2024年06月30日

反帝自主闘争の歴史に新たな一ページ:歴史的な朝ロ包括的戦略的パートナーシップ条約の締結について

https://chosonsinbo.com/jp/2024/06/20sk-33/
朝ロ間の包括的かつ戦略的なパートナーシップに関する条約
2024年06月20日 17:48
対外・国際

朝鮮中央通信によると、金正恩総書記とロシアのウラジーミル・V・プーチン大統領が6月19日、「朝鮮民主主義人民共和国とロシア連邦間の包括的かつ戦略的なパートナーシップに関する条約」にサインした。

条約によると、双方は、自国の法と国際的義務を考慮して、国家主権に対する相互尊重と領土の不可侵、内政不干渉、平等の原則、そして国家間の友好関係および協力に関連するその他の国際法的原則に基づいた包括的かつ戦略的なパートナーシップを恒久的に維持し、発展させる。

双方は、最高位級会談をはじめとする対話と協商を通じて二国間関係問題と相互関心事となる国際問題に対する意見を交換し、国際舞台で共同歩調と協力を強化する。

双方は、全地球的な戦略的安定と公正で平等な新しい国際秩序の樹立を志向し、互いに緊密な意思疎通を維持し、戦略的・戦術的協同を強化する。

双方のうち、一方に対する武力侵略行為が強行されうる直接的な脅威が生じる場合、双方は一方の要求に従って互いの立場を調律し、当面の脅威を除去することに協力を相互提供するための可能な実践的措置に対して合意する目的で二国間協商ルートを遅滞なく稼働させる。

双方のうち、一方が個別的な国家、または複数の国家から武力侵攻を受けて戦争状態に瀕する場合、他方は国連憲章第51条と朝鮮民主主義人民共和国とロシア連邦の法に準じて遅滞なく自国が保有している全ての手段で軍事的およびその他の援助を提供する。

(中略)
双方は、戦争を防止し、地域的および国際的平和と安全を保障するための防衛能力を強化する目的の下、共同措置を取るための制度を設ける。

双方は、相互貿易量を増やすために努力し、税関、財政・金融などの分野においての経済協力に有利な条件を整え、1996年11月28日に採択された朝鮮民主主義人民共和国政府とロシア連邦政府間の投資奨励および相互保護に関する協定に従って相互投資を奨励し、保護する。

双方は、朝鮮民主主義人民共和国とロシア連邦の特別、または自由経済地帯とそのような地帯に関与した団体に協力を提供する。

双方は、宇宙、生物、平和的原子力、人工知能、情報技術など各分野を含んで科学技術分野において交流と協力を発展させ、共同研究を積極的に奨励する。

双方は、総合的な二国間関係の拡大における特別な重要性から出発して相互関心事となる分野での地域間および辺境協力・発展を支持する。

双方は、朝鮮民主主義人民共和国とロシア連邦の地域間の直接的な連携の樹立に有利な条件を整え、企業フォーラム、討論会、展示会、商品展覧会をはじめとする地域間の共同行事を行う方法などで地域の経済および投資潜在力に対する相互理解を促進する。

双方は、農業、教育、保健、スポーツ、文化、観光などの分野における交流と協力を強化し、環境保護、自然災害防止および悪結果の除去分野で相互協力する。

(以下略)
■反帝自主闘争の歴史に新たな一ページが刻まれた
ロシアのプーチン大統領がピョンヤンを訪問し、キム・ジョンウン同志と会談。歴史的な朝ロ包括的戦略的パートナーシップ条約が締結されました。反帝自主闘争の歴史に新たな一ページが刻まれた画期的出来事であると考えます

プーチン大統領の訪朝に先立ち、6月18日づけ『労働新聞』は、1面上段掲載の社説(《《로동신문》사설 《로씨야련방 대통령 울라지미르 뿌찐동지를 열렬히 환영한다》》 2024년 06월 18일 09:14)で《조로인민의 선린우호관계는 공동의 원쑤를 격멸하는 투쟁과정에 전투적우의와 혈연의 뉴대로 굳게 맺어진 두 나라 혁명선렬들의 단결과 협조에 그 력사적뿌리를 두고있다.》としつつ《조로 두 나라는 주권적권리와 안전환경을 엄중히 위협하고 해치려는 미국과 그 추종세력들의 무분별한 책동에 대처하여 자위력강화에 힘을 넣으면서 협력과 의사소통, 전투적련대성을 강화하고있다.두 나라의 굳건한 단결력에 의해 세계제패를 노린 적대세력들의 악랄한 책동들은 강력히 억제당하고있다.》とした上で《두 나라 인민들사이의 깊어지는 친선과 동지적관계는 국제평화와 안전을 수호하고 다극화된 새 세계건설을 다그치는데서 믿음직한 전략적보루로, 견인기로 되고있다.》とか《우리 인민은 자주와 국제적정의를 수호하는 공동전선에서 로씨야인민과 같은 미더운 전우, 동지와 어깨겯고 싸우는것을 긍지로 여기고있다.》と指摘していました。

また1面下段ではプーチン大統領の談話が掲載(《로씨야와 조선:년대를 이어가는 친선과 협조의 전통/뿌찐대통령이 조선방문을 앞두고 글을 발표》 2024년 06월 18일 06:26)。ここでプーチン大統領は《또한 우리는 국제관계를 더욱 민주주의적이고 안정적인 관계로 만들기 위하여 밀접하게 협조할 용의가 있습니다.이를 위하여 우리는 서방의 통제를 받지 않는 무역 및 호상결제체계를 발전시키고 일방적인 비합법적제한조치들을 공동으로 반대해나갈것입니다.또한 이와 함께 유라시아에서 평등하고 불가분리적인 안전구조를 건설해나갈것입니다.》としています。共和国を持ち上げているのだとは思いますが、《우리는 조선민주주의인민공화국 인민들이 어떤 힘과 존엄,용감성을 지니고 자기의 자유와 자주권,민족적전통들을 지켜 싸우는가를 보고있습니다.》とも述べています。

ここで是非とも注目したいのはプーチン大統領の《서방의 통제를 받지 않는 무역 및 호상결제체계를 발전시키고 일방적인 비합법적제한조치들을 공동으로 반대해나갈것입니다.》(西側の統制を受けない貿易および相互決済システムを発展させ、一方的な非合法的な制限措置に共同で反対していきます)という発言です。

アメリカ帝国が世界最強でいられるのは、自国通貨であるドルが国際決済で広く使われている点に一つの要因があります。しかし、アメリカ一強体制は、自然発生的ながら確実に崩れつつあります

たとえば、ひと昔前であればアメリカがその気になれば他国の経済基盤破壊など赤子の手を捻るが如きことだったのに、いまやロシア一国をも窒息させることはできていません。ロシアがウクライナに侵攻しアメリカを中心とする西側諸国が金融封鎖をした直後、日本メディアは「金融制裁によってロシアでインフレが止まらない! 庶民生活崩壊! ロシア経済崩壊!!」という画を撮ろうとロシア国内のスーパーマーケットなどを駆け回りましたが、結局、いい題材は見つからずじまい。いまも「アイツは死後きっと地獄に落ちるに違いない」と大して変わらないレベルの「長期的にはロシア経済は・・・」という「分析」が精々のものになっています(経済学的な意味での長期なんて、様々な要素が移ろい変わっていくんだから、今の時点では何とも言えないでしょうに)。

また先般、ウクライナのゼレンスキー大統領が提唱する「平和の公式」に沿った「平和サミット」がスイスで開催されましたが非常にお寒い結果に終わりました。共同声明の採択を優先するために内容を絞ったにもかかわらず、それでも共同声明を支持しない国が続出したからです。いわゆるグローバル・サウスの国々を中心に、米欧側でもなくロシア側でもない国が相当数あります。これらの国々は、豊かな天然資源や農業生産力、工業生産力を基盤とするロシアとの関係性も重視しているとされます。依然としてアメリカは国際金融の覇権を握っているが、それはかつてのような絶対的な強みではなくなっているのです

プーチン大統領による今回の談話の当該部分は、アメリカ一強が自然発生的ながらも確実に崩れつつある中で、アメリカが持つ権力の源泉を突き崩さんとする目的意識的な宣言であると位置づけることができます。そしてそれは、豊かな天然資源や農業生産力そして工業生産力に依拠することで国際金融における覇権を握るアメリカの金融封鎖の中でも窒息していないロシアの現況を見るに、決して実現可能性のない願望ではありません

今回、朝ロ両国が締結した画期的な条約は、安全保障上の協力だけでなく金融・経済上の協力についても盛り込まれています。アメリカの国際金融覇権を突き崩すことは一筋縄ではいかない難題であり過度な楽観視は厳に慎まなければなりませんが、しかしいま、世界は時代の転換点に来ていると言えると考えます

このように考えたとき、今般の朝ロ両国の接近が西側帝国主義諸国という共通の敵との闘争構図の中に位置づけられるもの、つまり、反帝自主闘争の歴史の新たな一ページであることがよく分かるかと思います。正に《조로관계는 변화된 환경에 맞게 확실한 정치적, 법적담보를 가지고 새로운 발전궤도에 올라설수 있게 되였다.》というわけです。

■朝ロ接近の衝撃を何とか矮小化しようとしている?
朝ロ包括的戦略的パートナーシップ条約に関する反応を幾つか見ておきましょう。

分析と集約に時間が掛かってしまったので元記事が削除されてしまったのですが、朝鮮半島情勢について色々口をはさむ割には、あまり朝鮮のことを分かっていない山口亮・東京大学先端科学技術研究センター特任助教(防衛政策専門)の言説をまず取り上げましょう。彼のYahooの個人ページからアクセスしてください。
https://news.yahoo.co.jp/profile/commentator/yamaguchiryo
山口亮
6/20(木) 7:28
補足
この「包括的戦略パートナシップ」は同盟に近いものではあるが、日米・米韓同盟ほど深く密接したものではない。安全保障の面においても、朝露は相互を「支援」するとのことだが、実際にどこまで体を張ってお互いを「守る」かは不明であり、軍事技術においても、本記事の通り「可能性」に留めている。このため、この「包括的戦略パートナーシップ」はどちらかというと、お互いを都合よく、打算的に利用する関係を約束したものである。
この「包括的戦略パートナシップ」は同盟に近いものではあるが、日米・米韓同盟ほど深く密接したものではない」とする彼の言説は、おそらく駐日アメリカ大使こと日本総督であるラーム・エマニュエル氏が昨冬語った「お言葉」を踏まえてのものでしょう。彼は近頃、総督様の発言を踏まえて優等生っぷりをアピールしつつ、あちこちでこのような発言を繰り返して溜飲を下げているようですが、それだけ朝ロの接近を内心では苦々しく思っているのでしょう

エマニュエル発言について当ブログは昨年12月8日づけ「日本「国」が精神的に独立した大人にならない限り、そして韓「国」が事大主義精神から脱しない限り、アメリカの思想的覇権が揺らぐことはないだろう」で批判したところです。すなわち、「対等な独立国家どうしなのだから当たり前」。むしろ、状況に合わせて合従連衡できるということは、それだけ自国が自主的であり独立的である証拠だとさえ言えると考えます。

安全保障の面においても、朝露は相互を「支援」するとのことだが、実際にどこまで体を張ってお互いを「守る」かは不明」という主張については、元帥様がかつて言明されたとおり、共和国にとっての主敵は「特定の国家や勢力ではなく戦争そのもの」であります(「金正恩氏が演説「主敵は戦争そのもの」 国防力強化を正当化」2021年10月12日 13時30分)。今回の条約は、かつての朝ソ友好協力相互援助条約と似た条文だとされますが、山口氏が言うとおり実際の運用がどうなるのかはまだ分かりません。朝ソ条約のような強固な条約になるのか否かは現時点ではわかりません。しかし、いま申し上げた観点から言えば、西側諸国をして「内実はよく分からないが脅威になりうる、何だか不気味なもの」と思わしめるだけでも十分な効果があるのです。

山口氏のコメントからは、朝ロ接近の衝撃を何とか矮小化しようという意図を見て取ることができます

■もっと反省が必要なのではないか――朝中ロ同盟の日も遠くない?
そんなことより、よりによってロシアと「北朝鮮」との接近を許してしまったことについて山口氏の立場からは猛省が必要なのではないでしょうか。

日本にとって朝ロ両国はいずれも仮想敵国ですが、それこそ山口氏が強調しているように必ずしも常に利害関係が一致している間柄ではありません。敵は必ず分割・分断して敵同士の連携を許さない――これは基本中の基本であるはず。朝ロ接近に楔を打つ程度にロシアとの独自の関係を築いておくべきだったところ、アメリカに盲従してロシアを完全なる敵としてしまった日本。グローバル・サウスの国々がいまそうしているように「ロシアのウクライナ侵攻自体は許容できず非難するが米欧諸国とも一線を画す」という独自のしたたかさが日本外交には必要でした。

いまガザ情勢を巡り国際社会の非難の声をよそにイスラエル全面支持の姿勢を鮮明にしているアメリカに対して、日本はそれとは一線を画す独自の立場を取っています。やればできるのです。ガザ情勢で発揮できた勇気をウクライナ情勢では発揮できなかったことが今日の事態を招いたわけです。

差し詰め、「今日のウクライナは、明日の台湾・沖縄」などとして対中国を念頭に置きすぎた、中国への対抗ばかりに気を取られていたがために朝ロ両国の接近を食い止めることができなかったのでしょう。「今日のウクライナは、明日の台湾・沖縄」というスローガンは、「ロシアのウクライナへの軍事的侵攻を許さない国際世論を醸成することが中国の台湾・沖縄への武力行使を防ぐためにも大切だ」という見立てに基づき、ロシアと徹底的に対決することで中国に対する「見せしめ」にすること意図していたのでしょうが、ロシアの国際的地位をナメていたと言わざるを得ません。

先般の「平和サミット」のお寒い結果が示しているとおり、国際社会は日本や米欧諸国の予想・期待に反する対応を見せています。日本や米欧諸国などがロシアを除け者にしても、それに追随する国は少数派であるわけです。こうした展開を先読みできなかったのがそもそもの間違いの発端でした。

そして、久しい以前からネット上ではロシアを「大きな北朝鮮」と揶揄する言説が散見されていますが、排除の論理で接すれば「大きな北朝鮮」と「小さな北朝鮮」が接近して「二つの北朝鮮」が生まれるのは容易に想像できるはずであるところ、外交の本番舞台で日本政府は、ネット世論のような対応をしてしまったわけです。

こうして日本政府は、ロシアの国際的地位をナメ、彼の国を「向こう側」に排除した結果、本来であれば分割・分断して連携させてはならない仮想敵国同士が強力なタッグを組むという最悪の展開を自ら引き起こしたわけです。

なお、「大きな北朝鮮」は中国を指すこともあります。このまま無反省であれば、「三つ目の北朝鮮」ができて日本が朝中ロ同盟に頭を抱える日もそう遠くはないかもしれません

■朝ロ同盟はアメリカとその追随者たちによる自国侵略を防ぐための共同戦線
続いて大韓民国紙『中央日報』の記事から。アンドレイ・ランコフ氏の筆であるようです。
https://news.livedoor.com/article/detail/26654765/
プーチン訪朝が歴史の転換点? 2018年「韓半島の春」のように忘れられるだろう
2024年6月23日 13時3分 中央日報

(中略)
筆者はこのような「画期的な変化」をもたらすと主張した事件を4〜5年ごとに1回ずつ見ているが、その中で長期的な結果を残した事件はひとつもない。最近の事例は2018年の「韓半島の春」(同年の南北首脳会談などの交流)だ。当時ソウルで韓半島はこれから永遠に違う道に進むという予測があふれた。しかしいま「韓半島の春」は忘れられてしまった。筆者が見るに、今回のプーチン氏の平壌(ピョンヤン)訪問も同様の事件、すなわちその時はとても騒がしいが数年以内に結果は特になく忘れられる事件だ。なぜそうなのか。

まず朝ロ双方は新しい条約で、侵略される場合に相互支援をするという条項を追加した。これは軍事同盟の復活だが特に新しいものではない。1961年に締結された朝ソ条約で同じ条項がすでにあったが、韓半島の状況に多くの影響を及ぼすことはできなかった。興味深いことに1968年のプエブロ号拉致事件当時、ソ連の外交官らは韓半島で戦争が勃発するならばソ連に参戦する義務はないという根拠を探した。外交官らはこの危機が北朝鮮の一方的行動のために起きたことを強調するならば危機に巻き込まれるのを回避できるという案を上部に報告した。

いまも似た状況ではないだろうか。核保有国になった北朝鮮を攻撃できる国は世界にひとつもない。反対に北朝鮮が隣国に対する侵略を敢行するならばロシアは状況によって支援することもでき支援できないこともある。北朝鮮を軍事的に支援する決定の有無は条約の内容と特に関係はない。こうした条項がなくてもロシアは自身の戦略のために北朝鮮が敢行する侵攻を支持すると決めるならば条約と関係なく北朝鮮を支援するためだ。

(以下略)
プエブロ号事件が発生した当時と現在とでは、まったく事情が異なるでしょう。

プエブロ号事件発生当時、朝ソの温度差はあまりにも明らかでした。

当時、共和国は祖国統一を熱望し武力によることも辞さない覚悟を示していました。何といっても分断国家としての兄弟国であるベトナム民主共和国(北ベトナム)が、ますます激しくなるベトナム戦争において英雄的な戦いを展開していた時期。当時首領様は、「失うものは軍事分界線、得るものは統一」と仰っていました。

他方、ソ連にとっては当時はキューバ危機を辛くも回避してデタントの流れの真っ最中。ソ連にとっては偶発的に発生したプエブロ号事件がデタントの流れに水を差すことを望んではいませんでした。

これに対して現在、朝ロ両国とも戦争はまったく望んでいません

共和国について言えば、上述のとおり「主敵は戦争そのもの」であります。今年に入ってからは、祖国統一に関連する語句を禁句化したり、「南朝鮮」ではなく「大韓民国」と呼称することで38度線以南を彼岸化したりすることで、赤化統一への無関心を表明しています。確かに先に元帥様は「朝鮮半島で戦争が起こる場合には、大韓民国を完全に占領、平定、収復し、共和国領域に編入させる」と仰っていました。しかしそれは、あくまでも「米国と南朝鮮の連中が、もしあくまでもわれわれとの軍事的対決をもくろもうとするなら、われわれの核戦争抑止力は躊躇(ちゅうちょ)せず重大な行動に移ると厳かに宣言する」という前提つきのもの(「朝鮮労働党中央委員会第8期第9回総会拡大会議に関する報道」2024年01月01日 08:29)。アメリカとその追随者たちが余計なことをしなければ現状が維持されるのです。

ロシアについて言えば、NATO加盟諸国との全面戦争に発展しないよう行動には細心の注意を払っています。もともと、今般のウクライナ侵攻の動機として彼は「NATOが軍備をさらに拡大し、ウクライナの領土を軍事的に開発し始めることは、私たちにとって受け入れがたい」と述べていたところ(「【演説全文】ウクライナ侵攻直前 プーチン大統領は何を語った?」2022年3月4日 18時25分)。「果たしてウクライナはロシアの縄張りなのか?」という根本的な問い(「特別軍事作戦」と称する今回の侵攻の正統性を根本から問うことになるので、ここでは論じません)は措いておくとして、これ以上の事態の拡大は望んでいないものと思われます

このように、プエブロ号事件発生当時の朝ソ両国の事情と現代の朝ロ両国の事情には大きな違いがあります。現在、朝ロ両国は「アメリカは寄るな来るな」という点において思いは一緒です。記事は、「核保有国になった北朝鮮を攻撃できる国は世界にひとつもない」としていますが、ならばB1やB2といった戦略爆撃機まで動員したり「斬首作戦」に投入されると言われる特殊部隊をも動員したりする米韓合同軍事演習は、いったい誰を標的としているのでしょうか? 

このように考えると、今回確立された朝ロ両国の同盟関係は、アメリカとその追随者たちによる自国侵略を防ぐための共同戦線であると言えるでしょう。

■世界は大韓民国中心に回っている?
記事は続いて次のように主張しています。
2番目に繰り返される話はロシアが北朝鮮に軍事技術を移転することにより韓半島で戦略的なバランスを破壊しかねないという主張だ。ロシアが北朝鮮に最新軍事技術を移転するのは完全に不可能なことではないが、可能性はそれほど高くない。基本的な理由はロシアの国益だ。
(中略)
ロシアが昨年、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長を宇宙センターに招待しミサイル技術移転の可能性を暗示したのは事実だ。このようにした理由は何より韓国に対する外交圧力手段だった。当時ロシアは韓国が対ウクライナ殺傷武器支援を開始するならばロシアも報復措置としてミサイル技術を北朝鮮にわたすことを暗示した。しかし韓国がウクライナに殺傷武器支援をしないため、ロシアがこうした報復措置をする必要があるようにはみえない。
(以下略)
ボストチヌイ宇宙基地への元帥様招待に、大韓民国のウクライナへの兵器支援に対する牽制球としての意味合いは勿論あったでしょう。しかし、それは決して主たる目的だったとは言えないでしょう。両国とも公式には否定していますが、やはり、数百万発とも言われる大量の砲弾をロシアはどうしても欲しかったのが主たる動機でしょう。

ウクライナ情勢において大韓民国は完全に脇役です。自分たち(大韓民国)中心で世界が回っているわけではありません。

■自分たちがブチ壊したのにこの言い草
記事のタイトルである「2018年「韓半島の春」のように忘れられるだろう」についても一言。

そもそも「韓半島の春」なるものは、過日にキム・ヨジョン同志が指摘したとおり、まったくそんなつもりのない大韓民国当局が「融和」を演出して共和国を油断させようとした非常に狡猾な謀略でした。自分たちがブチ壊したのに「2018年「韓半島の春」のように忘れられるだろう」という言い草には本当に驚きを禁じ得ません。
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2024年06月14日

元帥様が自らを現代共産主義運動の指導者であると宣言なさった朝鮮労働党中央幹部学校の開校式

http://www.kcna.kp/jp/article/q/7cae33059835339d4d51fadf17095bc9.kcmsf
朝鮮労働党中央幹部学校の開校式が盛大に行われる
金正恩総書記が意義深い記念の辞を述べ、初の講義を参観

【平壌6月2日発朝鮮中央通信】聖なる党創立理念と精神をしっかり継承してチュチェの偉業の洋々たる前途を頼もしく保証していくであろうわが党の中核幹部を育成する権威ある革命大学としての様相を最高の水準で備えた朝鮮労働党中央幹部学校が意義深い創立78周年を迎えて開校した。

朝鮮労働党中央幹部学校の開校式が6月1日、盛大に行われた。

開校式場は、党中央の大いなる信頼と全ての党員の大きな期待がこもっている世界一流の政治・思想学園で偉大な金正恩時代の党建設と党活動の真理を体得することになった学生の限りない誇りと栄誉、党の将来のための神聖な教壇を守っている教育者の崇高な使命感と感激で沸き返っていた。

朝鮮労働党総書記で朝鮮民主主義人民共和国国務委員長である敬愛する金正恩同志が、開校式に出席した。

(中略)
栄光に輝く朝鮮労働党旗の前で、李英植校長の先唱に従って全ての学生が宣誓を行った。

彼らは、偉大な金正恩総書記の革命思想でしっかり武装し、独創的な5大党建設理論と党活動の実務に精通し、赤旗と最後まで運命を共にする赤旗精神の体現者、わが党の栄光と未来をしっかり保証していくチュチェ革命の旗手となって、永遠に金日成・金正日主義偉業と党中央の指導に忠実に従うことを厳かに誓った。

開校式は、歌「インターナショナル」の奏楽で終わった。

(中略)
敬愛する金正恩総書記は、再教育講習に参加する党中央委員会政治局のメンバーに会った。

金正恩総書記は、最も正義で遠大な理想の実現へと革命を導くわが党の無比の指導力は他ならぬ党幹部陣容の能力と質的水準にかかっていると述べ、全ての幹部、特に党中央指導機関のメンバーから党性、革命性の鍛錬の溶鉱炉である党学校で定期的な再教育を受けて政治的・思想的に絶え間なく鍛錬、修養し、活動方法と作風を不断に革新していくのは全党の強化において非常に意義ある工程であると語った。

金正恩総書記は、党中央委員会政治局のメンバーが全校に革命的な学習気風、厳格な校風を立てる上でも手本となり、かがみとなるべきだと述べ、全党を闘う党に、活動する党にだけでなく学習する党にする時、朝鮮労働党は名実共に政治的に円熟であり、組織的に強固であり、思想的に純潔であり、規律において厳格であり、作風において健全である最も尊厳ある社会主義政権党の威容を引き続き力強く宣揚するであろうと述べた。

敬愛する金正恩総書記は、再教育講習を受ける学生の初の講義を参観した。

金正恩総書記は、講義の全過程を注意深く聴講し、史上類例のない困難で厳しい朝鮮革命の初期に誕生して強化され、その不滅の生命力を余すところなく発揮するチュチェの革命思想は、先行した理論の制約と未決課題を完璧(かんぺき)に解決した偉大な革命学説、永遠なる万能の革命大綱であると述べた。

金正恩総書記は、中央幹部学校の使命と任務、時代の要求に即して党性の鍛錬を基本にしながら原理教育と実践教育を円滑に行えるように教育の綱領を深化させて確実に実行し、全ての教育過程と日常生活が学生をして党活動、革命活動に必要な思想的・精神的糧を絶えず摂取し、共産主義者の品性を自分のものにしていく立派な講義になるようにしなければならないと述べた。

金正恩総書記は、社会政治学博士であり副教授である金日成・金正日主義基本講座の教員チュ・イルウンさんの講義水準がとても高い、われわれの党思想理論の代弁者としての実力を持っていると高く評価し、学校は全ての教員と研究士の水準を絶え間なく向上させるための旋風を巻き起こして高い教育者的水準と実力で学生を真の革命家、熱烈な愛国者、真の人間としての品格を完璧に備えるように教育する上で一大革命を起こさなければならないと強調した。
朝鮮労働党中央幹部学校が大々的に開校式を迎えました。5月16日づけ「金正恩総書記が完工した朝鮮労働党中央幹部学校を現地指導」によると、最近校舎が完成したとのこと。23日づけ「金正恩総書記が朝鮮労働党中央幹部学校の建設と盛大な竣工行事を成功裏に保障した軍人建設者と設計士、芸能人と共に記念写真」によると、5月15日に続き22日にも元帥様は現地指導なさったとのこと。今回の開校式を含めると、短期間のうちに3回も訪問している点において、元帥様の党中央幹部学校に対する並々ならぬ思い入れを強く感じるところです。

朝鮮総聯機関紙『朝鮮新報』は、電子版では6月7日・紙面版では6月10日づけコラムで「社会主義の歴史は革命を牽引する党の歴史といえる。ソ連・東欧諸国で社会主義崩壊をもたらした執権政党の変質は、かれらが革命の原則を捨て民心を裏切ることから始まった。学習は誰にとっても重要だが、特に社会主義政党の幹部は自らを絶えず修練しなければ、いつしか思想的に堕落することを肝に銘じなければならない」と指摘していますが、党中央幹部学校の重要な位置づけを非常に端的に表現しているといえるでしょう。

5月16日づけ記事は、ちょっと分かりづらいのですが、画面右上のカメラマークのアイコンをクリックすると写真のページに飛びます。全20枚の写真のうち、2枚目には、校舎に掲げられるマルクスとレーニンの肖像画が確認できますキム・イルソン広場に掲げられていたマルクスとレーニンの肖像画が撤去されてから10年以上の歳月が過ぎましたが、久しぶりに共和国の公的施設においてマルクスとレーニンの肖像画が掲げられているのを見ました

マルクスとレーニンの肖像画の撤去は、静かではあるが非常にインパクトのある出来事でした。

西暦1988年の建国40周年記念パレードにおいては、日本では「金日成のパレード 東欧の見た“赤い王朝”」として知られているポーランド人民共和国国営テレビ取材班作成の"Defilada"で収録されていたとおり、マルクスとレーニンの肖像画がパレードの隊列に掲げられていました。しかし、チュチェ思想のマルクス主義に対する独自性を強調するようになる西暦1990年代以降、共和国におけるマルクスやレーニンの立場は著しく低下し、彼らの肖像画が掲げられる機会は滅多になくなったものでした。数少ない例外的事象が、キム・イルソン広場のそれだったと言えるでしょう。

キム・イルソン広場のマルクスとレーニンの肖像画は、現在の対外経済省庁舎の壁に掲げられていたのですが、対外経済省庁舎はちょうど閲兵隊伍が辞去する方向に建っていたので、彼らの肖像画が映像に映り込む機会は非常に乏しいものがありました(勇ましい軍事パレードなのだから、歩兵や戦車の後ろ姿よりも銃剣や砲身を高く挙げて勇ましく進入してくるシーンを撮りたくなるのは当然でしょう)。しかし、首領様生誕100年記念閲兵式では慎重ではあるが明らかに意図的に、複数回にわたって「画にならないはず」の閲兵隊伍の辞去シーンが放映されたものでした。当時、当ブログ管理者周辺でもこのことが示す意味合いについて議論になったことを覚えています。明らかに、マルクスとレーニンの肖像画を撤去したことを内外に示す意図が込められていたものと考えられます。

それから12年が経ちました。ここにおいて、わざわざ写り込ませなくても十分に記事として成り立つはずであるところ、5月16日の記事が敢えてマルクスとレーニンの肖像画を背景に元帥様の現地指導の様子を写真に収めたことの意味合いを深く捉える必要があると考えます。また、6月2日づけ上掲引用記事が敢えて「校式は、歌「インターナショナル」の奏楽で終わった」と明記したことについても、その意味合いを深く捉える必要があるとも考えます。

先般、元帥様の肖像画が先代首領たちの肖像画と並んで掲揚されるようになったとの報道が出てきました(「北朝鮮 キム総書記の肖像画を祖父・父と並べ掲示 映像初公開」2024年5月22日 17時10分)。先代首領たちに元帥様が並ばれたわけです。

ここで重要なのが、「単なる先祖返りではない」ということです。平井久志氏は「【日本一詳しい北朝鮮分析】金正恩が「2つの朝鮮」を宣言した背景」なる長ったらしい文で「北朝鮮は、2019年2月のハノイでの米朝首脳会談の決裂以降、北朝鮮は社会主義への回帰を強め、「共産主義へ行こう!」というスローガンを叫び、住民統制を強めている」などと書き立てていますが、たとえば、長きにわたって朝鮮式社会主義の経済建設の特徴とされてきたテアンの事業体系が憲法条文から削除され、替わって社会主義企業責任管理制や社会主義的競争熱風が既定路線として定着し切っています。彼が宣う「住民統制」が具体的に何を指すのかのは明確ではありませんが、テアンの事業体系が憲法に謳われるほどの国是だった時代ではないことは、明々白々のことでありましょう。時代の要請に即した新たな政策は続いているわけです。

先代首領たちに元帥様が並ばれたことに今回の朝鮮労働党中央幹部学校の開校式を関連づけるとすれば、マルクスとレーニンの肖像画を党中央幹部学校の校舎に掲げたことを内外に示し開校式を「インターナショナル」の奏楽で終わらせたことは、元帥様は、マルクスやレーニンという共産主義運動におけるビッグネームの系譜に自らを位置づけつつ、自らを現代共産主義運動の指導者であると宣言なさったと言ってよいと考えます。このことはつまり、記事中に「(党中央幹部学校の学生たちは)偉大な金正恩総書記の革命思想でしっかり武装し、独創的な5大党建設理論と党活動の実務に精通し、赤旗と最後まで運命を共にする赤旗精神の体現者、わが党の栄光と未来をしっかり保証していくチュチェ革命の旗手となって、永遠に金日成・金正日主義偉業と党中央の指導に忠実に従うことを厳かに誓った」というくだりにも現れているとおり、元帥様がいよいよイデオロギー解釈権を確固たるものにしたことを示しているでしょう。

rodongshinmunwatching様は、5月22日づけ「2024年5月22日 党中央幹部学校の竣工式開催、金正恩の出席・演説を報道」で次のように指摘されています。
同校の新たな発足を契機として、自身を金日成・金正日のみならず、マルクス・レーニンの延長線上に、彼らと同等の存在として位置づけた上で、「新たな時代」の「環境・条件」が過去とは異なるものであることを強調し、それに即して自分が提示した路線(党建設5大方針など)を党活動の基調として徹底させていくことであろう。それは、要するに、党の「首領」としての自らの立場を確立することともいえよう
同感です。
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2024年06月12日

これで一体何回目?

https://news.yahoo.co.jp/articles/b8acbf38f794ed63213237a45efa35193763c80f
プーチン大統領、数週間内に訪朝へ 19日にベトナム訪問観測
6/10(月) 14:53配信
ロイター

[モスクワ/ハノイ 10日 ロイター] - ロシア紙ベドモスチは10日、プーチン大統領が数週間以内に北朝鮮とベトナムを訪問する予定だと報じた。当局者によると、ベトナム訪問は19−20日の予定だがまだ確認されていない。

ロシアのマツェゴラ駐北朝鮮大使が同紙に、プーチン氏訪朝の準備が進められていると述べた。

一方、ベトナムでは当局者がロイターに対し、訪問日程では合意がまとまったが、協議のテーマは調整中だと述べた。エネルギー、軍事協力、支払い決済、教育分野での合意などが主な議題になる見通しという。ベトナム外務省のコメントは得られていない。

(以下略)
プーチン大統領の共和国訪問は、最近の朝露関係深化の一環として位置づけることができますが、ではベトナム訪問に象徴される越露関係の現在位置は一体どういった状況にあると考えられるでしょうか?

少し前の記事になりますが、興味深い記事があります。
https://news.yahoo.co.jp/articles/41001a207613b97639059ed5246a0d26df54f3dd
プーチンに来訪を招請、ベトナムは「ロシアがウクライナに勝利」を確信か
5/19(日) 12:02配信
JBpress

 (川島 博之:ベトナム・ビングループ、Martial Research & Management 主席経済顧問)

 2024年3月26日、ベトナムのグエン・フー・チョン書記長はロシアのプーチン大統領と電話会談して、ベトナム訪問を招請した。プーチンは喜んで応じると回答し、その時期は両国で調整することになった。

 5月16日から17日にかけてプーチンが中国を訪問することが決まると、ベトナムでは中国訪問の後にハノイに立ち寄るのではないかとの観測が流れた。だが、今回は見送られた。ベトナム訪問は6月になると見られている。

■ 中世のイタリアで中立を決め込んだ国の末路とは
 プーチンのベトナム訪問はベトナムの国際社会での立ち位置の変更につながるとともに、ロシア外交にとっては大きな成果になる。

 ベトナムはロシアとウクライナの両国と良好な関係を築いていた。ベトナムは兵器の多くを旧ソ連の時代からロシアに依存している。ベトナム戦争に勝利できたのはソ連のおかげと言ってもよい。また、旧ソ連の一部であったことからウクライナに留学した人も多い。筆者が顧問をしているビングループのファム・ニャット・ブオン会長もウクライナに留学している。そのような事情もあって、ベトナムはウクライナ戦争に対して中立を決め込んできた。

 そのベトナムがプーチンの訪越を招請した。それは立場の変更を意味する。

 戦争が起きた時に、どちらに付くかは善悪や正義の問題ではない。勝つ方に付かなければならない。戦いが終わってから旗色を鮮明にしても、勝った国から冷たく扱われるだけだ。国益を大きく毀損する。マキャベリはそのような外交では身を滅ぼすと500年も前に警告している。中世のイタリアでは、中立だった国は勝った国に攻め滅ぼされてしまった。

 全方位外交を標榜するベトナムは500年前のマキャベリの忠告に忠実に従った。ベトナムはウクライナ戦争がロシアの勝利で終わると確信したということだ。

(中略)
■ 「西側からの孤立」というリスクも
 ベトナム戦争を戦い抜いたベトナム国防省は、世界のどの国よりも、この辺りの事情を身体感覚で分析することができる。この戦争はロシアの勝利で終わる。それならば、早い時期にロシア側に付くべきだ──。ベトナムがプーチンにハノイ訪問を要請した真の理由である。

 プーチンはベトナムからの招請を喜んでいる。戦争犯罪者に指名されている身であり、不用意に他国を訪問することはできない。そのような状況下で、全方位外交を標榜している国がプーチンの訪問を要請したのである。プーチンがベトナムを訪問すれば、これまで中立を保ってきた多くの開発途上国はその外交姿勢を再検討することになるだろう。
 
  ベトナムはいち早く勝ち馬に乗ることによって、今後のロシア外交を有利に運ぼうとしている。その一方で米国との関係は悪化する。ベトナムは半導体産業の分野で米国からの投資を強く望んでおり、それが昨年夏のバイデン訪越につながった。ベトナム戦争以来冷めていた米越関係を少しでも改善させようとしているが、そんな努力をプーチンのハノイ訪問は台無しにしてしまう。それは長期的に見た時、ベトナムの国益を大きく損なう。だが、ベトナムはそれでもよいと判断したようだ。

 ベトナムはその歴史において何度も中国の侵略を受けてきた。その結果、ベトナム外交は経済よりも安全保障を重視している。少々米国の機嫌を損じても、中国の潜在的な敵であるロシアに近付くことは安全保障につながる。

 ベトナムは、中国とロシアがいかに友好を演出しようと、本当は仲が悪いことを知っている。ベトナムがロシアと良好な関係を有している限り、中国はベトナムに手を出しにくい。

 四方を海で囲まれて少々のことでは侵略されることのない日本と異なり、中国と陸路で接するベトナムは現実の脅威と戦っている。そんなベトナムは安全保障を重視していち早く勝ち馬に乗った。

 しかし、その判断は「西側からの孤立」というリスクもはらんでいる。

 プーチン訪越の要請が吉と出るか凶と出るかは、もう少し時間が経過してみなければ分からない。いずれにせよベトナムはウクライナ戦争後を見据えて大きく動き始めた。
ビングループの主席経済顧問が見抜いている事情を「今日のウクライナは明日の台湾・沖縄」と繰り返している手合いが見抜けていないはずがありません。ベトナムのグエン・フー・チョン書記長が3月の時点でプーチン大統領の訪越を要請し、この度、実現することの意味合いは非常に大であると言えます。

しかしながら、我らが国策報道機関・プロパガンダマシンであるNHKは本件を次のように報じています。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240612/k10014477991000.html
“プーチン大統領 来週前半にも北朝鮮訪問へ調整” 外交関係者
2024年6月12日 0時58分

ロシアのプーチン大統領が来週前半にも北朝鮮を訪問する方向で調整が進められていると複数の外交関係者が明らかにしました。プーチン大統領が北朝鮮を訪問すれば24年ぶりとなり、ロシアとしてはウクライナ侵攻が長期化する中、軍事的な連携をいっそう強めたいねらいもあるとみられます。

(中略)
ロシアはウクライナへの軍事侵攻が長期化し、兵器不足に陥る中で北朝鮮から砲弾などを調達しているとされ、プーチン大統領は北朝鮮を訪問してキム総書記と会談するなどして軍事的な連携をいっそう強めたいねらいもあるとみられます。

一方、北朝鮮は先月27日に軍事偵察衛星の打ち上げに失敗したばかりで、ロシアから軍事や宇宙分野などで技術支援をさらに受けたいねらいもあるとみられます。

また、外交関係者は、プーチン大統領は来週後半を軸にベトナムを訪問する方向でも調整が進められていると明らかにし、プーチン大統領が北朝鮮とベトナムを相次いで訪問する可能性も出ています。
プーチン大統領の招請に基づくベトナム訪問を明らかに小さく扱っています。プーチン大統領の共和国訪問を「ならず者どうしが接近・結託した」と言わんばかりの筆致で書き立てておきながら!

ベトナムは歴史的経緯もあって強固な反中国家。ベトナム人民軍の士官候補生が日本の防衛大学校に留学していることからも明らかであるとおり、日本にとってベトナムは対中同盟国という扱いであります。それゆえ、流石に朝露接近と同じ調子で、招請に応える形でのプーチン大統領のベトナム訪問について「ならず者どうしの接近・結託」とは書き立てられなかったのでしょう

自分たちが描き上げた筋書に沿わない現実が発生するや否や頬かむりする――国策報道機関・プロパガンダマシンとしてのNHKが、ロシアのウクライナ侵攻に際して繰り返してきた取り繕いが再び展開されたわけです。これで一体何回目?
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