2017年12月14日

官民二分法の発想から脱し「綱引き」を終わりにしよう。方法論を前進させよう。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171213-00010001-doshin-hok
>> JR北海道への財政支援、高橋知事が表明 車両や駅など設備投資や修繕に
12/13(水) 9:18配信
北海道新聞

「上下分離」は想定せず
 JR北海道の路線見直し問題を巡り、高橋はるみ知事は12日の道議会予算特別委員会の知事総括質疑で「鉄道運行の安全性の確保や設備投資、修繕に対して支援を行いたい」と述べ、鉄路維持に向け、JRへ財政支援する考えを初めて明確に示した。道とJR、沿線自治体が出資する第三セクター「北海道高速鉄道開発」(札幌)が特急車両を保有し、JRに貸し付けている例を参考に、これから具体的な支援策を詰める。


(中略)

 財政支援は車両の設備投資や駅舎の修復などを対象とし、JRが提案している、線路などの鉄道施設を自治体が保有する「上下分離方式」は想定していない。

(以下略)<<
■不毛極まる、使い古された単純二分法の焼き直し
コメ欄。
>> みわよしこ
フリーランスライター(科学・技術・社会保障・福祉・高等教育)

国鉄がJRに変わって30年。
公共事業は結局、公共が責任主体となって行わなければどうにもならないということを示す事実が、数多く蓄積されています。

しかし公共事業の民営化や民間委託は、現在も進行中。大阪市では生活保護運用まで数年のうちに民間委託されかねない勢い。この動きは、公共施設運営・水道と、あらゆる分野に拡大しつつあります。

民営化、行政コスト削減、社会保障削減といった個々の動きの大元は、日本の「公共」の縮小です。既に小さすぎる政府のもと、「困っている人を国は助けなくていい」と考える方々が増えるのは、国の「公共」が貧弱になるから各国民の「公共」も貧弱になる、ということではないでしょうか?

誰も取り残さず共生する社会を制度・インフラとも再構築するのは難事業ですが、日本と日本の人々の生存のためには、取り組まないわけには行きません。
北海道と鉄道の今後は、学ぶべき先行例です。
<<
社会保障分野で精力的に情報発信している、みわよしこ氏のコメントです(私も他人様のことを偉そうには言えないものの、専門外も甚だしいのではないでしょうか・・・)。以下、批判的に検討してゆきたいと思います。

結論から言ってしまえば、「公共の縮小」という問題設定まではよいものの、その是正として挙げられているプランが「官が民か」の単なる「綱引き」に留まるものであり、発展性に欠けています。「公共が責任主体となって行わなければどうにもならない」という、みわ氏の言説は、「公的な財政支援の必要性」と換言することができるでしょうが、この方法論は、使い古され、問題点が山積した方法論です。

もともと、「公共が責任主体」という建前の下に長年行われてきた事業が行き詰まってしまったからこそ始まったのが民間委託等の方法論。それもまた別の行き詰まりを見せつつあるからといって、「綱引き」の要領で元に戻すなど愚の骨頂、何も学習していません不毛極まる単純二分法的な言説と言う他ありません。

■何故北海道庁が鉄道支援に消極的なのか考えたことはないのだろうか?
みわ氏は、何故北海道庁が鉄道に対する公的な財政支援に消極的であるのかという動機について考えたことはないのでしょうか? この点について藻谷浩介氏は、「「JR北海道」赤字批判の裏で、高規格道路に巨額投資の「不条理」」にて、鉄道復権の立場に立ちつつも冷徹なる現状把握の観点から正しくも事情を見抜いています。引用します。
>> 藻谷 2006年に廃止された「北海道ちほく高原鉄道」は、帯広の東の池田駅から北見に伸びていた第三セクターで、一日の客が百何十人の超閑散線でした。年間約4億5000万円の赤字を出していました。

 しかし、存続運動をしている人の話を聞いてみると、実はリーズナブルな活かし方があったのです。というのも、北見、網走から札幌に行く最短距離の鉄道路線なので、軌道強化工事をして高速化すれば、石北本線回りで行くよりも圧倒的に便利。そもそも冬の北海道での車の運転は危険ですから、鉄道の意義は大きいのです。実際に冬のJR北海道の特急の指定席は満席になることが多い。だから、軌道を高速仕様に改良して再利用しましょうよ、その方が地域活性化にもなりますよ、という運動だったのです。

 ところが、行政も経済界も耳を貸しませんでした。代わりに、廃止した線路に並行して、数百億円かかる高規格道路建設が本格化したのです。料金収入が見込めず無料開放される区間なので、地元自治体の負担はその分重く、しかもすでに通っている国道に比べ所要時間が短くならないので、完成しても使われない。まさに工事のための工事です。おまけに高規格道路は鉄道に比べて、路面補修や除雪、照明などにずっと多額のランニングコストがかかります。それだけでも年間4億5000万円は軽く超えるでしょう。

 金勘定の常識から言えばちほく高原鉄道の高速化が当然ですが、それでは地元に工事費が落ちないというわけですね。
<<
地元の土建屋の利益を考えたとき、道路建設が地元土建屋にもたらす経済的利益は鉄道事業がもたらすそれを上回るから、地方自治体は鉄道事業よりも道路建設を優先させるのです

このことは、かならずしも単なる「ゆがんだ癒着構造」と断ずることはできません。地方経済における地元土建屋の立場は、単なる「地元政治家の票田」「事なかれ主義的な行政が気兼ねする郷土の有力者」に留まらず、「疲弊する地方経済における数少ない雇用主」なのです。土建屋は地方経済の大黒柱なのです。

そう考えたとき、地方における鉄道復権のためには、地方経済の大黒柱たる地元土建屋たちが鉄道事業よりも道路建設を望む構造について真剣に考える必要があります。その点、不毛なる二分法の論点を設定している、みわ氏の言説は、都市住民のおしゃべりの水準を脱していないと言わざるを得ないものです。

■「上下分離」のような発展的な方法論を編み出すべき
地方における鉄道復権は切迫した課題であります。この重大案件について、「官が民か」の単なる綱引き的な言説に留まっている場合ではありません。今まで散々、二分法的な観点に基づく「綱引き」が展開されてきました。その結果として、「綱引き」に興じているようでは永久に問題は解決しないのではないかと言うことが見えてきました

今こそ、「綱引き」から卒業し、今までの知見を基にした発展的な方法論を編み出すべきです。完璧な処方箋であるとは言えないものの、たとえば昨今、鉄道を筆頭とするインフラ産業の運営形態として何かと取り沙汰されている「上下分離」のような発展的な方法論を編み出すべきです。

みわ氏が想定している、漠然とした「公的な財政支援」は、負担や分担、責任の所在が曖昧になりがちで、それゆえに既に数多くの失敗例が積み重なっています。他方、「上下分離」は負担や分担、責任の所在がより明確である点、望ましいものであると言えます。5月22日づけ「日本共産党議員の質問に見られるソ連・東欧型放漫経営の保険・損失補填理論」でも言及したとおり、組織運営においては、リスク・決定・責任のバランスが重要であり、リスクがかかる責任に応じた意思決定参加が必要です。

もちろん、チュチェ102(2013)年2月9日づけ「発送電分離問題と「官か民か」の不毛な二分法」でも言及したとおり、鉄道を筆頭とするインフラ産業というものはシステムであり、素人考え的にブツ切りにしようものなら破滅的結果をもたらしかねないものです。システム的観点に欠ける、拙速なる素人考え的なプランに基づく上下分離によって大変な鉄道事故を起こしてしまったBritish Railwayの教訓を忘れてはなりません。

しかし他方で、日本では何かとお手本として取り挙げられているドイツにおいても、鉄道は上下分離されています。イギリスでは特大級の失敗例を挙げつつも、ドイツではそれほどの大失敗をしていない点、鉄道業の上下分離は、「ドイツ的な慎重さ」で事を進めれば、必ずしも失敗に終わるものではないと言えるのではないでしょうか

■市場経済と金融システムの活用を通しての「公益・公共空間の復活」も発展的なアイディア
JR北海道の再建(まだ破綻してないけどw)について最近、JR東日本の株式をJR北海道が購入することによって資本関係を構築し、「株主の意向」以ってJR北海道への事実上の「支援」を引き出そうとする方法論が、以下の通り提唱されています。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171209-00199920-toyo-bus_all
>> JR北海道は「JR東日本株」取得で安定化できる
12/9(土) 5:00配信
東洋経済オンライン


(中略)

 確かに、JR東日本から見れば、赤字企業のJR北海道との合併はJR東日本の利益を減らして株主価値の低下につながるため、株主への説明は困難である。JR東日本がJR北海道を吸収合併する案は不可能と見てよい。

 しかし、JR北海道にとっては、JR東日本との合併または経営統合はJR北海道の企業価値向上につながる。

 発想を転換すれば、JR北海道がJR東日本の株式を取得することは可能である。本記事では、営業、技術面での協力関係をさらに強固にし、採算鉄道事業者であるJR東日本の利益を不採算鉄道事業者であるJR北海道の路線ネットワークの運営に活用する道筋を開くために、JR北海道とJR東日本が業務・資本提携を締結したうえで、JR北海道がJR東日本の株式を取得する方策を提案したい。

 そして、業務・資本提携を通して、JR東日本の東北新幹線とJR北海道の北海道新幹線の相互誘客策の強化を促して両社の利益を増やすことができれば、両社の利益増に向けたベクトルの一致につながるはずである。JR北海道は株主として、JR東日本に対して北海道新幹線への送客促進策を要望することが容易となる。
<<
このプランの実効性は、私も「正直疑わしい」と言わざるを得ず、くわしい検討が必要です。そう簡単な話であれば苦労しないでしょう。しかし、それでもなおみわ氏が提唱するような旧態依然でかわりばえのしない方法論と比較するに、新しいチャレンジングなアイディアに敬服するものです。

また、このプランにおける「JR東日本の株式をJR北海道が購入して関係を結ぶ」という方法論、そしてそれを通じた「JR北海道管内らおける不採算路線の公益観点からの維持」のプランは、サン=シモン主義的社会主義の実践としてPéreire brothers(ペレール兄弟)が取り組んだ「Crédit Mobilier(クレディ・モビリエ)による普遍的協働の実現」という発想にも通ずるところがあります。その点において、このプランは、市場経済と金融システムの活用を通しての「公益・公共空間の復活」、そして究極的には「社会主義の実現」を目指す立場としても、二重に興味深いものであると考えているところです。

■「綱引き」の時代は終わり、みわ氏は時代に取り残されている
その点において私は、「綱引き」的な発想で旧態依然でかわりばえのしない方法論に留まり発展的な方法論の探求の影すらもない、みわ氏提唱のプランに大変な不満を感じるものです。今や「何も言っていない」に等しい、曖昧な「支援」を主張しているほど客観的事実に余裕はありませんこんな論点設定など、時代錯誤的に古臭く、なんの進歩性・発展性も存在しないと言わざるを得ないのです
posted by 管理者 at 22:05| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。