2017年09月19日

実作業に関する知識に乏しく、相場を知らない発注元企業が外注業者に「無理な発注」を控えることはできるのか?

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170919-00000089-asahi-soci
>> 無理な発注・時間外の会議「控えます」 経団連など宣言
9/19(火) 19:59配信
朝日新聞デジタル

 経団連は全国の経済団体と連名で19日、下請けいじめや深夜の労働につながる旧弊や商慣行の是正に取り組むことを内容とした「共同宣言」を発表した。今後は加盟企業に残業につながる無理な発注や勤務時間外の会議を控えるよう促していくという。

 共同宣言は、長時間労働につながる納期が短い発注や急な仕様変更を「非効率な商慣行」として問題視。労働基準法が決めたルールを守り、取引先にも違反させない配慮を経営者に求めた。短い納期や追加発注が必要になった際はサービスに見合う価格で契約することなども求めている。


(以下略) <<
業界にも依るとは思いますが、経済全体を俯瞰してみたとき、それほど成果は上がらないと思われます。

そもそも「外注」というものは、発注元企業に実作業に関する効率的ノウハウの蓄積が乏しいからこそ、あえてカネを払ってまで他の企業に仕事を代わりにやってもらう行為です。そのため、発注元企業が実作業内容、とりわけスケジュール感や費用に関する知識が乏しいということが往々にしてあるものです。

※業界の大手企業が利益効率の悪い案件を協力企業に下請けさせるケースについては、発注元大手企業は実作業内容に通暁しているでしょう。その点、すべての外注行為の発注元が実作業内容に関する知識に乏しいとは言いません。

「自主権の問題としての労働問題」というテーマで労働問題を論考している当ブログでは、以前より、長時間労働・メンタルヘルス問題の代名詞的業界として「IT業界」に的を絞って記事を執筆してきました。また、私自身、本業の人事異動のなかでIT部門と業務部門との橋渡し(板挟み?)的な役割を担った経験があります。

理論と実体験の両面から申せば、IT業界がデスマーチになりがちなのは、「誰もプロジェクトの正確な規模感が分からないから」に尽きると私は考えています。

まず、発注側の業務部門について述べましょう。業務用コンピュータ・システムの開発というものは、受託開発は言うまでもなくパッケージ製品のカスタマイズ導入程度であっても、スケジュール感やコスト計算の面において、そこそこ深いIT知識が必要になります。それゆえ、業務部門一筋の「IT素人さん」には、マトモな量感が計りかねるものです。コンピュータ・システムというものは、基本的に中身がブラックボックスであり、それゆえに素人にはボリューム感が計りかねるものです。

たとえば、Googleの検索テキストボックスにキーワードを入力し「検索」ボタンを押し、1秒にも満たない時間内に数百万件の該当ページのリストが返ってくるのは、ユーザー視点では至極当然のことですが、このとき一体どのようなシステム的処理がバックグラウンドで走っているのか説明できる人は、ほんのわずかでしょう。まして、そのプログラムを構築するのにどれほどの時間と労力(人月)がかかるのか、マトモなスキルを持ったプログラマーの時給が幾らなのかについて知っているひとは、ほとんどいないでしょう。しかし、システム構築にあたっては、こうした情報に通暁している必要があります。不可欠です。

業務部門メンバーが、こうした知識に通暁しているケースは、ほとんどありません。それゆえ、業務部門がIT部門や外注ベンダーに提出してくる要求というのは、スケジュール的にもコスト計算的にも、ムチャクチャの極みであり、素人丸出しと言わざるを得ないものになりがちです(稼働直前になってから「雑誌で読んだんだけど、この機能いいね。チョチョッと機能追加しといてよ!」と言ってくるド素人がいるものです)

他方、IT部門・外注ベンダー側について申せば、一定規模以上のステップ数を誇る業務用のコンピュータ・システムというものは、いくら緻密に設計しようともすべてのケースを頭の中で組み立てることは到底不可能です。よくあるパターンとして、テストフェーズになって初めて設計不足・考慮不足が露呈するものです。

※ちなみに、多くのプロジェクトでテストフェーズに割く時間が短すぎると思います。このことについて私は、「マジメな日本人」の国民性が悪い意味で発揮されてしまっていると考えているのですが、設計段階に過大な期待を掛けすぎです。「ちゃんと設計していれば、テストフェーズなど『確認作業』に過ぎない」というのは、開発の現場を知らなさすぎる「マジメな優等生的発想」です。コンピュータ・システムというものは、生身の人間の頭脳で隅々まで緻密に設計できるものではありません。実態は「トライ・アンド・エラー」であり、テストとバグの修正にこそ時間を割くべきです(無能なPMほどテストフェーズから削ろうとするものですが・・・)。

つまり、長時間労働・メンタルヘルス問題の代名詞的業界としての「IT業界」においては、業務部門側の「素人っぷり」とIT部門・外注ベンダー側の「理性の限界」によって、「誰もプロジェクトの正確な規模感が分からない」事態に陥ってしまうのであり、それゆえに、「無理な発注」すなわちデスマーチになってしまうのです。

このことは、換言すれば、「IT業界の商材が業界全体を通して常識化・相場化・標準化されていない」ということができるでしょう。製造業や建築業のように、細かいバリエーションは多々あっても、基本的な構造では共通的であり、それゆえに一定程度の「相場」が確立している業界との大きな差です。たとえば「一軒家の建築」は、いろいろカスタマイズはあったとしても、少なくとも1週間で建つはずがないというのは、どんな素人でも「相場」として「常識」として分かるものです。しかし、IT業界はそうではないのです。

IT業界というのは、前述のとおり、そこそこ深いIT知識がなければ語り得ない業界という点で極端な例ですが、これまた前述のとおり、そもそも「外注」というものは、発注元企業に実作業に関する効率的ノウハウの蓄積が乏しいからこそ、あえてカネを払ってまで他の企業に仕事を代わりにやってもらう行為です。そのため、発注元企業が実作業内容、とりわけスケジュール感や費用に関する知識が乏しいということが往々にしてあるものです。その意味で、業界を問わず、外注を巡る事情というものは、程度の差こそあれ、IT業界を巡る事情と通底する部分があると言えます

果たして、実作業に無知であり、だからこそ外注に頼っている発注元企業は、受注企業に対して「無理な発注」を控えることができるのでしょうか? なかなか難しいでしょうね・・・
posted by 管理者 at 23:24| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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