久々ですね、こういう「ニュースまとめ」は。原点回帰です。
なお、以下に引用する記事のすべてにおいて、太字化処理は当方によります。原文にはありません。
まず、私の基本的な認識は、すでに9月23日づけのブログ記事で述べているとおりです。その私が一番よかったと思った報道記事は、9月25日づけの毎日新聞東京本社版記事でした。
http://mainichi.jp/opinion/news/20130925ddm003040114000c.html
>> クローズアップ2013:JR北、異常放置 特異な企業体質、背景 補助金漬け、責任あいまい 採用抑制、中核世代少なく予算や人員の問題、事実上の「国鉄」である点に触れつつも、それだけには還元できない組織体質・企業風土・就業意識への言及もしています。注文を出すとすれば、もう少し体質的な部分に切り込んだほうが良かったようにも思います。
毎日新聞 2013年09月25日 東京朝刊
JR北海道がレール幅の拡大など多数の異常を放置した問題では、その後も次々と検査体制や記録の不備が発覚している。79人が負傷した石勝(せきしょう)線の特急脱線炎上事故(2011年5月)以降トラブルが絶えず、「安全軽視」と言える企業体質がなぜ生じたのか。その背景を探る。【遠藤修平、久野華代、伊藤直孝、松谷譲二】
(中略)
旧国鉄が旅客6社・貨物1社に分割・民営化されたのは1987年。このうちJR北海道は他社に比べ過疎地域を走る路線が多く、除雪などに膨大な経費がかかり、経営基盤は弱い。このため、国は経営安定基金という「持参金」をもたせ、その運用益で赤字を穴埋めしてきた。
ただ、その基金も近年の金利低下の影響を受け運用益が減少。一時は上場も目指したが果たせず、厳しい経営が続いていた。鉄道事業収入は96年度の800億円をピークに減少している。基金投入という第三セクター的な経営に慣れきって、責任の所在があいまいになっていると指摘する関係者もいる。ほぼ同じ営業キロ数のJR九州は営業黒字(2012年度末現在)を確保しており対照的だ。
赤字経営は人材確保にも影響し、1980年代に採用を大幅に抑制。5月現在で社員約7000人のうち最も多い50代は37・7%。次いで民営化後に入社した20代が27・4%。現場の責任者になるべき40代は9・5%と極端に少ない状況が続いている。国土交通省関係者は「ベテランの職員がどんどん定年退職している。その一方で、採用すべき若手の人員は経営難で抑えているので、技術が伝承されにくい」とJR北海道の人材育成が行き届いていない現状を指摘する。
だが、「いびつな年齢構成は北海道に限った話ではない。事故多発は別に固有の問題があるのではないか」(JR他社の幹部)との声もあり、「なぜ異常が放置されたのか」の答えはまだ見えてこない。JR北海道の豊田誠・鉄道事業本部長は24日の記者会見で、この問いに「いまだにお話しできるところまで状況がつかめていない」と述べることしかできなかった。
(中略)
だが、ある関係者は「JR北海道は民営化後も安全軽視の企業風土の下、レールや枕木の老朽化を長年放置し、メンテナンスに十分な費用を充ててこなかった」といい、「北海道内唯一の鉄道会社であるため、過信、慢心があったことは否定できない」と批判する。そのうえで「問題があるのに見て見ぬふりをし、JR側に全て任せきりにしてきた国の責任も重い」と指摘した。
(以下略) <<
そうした点に毎日新聞よりも切り込んでいるのは、産経新聞でした。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130924-00000068-san-soci
>> JR北海道 線路97カ所異常放置 言い訳できぬ、安全意識まひ 厳しい自然で赤字 人手不足の逆境…「やはり」というべきなんでしょうか。何かと「客観的条件」の面にばかり注目しがちな日本のメディアのなかでは、組織体質・企業風土・就業意識といった主体的条件に切り込んでいる「産経らしい記事」ですが、いまひとつ切り込みが足りず、要するに「ケシカラン」で終わっている点においても「産経らしい記事」です。
産経新聞 9月24日(火)7時55分配信
JR北海道が多数のレール異常を放置していた問題は、鉄道事業者としての安全意識と責任感が希薄化していることを浮き彫りにした。識者らは「もはや鉄道事業者としての資質にもかかわる」と問題視する。JR北で今、何が起きているのか。
◆保守技術伝承できず
JR北の鉄道路線計約2500キロのうち、半分の約1170キロがローカル線の「地方交通線」だ。幹線も人口密度の低い地域を走っており、大半が不採算の赤字路線とされる。「北海道の厳しい自然環境に対応するため、レールの保守にはかなりの手間がかかるが、赤字経営のJR北では限られた予算、人員で対応してきた」。こう語るのは、鉄道の安全性を研究している日大生産工学部の綱島均教授(54)=機械工学=だ。
JRの構造的な問題は、ほかにもある。鉄道アナリストの川島令三(りょうぞう)氏(63)は「国鉄末期に採用を抑制し民営化後も人員を整理した結果、世代間の断絶が生じ、技術の伝承もできていない」と指摘する。
◆「感覚信じられぬ」
だが、昨年10月の定期検査で異常を把握しながら、補修せずに1年近く放置していたJR北の対応は、これだけでは説明できない。
JR他社の関係者は「基準値を超えているのに、そのまま放っておいてもいいだろうという感覚が信じられない」と疑問視する。
旧国鉄の保線区長やJR貨物の保全部長を歴任した北海学園大工学部の上浦正樹教授(63)=鉄道工学=は、「レールの保守に携わる人間は基準値を超えることが恐ろしく、早く直さなければいけないという気持ちになる。列車の運転を取りやめて補修するのが保線区の使命だ」と語る。
脱線現場の枕木は、レール幅が広がりやすい木製だったが、レールを固定するくぎを打ち直せば比較的容易に補修できたとされる。
脱線現場は列車の待避や追い越しなどに使われる「副本線」。異常を放置していた担当者は「本線より優先順位が後という意識があった」と話したというが、異常箇所は、特急列車が高速で通過する「本線」にも及び、北海道内全域に広がった。
上浦教授によると、レールの異常が分かる「軌道検測チャート図」というデータが保線区から本社に報告される仕組みになっており、「本社も数値を見ればすぐに『これはまずい』と気付いたはず」だという。
現場の保線区だけでなく、会社組織全体の問題が問われている事態に、上浦教授は「鉄道マンとしての安全意識が希薄としか思えない」と批判した。
最終更新:9月24日(火)8時20分 <<
主体的条件に言及するのはとても重要なことなんですが、ただ単に「鉄道マンとしての安全意識が希薄としか思えない」だけだと不足なんですよね。主体的条件と客観的条件は相互作用の関係にあるわけですから。
そうして点については、9月25日づけの毎日新聞と、同日づけの朝日新聞がヒントとなる事実を報じています。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130925-00000010-mai-soci
>> <JR北海道>ベテラン保線作業員「資材来ず、人も不足」
毎日新聞 9月25日(水)7時29分配信
ずさんなレール管理の実態が明らかになったJR北海道。保線業務を担当するベテラン社員は24日、毎日新聞の取材に「レール幅の異常は5ミリでも分かる。絶対に放置できないはずだ」と話した。同僚でさえ信じられない事態。安全運行の根幹ともいえる線路で、なぜ異常は放置されていたのか。国土交通省の特別保安監査で、どこまで解明されるかが焦点になる。
この社員は、道東地方の保線部署に勤務し、今回明らかになった放置には関わっていない。レールの異常については「担当者なら軌間(レール幅)は目視で気づくはず」と言い切る。補修基準以下でも、現場で「異常」と判断すれば何らかの手を入れるのが通例だ。ところが、今回はJR函館線大沼駅で28ミリのレール幅拡大が発覚。97件の異常放置は、担当の大沼保線管理室など4部署に集中していた。「脱線しかねない非常事態。保線社員なら絶対に放置できないと分かっているはずだ」と首をかしげる。
一方で、異常を認識し、本社に新たな設備投資を求めても要求通りに資材が投入されることはまれだという。現場では線路の砂利を敷き直すなど応急措置で乗り切るしかなく、「だましだまし補修しても、その後“予定通り”にレールが破断したこともあった」と証言した。
レールの異常は車輪にもダメージを与え、乗客には振動や騒音などで乗り心地の悪さにもつながる。「目先の補修ばかりで、問題を先送りするだけ。現場には、どうせモノ(更新すべき資材)が来ないというあきらめムードが広がっている」と話す。
一方、「現場はとにかく人が足りない」とも証言。JR北海道の社員数は、1987年に国鉄から分割民営化したときより約6000人少ない約7000人。野島誠社長は22日の記者会見で「必要な要員は配置している」と人員不足は否定したが、この社員は「ベテランの経験や技術でしのいできたが、限界もある」と話す。
さらに、近年は北海道新幹線(2015年度末開業予定)の関連工事で、外注先に出向している社員も少なくない。外注業者も新幹線工事に追われており、この社員は「これまでなら外注に回していた仕事が、逆に本体に戻ってくるケースもある。人も金も新幹線工事に割かれ、在来線の仕事が手薄になっているのではないか」と話す。【森健太郎】
最終更新:9月25日(水)7時32分 <<
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130925-00000011-asahi-soci
>> JR北の責任者、レール補修把握できず 伝達体制なし毎日・朝日両新聞の記事をまとめると、要するところ、「現場は『これではマズい』と分かっているのだが、本社がそのことを認識しておらず、それどころか、認識するためのシステムすら構築されていなかった」ということになるでしょう。
朝日新聞デジタル 9月25日(水)9時25分配信
【五十嵐透】JR北海道がレールの異常を放置していた問題で、本社の保線管理部門のトップを含む責任者3人が、レールの補修結果はそもそも本社に報告される仕組みになっていないなど、レール管理のチェック体制を十分に把握していなかったことが分かった。トップの豊田誠・常務取締役鉄道事業本部長は24日に記者会見し、「知らなければいけないことだった。非常に反省している」と陳謝した。
JR北海道は24日深夜、レールの異常が新たに9カ所で判明したと発表。レールの異常の放置は計106カ所になった。
同社によると、レールの検査は、主に列車同士のすれ違いなどで利用される副線は現場の保線部署が、駅間を結ぶ本線は原則、本社が実施する。本線の点検結果は、本社から保線部署に送られ、補修は本線も副線も保線部署が担う。ただ、補修を終えたかどうかの結果は、本社に報告されない仕組みになっている。
しかし、本社の保線管理部門のナンバー2とナンバー3である工務部の笠島雅之取締役工務部長と工務部副部長(保線課長)は、補修結果は本社の担当部署に報告されると考えていたといい、現場をはじめ、本社でもダブルチェックされていると思い込んでいた。
最終更新:9月25日(水)10時38分 <<
この点は、自画自賛っぽくなってしまいますが、私も9月23日づけのブログ記事で言及したとおりです。つまり、いくら予算が厳しいからと言って、ひとたび「手抜き」による不祥事を起こせば、事故の後始末や社会的非難といった「莫大なコスト」がかかり、むしろ「損」をしてしまうというのに、それにも関わらず「手抜き」をしてしまう要因には、「『削るところを間違えた』という失敗」という事情があり、それは突き詰めると「現場と本社の意思疎通不全」であり「会社の体質」であるということです。
ところで、JR北海道が事実上の「国鉄」であることは、前掲の毎日新聞記事でも触れられていたとおりですが、THE PAGEの記事がそれを更に詳しく掘り下げています。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130925-00000003-wordleaf-bus_all&p=1
>> 事故多発のJR北海道、なぜ大赤字でもつぶれない?客観的条件・主体的条件の双方が複雑に絡み合っているという見解に同感します。
THE PAGE 9月25日(水)16時48分配信
(中略)
いまも事実上の「国鉄」
つまりJR北海道は民間企業などではなく、形を変えた国鉄であり、しかも鉄道事業としてまともに継続できる状況にはないのだ。この状況を考慮せずに「民営化の弊害」と捉えると本質を見誤る可能性がある。
最近は車両の軽量化が進み、保線頻度を下げることが可能となっているが、これが行き過ぎれば当然事故につながる。JR北海道のトラブルは、こうした技術的側面と、経営体質や企業体力という全体的な問題が相互に絡み合っている。単純な問題解決策が出てくるような話ではない。今後の公共交通機関のあり方をどうするのかといった大局的な議論の中で解決策を考えていく必要があるだろう。 <<
こういう複雑な事情が絡み合った事故が起こるたびに、客観的条件ばかりに注目する論調や、逆に主体的条件ばかりに注目する言説が展開されます。しかし、以前から述べていますし、今回も述べましたが、主体的条件と客観的条件は相互作用の関係にあります。主体的条件は客観的条件の影響をうけるのは厳然として事実ですが、他方において、客観的条件は主体の能動的活動によって創り変えられるのもまた事実です。
予算不足という客観的条件は、JR北海道の保線業務遂行にとって誠に不利な情勢です。しかし、その情勢下においても安全運行を維持する社内システムづくりを怠ったことは、現在報じられている範囲内で勘案するに、否定しきれるものではないようです。また、そうした「誠に不利な情勢」を創り変える主体は、他でもないJR北海道自身です。必ずしも「自力更生」にこだわる必要はないでしょう。すでに「事実上の国鉄」なわけですし。
この問題を解決するためには、「主体的条件と客観的条件は相互作用の関係にある」というチュチェの認識に立つことが第一歩でしょう。たとえ予算を数倍に増やした(客観的条件を整備した)ところで、現在のJR北海道の組織体質・企業風土・就業意識(主体的条件)では十分に活用できないでしょう。逆に、組織体質・企業風土・就業意識だけを高めても(主体的条件を鍛えても)、予算が足りない(客観的条件が不利である)以上はどうにもならないのです。もちろん、客観的条件は主体の能動的活動によって創り変えられる面があるわけですから、主体的条件の強化はより重要な要素ですが、それにだって限度は当然あります。
今回の各社報道を見る限り、全体としてまだ客観的条件に注目する論調に偏っているようにも思いますが、以前に比べて主体的条件にも触れるようになってきているなと思います。また、産経新聞のような「異端児」が、珍しく客観的条件の事情についても比較的詳しく触れていたのには、少し意外な印象を持ちました。ちなみに、あまりにアレすぎて触れませんでした(一般紙ではなく政党機関紙という事情もあったので触れなかったんですけどね)が、共産党機関紙『しんぶん赤旗』はいつもどおりの「半共」でしたww