2018年01月09日

解雇規制緩和とソーシャルブリッジ構築はセットで! 硬直した議論を止めるためにこそ90年代以降のスウェーデンに学ぼう

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180108-00007234-bengocom-soci
>> なぜ日本で「解雇規制の緩和」が進まない? 倉重弁護士「硬直した議論はもうやめよう」
1/8(月) 9:22配信

旭化成の小堀秀毅社長が朝日新聞のインタビュー(2017年12月7日掲載)で、「30代後半から40代前半の層が薄くなっている」と話したことについて、ネット上で「就職氷河期世代に何をしたのか覚えてないのか」「採用しなかったのは企業側だろ!」などと話題になった。

(中略)
日本の雇用形態をめぐっては、終身雇用の慣行があり、それを法的に裏付けるものとして、高度経済成長期に判例によって形成された厳しい解雇規制がある。不況時代に正社員を解雇できない状態で人員を削減せざるをえないなら、新卒の採用抑制になるのも仕方がない面がある。

雇用をめぐる法規制あり方についてどう考えればいいのか。自身も就職氷河期世代で、解雇規制の緩和を訴えている倉重公太朗弁護士に聞いた。(編集部・新志有裕)

●新卒採用の抑制がてっとり早かった

(中略)
そうなると、新卒採用を抑えるのが手っ取り早かったわけです。減らしやすいところから減らして、その結果、新しい時代についていける人材がいなくなり、日本企業の競争力をそいでしまうことになっているのが現状です。リーマンショックの時も同じことが起こったでしょう。もっと雇用が流動化していれば、新卒をたくさん採用することもできたはずです。

−−これから中途採用をすればいいのではないか

中間管理職になれそうな人材がいるのであれば、中途で採用すればいいはずです。しかし、日本の企業の転職率は40歳を過ぎると落ちてしまうので、なかなか採用できないのです。それは旭化成の社長が「なかなか人が集まりません」と発言している通りです。

社会全体で5年先、10年先が見通せない中で、一つの企業で新卒一括採用、そしてその後の終身雇用ということにこだわるべきではなかったはずです。働く側からしても、新卒で入る会社は、ただ最初に勤めるだけの会社です。色々と経験してから分かることもあるはずです。

今の労働法は、1つの会社で働く終身雇用を大前提にしていると考えていますが、時代の変化にそぐわないものになっているのではないでしょうか。

●簡単にクビにできない金銭解雇制度を導入すべき
−−法制度はどう対応すべきなのか

やはり解雇規制のあり方を変えるべきでしょう。ただ、アメリカのように、アットウィル(雇用主が自由に採用、解雇できること)の雇用はやりすぎで、日本の雇用環境にはマッチしないと思います。解雇問題を金銭で解決する欧州型を目指すべきです。

(中略)

結局、現状の制度のもとでも、解雇問題は労働審判で金銭和解するケースが多く、裁判に至るケースはごくわずかです。そうであるならば、裁判という手間をかけなくても解雇することのでき、労働者としても金銭を得ることができる仕組みにした方が、企業にとっても、労働者にとっても良いのではないでしょうか。

●0か100かの議論から脱却を
−−長年、解雇規制の緩和論が様々な立場の人から主張されてきたが、そういう方向に日本社会が向かっていないようにみえる。それはなぜなのか

完全に解雇を自由にするか、全くできなくするかという、0か100かの議論になって、硬直しすぎているように見えます。しかし、物事の本質はそう簡単に0か100かで割り切れるものではないでしょう。アメリカ型がいいと言っているわけではないんです。解雇規制を緩めて、どう社会全体で労働者を保護するのか、という議論をすべきなのです。

0か100かという意味では、新卒採用だって同じことです。雇用が流動化したからといって、新卒採用を全部やめるべきではないでしょう。人材教育などの面で、新卒採用にもいいところがあります。ただ、「新卒採用しかしない」と就職活動時の景気動向により人生が左右されすぎてしまうのがおかしいと就職氷河期世代としては思います。

(中略)
労働法の議論は、正社員の保護というミクロな話ばかりで、もっと広い意味で、日本全体で見た時の経済的・社会的合理性は何か?という点を議論すべきです。ある問題社員を守るがゆえに、新卒採用が1名減ったり、契約社員や派遣社員、業務委託者の切り捨てが起きたりするわけです。正社員だけを守っていても、必ずどこかにしわ寄せがいきます。また、守られる側が悪者だということになって、社会の分断のような不幸な事態が生まれることもあるでしょう。

では全員を正社員にできるかというと、企業の「財布」は限られていて、人件費の総額は決まっています。結局のところは原資をどう分配するのかという議論で、全員正社員にして一生給与保証できるのならいいですが、今のままで全員正社員にすると、給与が支払えなくなり、会社自体が立ちゆかなくなれば本末転倒です。

「解雇規制緩和ダメ・ゼッタイ」ではなく、これからの時代に相応しい合理的な雇用システム、労働者保護のあり方はなんなのか、法律だけでなく、経済も含めて、日本の雇用社会の未来を考えたうえで、新しい労働法をデザインする。そういった流れに向かっていって欲しいと思います。

(以下略) <<
重要な提起が凝縮された記事です。とりわけ、0か100かの議論から脱却を」というご指摘には強く賛同するものです。であるからこそ、倉重先生には、スウェーデンにおける社会政策と連動した雇用政策を踏まえていただきたかった!

1990年以降のスウェーデン型の福祉国家モデルの研究をライフワークとしてきた私は、当ブログにおいて、同国における社会政策と連動した雇用政策について以下の通り、触れてきたところです。
チュチェ106(2017)年8月1日づけ「「生贄」を捧げる段階に突入した「タクシー同業者ムラ ジリ貧物語」の第2章
ならびに、
チュチェ102(2013)年2月18日づけ「いやいや全然違うから共産党さんw
チュチェ102(2013)年8月18日づけ「「小泉改革」を克服した新しい改革を
チュチェ106(2017)年7月25日づけ「全国一律最賃制度こそ、非効率企業を淘汰し、高福祉・高効率・好景気サイクルを始動させる決定打
チュチェ106(2017)年11月19日づけ「男女平等は人権問題であると同時に経済成長のツール――福祉国家革新の先駆者としてブレないスウェーデンの現実を正しく報じる意味

これらの記事で私は、幾度となく、スウェーデンにおける労働政策の基本を「人は守るが、雇用は守らない」と表現した同国元財務相のペール・ヌーデル(Pär Nuder)氏の発言を引用してきました。すなわち、解雇規制の緩和とソーシャルブリッジの構築は一体的に行わなければならないのです
>> 既に申し上げたように、ここでの考え方は、人を守るということです。雇用を守るのではありません。フランスやドイツにあるような法律は、私たちにはありません。そういった法律は、産業が消滅してしまいますと、かえってコストを高めてしまいます。一方、私たちは、その産業を生き残らせるためにお金を提供するのではなく、個人が自分の身を守るために使えるお金を提供するという考え方です。競争が激しくなることによって自分の働いている会社が例え倒産したとしても、自分の人生は揺るがないのだという自信を人々に持たせなければなりません。

つまり、ソーシャルブリッジは、古い、競争力をなくした仕事から、新しい競争力のある仕事に人々を移らせるためのインセンティブにならなければならないわけです。スウェーデン人が変化を好んでいるのかといえば、それは全くのうそになります。スウェーデン人は、変化を好んではいません。しかし、ほかの国よりも変化を受け入れる大きな土壌が多分あるでしょう。
<<
最優先すべきなのは生身の人間の生活を守ること、人々の暮らしを守るには古い競争力をなくした仕事から新しい競争力のある仕事に人々を移らせる必要があること、ソーシャルブリッジの存在は、「自分の人生は揺るがないのだという自信」を人々に与えることによって、人々が転職しやすい環境をつくるというわけなのです

スウェーデンがこうした境地に至った経緯は、当ブログでも何度も触れているように、同国が1990年前後に深刻な経済危機を経験したところにあります。かつてはスウェーデンも産業保護に熱心だった時代が長く続きましたが、懲り懲りするような痛い目にあって以来、大きく舵を切ったのです。とりわけ、福祉国家というアイデンティティを守るためにこそ、経済再建を優先させなければならないという正しい認識の下に、痛みを伴う経済改革を推進し、最終的に好循環を実現させたのです!

解雇規制緩和に対する一般的な日本人の不安は、やはり、規制緩和による生活不安でありましょう。そして、この点につけ込んで、左翼活動家連中が暗躍しているところです。スウェーデンが既に実現させているように、解雇規制緩和議論にはソーシャルブリッジの構築を抱き合わせるべきです。そうすれば、双方による好循環が生まれることでしょう。

このことについては、最近は、かの大前研一氏も提唱しておられます。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171208-00000017-pseven-bus_all&p=1
>> 企業が不要な人員を解雇できるスウェーデン式ルール
2017/12/8(金) 16:00配信

 企業が賃上げをしない一方、建設、飲食、運送、医療、介護などの業界では人手不足が深刻だ。逆に、人が余っている業界のひとつ、銀行では、メガバンクが次々と人員と業務量の削減を発表した。経営コンサルタントの大前研一氏が、名目賃金が20年にわたって下がり続けている日本の雇用環境を打ち破るために、雇用ルールの変更を提案する。

(中略)
 この問題の解決策は、企業が不要な人員を解雇できる制度を整えることだ。スウェーデンでは、修正社会主義の下で企業が人を解雇できなくて社会が硬直化したため、解雇できるようにルールを変えた。ドイツもシュレーダー首相(当時)が「アジェンダ2010」で同様の改革を断行した。

 企業が簡単にクビを切れるようにするひどい制度だと批判する向きがあるかもしれないが、それは違う。その一方で、失業手当を手厚くしたり、解雇された人たちが21世紀に飯が食えるような新しい技術やスキルを身につけられる職業訓練システムをしっかり整えたりしたのである。

 要するに今の日本の問題は、人手不足なのに低賃金の一方で、業界によっては人余りなのに給料が高止まりして、トータルの生産性が下がっていることなのだ。ここにメスを入れ、再雇用のための職業訓練システムを充実しない限り、日本人の給料は未来永劫、上がらないだろう。

※週刊ポスト2017年12月15日号
<<
失礼承知で申し上げれば、大前氏を崇拝している人たちが、おしなべて、決して専門家ではない「忙しいビジネス・パーソン」たちであり、大前氏も当然、そういう人たちをターゲットとしている関係上、大前氏が言及する範囲の内容は、わりと「通俗的」というか、なんとなーく「浅い」感じが否めないところです。しかし、そんな大前氏の「忙しいビジネス・パーソン」たちをターゲットにした記事でさえ、スウェーデンの解雇規制がソーシャルブリッジとセットになっていることが言及される時代になってきているのです。

スウェーデンで既に成功例が報告されている、緩い解雇規制とソーシャルブリッジの「政策パッケージ」が徐々に日本国内でも広まりつつある昨今。元来、労働法の議論はすなわち、福祉国家像の議論であります。そうであればこそ、時代錯誤的な議論に固執・終始するのではなく、現代スウェーデンの実践を踏まえた議論を展開すべきです。そのためにはまず、「ソーシャルブリッジの構築」を肯定的に位置づけるべきでしょう。

その点、繰り返しになりますが、倉重先生の問題提起は正しい! だからこそ、「ソーシャルブリッジの構築」についても言及しなければならないわけです。
posted by 管理者 at 23:46| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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