2017年11月19日

男女平等は人権問題であると同時に経済成長のツール;福祉国家革新の先駆者としてブレないスウェーデンの現実を正しく報じる意味

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171119-00010003-huffpost-int&p=1
>> 「男女平等は決して、自動的には達成できない」スウェーデンの閣僚が語る3つの転機
11/19(日) 12:22配信
ハフポスト日本版

11月2日に発表された世界経済フォーラム(WEF)のジェンダーギャップ指数で、日本は昨年(111位)からさらに順位を落として114位にまで後退した。一方で、上位を占めたのは北欧の国々だった。(泉谷 由梨子 / ハフポスト日本版)

その中でも5位につけたスウェーデンは「フェミニスト政府」を世界で初めて自称し、男女平等政策を国の最重要政策に位置付けている。

1.労働者が足りなくなったこと
スウェーデンでは、1970年代の経済発展に伴って、女性の労働力が必要になった。

人手不足に悩んだ経済界は、男女の別や子供の有無を問わずに働く労働者を必要としていた。また、福祉国家を目指すため、国家としても税収の増加を必要としていた。

そこで進めたのが、社会保障制度や課税単位を世帯から個人単位へと変更することだった。これによって、家事労働をしていた女性たちが外で働くモチベーションを高めたという。

「男女平等は人権の問題でもありますが、同時に経済成長のツールでもあります。これは、決して女性への贈り物ではない、ドライでテクニカルなものなんです。日本では配偶者控除の廃止が2016年に大きな議論になったと聞いています。スウェーデンでは、課税システムの変更は男女がそれぞれ外で働くためのモチベーションを大いに高めました」とレグネール氏。

同時に、スウェーデンでは保育園や介護施設の整備による「福祉国家」化と、育児休業制度の充実を進めた。そして、働く女性と保育・介護職などとして働く場所の両方を増やすことに成功したという。

2015年の調査では、20〜60歳の労働力率は女性が83.7%、男性が88.7%。国民1人当たりの名目GDPも5万1125米ドルで、世界第12位(日本は22位)だった。平等政策が経済発展に寄与したと考えられているという。

ただ、女性の賃金は男性よりも12%少なく(日本は28%)賃金格差や、経営者層に女性が少ないなどの問題は依然残っている。


(以下略) <<
■福祉国家革新の先駆者としてブレないスウェーデン
男女平等は人権の問題でもありますが、同時に経済成長のツールでもあります。これは、決して女性への贈り物ではない、ドライでテクニカルなものなんです」――当ブログでも以下に挙げた記事を筆頭として以前から指摘しているように、スウェーデンにおける社会政策・福祉制度の設計は、経済成長との相互作用;「好景気と高福祉の好循環」を目指して行われてきたものです。福祉国家革新における先駆者としてスウェーデンの取り組みは、生活福祉、障害者福祉、失業者対策だけではなく、男女平等においてもまったくブレていないわけです。

■このことが報じられるようになった意味――左翼的福祉国家路線を乗り越えるキッカケになり得る
以前からスウェーデンの福祉国家論について関心を持って調査・研究してきた身からすると、目新しい情報は特にないのですが、この事実がYahooニュースで報じられるようになったことは大きな意味があるものです。

というのも、旧来型の左翼活動家が、スウェーデンをしばしば悪用している事実があるからです。とりわけ、スウェーデンにおける社会政策・福祉制度の充実っぷりを単なる「権利運動の成果」として位置づけることによって、「日本人も労働組合に入り、革新政党に投票し、国民の声と力で権利を獲得しよう!」というストーリーに利用しようとしているのです。

しかし、本件記事ならびに下記に列挙した当ブログの過去ログを読めば分かるように、スウェーデンにおける社会政策・福祉制度の充実は、決して単なる「権利運動の成果」ではありません。単なる「権利運動の成果」として位置付ける左翼活動家たちの言説はウソ・デタラメに過ぎないのです。

チュチェ106(2017)年8月1日づけ「「生贄」を捧げる段階に突入した「タクシー同業者ムラ ジリ貧物語」の第2章
ならびに、
チュチェ102(2013)年1月15日づけ「サプライサイド・エコノミクス
チュチェ102(2013)年2月18日づけ「いやいや全然違うから共産党さんw
チュチェ102(2013)年8月18日づけ「「小泉改革」を克服した新しい改革を
チュチェ106(2017)年4月24日づけ「障害者就労施設が「ソ連の遺産」?笑――資本主義スウェーデンとの比較で完全に敗北
チュチェ106(2017)年7月25日づけ「全国一律最賃制度こそ、非効率企業を淘汰し、高福祉・高効率・好景気サイクルを始動させる決定打

また、スウェーデンにおける好景気と高福祉の好循環は、スウェーデンが国是として挙げてきた「国民の家(Folkhemmet)」構想による労使協調・労使対話の産物であることも注目に値することです。Folkhemmetは、明らかにマルクス・レーニン主義的な労使間の階級対決・階級闘争路線を否定するものです。

マルクス・レーニン主義的な労使間の階級対決・階級闘争路線が、歴史的な意味でまったく無意味・無価値だったとは言いません。しかし、階級対決・階級闘争路線の失敗例が少なくない中、この方法論とは相対するFolkhemmetが今も昔も福祉国家論のモデルとして名高くあり続けていることは事実です。「とちらが、より成功の確率の高い方法論なのか」という点において、マルクス・レーニン主義的な労使間の階級対決・階級闘争路線に対してFolkhemmetを軸とする労使協調・労使対話の方が優れていると言えるのではないでしょうか。マルクス・レーニン主義的階級闘争路線を「科学」などとする左翼活動家のインチキを暴くものです。

この点を履き違えている・・・というよりも、断片的情報を都合よく継ぎ接ぎしている左翼活動家たちは、無邪気にスウェーデンを取り上げがち。そのため、少しスウェーデン事情を知っている人たちに突っ込まれて恥をかくのが定番になっています。

しかしながら、そもそもスウェーデン事情を知っている人が日本ではあまり多くないのに対して、左翼活動家たちの「声」が相対的に大きいことから、残念ながら突っ込みの手が回り切らずに悪用されたままになってしまっているケースも決して珍しくありません。私自身、悔しい展開が放置されている場面に直面したことは少なくありません。

■左翼活動家によるスウェーデンの悪用に対する「予防接種」になる
そんな中に登場した本件記事。記事冒頭から「労働者が足りなくなったこと」という小見出しをつけ、さらに「男女平等は人権の問題でもありますが、同時に経済成長のツールでもあります。これは、決して女性への贈り物ではない、ドライでテクニカルなものなんです」というレグネール男女平等担当相のインタビュー・コメントを掲載した本件『ハフポスト日本版』記事は、左翼活動家によるスウェーデンの悪用に対する「予防接種」になることでしょう。

スウェーデンの社会政策・福祉政策に関する日本語資料が全体的に乏しい現状において、数少ない日本語資料の一つとしての本記事が、左翼活動家たちの言説とは明白に異なる事実を報じていることは、貴重なことです。この記事を読むことによってスウェーデンに関する知識を蓄えた人は、左翼活動家たちに騙されなくなるでしょう

■左翼的福祉国家モデルを乗り越えよう
以前から述べているように、高い水準の福祉と活気のある効率的な自由経済との好循環を達成し、福祉サービス受給者にとっての選択の自由を確保する新しい時代の福祉国家像を目指すにあたっては、旧来型の左翼活動家たちが長年提示してきた福祉国家モデルは乗り越えなければならないものです。

そうした「福祉国家論の革新」においては、この道の先駆者としてのスウェーデンの前例は大いに役立つものであり、旧来型の左翼活動家たちによる「スウェーデンの悪用」は何としてでも除去しなければならないものです。その点、本件『ハフポスト日本版』記事は、前述のとおり「福祉国家論の革新」において重要な役割を果たすものだと言えます。
ラベル:福祉国家論
posted by 管理者 at 19:42| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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