チュチェ107(2018)年が幕を開けました。今年は共和国創建70周年の節目の年であります。
今年も、第1号記事はキムジョンウン同志の「新年の辞」を取り上げたいと思います。
今年も、「小林よしおの研究室」様に掲載されている邦訳を活用させていただきたいと思います。以下。
http://kcyosaku.web.fc2.com/kju2018010100.html
■経済改革の目玉;社会主義企業責任管理制は変わりなく継続の見込み
日本メディアは、「核ボタン」発言やオリンピック参加表明に反応したものですが、経済改革の動向に最大の関心を寄せている私としては、次の、さりげないくだりに注目しました。
>> 内閣をはじめ経済指導機関は、今年の人民経済計画を遂行するための現実性のある作戦を立て、その実行のための活動を責任を持って頑強に推し進めなければなりません。今年もまた、経済改革の基幹である「社会主義企業責任管理制」について言及がありました。ほんの一言しか触れられていないものの、余計な誇張なく取り上げられているということは、これからも変わることなく継続する方針であることを示していると言えます。大成功を喧伝するかのような表現ではない点、いわゆる「西側の制裁」は、ある程度は効いているのかもしれません。しかし、音を上げるほどではないということなのでしょう。
国家的に社会主義企業責任管理制が工場、企業、協同団体で実効をもたらすように積極的な対策を講じるべきです。 <<
キムジョンウン同志による経済改革は、今年も継続される見込みというわけです。
※共和国の経済改革について取り上げた当ブログ掲載の過去ログ
○チュチェ102(2013)年4月11日づけ「経済改革」
○チュチェ102(2013)年10月1日づけ「ウリ式市場経済」
○チュチェ102(2013)年10月7日づけ「チュチェの市場経済・ウリ式市場経済――共和国の経済改革措置に関する報道簡易まとめ」
○チュチェ105(2016)年6月6日づけ「朝鮮労働党第7回党大会は経済改革・競争改革を漸進的に継続すると暗に宣言した画期的大会」
○チュチェ105(2016)年7月2日づけ「分権改革・経済改革の旗印を更に鮮明にした画期的な最高人民会議」
○チュチェ106(2017)年1月2日づけ「キムジョンウン委員長の「新年の辞」で集団主義的・社会主義的競争が総括された!」
○チュチェ106(2017)年7月27日づけ「政策としての朝鮮民主主義人民共和国における市場経済化は着実に前進している――韓銀推計という第三者的立場の分析からも明らか」
○チュチェ106(2017)年9月9日づけ「共和国における経済改革の進展――建国69年目のチャレンジの行方」
■「チュチェ農法」は何処へ?
「科学的農法」や「多収穫農法」という単語は出てくるものの、「チュチェ農法」という単語が出てこなかったことも気になったところです。
もっとも、ほぼ1年前のチュチェ105(2016)12月6日に発表された「チュチェの社会主義偉業遂行において農業勤労者同盟の役割を強めるために」においては、「チュチェ農法にも精通するようにしなければなりません」とか「すべての農作業をチュチェ農法の要求どおりに科学的かつ丹念におこない、農業生産計画を間違いなく遂行するようにしなければなりません」などと指導されている点、今回の「新年の辞」では、単に話の流れで「チュチェ農法」という単語が出てこなかっただけなのかもしれません。
これが3回くらい続けば、何か「地殻変動」が起きていると言えるかもしれませんが、今の段階では確たることは言えないところです。今後の農業関連演説・談話で、「チュチェ農法」という単語が出てくるか否かは、チェックポイントとすべきでしょう。
■チュチェ思想における「血」の意味について(再論)
チュチェ思想の訓詁学っぽくなってしまいますが、次のくだりに私は注目しました。
>> 政治的・思想的威力は、わが国家の第一の国力であり、社会主義強国建設の進路を切り開く偉大な推進力です。「党と人民大衆の血縁的つながり」――党は組織であり自然人ではないのだから、「血縁」も何もないという点で、西側的感覚では意味不明な語句でしょう。まして、思想の文脈で唐突に「血縁的つながり」というのは、理解に苦しむことでしょう。
我々に課された闘争課題を成果裏に遂行するためには、全党を組織的、思想的にさらにかたく団結させ、革命的党風を確立して、革命と建設全般において党の戦闘力と指導的役割を絶えず高めなければなりません。
すべての党組織は、党の思想に反するあらゆる不純な思想と二重規律を絶対に許容せず、党中央委員会を中心とする全党の一心団結を全面的に強化すべきです。
全党的に党の権威乱用と官僚主義をはじめ、古い活動方法と作風を一掃することに力点をおき、革命的党風を確立するためのたたかいを強力に展開して、党と人民大衆の血縁的つながりを磐石のごとく打ちかためるべきです。 <<
しかし、チュチェ106(2017)年2月24日づけ「「白頭の血統(ペクドゥの血統)」における「血」は生物学的な親子関係のことではない」でも論じたように、チュチェ思想における「血」とは、生物学的な意味ではないのです。
上掲記事でも引用した、韓東成(ハンドンソン)先生の著書『哲学への主体的アプローチ―Q&Aチュチェ思想の世界観・社会歴史観・人生観』の99ページより引用します。
>> 血縁の共通性は、民族形成の基礎です。日本メディアはしばしば、「白頭(ペクドゥ)血統」という表現を「三代世襲の正当化」と評していますが、チュチェ思想における「血」というのは、決してそういう意味ではないというのが、このことからも改めて分かるのではないでしょうか。
ここでの血縁の共通性とは、人種のような生物学的なものではなく、社会歴史的に形成された血縁的関係を意味します。
血縁的関係は、人々に身体的および心理的な共通感を抱かせ、民族という堅固な集団とに結合させるうえで重要な作用をします <<
もし、生物学的な意味での「親子関係の血統」が権力の正当化の源泉であるとすれば、前掲記事でも述べましたが、そのことをもっと直接的であからさまで大袈裟でわざとらしい、傍から見れば逆効果なんじゃないかというくらいの「マンセー!」な表現で宣伝しているはずです。しかし、実態はそうではありません。やはり、共和国における「血」は、生物学的な意味ではないと見るべきなのです。
■전진하는 사회주의
演説外の要素になりますが、西側の共和国ウォッチャーたちは、キムジョンウン同志の服装について注目しています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180102-00000030-jij_afp-int
>> 人民服ではなくスマートなスーツ…金正恩氏の服装一新に識者ら注目共和国のことだから、服装一つにもメッセージを込めているであろうことは想像に難くありません。しかし、残念ながら私には、その意図が図りかねるところです・・・
1/2(火) 22:17配信
AFP=時事
【AFP=時事】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-Un)朝鮮労働党委員長が1日の新年の辞の発表に際し、スマートなグレーのスーツで臨んだことについて、北朝鮮問題の専門家らは、2018年における外交の一新と関連しているのではないかと分析している。
(中略)
態度の軟化に加え、おなじみの人民服とは明らかに異なる、驚くほど粋な西洋風のスーツとそれに合わせたグレーのネクタイという装いを目にしたアナリストらは、この予想外のスタイル変更が示唆する内容の読み解きを試みている。
韓国のソウルにある北韓大学院大学(University of North Korean Studies)の梁茂進(ヤン・ムジン、Yang Moo-Jin)教授はAFPの取材に対し、「金正恩氏のシルバーの西洋式スーツとべっ甲製の眼鏡姿、さらに祖父と父のバッジを着用していないという事実は、自信と安定を表している。金氏が状況を制御していることを示唆する」と述べた。
米紙ニューヨーク・タイムズ(New York Times)は、金委員長がイタリア高級ブランドの「『アルマーニ(Armani)』を着た銀行員」のように見えたとする釜山大学(Pusan National University)のロバート・ケリー(Robert Kelly)教授の話として、「金氏は北朝鮮を、よりモダンで世間通な国に見せようとしているという臆測が多々出ている」という意見を引用した。
また韓国政府が資金提供している韓国統一研究院(KINU)は、北朝鮮は「イメージづくりのためなら何でもする」という姿勢の表れではないかと指摘。「以前の黒っぽい人民服から、よりソフトな色合いのグレーの西洋式スーツへの変化は、演説でも強調されていた平和のイメージを打ち出し、核保有国という地位の確立を受けて落ち着いた精神状態を反映させることを狙ったものと考えられる」という見方を示した
。【翻訳編集】 AFPBB News
最終更新:1/3(水) 14:58 <<
引用記事中、「金正恩氏のシルバーの西洋式スーツとべっ甲製の眼鏡姿、さらに祖父と父のバッジを着用していないという事実は、自信と安定を表している。金氏が状況を制御していることを示唆する」という表現がありますが、記憶と記録をたどる限り、晩年のキムイルソン同志も、銀色系のスートをお召しになっていました。そう考えると、まだまだ「キムイルソン同志の記憶に頼っている」と言えなくもないかもしれません。
とは言うものの、「自信と安定」という見立ては私も同感です。服装のことは分かりませんが、音楽のことなら少しは分かります。
ソ連崩壊以降25年余り、共和国では折に触れて≪사회주의 지키세(社会主義を守ろう)≫が歌われてきました。
しかし、一昨年の≪전진하는 사회주의(前進する社会主義)≫が発表され、続く昨年には≪사회주의 전진가(社会主義前進歌)≫が発表されたのです。
共和国は「音楽政治」の国。音楽をプロパガンダとしてフル活用かる御国柄です。そんな国において、約25年間「守る対象」だった社会主義が、「前進する主体」に変化したわけです。このことは、キムジョンウン同志におかれては、執政に自信を持ち始めたことと捉えてよいのではないかと考えます。
■総括
共和国創建70周年を迎える今年、共和国は変わることなく並進路線すなわち、経済改革の継続が見込まれるところです。