2016年03月27日

原発事故風評被害の根底には恐怖心がある;恐怖心を和らげようとしない「良識的批判」こそが風評被害継続の原因

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160323-00000532-san-soci
>>> TOKIOのラーメンに「福島の小麦から作った麺なのかよ。人殺し」 作家のツイートが大炎上、アマゾンレビューにも延焼中

J-CASTニュース 3月22日(火)18時23分配信

 アイドルグループ「TOKIO」が2年がかりで作り上げた「世界一美味いラーメン」。テレビで試食の様子が放送されたところ、ある作家が「福島の小麦から作った麺なのかよ。人殺し。」などとツイッターでつぶやいた。

 これがネット上で大騒動に発展し、作家のツイッターが「炎上」しただけでなく、作家の新刊本のアマゾンレビューにも大量の批判が書き込まれた。作家は問題のツイートを削除し、自身のブログで謝罪した。

■「自分も食べてみたい」と大騒ぎになるなか

 日本テレビ系バラエティー番組「ザ!鉄腕!DASH!! 」の企画でTOKIOが2年がかりで取り組んだ究極のラーメンの完成が2016年3月20日の放送で報告された。とにかく素材にこだわっていて、高知土佐清水の宗田鰹、能登の海塩、函館の真昆布など18の材料が使われた。麺に使われたのは福島産の最高級小麦「春よ恋」。誰が作ったラーメンかを伏せた試食会が行われ、麺やスープを口にした人の表情が見る見る変わっていくのを見ると、よほど美味しく出来たラーメンだということがうかがえる。一杯の原価が630円だそうで、仮に店舗で販売すると値段は2000円以上になるという。ネット上では「自分も食べてみたい」と大騒ぎになるなか、あるツイートが、こうしたお祭り騒ぎを凍らせることになる。ミステリー作家の藤岡真さんのもので、藤岡さんは、

  「TOKIO。究極のラーメンて、福島の小麦から作った麺なのかよ。人殺し」
  「未だに『食べて応援』している馬鹿がいて頭が痛くなる」

などと16年3月20日の番組終了時につぶやいた。過去には、

  「福島の農家の皆様は、どうか地産地消して下さい。県外に出荷するほどの生産量があるのですか。そして、ご自分のお子さんには絶対に食べさせないで下さい。なお、圏外で生産物を目撃したら『毒入り食べたら死ぬで』シールを添付させていただきます」
  「おい、福島の百姓。放射性物質で汚染された毒作物を県外にまくな。その前にてめえで食って死ね。もう、我慢も限界だ」

などとつぶやいたことがあり、この時もネット上で物議を醸した。


(中略)

本質的な謝罪にはなっていない、と火に油を注ぐような形になっていて、

  「グレーゾーンではなかろ?安全と断言できるんだが?何を謝罪すべきか判断する知性も持ち合わせてないのか?」
  「あなたみたいなひとがいるから風評被害は止まないんだよ。福島の人たちが苦しんでるのに、よくそんなこと言えるよな。 あんたが人殺しだわ 作家かなんかしらねーけど、言葉選べ」
  「まるで子供だ。一作家なら中坊が書いたような言い訳しか並んでない反省文みたいな文章よりもきちんとした謝罪文を出すのが筋だろ」

などといったことがリプライされている。


(後略)<<<
この発言は論外の発言ですが、それに対する「良識的反論」にも問題を感じます。じつに「良識的」な範囲内に収まってしまっており、いまだに「福島県産農産物は危ない」と考えている人たちの動機にまったく迫っていないと言わざるを得ません。相手の言い分を聞かずに、ただ「正論」を並べている「(ステレオタイプ的な意味での)学級委員」のようなものを感じます。こういう「良識的反論」を続けると、福島県産農産物の安全性問題に関して意見を口にすること自体がタブーになり、差別意識が地下に潜行することになるでしょう。「福島県産は黙って買わないのかベスト」という空気になってゆくことでしょう。日本は自由市場経済なのだから、特定の商品について「買いたくない」と思うのなら黙って買わなければよく、特定の商品を買わないこと自体を非難される筋合いはありません。これは果たして「良識的反論」をしている人たちが望んでいる事態でしょうか? 「良識的」な人たちの行動は、自分の理想を自分で遠ざけているのではないでしょうか?

詳しく述べましょう。福島県産農産物に対して排斥的姿勢を持っている人たちの動機は、それの当否は別にして、結局は「恐怖」なのでしょう。典型的な「良識的反論」として、「福島県産農産物の安全性は科学的に証明されている」というものがあります。しかし、この問題に対して深い懸念を持っている人たちは、「『科学的に安全性が証明されている』って、原発もそのはずだったじゃん・・・」というように、原発事故以来、「科学」だとか「科学者」に対して根強い不信を持つに至り、いまもその不信が拭い取れていない人々です。彼らは、恐怖と不信感に囚われいるのですから、いくら「科学的データ」を並べられても、「はい分かりました」とは言えない心理状況にあります。

そういう人たちに対して、なおも「福島県産農産物の安全性は科学的に証明されている」と言ったところで、そもそも話題が噛み合っていないのですから、何の意味もない「反論」に過ぎません。むしろ、「安全性が科学的に証明されて久しいのに、なぜ今も恐怖心に囚われているのか?」という点に関心の軸を移し、その恐怖を和らげる、ある種のカウンセリング的対応を展開しない限り、恐怖と不信感に囚われいる人たちはずっと考えを変えないでしょう。また、時間の経過とともに社会的議論が下火になっていくにつれて「世の中は別として、家族と自分自身だけでも身を守らなきゃ」という立場の人も増えてゆくことでしょう。そうなれば、福島県産農産物に対する恐怖心・福島県に対する差別意識は、決して社会的には顕在化しえない地下潜行が進むことでしょう

かつて、日本国内で狂牛病が発生したときに行われた「全頭検査」を思い起こしていただきたいと思います。狂牛病感染検査においては、統計学的に有意なサンプル抽出で科学的にはまったく問題ないのに、日本人はどうしても「全頭検査」にこだわりました。もちろん、「脳みそがスポンジ状になってしまう!」と言われれば、恐怖を感じるのも無理もありません。率直に言って、「科学的根拠のない福島県産農産物排斥」と「科学的根拠のない狂牛病全頭検査」は、それを支える動機にはまったく何の違いもない、どちらも「恐怖」に支えられているものであると言わざるを得ないと思います。結局、安全性の問題は科学の問題とは割り切れないのです。

その意味では、記事中で取り上げられた、以下の典型的な反論は、福島県産農産物に対してなおも恐怖心を持っている人たちの本心を汲み取らず、あくまで「自分たち側」の論理だけで攻撃している不十分な言説であると言わざるを得ません。
>>> あなたみたいなひとがいるから風評被害は止まないんだよ。福島の人たちが苦しんでるのに、よくそんなこと言えるよな。 <<<
「そんなこと言われたって、怖いものは怖いし信用できないものは信用できない」というのが、彼らの真意です。「たとえ差別だ何だと言われたって背に腹はかえられない」というのが、彼らの動機なのです。彼らの立場に立てば、「原発は絶対安全」などと太鼓判を押していた日本の科学者たちの馬脚があらわれた原発事故後になってもなお、そんな科学者たちの「科学的に安全が証明された」などという大本営発表を鵜呑みにしたノーテンキな連中に、自分たちの不安を一顧だにされず、ただ「迷信的被害妄想」だの「福島の人たちを苦しめるひどい人」だのと人格的に批判されるのも(程度の差こそあれ)「苦しんでる」うちに入る、と言いたいでしょう。

やはり、単に「科学的事実」を高圧的に提示するだけではなく、彼らの不安、彼らの不信感を拭うようなフォローが必要とされています。原発事故から5年たってもまだ信頼が回復していないのだから、かなり根深い観念です。また、こうしたツイートがいまだに出てくる点、不信に対する正確なフォローが5年間十分に行われてこなかった証左であるともいえます。「がんばろうニッポン」などというスローガンが如何に空虚だったのかが示されています。

もっとも、たとえ冷静な立場にたったとしても、「科学」というのは、結局「いま分かっている因果関係を並べたストーリー」にすぎません。そもそも未曾有の原発事故なのですから、人間がまだ知覚していない因果関係の歯車が静かに回っている可能性もあります。そうした不確実・不明瞭な現実に対して、「なるべく関わらない、なるべく避ける」という超慎重主義的な観点・立場も、一概に否定できるものではありません。こうした観点・立場に対して、神ではない「良識的」な人たちが批判できる「正義」は存在しないでしょう。究極的には、あくまで「たとえ差別だ何だと言われたって背に腹はかえられない」という人たちを説き伏せ切ることは出来ないかもしれません。しかし、だからといって彼らの不安感・不信感に対して何の対応も取らず、ただ「良識的な批判」を高圧的に展開し、ツイッターを炎上させて数の力で沈黙させればよいわけではないのです。サイレント・レイシストは根絶できないかもしれませんが、一人でも少なくすべきです。
posted by 管理者 at 14:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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