2017年04月28日

ポプラ事件(板門店事件)が「北朝鮮の完敗」に見える産経新聞の表層的分析;戦略的目標を達成したのは誰だったのか

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170426-00000072-san-kr
正恩氏、米のレッドライン読みあぐねる 本格挑発に踏み切らず

産経新聞 4/26(水) 7:55配信


(中略)

 北朝鮮は米国からの攻撃の危機にさらされたことがある。南北軍事境界線の板門店(パンムンジョム)で1976年8月、ポプラの木を勝手に伐採しようとした米将校2人を北朝鮮兵がおので殺害した「ポプラ事件」をめぐってだ。米軍は、戦略爆撃機や朝鮮半島沖に空母ミッドウェイを展開する臨戦態勢を取って伐採をやり遂げる。金日成(イルソン)主席は米側に「遺憾の意」を伝達。北朝鮮の“完敗”だった。「米国民の生命が脅かされれば、米国は軍事行動を辞さない」。これが北朝鮮が肝に銘じた教訓だったといわれる。

(以下略)
「左の『しんぶん赤旗』、右の『産経新聞』」。産経新聞のイイカゲンさは全方面的規模ですが、ことに国際情勢に関しては輪を掛けるものがあります。まあ、要するに「願望が強すぎ、現実を都合のよく歪めて解釈している」のが原因なんですけどね。

さて、引用部分。ポプラ事件(板門店事件)を取り上げています。曰く「北朝鮮の“完敗”だった」としています。ところがどっこい、つい先日の朝鮮中央通信は、まさに板門店事件を振り返り、これを勝利と位置づけています。
http://www.uriminzokkiri.com/index.php?ptype=igisa1&no=1132549
 우리 공화국은 보총과 원자탄의 대결이던 지난 1950년대 조선전쟁에서는 물론 1960년대 《푸에블로》호사건, 《EC-121》대형간첩비행기사건, 1970년대 판문점사건 그리고 조미핵대결전을 비롯하여 세기와 년대를 이어오며 자기의 힘으로 사회주의조국을 지키고 미국에 참패만을 안긴 영웅조선이다.

 최근년간에도 미국이 사상최악의 초강도위협과 야만적인 제재봉쇄책동에 매달렸지만 실패를 거듭하고 지친것은 제국주의자들이였으며 온갖 도전을 박차고 승리한것은 사회주의 우리 국가였다.

(拙訳;わが共和国は小銃と原子爆弾の対決であった、去る1950年代の朝鮮戦争ではもちろん、1960年代の「プエブロ」号事件、「EC−121」大型スパイ飛行機事件、1970年代の板門店事件、そして朝米核対決戦をはじめとして、世紀と年代を経て、自力で社会主義祖国を守り、米国に惨敗をもたらした英雄的な朝鮮である。近年においても、アメリカは史上最悪の超強度威嚇と野蛮な制裁・封鎖策動に執着したが、失敗を重ねて疲れたのは帝国主義者どもであり、あらゆる挑戦を退けて勝利したのは社会主義のわが国であった)
中学生レベルのメンタルであれば、板門店事件は「完敗」と映るのかもしれません。しかし、そもそも朝鮮側が何故、たかだか幾ばくかの本数の木々程度にこだわり、そしてそれを今も尚、勝利とみなしてたのでしょうか?

ウィキペディア程度の初歩的な情報量であっても、このことは見えてきます。あの事件の発端となったポプラの木は、もともと朝鮮側が植えたものでした。事件に関する朝鮮側の言い分としては「他人が植えたものを勝手に切るなよ!」であり、さらに突き詰めれば、真意レベルにおいては「そもそも非武装地帯で交戦国兵士どうしが入り混じっていることは異常だし、そこで通告なしに活動しないでくれ!」といったところでした。

そして、ウィキペディアにもあるとおり、「両陣営間で行われた会議によって、北朝鮮側の提案で、共同警備区域内にも軍事境界線を引いて両者の人員を隔離する事を決定した」・・・、いま振り返れば、ポプラの木自体は切り倒されてしまったものの、それはあくまでも、どうでもいい表層的な部分に過ぎず、朝鮮側の真意であった「念願の対米交渉のテーブルにアメリカ側を引きずり出す」という戦略的目標を達成したのに留まらず、真意レベルでの事件の動機を満たすことに成功したわけです。

たしかにキムイルソン主席は米軍の示威行動に対して「遺憾の意」を示しました。全力で肩入れした南ベトナムが北ベトナムに併合された上に、カンボジアやラオスまでもが共産化し、恐れていた「ドミノ理論」が現実のものになったばかりの「1976年8月18日」というタイミングで、人が死んだとはいえ軍事戦略的には「この程度の小競り合い」で、アメリカがこれほどまでの反応を示すのは少し過剰であり異常です。キムイルソン主席としては、「いくら東南アジアで負け続きとはいえ、こんなに過敏に反応するだなんてアメリカは頭がおかしくなったんじゃないか・・・」と思ったのではないでしょうか。そうであれば、そもそも体制維持こそが至上目的である朝鮮としては、「インパール作戦の国・日本」とは違って、戦略的に「遺憾の意」くらいは出すでしょう(ちなみに、「遺憾の意」に謝罪は含まれて居ません)。13日の記事でも書いたとおり、たしかにキムイルソン主席は情勢を見極めて「遺憾の意」を提示し戦争への発展を回避しましたが、錯乱状態といっても過言ではないアメリカの過剰・異常な振る舞いを見てのことだったのではないでしょうか。

中学生程度のメンタルだと「常勝・完勝」でなければ気がすまないものですが、大人の世界ではそんなことは二の次、泥臭かろうと目的を達成することこそが重要なのですよ。日露戦争時に海軍作戦担当参謀だった秋山真之は、アメリカ留学中に記した『天剣漫録』で「敗くるも目的を達することあり。 勝つも目的を達せざることあり。 真正の勝利は目的の達不達に存す。」と述べました。是非とも産経編集部が学ぶべき指摘です。
ラベル:メディア 共和国
posted by 管理者 at 21:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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