>> <「妊娠菌」付き米>ネットで高額売買 医学的根拠なし本件、『週刊新潮』が既に2月に報じている内容ですが、ようやく全国紙でも取り上げられました。しかし、どうも詰めが甘い・・・
毎日新聞 5/2(火) 7:30配信
「女性が妊娠しやすくなる『妊娠菌』がついている」と称した白米がインターネットで売買されていることが分かった。「妊娠米」と名付けられて1合当たり最高1500円で出回るが、毎日新聞の取材で、出品者に妊娠経験がなかったり、購入者にサプリメントのカタログが送られたりする事例が確認された。「妊娠菌感染」に医学的根拠はなく、専門家は「不妊に悩む女性を冒とくする詐欺行為だ」と憤っている。【鳴海崇】
(中略)
◇悪質な商売、許せない
吉村泰典・慶応大名誉教授(元日本産科婦人科学会理事長)の話 妊娠菌に科学的、医学的な効果があるはずもないし、少額でも詐欺と言っていいほど悪質な商売だ。不妊症や不育症に悩む女性は、わらをもつかむ思いで「妊娠や出産に良いことなら何でもやりたい」と考えがちだが、そうした人の弱みにつけ込む行為で絶対に許せない。崇高な妊娠について「菌が感染する」という表現をすること自体が非常に不謹慎。妊娠米は不衛生に扱われた恐れがあり、絶対口にすべきではない。
最終更新:5/2(火) 14:12 <<
■それをいうなら「子宝神社」のほうが重大詐欺案件
藁をも掴む思いの人が、常人であればまず引っかからないようなトンデモを真に受けるというのは、決して珍しい話ではありません。それをビジネスチャンスとして、効用のないものを売りつけるのは、たしかに悪質です。「絶対に許せない」という怒りの声も理解できます。
しかしそれをいうなら、多くの人心を有史以来、ながく翻弄してきた「子宝神社」のほうが被害者数の点において遥かに悪質です。「子宝に恵まれるお守り」などという単なる紙切れ・板切れと「妊娠菌」なるものが着いているとされるコメとの間には、いったいどんな違いがあるというのでしょうか。「妊娠菌に科学的、医学的な効果があるはずもないし、少額でも詐欺と言っていいほど悪質な商売だ」という吉村名誉教授の指摘にピッタリ当てはまる「常習詐欺師」こそが、ほかでもない「子宝神社」なのであります。
「宗教法人格を持っている神社等が説く現世利益論」を相手にするのは骨が折れて面倒くさいから、とりあえず「新興ビジネス」を手っ取り早く標的にしたといったところでしょうか? まあ、"Мы раздуваем пожар мировой, Церкви и тюрьмы сравняем с землёй."と息巻いていたボリシェビキもついにそれを達成させることはできなかったのだから、大変なことであるのは間違いのないことです。しかし、そこに切り込まずして「不妊に悩む女性を冒とくする詐欺行為だ」というのは、詰めが甘いという他ありません。
■インチキ・ヨタ話には引っかからないような自立的判断力をつけさせることこそ重要
「詐欺」とまで言った吉村名誉教授、そしてそれを記事の中核に据えた毎日新聞編集部。この文脈でいけば、「規制」という方向に話が進むのは必然的でしょう。薬事法に抵触する恐れがあるため、フリマサイトから削除され始めたそうです。
インチキ商品を規制するのは当然だとは思いますが、「消費者保護のための規制」だけで終わらせてはなりません。藁をも掴む思いの人であれば、「妊娠菌」でなくとも似たようなヨタ話に引っかかるからです。もしかすると、今回「妊娠菌つきコメ」を買い込んだ人物の中には、既に怪しい御札やら壺やらを買い込んだことのある人も居るかもしれません。「妊娠菌」を排除したところで、こういうものに引っかかる人は、すぐに似たような別のものに引っかかることでしょう。そのたびに「保護のための規制」をするというのであれば、その人の一挙手一投足を常に見守る必要が生じ、現実的ではありません。
「藁をも掴む思い」の境遇だからと言って、インチキ・ヨタ話には引っかからないような判断力をつけさせる方向での支援、換言すれば、自立的に判断できる力を養う支援こそが、「インチキな出品を規制することによる消費者保護」以上に重要です。
詐欺的商売への対策では、「インチキな出品を規制することによる消費者保護」ばかりに目がいき、どうしてインチキ・ヨタ話に飛びつく消費者自身を変えようとしないのでしょうか? 「保護」を声高に主張する人たちは、もしかすると対象者を子ども扱いしているのかもしれません。「聡明な我々が科学的根拠に基づき、悪徳業者の魔の手から一般市民を守ってやる」といった「保護者意識」(いわゆる「前衛意識」と親和的です)が、何処かにあるのかもしれません。
私も実体験がありますが、「保護者意識」の高い人の中には、「自立とは『切り捨て』を体よく言い換えたに過ぎず、当人が被害にあっても『我関せず』といわんばかりの冷たい人間」と短絡的にレッテルを貼る人がいます。しかし、どんなケースでも漏らすことなく迅速・確実に「悪徳の芽」を摘むことなどできるはずもなく、実際の「保護者」は腰が重く、しばしば専門家でさえ判断を誤ることがあるのが実態。この手の「保護者意識」は、ほかでもない「保護者」自身の無能さのせいで、当人の願望に反して実際には保護対象者を危険に晒しているのです。
悪徳の芽を摘んで一般市民を保護してやることも大切ですが、一般市民自身が真実を見極める目を持つことのほうが一層重要なことです。
「自立」は論点の多いテーマです。「他人からあれこれ指図・干渉されたくない」「自分の判断で決めたい」「いつまでも子ども扱いされたくない」といった自主的要求に基づく人間の自然な感情・欲求にも関わるし、「対象者の一挙手一投足を常に見守るなんて到底できこっない」という現実的な事情にも関わります。今後も考えを深めてゆく所存です。
ラベル:社会