2016年01月17日

共産党の「参入規制強化論」の真意;スキーツアーバス転落事故の「原因」論から

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160116-00000105-mai-soci
>>> <スキーバス転落>運行代金、基準下回る ツアー会社提案か
毎日新聞 1月16日(土)23時32分配信

 14人が死亡した長野県軽井沢町のスキーツアーバス転落事故で、バス運行会社の「イーエスピー」(東京都羽村市)が、ツアーを企画した旅行会社「キースツアー」(東京都渋谷区)から、道路運送法が定める貸し切りバスの基準運賃を下回る19万円でバス運行を受注していたことが、国土交通省の特別監査で分かった。イ社を巡ってはずさんな運行管理が相次いで発覚しているが、国交省は利益率の低い受注がイ社の安全運行体制に影響した可能性もあるとみて調べる方針。


(中略)

 観光庁などは16日、バスを手配した「トラベルスタンドジャパン」(東京都千代田区)に事情を聴いた。ト社側は「キ社から運賃提案があった。最初から基準を下回っていた」と説明。「キ社から『今冬は雪が少なく客も少ない。当面は低い値段でやってほしい』という要望があった」と明かしたという。料金についてはイ社も「キ社と設定した」と話している。

 キ社の福田万吉社長は16日、報道陣の取材に「基準以下の契約とは思っていないが確認する」と話した。

 ツアーバスを巡っては、旅行会社側がバス会社に安価で発注し、バス会社が利益を出すために安全にかかるコストを軽視する実態が指摘されてきた。このため国は45人が死傷した2012年の関越道ツアーバス事故後、貸し切りバスの運賃基準を引き上げた経緯がある。国交省の担当者は「今も下限を下回る運賃が設定されたのは残念。安全を軽視している」と指摘した。
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前回の記事で私は、「規制」を「生産過程における規制」と「流通過程における規制」に分割し、前者(サービス品質基準)は厳格にしつつも後者(参入規制)は最小限にすべきであると述べました。参入規制をいくら強化したところで、サービス品質を手抜きするインセンティブを抑えることとは直結しないからです。

上掲引用記事によると、「『今冬は雪が少なく客も少ない。当面は低い値段でやってほしい』という要望があった」そうです。たしかに今年は暖冬と言われていますから、スキーツアー事業での収入は思うようには行かないのでしょう。暖冬によるスキーツアー事業の売上減が今回の運行管理の杜撰さにつながったのであれば、たとえ参入規制を強化したところでスキーツアー事業自体が儲からない一種の「斜陽産業」なのですから、コスト切り詰め・手抜きの誘惑は振り払うことは出来ません。やはり、いかなるときでもサービス品質基準を満たしているかそのものを問うべきなのです。

案の定、共産党が参入規制が緩和されたことを中心に本件を報じています。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2016-01-17/2016011701_01_1.html
>>> ずさんな運行管理
事故のバス会社 指示書にルート記載なし

(略)
規制緩和 新規参入容易に

 川村雅則北海学園大学経済学部教授(労働経済論)の話 貸し切りバス業界では2000年に規制緩和が行われた。今回事故を起こしたバス会社も一昨年に異業種から貸し切りバス事業に新規参入してきた例だ。

 規制緩和では一定の条件を満たせば誰でも参入できる「許可制」になり新規参入業者は改正前の2倍近くになった。

 零細会社では経営基盤が脆弱(ぜいじゃく)で、賃金水準も低く、労務運行管理上の不備が懸念されてきた。

 しかも今回、国交省の監査結果が出てもすぐに事業者が改善しているわけでないことが分かった。規制のあり方が問われている。

 運転手の労働状態をみると、重大事故のうち「健康状態に起因する事故」が2010年〜11年で1・4倍に増加。「貸切等」でも8件から21件に急増している。今回の運転手も60代と50代で高齢化が進んでいる。夜間の勤務自体が負担を大きくするものだ。

 バス事業の規制とあわせて、労働条件の見直しが必要だろう。職業運転者は過労死が最も多い職種。長時間、深夜、不規則労働、拘束時間と休息期間など労務実態の改善が求められている。
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バス事業の規制とあわせて、労働条件の見直しが必要だろう」ではありません。百歩譲っても「労働条件の見直しとあわせて、バス事業の規制」です。主従が逆転しています。

零細会社では経営基盤が脆弱(ぜいじゃく)で、賃金水準も低く、労務運行管理上の不備が懸念されてきた」のであれば、運行管理に対する指導(=生産過程における規制)を随時行えばよいし、「一定の条件を満たせば誰でも参入できる「許可制」」なのですから、それに従って「不許可」にすればよいだけです(こうした参入規制は「流通過程における最小限の規制」に含まれる認識です)。だいたい、暖冬でスキーツアー事業自体が厳しいのだから、参入規制したところで如何にかなる話ではありませんまったく論理的につながっていない「参入規制強化論」であり、無理筋を通そうとしている点には、何か別の意図すら感じられます。あるいは、本当にただの馬鹿なのか。

同じ主張をかつての自民党が口にすれば、おそらくそれは「業界の利権を守ろうとしている」だけでしょう。民主党も「御用組合経由での業界利権確保の陳情」と見るべきでしょう。社民党だったら、本筋を外して認識を混乱させている「ただの馬鹿」です。では、共産党だったら?

私としてはチュチェ104(2015)12月20日づけ「共産党員の振る舞いから見て取れる「前提とする人間関係」と「政策の身内共同体的性質」」で述べたように、「身内共同体原理に基づく人間関係を前提とした理想社会構想」の一環と見ています。上述引用記事の批評を裏返せば、「利己主義的資本家階級を追放した上で人民的管理下で産業を保護すれば、経営基盤が磐石になり、労務運行管理上が改善されるに違いない」という想定が導出されます。その背景には、ムラ社会的保護観が見て取れます。

結局、こういう大惨事をネタに無理筋を展開し、自分たちの政治的目標を実現するための突破口にコジツケようとしているわけです。
posted by 管理者 at 14:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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