2014年08月31日

ユニオンが転職支援する大きな意味;「鉄の団結」は必要ない

http://bylines.news.yahoo.co.jp/konnoharuki/20140830-00038699/
「たかの友梨」はブラック企業なのか?

記事の大部分は、特段新しい現象を報じているわけではないのですが、最後のパラグラフが目に留まりました。
>> ユニオンの今後 転職も支援

今回当事者を支援しているのはエステ・ユニオンである。彼らの主張は残業代などの請求だけではなく、「働き続けられる職場」に会社に変わってもらうこと。大変控えめな要望だ。当人も、せっかく学んだ技術を活かし、いつまでも働き続けたいという。

会社が「働き続けられる職場」という当たり前の要望に応えれば、この問題は解決するだろう。

また、ユニオンではエステ業界に勤める社員の転職支援にも応じるとしている。無理な職場環境で我慢するのではなく、新しい職場に移ることも支えるという。転職にも業界の事情を知るユニオンに相談するのは有効だろう。
<<
転職支援にも乗り出すそうです。いままでの労組運動にはあまり強くは見られなかった方向性であり、「「ブラックバイトユニオン」は逆効果――やればやるほど資本家への依存を高める」でも書いたとおり、有効な方法でしょう。

前掲過去ログにも書きましたが、旧来の要求実現型の労働運動は、体制内化という副作用を持ちます。労働者が真に自主的であるためには特定の資本家への依存度を下げてゆかねばならないのに、労働運動を展開すればするほど体制内化され、依存度が高まってゆくのです

特定の事柄への依存度を下げるためには、「リスク分散」の思想が大切です。自己の全てを特定の事柄に対象化するのではなく、複数の事柄に分散させることによって、どれか一つがダメになっても他のものでリカバリーすればよいのです。経済現象においては市場が、その分散を効果的にする働きを持っています。代表的なのが「資産の分散投資」ですが、この考え方は、自らの労働力を販売する他にない立場である労働者階級こそ、一層大切になってくる考え方です。

さて、労働者階級は如何にして労働力という資産を分散投資すべきでしょうか。マルクスは、労働者は二重の意味で自由であると指摘しましたが、程度の差はあるにしても、資本家だって本質的にはそうです。労働需要に対して産業予備軍の数が増えるにしたがって「お前の代わりは幾らでも居る」という意味で労働者階級の地位は下がりますが、これは市場の需給法則を言い換えたものであり、それはすなわち、状況次第では資本家階級にだって当てはまり得る話です。特に、これもまたマルクスが正しく指摘したように、資本家階級は労働者階級なくしてその地位を維持することは出来ません。この点は、資本家階級の決定的弱点です。

「お前の代わりは幾らでも居る」という意味で労働者階級の地位が下がる現象の過程では、資本家階級が「一致団結」して労働者階級を追い詰めているわけでは、当然ありません。彼らは「競争の強制法則」に縛られ、いかにライバルを出し抜こうかということに血道を上げているわけですから、現象の大部分は、いかにライバル企業よりも多くの利潤を得るかという個別資本の自己利益追求が階級全体の合力として現れていると見るべきです。効率的な生産システムの導入により投入労働力を減らし、より多くの製品を作りながら人件費を切り詰めて利潤を増やすという個別資本間の競争が、まさにベクトルの合成の如く階級全体の現象を起こしており、働き口が少なくなった個別労働者間の「椅子取りゲーム」が階級レベルでの動きに拍車をかけているのです。

こうした資本家階級の「やり口」を、労働者階級も学ぶべきではないでしょうか。個別の労働者は、ゆるく連携を取ることによって、個別的に活動しつつも階級全体の合力として個別資本、そして資本家階級全体に迫るべきではないでしょうか。

個別労働者は「鉄の団結」を以って個別資本に要求を呑ませる必要は必ずしもありません。個別資本家が、総じて自己利益の追求に邁進するからこそ労働者の窮乏化が進むように、個別労働者は、自分の心の奥底から湧き出るであろう自主的で創造的な要求、主体的な要求に従い、ゆるく連携をとった周囲からの支援を受けつつ、悪い環境で働かせる個別資本家を捨てて良い環境を提供する個別資本家を選択してゆけばよいのです。「資本家の利潤極大化行為が、市場競争を通して個別労働者を淘汰してゆく」というマルクスの指摘を応用し「労働者の効用極大化行為が、市場競争を通して個別資本家を淘汰してゆく」流れにもってゆく、すくなくとも勢力均衡にもってゆくのです。

そうした個別個別の自主的なベクトルが、階級レベルのベクトル合成を形成したとき、世の中は大きく変わるでしょう。そのためには、個別労働者がより「素直」になる(個別資本家が総体として利潤追求に邁進する傾向があるように、個別労働者も効用追求に邁進する)こと、そして、それを支える環境づくりの両方が同時並行的に必要になってゆくでしょう。その点で、ユニオンが転職支援に乗り出すのは、大きな意味があると思います。
posted by 管理者 at 07:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック