>> 貧困高校生 ネットメディア誤報 影響力自覚した取材とチェック態勢を■不可解な手加減をする毎日新聞
毎日新聞2016年9月19日 東京朝刊
(中略)
ただ、記事がネット上に拡散して高校生への攻撃を後押しした側面もある。ネットメディアが徐々に影響力を強める中、その責任も重くなっている。
(中略)
ネットメディア「ビジネスジャーナル」は同月25日、「女子高生の部屋にはエアコンらしきものがしっかりと映っている」と報じ「NHKのコメント」も載せた。同月31日に「お詫(わ)びと訂正」を出して「エアコンはなかった」と記載し、NHKに取材していなかったことも明らかにした。
2012年にスタートしたビジネスジャーナルは無料でネットに記事を配信し、月平均3000万ページビュー(PV)を獲得している。運営する「サイゾー」の揖斐憲(いびただし)社長(44)は取材に「NHKから指摘されて発覚した。あまりにもお粗末だった」と述べ、石崎肇一(はじめ)編集長を更迭する方針を示した。NHKには「高校生に直接謝罪したい」とも伝えているという。
揖斐氏によると、編集長ら社員3人が30人程度の外部執筆者の原稿を受け取り、1日10本程度の記事を配信してきた。「記事量とチェック体制のバランスが欠けていた。コストをかけずにPVを稼ぐため、記事本数で賄おうとする無料ネットメディアの構造的問題もある」と話した。
記事を書いた20代男性は昨年秋にサイゾーと契約し7本程度の記事に携わったが、内部調査で他の記事に問題は見つかっていないという。揖斐氏は男性について「契約前に取材や記事執筆の経験はなかったが、コメントを捏造するとは疑っていなかった」と語った。
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こうした記事が、皆が忘れ始めた頃に、「ネットメディアの影響力」を主題に据えて出されるあたり、いよいよ本件も幕引きのタイミングなのでしょう。攻める側は完全に飽きていますし、守る側がこれですからね。。。
ビジネスジャーナルの捏造は、それ自体が重大な事案です。これもまた捏造事案であり、徹底的に追及する必要があります。私は湯浅誠氏とは違って「枝葉の議論だから、たとえ捏造でも問題ではない」なんて言うつもりはありません。
責任追及は新聞メディアの晴れの舞台。「だったら、どうしろってんだよ」「おまえがやってみろよ」と言いたくなるようなお気楽な批判を常日頃から垂れ流している新聞メディアが、今回に限っては「記事本数で賄おうとする無料ネットメディアの構造的問題もある」などという「本人たちの言い訳」をそのまま掲載しています。手加減していますね。
いくらネットメディアだからって、揖斐社長の言い分は捏造の弁解にはなりません。毎日新聞はこんなレベルの低い言い訳をそのまま掲載すべきではありませんでした。政府追及のときとは、不可解なまでに論調が異なります。
■不可解な構図を描く毎日新聞
そもそも、ビジネスジャーナルの捏造は「ネットメディアか否か」という点はまったく問題ではありません。捏造は捏造、ウソつきなのです。
また、「記事がネット上に拡散して高校生への攻撃を後押しした側面もある」としますが、毎日新聞が槍玉に挙げているビジネスジャーナルの記事は、騒動の発端となった8月18日の放送から1週間もたった25日の記事。その内容も正直言って、ネット上で既に展開されている指摘・議論の表層に軽く触れる程度のもので、記事の情報密度としてはスカスカでした(私はリアルタイムに見てましたからネ)。ビジネスジャーナルの記事は、今回のNHK捏造疑惑騒動の論点をフォローしきっているとは言えませんでした。今回のNHK捏造疑惑騒動をリードする報道ではなかったのです。
一般的に言って、ネットメディアは「ネット世論のまとめ」くらいの情報密度しかないケースが多く、ネットメディアの記事自体が、炎上に対して燃料補給することは、それほど多くないというべきです。炎上事案に燃料補給される場合は、SNSが特定されて新しい情報が発掘された場合か、あるいは、毎日新聞をはじめとする新聞メディアの商業的取材行為でネットのレベルでは暴ききれない新事実が発覚するときくらいでしょう。毎日新聞をはじめとする新聞メディアの誤報・捏造でネット上で大炎上が発生・過熱する事例のほうが多いし、その可能性も高いのです。
「ネットメディアか否か」という点はまったく問題ではないにも関わらず、無理矢理に「ネットメディア」を主軸に据える毎日新聞。また、今回のNHK捏造疑惑騒動をリードしていたとは到底言えない薄っぺらいビジネスジャーナルの記事を無理矢理に騒動の首座に据える毎日新聞。炎上はビジネスジャーナルの記事以上に「延焼」していたにも関わらず、「記事がネット上に拡散して高校生への攻撃を後押しした側面もある」などとして、因果関係・主従関係を逆転させるが如き構図を描く毎日新聞――「ネットメディアの影響力」を述べるのであれば、今回のNHK捏造疑惑騒動をビジネスジャーナル記事を切り口として取り上げるのは適切とは言えないにも関わらず、敢えてこのような記事を掲載した毎日新聞の不可解さがますます際立ちます。
■なぜ?
なぜ、毎日新聞は敢えて、「NHK捏造疑惑報道に関するビジネスジャーナルの記事」を切り口に「ネットメディアの影響力」について記事を作ったのでしょうか? それも、追及記事の割には、政府追及のときとは大きく異なる論調で報じるという不可解さで。
一つの可能性として、「幕引きの合図」というのが挙げられるでしょう。8月22日づけ「「貧困女子高生」騒動を巡って、怪しい面々が悪質な論点ずらしを含むNHK「擁護」論を繰り出してきた!」でも触れたように、当初からNHK擁護論者はネット世論やネットメディアの「胡散臭さ」を強調しようと画策していました。ネット界隈の「胡散臭さ」を印象づけられれば、騒動の幕引きを図れます。また、商売敵としてのネットメディアの地位を揺るがすこともできるでしょう。
また、「今後を見据えた総括」という可能性もあるでしょう。今後、何かの拍子で今回のNHK捏造疑惑騒動が思い出されたり蒸し返されたりしても、このような総括があれば「切り札」にもなるでしょう。
実際にネット世論として展開されていた諸々の論点――「イエス!散財!」を筆頭とする数々の「名ツイート」への否定的反応――は、今回の騒動の核心であると同時に、NHK擁護の立場から踏み込むと泥沼にハマり込む「難攻不落の要塞」でした。多くのNHK擁護派・活動家が必死に論陣を張ったものの、ことごとく墓穴を掘りまくっていたことは、当ブログでも何度か取り上げきた通りです。
しかし、都合のよいタイミングでビジネスジャーナルが捏造事件を起こしてくれました。これを突破口として、ネット世論とネットメディア報道の因果関係・主従関係を逆転させる構図を描き上げ、「情報密度としてはスカスカ」なビジネスジャーナルの記事を敢えて首座に据え付けることで幅広く展開されてきた諸々の疑惑ポイントを矮小化し、「体制脆弱なネットメディアがバラ撒いたデマ報道のせいで起きたカラ騒ぎ」というストーリーにコジツケられたのです。
あくまで真意が「幕引きの合図」「今後を見据えた総括」であれば、不可解な構図は理解できます。また、不可解な手加減についても、「ビジネスジャーナルが捏造した! メディアとして無責任!」と書き立てれば、議論が予想外の方向に転がりかねず、それを防ぎたかったがゆえではないかと考えられます。
騒動の発端となったNHKニュース番組中の特集コーナーの報じ方が「少なくとも紛らわしかった」のは、今もなお変わりありません。NHKとしては「紛らわしかったかもしれないが、捏造ではない」と言い張る他に活路はありません。NHKは半ば強引に難局を切り抜けたのですから、擁護の立場を鮮明にしている毎日新聞としては、ようやく鎮火し始めたNHK批判が再燃しかねないリスクは取りたくないので、ビジネスジャーナルについてあまり大きく書きたてたくないのでしょう。だからこそ、不可解なまでに甘い追及になっているのでしょう(あくまで推測ですよ〜)。
もともとのNHKニュース内での特集コーナー放映から1ヶ月。いずれにせよ、この件は幕引きなのでしょう。AEQUITASが「絶妙なタイミング」で街頭デモを打ったものの、「日本死ね」のときとは打って変わってまったく反響がなく、現時点では1回コッキリになっています(なんで?)。そして、支出の優先順位を正しくつけているにも関わらず夢を諦めるざるを得ない本当に支援な人たちの境遇はそのままになっています。