http://bylines.news.yahoo.co.jp/maeyatsuyoshi/20130220-00023558/
>>> 「賃上げ」騒ぎはデフレ脱却にはつながらない経済の難しいところは、原因と結果が円環状になっているところにあると思います。「鶏が先か卵が先か」みたいなもんですよ。昨今の情勢にカギって言えば、賃上げしなければデフレは脱却できませんが、しかし、デフレを脱却できなければ賃上げだって難しい。両者が円環状に絡み合っているのです。
前屋 毅 | フリージャーナリスト
2013年2月20日 16時13分
■だいじょうぶか?米倉会長
違和感がある・・・。2月19日、公明党の山口那津男代表らが経団連(日本経済団体連合会)の米倉弘昌会長らと政策対話を行った。報道によれば、井上義久公明党幹事長が「国民生活を向上させるために可処分所得を増やし、労働分配率を高めていくことが大事だ」と述べて、「デフレ脱却のために賃上げが必要との考えを示した」(msn産経ニュース)そうだ。これに対して米倉会長は、「デフレから脱却すればそういうことになる」と応えたという。
デフレ脱却の施策として賃上げを求められたのに「デフレが終われば賃上げする」と、なんともとんちんかんな答えをしたことになる。その前から安倍晋三首相も賃上げを求める発言をしているので、井上幹事長の言わんとするところを米倉会長が理解できなかったはずはない。
わかって、とんちんかんな答えをしたのだ。ことあるごとにデフレ脱却を政府に求める発言をしていながら、自ら協力するつもりは米倉会長にはないらしい。自分では何もしないで、ただ欲しい、欲しいと騒ぐ駄々っ子とかわりがない。こういう人が日本を代表する経済団体の長をしているのだから、日本経済がふらふらしているのも無理はない。
違和感をおぼえざるをえない米倉会長の発言、といわざるをえない。しかし、ほんとうの違和感は別のところにある。
■ずれてる論点
2月5日、安倍首相は経済財政諮問会議の場で、「業績が改善している企業には、賃金の引き上げを通じて所得の増加につながるよう協力をお願いしていく」と述べて、賃金引き上げを求めた。これに応えるように2月7日、政府の経済成長戦略を策定する産業競争力会議のメンバーでもある新浪剛史が社長を務めるローソンは、「デフレ脱却を目指して!」と銘打って、消費意欲の高い世代(20代後半〜40代)の社員の年収を平均3%アップすると発表した。
ローソンでは「新浪社長のもともとの持論に基づく」として安倍首相の要請に応えたわけではないと説明するものの、絶妙すぎるタイミングで、「出来レース」と受け取られても仕方ないだろう。さらに2月8日の衆議院予算委員会で、ローソンの例をあげて「3ヶ月前に考えられたか。われわれの政策が経済を変えていく」と安倍首相が胸をはってみせたのだから、シナリオ臭くなる。
問題なのは、ローソンの「賃上げ」が正社員だけを対象にしているということだ。正社員とアルバイトなど非正規雇用者とを合わせると、ローソングループでは約20万人が働いている。しかし今回の「賃上げ」の対象となるのは、約3300人の正社員だけである。約18万5000人の非正規雇用者は対象外なのだ。
賃金を上げることで消費を活発化させてデフレ脱却につなげるには、3000人の社員を対象にするより18万人の非正規雇用者を対象にするほうが効果が大きいことは誰が考えてもわかる。そこを無視して、「デフレ脱却のための賃上げ」と誇れるのだろうか。「われわれの政策の成果」と胸をはるにいたっては、あきれるしかない。
ローソンにつづいて作業服店チェーンのワークマンも賃金を引き上げることが2月19日になって明らかになったが、こちらも対象は正社員である。とんちんかんな米倉会長発言となった公明党と経団連の政策対話でも、前提になっているのは「正社員の賃上げ」で、「非正規雇用者の賃上げ」はふくまれていない。それでデフレ脱却が狙いというのは、論点がずれすぎているというしかない。
■ここを無視してデフレ脱却にはつながらない
労働力調査によれば、非農林業雇用をのぞいた雇用における全雇用に占める非正規雇用者の比率は、2012年で35.1%となっている。1990年が20%なので、急速に増えてきているわけだ。
その背景には、企業が人件費を削減するために正社員を減らし、その分だけ非正規雇用を増やしたことがある。それに拍車をかけたのが、小泉純一郎政権による人材派遣の規制緩和だった。
そして収入の少ない非正規雇用者が激増し、デフレ傾向にも拍車がかかってきたのだ。だからこそ、「賃上げによるデフレ脱却」を謳うのであれば、非正規雇用者の賃上げこそ優先させなければならない。そこを改善しなければ、ほんとうの消費拡大につながっていくはずがない。
そこを無視し、正社員だけ賃上げして「デフレ脱却のための賃上げ」と叫んでいるのは、どうにも納得できない。違和感をおぼえざるをえないのだ。 <<<
いわゆるアベノミクスは、その両方に同時並行的に取り組もうとする野心的な経済政策であると認識しています。今までの経済政策は、「賃上げが先だ!」「いや景気回復が先だ!」といったふうに、私に言わせれば「どっちも大切でしょ?」といわざるを得ない不毛な論議で時間を浪費してきました。いまやっと、曲がりなりにも総合的な経済政策がとられようとしているところで、また振り出しに戻るようなことを言わないで頂きたいと思うのです。
良くも悪くも経済はシステムとして変動しています。そして、その相互依存関係は円環状に絡み合っており、複雑です。それが経済の正体だと思うんですが、どうも「『変動の中心』というものが何処かにあって、それが経済を支配している」という考えが根強いように思います。ちょうど、「身体の不調は、体内の何処かにある病巣のせいだ!」みたいな感じで。しかし、「病巣」が身体のバランスの崩れのなかから発生してくるように、経済の「変動の中心」と思われているものもまた、経済システム全体のバランスのなかから発生してくるものです。諸法無我なのです(ちょっと意味が違うか?)。
ちょっと上手く表現しにくいんですが、経済政策を西洋医学みたいに「病巣を切除すれば病気は治る」みたいな発想ではなく、東洋医学のように「病気は結局のところ身体のバランスの崩れだから、トータルに体質改善してゆく」といった発想でやったほうがいいんじゃないかと思います。ちなみに、医学は完全に専門外なので、ステレオタイプ的に言ってしまいましたが、言いたいことのエッセンスを汲み取っていただけたならば、あまり怒らないであげてください…もちろん間違いの御指摘は大歓迎です。
関連記事
チュチェ105(2016)年4月26日づけ「「最低賃金大幅引き上げキャンペーン」の世界観的誤りと危険性――円環的相互作用システムの立場から」