>> <北朝鮮内部>「最強の経済制裁」の影響は? 最新物価報告(写真2枚)■羊頭狗肉
9/2(土) 5:10配信
(中略)
北朝鮮の最大の貿易相手国である中国は、8月15日からの制裁実施を公表したが、二週間が経った先月29日、アジアプレスでは、北朝鮮内部の取材パートナーに依頼して、北部両江道の二か所の公設市場で物価調査を行ったが、市場には経済制裁の影響は現れていないことが分かった。
6月の物価調査と比べて、食糧価格はほぼ同水準。軽油価格は一割安くなっていた。
(以下略) <<
「最新物価報告(写真2枚)」などとブチ挙げておきながら、なんと肝心の写真が「2013年9月・10月撮影」。羊頭狗肉状態。記事として崩壊している。このことにアジアプレス・石丸次郎氏は気がついていないのでしょうか? 共和国国内における撮影を伴う取材の困難性を差し引いても、「最新物価報告」に4年前の写真を持ち出すのはナシでしょう。
アジアプレス・石丸次郎氏の「北朝鮮最新報告」シリーズは、最近は少しばかりマシになってきたとは思いますが、つい最近まで、平気で10年以上も前の写真を持ち出して「最新報告」などとタイトルづけしていたものです。いったいどこが「最新報告」なのでしょうか? そもそも、この「最新報告」は、どのように追試的に裏を取ればよいのでしょうか?
8月21日づけで公開されている「<北朝鮮最新報告>今年も兵士は痩せていた ミサイル発射の一方で栄養失調に苦しむ若い軍人たち(写真4枚)」も、ほぼ同じ構成でした。この記事は、最初の一枚は本年7月撮影という点において「最新」と言うことは可能(もっとも、鮮明さに欠けるので説得力は乏しい)で、2枚目も同様(とはいっても、読者によって見解が異なるであろうキャプションで、これも説得力に乏しい)でしたが、3枚目・4枚目はまたしても数年前の写真。
「2011年7月撮影」の3枚目は、まだ「先軍政治」を掲げていた先代の統治時代の写真。そして「2012年8月撮影」の4枚目について言えば、まだキムジョンウン経済改革が始動する前のタイミングで撮影された写真。共和国の歴史と社会構造を踏まえれば、2011年〜2012年と2017年はその様相が大きく異なっています。社会構造的に差異が大きい過去の一場面と今日現在の一幕とを、何の解説もなく、それも「最新」などというタイトルの記事に掲載する石丸氏のジャーナリストにあるまじき不誠実な姿が浮き彫りになります。
ちなみに、4枚目の写真について「まるで子供のように小さな兵士たちと金正恩氏の記念写真」と書き立てる石丸氏ですが、集合写真に写っている私服姿の女性たちがごく普通の発育状況であるところを見るに、この「兵士」たちは、軍事教練を受けている子供たちなんじゃないかと思うところです。2012年8月は、『労働新聞』がやたら青年について取り上げていた時期でもありましたからね・・・
私は、いわゆる「内部情報」が真偽の追試的確認が困難だからと言って、ただちにインチキ・デタラメと決めつけ、門前払いするつもりはありません。しかし、追試的確認が困難である以上は、その主張を信用することは困難です。まして、羊頭狗肉な記事を量産している人物の発信では信頼には値しません。
■昨今の経済改革の成果は、石丸氏でさえ否定できない成果を挙げているということ?
もはや崩壊状態にある記事を平然と投稿し続けている石丸氏は、印象操作の確信犯か、あるいは、メシのタネを稼ぐために書き立てているかの何れかだと思われます。
しかしながら、この記事は、見方を変えると、「キムジョンウン経済改革の成果は、石丸氏でさえ否定できない成果を挙げている」と言い得る指標なのかもしれません。何の裏付けもなく、追試的確認もほぼ不可能な「最新物価データ」など、デタラメを書いたところでバレるはずもないのに、「市場には経済制裁の影響は現れていないことが分かった」と書いているからです。
当ブログでも以前から記録しているように、共和国の市場経済化は、起源こそ非合法の闇市でしたが、いまや単なる「闇市の統制不能な拡大」ではなく、政策的育成の段階に入っており、そして朝鮮労働党はすでにこの傾向のイデオロギー的整理に正しく成功しています。朝鮮労働党は、社会主義の枠内における市場機能の位置づけと、伝統的に超難題であった「個人間の競争」を社会主義・集団主義の枠内に正しく定義することに成功しています(全面的に支持!)。
チュチェ102(2013)年4月11日づけ「経済改革」
チュチェ102(2013)年10月1日づけ「ウリ式市場経済」
チュチェ102(2013)年10月7日づけ「チュチェの市場経済・ウリ式市場経済――共和国の経済改革措置に関する報道簡易まとめ」
チュチェ105(2016)年6月6日づけ「朝鮮労働党第7回党大会は経済改革・競争改革を漸進的に継続すると暗に宣言した画期的大会」
チュチェ106(2017)年1月2日づけ「キムジョンウン委員長の「新年の辞」で集団主義的・社会主義的競争が総括された!」
ジャーナリストとして最低限の良心があれば、解釈の裁量内のデータ曲解による印象操作はできても、まるっきりの捏造・でっち上げは躊躇することでしょう。飛び込んできたデータをどうにか曲解しようとしたが、事実として物価は安定しているのだから、「経済制裁の効果てきめん」とは書けなかったのでしょう。
■「内部情報筋」からのレポートの頻度が落ちている怪
ここからは私の「直観」的な感想ですが、キムジョンイル総書記時代以来、「北朝鮮の事実上の市場経済化」は、石丸氏のような「内部情報筋」を持つジャーナリストが盛んに報じてきました。しかし、キムジョンウン経済改革が名実ともに軌道に乗りつつある昨今、いまこそ近況を積極的に発信してほしい昨今、「北朝鮮の事実上の市場経済化」を巡る「内部情報筋」からのレポートの頻度が落ちているように思います。
もし、キムジョンイル総書記の統治時代における「北朝鮮の事実上の市場経済化」なるレポートが、「北朝鮮崩壊」のストーリーを演出する一環だったとすれば、この不可解な「頻度の低下」は理解しやすいでしょう。いまや市場経済化は、労働党体制に組み込まれつつあり、「北朝鮮崩壊」のストーリーには、むしろ不都合な事実となりつつあるからです。
このことは、近年論調のゴシップ化が顕著で資料的価値がほとんどなくなっているDailyNK Japanの報道において更に明白です。昨年ごろまでは、DailyNK Japanでは「トンジュ」なる新興富裕階層について精力的に報じていました。追試的情報源の欠如から丸々信じることはできないものの、興味深い報道が頻繁に発信されていたものです。
しかし、朝鮮労働党第7回党大会以降、市場経済化が政策的にもイデオロギー的にも正式に位置づけられるようになってから、目に見えて頻度が減っています。DailyNK Japanは、平生からその立場と論調を自ら明確にしている点、その「トンジュ」特集は、明らかに「北朝鮮崩壊」のストーリーの一環として報じられていたものと言えるでしょう。
ちなみに、以前から指摘しているように、共和国における市場原理・競争原理の方向性は、遡れば西暦2000年代前半には既に試み始められていました。チュチェ91(2002)年の「7.1経済管理改善措置」は漸進的な経済開放政策であったし、イデオロギー面においては、チュチェ105(2016)年6月6日づけ「朝鮮労働党第7回党大会は経済改革・競争改革を漸進的に継続すると暗に宣言した画期的大会」でも指摘したように、音楽や文学の表現空間において肯定的に描写されていたものです。
おそらく、アメリカのイラク侵攻(イラク戦争)を原因とする「先軍」への舵切りによって、キムジョンイル総書記時代においては開放化がそれ以上は進展しなかったのが、いまようやく開花しているというのが本当のところだと思われます。
(DailyNK Japanの論調は、いわゆる「クレムリノロジー」的な分析方法に関する知識や、社会主義の政治に関する知識があれば、絶対にそんな結論には至らないような素人染みた「分析」が氾濫しています。「プロパガンダの行間を読む」ことをしていないんでしょうね・・・)
かつてレーニンは「誰が君をほめるか言ってみたまえ、君の欠点がどこにあるか教えてあげよう」と言いました。私はレーニンほどのラジカルな二元論者にはなれませんが、レーニンの視点で「『北朝鮮の事実上の市場経済化』を巡る『内部情報筋』からのレポートの頻度」を考察することは、ひとつ面白い事実が見えてくることでしょう。