2016年06月24日

「生活の現実」とEU離脱派の主張

イギリスが、国民投票の結果、EUを離脱することになりました。
どういう階層が離脱支持者だったのかという点について、以下のような分析が提出されています。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160622-00093510-diamond-bus_all&p=2
>>> 5分でわかる英EU離脱の争点と世界経済への影響

ダイヤモンド・オンライン 6月22日(水)8時0分配信


(中略)

 総じて見れば、低所得層、低学歴層に離脱支持者が多く、富裕層あるいはリベラルな考えを持つ人たちに、残留支持者が多いとみられる。2大政党である保守党、労働党の中でも、離脱派と残留派に意見が分かれており、特にキャメロン首相が率いる保守党は離脱派も多く、国民投票でどちらが勝つか、だれにも分からない。確かなことは「英国が二分されてしまった」(クレイグ氏)ことだけだ。

(以下略) <<<
■離脱支持者・残留支持者の人的構造
「離脱支持者=低所得層または低学歴層、残留支持者=富裕層またはリベラル派」という構図だそうです。「そんな簡単な図式ではない」という指摘もありますが、以下ではこの図式に乗っかることにします。

週刊ダイヤモンド編集部のEU離脱派に対する評価は明示的には書かれていませんが、この図式に接した読者のうち、少なくない人々は、「馬鹿な貧乏人が目先の利益に走った」「学のある人、成功している人が正しい選択をしたのに衆愚民主主義によって偉大なEUの発展に水が差された」という感想を持ったのではないでしょうか。

■政治の立脚点、政治の目的とは何か
さて、政治は現実に立脚しなければならないことは、議論の余地はないと思います。たとえ理想を追求するにしても、「国家百年の計」を考えなければならないにしても、「今の現実」の上に据え付けなければなりません。では、政治がまず考慮に入れなければならない「今の現実」とは何でしょうか? 人々は何を求めているのでしょうか?

以前から繰り返し述べているように、それは「生活」です。人々は「日々の生活」を営みながら、「よりよい明日の生活・自主的な生活」を追求しています。よりよい明日の生活を追求する上では様々なビジョン・理想社会論が出てきますが、それらはすべて「生活のためのビジョン」です(生活を目的としない理想論は無意味・空虚です)。人々が立脚する現実は生活であり、人間活動の目的は生活であり、すべては生活のための道具です。「生活の現場こそが現実」なのです。

■生活上の事件は(下層の)現場で起きている
「生活の現場こそが現実」という認識に立つと、低所得層・低学歴層の生活現場は、「社会を支える下層部」という意味において、生々しいリアルな現実であるといえると思います。「高所得・高学歴層の生活は虚偽の観念的生活」というつもりはないのですが、もっぱら頭脳労働に専念している人々は、どうしても実際の現場との「距離」が生まれてしまいます。某映画のセリフではありませんが、生活上の事件は(下層の)現場で起きているとみるべきです。

となれば、「馬鹿な貧乏人が目先の利益に走った」などと一概に否定できるものではないでしょう。「学のある人、成功している人」の「正しい選択」は、長期的に見れば正しいのかもしれません(私自身もEUには「大きな改革」は必要だとは思いますが「離脱」は違うと思っています。「残留派が小数点ポイントレベルの僅差で辛勝したがイギリス国民の不満は相当溜まっている」という事実を以ってEUに改革を迫るのがベストだったと思います)が、「まずは今日の生活があってこそ」という政治の大前提をスッ飛ばしてしまっているのです。もしかしたら、下層の人たちが肌で感じている「変化」に、上層の人たちが気がついていないということもあるでしょう。

たとえば以下の記事は、生活者視点でのEUを論じています。
https://wirelesswire.jp/2016/06/54327/

■「馬鹿な貧乏人」は、悠長に未来社会論に期待している余裕はなく、現路線に託す希望はない
また、そうでなくとも(=どう見ても残留がベストというほかない)、「馬鹿な貧乏人」だって、いや、だからこそ、日々の生活に必死です。いくら「国家百年の計」と言っても、まずは今日明日の生活あってこそです。EU残留が長期的に見て最も合理的な路線であり、今の苦境はEUの発展によって長期的には解決されることが確実だとしても「長期的には我々は皆死んでいる」のです。目の前の生活に目処が立ってこそ未来社会論を考える余裕が出てきます。どんなに合理的な未来社会論だとしても、目の前の生活の目処が立たないのならば、その未来社会論を選択することはできません。生活は不断に連綿と続くものであり、ひとっ飛びに進むことは出来ません

また、どんなにエリートが「EUを離脱したらイギリス経済はまっさかさまだ!!! 生活が成り立たなくなるぞ!!!」と叫んでも、どっちにしてももうダメな人たちには関係ありません。むしろ「もしかしたら何か変わるかもしれない」という一縷の望みに掛けたほうが「合理的」でしょう。「馬鹿な貧乏人」は本当にカツカツに追い詰められているのです。悠長に未来社会論に期待している余裕はありませんし、現路線が示す未来社会のビジョンに託す希望はないのです。

■高学歴者の陥りがちな「感覚」
高学歴者は高い教養、広く長期的な視野、歴史への造詣の深さなどのために、往々にして「日々の下世話な話題」を忘れがちです。チュチェ105(2016)年4月7日づけ「自称「革命家」の観念的時間感覚と、生活者の現実的時間感覚――日本共産党の数年以内の認可保育所「緊急」増設」においても述べましたが、たとえば「共産主義」のような超理性主義・超未来社会論の立場に立つ人々は、「理想の未来社会」の基準に立脚してしまうために、「生活者の感覚」とは異なる「革命の感覚」でモノを語ってしまいます。

また、歴史オタク、たとえば「幕末の志士」に憧れを持っている人々も、「歴史年表の感覚」で物事を考えるために、やはり短くて半年、長ければ10年単位の時間軸で「夢」を語り、その「夢」に従うように要求します(「吉田松陰マインド」って言うんでしたっけ? 「共産主義思想改造」と何が違うんでしょうね?)。しかし、それは政治ではないのです。

■「誇り」だって無視できない
EU離脱派は、右派思想と親和的です。日本でもそうですが、右派思想はどうも、「誇り」を重視する傾向があるようです。誇りは、突き詰めると「打算」というよりは「感情」に近いものがあります。この点を取り上げて、「感情的なEU離脱論が勝ってしまった。感情を取って経済を捨てた。愚かという他ない」という主張も一定の正当性はあると思います。

しかし、経済はあくまで手段であり、それ自体は目的ではありません。離脱派が「誇り高い生活」を追求する人たちであれば、彼らにとっては「誇りの追求」こそが生活の目的です。あくまで道具にすぎない経済などは、それに従属するものという位置付け以上にはなり得ません。何に価値を見いだしウェイトを置くかは、部外者が口出しできる問題ではありません(そこまで国の誇りに忠実であれるのは、「向こう見ずだなあ」と思いつつも、ちょっと羨ましいかも)。もちろん、その選択の結果は責任をもって受け入れていただきましょう(当然)。逆に、仮に経済を優先する選択をし、大切な伝統と価値、誇りを失い、カネと売春、頽廃的享楽しか残らなくなったとしても、それは甘んじて受け入れる他ありません(EU離脱では、まず、そうはならないでしょう。経済打算主義を貫徹すればの話です)。

■高所得で高学歴だった残留派の致命的ミス
カツカツに追い詰められている「馬鹿な貧乏人」への有効な対策が打てなかったこと、これは残留派の致命的ミスだったのかもしれません。馬鹿でも貧乏でも一票は持っています。いくら「愚民」と罵ったところで負けは負けです。それは民主主義体制を選択したときから分かりきっていたことのはずです。

「学のある人、成功している人が正しい選択をしたのに衆愚民主主義によって偉大なEUの発展に水が差された」などと憤っている人がいるとすれば、その理屈に乗っかれば、そんな「貧乏人ども」なる人々を教育・指導できなかった高学歴層の力不足を反省すべきでしょう。たいへんご優秀な高学歴層の皆々様におかれましては、判断力のある低所得者層向けに論理的な教育・指導をすべきでした。また、その理屈に乗っかれば、「馬鹿共」に意思表明の機会を与えてしまった判断ミスを反省すべきでしょう。国民投票を約束すべきではありませんでした。仮に国民投票せざるを得なかったとしても、ビジネスの才覚に優れた人生の勝ち組・低所得者とは人間の格が全く異なる高所得者の皆々様におかれましては、ケチケチせず資金に糸目をつけず、アメリカ大統領選挙のようにネガキャンを含めたメディア・イメージ戦略を打つべきでした。「低学歴の馬鹿共」にイメージを刷り込んでおけばよかったのです。

それをしなかった、たいへんご優秀な高学歴層の皆々様、ビジネスの才覚に優れた人生の勝ち組・低所得者とは人間の格が全く異なる高所得者の皆々様は、EU残留の努力が足りなかったのであり、負けたのです。残念ながらそれが事実なのです。まあ、これ日本語で書いても仕方ないんですけどね。
ラベル:政治 社会
posted by 管理者 at 22:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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