2016年03月13日

保育の世界における公営主義一辺倒が揺らぎ始めたか?

http://bylines.news.yahoo.co.jp/sendayuki/20160312-00055292/
>>> 「保育園通った、日本万歳!」とは限らない理由。 待機児童批判の落とし穴?

千田有紀 | 武蔵大学社会学部教授(社会学) 2016年3月12日 5時35分配信

「保育園落ちた日本死ね!!!」というタイトルのブログが、待機児童の解消問題を提起した。そのこと自体はとても意義があることである。しかしその一方で、こうした問題化により、拙速な待機児童解消を目標とした保育状況の悪化の可能性にも危惧をもっている。


(中略)

保育士が確保できないのは、あまりに保育士の待遇が悪いからである。潜在保育士が復帰しない理由の第一は、条件が折り合わないからだ。これほど潜在保育士がいるにもかかわらず、政府は待機児童の解消のために、研修を受けた保育ママなど資格を持たない人での保育を認めるなどの規制緩和で乗り切ろうとしている。方向が間違ってはいないか?

(中略)

2000年代の小泉政権の「改革」の波のなかで保育園がいっせいに民営化したときに、多くの保護者が不信感を持ち、就労を辞めざるを得なかったことがニュースになった。株式会社が運営する保育所が、必ずしも悪いといっているわけではない。しかし、ある程度の質が担保されなければ、親は安心して働けない。量の問題だけではないのである。

(以下略)<<<
私は、この記事を、「安易な規制緩和の推進」を戒める警句であると同時に、「安易な公営化への逆行」の立場をとっていない点において、2重に注目しました。保育は福祉政策と教育政策が重なる部分なので、ただてさえ公営主義者が多い2大分野のエッセンスがさらに凝縮されてしまう「公営主義者の牙城」であると言ってもよい分野です。

たとえば、チュチェ102(2013)年6月17日づけ「「子供の視点」は「子供の視点」なのか」にてご紹介した、保育園経営者で社会福祉法人理事長でもある長田安司氏の言説。いわゆる「横浜方式」を批判する際に、「保護者といっても所詮素人! 素人が『選択の自由』を行使しようものなら、きっと自分に都合のよい保育サービスを選択するに違いない!」などという論理をもって、公営主義すら飛び越えた主張を展開しました。長田氏の理想は「子供が3歳までは母親に育児休業を十分とってもらい、その間、無理に働かなくても良い仕組みを作る」ことだそうで、その意味では字義どおりの「公営主義者」ではありませんが、現実的にそれは無理ですから、結局は、「子どもの発育のためには、保育所入所は行政処分で!」に至らざるを得ないでしょう。結果的に「公営主義」に行き着く主張です。

しかし、この記事は、前述の通り、「安易な公営化への逆行」の立場を取っていません。「株式会社が運営する保育所が、必ずしも悪いといっているわけではない」と断り書きをつけています。公営主義者であれば、「株式会社=儲け主義」という定式を必ず出してくる(たとえば日本共産党機関紙『赤旗』の基本論調)はずです。

これはおそらく、「横浜方式」が取り沙汰された時期以上に、現実の待機児童問題が深刻化しており、「主義者」たちの「イデオロギー空中戦」などを取り上げている場合ではなくなってきているということなのでしょう。生活者の立場としては、求めている質を満たし適切な価格のサービスであれば公営・民営の区別はまったく問題ありません

むしろ、「「保育園落ちた日本死ね」と叫んだ人に伝えたい、保育園が増えない理由」という記事が暴露しているように、役所の無意味なルールが保育所増設を阻んでいるという側面すらあるのです。公営主義的な足掻きが事態の深刻化に拍車をかけているのならば、公営主義もまた清算の対象になるでしょう。

さらに付け加えるのならば、多様なサービスの提供には多様な供給主体の参加が不可欠です。参加者が限定されているフィールドでは、アイディアも限定されてしまいます。グループに入れなかった新進気鋭のアイディアマンが持っている素晴らしい発想が埋もれてしまいます。子どもの可能性はまことに多様です。であれば、その伸ばし方も多様でありましょう。となれば、その能力を伸ばすサポーターも、広く募るべきです。その意味で、私は保育への公営主義に反対であります。

ようやく、保育の世界における公営主義一辺倒な前提が揺らぎ始めたように思います。もちろん、単に論点を分離して触れていないだけかもしれません。しかし、そうであれば、分別なく「やっぱり公営が一番!」と短絡的に結論を持ち出さない・持ち出せない、別稿で慎重に展開しなければならないようになってきたとは言えるでしょう。
posted by 管理者 at 20:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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