2017年02月11日

被害者意識の暴走は自らの客観的位置を分からなくし、怪しげな連中に付け入る隙を与える;沖縄危機

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170206-00082929-okinawat-oki
>> 横柄な本社 「人件費を抑えるための沖縄なんだ…」 元カスタマーセンター33歳

沖縄タイムス 2/6(月) 17:10配信

 「沖縄の人を下に見ているのか、カスタマーの仕事を下に見ているのか。東京本社の社員の態度にそんな意識が表れていた」。新城玲奈さん(33)は、一昨年末まで4年勤めた職場をこう振り返った。

 県内に拠点を置く外資系金融関連会社のカスタマーセンターで金融商品の利用客からの問い合わせに対応する業務を担当した。商品開発を担う本社社員とは電話やメール中心の顔が見えない間柄のため、連携は不可欠。しかし、敬語を使わない、メールの返信が1カ月以上ない、新商品の詳細な説明がないこともよくあった。本社派遣の上司の態度も同様で「仕事を丸投げされた上に、軽くみられている」と感じた。

 時給千円超のパートタイム勤務。福利厚生が手厚く、残業代も休日出勤の手当もついた。外資系らしいラフな雰囲気で、「県内の他のパートに比べたら働く環境は整っていた」。

 一方、東京との給与格差を痛感した。新城さんの月収は基本給15万円に残業代や契約数に応じた成果報酬を加えた手取りが18万〜22万円なのに対して、ライバル会社が東京で募集していた同じ職種の基本給は23万円。「人件費を安く抑えるための沖縄なんだ」。本社社員の態度がふに落ちた。


(中略)

最終更新:2/6(月) 19:10 <<
■被害者意識の暴走
沖縄が置かれている現状に対して、不満感・不平等感・疎外感を感じるのは、一定の程度においては当然であると私は考えています。しかし、コメ欄にもあるように、この記事で語られている「不満」は、沖縄に限った話ではありません。本土における東京本社と地方支社との関係においてもしばしば指摘されていますし、同じ東京都区内においても、横柄な本社に振り回される営業所の悲哀物語というのはザラにある話です。「派遣イジメ」「下請けイジメ」なども、根底においては同じ構図であると言えるでしょう。

被害者意識は、はじめのうちは「加害者としてのアイツらと、被害者としての我々」という構図で把握するものですが、被害者意識が深く激しくなるにつれて「被害者としてのワタシと、それ以外」という構図になって行きがちです。自分以外が見えなくなってゆく・・・自分の客観的立ち位置が見えなくなり、回りで同じように苦しめられている人たちのことを捨象してしまい、あたかも自分だけが苦しんでいるかのように錯覚してしまう。公平性に配慮した解決策を提案できなくなる。ヨタ話に惑わされて、怪しげな連中の運動にいいように利用されてしまう・・・

本土においてもよくある話を、「本土対沖縄」の構図として捉えている沖縄タイムス紙のこの記事は、沖縄県民が持っている(持たざるを得ない状況に追い込まれている)不満感・不平等感・疎外感が暴走し始めていることを示唆しています。沖縄以外が見えなくなっており、「沖縄は、本社・本店の横暴に苦しめられている地方拠点の一つ」という客観的な位置づけが見えなくなりはじめています(あえてそれを狙って煽ろうとしているという可能性も、『沖縄タイムス』ならあり得ますね)。

■怪しげな連中が付け入る隙――「聞こえのよい看板」は当てにならない
こういうときこそ、怪しげな連中の甘言に惑わされ易くなります。たとえば共産党は「営利大企業の横暴に抗し、地域コミュニティでの協同的な経済へのシフトへ!」といった主旨の経済ビジョンを提示します。しかし、被害者意識が暴走している人たちはスッカリと忘れてしまっているかもしれませんが、史上最大規模の下請けイジメで公正取引委員会から指導を受けたのは、日本生協連(日本生活協同組合連合会)、つまり「非営利」を掲げる協同組合組織でした。いかに「聞こえのよい看板」が当てにならないのかを如実に語る出来事でした。

このニュースは発生当時、大きく取り上げられていましたが、私の知り合いのコミュニティ運動信者・生協運動信者の驚き様は、いまでも鮮明に思い出されます。大資本の「横暴」に関しては、見当違いな言い分も含めてかなり舌鋒鋭かった裏返しに、コミュニティ運動にはかなり肩入れしていた人だっただけに、夢にも思って居なかったんでしょう。

■交換経済の本質的法則に照らせば・・・
また、そもそも交換経済活動というものは、「いかにして『ソト』から富を持ち込むか」というものです。交換経済における諸現象を分析する経済学の根本的な探究テーマの一つとして「富とは何であり、その源泉はどこにあるのか」という古典的なモノがあります。歴史上、多くの学説が提示されてきましたが、「富の源泉」については、主たる学説はいずれも表現の差こそあれ、「富は『外部』から持ち込むもの」としています。

貿易差額主義として知られる重商主義は、富を金と定義した上で、輸出を多くし輸入を少なくすることで貿易黒字を出すことで、国内に金を蓄積すべきであるとします。富を「外国」から持ち込み蓄積する経済思想です。

重農主義は、大地から産出される農産物のみが富であるとし、人間が耕作によって投入する労力と、植物自身の生命力や地味、太陽エネルギーといった「人間以外を由来とする諸力」との差分を収穫し、蓄積する思想です。富を「大地(人間以外)」から持ち込み蓄積する経済思想です。

マルクスの労働価値説と、それを基盤とする階級間での剰余価値搾取理論は、改めて説明する必要はないでしょう。なお、昨今は労働価値説の誤りに関する認識が広まりつつあり、マルクス経済学者においても労働価値説を否定するようになってきていますが、置塩信雄の「マルクスの基本定理(Fundamental Marxian Theorem)」によって、剰余価値搾取理論は労働価値説を前提とする必要がないことが明らかになっています。

マルクスの階級的構図とは異なり、市場参加者は相互に対等な関係にあるとした上で、売り手と買い手は取引によってWin-Winになるという結論を導き出すEconomics(いわゆる「近代経済学」)の限界効用価値説においても、富は「外部から持ち込む」ものです。分かり易いように、魚屋の魚と米屋のコメとの物々交換を想定すれば、魚屋は手持ちの魚は不要で、それよりもコメを必要としており、米屋はその逆です。だからこそ、交換動機が発生します。そして、交換によってコメを手に入れた魚屋の効用(満足感)は増えます。米屋も同様です。

財に対する主観的な価値評価が異なる者同士が合意によって交換することによって、満足感を相手から引き出す。Economicsの限界効用価値説も、富を「満足感」とした上で、それを「自分以外」から持ち込み蓄積する経済思想なのです。

被害者意識をコントロールできなくなり始めている人たちが、些細な差異に敏感になり、疎外感を感じるようになるのは、ある意味においては仕方の無いことです。そのような状況に至った背景には、「追い込まれた」という要素も否定できず、沖縄県民ばかりを責めるわけには行きません。

しかし、上述のように、そもそも交換経済活動というものは、「いかにして『ソト』から富を持ち込むか」というものです。ウチとソトの違いがあるからこそ交換活動が成り立ちます。このまま行くと、こうした差異にまで「疎外」を感じているような言説が出かねないような展開を記事は示唆していますが、これは本質的・法則的なものなのだから、なにか「工夫」によって解消できるものではありません。また、「ウチとソトの違い」は、需給双方が対等なケースにおいても法則的にあり得るものですが、こうしたケースでのそれは、「差別意識のない差異」です。仮に、交換が本質的・法則的に抱える「差異」にまで差別意識を見い出すとすれば、それは被害妄想の域であるし、たとえば「沖縄が独立すれば解決される」などという人物がいるとすれば、間違いなく詐欺師です。

どうしても解消すると言い張るのであれば、「交換」を廃絶する必要があります。経済人類学で言うところの「贈与経済」のように、非交換経済のモデルはあり得るものの、半ば考古学的な探究によって解明されているモデルであり、現時点ではとても現代的システムになりえるものではありません(経済人類学的な探求は私は好きですが、現時点での非現実性は認めざるを得ません)。

■イデオロギー的工作活動への「解毒剤」
すでに沖縄の政治的状況は、かなり複雑化しています。管見では、現地生活者に根ざしたものではなく、「イデオロギー的な空中戦」という観が否めませんが、各勢力ともに現地生活者を取り込もうと工作を展開しています。被害者意識の暴走は、そういった連中に付け入る隙を与えるものです。

他方、そういったイデオロギー的工作活動への「解毒剤」は、小市民的な生活経験と、同じような境遇におかれている他人の状況への想像力です。深呼吸して沖縄タイムスの記事を読み返せば、小市民的な生活経験に照らし、そしてそこから展開される想像力の発露によって「おやっ?」と思い直すことでしょう。その生活に根ざした「おやっ?」こそが正しい認識の第一歩です。これを「反知性主義」などというのであれば、私は観念論者の自己弁護とお返しします。
posted by 管理者 at 14:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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