>> ガソリン原価割れ販売、コストコを警告へ 公取委不当廉売がなぜ問題なのか、それは短期的には消費者の利益になっても長期的には資本力のある一部供給者の商品供給独占に至り、需要者(消費者)の利益を害することになるからです。いったん商品供給独占が成立してしまうと、それを打破する新企業を育成するのは難しく、市場は独占企業の意のままに操られることになり、販売価格が吊り上げられたとしても消費者はただ従うしかなくなります。
朝日新聞デジタル 12月12日(土)9時44分配信
愛知県常滑市のガソリンスタンド(GS)が安売り競争でガソリンを原価割れで販売し、周りの業者が営業を続けられない恐れがあったとして、公正取引委員会は11日、外資系量販店を運営するコストコホールセールジャパン(川崎市)など2社を独占禁止法違反(不当廉売)で警告する方針を固めた。
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市場経済は競争経済であり、経営努力が要求されます。敗者は市場からの退出を求められます。しかし、そうはいっても「競争的な市場を破壊するほどの徹底的な競争」は、上述の長期的視野の点から肯定されません。「巨大な資本力を生かして長期的に企業利益を増大させる」という尤もらしいお題目を掲げようとも、市場は公器でありそれを破壊することは許されません。不当廉売は競争的市場経済を破壊しかねないルール違反であり、「市場経済において許容される経営努力」には当たらず、「消費者に価値ある商品を破格の安さで提供している」とは見なされないのです。
不当廉売禁止は商品供給独占を防ぐためのルールですが、独占は商品供給独占だけではありません。生産要素需要独占もまた独占であり、この場合は、商品の仕入れ値、あるいは労賃を買い叩かれることになりかねません。そうした視点から、またしてもコストコ社ですが、下記の記事を読んでみましょう。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151207-00000005-jct-bus_all&p=1
>> コストコバイト、地方で「時給1200円」 地域の最低賃金はるかに上回り、近隣店に衝撃この時代に相場より高い労賃を支払っていることを肯定的に捉える向きが多いようですが、これも行き過ぎると他の事業者が追随できないような「不当高給」となり、結局は、生産要素需要独占に至る可能性があります。不当廉売からの商品供給独占と同じ構図です。
J-CASTニュース 12月7日(月)18時58分配信
アメリカ発祥の会員制量販店「コストコ・ホールセール」(コストコ)は地方出店にあたり、その地域の最低賃金をはるかに上回る高い時給でアルバイト・パート従業員を雇用している。
近隣店舗の時給と差が生まれている状況だが、ネットで「すばらしい」「外資系の方が日本経済に貢献している」と賞賛されている。
■最低賃金を400円上回る「好待遇」
2015年11月20日、国内24店舗目となる岐阜羽島倉庫店が岐阜県羽島市にオープンした。時給はポジションによって分かれ、最低でも1200円。深夜、祝日勤務になると1500円〜1600円まで跳ね上がる。岐阜労働局が発表している県最低賃金は746円で、コストコの時給はその1.6倍という「好待遇」だ。
これをうけてか、近隣に出店していたある大型チェーンストアが12月に時給を上げている。公式サイトの求人募集を見る限り、資材商品管理を担当するパート従業員の時給は11月末時点で780円、12月6日までに820円、7日に900円と徐々に上がった。岐阜県内の同一店舗で同じ業務に携わるパート従業員の時給としては、最も高くなった。日曜、祝日勤務はさらに100円上がる。県の最低賃金や市内にある他店の求人募集内容と比較すると、これでも十分高いと言えるが、コストコの時給には及ばない。
こうした様子が12月5日頃、インターネット上で広まり、
「コストコの時給が素敵すぎ」
「すばらしい」
といった肯定的な声が多く寄せられた。中には「外資系の方が日本経済に貢献している」との指摘もあった。
この「好待遇」ぶりは、地域に何らかの影響を及ぼしているのか。羽島市に実家があるという男性は、J-CASTニュースの取材に「羽島市に住む母から、コストコが周りの店舗の人手を奪っているという趣旨の話を聞いた」と明かす。一方で羽島商工会議所の担当者は取材に「あんまり人(手)が集まっていないと聞きますけどね」と話しており、真相は分からない。
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生産要素需要独占まで行かなくとも、市場平均よりも相当によい破格の高給好待遇を提示している特定企業の納入業者・下請け業者・労働者募集に応じ、その好待遇を自己の生活に組み込むことは、以前の記事から繰り返し述べているように、その企業に対する依存度を高めることになり、みずから自主を放棄する道にもなりかねません。
チュチェ104(2015)年10月8日づけ「「日本の労働組合活動の復権は始まっている」のか?――労組活動は労働者階級の立場を逆に弱め得る」においても述べたように、人々が真の意味で自主的になるためには、相手に足許を見られないために相手に対する依存度を下げ、相互牽制的であることが必要です。経済活動においては、競争的な市場システムがそれに絶大な威力を発揮することが歴史的に示されています。今日の生活・今月の給料が大切なのは当然ですが、5年後10年後のことも考えると、他社が追随できないような破格の高給好待遇を提示してくる企業には注意しなればなりません。
目の前の高給好待遇は、長期的には生産要素需要独占への道ではありませんか? それは結局、不当廉売と同じような経済的帰結をもたらしませんか? 昨今はブラック企業問題、派遣労働問題といった労働者にとっての受難の時代で、高給好待遇の話題に飛びつきたくなる気持ちも分かりますが、騙されてはなりません。
※コストコ社が労働(生産要素)需要独占をもくろんで不当高給を支払っていると言っているわけではありません。経済学的に分析したとき、そういう可能性があると言っているだけです。