2024年05月21日

選挙軽視の日本精神・日本的世界観について

https://news.yahoo.co.jp/articles/b2b1e2aa2c695a8e4637050c602018304bd4e95f
ゼレンスキー氏、大統領任期が満了 選挙先送りで「正統性」論争も
5/19(日) 13:42配信
毎日新聞

 ウクライナのゼレンスキー大統領は20日、2019年から5年間の任期の満了日を迎える。ロシアの侵攻が続く中で、今年3月に実施予定だった大統領選は先送りされ、実施のめどは立っていない。ゼレンスキー氏は暫定大統領として職務を続ける見通しだが、その「正統性」が論争となっている。

(以下略)
コメント欄。
JSF
軍事/生き物ライター
解説

ウクライナ法「戒厳令の法制度について」の第11条「戒厳令下のウクライナ大統領の活動」の3「戒厳令中にウクライナ大統領の任期が満了した場合、その権限は、戒厳令解除後に選出された新たなウクライナ大統領が就任するまで延長される。」

よって、法制度上はゼレンスキー大統領が任期満了後も戒厳令が続く限り続投しても何も問題がありません。正当性論争はロシアが流した言い掛かりのプロパガンダに過ぎず、相手にする必要が無いのです
なるほど。ウクライナ法の条文上は確かにそのとおりなのでしょう。ではなぜ、ウクライナのパトロンである米欧諸国は「ウクライナの民主主義を示すべき」として大統領選挙の実施を働きかけたのでしょうか?(「ゼレンスキー氏、来春の大統領選延期を示唆 「適切な時期ではない」」毎日新聞 2023/11/8 05:10)

これは、「たとえ戦時下でも選挙を行うべきだ」というほどに米欧諸国にとっては選挙が政治的な正統性の確保において重要なのだということに由来しているでしょう。王権神授説を社会契約説に転換することで成立した米欧諸国の現体制。選挙こそが政権の正統性の源泉です。とりわけ、「民主主義と権威主義との戦い」なる構図をロシアのウクライナ侵攻に当て嵌めている米欧諸国としては、先に大統領選挙を実施したロシアとの対立軸を鮮明化するためには、ウクライナにおいてもロシアでのそれを上回るレベルの「民主」的な選挙を行う必要があるわけです。

よって、法制度上はゼレンスキー大統領が任期満了後も戒厳令が続く限り続投しても何も問題がありません。正当性論争はロシアが流した言い掛かりのプロパガンダに過ぎず、相手にする必要が無い」と言い放ったJSF氏。「法律でこうなっている」と言えばどんなに理不尽な規定でもスゴスゴと引き下がる日本人の典型的な、国際感覚からズレた反応のサンプルであるように思われます。

ところで、王権神授説から社会契約説への思想革命の意義は、政治権力の正統性の源泉を生身の人間に求めたところにあると言えます。社会契約に基づいて形成された秩序である法が人間同士の社会的関係を規定していますが、このことはすなわち、人間同士の社会的関係は、生身の人間自身によって規定されることを意味します。

山本栄二『北朝鮮外交回顧録』筑摩書房(2022)のp29によると、金丸訪朝団に対して首領様は「第十八富士丸の問題については、よくわかりました。法は人間が作るものです。協議すれば解決できると思う。お二人を満足させることができると思う」とおっしゃったとのこと。また、同書p23によると、キム・ヨンスン同志は、外交「慣例」を墨守せんとする日本外務省の姿勢について「国際法、法律は国と国との関係を発展させるためにある。法律に従属させられたら困る。とりあえず善意を見せる何らかが必要である」と述べたそうです。首領様が創始なさったチュチェ思想は「人間があらゆるものの主人であり、すべてを決定する」という哲学的原理に立脚しています。なお、同書によると金丸氏は概ね共和国側の主張・立場に同感だったそう。「お利口さん」が増えた今日、金丸氏のような胆力のある政治家はもう日本には現れないでしょうね。

チュチェ思想の社会政治的生命体論と米欧流の社会契約説はもちろん大きく異なるものです。しかし、生身の人間が目下直面した課題を解決するために柔軟な対応を必要としているときに、過去に直面した必要性によって作り置きしておいたモノに過ぎない「法」を金科玉条のごとく守ることを要求し、結果として法によって生身の人間が苦しむという本末転倒を平気で行う日本精神との対比においては、チュチェ思想の社会政治的生命体論と米欧流の社会契約説は「生身の人間中心」という点において通ずるものがあるように思われます

チュチェ思想派として当ブログは、生身の人間を中心にして世界に対応するという観点が日本精神には些か不足していると考えます。自然と人間を対立構図にせず一体的に把握する日本的世界観は、米欧的世界観と対比するに、ある局面においては有用なこともありますが、こういう場合には生身の人間を中心にすることを貫徹できない点において、著しい不足が顕わになると考えます。
posted by 管理者 at 23:39| Comment(6) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする