2016年06月19日

マクドナルドの「殿様商売」「ブラック労務」に改善を強いたのは労働組合ではなく市場メカニズムのチカラ

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160614-00010007-bjournal-soci
>>> バイト集まらない…マック、人手不足深刻で客スカウト!
Business Journal 6月14日(火)6時4分配信

 日本マクドナルドホールディングスが6月6日に発表したところによると、5月の既存店売上高は前年同月比21.3%増で、6カ月連続プラスとなった。「クラブハウスバーガー」や「ロコモコバーガー」といった比較的単価の高い期間限定メニューを発売したことが功を奏したかたちだ。


(中略)

 そんな上り調子に見えるマクドナルドだが、極めて大きな懸念を抱えている。

 それは人材不足だ。全体を統括する幹部クラスの人材も十分とはいえないが、現場は極めて深刻な人手不足に陥っている。

 マクドナルドは、店舗を運営させるにはクルーと呼ばれるアルバイトスタッフが3人以上必要と定めている。24時間営業をしている店舗のうち、深夜帯に3人を確保できずに営業時間を短縮しているところが続出している。3人確保して営業しても、誰かが清掃や休憩などをすると、ほかのクルーの負担が非常に重くなる。

 また、当然ながら昼どきなど忙しい時間帯には多くのクルーを確保する必要があるが、それもままならない状況だ。アルバイトが確保できない場合には、社員のマネージャーや店長も現場に出て対応するが、限界がある。

●マクドナルドの人手不足の原因

 この人手不足は一部の店舗に限ったことではなく、全国的な問題となっている。その原因としては、以下の3つが挙げられる。

(1)マクドナルドへの信用失墜

 期限切れの食肉使用から始まり、相次ぐ異物混入などでマクドナルドの商品は「安かろう、悪かろう」の代名詞となった。そのような企業は、積極的に働きたいと思う対象ではなくなっている。

 また、若者の間では、「パワハラがすごい」「労働環境が悪い」「長時間労働させられる」などの情報が流れ、「マクドナルド=ブラック企業」というイメージが強い。実際にはすべての店舗がそのような悪い労働環境ではないはずだが、悪い情報はネット上で拡散されやすいうえ、業績の悪さに乗るかたちで広まった。

(2)業界全体の人手不足

 昨年、商工会議所が全国の企業を対象に調査したところによると、飲食店業界では「人手が足りない」と答えた企業が約半数に上った。つまり、今は売り手市場となっているため、条件の良い店でなければ働き手は集まりにくくなっているのだ。

(3)給与の低さ
 
 マクドナルドのアルバイト時給は、それぞれの地域の最低時給に近い。全国で700〜800円台がほとんどだ。東京都内でも900円台だ。今や飲食店のアルバイトは都内であれば1000円を超すところが多くなっているなかで、900円台で人手を集めるのは厳しいだろう。


(以下略) <<<
■殿様商売が動いた!
マクドナルドが、労働者(従業員)が思うように集まらない現実に対して漸く危機感を覚え、対応を始めました。マクドナルドといえば、対労働者は勿論、一般消費者をも軽視している「超殿様商売企業」です。あれだけの圧倒的・独占的なネームバリューがあると、やはり驕りが隠せないということなのでしょう。

しかし、彼らの驕りに驕った観念とは異なり、現実には、一般消費者にとってマクドナルドの商品に代替財がないわけではありませんし、労働者はマクドナルド以外に働き口がないわけではありません。それゆえ、一般消費者の「マック不信・マック離れ」は未だに深刻な水準で、「マック殿」もあの手この手で対応することを迫られています。また、引用記事にもあるように、求職者の「ブラック・マックでは働きたくない」という自主的選択が折からの景気回復・求人数増加を背景にますます有効に作用し、「殿様」がこうして「家臣(奴隷?)」対策に乗り出すことを余儀なくされました。

■「殿様」に改善を命じたのは市場メカニズムのチカラ
この現実を踏まえれば、今回こうして「マック殿」が改善に乗り出さざるを得ない環境を創出したのは、「市場メカニズムを通して合成・増幅された一人ひとりの消費者・労働者の自主的選択」であると言う他ありません。そう、世界的大企業であるマクドナルドの、日本における圧倒的・独占的な立場を掘り崩し、その「殿様商売」に転換を強いたのは、「市場メカニズムを通した兵糧攻め」という方法論だったのです!

以前にも述べたように、あの「すき家」がワンオペを中止したのも、従業員応募の激減という労働市場における評判の低下によるものでした(当該過去ログ)。今回のマクドナルドの対応着手も、すき家同様、当ブログで以前より繰り返し述べてきた評判が決定的な作用をもたらす現代市場経済における「嫌だから辞める」「ブラックだから応募しない」路線の有用性、労働市場における市場メカニズムの作用を積極的に活用する形での労働自主化の方法論を補強する事実です。

■相変わらず甘っちょろい労組運動家の認識
こうした情勢にも関わらず、NPO法人POSSE代表の今野晴貴氏が、「ワタミメンバーズアライアンス(ワタミ労組)」や「介護・保育ユニオン」の結成を取り上げて、相変わらず無邪気な言論を展開しています。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/konnoharuki/20160619-00058992/
>>> ワタミだけではない。介護・保育でも労組結成 労組は何ができるのか?

今野晴貴 | NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。 2016年6月19日 12時47分配信


(以下略) <<<
記事中の「労使の力の格差を埋める、労働組合(ユニオン)」で始まる段落は正しい指摘です。「民法を補完する労働法」という歴史的に正しい位置づけを踏まえています(以前にも述べたように、バリバリの化石左翼だと「社会主義・共産主義を目指す労働者階級による階級闘争の獲得物」といった勝手な理屈をつけます)。「ぜひ労働組合に相談にして労働組合法上に定められた「対等交渉」の権利を行使してほしい。」というくだりも、一概には否定できるものではありません。しかし、やっぱり甘い。ブラック企業の経営者・資本家に対して「要求すれば改善される」という幻想を持っているのです。

■労組の交渉よりも強力な市場の圧力を経済学的に分析すると・・・
なんども繰り返し繰り返し述べていますが、ブラック企業の経営者・投資者たちが「改心」するはずありません。要求したくらいで改心するなら最初からやりません。また、労働者階級に強硬な立場を取れる圧倒的に有利なポジション、労働市場における労働需要独占者のポジションを予め確保してから強度の搾取に乗り出しています。労働者が団結して反抗したくらいで崩れるような立場に立っているはずがありません。磐石で、さらに二の矢・三の矢をも準備しているというべきです。ことによっては政治権力と結託していることもあるでしょう(ブルジョワ的階級国家・国家独占資本主義)。

労働者階級に強硬な立場を取れる圧倒的に有利なポジション、労働市場における労働需要独占者のポジションを予め確保したブラック経営者・ブラック資本家の立場の経済学的意味は以前にも述べましたが、重要なので再掲します。
http://rsmp.seesaa.net/article/427429066.html
>>> (前略)労働者が真の意味で自主的になるためには、企業側に足許を見られないために特定の勤め先に対する依存度を下げることが必要です。なぜ電力会社が一般電力消費者に対して殿様商売ができる(できていた)のかといえば、他に売り手がいないからです。なぜ、自動車メーカーが下請け工場の部品をふざけた値段にまで値切ることができるのかといえば、他に買い手がいないからです。他に売り手/買い手相手が居ないとき、買い手/売り手は、売り手/買い手に対して依存的立場・弱い立場に置かれます。前述の競争市場の基本原理に対して独占市場の基本原理です。

労働者は同時に一企業でしか働けないのに対して、企業は同時に複数の労働者を雇用し得ます。いくら労働者が束になったところで、労働者が「できればその企業で勤め続けたい」という願いを前提として団体交渉に臨んでいる限り、最終的には企業側の掌の上に居続けます。企業は需要独占者の立場に居続けます。ミクロ経済学における「価格弾力性」を思い浮かべてください。ミクロ経済学によれば、需要者に対して供給者の価格弾力性が硬直的であった場合、たとえそれがマーシャリアン・クロスが成り立つ非独占・非寡占の市場であっても、取引の主導権は需要者側にあるといいます。
(中略)これはすなわち、こうした前提で臨む限り、団体交渉における労働者の立場は弱いということを示します。

価格弾力性の決定要因は「代わり」の存在の有無です。「代わり」があればその取引にこだわる必要は無いので、価格弾力性は弾力的になります。「代わり」がなければ何としてでも取引を成立させなければならないので、価格弾力性は硬直的になります。

ミクロ経済学的考察に基づけば、労働者の立場と為すべきことも見えてくるでしょう。真に交渉力を持つためには、「辞めるよ?」という脅しが必要なのです
(以下略) <<<
労働者の自主化は、ブラック企業側の経済的基盤を掘り崩して初めて達成されるものなのです。

歴史的に見て、大ブルジョワジーの権力基盤を掘り崩し、彼らに何らかのアクションを強制するには、国家権力の強権的発動が定番でした。甚だしい例が、スターリン体制・毛沢東体制における「銃殺刑」「吊るし上げ・なぶり殺し」「シベリア送り」「農村追放」でした。しかし、そうした階級的暴力を行使せずとも(そもそも現代日本では階級的暴力は行使できません)、「嫌だから辞める」「ブラックだから応募しない」路線の有用性、労働市場における市場メカニズムの作用を積極的に活用する形での労働自主化の方法論が大きく浮上しています。

市場経済における「競争淘汰」は、企業にとっては「死」そのものです。となれば、市場を上手く活用することによって、企業相手に「兵糧攻め」できないでしょうか? 市場経済社会に暮らす労働者階級の一人ひとりが「嫌だから辞める」「ブラックだから応募しない」という自主的選択をすることによって、「市場メカニズムを通した兵糧攻め」という結果を導くのです。一人ひとりの自主的な態度表明をうけた「市場メカニズムによる自動的な経済的な死刑執行」を活用するのです。

「ブラック企業が改心するはずがない」「企業側の経済的基盤は強固である」――こうした厳然たる事実を踏まえれば、やはり今野晴貴氏の労組期待論は「甘い」と言わざるを得ません。自主化を目指す労働者は、企業の労働需要独占者としての立場を掘り崩すことをメインに据えなければ勝利はおぼつかないでしょう。労働者階級は交渉力を持つべく「辞めるよ?」という牽制手段、「非暴力的で市場的な階級闘争」が必要なのです。今野晴貴氏の言説には、そこが足りていないのです。

■要求実現型労組は堕落する
そうした戦略を欠いた労組運動は、中途半端に要求を実現することによって、企業側と「お互い様の利権分配関係」に堕落し、癒着を強め、御用組合化・労働貴族化することになるでしょう。経営状態が順調であれば問題ないかもしれませんが、ひとたび経営が悪化すればすぐに労使対立が先鋭化するでしょう。しかし、長く企業の労働需要独占者としての立場を掘り崩すことを怠ってきた労働者側は、急には交渉力を持ちえず、結果的に企業側の言いなりに成り下がるでしょう。また、平時においても御用組合化は、部署・店舗レベルでのパワハラ・セクハラを揉み消す方向性を持つことでしょう。ちょっとしたトラブルを解決するために、せっかく獲得した利権を手放すことは考えにくいものがあります。

■介護・保育業界は労組を結成している場合ではない!
「介護・保育ユニオン」について言えば、この場合は業界内で階級闘争;労使交渉以前に、業界が正常に維持・発展してゆけるように、もっと上のレベルでの活動を優先する必要があります。いま、介護業界・保育業界で求められているのは、労働組合でなく業界団体・支援してくれる族議員でしょう。

旧態依然なタイプの階級闘争系の方々は、社会を分断して観察することばかりしがちですが、社会は全体としてシステムです。そうした世界観レベルでの認識に誤りがあると、かつての「炭労」の失敗を繰り返すことになるでしょう。斜陽産業内での分配闘争に明け暮れているうちに、産業自体が消滅することになりかねません。

■要求実現型労組運動への幻想はブラック企業を利する裏切り行為
将来的には、労働者階級から突き上げられることなく十分な待遇をあらかじめ提示してくる良心的企業家(こういう人たちは存在すると思います)による企業と、自主管理的企業のみによる集団主義的な市場社会を目指している私のような立場から言えば、「ブラック企業相手でも粘り強く要求すれば如何にかなる」などという幻想を振りまく手合いは、まったく甘っちょろい「ブルジョワ博愛主義者」「安っぽいヒューマニズム物語信奉者」であり、有害であるとすら言いえます。

とまあ、ここまで書いてきて、チュチェ104(2015)年12月19日づけ「今野晴貴氏の無邪気なユニオン論――ユニオンに「強制力」と「階級的矜持」はあるのか? ユニオンにも警戒せよ!」を読み返してみたところ、まったく同じようなことを書いていましたww今野晴貴氏の「甘さ」は全然かわっていないということですね。
posted by 管理者 at 14:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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