2024年04月28日

「何をいまさら。個人ブログじゃないんだから・・・」と言わざるを得ない共同通信の「北朝鮮ネタ」記事から見えること、そしてこれから

https://news.yahoo.co.jp/articles/6c22f7f00232b61e41ca3ced622857b012570f2e
「金正恩」敬称付けず歌唱 北朝鮮テレビ、親しみ演出か
4/28(日) 15:13配信
共同通信

 【北京共同】北朝鮮の国営テレビが今月、金正恩朝鮮労働党総書記の新しい歌の放映を始めた。ニュース番組では金氏に「同志」を付けて呼ぶのに対し、この歌は「金正恩」と異例の呼び捨てだ。北朝鮮に詳しい専門家は28日「親しみやすい国父」のように演出し、民衆の統率を図る狙いがあるとの見方を示した。

(以下略)
日本大学の川口智彦氏は、既に17日の時点で日本語テロップまで付けてYouTube動画を公開しているところですが、まるで「ここ二・三日で初めて判明しました!」と言わんばかりの筆致。個人ブログじゃないんだから・・・

また、「ニュース番組では金氏に「同志」を付けて呼ぶのに対し、この歌は「金正恩」と異例の呼び捨てだ」と書き立てていますが、キム・ジョンイル同志を称える《친근한 이름》も《노래하자 김정일 우리의 지도자 자랑하자 김정일 친근한 이름》としていたので、異例でも何でもありません。うろ覚えですが、たしかアリラン祭か何かの人文字でも「キム・ジョンイル 社会主義の守護者」というのがあった記憶が・・・

共同通信編集部を敢えて弁護するなら、日本の一般大衆・日本世論は共和国情勢にそこまで興味がないので商業メディアとして注目していられないし、日本世論には「北朝鮮で指導者を呼び捨てにしたら、どんな事情があれ間違いなく死刑」という通念があるので「異例」と書いたといったところになるでしょうか。

たしかに、いわゆる「核・ミサイル問題」について日本の一般大衆・日本世論は「北朝鮮の技術力じゃ、どこに飛ぶか分からないから」といった理由で自分事として捉えているフシがありますが、それ以外の「北朝鮮ネタ」は、世論はそこまで関心事とはしておらず、メディアが執拗に取り上げるから辛うじて世論の関心が保たれているだけであるようにも思われます。ひと昔前と比べると、共和国に対するアレルギー反応は、無関心化という意味で薄れつつあるようにも思われます

この上なく悪化している朝日関係は一旦リセットする必要があると当ブログは考えます。

先般、キム・ヨジョン同志は、岸田総理の淡い期待を打ち砕く談話において「私たちの核・ミサイル開発は、あなたたちには何の関係もないでしょ!」(=共和国の核・ミサイル開発は、アメリカへの対抗のためのもの)と言明しました。日本の一般大衆・日本世論にとっての懸案である「核・ミサイル問題」は、そもそも日本向けではありません(だいたい、最前線たる日本海側に原子力発電所を並べておいて何をいまさら・・・)。

今般の「関心の薄れ」をスタートラインとしてどのように策を講じてゆくべきかを考える時期に来ていると思います。
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2024年04月15日

岸田従米内閣を乗り越えて自主独立の日本へ:キム・イルソン同志生誕記念

http://www.kcna.kp/jp/article/q/afd3fbcdfe899546778628a40c12ad3b.kcmsf
自主と正義、人類の未来に関するチュチェ思想国際討論会
【平壌4月15日発朝鮮中央通信】金日成主席の生誕112周年に際してチュチェ思想国際研究所と朝鮮社会科学者協会の共催によって自主と正義、人類の未来に関するチュチェ思想国際討論会が14日、朝鮮民主主義人民共和国の首都平壌で行われた。

(中略)
マッテオ・カルボネリ副理事長が基調報告を行った。

報告者は、一生、チュチェ思想を革命と建設にしっかり具現して朝鮮を自主、自立、自衛の社会主義国家に建設し、反帝・自主偉業の勝利的前進のために全てをささげた金日成主席と金正日国防委員長の不滅の業績を熱烈にたたえた。

また、偉大な金日成・金正日主義の本質を人民大衆第一主義に定式化し、全面的国家興隆の新時代を開き、国際的正義を実現するための進歩的人類の闘いを主導していく敬愛する金正恩総書記の偉人像を激賞した。

そして、最悪の逆境の中でも世人が驚嘆する奇跡を次々と生み出し、世界の唯一無二の一心団結の国、社会主義のとりで、名実相伴う強国として尊厳と地位を世界にとどろかしている朝鮮の姿は世界の革命的人民に大きな信念と勇気を与えていると強調した。

さらに、チュチェ思想に対する信奉熱気は世界的範囲で一層強烈になっていると述べ、偉大な時代思想が指し示す道に沿って反帝・自主勢力が団結した力をもって進む時、世界の自主化偉業の勝利は早められるであろうと確言した。

(中略)
各討論者は、自主だけが民族が生きる道であり、国が繁栄することのできる道であるということは歴史が証明した真理であると言い、自主性を堅持してこそ民族の真の尊厳も、次世代の幸せな未来も保証されると述べた。

また、自主と平和、友好の理念の下で正義を志向する全ての国との連帯を強化して国際舞台で米帝と反動層の強権と専横を制圧する闘争の雰囲気をさらに高調させていくのは反帝・自主勢力を強化するための重要な方途の一つであるということについて一致して肯定した。

各討論者は、チュチェ思想の研究・普及活動を全世界的範囲でより積極的に展開していくという意志を披歴した。

討論会では、敬愛する金正恩総書記に送る書簡が採択された。−−−

www.kcna.kp (チュチェ113.4.15.)
今日は4月15日、偉大な首領:キム・イルソン同志の生誕記念日です!

首領様の業績は数多ありますが、その最大級の業績のひとつとして偉大なチュチェ思想の創始があることは間違いのないことと考えます。上掲記事にもあるとおり、「朝鮮を自主、自立、自衛の社会主義国家に建設」なさったことは不滅の功績であります。冷戦期、朝鮮民主主義人民共和国は西側諸国との関係においてはソ連や中国などと概ね足並みをそろえてきましたが、しかし、東欧諸国がソ連に服従していたのとは決定的に異なり、朝鮮民主主義民主主義共和国は、東側陣営に属しつつも決して大国に平伏すことなく、あくまでも自主独立路線を歩んできました

朝鮮民主主義人民共和国が今日も自主の旗印を高く掲げつづけられる確固たる思想的支柱を生涯をかけて構築なさった偉大な首領様。とりわけ、ご立派な理論に基づく演繹的方法で構築された思想ではなく、実践すなわち事実から出発することによる帰納的方法で構築された思想である点に当ブログは、チュチェ思想の生命力があると考えます。そしてその生命力は、米欧帝国主義諸国の覇権が日を追うごとに揺るぎつつある今日では、ますます輝いていると言えるでしょう。

翻って我らがニッポン。先般、岸田文雄総理大臣はアメリカ様を訪問し、恥も外聞もない媚び諂い:全面的隷属の姿を全世界に見せつけました。仮に日本がアメリカと「自由と民主主義」なる価値観を完全に共有しているとしても、日本は日本なりに自分自身の思索と責任において「自由と民主主義」を解釈し、己が信じる道に従って外交を展開する(場合によってはアメリカの解釈と異なることもあり得る)と宣言すべきところ、アメリカと完全に足並みを揃えると言明してしまいました。岸田文雄という人物の辞書には「自主」という言葉は収録されていないようです。

無理もないでしょう。自民党の政党支持率は依然として他党を引き離して高水準を維持していますが、岸田内閣の支持率は危険水準に達しています。総理大臣たることが政治家としての目的であると見なさざるを得ない岸田総理(※)が、自民党の政党支持率が依然として他党を引き離して高水準を維持しているからといって満足・安心はしないでしょう。そのわりに内閣支持率浮上のために施策を展開しているようには見えません。どうも岸田総理に危機感が感じられないのです。

※安倍元総理や菅前総理を見るに、彼らは曲がりなりにも「自分の内閣でやりたいこと」がありました。新型コロナウイルス禍で尻切れトンボになってしまいましたが、政権末期まで「やりたいこと」は一応掲げられていたものです。これに対して岸田総理は就任当初に「新しい資本主義」なる御題目を唱え、最近も「新しい資本主義実現会議」を開いてはいるようですが、まるで話題にならないし、自分から話題にしようという意欲も感じられません。総理大臣として何がしたいのかまったく不明なのが岸田文雄という人物であり、彼をカシラとする岸田内閣であると言わざるを得ません。

おそらく岸田総理は、アレコレ施策を展開する必要がないと考えているのでしょう。その理由は、アメリカの信任があるからに他ならないでしょう。防衛費総額43兆円支出という大盤振る舞いを打ち出せば、アメリカ様は評価なさるでしょう。アメリカ様の信任がある限りは、世論の歓心を買うための国内政策に奔走せずとも自分の地位は安泰だという目論見があるものと考えられます(定額減税なるケチ臭いことで世論の歓心を買えると思っているとは、いくら何でも考えにくいものです)。まさに「自分の、自分による、自分のための政治」――これが岸田政治であり、岸田従米内閣の本質であると考えます。従米姿勢は自分の地位保全のための戦略に過ぎないのです。

当ブログは、チュチェ思想を指針として日本の自主化を目指す立場を取っています。日本が当面の間、西側諸国に属し続けることは、政治的・経済的・軍事的・思想的な現実を鑑みるに致し方ないことであると言わざるを得ません。しかしながら、自主独立路線に少しでも近づくべく努力しなければならないと考えます。旧東側陣営の確固たる一員でありつつも自主独立路線を徹底したキム・イルソン同志の施政をいまこそ見習い、岸田従米内閣を乗り越えて自主独立の日本を一日も早く実現する必要があります。
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2024年04月12日

ナワリヌイ氏を担ぎ上げた米欧諸国の手詰まり、日本メディアの深刻な手詰まり

4月8日づけ「中途半端な結果に終わった日本における反プーチンプロパガンダ」の関連として、引き続きロシア内政に関する日本メディアの報道について。

先般のロシア大統領選挙は現職であるプーチン氏の圧勝に終わりました。このことについては、西側諸国の「金魚のフン」として一緒になって反ロ・反プーチンプロパガンダを展開してきたNHKさえも「かなりの部分が(プーチン氏に対する)消極的な支持に向かったことが考えられる」と認めざるを得ない(「【詳報】ロシア大統領選 プーチン氏圧勝 “過去最高の得票率”」2024年3月19日 3時51分)ほどの結果でした。

反ロ・反プーチンプロパガンダといえば、先日のアレクセイ・ナワリヌイ氏の死を巡っても激しく展開されたものでした。今回は遅ればせながらナワリヌイ氏の死にかかる日本メディアの報道について取り上げたいと思います。

■36都市で計401人しか拘束されなかったのに「異例の広がり」と書き立てる時事通信
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024021800336
ナワリヌイ氏追悼、拘束400人超 「抗議」異例の広がり―ロシア
2024年02月18日20時40分配信

 獄死したロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏を追悼する動きは18日も続き、人権団体OVDインフォによると、16日からの拘束者は36都市の計401人に上った。北西部サンクトペテルブルクでは、祈りをささげようとした正教会の神父が17日に拘束された。

(以下略)
36都市で計401人ということは、算数の問題として、1都市あたり10人強ということになります。単純比較はできないでしょうが、日本において10人程度の政治イベントと言うと専ら、当事者と警備・誘導の警察官以外は誰一人として注目していないイベントです。騒ぎがあれば直ちに覚知できる程度の距離に交番等が配置されている場合、警察官も現地立ち合いはしていないことも十分にあり得るレベル。新聞の地方版に載るかどうかのレベルのイベントです。

その程度の出来事を「「抗議」異例の広がり」などとする時事通信。ソ連解体の道筋を決定づけた8月クーデター未遂直後の大衆行動と比べると、あまりにもショボい。こんなことしか書き立てられないということは、プーチン政権の盤石さを逆に示すものであるとも言えるでしょう。

■なんだかんだで世論に多様性がある米欧諸国、非常に一面的な日本メディア
https://news.yahoo.co.jp/articles/f1cf00f5e44d2ab59e714f30384e184139c12705
欧米はなぜもてはやすのか? 「ロシア反体制派のヒーロー」ナワリヌイの正体
2/28(水) 16:50配信
ニューズウィーク日本版

<非ロシア人に対する人種差別的発言を繰り返したアレクセイ・ナワリヌイが、欧米で英雄視されるフシギ。もしアメリカ人が同じような主張をしたら一発アウトなはずなのに......>
私がモスクワ以外で最後に訪れたロシアの地域はヤマロ・ネネツ自治管区だった。あまりの寒さに鼻と口が凍り、息もできないほどだった。反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイが文字どおり息絶えたのもここだ。【サム・ポトリッキオ(米ジョージタウン大学教授)】

チャーチルはロシアを「謎の中の謎に包まれた謎」と呼んだ。それが本当なら、ナワリヌイは祖国を代表する人物だったことになる。私が教えている米ジョージタウン大学の昨年の卒業式で、ナワリヌイの娘が卒業スピーチの話者に選ばれたとき、ウクライナ人から激しい抗議があった。

ナワリヌイはロシアのクリミア併合を支持し、非ロシア人に対する人種差別的な発言を繰り返し、ロシア人とベラルーシ人、ウクライナ人は同じ民族だという反歴史的な偽りの主張もした。人種差別を理由にロシアのリベラル政党から追放されたこともある。

欧米の識者は「昔の話だ」のひと言で片付けるが、もしアメリカ人が同じような主張をしたら、たとえ過去の話でも一生批判を浴び続けるはずだ。人種差別的なナショナリズムを主張していた過去がありながら、欧米ではもてはやされる――。

この矛盾について私が数年前まで教えていたロシア国家経済・公共政策大統領アカデミーの教え子たちは、チャーチルと同様のロシアに対する無理解の典型だと言った。ロシアの平均的な有権者にナワリヌイについて尋ねれば、おそらく話すのも時間の無駄だと答えるはずだ。「得票率5%がせいぜいの政治家だろう?」と。

(以下略)
かつて米欧諸国は、ビルマ民主化運動のリーダーとしてアウンサンスーチー氏を担ぎ上げて大失敗しました。8888民主化運動の終盤に彗星の如く現れまではずっと国外に拠点を置いて主に学術研究していた彼女。帰国後は早々に軍事政権によって断続的に長期間にわたって自宅軟禁されてきたため、カリスマ性ばかりが先行して政治的組織指導力はまったく未知のものでしたが、いざ政治権力を掌握するや、とりわけロヒンギャ問題において驚くほどの指導力のなさを曝け出したものでした。

当時ビルマで権力を握っていたネ・ウィン政権は、ビルマ式社会主義の名のもとに「鎖国政策」といっても過言ではない政策を執っていました。とりわけ旧宗主国であるイギリスの影響については、その排除が徹底的に図られていました。また、ネ・ウィン政権の支持基盤は、軍部という高度に組織化された団体でした。つまり、米欧諸国はビルマ政治に付け入る機会を有していなかったわけです。

ビルマ建国の父であるアウンサン将軍の娘でありイギリス・オックスフォード大学への留学歴があるアウンサンスーチー氏の経歴は、米欧諸国にしてみればリーダーとして担ぎ上げるのに打ってつけだったのでしょうが、このことは裏を返せば、「当時、担ぎ上げられる人材が著しく不足していた」ことを示していると言えます。さすがに他に人材がいれば、いくらアウンサン将軍の娘だからといって政治経験ゼロの人物を一気にリーダーとして担ぎ上げはしなかったでしょう。

これと比するに今般のナワリヌイ氏の担ぎ上げは、アウンサンスーチー氏を担ぎ上げたとき以上に人材不足が顕著であると言わざるを得ないでしょう。「もしアメリカ人が同じような主張をしたら、たとえ過去の話でも一生批判を浴び続けるはず」である大妄言を口にした上に、「得票率5%がせいぜいの政治家」に過ぎない人物を担ぎあげたわけですから。ナワリヌイ氏のような人物を担ぎ上げざるを得ないほどに米欧諸国はロシアに付け入る隙を持てておらず、深刻な手詰まりに陥っているわけです。

他方、こういう記事が出てくることはポジティブに捉えてよいと思います。米欧諸国は、なんだかんだで世論に多様性があるわけです。これに対して日本メディアにおけるナワリヌイ氏の扱いは非常に一面的であります。

「日経スペシャル 60秒で学べるNews」という番組(テレビ東京系)がありました。「ありました」と言いますのは、今春の番組改編で3月6日を以って放送終了になったからです。他番組と比べて一足早く最終回を迎えた(打ち切り?)当該番組は、結局のところ、テレビ朝日系のいわゆる「池上解説」の真似事のような中途半端な番組だったというのが視聴者としての私の評価ですが、最終回の最後のネタがナワリヌイ氏の死についてでした。

番組は、アレクセイ・ナワリヌイという人物の人となりとその政治活動をおさらい的に紹介するところから話を始めたのですが、彼を「正義の反体制指導者」として描写。ナワリヌイ氏にインタビュー経験がある古川英治氏(日経新聞元記者)の「信念に基づいて正義・正論を語るナワリヌイのような人物は、プーチン氏からすれば虫唾が走るような存在だ」という発言が放映されました。

単純に、自分たちが私腹を肥やしている実態を暴こうとするナワリヌイ氏の存在がプーチン政権の権力者たちにとって都合が悪いだけなのでは・・・NHKの大河ドラマや各種時代劇でさえ経済的利権をめぐる権力者の腐敗が台本に盛り込まれているというのに、「ナワリヌイ氏はプーチン氏からすれば虫唾が走るような存在」という理由付けでは、まるで古代中国の英雄豪傑物語のレベルであると言わざるを得ません

この番組は、ワールドビジネスサテライト(WBS)直前の放送枠を割り当てられており、かつ、「日経スペシャル」と前置きされている番組であるにもかかわらず「ガイアの夜明け」や「カンブリア宮殿」と比べるとあまりにも短命(1年半で終了)に終わりました。無理もないように思われます。WBS等の視聴者層は古代中国の英雄豪傑物語のような程度の低い解説で満足するわけがなく、英雄豪傑物語のレベルの解説で満足するような層がWBS等の経済番組を見ようとは思わないでしょう。

続いて番組は「彼の死はロシアにどんな影響を及ぼすのか」としつつ「ナワリヌイ氏が死んでもロシアは変わらないのか?」という問いを立て、番組の核心である「60秒解説」としてテレビ東京元モスクワ支局長である豊島晋作氏のそれを放映しました(この番組は、経緯や周辺知識のおさらいに10分以上掛けた上で核心部分の解説を60秒間で行うという構成であり、本当に話題のニュースを60秒だけで学べるわけではありません)。豊島氏の解説の要点は次のとおりです――「プーチン大統領は裏切りや反抗を許さない人物であり、それゆえ今まで暗殺疑惑が絶えなかった。今回、ナワリヌイ氏が死亡したことで反プーチンのカリスマはいなくなった。なぜ暗殺疑惑が絶えないのかというと、プーチン大統領は「すぐみんな忘れる」と思っているからだ。ロシアで反体制派が怪死しても国際社会の反応が弱過ぎるので、プーチン大統領に対する歯止めになっていないのだ。今回ナワリヌイ氏が死亡したことで、彼はプーチン氏が最も避けたがっていた「英雄」になった。20年後・30年後にもしロシアが民主国家になったときには、歴史の教科書はナワリヌイ氏を評価するかも知れない」。

ナワリヌイ氏を「正義の反体制指導者」として聖人化する点、古川英治氏のように現実の政治的出来事を個人的な好き嫌いの次元に還元して「解説」する極端な単純化(「池上解説」の真似事としての当該番組の本質をよくあらわしています)、合理的見通しに立脚しない「歴史への逃避」――典型的な手口が60秒間に詰め込まれています。

なお、「今回ナワリヌイ氏が死亡したことで、彼はプーチン氏が最も避けたがっていた「英雄」になった」という理解は、古川英治氏がナワリヌイ氏に「なぜあなたは殺されていないのか」とインタビューで質問したときに、ナワリヌイ氏が「プーチンは、オレが死んで英雄(殉教者?)になるのを嫌がっているから殺されていないのだ」と答えたことによるものだそうです。つまり、プーチン大統領が自らそう言ったり、そういう素振りを見せたり、あるいは側近が代弁したりしたわけではなく、ナワリヌイ氏が個人的にそう思っているに過ぎないものです。これではナワリヌイ氏が「なぜか生かされてきた」ことの理由・根拠にはならないでしょう。そもそも、またしてもニューズウィークの記事に戻りますが、「得票率5%がせいぜいの政治家」が死して英雄になり得るのか非常に疑問です。

ちなみに、ナワリヌイ氏の死がもし暗殺によるものだとすれば、大統領選挙直前に殺すことは正にナワリヌイ氏が殉教者と化し、反プーチン勢力の結束を高めることになるように思われます。彼の死が暗殺によるものなのか否かは私にはまったく分かりませんが、少なくとも「ナワリヌイ氏を殺すことで彼が殉教者と化することを懸念したプーチン大統領が敢えて生かしている」というナワリヌイ氏の自己理解は、彼のこのタイミングでの死を以って線として消えたのではないかと考えます。

合理的見通しに立脚しない「歴史への逃避」について説明しておきたいと思います。以前にも論じましたが、誰も未来のことを確定的に語ることはできないので、具体的な期日や期間の指定もなくただ漠然と「可能性」を述べるだけであれば、どんなことでもあり得るでしょう。己の願望に対して否定的な兆候・事実がどれだけ発生しようとも、漠然とした「未来」について語るのであれば、「これは一時的・例外的事象に過ぎない」などと、ひたすら言い逃れることが可能になります。また、豊島氏の「20年後・30年後にもしロシアが民主国家になったときには・・・」という仮定においては、いったいどういうキッカケがあればロシアが「民主国家」に転じ得るのか、それとナワリヌイ氏とがどのような関係があるのか、そもそもここでいう「民主国家」とは何を指すものなのかがまったく見えてきません。実現可能性の乏しい願望を「歴史」に託す豊島氏の姿勢は「歴史への逃避」と言わざるを得ないものです。

米欧諸国の深刻な手詰まりについては前述しましたが、日本は、とくにメディアがそれとは違う意味で深刻な手詰まりに陥っていると言わざるを得ないように思われます。
ラベル:メディア
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2024年04月08日

中途半端な結果に終わった日本における反プーチンプロパガンダ

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240320/k10014396911000.html
ロシア大統領選 在外投票では異なる傾向 国外有権者抗議意思か
2024年3月20日 15時14分

ロシアで行われた大統領選挙では、プーチン大統領が90%近い得票率で圧勝しましたが、ヨーロッパなど世界各地で行われた在外投票では異なる傾向が見られ、情報の統制がない国外に住むロシア人の有権者が、プーチン政権への抗議の意思を示したことも背景にあるとみられます。

今回のロシア大統領選挙で、プーチン大統領は87.28%の得票率で圧勝しましたが、ロシア政府によりますと、144の国と地域で行われた在外投票では得票率は72.3%でした。

このうちG7=主要7か国の首都で行われた在外投票に限ると、プーチン氏の得票率はより低くなっていて、イギリスのロンドンでは21.05%、東京では44.1%、イタリアのローマでは61.73%などとなりました。

一方、ロシアとの関係を強化している中国の北京では67.35%と西側諸国より高くなっています。

(中略)
在外投票で異なる傾向が見られた背景には、ロシア国内で言論弾圧や情報の統制が強まる中、こうした制約が小さい国外に住むロシア人の有権者がプーチン政権への抗議の意思を示したこともあるとみられます。
少し古いニュースになりますが、ロシア大統領選挙でのプーチン氏の得票率についての記事。ロシア国内でのプーチン氏の得票率が87.28%にも上ることについては、「国営メディア等が垂れ流すプロパガンダの賜物」という説明が人口に膾炙していますが、そうだとすると、東京やローマと比べてもあまりにも低過ぎるイギリス・ロンドンにおけるプーチン氏の得票率(21.05%)についても、イギリスにおける反露プロパガンダの激しさを示すものであると言わざるを得ないでしょう。

在外投票で異なる傾向が見られた背景には、ロシア国内で言論弾圧や情報の統制が強まる中、こうした制約が小さい国外に住むロシア人の有権者がプーチン政権への抗議の意思を示したこともある」などとするNHKですが、ロンドン、東京そしてローマの各都市でのプーチン氏の得票率がそれぞれあまりにも懸け離れていることは、「ロシア国外ではプーチン政権による言論弾圧・情報統制の制約の小さいから」では説明できないでしょう。

厳密に相関関係を測定したわけではありませんが、今回のロシア大統領選挙でのプーチン氏の得票率は、その国や地域におけるプロパガンダの強弱と関係があると仮説を立てることができそうです。

記事によると、プーチン氏の得票率は次のとおりということです。

 イギリス・ロンドン:21.05%
 中国・北京:67.35%
 イタリア・ローマ:61.73%
 日本・東京:44.1%

ここで注目したいのは、東京でのプーチン氏の得票率。イギリスは、ロシアの大地に存在する政権をその国是・体制に関わらず常に敵視してきたところですが、その首都であるロンドンにおける反露プロパガンダの激しさは前述のとおり非常に容易に想像できるもの。この点、当ブログでも継続的に取り上げてきたとおり、日本もNHKが一所懸命にプロパガンダを展開してきましたが、その割には44.1%という、ローマほどではないがロンドンには遥かに及ばない「中途半端」と言わざるを得ない結果に留まっています。50%割れに追い込んだのは、NHKにはせめてもの慰めになるのでしょうか?
ラベル:メディア
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