2015年10月05日

図書館指定管理者制度の本旨は「多様性」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151004-00000013-it_nlab-sci
>> 旧約聖書「出エジプト記」が旅行ガイド? 海老名市立図書館の配架がちぐはぐすぎて不安視する声

ねとらぼ 10月4日(日)15時33分配信

 佐賀県武雄市に続くいわゆる“TSUTAYA図書館”として、10月1日にリニューアルした神奈川県の海老名市立中央図書館の蔵書検索で「出エジプト記」を調べるとなぜか「旅行/海外旅行/アフリカ/エジプト」に分類される謎現象が。そのほかの書籍でもおかしな分類があるとネットで話題です。


(中略)

 このカオスな状況を生み出したのは、図書館の書架分類で利用される日本十進分類法ではなく書籍のタイトルを機械的に判別したからではないかと推測されています。<<
「TSUTAYA図書館」の運営の拙さは最近、報道量が増えてきています。多くは「商業主義」に焦点を当てた批判ですが、今回は単純に「管理能力の欠如」です。

レンタルショップにおける商品分類・陳列のおかしさは、いまに始まったことではありません。正直、レンタルショップの在庫理能力は高いほうではないと思います。とくに、専門的教育を受けてきている従来からの図書館司書とは比べるべくもないでしょう。

では、「TSUTAYA図書館」は不必要、すくなくとも時期尚早でしょうか? 私はそうは思いません。民営化・市場化の効用としてよく取り上げられる「効率性」という観点では、「時期尚早」と言いうるかもしれません。しかし、チュチェ102(2013)年12月22日づけ「市場競争の効用は「効率性」よりも「多様性」」でも書きましたが、私は、民営化・市場化の真の効用は「効率性」ではなく「多様性」にあると見ています。

図書館運営を直営ではなく民間等に委託する例は、それほど珍しい話ではなく、また、外部委託したからといって必然的に武雄・海老名両市のようなになるわけでもありません。たとえば東京都千代田区では、サービスの充実に寄与している実例があります(武雄市図書館で是非 なぜ東京・千代田区で「民間委託」が機能したか?)。やはり、直営運営時代では思いもつかなかった発想が、外部委託によって導入できたということに他なりません。

上記「武雄市図書館で是非・・・」の記事では、重要なキーフレーズが登場しています。「図書館も出版文化を担う施設ですから、経営効率を求めるものではない」と「指定管理者制度は経営効率性ばかりが強調されますが、千代田区の場合はサービスの充実に寄与しています」です。つまり、東京都千代田区の民間委託は、まさに民間委託の「財・サービスの多様性の充実」という側面を上手く実現させていると言えるのです。

以上の立場から、以下のようなコメント欄の見解について検討してみましょう。
>> mom***** | 2015/10/04 17:36

図書館のような公の施設は、採算が合わないからこそ行政が行ってきたはず。
割に合わない仕事を十分時間をかけて行政サービスとしてやってきたものを営利企業に任せた時点で、こうなるのは分かりきっていることです。(図書館に限らないと思うのですが・・・)
利用する市民の方には申し訳ないのですが、本来の行政サービスがなんなのか、考えるいいきっかけと思うしかないんでしょうね。
<<
市当局が、営利企業としてのTSUTAYAに幾ら払ったかにもよる話で、短絡的にこうは言えないとは思いますが、それを別としても、結局これも「効率性」の土俵から考えている言説です。民間委託の本旨は「多様性」です。

民間委託の本旨は「多様性」であれば、あるべき運営の姿は、役所直営の独占体制ではなく、民間丸投げでもありません。管理能力が高い直営時代からの図書館司書と、民間企業のノウハウを掛け合わせる形で「多様性」を探究してゆくことにあるでしょう。「多様性」という文脈においては、公共部門も民間部門もそれぞれ異質の文化を持っており、新しい文化の重要なベースを提供し得るという点において立場は対等です(効率性の文脈では、やはり公共部門が民間部門に打ち勝つことは難しく、どうしても「民間部門信仰」のようなものができてしまいます)。

最後に。「効率性」の土俵に敢えて上がるとすれば、「餅は餅屋」の原則に立つべきであり、公営・私営の「属性二分法」に立つべきではありません。その意味では、依然としてコメント欄のような見方は誤りであると言わざるを得ません。

また、公営であろうと私営であろうと、結局「監視の欠如」があっては末路は同じです。今回問題になっている海老名市や武雄市の「TSUTAYA図書館」の例は、「委託元である市当局の監視不届き」という要素は決して小さくないでしょう。役所でも私企業でも、業務委託先の仕事っぷりをキチンとチェックしていなければ、ロクでもないシロモノを掴まされるものです。

関連記事
チュチェ102(2013)年12月22日づけ「市場競争の効用は「効率性」よりも「多様性」」
http://rsmp.seesaa.net/article/383328398.html
posted by 管理者 at 22:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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