【軽井沢スキーバス転落】バス運行会社、事故2日前に行政処分 健康診断受けさせず■2種類の規制
長野県軽井沢町のスキーバス転落事故で、事故を起こしたバス運行会社「イーエスピー」(東京都羽村市)が、運転手に健康診断を受けさせていなかったなどとして、国土交通省関東運輸局から13日に道路運送法に基づく行政処分を受けていたことが15日、分かった。
(中略)
同社は、バス計12台を運行しており、使用禁止中の車両以外の車両を運行することはできるという。
「規制」の方法には2種類あると思われます。すなわち、「生産過程における規制」と「流通過程における規制」です。前者は、商材・サービスの品質や労働環境、廃棄物処理等の関する規制が代表例であり、後者は、参入障壁・参入規制が代表例となるでしょう。
今回の事例も受けて、早くも「規制緩和原因論」――路線バスが死傷事故を起こしても誰も規制緩和のせいにはしないのに、ツアーバスが事故を起こすとすぐに規制緩和のせいになるのは何故?――が出始めています。しかし、上の分類に従えば、規制緩和を十把一絡げにするのは適切ではなく、生産過程における規制の緩和方法に問題があったと問題提起するべきでしょう。事件・事故は、分析向けに換言すれば、商材・サービスの品質問題です。
もちろん、生産過程は流通過程に大きく制約されます。いわゆる「プライステイカー」は、流通過程の事情に応じて生産要素を需要し生産過程を組織するからです。「流通過程における過度な規制緩和=参入障壁撤廃が、過当競争を通じて、生産過程の状況を悪化させている」という因果関係はあり得る話ですし、現にある話です。
■流通過程における規制は必ずしも、生産過程を改善するとは限らない
しかし、だからといって話は、流通過程における規制の強化には直結しません。流通過程における規制は必ずしも、生産過程を改善するとは限りません。参入規制によって保護された業者が保護の上に胡坐をかいて手抜きをする可能性があります。公企業や寡占業界が引き起こした事件事故は枚挙に暇がありません。また、いくら参入規制をやったところで、需要が無く儲からないときは儲からないわけで、そうした場合のコスト切り詰め・手抜きインセンティブは参入規制では予防できません。
生産過程の整備は、あくまで正攻法で行わなければなりません。手抜きは、「競争の強制法則」に由来するケースと「緩み・弛み」に由来するケースがあり、「規制か保護か」や「官か民か」といったような単純二分法で分析できるようなものではありません(関連過去ログもご参照いだければと思います)。
■消費者の眼に晒されにくい生産過程を行政が審査し、消費者行動に資する情報を提供すべき
目的が商材・サービスの品質保証であるのならば、あくまでも生産過程における規制こそが正道・本筋です。特に昨今は、消費者の評判が業者の命脈を握っている「評判経済」です。流通過程の権力的規制が必要とされる事態はめったにありません。そのようなことに注力するよりも、消費者の眼に晒されにくい生産過程を行政が審査すべきであり、その結果を積極的に情報公開し、消費者行動に資する情報提供するべきです。あくまで生産過程における規制が主軸です。
そして、現下の競争的価格環境では利益を上げられない業者は、すでに市場から引導を渡されているわけですから、手抜きで生き残りを図る往生際の悪い業者は「処刑」すべきです。「市場の活力を用いる」という規制緩和論の文脈からも、こうした生産過程における審査と規制、その結果の積極的な情報公開(消費者行動に資する情報提供)は、「市場原理の正常な動作を執行している」と言い得るものであり、正しいといえます。
■参入規制等の流通過程における規制は経済の多様性を減殺させる
別の角度から考えてみましょう。以前から述べているように、自由交換経済の真の優越性は、「供給の効率性」ではなく「供給の多様性」です。供給の効率性という点においては、ソ連の急激な工業化のように、実は自由交換経済よりも規制的・計画的経済の方が優れている場合も少なくありません。
供給の多様性という新しい視点を議論に組み込むと、特定業者のみに対する特権的営業許可のような参入規制、商材・サービスの多様性を害する流通過程における規制はさらに慎むべきです。生産過程における規制・基準を満たす業者であれば原則として参入を許すべきです。商材・サービスの多様性と、商材・サービスの品質保証を両立させるためには、「生産過程における厳格な規制と流通過程における最小限の規制」という方法論を、かならずセットにして臨むべきです。
その視点で、引用記事を読み進めると、現状は、特定企業のみを特権的に営業許可しているわけではないという意味では、「流通過程における最小限の規制」の文脈であるとはいえるかもしれませんが、「生産過程における厳格な規制」とは到底いえません。「使用禁止中の車両以外の車両を運行することはできる」などというのは、生産過程における規制としては不十分です。このような中途半端な行政処分をみるに、当局の規制に対する認識には、大変に懸念すべきものがあると言わざるを得ません。規制の本来的な姿を見誤っています。
二度と同じような事故を起こさず、そして、より自己選択の余地のある質の高い生活のために持つべき視点です。