人が受け取ったバッグが有権者の決定的な選択資料になるとすれば仕方がないことだ。「国民」を責めることはできない。しかし、判断の基準は大統領の重要な政策決定、安全保障・国防の方向決定、国民の経済的生活であって、それが大統領夫人のバッグ授受ではあまりにもレベル的に虚しくないか。
「ブランドバッグを受け取った」という表層・現象が問題なのではなく、そういう政治文化が問題なのではないのでしょうか? そしてまた、明らかに間違った行為なのに絶対に間違いを認めない姿勢も政治家としての資質には疑問符をつけざるを得ません

大韓民国の大統領経験者は退任後、お決まりのように立場を利用した金品授受(親族・取り巻きによるものも含む)で破滅の道を歩んでいます。とりわけ、検察官出身という経歴を全面に出していたユン大統領が、結局のところ歴代大統領と同じ手合いだったのは大韓民国国民としては失望するには十分過ぎるものです。当たり前ですが、何の私心もなくキム・ゴンヒ氏にブランドバッグを贈る人はいません。そんな人がいるなら私にもくれ。

「有力政治家とその親族・取り巻きがその立場を利用して私腹を肥やす」という大韓民国の政治文化の問題、絶対に間違いを認めない姿勢は、「重要な政策決定、安全保障・国防の方向決定、国民の経済的生活」の問題に比肩する超重要問題だと考えます。「大統領夫人のバッグ授受ではあまりにもレベル的に虚しくないか」というくだりは、表層・現象に拘泥して本質から逃げることで、問題を矮小化していると言わざるを得ないでしょう。

一部は大統領が「謝罪」してやり過ごせばよいと言っているが、隠しカメラで撮影し、1年間寝かせておいて、総選挙前に暴露するほど緻密で計画的な左派が果たして「謝罪」だけで事件を済ませるだろうか。事件が謝罪した時点から第2幕に移ることは明らかだ。
(中略)
保守メディアの行動が今後5年間を左右するかもしれないという点を認識しなければならない。保守だとか左派だとか進歩だとかいうこと自体が価値志向的な概念だ。価値を失えば、公正なマスコミに何の意味があるのか、改めて考えさせられる。
(中略)
 李承晩大統領の一生を描いた映画「建国戦争」が多くの国民の関心を集めて上映されている。せっかく広義の保守メディアが機能する契機をつくっている。「ディオールバッグ事件」がその流れをせき止めることにならないことを願う。
結局、「左派勢力との政治闘争」における敵味方二分法で意地になってユン・ソギョル、キム・ゴンヒ擁護の論陣を張っているようです。むしろ批判の先陣を切る勢いで、しかしながら謝罪を促す方向で世論の流れを形成することで、ユン・ソギョル、キム・ゴンヒ両氏が自発的に謝罪しやすい環境を形成し早期の幕引きを狙った方が得策だと思うんですが、大韓民国の政治家は謝ったら死ぬんでしょうか? ちなみに共和国では、ピョンヤンの高層住宅崩壊事故において人民保安部長やピョンヤン市人民委員会委員長(ピョンヤン市長)らが遺族に謝罪しています。

これはジャーナリズムとは言えませんね。
ラベル:メディア
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2024年02月22日

「地方発展20×10政策」の本格始動

https://chosonsinbo.com/jp/2024/01/30rh-13/
地方発展20×10政策」、本格始動/担当推進委員会設置
2024年01月30日 13:56
経済

10年で全国の生活レベルアップへ
「地方発展20×10政策」が実行段階に入った。朝鮮労働党の決定に沿って、同政策の非常設中央推進委員会が活動を始め、新たな地方産業発展戦略が本格的に始動した。

30日発朝鮮中央通信によると、地方発展20×10非常設中央推進委員会が活動に着手した。

金正恩総書記は最高人民会議第14期第10回会議(1月15日)で、江原道金化郡をモデルとし毎年20カ所の市、郡に新たな地方産業工場を建設し、10年間で全国すべての市・郡の住民の生活レベルを引き上げる「地方発展20×10政策」を提示した。

党中央委員会第8期第19回政治局拡大会議(同23〜24日)では、「地方発展20×10政策」の実践計画と方略が示され、同政策に関する決定書が採択された。また、同政策の実行のための活動体系として非常設推進委員会を立ち上げることが明かされた。

同推進委員会の活動は、最高人民会議第14期第10回会議で示された党中央委の組織指導部に地方産業建設指導課を新たに設置する方針に従い、党中央委員会の趙甬元組織書記が指導する。

(中略)
同推進委員会の活動内容は、新たに建設される地方産業工場の設計、施行などの工事の推進状況と原料調達などを統一的に指導することだ。

現在、同推進委員会では、市・郡の人口と自然地理的条件などを考慮し、工場の規模と生産能力を合理的かつ効果的に定め、毎年建設される工場の設計を、労力削減、面積削減、エネルギー削減、技術集約型の原則に沿って、計画的に先行させるための実務対策を立てている。また、建設メンバーの編成と、資材および設備の保障、食料工業と軽工業の発展のすう勢に合わせた工場建設に関する方策を探し出している。

それと同時に、地域の原料拠点を築き、地方産業工場の生産を正常化させるための対策を立てている。
「地方発展20×10政策」が本格的に始動したとのこと。10か年計画であるがゆえに現段階で何か語れることはなく、その進行を見守る他ありませんが、当ブログでは1月29日づけ「朝鮮式社会主義の特徴を糾合した「地方発展20×10政策」の推進方法について」で述べたとおり、「当該地域の実情に応じた形で推進すべきである」、そして、「各部署が合意形成の方法で連携を取って推し進めてゆくべきである」という政策の基本的な方向性の点において、「互いに競争する風潮を確立して多角的な成長を促す」と言明されている点において、全面的に支持すべき現代的な社会主義建設路線であると考えています。

今回立ち上がった非常設推進委員会は、チョ・ヨンウォン同志が指導するとのこと。元帥様の腹心中の腹心である彼が責任者に任命された点に、元帥様の本気度が表れているといえます。

ところで、まだ5か年計画が終わってもいないのに新しく10か年計画と言い得る「地方発展20×10政策」が打ち出された点に注目したいと思います。私がよく参考にさせていただいている個人ブログ「rodongshinmunwatching」様は、「2024年1月26日 「地方発展20×10政策」のモデル・金化郡の地方工業工 場(1月27日加筆版)」で「昨年末の党中央委第9回全員会議でも、今年の基本目標を5カ年計画遂行の明白な実践的担保」の確保と定めていた。そうした中で、新たに今年から10年と言う枠組みで、新たな重大目標を設定し、それを何としてでも実現しようとするなら、従前の計画はどうなるのであろうか」と、至極当然の疑問を呈されています。

朝鮮総聯機関紙『朝鮮新報』が「整備・補強戦略−現段階における朝鮮労働党の経済戦略だ。より大きな飛躍を遂げるために、自立経済の土台を再整備する」と指摘している(https://chosonsinbo.com/jp/2023/07/05-98/)とおり、今次の5か年計画の柱が「整備・補強戦略」であることを考えると、整備・補強の残ったノルマを片づけつつ本来であれば次の段階に位置する発展にかかる事業を繰り上げで開始したものと考えることができるのではないでしょうか

整備・補強の残ノルマはそれほど多くはないもの(少なくともそう位置づけられている)と思われます。1月15日づけ「朝鮮労働党中央委員会第8期第9回総会拡大会議について」において指摘しましたが、一昨年末の朝鮮労働党中央委員会第8期第6回総会拡大会議では、チュチェ112(2023)年について、「2023年を国家経済発展の大きな歩みを踏み出す年、生産の成長と整備・補強戦略の遂行、人民の生活改善で要の目標を達成する年に規定し、全般的部門と単位の生産を活性化し、党大会が決定した整備・補強計画を基本的に遂行することを経済活動の中心課題に提示」していました。これに対して昨年末の朝鮮労働党中央委員会第8期第9回総会拡大会議では、チュチェ113(2024)年について「人民経済の全ての部門で生産成長に拍車をかけ、整備・補強を急いで終え」るというくだりが現れました。基本的に整備・補強は計画どおりに進んでおり、あと少しのやり残しを片づけるという段階に達しているものと思われます。

「rodongshinmunwatching」様は、1月16日づけ「2024年1月16日 最高人民会議第14期第10回会議の開催状況を報道」で、「地方発展20×10政策」が突如として提唱されたことについて「 最高人民会議において、閉幕したばかりの中央委全員会議の決定内容を批判し、それを覆す方針を打ち出すというのは、空前のことであり、今次会議最大の注目点と言うべきであろう。また、このことからは、中央委で金正恩の意にそぐわない内容が決定されることがありうること、同時に、金正恩は中央委決定を随時無効化・修正できることなど、金正恩の指導権の実情を考察する上で非常に重要な材料を提供するものといえる」と指摘されています。非常に鋭いご指摘だと思います。

これから申し上げることは空想レベルの完全なる憶測ですが、朝鮮労働党は大衆の意識動向を非常に重視しているので、党中央委員会総会での決議に対する世間一般の反応を党組織網を挙げて収集した結果、整備・補強のやり残しを片づけてから新しい取り組みを開始するのではなく、今すぐに新事業を繰り上げて開始する必要があると判断したという見方ができるのではないかと当ブログは考えます。そのように考えないと、閉幕したばかりの中央委全員会議の決定内容を批判し、それを覆す方針を打ち出すことを合理化できないように思われます。

rodongshinmunwatching様は、「第2次7カ年計画(1978〜84年)の計画期間中である1980年に「80年代中に達成すべき」として「10大展望目標」を打ち出した結果、「7カ年計画」を事実上2年延長(第3次7カ年計画は87年から開始)せざるをえなくなったことが想起される」と指摘されています。そういえばそんなこともありました。

ただ、当時とは状況が異なっているように思われます。パク・ボンソン先生著『北朝鮮「先軍政治」の真実―金正日政権10年の回顧』(光人社、2005年)で書かれているとおり、ソ連・東欧社会主義圏の崩壊によって共和国は友邦を一挙に失いました。その結果、かつて共和国は、今村弘子氏著の『北朝鮮「虚構の経済」』(集英社新書、2005年)で書かれているように「建国以来、社会主義国でありながら計画経済が機能しない「計画なき計画経済」国家であり、また「自立的民族経済」を掲げながらその実態は援助の上に成り立つ「被援助大国」であり、対外経済関係ではボーダレスには程遠いボーダ「フル」な経済国家」だったところ、否でも応でも本当に自力更生せざるを得なくなりました。現在の共和国経済の自立性・強靭性は、実態として社会主義諸国からの経済援助に大きく依存していた1980年代とは質的に異なっているように思われます

もちろん、このことについては結局は長い目で見てゆくほかないと考えます。なんといっても10か年計画ですから。
ラベル:共和国
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2024年02月21日

ブルジョア専制を筋論の次元で突き崩してゆく積み重ね、そしてその先へ

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240220/k10014365521000.html
俳優志望の女性に演技指導の名目で性的暴行か 映画監督を逮捕
2024年2月20日 21時37分

俳優志望の女性を演技指導の名目で東京・港区のマンションに誘い込み、性的暴行をしたとして映画監督が警視庁に逮捕されました。調べに対し、容疑を否認しているということです。

(中略)
そのうえで、映画への出演をほのめかし、「タトゥーがあるか裸を確認したい」などと言って性的暴行をしたとみられています。

警視庁は、俳優志望の女性が映画監督の容疑者に対して抵抗できない状態だったと判断したということです。

調べに対し、「えん罪です」と容疑を否認しているということです。

(以下略)
まず断っておきたいのは、推定無罪の原則に則り当ブログは決めつけはしないし、ましてフライングのキャンセルカルチャーには手を染めるつもりはありません。

その上で本件については、「俳優志望の女性が映画監督の容疑者に対して抵抗できない状態だったと判断した」という逮捕理由に注目したいと思います。形式的な自由意志ではなく実質的な自由意志に着目しての判断は、前述のとおり決めつけはしませんが、姿勢として支持したいと思います。

自主性を何よりも重視する主体的社会主義者として、便宜供与をちらつかせた権力者の私利私欲の充足には最も厳しい眼差しを向けなければなりません。警視庁におかれては、ぜひともこの調子で雇用・労働問題においても「実質的に抵抗できない状態」の観点から摘発していただきたいと思います。まあ、ブルジョア警察には難しいとは思いますが、こういう積み重ねが次第にブルジョア専制を筋論の次元で突き崩してゆくものと考えています。

そして、ブルジョア専制を筋論の次元での突き崩しと軌を一にしつつ労働者階級の自主管理・協同経営を推進してゆく必要が、協同社会としての社会主義の実現において必須的であると考えます。
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2024年02月20日

信憑性ロンダリング

2月9日づけ「ウワサ話に過ぎないものが如何にして真実扱いされていくのか」で取り上げた件が、いまだにしぶとく燻っています。いや、火をつけようとしているが「薪が湿気っている」というべきでしょうか。

https://news.yahoo.co.jp/articles/343f64ac57b1e62b63e3b93dc71516242158c8bc
中国に派遣の北朝鮮労働者、賃金ピンハネで怒り工場占拠ストライキ…管理職に暴行で死なす
2/17(土) 7:19配信
読売新聞オンライン

 中国吉林省に派遣された北朝鮮労働者が1月中旬に起こした暴動の詳細が、北朝鮮消息筋の話で明らかになった。賃金のほぼ全額をピンハネされたことに怒った約2000人が加担しており、北朝鮮の外国派遣労働者が起こした初の大規模デモだったという。労働者には20歳代の元女性兵士が多数含まれ、奴隷状態に甘んじない若者の反骨意識も浮かび上がった。(編集委員 豊浦潤一)
編集委員の個人筆名まで持ち出した読売新聞ですが、「暴動の詳細」といいつつこの話を最初に「独占スクープ」したサンケイ記事からほとんど内容が深まっていません。あいかわらず正体不明・出所不明の「北朝鮮消息筋の話」がベースになっています。1か月かけて詳細を掘り起こしてもこの程度の話にしかならなかったわけです。

サンケイなんぞに先を越されたのが、発行部数日本一かつ筆頭保守紙として余程屈辱だったのでしょうか? ほとんど内容が深まっていないのに「暴動の詳細」などと称して編集委員まで動員しているように見えてなりません。そうとでも考えない限り、何も深まっていないのに今更蒸し返す意味が分かりません。

https://news.yahoo.co.jp/articles/704a3ecf8eba537b5457ce5a4d4285d95dd81c9d
「延辺に派遣の北朝鮮労働者2000人、賃金未払いデモ…幹部が暴行され死亡」
2/18(日) 13:21配信
中央日報日本語版

北朝鮮から中国に派遣された労働者約2000人が賃金未払いに抗議するために行った工場占拠デモ中に管理職代表を暴行し死亡させたと日本メディアが報道した。

読売新聞は17日、北朝鮮消息筋の話として先月11日に中国吉林省延辺朝鮮族自治州の衣類製造・水産物加工工場で長期にわたり賃金未払いだった労働者2000人が工場を占拠し、北朝鮮から派遣された管理職代表と監視要員を人質に取り賃金を支払うまでストに入ったと伝えた。

(以下略)
そんな読売記事を引く大韓民国紙中央日報。2月9日の記事でも触れましたが、読売新聞も中央日報もそれなりに社会的信用のある者どうし。それなりに社会的信用のある者どうしがお互いに発言を引用しあうことで、もともとは正体不明・出所不明の「北朝鮮消息筋の話」に過ぎないシロモノが何となく信憑性を獲得してしまうサイクルを今まさに目撃しているわけです。

お互いに引用し合うことで信憑性を高めてゆくこの手口については、マネーロンダリングや、いわゆる学歴ロンダリングを踏まえて「信憑性ロンダリング」といって良いかもしれません
ラベル:メディア
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2024年02月15日

朝鮮民主主義人民共和国国歌の歌詞改定について

http://www.kcna.co.jp/calendar/2024/02/02-08/2024-0208-007.html
청년중앙예술선전대공연
青年中央芸術宣伝大公演

(평양 2월 8일발 조선중앙통신)조선인민군창건 76돐경축 청년중앙예술선전대공연 《수령이시여 명령만 내리시라》가 7일 청년중앙회관에서 진행되였다.
(ピョンヤン 2月8日発 朝鮮中央通信)朝鮮人民軍創建76慶祝青年中央芸術宣伝大公演「首領よ命令のみ下されよ」が7日、青年中央会館で行われた。

(以下略)
昨年末の朝鮮労働党中央委員会総会での対南路線の根本的変革以来、最初の国家行事となる2月8日の建軍節。その前日に行われた芸術公演は《수령이시여 명령만 내리시라》(首領よ命令のみ下されよ)という意味深なタイトルがつけられました。

《수령이시여 명령만 내리시라》は、もともとはチュチェ56(1967)年に制作された軍歌です(歌詞の日本語訳は「革命音楽館」様が紹介なさっています)。制作当初の歌詞では、《경제를 건설해 힘을 키우자 국방을 건설해 힘을 키우자 혁명기지 더욱더 굳게 다지며 목숨도 서슴없이 바쳐 싸우자 우리의 손으로 통일을 이룩하고 인민들은 행복하게 살아가리라》というくだりがありますが、このくだりの意味は、この曲が、朝鮮人民軍特殊部隊が青瓦台襲撃未遂事件を起こしたチュチェ57(1968)年の前年に作られた点からも明白であるとおり、軍事力による南朝鮮解放を志向するもの以外の何者でもありません。これに対して、近年歌われている歌詞では《하나의 강토와 민족을 둘로 가른 놈 오늘 또다시 우리 땅에 불질하련다》とか《국방을 건설해 다진 힘으로 분렬의 장벽을 짓부셔가자 혁명의 총검을 더 높이 들고 멸적의 용맹을 떨쳐나가자 우리의 손으로 민족의 숙원을 풀고 삼천리에 통일만세 높이 울리리》といった具合に、軍事力はあくまでもアメリカに対して向けられているものという位置づけがなされています。

当ブログでは、1月25日づけ「共和国の対大韓民国新路線について」で、今般の対南路線の根本的変革が意味するところは「「大韓民国は話せば分かり合える相手ではない」」であり「大韓民国の地域を奪還することは依然として国是でありつづけてい」るので、「たとえば、「大韓民国における革命的事変・体制転覆級の事件があれば統一し得る」とは言える」ことから「1950年代末から1960年代までの対南政策を思い起こさせ」ると述べたところです。

それゆえ、《수령이시여 명령만 내리시라》というタイトルの2月7日の公演では《수령이시여 명령만 내리시라》の曲自体は歌われたのか、歌われたとすれば新旧どちらの歌詞で歌われたのか注目していたのですが、朝鮮総聯映画製作所が運営する「エルファテレビ」などを割とチェックしてきたつもりだったところ、結局分からずじまい。そうこうしているうちに次のようなニュースが飛び込んできました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/430fa0a872c3bd5c6317b79c8d82e6e1087d883d
北朝鮮、国歌の歌詞変更 統一放棄で「三千里」削除
2/15(木) 17:18配信
共同通信

 北朝鮮が国歌「愛国歌」の歌詞を一部変更し、朝鮮半島全体を指す「三千里」という表現を「この世界」としたことが同国外務省ホームページで15日、確認された。金正恩朝鮮労働党総書記が1月に韓国との平和統一の放棄を表明した際、統一に関する標語を使わない方針を示しており、これに沿った措置。

(以下略)
前掲1月25日づけ記事で「삼천리 아름다운 내 조국≫という国歌の歌詞の処遇に注目すべき」と述べましたが、正式に歌詞が改まったようです。共和国外務省の当該ページへのリンクを張っておきます。
http://www.mfa.gov.kp/article/page/official-name-national-emblem-national-flag-and-national-anthem
국가
조선민주주의인민공화국의 국가는 《애국가》이다.

《애국가》는 아름다운 자연과 풍부한 자원, 반만년의 력사와 찬란한 문화전통을 가진 조선인민의 긍지와 자부심 그리고 로동당의 령도를 받들어 부강한 조국을 건설하고 길이 빛내여나갈 조선인민의 숭고한 애국심을 반영하고있다. 주체36(1947)년에 창작되였다.



애 국 가
1. 아침은 빛나라 이 강산 은금에 자원도 가득한

이 세상 아름다운 내 조국 반만년 오랜 력사에

찬란한 문화로 자라난 슬기론 인민의 이 영광

몸과 맘 다 바쳐 이 조선 길이 받드세

찬란한 문화로 자라난 슬기론 인민의 이 영광

몸과 맘 다 바쳐 이 조선 길이 받드세



2. 백두산 기상을 다 안고 근로의 정신은 깃들어

진리로 뭉쳐진 억센 뜻 온 세계 앞서나가리

솟는 힘 노도도 내밀어 인민의 뜻으로 선 나라

한없이 부강하는 이 조선 길이 빛내세

솟는 힘 노도도 내밀어 인민의 뜻으로 선 나라

한없이 부강하는 이 조선 길이 빛내세
政策の変更に伴う歌詞の変更自体は共和国においてはそれほど珍しいことではありません。前述の《수령이시여 명령만 내리시라》もそうですが、その他にも、たとえば著名な革命歌謡《천리마 달린다》(千里馬走る)は、キム・ジョンイル同志時代の最末期に「共産主義」「七か年計画」という歌詞がそれぞれ「社会主義」「強盛大国建設」に改められた[1]が、キム・ジョンウン同志の時代になって「強盛大国建設」だけが「七か年計画」に戻され、最近はまた元に戻った[2]といった具合に、その時々の政策によって躊躇いなく歌詞が変更されるものです。

しかし、たしかチュチェ98(2009)年ごろにメロディーに一部変更があったものの、今まで歌詞の変更はされなかったのが国歌それゆえ今回の変更は非常に重大な意味があるものと言えます。そしてまた、このような大転換を自分の名前で実行できたという点において、キム・ジョンウン同志の権力は完全に盤石であると言えるでしょう。先般の記事で「もし≪삼천리 아름다운 내 조국≫という表現が削除されたら、改めて分析しなければならない」と書きましたが、そう書いた以上は、先般否定された「統一」「和解」「同族」といった語句を、辞書どおりの意味合いとしてなのか文脈的に意味が狭められているのかについて、改めて慎重に検討し直さなければならないと考えています。

1月25日づけ記事のコメント欄で、ぐうさんから、いくつかの歌謡の歌詞の変更について気になるとのコメントをいただき、当ブログも同感なのですが、こうなってくるとますます気になってきます。

キム・ジョンイル将軍の歌』の《금수강산 삼천리》の部分や『輝く祖国』の《삼천리 금수강산》は書き換えられるでしょう。『キム・ジョンイル将軍の歌』については、公式の日本語版で「うるわし(い)祖国〜♪」と歌われていますが、朝鮮語でも割と語呂もいいから、もしかすると《아름다운 조국》とか《아름다운 내 조국》に変わるかもしれません。『輝く祖国』については、正式な国歌の歌詞が変わったのならば第二国歌というべき『輝く祖国』の歌詞も当然変わるでしょう。如何書き換わるかは分かりませんが、少し前に《수령님 혁명정신 하늘땅에 넘친다》という部分が《민족의 억센기상 하늘땅에 넘친다》になったかと思えば、最近また《수령의 혁명정신 하늘땅에 넘친다》に変更されている(수령님ではなく수령의に微妙に変わっているのに注意!)ので、《삼천리 금수강산》の部分が変わってもそれほど大きな驚きではありません。

『人民共和国宣布の歌』の歌詞一番は歌われなくなる可能性が出てきました。まあ、もともと全四番まである中、全部歌うと長いので歌詞二番が省略されがちだったので、歌詞二番の代わりに歌詞一番が省略されて済むかもしれません。

ところで、朝鮮学校のサンペンは大丈夫かな? 『日刊イオ』の旧ブログ『「サンペン」誕生の歴史をたどる(下)』によると「サンペンの3には「三千里錦繍江山、三千万朝鮮民族、三角形などさまざまな意味を込めた」という」とのことですが、「当時の関係者が説明するには、そう込められている」だけで明確にそうだと言われているわけではないから、これはそのままなのかもしれません。
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2024年02月10日

死をめぐる問題においてこそ豊かな人生論、主体的な人間観が培われうるのではないか

https://news.yahoo.co.jp/articles/459003eb23bd8d33d016bbf5f16a384e3dc12705
『母の余命は1ヶ月』と告げられるも「本人には本当のことを言えず…」 母の死を後悔した女性が“今をより良く生きる”術を発信
2/10(土) 17:00配信
ほ・とせなNEWS

人生の最期に何を大切にしたいか、考えたことはあるだろうか。日常に追われていると、つい後回しになってしまう終活。それは「死ぬためにすること」というよりは「今をより良く生きるため」の作業という考え方がある。

香川県丸亀市在住の終活カウンセラー、木村奈美さんもそんな考え方を持つひとり。母親の死をきっかけに「元気なうちに、終活に取り組む大切さ」を発信している。

(中略)
2019年7月には「ゆるい終活新聞」と題して月1回の情報発信を開始。終活で必要な基礎知識を中心に、役立つ情報をまとめている。2024年1月に50号を数えた。木村さんは「大切だけど伝わっていない情報は、何度か繰り返してテーマにしています」と話す。

新聞のサブタイトルには「元気なうちに整える」と謳った。健康で元気なときは前向きな発想になる人も、病を抱えていたり不安なときは、やりたいことさえ見つからないものだ。

「不安や孤独を抱えている『マイナス』の状態から『ゼロ』に持っていくことが、私にできることだと思っています。そうすれば、『ゼロ』から『プラス』には本人の力で主体的に動いていくことができるからです」

(中略)
市民活動として終活を支援
木村さんは毎月1回、丸亀市市民交流活動センターマルタスで「ゆるい終活」と題したワークショップを開いている。よく取り上げるのが、余命半年を想定した「もしバナゲーム」だ。4人で取り組むゲームで、35枚のカードの山から手元に5枚残るように1枚ずつカードを取っては捨てていく。その人が大切だと思うカードが、最後まで手元に残る。

カードには「家で最期を迎える」「人との温かいつながりがある」「ユーモアを持ち続ける」など、1枚に一つずつ言葉が記されている。大切に思うものは、一人ひとり違うので、他の人が捨てたカードが自分にとっては大切だということもある。

「最後に自分に残ったカードを見ながら、みんなの前で気持ちを話します。参加者が話してくれる内容によってどんな場になるか異なりますが、全員が泣いてしまったこともあります」

「終活で大切なことは、言葉にしてみること。人は心の中で望んでいることを言葉に出さずに生きていることも多いと思います。カードを使って自分の気持ちに気づくことができ、心の中の思いを話せる場所でもあるところが、もしバナゲームの良さです」

木村さんは「今をより良く生きる」という終活のキーワードに近づくことが大切だという。例えば「人との温かいつながりがある」というカードが最後まで手元に残ったら「1週間以内に誰かに連絡を取ってみる」など実際に行動することを勧めている。「いま大事にしていることに気づいて、行動してもらう」ゲームだ。

(中略)
「どんな人にも、死は必ずやってきます。だからこそ向き合ってほしい。元気な時から備えておくことで、後悔のない最期を迎えられると思います」
チュチェ思想は「人間があらゆるものの主人であり、すべてを決定する」という哲学的原理に立っています。そうであるがゆえに「人間とは何か」という存在論そして「豊かな人生とは何か」という人生観の問題は避けてとおれないものです。当ブログはまだ十分には記事化できてはいませんが、その観点で自分自身の問題を絡めつつ思索しているところです。

近年、AIの急速な発展に伴って「AIに仕事を奪われるのではないか」とか「そもそも人間って何だろう」といった問いが頻繁にたてられています。これらは往々にして「稼ぎ」の観点からの人間論であり正直いってあまり深みのある人間論ではありません。資本主義に毒されたブルジョア思想は、ついに人間論をも貧困化させているわけです。

これに対して、いわゆる「終活」をめぐる「豊かな人生とは何か」という人生論問題は、AIをめぐる「そもそも人間って何だろう」と比べると非常に内容が濃いように当ブログは見ています。死までの経緯においては当人の経済力の問題が大いに影響しうるとはいえ、いつか誰にでも必ず死は訪れるという意味において、「死は平等」です。死をめぐる問題においてこそ豊かな人生論、主体的な人間観が培われうるのではないか、そう考えます。

※更新頻度は低下していますが、まだまだ死んだり止めたりする予定はありませんw
ラベル:チュチェ思想
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2024年02月09日

ウワサ話に過ぎないものが如何にして真実扱いされていくのか

https://news.yahoo.co.jp/articles/617c927ec1e11ee20ab1c6484068bd97a0126568
中国で働く北朝鮮労働者が抗議行動、韓国の研究者報告
2/8(木) 18:00配信
ロイター

[ソウル 8日 ロイター] - 韓国の情報機関は、海外で働く北朝鮮労働者の劣悪な環境が「事件や事故」を引き起こしていると指摘した。研究者は、北朝鮮軍関連の貿易会社の労働者が、中国で抗議行動を起こしたと報告している。

元北朝鮮外交官を含む2人の韓国政府系研究者によると、賃金未払いやパンデミック(世界的大流行)に伴うロックダウンに苛立ち、中国で先月、3000人もの北朝鮮労働者らが抗議行動を起こしたという。

抗議行動についてロイターは独自に確認できなかった。

中国外務省報道官は8日の会見でこの件について聞かれると「承知していない」と回答。北京の北朝鮮大使館と、北朝鮮と国境を接する中国・丹東にある北朝鮮領事事務所は、ロイターの取材に応じなかった。
当ブログでもかねてより指摘してきたことですが、日本語で書かれている報道記事は同じ内容を横並びで報じるばかりです。いわゆるメディアリテラシーの入口として「新聞各紙の読み比べ」が推奨されますが、ほとんど無意味であると言わざるを得ません。ほぼ唯一の例外と言えるのが、上掲引用記事を発信したロイター通信。ロシアのウクライナ侵攻においても、ロシアの大本営発表からもウクライナの大本営発表からも一歩引いて、独自に裏を取ろうと努力しています(もちろん完全無欠ではありませんが)。

そんなロイター通信が報じた本件。ちょっと前に話題になったネタであり「なぜ今更?」と思いましたが、抗議行動についてロイターは独自に確認できなかった」とのことで、ロイターなりに調べてきたが結局、裏取りできなかったということなのでしょう

本件について時系列に沿って振り返ってみたいと思います。

本件の発端は、私が調べた限りではサンケイ新聞の1月19日づけ下記記事でした。
https://www.sankei.com/article/20240119-F5K4USURTBP4HK3MCP2IJH6CPI/
<独自>北朝鮮労働者が中国でスト・暴動 数千人規模を初確認…コロナ禍で賃金不払い
2024/1/19 06:00

【ソウル=桜井紀雄】北朝鮮が労働者を派遣した中国東北部・吉林省にある複数の工場で今月、長期間にわたる賃金不払いに端を発したストライキや暴動が連鎖的に拡大し、数千人規模に達したことが18日、分かった。元北朝鮮外交官の高英煥(コ・ヨンファン)氏が産経新聞に寄せた報告書で明らかにした。北朝鮮が派遣した労働者によるこの規模のスト・暴動が確認されたのは初めて。

(中略)
高氏は北朝鮮消息筋などの話を基に報告書をまとめた。(中略)高氏は、韓国政府で北朝鮮情報の分析や統一相らへ助言を行う統一相特別補佐役を務めている。
なんと、コ・ヨンファン氏が「北朝鮮消息筋」の話をまとめてサンケイ新聞に送った「報告」書がネタ元とのこと。そしてサンケイ新聞編集部は、現地に取材班を急派させるなどの裏付け取材を特にするわけでもなく、そのまま掲載したわけです。日本は共和国と鋭く対決しているので、日本メディアの「北朝鮮」報道は往々にして雑になりがちですが、それにしても近年まれに見るレベルでの雑さであると言わざるを得ません。

要するに、「キチンと裏取りされていない」という意味においてウワサ話と言わざるを得ないネタをサンケイは、まことしやかに報じたわけです。

この記事に対して、EU・国際関係の研究者を名乗る今井佐緒里氏がヤフコメのオーサーコメントで次のような迷投稿をしています。Yahooニュースの当該サンケイ記事は既に掲載期間が終了しているので、彼女の個人ページからご覧ください。
今井佐緒里
1/19(金) 11:20
補足
同じ事はロシアでも行われている。北朝鮮は「露の再建」を助けるために、ウクライナ占領地に自国民を労働者として送るという。
北朝鮮の労働者は、西側のような「働く者の権利」の存在を知らない人々だ。それでもこのように怒るとは、よほど非人道的な、奴隷的労働や人身売買のような事が起こっていると考えるのが妥当だろう。妻子のいる男性が選ばれているという。

(以下略)
北朝鮮の労働者は、西側のような「働く者の権利」の存在を知らない人々だ」とは、いったいどのような根拠によって言っているのでしょうか? 西側といっても広いので「西側のような「働く者の権利」」が具体的に何を指すのかは判然としませんが、資本主義の最高段階としての帝国主義である日帝強占時期の悪辣非道な搾取の実態と、解放後の民主主義的諸改革における労働法制の整備は首領様の偉大な業績として革命歴史教育(いわゆる「思想教育」)において叩き込まれること。また、先代首領たちの労働階級への温かい配慮は、徳性実記としても頻繁に取り上げられていること。共和国の労働者が「働く者の権利」を知らないとは言い難く、むしろ指導者は徳性を持たねばならぬという通念があるものと言えます。

「EU・国際関係の研究者」がいったいどうして極東の朝鮮民主主義人民共和国の話題でオーサーコメントをしているのか皆目見当もつきません。ちなみに彼女は、別の朝露関係の深化にかかる記事のオーサーコメントで「北朝鮮兵士をウクライナで見る事もあるかもしれない」などと飛ばしています。夕刊紙あたりが書きそうなことで突っ込む気力もなくなります。Yahooは登録コメンテーターの投稿範囲について少し考えた方がよいのではないでしょうか。ウワサ話の域を脱しないサンケイ記事をここまで無批判に膨らませているわけです。「研究者は専門以外は凡人以下」。こうやってウワサ話がまことしやかな話として伝播してゆくのでしょう

その後、26日になってから大韓民国紙『朝鮮日報』及び日本の読売新聞が本件について次のように報じました。
https://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2024/01/26/2024012680074.html
中国・吉林省の縫製工場に派遣された北朝鮮労働者が暴動を起こす…管理者1人死亡・3人重傷 
韓国統一研究院の趙漢凡(チョ・ハンボム)先任研究委員が明らかに

中国の縫製工場に派遣され働いていた北朝鮮労働者が賃金不払いを理由に暴動を起こし、北朝鮮の管理責任者が死亡したことが分かった。

 韓国統一研究院の趙漢凡(チョ・ハンボム)先任研究委員は25日「北朝鮮国防省傘下のチョンスン貿易所属で中国吉林省延吉の工場に派遣されている労働者が賃金不払いへの不満から暴動を起こした」「労働者の管理責任者だった北朝鮮管理者が死亡し、支配人など3人が重傷を負ったようだ」と伝えた。この工場は縫製工場で、北朝鮮労働者約2500人が派遣されているという。

(以下略)
https://www.yomiuri.co.jp/world/20240126-OYT1T50163/
北朝鮮労働者が中国の工場で暴動…「帰国すれば処刑の可能性、よほどの覚悟がなければ起こせない」
2024/01/26 19:16

 【瀋陽=出水翔太朗】韓国紙・朝鮮日報は26日、中国東北部の吉林省延辺朝鮮族自治州の縫製工場で北朝鮮労働者が暴動を起こし、北朝鮮側の管理者1人が死亡、3人が重傷を負ったと報じた。厳しい管理下に置かれている北朝鮮労働者が中国で暴動を起こすのは異例だ。

(中略)
 朝鮮日報は、北朝鮮の内情に詳しい専門家の話を基に報じた。暴動は11日頃、吉林省の縫製工場で起きた。労働者に支払う給与の一部を「戦争準備資金」として北朝鮮に送金したことが原因とみられ、現地の総領事などが急行し、事態の収拾を図ったという。
(中略)
 19日の中国外務省の記者会見で事実関係を尋ねる質問が出たが、 毛寧マオニン 副報道局長は「状況が分からない」と回答を避けた。
サンケイ新聞の先発記事と内容にほとんど違いがない点、及び、コ・ヨンファン氏もチョ・ハンボム氏もいずれも大韓民国政府関係者、つまり同僚であるという点において『朝鮮日報』及び読売新聞の報道内容は、少し装いが新たになっただけで信憑性が増したとは言い難いものです。むしろ、大手メディアが一週間かけても続報を掘り起こせない点において、そもそも胡散臭い話であるという見方も十分に可能です。にもかかわらず、確報的に報じる両紙。中国外務省の会見に言及しただけ読売はマシとは言えるでしょうが、五十歩百歩であると言わざるを得ません。

ちなみに、これら三紙とは対照的に31日に米誌ニューズウィークが≪North Korean Official Killed in China After 'Violent Protests'≫と報じています。日本語版でも同内容の記事があるので、下記に引用します。
https://news.yahoo.co.jp/articles/97c4bc4d3932b45d9f45c4e0d387272c9a868628
中国の北朝鮮労働者たちが母国からきた管理官を殺害する異常事件
1/31(水) 17:44配信
ニューズウィーク日本版

<賃金不払いの不満から中国の工場で働く北朝鮮人労働者による暴動が発生、北朝鮮人管理職が殺害される大事件が発生した>
中国の縫製工場で働く北朝鮮人労働者が賃金不払いを理由にストライキを行い、それが暴動に発展して、労働者を監視するために北朝鮮政府から派遣された役人が殺された可能性があると報じられた。【アーディル・ブラール】

韓国の英字新聞コリア・タイムスは1月29日、北朝鮮国境に近い中国東北部吉林省の和竜市で1月11日から15日にかけて発生した一連の「暴力的な抗議行動」の中で、本国から派遣された北朝鮮政府高官が殺害されたようだと伝えている。

同紙は、韓国のシンクタンク統一研究院(KINU)の趙漢凡(チョ・ハンボム)上級研究員の報告を引用。少なくとも1人の北朝鮮政府関係者が死亡し、他の3人が重傷を負ったという。趙によれば、この高官は縫製工場の労働者を監督するために本国から派遣されていた。

(中略)
繊維工場側の操業に透明性がなく、関係者の特定も困難なため、メディアも普通このような騒動をあまり報道しない。本誌は趙の主張を独自に検証することはできなかった。
(中略)
吉林省における北朝鮮労働者の暴動に関する報道は、1991年に韓国に亡命した元北朝鮮外交官高英煥(コ・ヨンファン)による報告から始まっているようだ。高は今年1月、産経新聞に対し、数千人の労働者が賃金未払いを理由に縫製工場や水産加工場でストライキを行ったことを明らかにした。
(以下略)
コ・ヨンファン氏のサンケイ新聞への寄稿が発端でありチョ・ハンボム氏の主張もその系譜に位置しているが、ニューズウィーク誌は独自に裏取りができなかったとのこと。やはり、何処まで行ってもコ・ヨンファン氏の「北朝鮮消息筋」情報よりも深堀りできない話だというわけです。

時系列でまとめるとこうなるでしょう。「コ・ヨンファン氏によると、こういうコトが起こったそうです」に過ぎない記事だったサンケイ報道が発端となり火が付いた本件。その流れに乗る形でチョ・ハンボム氏も似たような内容の報告を上げ、大韓民国紙『朝鮮日報』や日本の読売新聞も報じるに至った。しかし、ロイターやニューズウィークをしても独自に裏取り・深堀りできない事案だというわけです。

こうして見てみると、ウワサ話に過ぎないものが如何にして真実扱いされていくのかが見えてきます。まさに「嘘も百回言えば真実となる」。まず、ほとんど無根拠ながら「こういう話があるみたいです」という体裁で報じられることで話題になり、その後少し経ってから、もう少し権威ないし社会的信用のある別の人物が、「最近話題の例の話なんだけど・・・」といった風に言及することで流れを決定づけるという手口が見えてきます。胡散臭い話でも何度も聞いているうちに警戒心が低下してしまうもの。そのタイミングで権威ないし社会的信用のある別の人物が「例の話」に言及すると、「ああ、あれはまったく根拠のない話じゃなかったんだな」と思ってしまうわけです。よく注意して聞いてみれば、その人物は、根拠付けながら最初から話を組み立てているわけではないのですが。

思い起こせば、「北朝鮮はx月x日のxx記念日までに核実験/ミサイル実験をするに違いない」とか「ロシア軍はx月x日のxx記念日までにウクライナ侵攻で戦果を挙げようとしているに違いない」という、当事者がそんなことは一言も言っていないまったく根拠のない憶測がいつの間にか既定のスケジュールとして報じられたことは、枚挙に暇がありません。根拠のない話であっても何度も繰り返しているうちに「かねてより指摘されてきた例の話だが・・・」で通じるようになり、そして「かねてより指摘されてきた例の話だが・・・」自体が根拠に摩り替るわけです。

関連記事:チュチェ113(2024)年2月20日づけ「信憑性ロンダリング
ラベル:メディア
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2024年02月07日

共和国の経済人事と社会主義そのものの革新について

1月15日づけ「朝鮮労働党中央委員会第8期第9回総会拡大会議について」の続きです(今回で終わりにします)。組織問題、すなわち人事について、最高人民会議での決定も交えて取り上げてみたいと思います。当ブログの読者諸氏におかれては、社会主義・共産主義政党における人事の重要性について改めて説明するまでもないでしょう。

今般の党人事・内閣人事においては、世間一般では軍トップに返り咲いたパク・ジョンチョン同志の処遇に注目が集まっているようですが、当ブログの関心に即せば、経済部門におけるチョン・ヒョンチョル同志の復帰人事こそ注目したいものです。

チュチェ110(2021)年の朝鮮労働党第8回党大会で電撃的に政治局候補委員に抜擢され、その直後の最高人民会議第14期第4回会議で内閣副首相に任命されたチョン・ヒョンチョル同志。チュチェ111(2022)年には政治局委員に昇進し、朝鮮労働党経済部長にも任命された点に顕著に現れているとおり、キム・ジョンウン時代を象徴する急浮上人事の最たる例でした。

しかし、昨年6月に党経済部長を解任。後任には前任かつ高齢のオ・スヨン同志が復帰するという事態に。党と共和国政府が、人事問題についていちいち詳しくは説明しないことも相まって、この人事にはさまざまな憶測が飛び交ったものでした。たとえば共同通信の平井久志氏は、「【日本一詳しい北朝鮮分析】金正恩が「2つの朝鮮」を宣言した背景」(1/17(水) 7:03配信 現代ビジネス)なる非常な長文において「金正恩党総書記は2023年の経済実績を、穀物生産をはじめ「12の重要高地」ですべて目標を達成したとしており、この実績の事実上の責任者であった全ヒョンチョル氏をカムバックさせたとみられる」などと分析しています。

しかしながら、나무위키の전현철の項目にもあるとおり、党経済部長及び政治局員こそ解任されたものの中央委員、最高人民会議代議員及び最高人民会議予算委員長の座は席を維持していました。何か失敗があったとすれば、もっと厳しい左遷があってしかるべきですが、そこまでではなかったわけです。後任が一旦引退した高齢のオ・スヨン同志であることをも踏まえると、昨年6月の解任は何がしかの事情による一時的な解任であり、もとより復帰前提の人事だったことが推察されるものです。

チョン・ヒョンチョル同志の処遇から推察するに、共和国の経済政策の布陣は概ね変更がないものと思われます。

共和国の社会主義経済政策に関連して興味深い事柄と言えば、朝鮮総聯機関紙『朝鮮新報』のコラム≪메아리≫(日本語版では『春夏秋冬』)の1月17日づけ及び2月1日づけコラム。1月17日づけ「朝鮮のベストテン」では次のように指摘しています。
ともに手を取りつつ競う集団主義的競争は社会主義建設の有力な推進力のひとつである▼社会主義社会を競争の結果にかかわらず等しく分け与える悪平等の制度と見做すのは間違いだ。労働と社会貢献に応じた分配と評価が与えられなかったとしたら、それは社会主義を建設する過程で生じた偏向であって、社会主義の本旨ではない
このくだりに続いて本文は、「社会主義競争の結果を評価し優遇する方法として近年朝鮮では各種ベストテンを選定している」と続けています。

「社会主義」には長い歴史があるがゆえに、さまざまな流派があり、そりゆえに非常に多義的な言葉であります。ゴータ綱領批判が指摘するように「各人は能力に応じて働き、労働に応じて受け取る」も社会主義だし、平均主義も社会主義であります。社会主義を貶めることに死活的利害関係を持つブルジョア階級が、こうした多義性を奇貨として人民大衆の無知に付け込む形で印象操作を展開してきました。

この点、「社会主義社会を競争の結果にかかわらず等しく分け与える悪平等の制度と見做すのは間違い」と言い切った『朝鮮新報』の上掲コラムが意味するところは非常に大であると考えます。朝鮮総聯が朝鮮民主主義人民共和国と朝鮮式社会主義を支持していることは、彼ら自身がアイデンティティとして言明しているとおり一寸の疑いもないことです。そうした組織の機関紙が、おそらく本国の承認があってしたためたと思われる社会主義社会を競争の結果にかかわらず等しく分け与える悪平等の制度と見做すのは間違い」というくだりを含む当該コラムは、朝鮮民主主義人民共和国政府の立場であると言ってよいでしょう。

2月1日づけコラムでは次のように指摘しています。
都市と農村、平壌と地方のギャップをなくす。宣伝ではない。最高指導者の決断により労働党の政治局会議で実行計画が採択された。注目されるのは、全国の均衡的同時発展が画一化を意味しないということだ。地域ごとに地理的環境と資源が異なることを踏まえれば「平壌を模した地方都市」を目指すのは妥当ではない。(中略)
「地産地消」は環境、エネルギーなど「持続可能な開発目標(SDGs)」とも関わってくる。朝鮮は世界の趨勢に先んじながら人民への福利を充実させる社会主義文明国を目指す。
前述のとおり「社会主義」は非常に多義的な言葉。権力の集権度合いも千差万別です。日本では、ソビエト連邦などの印象が強いからか社会主義=中央集権的・画一的社会というイメージが依然として根強いものです。たしかにソ連の計画都市は、何処に行っても同じような見た目のアパートが整然と並んでいる――日本の団地の比ではない――ので、そういう印象を抱くのも、正直って無理もないものとも思えます。

こうした風潮に対する『朝鮮新報』の上掲コラム。このことが意味するところもまた非常に大であると考えます。分権制というと語弊があるが中央集権一辺倒とも異なる革命的大衆路線の現代的形態であると当ブログは考えます

朝鮮民主主義人民共和国において社会主義そのものの革新が続いています。
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