2024年03月26日

キム・ヨジョン朝鮮労働党中央委員会副部長の談話から伺える朝日交渉における共和国の立場

http://www.kcna.kp/jp/article/q/573dbcfbcfd7792c99a4c7a470ad3626.kcmsf
金與正党副部長が談話発表
【平壌3月26日発朝鮮中央通信】朝鮮労働党中央委員会の金與正副部長が26日、次のような談話を発表した。

日本側は25日午後、内閣官房長官の記者会見で、拉致問題がすでに解決されたとの主張は全く受け入れられないという立場を明白にした。

また、自分らと何の関係もないいわゆる核・ミサイルといった諸懸案という表現を持ち出して、われわれの正当防衛に属する主権行使に干渉し、それを問題視しようとした。

日本は、歴史を変えて地域の平和と安定を図り、新たな朝日関係の第一歩を踏み出す勇気が全くない。

解決不可能で、また解決することもない不可克服の問題に執着している日本の態度が、これを物語っている。

最近、数回にわたって周囲の耳目を集めた岸田首相の朝日首脳会談関連の発言は、自分の政治目的によるものであると見られる。

史上、最低水準の支持率を意識している日本首相の政略的な打算に、朝日関係が利用されてはならない。

「前提条件なしの日朝首脳会談」を要請して先に戸を叩いたのは日本側であり、ただわれわれは日本が過去に縛られず、新しい出発をする姿勢を取っているのなら、歓迎するという立場を明らかにしただけである。

(以下略)
最近、数回にわたって周囲の耳目を集めた岸田首相の朝日首脳会談関連の発言は、自分の政治目的によるものであると見られる」――完全に見透かされていますね。

それよりも注目すべきは「自分らと何の関係もないいわゆる核・ミサイルといった諸懸案」というくだり。かねてより指摘されてきたことですが、日本と対抗するためにICBMは必要ありません。ICBM開発はあくまでもアメリカとの対決のためのもの。それが改めて言明されたと言えます。

25日の談話を振り返りましょう。
http://www.kcna.kp/jp/article/q/99489171ee7534f918e2a69aabf0c68d.kcmsf
金與正党副部長が談話発表
【平壌3月25日発朝鮮中央通信】朝鮮労働党中央委員会の金與正副部長が25日、次のような談話を発表した。

先月、私は日本の岸田首相が国会で朝日首脳会談問題に意欲を示したことについて個人的な所見を述べたことがある。

最近も岸田首相は、異なるルートを通じて可能な限り早いうちに朝鮮民主主義人民共和国国務委員長に直接会いたいという意向をわれわれに伝えてきた。

先日にも言ったように、朝日関係改善の新しい活路を開く上で重要なのは日本の実際の政治的決断である。

単に首脳会談に乗り出すという心構えだけでは不信と誤解でいっぱいになった両国関係を解決することができないというのが、過ぎ去った朝日関係の歴史が与える教訓である。

日本が今のようにわれわれの主権的権利の行使に干渉しようとし、これ以上解決すべきことも、知るよしもない拉致問題に依然として没頭するなら首相の構想が人気取りにすぎないという評判を避けられなくなるであろう。

明白なのは、日本が朝鮮民主主義人民共和国をあくまでも敵視して主権的権利を侵害する際には、われわれの敵と見なされて標的に入るようになるだけであって、決して友人にはなれないということである。

心から日本が両国関係を解決し、われわれの親しい隣国になって地域の平和と安定を保障することに寄与したいなら、自国の全般利益に合致する戦略的選択をする政治的勇断を下すことが必要である。

公正で平等な姿勢でわれわれの主権的権利と安全利益を尊重するなら、朝鮮民主主義人民共和国の自衛力強化はいかなる場合にも日本にとって安保脅威にならないであろう。
この談話のポイントは、
・拉致問題は解決済み
・主権的権利の行使に干渉するな
です。この談話では具体的に「主権的権利」が何であるかは述べられていません(いままでの経緯・経過を踏まえれば明白ですが・・・)。これに対して26日の談話は明確に「核・ミサイル」としています。

改めて共和国の立場をまとめると、
・拉致問題は解決済みだから朝日交渉の議題に取り上げるべきではない
・核・ミサイルは日本向けではないから朝日交渉の議題に取り上げるべきではない
ということになるでしょう。
ラベル:共和国
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2024年03月24日

共和国のウクライナ情勢認識

http://www.kcna.kp/jp/article/q/b9cc042ce362ca1802eab9288ee5545e.kcmsf
米国と西側に対する幻想はウクライナに何をもたらしたか

【平壌3月23日発朝鮮中央通信】自国の安保空間を甚だしく脅かす米国と西側に立ち向かってロシアが開始した対ウクライナ特殊軍事作戦が、3年目に入った。

(中略)
情勢アナリストらは、ウクライナで繰り広げられている悲劇の原因が米国の覇権政策とそれに寄生し、同国をロシアとの対決へ追い込んだ西側為政者らの無謀な対米追随政策にあると主張している。

しかし、それよりも重要な原因がある。

現ウクライナ政権の崇米・事大、外部勢力依存政策に根本原因があるというのがこんにち、より明白になった。

米国によって新ナチズムに手なずけられたゼレンスキーかいらい一味は、紛争が起きるやいなや、米国とNATO加盟国を訪れ続けて兵器と資金を支援してくれることを哀願した。

米国は、まるで好機にめぐり合ったかのように、NATOをはじめとする西側追随国をウクライナに対する全面的な支援に駆り出し、キエフ当局に軍事顧問を派遣し、莫大な戦争装備と資金を提供した。

一方、全方位にわたる対ロシア制裁と圧迫、封鎖を前例なく強めながら、ロシア経済を破壊し、同国人民を完全に窒息させようとした。

統計によると、米国と西側はこれまでの2年間、ロシアに史上最大規模の制裁を実施したが、2023年11月現在、制裁件数はおよそ1万7500件に及んだ。

しかし、制裁は戦場の形勢を変えられず、ロシアの経済を窒息させるどころか、国産化による自給自足の機会を与えた。

昨年、ロシアの国内総生産額成長率は3.6%で、世界的な平均指標に比べて高かったし、ウクライナは国家債務額が1453億2000万ドルに至って史上最高を記録した。

重なる敗戦で絶望に陥ったゼレンスキー一味は、米国と西側諸国を訪れ続けながら、資金やミサイル、戦車や砲弾をくれと哀願している。

数多くのウクライナ人が親米かいらい政権のヒステリックな反ロシア狂症のいけにえに、米国と西側の弾除けに駆り出されて無駄な血を流している。

(中略)
こんにちのウクライナ事態は、米国と西側に対する幻想がどんなに愚かで自滅的なものであるのかを明白に実証している。

キエフかいらい政権は、時代錯誤の崇米・事大と外部勢力依存によって国を滅ぼし、民族を滅びるようにする残酷な悲劇を招いた。

ウクライナ事態を巡って今一度、かみ締める真理がある。

米国と西側に対する幻想はすなわち、自滅であり、壊滅である。−−−

www.kcna.kp (チュチェ113.3.23.)
ウクライナで繰り広げられている事態の根本原因を、ロシア封殺の好機として利用しようとするアメリカの指揮棒に従ってきたゼレンスキー政権の崇米・事大、外部勢力依存政策とした朝鮮中央通信。また、アメリカ及び西側追随国がロシアに対して史上最大規模の制裁を実施したが、ロシア経済を破壊しロシア人民を窒息させることはできず、それどころかロシアに自給自足の機会を与えたともしています。共和国は、ロシアの姿と自国の反帝自主闘争の闘争史を重ねているのでしょう

数多くのウクライナ人が親米かいらい政権のヒステリックな反ロシア狂症のいけにえに、米国と西側の弾除けに駆り出されて無駄な血を流している」とした上で「キエフかいらい政権は、時代錯誤の崇米・事大と外部勢力依存によって国を滅ぼし、民族を滅びるようにする残酷な悲劇を招いた」とし、「米国と西側に対する幻想はすなわち、自滅であり、壊滅である」と結ぶ記事。かつて首領様は「歴史的経験が示しているように、事大主義に陥れば人は愚か者になり、民族は滅び、革命は失敗をまぬがれ」ないと仰いました(『青年は朝鮮革命の最終的勝利のために経済建設と国防建設のすべての分野で先鋒隊となろう』チュチェ57・1968年4月13日)が、その線で非常によくまとめられた共和国のウクライナ情勢認識であると言えるでしょう。
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2024年03月23日

鳴りを潜めるようになってきた「ロシアは追い詰められている」の類のプロパガンダ

ロシアのウクライナ侵攻においては、米欧諸国のウクライナ支援が滞る中、戦場の主導権をロシアが掌握したという指摘も出てきています。先般のウクライナ軍の反転攻勢は失敗に終わり、前進・領土奪還どころか、ドンバス紛争開始以来ウクライナ軍が要塞化し前線の拠点としてきたアウディーイウカをロシア軍に奪われるという明白な後退・更なる領土喪失という事態に陥っています。

ロシアのウクライナ侵攻は米欧諸国とロシアとの戦いという構図になっていますが、戦場で思うようにロシアを圧倒できない米欧諸国。日本は米欧諸国の「金魚の糞」としてこの構図の片隅に位置していますが、以前から当ブログでも指摘してきたとおり、日本世論・日本メディアは、敵方が追い詰められているという構図を非常に好みます。より正確に言えば、「敵方が追い詰められていないと精神の安定が保てないのだろうか?」という疑念さえ生じるくらいに、事象の針小棒大な評価と強引な論理展開を非常に頻繁に目にします。

しかしながら、最近は少し事態が異なるように見受けられます。

たとえば、ロシア経済報道。国策報道機関であるNHKは3月15日に「ロシア経済 なぜへたらないのか?制裁が効かない真の理由」というWEB記事を公開しましたが、記事でNHKは「ロシア経済はいったんはマイナス成長に陥ったものの、今では足元で堅調に推移しています」と言明。その理由として「@ 欧州は今もロシア産原油を買い続けている」、「A ロシア産LNGは禁止されていない」「B 巨額の軍事支出とトリクルダウン」そして「C 住宅政策もプラスに寄与」などと解説しています。どういう風の吹き回しなのでしょうか?

ウクライナ産の農産物に対する支援にかかるEU域内での反発についても報じられるようになりました(「EUの農業政策に不満 農家の抗議活動 各地で相次ぐ」 2024年3月23日 17時13分)。「親ロシアブログ」などと罵倒されているミリタリー系個人ブログである「航空万能論GF」は、かねてより戦況分析と並行してこのことについて取り上げていらっしゃいます。ミリタリー系個人ブログが取り上げる話題を「みなさまの受信料」で運営されているNHKが回避してきたわけですが、いよいよNHKがこのことを報じるようになったことに注目する必要があるでしょう。

スウェーデンなどのNATO加盟については、引き続き「ロシアは『藪をつついて蛇を出した』。自業自得だ」という構図で描かれるのが主流ですが、やはりそれがプロパガンダ的な構図化であること見抜く人はいるようで、たとえば「【独自解説】200年の中立を捨てスウェーデンがNATOに加盟 バルト海を“封じられた”プーチン大統領 次なる一手は“核の脅し”⁉さらに、期待する「トランプ氏の再選」」(3/17(日) 12:00配信 読売テレビ)のコメント欄で軍事ブロガーのJSF氏は次のように指摘しています。
ロシアはフィンランドとスウェーデンのNATO加盟に碌に反応を示さず許容しています。過去にもバルト三国NATO加盟でも行動を起こしていません。かつてロシアの首都でもあった第二都市サンクトペテルブルグの目の前に強大な敵が出現するにも関わらずです。この事からロシアは緩衝地帯を設ける戦略を取っていないことが明白です。核兵器がある現代では土地の距離という要素は其処まで重視していないのでしょう。

一方でロシアはウクライナに侵攻し領土を併合すると宣言しました。併合したらそれはもう「緩衝地帯」ではありません。この侵略戦争は民族的に歴史的にロシアとウクライナは一体であると強く思い込んだプーチンの思想によるものです。ウクライナが独立国家として振る舞い西欧と自由に付き合うことが許せなかったのです。プーチンの思い描くあるべき世界ではウクライナはベラルーシのようにロシアの一部でなければなりませんでした。
当ブログでも、チュチェ111(2022)年6月29日づけ「ロシアにとっては「敵が改めて敵対的な姿勢を示した」くらいでしかないスウェーデン・フィンランドのNATO加盟をトルコが支持した事実が「朗報」扱いされる日本世論から見えるもの」で似たようなことを述べましたが、もっとわかりやすく整理されています。

たしかに、チュチェ111(2022)年7月9日づけ「フランスF2とNHKとのウクライナ報道比較から浮き彫りになった日本世論の深刻な現状」で取り上げたとおり、プーチン大統領はスウェーデンなどのNATO加盟について「ウクライナと抱えているような問題はフィンランドとスウェーデンとはない。望むならご自由に。しかし軍の部隊やインフラが配備される場合は我々は鏡のように対応しなければならないことを明確に理解すべきだ」と言明していました。やはりプーチン大統領にとっては、単にNATOが東進してきたことが許せないのではなく、自分たちのテリトリーである(と思っている)ウクライナの地にNATO軍が入り込もうとしていることが許せないものと思われます。それゆえ、「ロシアは『藪をつついて蛇を出した』。自業自得だ」論は、「ロシアは追い詰められている」の類の強引な論理展開であるという他ありません。

依然として「ロシアは追い詰められている」の類のプロパガンダは根強く残ってはいるものの、以前と比べると鳴りを潜めるようになってきたと言えるでしょう。
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2024年03月18日

ついにローマ教皇までもが口にするようになった「戦争終結のための交渉を」:昨年11月末以降のNHKのウクライナ情勢報道を振り返る

https://news.yahoo.co.jp/articles/1c016a231f990c18b656dae241ea760746743423
ゼレンスキー大統領、ローマ教皇の「白旗」提案一蹴 教会は「生きたいと願う人と滅ぼしたいと願う人を仲介する場ではない」
3/11(月) 10:50配信
ロイター

ウクライナのゼレンスキー大統領は10日、ローマ教皇フランシスコがロシアと戦争終結を交渉するよう呼びかけたことに対し、教皇による「事実上の仲介」だとして拒否した。

(以下略)
■ローマ教皇の発言の重みに、いったいどこまで気が付いていることやら・・・
クリスマスの日を1月7日から12月25日に変更してまで西欧諸国に擦り寄ったものの、当の西欧諸国の精神的支柱であるローマ教皇にこんなことを言われてしまったゼレンスキー政権。例によって全拒否するゼレンスキー氏ですが、ローマ教皇の発言の重みは、オルバン・ハンガリー首相は言うまでもなくトランプ・前アメリカ大統領や実業家のマスク氏が言うのとは質的にまったく意味合いが異なることに、いったいどこまで気が付いていることやら・・・

ついにローマ教皇までもが口にするようになった「戦争終結のための交渉を」。昨年末以来、当ブログでは久しくウクライナ情勢について取り上げて来ませんでしたが、この3〜4か月間は本当に事態が大きく動いたと言えます。今回のローマ教皇の発言は、その行きつく先だと言えるでしょう。

■昨年11月末以降のNHKのウクライナ情勢報道を振り返る
「今日のウクライナは明日の台湾・沖縄」をスローガンに戦時プロパガンダの予行演習に余念がなかったNHKをはじめとする日本メディアですが、昨年12月ごろから徐々にウクライナの苦境等を報じるようになったと当ブログは見ています。今回は、昨年11月末からのウクライナ情勢を巡る日本メディア(主にNHK)の報道を振り返りたいと思います。

■風向きを変えた米『ワシントンポスト』の報道
11月29日にNHKBSで放送された「国際報道2023」でドニプロ川東岸の狭いエリアに齧り付くウクライナ軍の存在を根拠に「ウクライナ軍が反転攻勢を続ける地域ではロシア軍の兵士の士気が低下し続けていると指摘されています」と報じたNHK。12月3日の「ニュース7」でも、ウクライナでの現地取材VTRの締め括りとして「嫌気や疲れが出ているのも事実」としつつも、「たとえ目立った成果がなくとも、いま戦いを止めるわけにはいかない、そんな人々の思いは変わっていないと感じます」とか「今は耐えるときだという声も聞かれました」といった具合に抗戦に重きを置く報道を展開してきました。12月頭まではそうだったのです。

風向きが急に変わったのは12月4日のことだったと考えます。米紙『ワシントンポスト』が「反転攻勢は失敗」と報じたのが転機でした。
https://www.fnn.jp/articles/-/625195
米・ワシントンポスト“膠着状態となり失敗” 6月開始のウクライナの反転攻勢について分析 
フジテレビ 国際取材部
2023年12月5日 火曜 午前10:35

アメリカのワシントンポストは4日、ウクライナがロシアに対して6月に始めた反転攻勢について、膠着状態となり失敗しているとの分析記事をまとめた。 

ワシントンポストによると、ウクライナとアメリカ、イギリスの軍幹部が、反転攻勢に向けて8回にわたる机上演習を行い、進軍目標の一つ南部のアゾフ海に、早ければ2ヶ月から3ヶ月で到達し、ロシア軍を切り離せると分析していた。

しかし、実際には、半年で12マイルしか進まず、作戦は停止状態に陥ったとしている。

(以下略)
同日の「国際報道2023」は「表面化するウクライナ国民の不満」という小見出しを擁する「ウクライナ “無人機戦略” と長期戦の課題 〜油井キャスター現地報告 A 〜」を公開。次のようにウクライナ社会の現状を報じました。
「兵士は(政府の)捕虜ではない」

この日、首都キーウ中心部では数百人の女性が集まり、抗議の声をあげていました。

「戦闘が長期化するなかで、夫や子どもたちに早く戦場から戻ってきてほしい。そう妻や母親たちが訴えています」

参加者たちが訴えていたのは、「18か月たった兵士には自由を」「疲れた兵士には交代が必要だ」など、戦地に動員された兵士たちの兵役期間を明確にすることでした。夫や子供たちが、“無期限”で戦地に派遣されているといいます。

こうしたなか、軍による強引な動員が指摘されています。

地元メディアが伝えたこちらの映像。男性が病院で健康診断を受けに来た際、軍の関係者に囲まれ、医師も見ているなかで連れ出される様子だとしています。

(中略)
さらに別のメディアは、道を歩いていた男性が、車に押し込まれ、連行されたとする様子を伝えました。こうした軍の行為は特に地方で深刻になっていると言われ、軍による兵士不足への“焦り”が出たものと受け止められています。

さらに、政府関係者が徴兵を逃れる人たちから賄賂を受け取る汚職も社会問題となっています。ウクライナ政府は、徴兵の対象者をトラックの中に隠し、国外に逃しているグループを摘発。「徴兵事務所」の責任者が現金を受け取る見返りに、徴兵を免除したり、外国へ出国できるよう偽の文書を作成したりするケースが頻発しているといいます。
その上で次のように続けました。
酒井キャスター:侵攻から1年9か月が過ぎ、侵攻直後とは違う課題も出てきているのですね。

油井キャスター:侵攻直後、ウクライナは愛国心が高まり、国民は結束していました。

しかし、 ここに来て、長期戦に伴う不満が表面化し始め、戒厳令が出されている戦時下にもかかわらず、異例の抗議デモが最近、行われるようになっているのです。こうしたデモは今のところ自由に行われていて、カで抑えつけているロシアとは対応が異なっています。

ただ、ゼレンスキー政権はこうした国民の声に真摯に向き合わなければ、不満はさらに広がり、国民の結束が瓦解する事態となりかねません。
開戦以来、継続的に垂れ流されてきた「ゼレンスキー大統領を中心として挙国一致・全国民が一丸となって侵略者と戦うウクライナ」像とは正反対の現状を、しれっと報じるNHK。かくも真反対に掌返しできるその面の皮の厚さには驚きを禁じ得ませんが、いよいよ現実を認めざるを得なくなったのでしょう。

■葛藤?
とはいえ、この頃はまだ葛藤があったのだと思われます。12月5日の「ニュース7」は、ワシントンポスト紙の「反転攻勢は失敗」記事を報じはしたものの、スポーツコーナー直前の最終ニュースとして短く報じるに留まりました。また、12月6日の「キャッチ!世界のトップニュース」は、「苦しい状況になっているウクライナですが、それでも、反転攻勢をやめることも出来ません。期待された成果は出ていないものの、反転攻勢を続けているからこそ、ロシアからさらに多くの国土が奪われるのを防ぐことは出来ています」と強弁(「ウクライナ 行き詰まる反転攻勢」)しました。バフムト攻防戦や、のちのアウディーイウカ攻防戦を鑑みるに、本来は要所に集中しなければならなかった貴重なリソースを大して意味のない戦線に注ぎ込んだことで今日の事態に至っているのだから、むしろ、いわゆる「反転攻勢」こそが領土浸食をアシストしているように見えてならないところですが、かなり苦しい「解説」の展開を試みること自体が、戦況悪化という現実を印象の上では少しでも薄めたい・弱めたいという心境、報道機関として事実を報じざるを得ないがあまり積極的には報じたくないという葛藤を如実に示しているものと考えられます。いままで景気の良い戦時プロパガンダを展開してきたNHKとしては逆風が吹き始めたわけです。

ちなみに、今日の記事の冒頭にローマ教皇発言を取り上げた関係で触れておきたいのですが、ゼレンスキー政権下のウクライナは「ロシアとの決別」を強調するためにクリスマスの日程を1月7日から12月25日に変更しています。このことについて12月25日の「国際報道2023」は、クリスマスの日程変更に反対の立場を取るウクライナの聖職者のインタビューを放映しました。聖職者曰く「(政治的理由による宗教的行事の変更は)ソビエト時代のやり方が復活しているのだ」とのこと。加えて番組は、「国連人権高等弁務官事務所は、ウクライナでの信教の自由の尊重を呼びかけましたが、軍事侵攻の長期化とともに締め付けは強まっています」ともアナウンスしました。

他方、同日の「ニュース7」では、ほぼ同じ映像を使いつつウクライナ正教のクリスマスが正式に12月25日に日付変更されたとのみ報じ「多くの市民がこの変更を受けいれています」としつつ「誰もロシアと同じ日に祝いたくない ロシアから離れ私たちの伝統を築きたい」とインタビューに答えた女性の声のみ報じました(「ウクライナでクリスマス・イブの礼拝 ロシアに反発 暦を変更」2023年12月25日 20時08分)。両番組は非常に対照的です。

このことは「国際報道2023」編集チームと「ニュース7」編集チームは別々で十分に意思疎通ができていないことによるという見方も可能でしょう。当ブログでは、NHKの番組同士がバラバラにプロパガンダ展開したことで番組同士の報道内容が矛盾している・プロパガンダをお互いに打ち消し合っている様を何度も取り上げてきました。NHKでは番組同士の統制が取れていない可能性は引き続き十分に考えられます。

しかしながら、さすがに彼らもそのことにそろそろ気が付いていてしかるべきでしょう。視聴者層ごとに報道内容を分けている可能性についても考える必要があります。現に今回、この記事を書くために昨年11月末から撮りためていたNHKニュースを改めて視聴し直したのですが、以前ほど露骨な矛盾はなくなってきています。彼らも「番組ごとに報じていることがバラバラで、ときどき矛盾しているぞ」と気が付き始めているのでしょう。

そのように考えたとき、「国際報道2023」は、民放地上波がバラエティ番組や総合ニュース番組を放送している平日午後10時からNHKBSで、翌未明にNHK総合で放送される国際情勢に特化した番組である点において、その視聴者は国際情勢に世間平均以上の関心を持っている層であると考えられます。国際情勢に高い関心を持っている層にはそろそろマトモな情報を提供しないといけないが、そうでない層にはまだまだプロパガンダを展開しておきたいという心理が見て取れます。徐々に軌道修正し始めたと考えられるのです。

なお、ウクライナ正教のクリスマス日程の変更については当ブログも以前に取り上げたところです。改めて申しておけば、現在のロシア正教会とプーチン政権との関係の深さはかねてより指摘されていることですが、しかし、考えようによっては「モスクワ総主教キリルとその一味がプーチン政権とつるんでいるだけ」という見方も十分可能です。1000年以上の歴史を有するロシア正教そのものを排斥するのには疑問を感じざるを得ません。

■あの津屋尚解説委員までもが――ウクライナ支援予算成立の頓挫が決定打だったか
逆風をさらに強くしたのがアメリカ連邦議会での与野党対立によるウクライナ支援予算成立の頓挫であったと考えます。かねてより雲行きが怪しかったものでしたが、NHKは希望的観測に縋っていたのでしょう。12月8日の「国際報道2023」は、ウクライナ支援に消極的な共和党のジョンソン米下院議長について「ウクライナ支援に前向きになりつつある」とポジティブに報じました。

しかし、共和党はその後も決定的には態度を軟化させることはありませんでした。12月13日の「国際報道2023」は、「アメリカとウクライナ “新たな戦略”と“追加支援”は? (油井’s VIEW)」でWEB記事化されていますが、次のように報じていました。
油井キャスター:「勝利の方程式」には欠かせない追加支援ですが、アメリカはウクライナへの支援を継続していけるのでしょうか。

渡辺公介記者:予断は許さない状況です。野党・共和党の下院議員の投票行動をまとめているグループの調査によりますと、ことし9月に採決が行われたウクライナ支援の緊急予算に反対した議員は100人を超え、 1年あまりで反対の議員は倍以上に増えています。

これまでは、ウクライナ支援をめぐる緊急予算のすべてに賛成票を投じてきた共和党議員に今週、話を聞きましたが、この議員は「バイデン政権の戦略が見えない。白紙の小切手を切る前に、議会に説明するべきだ」と述べ、反対する姿勢に転じています。

議会上院の共和党のトップ、マコネル院内総務は今月25日までに緊急予算が承認されることはないと強調しました。

アメリカ政府はこのままでは年内にウクライナ支援の予算は枯渇するとの見通しを示しています。

支援が滞れば、ウクライナの戦況にも影響を及ほすことは間違いなく、バイデン政権は難しい局面を迎えています。
12月14日の「ニュースウオッチ9」もウクライナ情勢について「ウクライナ軍 こう着状態に アメリカの支援継続は不透明」というテロップを出しました。大学教授等の専門家をスタジオに呼んで展望の解説をさせるといったことをせず、事実を淡々と報じるにとどめた点を鑑みるに、NHKは固唾をのんで行方を見守っていたのでしょう。

結局12月21日、アメリカ議会はウクライナ支援予算の年内承認を断念しました(「米議会 ウクライナ支援継続の緊急予算 年内の承認を断念」2023年12月20日 15時18分)。ついにウクライナ支援が現実として滞る事態になったわけです。

この日以降、アメリカ様の明白なシグナルを受けてか、NHKは堰を切ったように今まで積極的には報じてこなかったウクライナ情勢の一側面について報じるようになったと当ブログは認識しています。12月21日の「国際報道2023」は、「【解説動画】揺れるウクライナ 国内結束 維持できるか」でWEB記事化されていますが、ゼレンスキー大統領とザルジニー総司令官(当時)との対立を詳報。WEB記事には収録されていませんが、放送では酒井美帆キャスターが「(ゼレンスキー大統領が前線の苦境についてザルジニー総司令官に)責任を押し付けているようにも聞こえます」とハッキリ述べ、油井秀樹・元NHKワシントン支局長も「そうですね」と応じる一幕がありました。開戦以来一貫して形成されてきた「ゼレンスキー大統領を中心として挙国一致・全国民が一丸となって侵略者と戦うウクライナ」像が崩れ始めた瞬間です。

12月28日には、調子のいい戦況「分析」を展開してきた(チュチェ111・2022年12月31日づけ「10月末から12月末までの約2か月間のウクライナ情勢まとめ(1)」参照)が先般の反転攻勢が失速・失敗してからというものの沈黙を守ってきた津屋尚解説委員が「厳しさ増す冬の戦い〜ウクライナは戦い続けられるか」という分析を開陳しました。

当該記事の冒頭で津屋解説委員は「不発に終わった反転攻勢」と言明。ザルジニー総司令官(当時)の論文を引用する形で現状を描き出しました。ゲームチェンジャーなどと持て囃されてきた西側戦車については「欧米の主力戦車などは、部隊が素早く移動しながら攻撃する“機動戦”でこそ威力を発揮しますが、動きが止まってしまっては、強みは失われてしまう」と軌道修正。反転攻勢が失速した具体的要因についても「広大な地雷原の存在」「制空権が取れなかったこと」そして「欧米からの軍事支援の遅れ」などと言及しました。

驚くべきことは、「戦争に終わりが見えない中で、ロシアに対する徹底抗戦を支えてきた兵士や国民の間には、“戦争疲れ”が見え始めています」「ウクライナ国内では、賄賂によって徴兵逃れをはかるケースや成人男性の国外逃亡も後を絶たず、ウクライナ軍は兵員の確保という課題にも直面しています」そして「ウクライナで今月行われた最新の世論調査によると、「戦争の長期化などにつながるとしても、決して領土を手放すべきではない」との回答が74%でした。国民の大半は依然として、クリミアを含め侵略された全ての領土の奪還まで戦い続けることを支持しています。しかし、過去1年の推移をみると、今年2月の87%をピークに徐々に減り続けています。「領土の一部放棄もありうる」との回答は1年前の2倍以上の19%と、交渉による解決を望む声が少しずつ増える傾向にあります。」などと言い始めたこと。昨秋のハルキウ方面でのウクライナ軍の大攻勢後、「武器も兵員も足りないロシアには、もはや立て直す余力はない」と言い切った(その直後に電力インフラへの大規模攻勢)彼がウクライナ国民の戦争疲れや兵役逃れ、領土の一部放棄を含む交渉による解決を望む声の増加に言及したわけです。

世界の秩序に関わる問題」ともいう津屋解説委員。しかし、巻き返しの展望をまったく描けないまま記事は終わってしまっています。アメリカのウクライナ支援予算が成立しなかったことは、本当に大きな衝撃だったのでしょう。

■米『ポリティコ』の「ウクライナ領土奪還支援見直し検討」報道の頃から「ウクライナ世論の変化」が報じられるようになった
追い打ちをかけるように12月29日には、次のようなニュースが飛び込んできました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231229/k10014303101000.html
“欧米当局者 ウクライナ領土奪還支援 見直し検討”米メディア
2023年12月29日 6時24分

ロシア軍が侵攻を続けるウクライナをめぐり、アメリカのメディアは、欧米の当局者がウクライナのすべての領土奪還を支援する戦略について、停戦交渉を念頭に見直す検討をしていると伝えました。

アメリカの政治専門サイト「ポリティコ」は27日、アメリカとヨーロッパの当局者の話として、ウクライナがロシアに占領されたすべての領土を奪還することを支援してきたこれまでの戦略について、見直す検討をしていると伝えました。

反転攻勢に参加しているウクライナの兵力を、ロシア軍による激しい攻撃が続く東部に配置し、防衛を強化することなどについて協議しているということで、当局者は将来の停戦交渉でウクライナを優位にすることを目指したものだとしています。

ポリティコは停戦交渉はロシアに領土の一部を割譲することを意味するとしていますが、「ロシアとの交渉は計画されていない」という当局者の話も伝えています。

(以下略)
停戦交渉はロシアに領土の一部を割譲することを意味する」というのは、今日の記事の冒頭で取り上げたフランシスコ教皇の発言とも通ずるものがあります。結局、教皇の発言はかねてより政治家たちが模索してきた路線を宗教指導者が後押ししたようなもの(そして、この後押しの意味合いが非常に重い)。(政治的)権力も(宗教的)権威もこぞって停戦交渉を公然と口にするようになってきたわけです。

年明け以降は「ウクライナ社会の疲れ」が繰り返し報じられました。たとえば1月7日の「ニュース7」。「国民の多くが徹底抗戦を続けるべきだと考えている現状に変わりはない」としつつも、「ロシアと決して妥協すべきではない」という世論調査への回答が一昨年5月から昨年12月の間に8パーセント低下していることを取り上げて「社会に疲労感」「世論が少しずつではあるものの変化している可能性」と報じました。1月10日には、ウクライナでは大学生は徴兵が猶予される制度であることを利用して30代以上の男性が大学に入学するケースが相次いでいるそうなのですが、当の30代大学生のインタビューが報じられました。30代大学生氏曰く、「私は人間です。なぜ家畜のように塹壕に追い込まれるのか。なぜ戦争に行くのかは理解しているが、それは別の話です」とのこと。これを受けてスタジオでは「大義と生きたいという願いとの強いジレンマ」とし、キーウで取材を続けるNHK記者も「世論は少しずつではあるものの変化してきている可能性があります」と述べたものでした。

1月22日には、NHKとしては異例的にウクライナ軍の攻撃によってドネツク人民共和国の民間人に死傷者が出たと報じました(「ロシア側の支配拠点 “ウクライナ軍の攻撃で市民27人が死亡”」 2024年1月22日 18時05分)ロシア軍の攻撃による民間人への被害はいままで盛んに報じられてきたものの、ウクライナ軍の攻撃による民間人への被害はほとんどと言ってよいほど報じられて来なかったところ。

アメリカに梯子を外されては堪らないという危機感が、ここまで報道姿勢の大転換をもたらしたのでしょう。

1月23日の「キャッチ!世界のトップニュース」は、フランスF2のアウディーイウカでの前線取材VTRを引用。キーウやリヴィウには記者を送るようになったNHKですが、相変わらず最前線には記者を送らず外電を引くことしかできないことについては、この際は措いておきましょう。F2は、あと数時間で前線に送られるウクライナ兵たちの祈りのシーンと、ギターでの弾き語り?シーンを捉えていたのですが、全員の顔がこれ以上ないまでに沈んでいました。「祖国防衛の士気が高いウクライナ軍」という開戦以来展開され刷り込まれてきたイメージとはまったく異なるものでした。「キャッチ!世界のトップニュース」はそれほど視聴率が高いとは言い難い番組ではあるものの、開戦以来展開され刷り込まれてきたイメージを突き崩す映像が放映された(百聞は一見に如かず!)ことの意味は非常に大であると考えます。

1月26日の「ニュース7」。「ロシアの物量攻撃を経験したウクライナ人の世論に変化」としつつ、ウクライナでの最新の世論調査について「欧米の支援が大きく減った場合について、58パーセントが『それでも戦闘を続けるべき』とした」が、「32パーセントが『戦闘の停止に踏み切った方がよい』と答えた」と報じました。その上で「支援を取り付け市民の安心を担保することができるか。ウクライナの最大の課題」であると付言しました。NHKを代表する午後7時のニュース番組においても、ここまで報じるようになったわけです。

■シルスキー氏をButcher呼ばわりするまでになったNHK――さすがに掌返しが酷くはないか?
ザルジニー総司令官の解任についてもNHKは割と正面から報じるようになりました。これ以上のプロパガンダ展開は苦しいと悟ったのでしょう。しかし、掌返しがさすがに酷い

1月31日の「キャッチ!世界のトップニュース」は、「ウクライナ軍ザルジニー総司令官 解任の議論」でWEB記事化されていますが、「欧米の主要紙は、「ウクライナ軍のザルジニー総司令官の解任があるのかどうかという議論がウクライナ国内で高まっている」と、一斉に報じました」という切り出しで別府正一郎キャスターの解説を始めました。2月5日の同番組も「ゼレンスキー大統領  軍総司令官の解任検討 認める」というコーナーで、ウクライナ国民らの「ザルジニー氏は象徴的な存在で(解任は)国際的によくない印象を与える」とか「(ザルジニー氏は)幼い子どもでも知っていて(解任されたら)軍の暴動が起きると思う」といった声を報じました。当ブログに言わせれば「随分前から指摘されてきたことを何を新ネタのように・・・」といったところですが、NHKまでもが報じるようになったわけです。

2月9日の同番組は、ザルジニー氏の後任に任命されたシルスキー氏について取り上げたのですが、なんと彼をButcher(ブッチャー)呼ばわり。「人的損失を顧みないソビエト式の指揮官としても知られていて」とも言ってのけました。たしかにシルスキー氏はソビエトの士官学校を卒業していますが、軍の高級指揮官が40年近く前に学校で学んだことから何も進歩していないとでも言うのでしょうか? 印象操作が過ぎると言わざるを得ないでしょう。

いくらアメリカ様のシグナルが明白だからと言って、ついこの間まで「侵略者に対して祖国防衛の聖戦を展開するウクライナ軍」としてきたのに、その新しい総司令官に対して掌を反すかのように酷い印象操作を展開するNHKの報道姿勢に当ブログは強い憤りを覚えざるを得ません。

■まるで駆け込みのアリバイ作り
2月は、まるで駆け込みのアリバイ作りかのような勢いで、いままで決して報じられてこなかった米欧諸国やウクライナ国内での結束の乱れが相次いで報じられるようになりました。

2月19日づけ「大学生が20倍?ロシアと戦わない“徴兵逃れ”の実態は?」は、小見出しを拾うだけでも「大学生は徴兵対象外 30代の入学者数は侵攻前の20倍」とか「当初は軍に志願 気持ちが変わった理由とは」、「祖国も大事だが、家族も」といった字面が出てきています。堰を切ったかのようです。

2月24日づけ「【詳細】ウクライナへの軍事侵攻から2年 各地の動きは」は、次のように報じています。
NHKが現地調査機関と共同実施 意識調査結果は
ロシアによる軍事侵攻が始まって2年となるなか、ウクライナの国民の68%が「領土を奪還するまで徹底抗戦を続けるべきだ」と答えた一方で、「和平交渉を始めるべきだ」と回答した人が24%と、1年前に比べて2倍に増えたことがNHKがウクライナの首都キーウを拠点に活動する調査機関「レーティング」と共同で実施した意識調査で明らかになりました。

調査は、今月9日から3日間、ロシアが占領している東部の一部の地域と南部クリミアを除くウクライナ各地の18歳以上の市民を対象に電話で行い、1000人から回答を得ました。

(中略)
【戦況をどうみるか】
戦況をめぐって「勝利に近づいている」または「一歩一歩勝利に近づいている」と回答した人は、半数を超えて54%に上りました。一方、「停滞している」と回答した人は30%でした。「少しずつ後退している」か「後退している」とした人は12%で「停滞」または「後退」と回答した人はあわせて42%となりました。なかでも18歳から35歳までの若い世代では「停滞」または「後退」と回答した人の割合が53%にのぼり「勝利に近づいている」と回答した44%を上回っています。
【停滞・後退の理由は】
「停滞」または「後退」と回答した人に対してその理由を尋ねたところ、「ウクライナ政府の結束やリーダーシップの不足」と回答した人が42%と最も多く「欧米による兵器の支援不足」が30%、「国際社会によるロシアへの圧力不足や連携不足」が10%でした。
【「徹底抗戦」68%も「停戦し和平交渉」24%と去年比2倍に】
今後ウクライナ政府に何を期待するかについては、「クリミアを取り戻すなど旧ソビエトから独立した時点の状況になるまで戦闘を続ける」が55%、「軍事侵攻が始まる前のおととし2月23日の時点に戻るまで戦闘を続ける」が13%と、領土を奪還するまで徹底抗戦を続けるべきだと回答した人があわせて68%にのぼりました。一方で「停戦し和平交渉を始めるべきだ」と答えた人は24%と、1年前の12%から2倍に増えました。そう回答した人を年齢別に見ますと、51歳以上が去年から6ポイント増えて18%、36歳から50歳までが14ポイント増えて27%、18歳から35歳まででは20ポイント増えて31%となりました。国民の多くが徹底抗戦を続けるべきだと考えている一方で若い世代を中心に停戦を求める声も出ていることがわかります。

(中略)
軍事侵攻2年 ウクライナの市民の声は
18歳の男性
「戦争が長期化するなかで、人々は疲れているし、恐怖も感じています。しかし、もし降参すれば、敵は、再び攻撃を仕掛けてくるでしょう。私は戦う準備ができているし、戦い続けるべきだと思います」
18歳の女性
「去年はまだ、戦争が終結し、私たちが勝利するだろうという明るい兆しがありました。しかしいま、私たちは、道のりがとても長いものであることに気付いています。もちろん誰もが戦争の終結を望んでいて、これまでに失ったものを考えれば、戦争は終わらせたほうがいいと思います。しかし、2年後、3年後にプーチンが攻めてこないという保証はどこにもありません」
「多くの友人が死に、多くの親族が戦地にいます。もし自分の父親や恋人が動員されたらと考えない日はありません。平和で静かな日が訪れることを願っています」
60歳の男性
「ウクライナの人たちも前線の兵士たちもみな疲弊しきっています。また欧米側からの支援も不足し、ウクライナは厳しい状況にあります。私は戦い続けるのではなく、交渉し、選択肢を探す必要があると思います。しかし、交渉だけではウクライナに未来はありません。欧米側のパートナーから将来に対する何らかの保証が必要です」
昨年末以来、少しずつ崩れていた「ゼレンスキー大統領を中心として挙国一致・全国民が一丸となって侵略者と戦うウクライナ」像が完全に崩壊した瞬間であるという他ありません

2月21日づけ「ウクライナ侵攻2年 揺れるEU諸国 ロシアの隣国エストニアは」(2024年2月21日 18時27分)は、タイトルこそウクライナ支援に積極的なエストニアの国名が記載されていますが、支援疲れ著しいイタリアの状況について詳しく報じています。
まちの人からも「ウクライナは大変な状況なので支援するのは正しいと思うが、国内の現実に目を向けることも必要だ」とか「今回の侵攻の影響で生活が困窮しているイタリア人が国内にたくさんいる」など、ウクライナへの軍事支援よりもイタリアの人々の生活を守るために予算を使うべきだという声が聞かれました。

イタリアの連立与党「同盟」のロメオ上院議員によりますと、こうした世論を背景に与党内からも戦争を終わらせるための外交努力をするべきだという声が出ているといいます。

ロメオ上院議員は「こう着している戦況を、軍事的に解決することはできない。ヨーロッパだけでなく世界中で人々は戦争の影響を感じている。外交交渉を早く始めれば始めるほど、戦争を早く終わらせられる可能性がある」と話していました。
同記事ではEU全体についても次のようにも報じています。
EUの世論調査からは、ウクライナへの軍事支援に対する支持は全体として時間がたつごとに下がる傾向にあり、国によって差があることが見てとれます。

侵攻が始まった2022年の6月から7月にかけて行われた調査では、EU全体でウクライナへの軍事支援を支持すると答えた人は68%、それが去年の1月から2月にかけて行われた調査では65%、去年の10月から11月にかけて行われた調査では60%でした。

(中略)
このうち、ことしのG7議長国でもあるイタリアは、おととしの6月から7月に比べて「支持する」と答えた人が57%から51%に減る一方で、「支持しない」と答えた人が37%から44%に増え、その差が縮まってきています。
アメリカは言うに及ばず、EUでも特に西欧諸国で支援疲れが顕著になり足並みが乱れつつある、いわゆるグローバル・サウスの国々からは「ウクライナは領土を諦めてでも停戦したほうが良いのではないか」という声が徐々に広がって来、そして何よりもウクライナ国内でさえ結束が乱れている・・・NHKは盛んに「国際社会」という単語を使いますが、まさに国際社会の現状を鑑みるに、とてもこのまま戦争を続けられるような状況にはなくなってきているわけです。

NHK等の日本メディアの報道しか接していないと、あたかも最近になって国際社会が急に変質したように見えてしまいますが、もちろん突然こうなったわけではありません。以前から徐々に進行してきたことだがNHK等が報じてこなかっただけ。では、ここにきてなぜ急に報じるようになったのでしょうか。

NHK等にこのような急旋回を仕向けさせられるのは、アメリカを措いて他にはありません。昨年末のウクライナ支援予算成立が頓挫してしまったことに加え、ウクライナ支援の在り方に非常に批判的なトランプ前大統領が今年のアメリカ大統領選挙で返り咲く可能性が高まっていることを受けて、「これは本当にウクライナは梯子を外されるかもしれない」と認識し、大急ぎでアリバイ作りのように取り繕い始めたものと当ブログは考えます。このことは、NHKが国策報道機関に過ぎないことを示す一例であると考えます。

もちろん、「大急ぎで取り繕い始めた」というのは私の推測に過ぎませんが、「前々から現象化しており、本来はもっと早くから報じてくるべきだった事柄を最近になって急に報じるようになった」ことは間違いのないことです。少なくとも「NHKはマトモなマス・メディアとは言い難い」とは言えると考えます。

■NHKの心のうちは非常に苦しいのだろう
アメリカは言うに及ばず、EUでも特に西欧諸国で支援疲れが顕著になり足並みが乱れつつある、いわゆるグローバル・サウスの国々からは「ウクライナは領土を諦めてでも停戦したほうが良いのではないか」という声が徐々に広がって来、そして何よりもウクライナ国内でさえ結束が乱れている・・・NHKの心のうちは非常に苦しいのでしょう。たとえば1月25日の「キャッチ!世界のトップニュース」。「ロシア軍 軍用機墜落の波紋」でWEB記事化されていますが、ウクライナ人捕虜を乗せたロシア軍輸送機が墜落(ウクライナ軍のミサイルによる撃墜?)した件について、次のように主張しました。
ただ、忘れてはならないのは、そもそもウクライナへの侵攻はロシアが始めたものだということです。侵攻がなければウクライナ兵が捕虜として捕らえられることもなく、今回の交換も行わることはなかったでしょう
苦しすぎる「もとはと言えば」理論。「ロシアがウクライナに侵攻したが最後、何をどう頑張っても当該輸送機が墜落し搭乗員らが死ぬしか他に道がなかった」のなら「ロシアのウクライナ侵攻のせい」と言えるでしょうが、そうではありません。原因と結果の関係が必然の関係になっておらず、因果論として成立していないのです。本気でこういうこと言っているとすれば、論理的思考力を疑わざるを得ません。

このくだりからは、本心ではNHKは何も変わっていないが「国際社会」の動向の変化でしぶしぶ論調を変えているに過ぎないことが見て取れると考えます。しかし、逆張りの先陣を切れずこんな調子で単発的に抗うようにしか主張できないのは、ここにこそNHKの限界があるのでしょう。

■割とよくマトメられている大演説を何故かWEB記事化しない怪
2月15日の「キャッチ!世界のトップニュース」も、NHKの苦しい立場がよく現れていたと考えます。当該番組では、メインキャスターの別府正一郎氏が「侵攻 まもなく2年」という解説を展開。概要は次のようなものでした。
武力で他国の領土を奪って国境線を変えようとする。言ってみれば、これだけはしてはならないという国際社会の根本的なルールを破ったロシアによるウクライナ侵攻から2年になってしまいます。改めてこの侵攻の問題点を国際法の観点から考えて見たいと思います。
(中略)
まず、「他国の領土を武力で奪う」という行動についてです。こうした行動は過去には横行していました。戦争のたびに国境線が目まぐるしく変わりましたヨーロッパの国々はアフリカや中東などを侵略し植民地政策の下で恣意的に境界線を引いて分割しましたこうした行動がもたらした犠牲と破壊のすさまじさは言葉では言い表せないものです。

しかし、こうした経験を経て国際社会は、第二次世界大戦後に国連を発足させ、国連憲章では武力による威嚇または武力の行使を禁じ領土の保全を掲げています。国連に加盟するということはこの原則を受け入れるということつまり、世界的に確立されたルールなのです。ロシアによるウクライナ侵攻は、このルールへの重大な挑戦になっています。

次に、「民間人への攻撃」についてです。ジュネーブ諸条約の根本的な原則の一つは「民間人と民間施設の保護」であり、意図的な攻撃は戦争犯罪とみなされています。これも世界的に確立されたルールになっています。ロシアが繰り返しているウクライナの都市部の民間住宅に対するミサイル攻撃は、このルールについても重大な挑戦です。

もちろん、これについてはさまざまな反論が聞かれます。たとえば、ロシアは欧米がウクライナを支援していることを指してロシアがあたかも防衛の戦いをしていると主張しています。また、一部のグローバル・サウスの国々からは、植民地政策を続けたヨーロッパがロシアを非難できるのかという不信感も根強くあります。さらに、SNSではさまざまなナラティブが飛び交っていて、鵜呑みにしてしまう人もいないわけではありません。

こうした中でロシアのウクライナ侵攻から2年になるというタイミングで私たちに何ができるのかを考えてみると、いまいちど私たちが加盟している国連の基本文書等を目を通してみることで、改めて気付きが得られるかもしれません。
筋論・原則論としては、よくマトメられた解説であると言えます。それ故に2点指摘できるでしょう。

第一に、「一部のグローバル・サウスの国々からは、植民地政策を続けたヨーロッパがロシアを非難できるのかという不信感も根強くあります」などと言及しつつ、それへの反論を展開できていない点です。この戦争の性質は開戦以来、何ら変わっていないところ、最近は日を追うごとに「ウクライナは領土を諦めてでも停戦したほうが良いのではないか」という声がまさにグローバル・サウスの国々から上がってきています。筋論・原則論が通用しなくなってきているわけです。

急速に求心力を失いつつある筋論・原則論を相も変わらず繰り返すにとどまる別府キャスターの解説。いまいちど、いかにして国際世論を筋論・原則論に引き戻すのかを考えて必要に応じて持論をアップデートしなければならないはずのところ、まったくそれができていません

当ブログが繰り返し指摘してきたとおり、開戦以来NHK等は一貫して筋論・原則論に則って報道を展開してきました。というよりも、橋下・グレンコ論争を鑑みるに筋論・原則論で思考を停止させていたというべきでしょう。この2年間の停滞を今から取り戻すのは非常に困難でしょう。この期に及んで未だに筋論・原則論を繰り返すことしかできない点に、NHKをはじめとする日本メディアの限界が顕著に現れていると考えます。

第二に、筋論・原則論としてよくマトメられた解説なので思考停止した日本国内向けとしては効果のある解説記事になると思われるところ、WEB記事化されていない点です。NHKのWEB事業はいま、民業圧迫云々を理由に規模縮小を余儀なくされているそうですが、そうはいっても似たような解説コンテンツはたいていがWEB記事化されています。その中でこれだけが例外的にWEB記事化されていないことに注目する必要があると考えます。

別府キャスターは「他国の領土を武力で奪う」と「民間人への攻撃」の2点からロシアのウクライナ侵攻を「世界的に確立されたルールに対する重大な挑戦」だと糾弾しますが、歴史を振り返るとその常習犯はアメリカであり、その現行犯はイスラエルであります(「ガザ地区、死者数3万人に迫る」2024年02月28日 14:07 朝鮮新報)。もちろん、「アメリカやイスラエルがやっているからロシアがやっても問題はない」とは言えません。しかし、いわゆる「そっちこそどうなんだ主義」(Whataboutism)に基づく論点逸らしの格好の口実になり得ます

あくまでも推測ですが、NHKは、自分たちの言論活動が「そっちこそどうなんだ主義」の口実に利用され、話が制御不可能な方向に走り出すことを恐れているのではないでしょうか。日本の宗主国であるアメリカ様、そしてアメリカ様の主人であるイスラエル様に火の粉が掛からないようにすることはNHKにとって非常に重要なことでありましょう。つい先日、放送直前でタイトル変更が行われたようですが、当ブログでも何度かその露骨なプロパガンダ性を批判(チュチェ111・2022年6月5日づけ「日本社会の歴史を語る姿勢・歴史感覚はここまで退化しているのか」及び、同年12月30日づけ「単なる女性自衛官募集番組(それも程度の低い)になり下がった「映像の世紀 バタフライエフェクト」の「戦場の女たち」」参照)してきた「映像の世紀 バタフライエフェクト」は、「イスラエル 孤高と執念の国家」というタイトルで放映を試みた(最終的に「イスラエル」になった)ものでした。通常「孤高」というのは賞賛の意味を込めた言葉。今のイスラエルについて「孤高」という言葉を使うのは、控え目に言っても「非常に物議を醸す」と言わざるを得ません。

公安調査庁が「国際テロリズム要覧」で「アゾフ大隊はネオナチ」と書いて1年以上たってから大炎上したことを思い起こせば、アメリカ様やイスラエル様にもそのまま当てはまるロシア批判のWEB記事化を避けようとする心理が働くのは、理解できないことはありません。

この期に及んで未だに筋論・原則論を繰り返すことしかできず、しかしなぜかWEB記事化しない点に、NHKの苦しい立場がよく現れていると考えます。

■開戦以来何一つ変わっていない完全なる御題目をただ繰り返しているに過ぎない
2月21日の「キャッチ!世界のトップニュース」についても触れておきましょう。こちらはWEB記事化されています(「ウクライナ侵攻から2年 現状と今後は」)が、別府キャスターはまたしても次のように主張しました。
別府キャスター: 実は、私はウクライナでの取材のあとも、携帯にウクライナの空襲警報を知らせるアプリをずっと入れたままにしています。空襲警報が出るとアプリが連動して、地図の上にミサイルが着弾するおそれのある場所が赤くなるのですが、この2年間、このアプリが作動しなかった日は事実上なかったと思います。つまり、ウクライナの人々はこの2年間、絶えず「いつミサイルが撃ち込まれるかもしれない」という恐怖にさらされながら過ごしてきたということだと思います。
(中略)
別府キャスター:さらに、いったん停戦で攻撃をやめても、また力を蓄えて攻撃するかもしれないという懸念も、ウクライナ側では強くされています。例えば、あえて犯罪に置き換えて考えてみると、今目の前で犯罪行為が起きて被害を受けている人に対して、「我慢したらどうですか」「抵抗を止めて諦めたらどうですか」というのはおかしなことです。犯罪行為をしている方に「止めろ」というのが大切です。

やはり、プーチン氏がこれ以上攻撃を続けるのをためらうような状況を作れるかどうかがカギと思いますが、それは、制裁や外交、そして抑止力でもあると思います。突き詰めれば、ウクライナへの国際的な連帯をどれだけ維持できるのか、国際社会の一層の努力が求められている。国際社会が試されている局面になっていると言えるのではないでしょうか。
今目の前で犯罪行為が起きて被害を受けている人に対して、「我慢したらどうですか」「抵抗を止めて諦めたらどうですか」というのはおかしなことです。犯罪行為をしている方に「止めろ」というのが大切です」――アメリカもEU諸国もいわゆるグローバル・サウスの国々もそんなことは百も承知。にもかかわらず、開戦以来のこの手の筋論・原則論が急速に求心力を失いつつあるのは明白であります。どうしてもこの原則は譲れないというのならば、米欧諸国やグローバル・サウスの国々を説得させられるバージョンアップされた筋論・原則論を展開すべきところ、開戦以来何一つ変わっていない完全なる御題目をただ繰り返しているに過ぎないのが別府キャスターの主張です。繰り返しになりますが、まさにNHKをはじめとする日本メディアの限界であると言わざるを得ないでしょう。

もっとも、おそらく彼も事態を打開するのは非常に困難であると分かってはいるのでしょう。2月28日の「キャッチ!世界のトップニュース」で報じられた「ウクライナへの軍事支援 “ジレンマのパターン”とは」では、次のように現状を認識しています。
フランスのマクロン大統領がウクライナに欧米側が地上部隊を派遣する可能性について「排除されるべきではない」などと発言したことに対し、ヨーロッパやアメリカからは否定する発言が相次いでいます
こうした欧米の足並みの乱れを見ていて思うのは、ロシアの侵攻開始以降のこの2年間あこうしたことは何回も起きていることで、今や、“ひとつのパターン”になっていると言ってもいいような状況だということです。つまり、欧米は、「強大な軍事支援を行うべきだ」という考えと、それによって、ロシアが反発して核使用を含む「事態のエスカレーション(激化)を招きかねない」という懸念との間を、行ったり来たりしているのです
(中略)
ウクライナへの欧米側の地上部隊派遣の可能性をめぐる議論が改めてあぶり出しているのは、ウクライナへの軍事支援をどこまで行うかの難しい決断が、今後も、毎回毎回迫られることになりそうだということです。 
「手の打ちようがないが、その事実を正面から認めたくないので、御題目を唱え続ける」といったところなのでしょう

NHKは相当行き詰っていると言わざるを得ないでしょう。

■TBS報道特集の大転向
いままでNHKの報道について取り上げてきましたが、TBS系「報道特集」について取り上げておきたいと思います。チュチェ111(2022)年4月10日づけ「TBSのジャーナリズムは今もまだ死んだまま:「ウクライナ国営放送日本語版」に成り下がったTBS『報道特集』と金平茂紀氏」で取り上げたとおり、開戦当初は市民らの勇ましい建前的発言だけを取り上げて戦時プロパガンダを垂れ流していたものの、今年2月24日の放送は、市民の本音を掘り起こすのに成功しています。

たとえば、「戦う意欲が高かった人たちは、去年までに亡くなってしまいました。もうそんな人たちはいません。政府が適切な行動をとらない限り、この戦争は負ける」というウクライナ国民の街頭インタビューを報じています。ウクライナ兵の動員ローテーションが正常に回っていないことは、かねてより指摘されてきたことですが、「夫の動員を解除せよ」というウクライナ人女性たちのデモ行進を取り上げることで、その問題にもキチンと触れています。さらに、NHK「映像の世紀 バタフライエフェクト」の「戦場の女たち」が典型的だったように、戦時プロパガンダがなかなか触れたがらない兵士たちの負傷(手足を失う)とリハビリシーンも放映。取り上げられた傷痍軍人は決して「前線に戻りたい」とは言わず「この体では役に立てない。福祉プロジェクトを立ち上げたい」と述べるに留まりました。彼の妻も「(負傷して)やっと一緒に暮らせると思った」というごくごく自然な人間の本音を口にしています。

特集は「一日も早く元の平和な暮らしを取り戻したい、人々の心からの願い」とか「戦争の見通しについてウクライナ提示案では集結できない、悲観的見通しを持つ(ウクライナの)人が、(侵攻)当初は2割程度だったが現在はおよそ半数にまで増えてきている戦争終結のために外交交渉が必要と考える人は7割にまで増えてきている国際社会は軍事支援一辺倒ではなくて、戦争終結への道筋を真剣に探るべき時期に来ている」と言明しました。ジャーナリズムの原点に立ち返り腹をくくったのでしょう。NHKとは大きな違いです。

■総括
昨年12月初旬に米紙『ワシントンポスト』が「反転攻勢は失敗」と報じたあたりから、葛藤を見せつつも渋々報道姿勢を変化させてきたNHK。ウクライナ支援予算のアメリカ議会での成立頓挫や米誌『ポリティコ』の「ウクライナ領土奪還支援見直し検討」報道の頃から、アメリカに梯子を外されては堪らないと危機感を覚えたのか、いままで積極的には報じてこなかったウクライナ情勢の一側面を慌てて取り繕うかのように報じるに至りました。開戦以来、日本メディアがせっせと形成してきた「ゼレンスキー大統領を中心として挙国一致・全国民が一丸となって侵略者と戦うウクライナ」像が、日本メディアの手によって突き崩されるようになったわけです。

かねてよりウクライナ支援の在り方に非常に批判的だったトランプ前大統領が、今年のアメリカ大統領選挙の共和党候補者指名獲得を確実にする情勢が固まった年明け以降は、さらにアリバイ作り的な取り繕いが加速。2月には、まるで駆け込みのアリバイ作りかのような勢いで、いままで決して報じられてこなかった米欧諸国やウクライナ国内での結束の乱れが相次いで報じられるようになりました。その過程で、新たにウクライナ軍総司令官に任命されたシルスキー氏をButcher呼ばわりするまでになったNHK。さすがに掌返しが酷いと言わざるを得ません。少なくとも「NHKはマトモなマス・メディアとは言い難い」とは言えると考えます。

アメリカは言うに及ばず、EUでも特に西欧諸国で支援疲れが顕著になり足並みが乱れつつある、いわゆるグローバル・サウスの国々からは「ウクライナは領土を諦めてでも停戦したほうが良いのではないか」という声が徐々に広がって来、そして何よりもウクライナ国内でさえ結束が乱れている・・・NHKの心のうちは非常に苦しいものと思われます。因果論として成立していない恥ずかしいロシア批判を展開したかと思えば、割とよくマトメられている解説コンテンツをWEB記事化しないといった奇妙な行動を展開しています。また、開戦以来の筋論・原則論が急速に求心力を失いつつあるのは明白であるところ、相も変らぬ主張を御題目のように展開することしかできないNHKをはじめとする日本メディアの行き詰まり・限界が顕著になっています。

最近はついに「在キーウ活動家が予測するゼレンスキー大統領の年内退任と、ザルジニー前軍総司令官の大統領就任」(3/16(土) 12:02配信 サンデー毎日×週刊エコノミストOnline)という記事が出るに至っています。かつては抵抗の象徴だったゼレンスキー大統領の凋落。今後、NHK等はどのように事実を加工して報じるのか。引き続きウォッチしてゆく必要があると考えています。
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2024年03月08日

「なにげない一言」から見える深い日本世論の闇

https://news.yahoo.co.jp/articles/75f2bbdebe394a4b125e0be79da6711b2ad064d7
かまいたち濱家「考えなしに失礼な事言ってしまいました」薬剤師とのやりとり“イライラ”を謝罪
3/1(金) 18:00配信
日刊スポーツ

(中略)
 相方の山内健司が、薬局での薬剤師とのやりとりを“イライラする瞬間”として挙げ、「処方箋を持って薬局に行ったとき、薬剤師の人がちょっとカウンセリングじゃないですけど『どうされたんですか、今日?お熱、あるんですか?』とか(聞いてくる)。いや、関係ないやん?それ(診察)はしてきた上で、その結果、これ(処方箋)をもらって渡してんねんから、さっさと薬を渡して。帰りたいのに。あれ、全然いらん時間やろって思っちゃって…」と訴えて笑いを誘った。

 出演者のお笑い芸人、馬場園梓は「わかる!だって、そいつに言ったって(処方される)薬は変わらへんからな」と笑って同調。濱家は「薬剤師さんも医療に携わってるから一応、“医者あこがれ”みたいなのがある」とフォローを入れていたが、これらの発言に対し、SNS上では「これってお医者さんが処方したお薬と患者さんの症状がちゃんと合ってるかって確認してるから全然無駄な時間ちゃうねんって。こいつにイライラした」「本気で何を言ってるんか…薬剤師さんの重要性知らんのか」「その発言にイラツキます 薬剤師は出てる処方と患者さんの病状がきちんと合っているかチェックすることも仕事なのでムダなことではないです。医者憧れも違います」などといった批判の声があがっていた。

(以下略)
医薬分業の制度を知らないのにも驚きですが、「医者あこがれ」というのは、まったく思いもよらないナナメ上の発想。要するに「一応医療関係者である薬剤師にもプライドがあるから、医者に張り合ってやろう粗を探し出してやろうという意識がある」と言っているわけです。すごい発想ですね。

かつてキム・ジョンイル総書記は「なにげない一言に本音がある」と仰いましたが、濱家さんの思考回路が垣間見えます。濱家さんはそういう思考回路・行動原理の持ち主で、そうであるがゆえに他人もそうであるに違いないとお考えなのでしょう。当ブログのようにヤフコメをはじめとする「便所の落書き以下」を収集して分析していると、割とこのような「意地」を思考回路・行動原理の中心に据えている人が少なくないように見受けられます。要するに、常に誰かと張り合っているわけです。本当にご苦労なことです。

切磋琢磨という言葉があるように競争自体は決して否定されるべきことではありませんが、この域に達してくると空回りしている感が否めません。張り合いが思考回路・行動原理の中心になってくると、いつも誰かと戦っているような状態になります。しまいには、やたらと高いプライド・とても強い自己愛、そしてその裏返し的な他罰的な言動といった副作用の影響も無視しえなくなってくるように思われます。

その最たるものが「上級国民」談義だったと考えます。チュチェ110(2021)年9月26日づけ「日本人の良識・良心をこのまま守り抜けるかの正念場」においても書きましたが、「一般国民」呼ばわりされて腹を立てたのであれば、本来なら「一般」の対義語は「特殊」なので、「訳の分からない理屈・ジャーゴンを連発し、屁理屈を捏ね繰り回す特殊国民」と言って逆に嗤ってやるのが筋だったところ、何故か「上級国民」という言葉を産み出してしまった日本世論。その動機には、常日頃から抱える劣等感の影を強く推認せざるを得ません。自分たちが「下級」だという被害妄想的自認があるので「見下された!!」と思ったのでしょう。

濱家さんの「なにげない一言」からは、深い日本世論の闇の入口が見えるような気がします。

批判を受けて謝罪した濱家さんですが、この謝罪コメントもなかなか味わい深い仕上がりになっています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/9f156df16bf94aba40066ec44f4d4d48109f9239
かまいたち濱家、薬剤師への不適切発言を謝罪「本当に申し訳ありませんでした」「無知から失礼な発言」
3/7(木) 13:08配信
スポニチアネックス

 お笑いコンビ「かまいたち」濱家隆一(40)が7日、自身のX(旧ツイッター)を更新。2月28日に放送されたABCテレビ「これ余談なんですけど…」(水曜後11・17)内での医療に関する不適切な発言について改めて謝罪した。

 「薬剤師の方々へ」と題し、文書を投稿。「薬剤師の方々へ。今回の件、本当に申し訳ありませんでした」と謝罪した。

 番組内での発言について「“医療に携わってるから医者憧れみたいなのがあるんちゃう?”という発言は、僕の意識の中に、会社で言うところの、医者→上司、薬剤師→部下みたいな会社内の上下のイメージがあったのだと思います」と説明。「“会社に勤めてるからには社長に憧れみたいなのがあるんちゃう?”的な発言でした」とした。

 「実際そこにそんな上下の事実はないのに、僕の無知から薬剤師さんにとても失礼な発言をしてしまいました」とつづった。

(以下略)
僕の意識の中に、会社で言うところの、医者→上司、薬剤師→部下みたいな会社内の上下のイメージがあったのだと思います」「“会社に勤めてるからには社長に憧れみたいなのがあるんちゃう?”的な発言でした」――会社員は意地を張って仕事しているわけじゃないんですけどね。濱家さんはそんな風に思っているんですか? これまたビックリ。上司だって人間でありミスをすることがありうるから「この資料のここの数字って・・・」という話になるわけです。よりよいものを世に送り出したいという気持ちがあるし、また、間違いがそのままになれば、回りまわって自分も困ることになるわけでもありますから(特に、ミスを挽回するための突撃戦作業は往々にして人海戦術的であり下っ端がやらされるから・・・)。

こうして見てみると、そもそも濱家さんには組織的に仕事をするという観念が根本的に欠如しており、根っからの個人事業主メンタリティなのかもしれません。

ところで、今回の騒動を見て思ったのは「歴史的経緯を知ることは大切」ということ。Wikipediaにもありますが、西洋における医薬分業の始まりは、医者による毒殺を恐れた神聖ローマ帝国のフリードリヒ2世が、病気を診断する者と薬を管理する者とを分けたことに由来すると言われています。非常に理解しやすい動機です。

「歴史を学んで何の意味がある、過去のことなんて知って何になる。今を知っていれば十分じゃないか」という学生諸君のボヤキをときどき耳にしますが、その一つの答えとして「経緯を知っていると現状の理解が定着しやすいから」と申し上げたい。

大人になるにつれて覚えなければならないことは飛躍的に増えてゆく一方で、記憶力は年々低下してゆくので、すべてを丸暗記するのではとても間に合わなくなります。複数の事柄が混ざって誤った記憶になることも増えてゆきます。このとき、経緯を知っていると忘れにくいし、経緯を知っていれば記憶が混合してしまったときに誤りに気付きやすくなります。

更に言うと、頭のいい人は何でも効率的に整理して覚えているので、そういう人たちと渡り合ってゆくためにも「知らないよりは知っていた方が断然お得」とも言い添えたいと思います。小中学生でも知っているような常識的な知識を覚えていない大人は、それを知らないからといって日常生活・労働生活で困ることはないとしても、軽く見られる・小馬鹿にされるものです。
posted by 管理者 at 23:22| Comment(2) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする

2024年03月02日

本筋を正確に見抜くことができない「何となく」の文化

https://news.yahoo.co.jp/articles/ec320af01404f9a14071792a339e8b974996eb4e
ありえないミス 博多女子中で高校入試願書出し忘れ
2/29(木) 20:15配信
九州朝日放送

(中略)
学校などによりますと、在校する中学3年生3人が古賀市にある公立高校の受験を希望していました。

この公立高校の入学試験は、多くの県立高校が3月5日に行われるのに対し、2月22日に実施されるため、願書の閉め切りは2月16日正午に設定されていました。

しかし、願書の提出を担当する学校職員が当該公立高校を県立高校と誤認し、願書の閉め切りは2月20日と思い込んだということです。

学校側は、2月16日午後2時半ごろ願書を直接、公立高校に持ち込んだ際にミスに気づいたものの、「2時間前に打ち切った」と受理を断られ、結局3人は受験できませんでした。

(中略)
保護者の1人は「ありえないミスだ。子どもは進路を絶たれ、笑って卒業することもできない」と憤りを露にしています。

今回の願書の提出ミスについて、公立高校を管轄する教育委員会は「公平公正性を必要とする願書の受付となるので、締め切り時間などは学校の入試要項にしっかり書いている。皆さんそれを守っているので、特別な対応はできない」としています。

(以下略)
「チュチェ思想を指針として日本の自主化の道を探る」をテーマの一つとして掲げている当ブログ。久しぶりに日本社会について取り上げてみたいと思います。

矢萩邦彦氏のコメントを今回は取り上げます。
中学受験では毎年願書の出し忘れが問題になります。受験校が多くなればどうしても抜けが出やすく、受け付けてもらえなければどうしようもありません。中学受験の場合も本人が出願するわけではなく、保護者がしますので、どうしても禍根が残りがちです。小学生の場合は仕方ないですが、中学生以上は、やはり自分自身で出願することに意義があります。すべて自分で決定し実行すればこそ、どのような結果も自分事として受け入れて糧にすることができます。誰かのせいにしたり、実感が薄かったりすれば、せっかくの経験が成長につながりません。高校受験・大学受験に関しては自分自身で出願することから評価の対象にすることが望ましいと考えます。
本件事案の本筋とはまったく関係のない話を、さも必然的展開であるかのように語っていることにお気づきになられたでしょうか。「絶対にミスしてはいけないタイミングで最悪のミスを犯した」ことを受けて、どのように償うのか、そしてどのように再発防止のチェック体制を作るべきかというのが本筋であるはずのところ、「すべて自分で決定し実行すればこそ、どのような結果も自分事として受け入れて糧にすることができます」だの「高校受験・大学受験に関しては自分自身で出願することから評価の対象にすることが望ましいと考えます」は、枝葉の議論です。そういう話は、それが本筋のときにこそ行うべきことです。

この手の「本筋ではない話を捻じ込んでくる」を日本世論ではしばしば目にするように思われます。昨年12月5日づけ「剛毅で大胆な構想を打ち出す元帥様・朝鮮労働党のような不世出の偉人・偉大な党が日本に誕生する日は来るのだろうか」では、高校授業料無償化問題について、子育て支援という観点から言えば所得制限存置論は本筋ではないところ、そんな話が氾濫していると指摘しました。

この手の脱線は、結局のところ、本筋を正確に見抜くことができない「何となく」の文化が顕著に現れた一幕であると考えます。そしてまた、こうした脱線文化が陰湿なムラ社会メンタリティー(他者から批判されることをとにかく嫌い何をおいても責任回避に走りがち)とバッティングしたとき、自己保身ゆえの過剰な保守主義・前例踏襲が発生するものと考えます。
posted by 管理者 at 22:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする